「戦争する国」許さない

インタビュー

1、弁護士・伊藤塾塾長・伊藤真さん立憲主義を市民の力に」

2、医師と歯科医師の会呼びかけ人・青木正美さん「情報隠しは命に直結」

3、元外務省国際情報局長・孫崎享さん「テロ招く集団的自衛権」

4、天文学者池内了さん「科学の軍事加担を拒む

5、元共同通信編集委員・中村明さん「多数によるクーデター

6、鹿児島大学准教授・横大道聡さん「法解釈機関の役割重要」

7、美帆シボさん「9条と核廃絶運動は一体」

8、女優・渡辺美佐子さん戦前に戻らせないために」

9、神戸女学院大学名誉教授・内田樹さんこれを「独裁」と呼ぶのです」

10、憲法9条を守る首長の会・会長川井貞一さん「権力者の独走必ず阻止」(TOP

11、愛媛大学教授・井口秀作さん「国民主権奪う解釈改憲」

12牧師小枝功さん「9条と聖書の思想は同じ

13歌人・細胞生物学者永田和宏さん「歴史的な民意、憲法に体現

14作家平野啓一郎さん「戦争、リアルに想像しよう

15、日本同盟基督教団・徳丸町キリスト教会牧師朝岡勝さん

16、名古屋大学教授愛敬浩二さん/ 「殺し殺される」深刻さ

17、経済アナリスト、独協大学教授森永卓郎さん

18、岩手県旧千厩町(現一関市)元町長熊谷儀一さん/何でも可能は"唇気楼

19、東京基督教大学教授・牧師山口陽一さん/人類史のなかで尊い9

20、福島県三春町元町長・福島県市町村長九条の会代表伊藤寛さん (TOP

21、学習院大学教授(憲法学)青井未帆さん/ 9条のめざす「平和」とは

22、外交評論家・元外交官小池政行さん/軍事では安全守れない

23、秋田市町村長九条の会呼びかけ人代表千田謙蔵さん

24、中東研究者千葉大学文学部史学科教授栗田禎子さん/資源確保で派兵なんて

25、元西陣織工業組合専務理事沖口優さん/ものを知らされない怖さ

26、日本キリスト教協議会議長小橋孝一さん/人生全部ひっくり返される

27、富山県元小杉町長土井由三さん/孤立しているのは改憲派

28、国際基督教大学教授(政治学)千葉眞さん/和解と平和の東シナ海に

29、大阪弁護士会初の女性会長石田法子さん/おかしいことおかしいと(TOP

30、天台寺門宗管長・園城寺(三井寺)長吏福家英明さん/戦争の怖さ知らぬ為政者 (TOP

31、山形県首長九条の会代表・米沢市長安部三十郎さん/国家の前に国民がある

32、落語家笑福亭學光さん/お笑いも平和も大切に

33、元京都弁護士会会長出口治男さん/戦争の実態かけ離れた議論

34、弁護士新井章さん/憲法裁判60年の思いは

35、山形県首長九条の会代表・米沢市長安部三十郎さん/国家の前に国民がある

36、立憲デモクラシーの会呼びかけ人中山智香子さん/東京外国語大学大学院教授/チリ軍政思い起こす

37特定秘密保護法に反対する牧師の会共同代表安海宣さん/平和でこそ信頼される

38、和歌山大学学長山本健慈さん/「殺さぬ」声上げ続ける

39ソフトウエア会社アシスト会長ビル・トッテンさん/米にへつらう憲法破壊

40ジャーナリスト斎藤貴男さん/米国には最高に好都合

41ピアニスト小川典子さん/戦争の悲しみ自覚して

(TOP

1、弁護士伊藤塾塾長伊藤真さん/立憲主義を市民の力に

 選挙で審判を受けるから首相が集団的自衛権の憲法解釈を変えられるかのように国会で答弁した安倍首相は立憲主義を全く理解していません。

憲法が国家縛る

 立憲主義は平易に言えば憲法が国家権力を縛るという考えです。憲法はたとえ民意の支持があっても奪えない価値を定めています。選挙でできた政府であっても、それを奪ってはなりません。ドイツでナチスが権力についたように情報が操作され多数者が間違うこともありますから。

 憲法の解釈は憲法が許す範囲で変わることはあります。表現の自由には知る権利が、幸福追求権にはプライバシー権が含まれるようになりました。

 しかし憲法の条文を論理的に説明できる枠をとび出したら、それは解釈とはいいません。集団的自衛権の行使容認はそれにあたります。

 憲法9条のもとでの自衛権行使について、政府がつけた3要件の最初は「わが国に急迫不正の侵害があること」です。米国が攻撃されることは、日本が自衛権を行使する理由になりません。

 内閣法制局が解釈の変更によって、集団的自衛権の行使を容認することは不可能です。法制局の元長官もそういっています。

メディアも批判

 集団的自衛権の本質は、日本防衛と関係ないところで米国がする戦争に日本が参加することです。英国は自国の防衛と関係ないアフガニスタンやイラクで米国の戦争に参加し、自国の若い兵士の命を失い、自国で起きたテロで多くの人命を失いました。日本もテロの脅威にさらされ、自国の若者を他国にささげる国になりたいのか、そういう問題です。

 自民党は2年前に改憲案を発表し、去年は姑息なことに条文を変えやすくするために96条を先に変えようとしました。おかげでメディアや市民が立憲主義を意識するようになりました。

 去年NHKテレビに出演しますと政治家も立憲主義を言いました。1年前なら考えられないことです。私は30年間、言い続けてきたので非常に感慨深い。安倍首相の今度の答弁についても「立憲主義を否定」とメディアでも批判が出ています。いまこそ市民がそれを武器にたたかうときです。解釈「改憲」を許さないため、ともにがんばりましょう。

 聞き手 小玉純一

 いとうまこと 伊藤塾(法律資格の受験指導校)塾長、弁護士。

( 2014年02月26日,「赤旗」)(TOP

2、特定秘密保護法に反対する医師と歯科医師の会呼びかけ人青木正美さん/情報隠しは命に直結

 いま、日本は大きな流れでみると戦争に向かっていると、危機感をもっています。

 昨年末の秘密保護法の成立強行につづいて、安倍首相は解釈改憲による集団的自衛権容認へ前のめりです。戦後、日本が「国是」としてきた武器輸出禁止政策(武器輸出三原則)も完全に投げ捨て、時の政府の判断で輸出を認める検討を進めるなど本当に恐ろしい。

 昨年11月、特定秘密保護法案に反対する医師と歯科医師の会を立ち上げ、ネットで署名を呼びかけました。だれもが参加できる署名が必要だと思ったからです。大きな反響が寄せられ、法の成立時には約400人でしたが、廃止を求めて広がり、賛同者は500人を超えています。

信頼関係を壊す

 私は、これまで政治的な問題で、表に立ったことはありません。しかし、法案の内容を知り、黙っていられませんでした。

 最大の問題は、医療に欠かせない患者との信頼関係を壊すことです。「特定秘密」を取り扱う人の「適性評価」の際、医療機関は患者情報の提供を求められます。調査項目は薬物や精神疾患、飲酒などの個人情報で、多岐にわたります。それによる患者の不利益はまったく考えられていません。医療機関が自分の情報を外部に提供する可能性があるとなれば、患者は医療者を信頼することができません。それでは医療は成り立たないのです。

 私は、1995年に阪神淡路大震災の支援に入って以降、災害復興学を研究し、大地震、津波、台風…と大きな自然災害が繰り返されてきた日本の歴史、社会を学んできました。

 死者行方不明者10万5千人とされる関東大震災の後に治安維持法がつくられていく過程や、震災からわずか8年後に「満州事変」(31年)が起こり、日中戦争へとつき進んだ当時の時代状況と今に共通するものを感じています。

医療への不信に

 東日本大震災のあと、福島県に入り、母親たちの医療にたいする大変な不信感を目の当たりにしました。この根底には政府が原発事故直後、放射能に関する情報を当初公表しなかったことや検診のありかたなどをめぐる多くの問題があります。

 災害時に重要なのは情報が格差なく提供されることで、情報隠しは命に直結します。秘密保護法は、災害多発時代に逆行する法律です。廃止以外にありません。

 聞き手 西口友紀恵

 あおきまさみ 青木クリニック院長(麻酔科医)

( 2014年03月01日,「赤旗」)(TOP

3、元外務省国際情報局長孫崎享さん/テロ招く集団的自衛権

 『いつまでもショパン』という音楽ミステリーを読みました。ショパンのピアノコンクールがポーランドで開かれ、そこでテロが起こる。テロは大統領をも狙う国家に対する復讐ですが、捕らわれたテロリストが大統領に向かって、「あなたたちが遠い異国に派兵しているのは国の体裁や利益のために、肌の色の違う人間を無差別に殺しているだけだ。あなたに復讐を嗤う資格などない」と叫びます。

 小説はフィクションですが、ポーランドは対テロ戦争でアフガンやイラクに派兵しました。1968年にソ連がチェコに侵攻したときもポーランドは軍を出しました。アメリカのベトナム戦争も含め、集団的自衛権が口実です。

大きな「コスト」

 このように集団的自衛権は、自国の防衛と関係なく外国に出て行き人を殺す。恨みを買い、復讐とテロを呼び込むという大きな「コスト」を払うことになります。

 日本は、アメリカと違ってテロを念頭に国の安全をつくっていない。新幹線や地下鉄がやられたら一気にだめになる。ほとんどの公共の建物が対策していない。北朝鮮リスクが今まで以上に強くなる。集団的自衛権行使に乗り出すことは日本の安全を害するのです。

 集団的自衛権の行使は、ソ連崩壊以降、軍事力で世界を「改革」するというアメリカの戦略に巻き込まれ、それに従って戦争に参加することです。しかし、イラク、アフガンをみれば、アメリカの軍事介入で現地地域の不安定は高まり、世界が不安になりました。

 「中国の脅威」が強調されますが、集団的自衛権は日本の防衛とは関係ありません。アメリカも尖閣での日中の衝突は回避したい。結局、アメリカの都合に合わせて、自衛隊を海外で使うだけです。

平和のルールを

 これだけの問題を国民的議論もなく、国会審議もやらずに閣議決定一つでやる、という安倍首相の政治姿勢は異常です。

 日中の緊張をめぐりいま学ぶべきは、ASEAN(東南アジア諸国連合)が中国との紛争で追求している「南シナ海行動宣言」です。東シナ海でも、武力の不行使をはじめ平和的ルールづくりの対話が重要です。尖閣の領有権問題で私は共産党と意見の異なる点もありますが、平和のルールづくりでは100%一致します。

 聞き手 中祖寅一

 まごさきうける 元外務省国際情報局長、イラン大使、防衛大学校教授など歴任。

( 2014年03月02日,「赤旗」)(TOP

4、天文学者池内了さん/科学の軍事加担を拒む

 国の軍事力の背景には経済力ともう一つ、知力があります。戦争に科学・技術が使われてきた歴史は長く、科学・技術の力によって常に戦争ができる状態が保たれています。

 科学者・技術者が組織的に戦争に加担するようになったのは第1次世界大戦から。毒ガス、爆撃機、戦車が開発されました。第2次世界大戦では原爆開発に動員され、レーダーや化学・生物兵器の開発も集中的に進められました。

 最近は、無人の攻撃機やロボット兵器も出てきています。日本のロボット技術は世界一ですが、一歩間違えば無人兵器がつくられるという側面を、以前から警告してきました。

研究費のために

 平和憲法をもつ日本でも今、危険性がどんどん増しています。ここ数年、例えば宇宙や原子力の基本法に「安全保障に資する」という言葉が追加されました。軍事的な応用が可能となり、特定秘密保護法で公然たる軍事秘密になりえます。軍事に囲い込まれる可能性が高いとみています。

 日本の研究者の多くは軍事開発を望んでいません。しかし、研究費のために迎合していくことが心配です。最初は、予算がつきやすいから言葉だけ「安全保障に役立つ研究だ」と言い、やがて言わねば予算が通らなくなり、自ら積極的に協力するようになる。意識しないまま軍事に加担する、研究費のために操作されることも起こりえます。

 現在、大学などの研究費が減らされ、競争的資金をとらなければ研究できません。公募型の研究が、軍事研究に近いテーマに誘導される可能性もある。日本のロボット研究者が米軍にカネの誘いを受けた話も聞かれます。

 科学・技術はもともと価値中立的ですが、使い方によって光と影の二面性があります。生活を便利にするためにも人を効果的に殺すためにも使われます。

学問とは「文化」

 長年、科学・技術と平和の問題で発言してきたのは、素朴に「学問を楽しみたい、広く人々に親しんでほしい」と思うからです。学問とは文化です。私は文化で町を守ろう≠ニ言い続けてきました。武器などいらない。ピカソの絵画でも何でも、文化で守られた町を誰が爆撃するでしょうか。軍事力という発想ではなく、広く人類が幸福になることが大切だと思います。

 聞き手 中村秀生

 いけうち・さとる 総合研究大学院大学理事・教授 世界平和アピール七人委員会委員

2014年03月03日,「赤旗」)(TOP

5、元共同通信編集委員中村明さん/多数によるクーデター

 私は長く、憲法問題や外交政策、内閣法制局長官や関係者を取材してきました。

行使は戦争行為

 日本の保守本流の安全保障に関するイデオロギーは、憲法9条のもと自衛隊は「専守防衛」の実力組織にとどめ、国土とその周辺でのみ防衛措置を行うとし、自衛権の行使は個別的自衛権だけとされたのです。大規模侵略に対しては日米安保に基づき米国が対応するとされました。

 高辻正巳元法制局長官は、「自衛戦力合憲論と、近代戦争遂行能力のない実力組織論を足して二で割ったように見えるが、長い国会論争を経て到達した論理的帰結だ」と語っていました。自衛の「戦力」なら何でも持てるという議論と、近代戦争を遂行するための航空母艦や戦略爆撃機などは持てないという議論を止揚したもの、ということです。

 安保改定交渉の中で、集団的自衛権の行使は戦争行為そのものであり、アメリカの要請があってもやらないとし、日本はアメリカに基地提供して条約上の「双務性」をはかりましたが、米軍の占領状態が継続しました。安保改定時に第2次岸内閣で防衛庁長官を務めた赤城宗徳氏は、「新安保は独立国としての体面を保つというものだったが、(日米の)事前協議制は生かされず、属国みたいになってしまった」と語りました。

 安倍首相はいま、専守防衛、集団的自衛権の行使はじめ海外での武力行使を否定するというあり方全体を、ドカーンと壊してしまおうというのです。

政治手法許さず

 安倍首相は、それに代わる防衛構想や国際紛争の平和的な解決システムについて、その中身をまともに示さない。法的措置としても憲法改正で主権者国民の意思を問うという当然の筋道を無視している。「9条解釈を変更すればいいだけだ」などと言いますが、これは多数勢力による一種のクーデター、議会制民主主義の乱用です。

 こんな政治手法を許せば政治も社会もめちゃくちゃになります。自衛隊員や国民が死ぬことに、どんな責任をとるというのか。

 安倍首相は「日本を取り戻す」などと言いますが、金融を中心とする米国の多国籍企業に財政、金融、軍事を事実上支配され、TPP(環太平洋連携協定)ではさらに全面的な経済的支配を受け入れる流れにあります。この中で、まったく哲学を持たず、集団的自衛権行使に乗り出すなら、日本はアメリカの完全な属国として戦争の手助けをさせられるだけです。

 (聞き手 中祖寅一)

 なかむら あきら 元共同通信編集委員。『戦後政治にゆれた憲法9条―内閣法制局の自信と強さ―』の著者。

2014年03月05日,「赤旗」)(TOP

6、鹿児島大学准教授横大道聡さん/法解釈機関の役割重要

 日本において憲法解釈の変更を考える場合、政府の憲法解釈が国会で積み重ねられてきたという事実を重視すべきです。

長年の積み重ね

 国会は国権の最高機関であり、内閣法制局の答弁も内閣の了承を取って内閣を代表している。国会での「集団的自衛権の行使は許されない」という議論の積み重ねを、首相の私的諮問会議でいくら「議論を突き崩した」といっても通じません。

 国会は、政府に対する民主的なコントロールに「国権の最高機関」としての意味を見いだし、その一環として政府の憲法解釈の統制という役割を担うべきです。

 国会で長年積み重ねてきた憲法解釈を、総理の判断で変える実例ができると、国会で憲法解釈について議論することの意義が疑われます。内閣法制局は、解釈の一貫性に相当こだわってきたし、だからこそ信頼性が得られた面もある。その信頼も一気になくし、長期的には内閣自身の首を絞めます。

建設的な議論に

 私はアメリカの憲法や法制度について研究しています。アメリカの法制局にあたるような機関が2002年に、大統領がテロリストと疑われる人物を「拷問しても違憲ではない」という文書を作って、これがリークされ厳しく批判されました。

 その後、その機関での職務経験のある大学教授らが、行政機関内部の法解釈機関のあり方について「ガイドライン」を出しました。そこでは、これまでの歴史や解釈の積み重ねを尊重するべきだとし、大統領の部下であってもそれに屈していたら存在意義がない。無理難題をはね返すとか、そういうことをきちんとやらなければ、行政機関内部に解釈機関を置く意味がないという趣旨の見解を表明しています。この指摘は、現在の日本の内閣法制局と憲法解釈変更をめぐる問題にも当てはまると思います。

 私はいま、あえて集団的自衛権の行使の是非という中身に踏み込まずに、国会審議や96条の改正手続きなど、手続きの問題にこだわって議論することが重要だと思います。

 自衛隊の海外派遣に賛成の人も、本来国民に憲法改正を正面から問うべき問題を解釈の変更で済ませるのはおかしい、ちょっとずるいという議論の立て方であれば、改憲の支持派と反対派との間でも、建設的な議論ができるはずです。

 (聞き手・写真 中祖寅一)

 よこだいどう さとし 鹿児島大学准教授・憲法学

2014年03月10日,「赤旗」)(TOP

7、美帆シボさん、9条と核廃絶運動は一体

 フランスで、原爆の実相を伝える活動をすすめて32年になります。当初、核保有国で原爆の非人道性や核兵器の廃絶を話すのは、なかなか大変でした。「日本はアジアで何をしたのか。アメリカの核の傘に頼る日本が核兵器を持つのは時間の問題だ」といわれました。

戦争の記憶再び

 そこで私は、戦争の惨禍のうえにたって制定された日本国憲法をセットで話すことを考えました。アニメ「つるにのって」の制作運動を始める前年に出版した『青い地球のためのメッセージ』に、日本国憲法の前文と9条のフランス語訳を掲載しました。

 首相になった安倍さんの政治について、ルモンドが「ナショナリスト」と書き、日本を知る人から「どんどん軍国主義になっている。危ない」との声をききます。

 日本に対するフランス人の見方は、世代ごとに違います。年配の人は第2次世界大戦の記憶とともに、「アジアで大量殺りくした国」というイメージです。その下の世代は「技術大国」のイメージです。

 8月になると毎年のように、テレビで戦争特集があります。日本兵が中国人の首を軍刀で斬るシーン。日本では決して流れない映像だなあと思いながら、見ています。

日本も頑張って

 日本政府は昨年、秘密保護法を強行成立させました。安倍首相は、靖国神社を参拝し、集団的自衛権の行使を唱えはじめました。その姿勢に、フランスの人たちは、「日本はまたアジアで大量殺りくした国に戻るのか」と不安を募らせています。

 だからこそ、憲法9条を守る運動と核兵器の廃絶を求める運動は一体です。私もフランスで発信します。日本人もがんばってほしいとエールを送りたい。

 2011年3月に起きた東京電力福島第1原発事故は、「技術大国」の見方が完全にはげ落ちました。地震や津波は天災でしかたないもので、フランス人にとって、「3・11」はフクシマです。

 「技術大国日本でなぜ原発事故を起こしたのか」という疑問。しかも、人がホースで原子炉に水をかけたりしていて、ロボットさえなかった。驚きです。

 被災後、福島の原発被害地域に足を運びました。「福島はまだあんな状態なのに、安倍首相が前のめりになる再稼働や原発輸出はいいの?」。フランスでも沸き起こっている声です。

 聞き手・阿部活士

 みほ・しぼ 焼津平和賞の選考委員、長崎平和特派員、平和首長会議のフランス支部顧問。

2014年03月13日, 「赤旗」)(TOP

8、女優渡辺美佐子さん/戦前に戻らせないために

 終戦のとき、私は12歳でした。東京大空襲のときは麻布の自宅にいました。幸い、家は焼け残りましたが、水を含ませたわらぼうきで、焼夷弾の火の粉から家を必死で守った記憶があります。

 でも結局、終戦後、自宅の2階は米軍に接収され、引っ越さざるを得なくなりました。終戦を境に、昨日まで一生懸命覚えていた学校の教科書には、真っ黒い墨が塗られました。

 私たちの世代は、戦争の体験を語り伝えられる最後の世代です。

 どんなことでもいいから知りたい、自分で判断したい、そこから自分の生きる道がみつかるんだということを、戦争を通して骨身にしみて感じてきました。知ることが脅かされる秘密保護法には、恐怖を覚えています。

胸を張り憲法を

 国って、都合の悪いことは、いままでも隠してきたじゃないですか。それが秘密保護法でもっと強まれば、とても民主的な国家とはいえません。

 広島、長崎をはじめ、多くの方たちの犠牲と無念の上に、戦争は永久にしない、戦力は持たないという憲法9条を私たちは手にしました。日本人は、もっと胸を張って世界にこの憲法を知らせていいと思うんです。どんなやり方であれ、憲法9条を変える動きには絶対反対です。

知らない&|さ

 広島、長崎の原爆の悲惨さを伝える朗読劇に参加して来年で30年になります。被爆55年のとき、テレビ局の企画で、長崎の原爆を造った工場のあるアメリカの町を訪ね、町の図書館で朗読したこともあります。

 町の高校生たちが着ていたジャンパーの背中には巨大なきのこ雲がプリントされていました。理由を聞くと、「世界で一番力があるからだ」というんです。体が震えました。その子たちも英訳された朗読劇を聞き、涙を流したんです。知らない≠ニいうことが、いかに恐ろしいことか。そこでも痛感しました。

 去年あたりから、知る世界がだんだん狭まってきたように感じます。いまの首相が登場して、急に不気味な空気が押し寄せてきたとも思います。

 あの恐ろしい時代に戻らせないために何をしたらいいのかを考えながら、これから生きていきたい。声をあげること、そして若い世代に一人でも多く知ってもらうことだと思っています。

 聞き手 寺田忠生

2014年03月16日,「赤旗」)(TOP

9、神戸女学院大学名誉教授内田樹さん/これを「独裁」と呼ぶのです

 新インタビューシリーズ「とめよう戦争する国づくり」の第2回は、神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんです。

 聞き手・北村隆志記者

 安倍晋三首相は本当は改憲で憲法9条を廃棄したい。それは抵抗があって簡単にはできない。だから、解釈改憲による「集団的自衛権」の行使容認を持ち出してきたのです。

 しかし、日本が集団的自衛権を行使するというのは、政治史的に見て、ほとんどありえない想定です。集団的自衛権は、同盟国が武力攻撃を受けたとき、国連が介入するまでの緊急避難的な措置として認められた権利ですが、実際にそれを行使したのは、超大国が自国の勢力圏で起きた反政府運動、独立民主化運動を弾圧した事例がほとんどです。日本のような国が行使するものではありません。

 本当に日本が集団的自衛権を行使してもアメリカを守りたいというのなら、まず日米安保条約を双務的なものに変えるのがことの筋目でしょう。日米安保を「相互防衛条約」に変えて、アメリカ国内への武力侵攻にも日本がただちに援軍を出す。そのためにはまず米国内に自衛隊基地を展開する必要があります。自国だけ米軍基地で守ってもらって、相手の国土には自衛隊基地を置かないというのでは双務的な防衛条約とは呼べないでしょう。

 片務的な日米安保を放置しておいて、集団的自衛権を行使するというのは法理的に矛盾しています。

 特定秘密保護法は立法府が国政調査権を制約される点に三権分立上の大きな問題点があります。世界史を見ればわかるとおり、独裁というのは行政府が重要な政策を立法府の審議に委ねず、閣議決定だけで実行してしまう政体のことです。行政府への権力の集中のことを「独裁」と呼ぶのなら、安倍政権はあきらかに独裁を志向しています。

 民主主義というのは意思決定に長い時間のかかる仕組みです。それが非効率だから権限をトップに委ねて「決められる政治」を実現しようと言う人々がいます。彼らは統治システムを株式会社のような組織に改組しようとしている。しかし、民主制を株式会社のように制度改革することはできません。「文句があるなら次の選挙で落とせばいい」というのは企業経営者なら言えることですが、国の統治者は口が裂けても言えないはずです。

 株式会社は有限責任ですからどれほど経営上の失策があっても、株主の出資額以上のものは失われない。でも、国家は無限責任ですから、失政によって私たちは国土も国富も生命までも損なうリスクがある。だからこそ時間をかけた議論と合意形成が必要なのです。首相は政治とビジネスの違いが理解できていないのだと思います。

うちだ・たつる=1950年東京都生まれ。神戸女学院大学名誉教授。専門はフランス現代思想。思想家、評論家として活躍し、合気道7段の武道家でもある。著書に『街場の憂国論』など

(2014年03月16日,「赤旗」)(TOP

10、憲法9条を守る首長の会・会長川井貞一さん/権力者の独走必ず阻止

 憲法9条を変えるには、96条を変えなければならないが、それも難しい。安倍首相は憲法改正が難しくなってきたとみて、憲法を改正せず閣議決定で、アメリカはじめ同盟国と戦争に踏み出そうということです。これは本当にとんでもない。どうしたって阻止しなければなりません。

ヒトラーと同じ

 憲法は権力者の独走を食い止めるものなのに、安倍首相のやり方はまさに独走です。戦前、ワイマール憲法のもとでドイツは、ヒトラーに権力すべてを委任して第2次世界大戦に突入しました。閣議決定だけで9条の内容を変えてしまうのは、まさにそれと同じです。本来、首相には民衆が安全、安心に生きていけるための政治を行う権限が与えられているだけなのに、自分は無制限の権力を与えられたと曲解し、実行しようとしているのです。

 集団的自衛権というと難しく感じられますが、やろうとしているのは戦争です。9条のもとでも、自衛隊は現実にはものすごい戦力ですが、それを海外で行使する。防衛ではなく戦闘、戦争です。このまま放置すればかつての帝国主義になりかねない。懲りたはずの道をもう一度行こうとしている。これが私たち憲法9条を守る首長の会の共通の理解です。

 しかし、国民の間ではまだこの危険が十分認識されていない。そこが非常に危険だと思います。

 私はいま81歳で、終戦のとき旧制中学1年生でした。空襲の恐ろしさも含め、戦争の怖さを知っている。しかし、30、40代の人たちには、同じような直感、危機感がまだ伝わっていません。

草の根意思訴え

 この中で、宮城県の九条の会の代表らと、学習も大事だが学習だけでこの勢いを止められるだろうかと、話し合っています。「赤旗」はどんどん書いているが、多くの新聞はあまり書かない。この中で、草の根の意思を強く訴えて、マスメディアにも報道してもらうことが必要だということで、5月25日に幅広く集会を開く計画を立てました。

 保守の方々もふくめ山形首長の会は4月24日に結成の予定です。これで会は東北6県に広がります。連携を取り合いさらに全国に広げていく。首長の影響力を結集し、アピールしていくことで、集団的自衛権の危険性を理解してもらおうと意気込んでいます。

 聞き手 中祖寅一

 かわい ていいち。憲法9条を守る首長の会・会長。元宮城県白石市長。

2014年03月17日, 「赤旗」)(TOP

11、愛媛大学教授井口秀作さん/国民主権奪う解釈改憲

 第1次安倍内閣で憲法改定の国民投票法ができた前後に、政府のもとに憲法解釈変更をめざす有識者懇談会が設置されました。そのときから、改憲手続きを整えたのに、何で憲法改正をしなくてすむ話をするのかという声が改憲を支持する側からも出ていました。解釈改憲には限界があるから、ちゃんと明文改定でやるべきだ≠ニいう議論でした。

選択肢残されず

 ここ1年ぐらい安倍晋三首相は、9条改定からいくのはどうも難しそうだとみて、96条に定めた国会による改憲発議要件の緩和を持ち出しました。ところがそれが世論の猛反対でつぶれると、もっと簡単な解釈改憲先行論を主張しています。

 50年間、政府が集団的自衛権の行使は憲法上許されないとしてきたのに、そこを解釈でパッと変えてしまう。本来は、まず国会で防衛政策上の必要性や、立法の必要性を十分議論し、それが憲法に抵触し、なおかつどうしても必要なのかという議論が必要です。

 国民に問うに足るだけの問題であれば、96条で定める「各議院の3分の2以上の賛成」という高いハードルを超える発議になり、国民投票になるわけです。それを閣議決定だけでやってしまえば、国民に選択肢は残されていません。まさに国民の憲法改正権、国民主権を奪い去るものです。

立憲主義と衝突

 安倍首相は、96条の改憲手続き緩和について「憲法を国民の手に取り戻す」といいましたがまったく逆で、自民党改憲草案も必要なくなります。

 96条改憲先行論は、ハードルを下げるがあくまでも国民に賛否を問うものです。ところが解釈改憲先行論はそれすらない。憲法改定がなかなか進まないから手軽な道を選ぶという点では、96条緩和論と同様の邪なところがありつつ、そこすらとび越えるもので、立憲主義と国民主権に正面衝突するものです。

 集団的自衛権の行使は許されないという政府解釈は、長年の国会審議に耐え、ある意味では自衛隊の「合憲」性を支えてきた面もあります。これを閣議決定で一気に変えられるという発想自体、立憲主義というタガがはずれているというより、タガがあることを忘れている。

 憲法は権力にとり邪魔なものであって当然ですが、それを平然と無視する政治をどうするか。民主主義の力も試されます。

 聞き手 中祖寅一

 いぐち・しゅうさく 愛媛大学教授(憲法学)。共著『改憲の何が問題か』(岩波書店)

2014年03月21日,「赤旗」)(TOP

12、牧師小枝功さん/9条と聖書の思想は同じ

私は、日本国憲法は聖書と同じくらい重要だと考えています。特に9条は、言葉も美しく、人を慈しむというキリストと同じ思想が、豊かに盛り込まれていると思います。それに比べ自民党の憲法改正案は、あまりにアグリー(醜い)です。

 安倍首相は、堂々と憲法改正ができないから、解釈変更で集団的自衛権の行使を容認して9条を壊そうとしています。聖書の思想と同じと思える条文はそのままで、銃を持ち他国の人々を襲えることをできるようにするなんて、私は到底許すことはできません。

平和熱望した人

 私はキリストほど平和を熱望した人はいないと思っています。

 キリストの重要な教えである「山上の説教」のなかでは「平和を実現す12る人は幸いである。その人は神の子と呼ばれる」という言葉があります。教会では「キリストの平和があなたの上にありますように」と声をかけあい、握手したりする儀式もあります。私は、教会が平和を掲げるのは、教会が教会であるための必須条件と思っています。

 日本のキリスト教は、侵略戦争に協力した歴史があります。零戦づくりのための献金運動や朝鮮の牧師を説得したりしたのです。ホーリネス系の教会も「聖戦」と呼んで協力しました。

 それにもかかわらずホーリネス系の教会は、見せしめ的に治安維持法で弾圧も受けました。5人が獄死し、多くの人が信仰を奪われました。連れ合いの母も9カ月間勾留されています。

 こういう歴史をたどった教会の牧師としても、憲法を守るために発言していかなければと思っています。

戦争加担二度と

 私が牧師をする教会は50人ほどが集う教会です。教会では毎年8月、二度と侵略戦争に加担してはならないとの思いをこめ平和への祈りをささげます。信徒に配る「週報」にも、平和への思いをよく書かせていただいています。この前は、集団的自衛権のことを書きました。

 私は、地域の九条の会に参加し、原発や憲法問題のデモにも連れ合いと参加します。

 活動範囲は小さく、とぼとぼ歩いているだけかもしれませんが、できる限りのことをしたい。

 聞き手 前野哲朗

こえだ・いさお 牧師 日本ホーリネス教団 由木キリスト教会(東京都八王子市)

2014年03月24日, 「赤旗」)(TOP

13、歌人・細胞生物学者永田和宏さん/歴史的な民意、憲法に体現

 安倍さん(首相)、橋下さん(大阪市長)もそうですが、選挙で選ばれたことをもって「民意がこうだから」と金科玉条のごとくいいますが、われわれが勘違いしやすいのは、現在の民意があるとともに、〈歴史的な民意〉というものがあるという点です。

 現在の民意というのは多くの人が直近の選挙で自民党を選んでしまったというふうに、現在の社会情勢に左右されやすい。小泉元首相の「郵政選挙」のときもそうでした。それを相対化するものとして、歴史的な民意があり、それは日本の憲法に体現されています。国民の体験をつうじて過去の歴史をくみとってきた総意としての民意です。その内容は、国民主権、基本的人権であり、戦争の放棄、平和主義です。

解釈改憲は傲慢

 安倍首相はいまの内閣の一存で憲法の解釈をしなおすといっていますが、それは歴史的な民意への傲慢さ以外の何ものでもない。多数をとったら何でもやれるというのでは、立憲主義の意味がなくなってしまう。

 学生たちにいつもいうのは、みんなが右を見ていたら一回は左を向きなさい、ということです。これはサイエンス(科学)の分野でも同じです。僕もそうですが、みんなが右を向いたら右ばかり向いてしまいやすい。だから一回は違った方を向いてみる。それは自分の頭で一回判断しようということです。

 自分たちで判断するためには判断の材料、根拠となる情報を得ておく必要がある。情報が一部しかでてこなければ正しい判断が当然ながらできない。秘密保護法に反対する理由です。

 短歌はだれにでもできる、庶民が意思表示できる表現手段だと思います。みんなが右を向いているとき、自分の感性を総動員して左を見てみる。ロジック(論理)ではない表現手段はすごく大事で、みんなの心にダイレクトに言葉を伝えられます。いつも自然が美しいというだけではなく、現代社会で問題になっていることで共有できることがあれば歌として歌う。

戦意発揚に利用

 同時に、逆用されると怖い表現手段になります。それは歴史が証明しています。かつて短歌が戦意発揚、戦争翼賛に利用されたという苦い歴史があります。危険な手段になりうることを忘れずに声を上げ続けていかなければなりません。

 「見せ消ち」という手法があります。見せながら消す、間違ったときに消しゴムで全部消すのではなくて、棒線を引いて消す。本人は訂正・撤回したというのですが、消されたことでかえって印象を強くしてしまうことにもなる。

撤回しても残る

 たとえば自民党の石破幹事長の「デモはテロと同じだ」という発言。あれは撤回しているわけですが、言った内容は聞いた人々に残っていく。「デモはテロと同じ」と見ている人がいる、一般の人がデモに行けばテロと見なされるかもしれないというイメージが残る。そういうところが怖い。

 藤原定家の歌に、

見わたせば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮

 という歌があります。あの歌がすばらしいのは、見渡すとそこには桜の花ももみじもないと言っている、しかし、なかりけりといわれると、桜が咲いていた景色を思い浮かべるし、もみじが赤い景色を思い浮かべるわけです。

 それを逆用しているのが一部の政治家の言動で、失言といいながら「あえてする失言」ですね。だれということなくはびこっていると思います。

 ことし元日の新春詠で、

 特例と言ひて許さばやすやすと言ひかへられて先例となる

 と詠いました。

 これは特定秘密保護法を念頭においたものですが、自民党の憲法改定案でも多くの例外を設けていますね。憲法21条の集会・結社、言論・出版の自由はじめ国民の自由と人権についても「公益および公の秩序に反しない限り」という条件をつけて制限する。例外というものはひとり歩きします。

「寛容」利用する

 特例といいながら、次からはこれには先例がありますから、となる。最初はみんな反応するが、何回か繰り返されると反応ができなくなる、そういう習性が人間にもある。免疫学では「免疫寛容」という現象がありますが、トレランス(寛容)ができる。それをうまく利用していろんなことをやってくる。言葉の問題は大事です。

 「特定秘密保護法に反対する学者の会」に私も参加していますが、一回反対したからもういいだろうではだめで、言葉にかかわるいちばん危険な兆候にはきちんと目をとどかしていきたい。

  聞き手・山沢 猛

 ながた・かずひろ 京都産業大学教授、京都大学名誉教授。元日本細胞生物学会会長。歌人、朝日新聞歌壇選者。妻の故・河野裕子さんとの共著『たとへば君 四十年の恋歌』など著書多数。

2014年03月28日, 「赤旗」)(TOP

14、作家平野啓一郎さん/戦争、リアルに想像しよう

 私の祖父は第2次大戦中、ビルマ戦線に送られましたが、何とか生きて帰りました。子どものころからよく聞いた戦場の話は、悲惨の一語に尽きました。戦死者のほとんどが餓死かマラリアや赤痢などの病死だったそうです。英雄的なもの≠ヘ微塵もありませんでした。

 歯科医だった祖父は、上官に呼びつけられては意味もなく殴られるなど、軍隊の中で頻繁に理不尽な暴力をふるわれたそうです。それが軍隊、戦争です。

子どもの将来を

 若い人が「特攻」など強いられ、死ななければならなかったことを、どうして「立派」などといえるでしょうか。ただただ悲惨です。それを政治に携わる人間が「尊崇の念を表し」(靖国神社を参拝した安倍首相談話)などと美化することは許されません。僕も2人の子の父になりました。この子たちの将来を具体的に考えるようになりました。

 米中関係を見ても明らかなように、世界は経済や情報、文化で深く結びついています。軍事力だけで安全保障を考えるような時代ではなく、現実的でもありません。現政権の軍事力偏重の発想は、古色蒼然たるものです。日本が軍事力を増強すれば、中国や韓国が「恐れ入りました」となるんでしょうか。

「戦争しない」国

 欧米やアジア、アフリカなどに多くの友人がいますが、日本のイメージはすごくいいですよ。理由の一つは「戦争しない」です。日本のイメージを悪化させるものがあるとすれば、それはまさに今、歴史を歪曲し、憲法9条を否定しようとしている政治家たちです。

 戦争を、もっとリアルに想像すべきです。民間人が巻き込まれない戦争などありません。集団的自衛権を容認・行使して、アフリカや中東など海外に自衛隊が出て、その地で普通に生活している人、女性や子どもを誤射して殺してもいいのか。

 秘密保護法を通した安倍政権は、今度は集団的自衛権を解釈で認めようとしています。このようにして作られる一つひとつの法律や既成事実が遠くない将来、パズルのピースのように組み合わされて、日本を後戻りできない方向に進ませるのではないか。それに反対する勢力の結集は、真剣に考えないといけないことだと思うのです。

 聞き手 青野圭

 ひらの・けいいちろう 作家 著書に『日蝕』(芥川賞)、『決壊』、『空白を満たしなさい』など多数

2014年03月30日,「赤旗」)(TOP

15、日本同盟基督教団・徳丸町キリスト教会牧師朝岡勝さん

平和は努力しつくるもの

NHKの籾井勝人会長の「従軍慰安婦」は「戦争しているどこの国にもあった」という発言や、経営委員の百田群

樹氏の「南京大虐殺はなかった」という発言は、ドイツで「ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)はなかった」と言うよう

なものです。

口では「グローバル」と言いながら、過去の過ちを美化し、内向きの思考になってしまっていて、世界的にみて非

常識なことをしてしまっています。

時代への使命感

聖書に「涙とともに種を蒔く者は、喜び叫びながら刈り取ろう」という言葉がありますが、種蒔く人は蒔くことに

徹し、労苦に終わる世代もあると思うのです。刈り取る世代はそれを自分たちの手柄と思わない。自分たちだけでな

く、のちの世代のために土を耕す、こういう時代に対する使命感が大切です。

今の政府やその周辺の人たちは、当座自分たちだけがよければよいという自己中心的な価値観にとらわれていない

でしょうか。

次の世代を育てる教育の問題も懸念しています。人間はその存在そのものに尊厳があります。ところが最近は、上

のいうことをよく聞く子を育てる、そのために教師を効率的に配置する。「お国のため」に役立つかどうかで人がはか

られ、使い捨てられていくというのは、教育勅語中心の戦前の教育と同じではないでしょうか。

私たちキリスト者には、過去-の反省があります。戦前、天皇の「御真影Jの敬礼や「宮城遥拝」などが国によ

って強制される中、多くの教会もそれにとりこまれ、侵略戦争に加担してしまいました。

私は、宗教は心の中だけの問題ではなく、神の教えに反する動きに対しては言うべきことを言わなければならず、

黙っていることは罪に加担することであると考えます。ですから、政治に対しても発言をしています。

賛同者は540人に

市民がものを言える社会でなくてはいけないという思いから昨年12月、仲間の牧師とともに「特定秘密保護法に

反対する牧師の会」の立ち上げを呼びかけました。賛同者は当初の400人から今、540人に増えています。

聖昔の「平和をつくる者は幸せだ」という言葉通り、意法9条の精神にキリスト教的価値観をみることができます。

平和は、ただ漫然としてできるものではなく、つくる努力をしなければできません。

平和は武力でつくることはできません。私たちは世界中にともに同じ賛美歌を歌うキリスト者のネットワークを持

っていますが、平和とはそのような草の根の交流によってつくりあげていくものではないでしょうかC

聞き手、細川豊史

20140401日,「赤旗」) (TOP

16、名古屋大学教授愛敬浩二さん/ 「殺し殺される」深刻さ

集団的自衛権行使のための憲法解釈変更の議論では、なぜ集団的自衛権行使の解禁が必要なのか、従来の安全保障

政策では何が足りないのか、政策的説明がまったく足りません。

防衛と関係なく

米国に向け発射された弾道ミサイルの迎撃の必要性が盛んに垢じられますが、そもそも技術的に撃ち落とせません。

尖閤諸島の領有権の維持も日本の個別的自衛権の問題であり、日米安全保障条約第5条でも対応できる問題です。な

ぜ今、解釈変更が必要なのでしょうか。

一方、中国と難しい問題を抱える南シナ海で、インドネシアやフィリピンなどとの軍事的関与を強める姿勢で、「ア

ジア版NATO (北大西洋条約機構)」創設という放浪まで出ています。日本の防衛と関係なく外国に出かけて軍事力

を行使する-。これこそ集団的自衛権行使の本質です.海外で自衛隊が軍事行動すれば当然厳しい反撃も受ける。本

当に「殺し殺されるJ世界になっていくのです。自国の防衛と関係のない軍事力行使の解禁について、深刻な緊張感

を持つべきです。

しかも解釈改新ま明文改憲とパッケージです。自衛隊員が敵前逃亡したとき、懲戒免職や現行法上の処罰などの「生

ぬるい」制裁では、海外での軍事行動はとてもできません。自民党の石破茂幹事長も言うとおり、死刑判決も出せる

軍事審判所が必要となり、明文改憲が必ず必要となります。96条の改憲手続き緩和から9粂改定へ進むでしょう。

平和国家という在り方は根本的に変わるのです。

「親米」示すため

自ら引き起こした歴史問題で中国、韓国との関係が非常に悪化し、安倍首相はアメリカからも批判される状況です。

この中で、「親米」であることを示し、東アジア地域で存在感を保つために、ますます忠実なアメリカの"番犬"にな

っていく構造を見ておく必要があります。在日米軍基地を提供し、米軍の下請けとして唯々諾々と働くことにどんど

ん前のめりになる。この点でも日本の利益と関係なく軍事行動に向かう大きな危険があります。

解釈改憲は、それなりに論理的に積み重ねられてきた政府の憲法解釈を壊すものです。内閣法制局という、法秩序

の一貫性を維持するための専門性ある機関の権威を失墜させ、El本の統治のあり方に与える悲影響ははかり知れませ

ん。

(聞き手、中祖真一)

あいきょう・こうじ名古屋大学教授(意法学)

20140405,「赤旗」) (TOP

17、経済アナリスト、独協大学教授森永卓郎さん

被爆を隠し続けた父の子

私の父は、特攻隊員でした。蛟竜という45人乗りの特殊潜航艇の乗組員で、終戦があと2週間遅ければ、私は

存在していません。

父は潜航訓練中、広島の海上に出てハッチを開けたところ、偶然にも目の前で原爆が投下される瞬間を目撃したの

です。父は被爆を隠し続けました。被爆者差別があったからです。戦後50年ごろ、私が「原爆が地上に落ちて」と

話したのを聞きつけた父は激怒して「地上に落ちるわけがない。おれは目の前で見た」と初めて話してくれました。

基本的なルール

叔父が特攻隊員で亡くなったこともあり、私は子ども時代に春と秋、「白鴎遺族会」で靖国神社に行き、復員した兵

隊さんたちの本音を聞きました。すごく良い人たちなのに、 「戦争は面白い」と語る。狂っていると思いました。

人を殺めてはいけないのは人間の一番基本的なルールです。まじめな社会人なのに戦争をすると、人が人でなくな

る。だから、私は戦争に絶対反対なんです。

靖国神社の戦争博物館・遊就館(改築前)には、特攻隊且の名前の木札が並んでいました。ある日、特攻隊負が坐

員、「少年兵」であることに気づきました。戦争が起こると、「弱い人」が全部犠牲になり、戦争を起こした人たちが

最後まで生き残る。

集団的自衛権の行使が叫ばれています。簡単に言えば、アメリカと一緒に日本も戦争する、自衛隊員が外国の人を

殺しにいくことです。

憲法9粂もとに

安倍晋三首相の主張は、集団的自衛権の行使について意法に規定がない以上、集団的自衛権の行使ができるかでき

ないかは政府が判断する。「だから、おれが判断する」というものです。だけど日本国憲法9条には「武力の行使は、

国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と書いてある。集団的自衛権の行使などできるはずがな

い。野党は、煮法9条をもとに安倍首相を追及してほしい。

私が会った外国人は全員、「日本は戦後、一度も侵略していない」「自衛隊は誰も殺していない」と高く評価してい

ます。これを誇りにすべきです。戦争を回避する努力を一人ひとりがしていく必要があると思います。

聞き手・松田繁郎

もりなが・たくろう経済アナリスト、独協大学教授。著書『超貧困」時代アベノミクスにだまされない賢い生

き方』ほか多数。

20140406,「赤旗」) (TOP

18、岩手県旧千厩町(現一関市)元町長熊谷儀一さん/何でも可能は"蜃気楼

安倍晋三首相のやり方はずいぶんと強引で、油断ならないですね。"最高責任者は私"と言い、選挙に勝てば、集

団的自衛権の行使を容課するための意法解釈の変更でも、なんでもできると思っている。内閣法制局長官も代えたり

してね。

でも、それは彼の錯覚、唇気楼みたいなものじゃないですか。自民党内からも異論が出てきたようですが、世論調

査でも多くの人が反対しているでしょう。安倍首相が見ているその塵気榛は、国民の包囲網で早く打ち砕かなければ

なりません。

情を殺して生活

私は17歳で終戦をむかえ軍隊には行きませんでしたが、戦争でいとこが4人死にました。

小学生のころ、出征する兵隊さんを大勢見送りました。当時は日常の風景で当たり前のように思っていました。兵

隊さんの親や妻はつらかっただろうけど、悲しい涙を流す姿はみたことがなかった。今思えば、人間の情を殺して生

活しなきやいけない世の中だったのだから恐ろしい時代でしたO

終戦を伝える玉音放送を、朝鮮半島から連れてこられた人たちと一緒に聞きましたが、放送後、朝鮮の人たちが暴

れるように解放の喜びを全身で表した姿を私は忘れられませんDその姿から、それまでの日常の風景が異常で、戦争

が間違いであることを感じたのです。

憲法守れを強く

そんな戦争を終え、平和の原則を高らかにうたう脊法を日本は持ったのですから、私は、憲法は立場を超えて守ら

なければいけないものだという気持ちが強くあります。

私は、地域の9条の会と岩手県・農法を活かす首長の会に参加しています。町長時代には自民党から応援を受ける

こともあり、初めての町長選でたたかった相手は日本共産党の千田富男さん(故人)でした。千田さんとのちに食性

を守るために一緒に活動することになるとは、その時は思いもしませんでしたね。

東日本大麻災の時、沿岸部に災害救助に向かう自衛隊の車がたくさん千席町を通りました。あの時、自衛隊員は生

命と財産を守るために能力を最大に発揮した働きぶりだったと思います。自衛隊の災寄救助の力こそ発展させるべき

です。アメリカと一緒に戦争し、他国の人を殺し、殺されるかもしれないようにするなんて、誰も望んでいないと思

うのです。

聞き手、前野哲朗

くまがい・ぎいち岩手県旧千厩町元町長。地方自治に日本国憲法の理念を活かす岩手県市町村長の会運営委員

20140409,「赤旗」) (TOP

19、東京基督教大学教授・牧師山口陽一さん/人類史のなかで尊い9

キリスト教の学校は数多くありますが、180人の学生全員がクリスチャンという日本に二つしかない学校です。

生涯を神のために生きようとする学生が学んでいます。

秘密保護法案が出てきたとき、学生は問題点を学び、平和を願う祈りも続けました。学生の有志は遇1回集まって

自民党の改悪案を読み終え、感想や問題点を冊子にしようとしています。励ましていきたいですね。

故郷の群馬県の小さな教会で牧師をしていたころ、草の根から平和をつくろうと地域の戦時中の歴史を掘り起こし

ました。立場を超えて、共産党の人にもずいぶん手伝ってもらいました。

非戦選び取った

聖書に現れる古代のキリスト教は徹底した平和主義です。神がつくられた命を人が殺しあうということは神の心に

反するからです。現実はなかなか理想通りにいきませんが、命の問題として平和を希求するのはキリスト教の基本で

す。

憲法9条は太平洋戦争の多くの犠牲のなかから生まれました。日本は非戦国家になりました。たたかわない、その

ためにあらゆる努力をする。私は日本が選び取った姿だと考えます。日本のことだけでなく、世界のために、この憲

9条を持っているということが重要です。人類の歴史のなかでも特筆すべき、尊いあり方だと思います。

政権を担う自民党などには、憲法を擁護する義務があります。しかし、この憲法を邪魔に思い、排除しようとして

います。国家権力を拘束する憲法を、国民を縛る憲法に逆転させようとしており、絶対に許せません。

人のために国が

基本的人権の保障は極めて重要です。聖書に照らしても、国のために人があるのではなく、人のために国がありま

す。国が人を殺し、人を殺す道具にしてはなりません。

私は各地の教会に招かれ、自民党の改憲案の問題を講演しています。大きく問題にしなければならないと思うから

です。

信教の自由に関わる改憲案の問題には、敏感に反応されます。信徒に引き取られて育てられた年配の女性は、弾圧

された戦時中の記憶を思い出し、みんなの前で、こう話してくれました。

「特高警察が家に来て、『天皇とキリスト、どっちがえらいと思うか』としつこく聞かれました。育ててくれた信徒

のおばさんは答えず、二度も連行されました」

いまの事態は、当時につながる重大な問題だと受け止めてもらっています。私はそこに希望を感じています。

聞き手、酒井慎太郎

やまぐち・よういち日本同盟基督教団市川福音キリスト教会(千葉県市川市)

20140410,「赤旗」) (TOP

20、福島県三春町元町長・福島県市町村長九条の会代表伊藤寛さん

9条に涙した韓国の青年

町長をしていたとき、韓国農業青年研修団が1週間、町の農家にホームステイして交流したことがありました。

歓迎会では、韓国の青年はみんなこわばった顔をしていました。でもお別れ会では、同じ人たちだろうかと思うほ

ど表情は変わり、「日本人は怖いイメージでしたが、私たちと考え方とか家族関係とか、共通点が多くてびっくり。感

激です」と話していました。

私はお別れのあいさつで憲法9条の話をしました。「私たちはアジア、韓国のみなさんに大変な迷惑をおかけしまし

た。したがって武器を捨てると約束し、それを憲法に書いたのです」と。みんな涙を流していました。

草の根の交流を

そのとき、つくづく平和を維持するためには草の根の交流を広めることが大事だと感じました。今、私は福島県市

町村長九条の会に参加していますが、平和のために自治体ができることとして、姉妹都市などで韓国や中国の人々と

の交流を推進することを提案していきたいと思います。

平和を確保するためには、互いに信頼し尊敬しあえる関係を他国とつくっていくことが大事だと思います。そのた

めの行動こそが本当の積極的平和主義であるはずです。

安倍晋三首相は「積極的平和主義」と言いながら、憲法9条の改定や解釈変更で集団的自衛権の行使容認を狙った

り、全部方向が逆で、けんかを売っているようなものです。これでは世界に向けて二度と戦争をしないと誓った約束

を裏切ることになります。なんとしても食い止めなくてはいけません。

安倍首相は非常に権力主義的です。田舎の政治に携わった者として言わせてもらいますと、権力主義的な行政運営

は必ずゆきづまります。私は2003年まで23年半町長を務めました。気が弱い性格だからかもしれませんが、少

数意見やみんなで考えていくことを大事にしてきたっもりです。

住民の声を把握

福島原発事故のとき、国は原発から2030`圏内に屋内退避を指示しました。三春町は45`圏ですが、町は

独自の判断で外出を控えるように呼びかけ、安定ヨウ素剤の配布・服用も実施し、高く評価されました。

これができた理由は、海外のニュース報道を見た住民や放射線を測定した住民の声を、職員がきちんとキャッチし

たことも一つです。

聞き手 前野哲朗

いとう・ひろし福島県三春町元町長福島県市町村長九条の会代義

20140413,「赤旗」) (TOP

21、学習院大学教授(憲法学)青井未帆さん/9条のめざす「平和」とは

「集団的自衛権行使容認」へ。これだけで10文字です。わかりにくいですよね。

少し不正確かもしれませんが、「海外で武力行使ができる国」に変える。ここがポイントであり、問題だと思います。

「海外で武力行使ができる国」になったときにどうなるのか。そこに想像力を働かせる必要があります。

残忍な「平和」に

安倍晋三首相は、現実に人が血を流しあう日米同盟にしなくてはいけないと著書で書いています。「死が近くなる」

ということの社会や文化への影響は、想像できないほど大きいのではないでしょうか。

サダム・フセイン(元イラク大統領)が処刑されたとき、「USA」と歓喜する米国民の映像に、私も周りも違和感

を覚えました。「死が近くなる」とは、例えるなら、そういう違和感がなくなる社会。社会的・経済的な弱者の命を戦

場で犠牲にして世界の秩序を維持し、それを「平和」と呼ぶ社会でしょうか。

私たちが考えてきた「平和」が残忍なものに変わっていく。それは恐ろしいことです。

憲法9条の「平和」がそんなものとは違うものとして理解されてきたことは間違いありません。9条が目指すのは、

「力による世界Jを変革していくことです。

理想掲げてこそ

平和を目指す世界の大きな流れを見たとき、そこに向かう理想や理念は決しておろしてはいけない。米国やロシア

のような国際法違反の行為が「批判されてしかるべき」という視点がなくなることこそ、何よりの後退です。

1次世界大戦以来、長い目でみれば、国家を超えた枠組みで人権が実現し、NGO (非政府組織)の果たす役割

も大きくなっています。武器取引でも国際的に規制をかけていく流れがあります。安倍首相の「積極的平和主義」は、

その流れとは逆の方向を向いています。

先日決めた武器輸出の新原則でも9条の理念が後退しました。新たな基本理念「国連憲章を順守する」とは、日本

が地球上の一番大きなルールさえ守っていればいい、ということです。そんな考え方が平和国家の理念ではなかった

はずです。

国民の合意も経ないまま国の形を変える、その手続きにも、中身にも、私は反対です。

聞き手池田晋

あおい・みは著香『国家安全保障基本法批判』『意法を守るのは誰か』など

20140420,「赤旗」) (TOP

22、外交評論家・元外交官小池政行さん/軍事では安全守れない

 安倍晋三首相が15日の記者会見で、「国民の命と暮らしを守る」と繰り返し強調し、集団的自衛権行使の事例として示した「日本人を乗せて避難する米輸送艦の防護」は、朝鮮半島有事を想定しているものと思われます。

 ただ、私が北朝鮮の外交筋などと話した感触では、彼らは現在の軍事力で韓国と戦争しようという意志はありません。想定自体がありえないものです。

 

邦人連絡体制を

 そもそも、米軍の行動原則からすれば、まず自国民を救い、次に英国など「アングロサクソン」同盟国という順番です。日米安保条約に「文民保護」は明記しておらず、日本人救出は条約上の義務ではありません。

 あれだけ近くの国であるのなら、他国の軍艦に頼るより、相当な頻度で飛んでいる民間航空機や船舶を利用してもらう、あるいは政府特別機を飛ばして避難させる方が妥当であり、早いと思います。

 海外での邦人保護でいえば、最近、タイでクーデターが起こりましたが、日本大使館に在留届を出す邦人が少ないのです。届を出しても、避難場所の確保や医療・食料を提供してくれる利点が感じられないからです。

 海外に120万人もの在留邦人がいます。外務省は在外公館を通じて、緊急事態が発生したとき、邦人と連絡を取れる、彼らも連絡してくるという体制づくりの方が重要です。

 

テロを防ぐには

 一方、今の世界情勢でもっとも可能性が高いのは、テロの危険です。英国が端的な例ですが、イラクやアフガニスタンで米軍に協力したことで、地下鉄やバスの爆弾テロが発生しました。

 「国民の命と暮らしを守る」というのなら集団的自衛権を行使して米国と軍事行動を行うことはやめるべきです。それが国民をテロの被害から守る、もっとも安全な方法です。

 ありえない想定を持ち出して集団的自衛権の行使に固執する安倍首相や一部外務官僚は、日本は「二流国」だと感じています。彼らは米国の他の同盟国や国連安保理常任理事国と伍していく上で、集団的自衛権はどうしても必要だと思っています。

 しかし、それは間違っています。日本は戦後70年近く、自分たちの軍事力で外国人を殺していないことで尊敬を勝ち得ている。そういう国であり続けたほうがいい。

 聞き手 竹下岳

( 2014年05月28日,「赤旗」)(TOP

23、秋田市町村長九条の会呼びかけ人代表千田謙蔵さん

首相は国民欺いている

 安倍首相が会見を開き、集団的自衛権への一歩を踏み出した翌日に「東北六県市町村長九条の会連合」の結成となりました。「絶対に戦争への道は許さない!」という連合のアピールも緊急につくりました。

 これまでにない緊迫感を感じています。アピールにもありますが、市町村長の使命は住民の命と暮らしを守ることです。住民を殺す戦争には絶対反対です。

 

本質変更は異常

 戦後、平和と民主主義を求めてがんばってきた国民のこれまでの運動の積み重ねをさらに高めて、もっといい国、もっといい政治をつくっていかないといけないと思っていますが、戦争になればこれまでの積み重ねや、地方自治もつぶされてしまいます。

 戦争を一切しない、軍備を持たないといっている憲法9条は世界的にもすごいものです。残念ながら警察予備隊がつくられ、自衛隊になり、PKO派遣などがありました。

 それでも、歴代の総理大臣は、集団的自衛権は行使しないとして、個別的自衛権の範囲内で解釈は収まってきました。憲法9条の本質である外国を攻めない、戦争をしないということをなんとか守ってきました。

 集団的自衛権を認めることは、その本質を無くしてしまうということです。それを閣議だけで決めようというのは異常なことではないでしょうか。

 

9条に情熱込め

 安倍首相は戦争には行かないと言っていますが、情勢次第でどうなるか分かりません。あくまで平和だというのなら、集団的自衛権なんてやめればいい。それをやるというのだから危ない。国民を欺いていると思います。

 戦後レジーム(体制)からの脱却ということも言っていますが、戦前の軍国主義の時代に持っていきたい、あれが一番いい国だと思っているのではないでしょうか。アメリカも不信感をもっていると思いますが、それ以上に中国や韓国が不信感をもっています。不信感をもたれているというのが良くない状況です。

 もう70年戦争をしていない日本の憲法9条を「これが正しい道だ」と情熱を込めて世界に訴える攻勢的な平和外交をすべきではないのでしょうか。

 少なくとも今の憲法解釈は維持しなくてはいけないと思います。それを変えようとするものには反対します。集団的自衛権を認めることにならないように全力を尽くしたいと思います。

 (聞き手 佐藤幸治)

 

 ちだ・けんぞう 元横手市長。「第4回東北市町村長九条の会交流会」の座長。

( 2014年05月27日,「赤旗」)(TOP

24、中東研究者千葉大学文学部史学科教授栗田禎子さん/資源確保で派兵なんて

 安保法制懇(安倍首相の私的諮問機関)があげている「シーレーン防衛」構想は大問題です。日本のタンカーの運航に障害があれば「経済及び国民生活」に影響が及ぶから、ペルシャ湾にも自衛隊を送って掃海活動等を行うとしています。主権や領土の侵害でなく資源確保を「自衛権」の発動理由にするのは国際法上許されません。資源のためなら地球のどこへでも派兵することにつながります。

 

「不必要最大限」

 安倍首相は集団的自衛権も「必要最小限度」の自衛に含まれると言います。集団的自衛権とは、自国は攻撃されていないのに他国のための戦争に参加する際に用いられる概念ですから、そもそもの定義上「不必要最大限」の武力行使です。

 前例を見ても普通の国が行使するものではありません。米国のベトナム戦争やソ連のアフガニスタン侵攻等、大国が他地域に無理やり介入するときに使った概念で、その大国が墓穴を掘ることにつながりました。

 安倍政権は国連の平和維持活動(PKO)についても、自衛隊が他国部隊への「駆け付け警護」や「妨害排除」のため武器使用することをめざしています。しかし日本は、「戦争放棄・戦力の不保持」を定めた憲法9条を持つ国であることを前提に1956年に国連に加盟しました。PKO業務には本来参加すべきではありません。

 これまでの経緯を見ても自衛隊のPKO参加は、紛争地域の人々のためというより、専ら日本政治の思惑、海外派兵の「実績」を積み重ね9条改憲の伏線とするという目的で拡大されてきました。

 自衛隊が参加中なのは南スーダンPKOです。今世紀のアフリカの紛争は実は「国際社会」により複雑化・激化しているという皮肉な現実もあります。スーダンの紛争の展開の背後には石油等をめぐる先進諸国の思惑もありました。そのなかで南スーダンが分離し、独立後は新国家における富や権力の分配をめぐり、新たな内戦が生み出されています。PKOで対症療法的に対応しても問題解決にはなりません。

 

非武力の秩序を

 日本は憲法9条を守り、武力によらない国際秩序づくりの先頭に立つべきです。侵略戦争や占領に抗議する。イスラエルによる占領をやめさせ中東の「非核地帯化」に力を尽くす。中東やアフリカの人々の主権を政治的にも経済的にも尊重する。それが国際社会で「名誉ある地位」(憲法前文)を占めることにつながります。

 聞き手 小玉純一

 

( 2014年05月20日,「赤旗」)(TOP

25、元西陣織工業組合専務理事沖口優さん/ものを知らされない怖さ

 昨年末に成立した秘密保護法は、身震いするほど恐ろしい法律です。今はまだ地元紙もはっきり反対を表明していますが、2、3年後にどうなっているか。戦前のような、ものを言えない、知らされない時代に戻ってしまうかどうか、今がまさに境目です。

 戦争の時代を生き、ものを知らされないことの怖さをつくづく感じています。

 

特攻要員として

 同志社大学在学中の1944年、20歳で軍に入り、特攻要員として岐阜県の山奥に隠れていたときに終戦を迎えました。敗戦の知らせを受けたのは45年の8月17日、終戦から2日たっていました。

 「そんなバカなことあるか」と思いました。手をたたいて喜んだ2、3人を他の20人ほどで殴ったりして、変な時代でした。

 私は子どもの頃に中耳炎にかかり、左耳が聞こえません。兵隊にとられるときの検査で、「第三乙」という、終戦間際にできた枠で合格しました。五体健全の「甲」、ちょっと体の弱そうな「乙」、その下が「第三乙」です。

 入隊した浜松の航空隊では、飛行機に大砲を積み込むのが任務でした。でも、その訓練をするための飛行機がないんです。終戦時は、乏しくなっていた燃料の足しにと、松の根から油を採っていました。

 「第三乙」まで兵隊にとられる、燃料も飛行機もない。それでも負けるとは思っていませんでした。

 教育や情報が国に統制され、国民の「知る」「聞く」「話す」自由が奪われていたために、自分の頭で判断できなかったのです。

 その時代の学生なんて、ばかみたいなものです。本を読むにも視野が狭く、戦争への批判なんて全くできないでいました。それに気づいたのは終戦の数年後。戦中はそんな意識ありませんでした。

 

一緒に声出そう

 安倍政権の下で、明日ものが言えなくなるかもしれません。

 西陣織も、人々が自由に着物を楽しんでこそ成り立つ産業です。戦中はぜいたく品と言われ、さぞ軍部から憎まれたことでしょう。

 あの時代に戻らないためには、みんなで声を出すことに尽きます。一緒にがんばりましょう。

 聞き手 前田美咲

 

 おきぐち・まさる 1924年生まれ。西陣織工業組合設立時から専務理事。元京都府議(1987〜91年、保守系会派「新政会」)。

( 2014年05月13日,「赤旗」)(TOP

26、日本キリスト教協議会議長小橋孝一さん/人生全部ひっくり返される

 私が小学2年生の時に戦争が終わりました。学校では、日本の戦争は間違いであり、二度と戦争はしないと決めて憲法9条ができたと教えてもらいました。毎日お辞儀していた、天皇と皇后の写真を飾る奉安殿は壊され、子どもながらに日本はガラッと変わるのだと思いました。私はその後、高校生から教会に通い、牧師になり、50年以上、命や平和の大切さを聖書にもとづいて伝えてきました。

 ですから、安倍政権が集団的自衛権の行使を可能とし、日本を「戦争する国」にしようとしていることは、自分の人生が全部ひっくりかえされる感じで、絶対に受け入れられません。

 

兵隊と同じ格好

 戦争中は、足にゲートルをまき兵隊さんと同じ格好をして学校に行きました。校舎は木造だけど、奉安殿は燃えないようにコンクリートでつくられている。今では考えられない話ですが、それが当たり前の社会でした。

 安倍首相は靖国神社に参拝し、国民のナショナリズムをあおり、国を富ませるためには軍隊も必要とし、教育にも介入しようとする。まさに「祭政一致」「富国強兵」を推進した大日本帝国の時代に戻そうとしています。

 イエス様は「剣を持って立つ者は、剣によって滅びる」と言いました。一度裁かれた日本がまた同じことをすれば本当につぶれてしまいます。集団的自衛権の行使は「限定的」などと言っていますが、あてにはなりません。いつでも戦争は「自衛」を名目に行われてきたのです。しかも集団的自衛権は本来の自衛ですらない。そのうえ安倍首相らは、その侵略戦争を間違っているとは思っていないのです。

 聖書で、罪を悔い改めるとは、本当に罪を自己認識して神の赦しをこい、新しい生き方をすることです。私は日本全体として、戦争の悲惨さは感じたけれど、アジアを侵略した加害の罪の認識が浅いからこそ、再び「戦争する国」とする動きが生まれてくるのだと思います。

 

引き下がれない

 私の50年以上の牧師としての活動の自己反省も含めてですが、日本全体が深く罪の認識を感じる力を養わなければいけないと感じています。

 今回は引き下がれません。宗教者のなかでも宗教・宗派の違いを超えて、焦らず、あきらめず、希望をもって、やれることはやっていきたいと思います。

 聞き手・前野哲朗

 

 こばし・こういち 日本キリスト教協議会議長 牧師 宗教者九条の和呼びかけ人

( 2014年05月12日,「赤旗」)(TOP

27、富山県元小杉町長土井由三さん/孤立しているのは改憲派

 皮肉なことに、安倍政権によって、憲法9条がさんぜんと輝きを増しています。戦争放棄や戦力不保持、交戦権否認を、戦後日本で当然のこととして受け止めていた私たち国民に冷水を浴びせようとしているからです。

 2月の富山県議会でも同様な動きがありました。安倍政権の改憲方針に乗っかって、自民党県議団が「憲法改正の早期実現を求める意見書」を提出しました。内容は、施行以来66年余が経過し、軍事技術の進歩や大量破壊兵器の拡散による外交・安全保障上の問題が起き、新たな時代に対応できる憲法が求められているといって、早期に改憲するよう要望するというものです。

 

憲法尊重が本道

 憲法改正権を持たない地方議員が改憲を促進すること自体、「憲法を尊重し擁護する義務を負う」と明記した憲法99条に違反し、到底許されません。本来、首相ら国務大臣、国会議員も憲法を守ると宣誓し、職務を遂行していくものです。

 こんな意見書は認められないと、市民が立ち上がり、日本共産党や社民党と連携し、県議会各会派への要請をくり広げてきました。最後には、民主党・県民クラブと政権与党の公明党も反対し、政党で賛成したのは自民党だけになりました。

 意見書は可決されましたが、世論調査では9条改憲反対が圧倒的多数です。孤立しているのは自民党です。

 私は北日本新聞の論説委員長だった1999年、小杉町長選に周りの人たちから推され立候補し、自民党が擁立した候補と一騎打ちで、無党派の私が競り勝ちました。

 記者時代から「行政は誰のためにあるのか」を問い続け、町長の職にあっては「公平・公正、住民参画・協働、住民の目線」を追求してきました。

 

おごる安倍政権

 安倍政権は昨年暮れ、国民の強い反対を押し切って秘密保護法を強行しました。安倍首相は、国会の多数議席を背景に高をくくり、国民をなめています。

 主権者は国民です。国民をないがしろにする民主国家はありません。民主主義を支えているのは報道の自由です。知る権利を侵害し、情報を隠すことは世界の流れにも時代にも逆行します。

 権力を縛る憲法を権力の側に渡してはならない、これからも声を大に訴え続けます。

 聞き手 名越正治

 

 どい・よしぞう 特定秘密保護法を考える市民ネットワークとやま共同代表(小杉町は現・射水=いみず=市)

( 2014年05月06日,「赤旗」)(TOP

28、国際基督教大学教授(政治学)千葉眞さん/和解と平和の東シナ海に

 集団的自衛権をめぐって、安倍政権は行使を「限定」すると主張し、集団的自衛権の行使の条件を挙げています。だが、軍事力行使に有効な歯止めとなるものは一つもない、というのが率直な感想です。

 たとえば、「放置すれば日本の安全に大きな影響が及ぶ場合」に集団的自衛権の行使を「限定」するというのがあります。

 しかし、これは個別的自衛権で十分対応が可能です。それに、日本を取り巻く国際環境を見ても、集団的自衛権に踏みこむ必然性はありません。

 オーストラリアのシンクタンクが毎年、世界の国々の平和度・安全度を測った統計を発表していますが、日本はいつも3位から6位にランクインしています。日本は非常に平和で安全な国と評価されているのです。

 

「活憲」の立場を

 ただ、竹島や尖閣諸島をめぐる領土問題や北朝鮮の核開発問題など、東アジアに軍事的緊張の火種があることは確かです。

 では、こうした現状にどう対処したらよいのか。私は、「護憲」ではなく「活憲」を主張しています。憲法9条をもっと積極的に活かすことで、日本は平和構築国家を目指すべきだと思うのです。

 そのためには、まず、近代日本の植民地主義がもたらした負の遺産としての歴史問題にきちんと向き合うことが必要です。領土問題も、不十分だった戦争責任の履行との関連で歴史的に捉え返す必要があります。

 そのうえで、対話による紛争解決・平和構築の道を模索すべきです。尖閣諸島と周辺海域を日中台の3国で共同開発、共同管理するプロジェクトを進めることも一つの方法です。さらに踏み込んで最終的には尖閣諸島と当該海域の共同統治に進むことも選択肢だと思います。

 

平和の協働こそ

 日本共産党は「北東アジア平和協力構想」を掲げていますが、非常に大切な視点です。

 「国家間の紛争解決のために武力行使をしない」という東南アジア友好協力条約(TAC)の精神を基礎にした平和の地域共同体づくりの動きに注目しているようですが、非常に感心しました。

 私は、東シナ海を紛争の海≠ナはなく和解と平和の海≠ノすべきだといっています。そのために、日本は、平和憲法に根ざした大局的で粘り強い平和構築外交を呼びかける必要があります。ぜひこの平和への協働を進めてもらいたいです。

 聞き手 佐藤高志

( 2014年04月29日,「赤旗」)(TOP

29、大阪弁護士会初の女性会長石田法子さん/おかしいことおかしいと

 大阪弁護士会初の女性会長ということで、「うれしい」「私たちもがんばる」という声が女性から寄せられています。男女共同参画の推進と弁護士経験10年までの若手の支援に力を入れたいですね。

 私たち弁護士のよってたつ基盤は憲法と法律です。弁護士法では「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」と定められています。その点からみて、おかしいことは、おかしいと、いいたいと思います。

 大阪弁護士会や日弁連が、秘密保護法に反対し、いまは廃止にむけた取り組みに熱心なのは、悪法だから。その一言につきます。全部、ブラックボックスのなかに入る。「なにが秘密かも秘密」ということで、思いもよらないところで、逮捕・有罪になる市民も増えてくると思います。自分はどういう秘密に触れて逮捕されたのかもわからない。これでは、弁護士としても弁護のしようがありません。人権擁護という観点から、この法律は、いくらなんでもひどい。

 

ぶれずに「反対」

 強制加入で、いろんな考え方の人がいる弁護士会が、国家秘密法案(「スパイ防止」法案)の時から数十年、一貫して反対。その姿勢はぶれていません。私自身、すごいなと思います。

 集団的自衛権行使の問題にしても、憲法的に大きな問題があるというのが、弁護士会のおおかたの意見です。

 砂川事件の最高裁判決は、限定的に集団的自衛権を認めているなんて答案に書いたら、司法試験に落ちてしまうでしょう。ほとんどの憲法学者が無理があるとおっしゃっています。

 改憲論者の小林節さん(慶応大学名誉教授)も、解釈改憲で集団的自衛権行使を認めるなんて絶対におかしい、認められない、と。憲法学者からみたら、あり得ない議論なんでしょう。

 

立憲主義に違反

 憲法は、その時の政府の解釈で変えられるようなものではありません。国民が政府を縛るというか、政府にこういうことで、この国を治めてくれという要求を突きつけているわけです。権力者は、間違うこともあるかもしれないから、基本はちゃんと守ってやってねというのが憲法です。

 これは日本が戦前の反省に立ち、平和憲法を制定し、主権在民の民主主義国になる前提でした。それを政府が勝手に変えてしまうというのは、立憲主義に大きく反しています。

 聞き手 渡辺健

 

 いしだ・のりこ 大阪弁護士会創設135年目で初の女性会長に4月1日付で就任

( 2014年04月28日,「赤旗」)(TOP

30、天台寺門宗管長・園城寺(三井寺)長吏福家英明さん/戦争の怖さ知らぬ為政者

 日本は憲法9条で「二度と戦争はしない」「戦力は持たない」と決めている国です。時の内閣が憲法の解釈を勝手に変えて、集団的自衛権を行使できるようにすることは絶対に許されません。

 石破さん(自民党幹事長)は、いざとなれば日本の自衛隊が動くのであれば、日本と密接な関係にある国に攻撃を仕掛けるのはやめよう、というのが抑止力=A集団的自衛権を行使できるようにすることが抑止力につながる≠ニ言いました。私には理解できません。もし日本が集団的自衛権を行使すれば、相手の国は日本を攻撃してきて戦争になります。殺し殺される国になってもいいのかが問われる大問題です。安倍さん(首相)も石破さんも戦争の本当の恐ろしさが分からないからああいうことが言えるのだと思います。

 

戦死した同級生

 龍谷大学の学生だった1945年1月5日、徴兵され、京都・伏見の陸軍部隊に入隊しました。敵の本土上陸に備え、竹やりの先に爆弾を付けて向かってくる戦車に突撃する訓練もしました。訓練であっても怖くて足がすくみました。内地に配属され、生きて終戦を迎えることができましたが、大学や中学の同級生が何人も戦死しています。生き残った特攻隊員は「死んだ仲間に申し訳ない」と負い目を感じたのか、何度誘っても同窓会に顔を見せませんでした。

 寺に疎開していた知り合いの子どもたちは終戦になっても、正午のサイレンを空襲警報だと勘違いして泣いていました。戦争を体験した者にとって、日本を再び戦争する国にすることなど考えられません。

 

疑問感じず出征

 あの時代、「戦争に行かなければならない」ということに疑問を感じませんでした。出征の時、みんなの前で、「天皇陛下のために一生懸命がんばってきます」とあいさつしました。教育とは恐ろしいものです。いま教育委員会制度を変えようとする動きがありますが危惧を抱きます。

 三井寺では毎年8月6日、原爆犠牲者慰霊・世界平和祈願法要を行っています。夏休みの子どもさんたちもお参りに訪れます。小さい時から子どもに、「人の命は大切にしないといけない」ということを教えないといけないと思います。

 聞き手 浜田正則

 ふけ・えいめい 1925年生まれ。

( 2014年05月31日,「赤旗」)(TOP

31、山形県首長九条の会代表・米沢市長安部三十郎さん/国家の前に国民がある

 4月に「山形県首長九条の会」を結成しました。

 私は会社員をやめて市長選に立候補し、市民と対話を重ねるなかで鍛えられ、3度目の挑戦で米沢市長につきました。

 

市民から学んだ

 市長になる前から憲法9条は大事だと感じていましたが、特別な思いがあったわけではありません。ただ、市長として戦没者追悼式など平和に関わる行事にとりくむなかで、米沢市内の戦争体験者や遺族の思いを見聞きし、悲惨な戦争の現実を学びました。そこで、9条が「大事」というだけではなく、市長として9条を守るために行動しなければいけないと強く思うようになったのです。

 住民が戦争にまき込まれることなく、平和に暮らしていけるために努力するのは首長の義務です。そのためには憲法9条が必要なのです。

 日本は大変な犠牲を払って9条を得ました。二度と日本国民が殺したり殺されたりする場に登場するべきではありません。

 集団的自衛権の行使容認など軍事的対応を強めれば、戦争に国民がまき込まれる危険は増すわけですから、政府の言う「積極的平和主義」には矛盾があると感じます。

 

市民と話し合い

 これまで歴代内閣が憲法上許されないとしていたことを、閣議決定だけで変えようとする手法にも違和感があります。私は、秘密保護法や今回の集団的自衛権の問題を見ていて、政治家にとって、国民のために国はある≠ニの認識が大切だと感じます。立憲主義や民主主義から問題が指摘されていますが、それは国家の前に、かけがえのない個人がまずあるという考え方からきているはずです。

 米沢市は4年前から、中学生代表が広島、長崎、沖縄に訪問し平和を学ぶ事業を始め、毎年2月には平和講演会を開催してきました。参加した中学生の作文からは、国のあり方や国際社会にまで目を向ける姿が読みとれ、うれしく感じます。引率した職員も、中学生の真剣な姿に感動し、積極的な変化があります。

 平和の大切さや憲法9条の重要性などを幅広い市民と話し合っていきたい。話し合えば、本当に大事なものは必ず残り、実現すると思っています。

 聞き手 前野哲朗

 

 あべ・さんじゅうろう 2003年12月から山形県米沢市長 山形県首長九条の会代表

( 2014年06月02日,「赤旗」) (TOP

32、落語家笑福亭學光さん/お笑いも平和も大切に

 「お笑い福祉士」は300人以上に広がりました。ふるさとの徳島で開いた落語教室がきっかけです。

 素人の方には、落語家がまねのできない、実体験のネタがあります。ある看護師は、患者の体位交換で「べっぴんの方を向いて」と自分の方を向かせようとしたら、患者は反対側の若い看護師の方を向いた、といいます。

 こんなおもしろい話、教室のなかだけではもったいない。若手のころ、ボランティアで施設を回ってお年寄りと触れ合ったときの感動をみんなに経験してほしい。お笑いで福祉に貢献しよう、ついては何か資格を名乗りたい、と。

 介護の現場では、お年寄りを自分の親のように思ってお世話している職員が少なくありません。「お笑い福祉士」もそうです。みんな「人間を大切に」と頑張っています。

 政治はどうでしょうか。政府は要支援1・2の人を介護保険から外そうとしています。

 

ふつうにウソを

 「人間を大切に」する政治を考えると、平和の問題でも不安を感じます。

 安倍首相は、集団的自衛権の行使容認をめぐって、国会できちんと答えていません。戦争が起きたとき、アメリカが日本人を船に乗せ送り届けるか、ということですよね。そこからしておかしい。

 「国民を守る」と言うけれど、うそっぽい。東京五輪誘致のとき、安倍さんは「福島第1原発の汚染水は完全にコントロールされている」といいました。いまも汚染水はどんどん出ています。うそをふつうに言える人なのかな。一つひとつ信用できません。

 

父親世代の体験

 父は「満州」(中国東北部)からの引き揚げ者です。体験を話すことはありませんでした。77歳で亡くなった後、父のことをもっと知りたいと、遺品を調べ引き揚げ者の冊子をみつけました。ある女性は、衰弱したわが子を置き去りにせざるをえませんでした。振り返ると、子どもは助けて≠ニ身ぶりで訴えた。女性は帰国後、精神に異常をきたしたといいます。

 徳島の知人は、退職後に沖縄に移り住み、ガマ=自然の洞窟、沖縄の地上戦で多くの住民が亡くなる=の案内をしています。戦死した父親の遺骨を探し、子どもたちに平和の大切さを教えています。

 子どもの未来もお年寄りの人生も奪って、もう一度つらい体験を私たちにさせる、そんなことがあってはなりません。

 聞き手・写真 菅沼伸彦

 

 しょうふくてい・がっこ 徳島県出身。銀行勤めを経て、笑福亭鶴光さんに入門。

( 2014年06月08日,「赤旗」)(TOP

33、元京都弁護士会会長出口治男さん/戦争の実態かけ離れた議論

 憲法は国家権力に対する規範であり、ときの権力が勝手に解釈を変えるのは到底許されません。

 「安保法制懇」や安倍首相が示す具体例は目くらましであり、そこを突破口に海外での武力行使に道を開くものです。問題は、ベトナム戦争やイラク戦争など大義のないアメリカの戦争に日本が加担してしまうことです。

 私の父は終戦直前、3回目の召集で舞鶴港から戦地に行くところでした。輸送船はすぐに沈められましたが、父は偶然その船に乗らず助かりました。しかし、父親が「戦死」した同級生も少なくありませんでした。

 安倍首相らの議論をみると、人の命や日常が奪われるという戦争の実態からかけ離れ、「戦争ごっこ」でもやるような感覚です。

 彼らにすれば、戦争の担い手をどう育てるかという大きな課題があります。下村文科相が「教育勅語」を高く評価したのは、「愛国心」教育で、戦争の担い手づくりをすすめる一環でしょう。こうした動きを非常に危惧しています。

 憲法9条を守るために、自分のできることから始めていきましょう。

 聞き手 岡本大介

( 2014年06月07日,「赤旗」)(TOP

34、弁護士新井章さん/憲法裁判60年の思いは

 人権・民主・平和を謳った日本国憲法ができ、戦後の国民を大いに喜ばせたのに、実際の政治はその実現をサボったり、間引いてきました。「約束が違う、約束を守れ」。この思いが、私が60年にわたって憲法裁判に関わってきた動機のすべてです。集団的自衛権の行使で憲法の平和原則が壊されるのは、私の存在が足元から崩されていくような痛みを感じます。

 

憲章の例外措置

 国際社会で自国の安全を保障する手段は、外交、文化、経済など平和的手段を含むもっと幅広いもので、軍事的手段に限りません。

 ところが、首相は靖国参拝や「慰安婦」問題で失態を繰り返す、マイナスの外交行動を重ねる一方、日本の安全保障をもっぱら軍事的対応に限定し、集団的自衛権の行使容認の是非というテーマに議論を絞り込もうとしています。まずここに批判を浴びせるべきです。

 首相が念仏のように繰り返す国連憲章51条の集団的自衛は、憲章の中でも例外的な規定だということをおさえる必要があります。

 国際連合は、国際紛争をすべて国連の管理と統制の下に置き、加盟各国の勝手な武力行使を許さない、集団安全保障による「国連中心主義」を原則にしています。その中で加盟国による集団的自衛の行動は、国連の安全保障が機能するまでの一時的・限定的な例外措置として許されているにすぎません。

 加盟国が集団的自衛の武力行使を重ねると例外がふくらみ、原則が崩壊します。その意味で、集団的自衛の名による日米軍事共同は、戦後国際社会の平和原則にそぐわないのです。

 国連憲章は全体的・地域的な相互安全保障を謳っています。共産党が提唱する「北東アジア平和協力構想」のような相互安全保障をすすめ、むしろ中国や北朝鮮をも引き込んで、国連中心の集団安全保障の場で問題の平和的解決をはかるべきです。

 

広い視野で批判

 いま大事なのは、こうした広い視野から安倍政権を批判することです。首相が意図的に設定した狭い土俵上で、枝葉≠フ議論に引き回されてはなりません。

 私が弁護団として加わった砂川事件の判決を彼らは集団的自衛権の根拠にしますが、こじつけも甚だしい。私が弁論で主張したのは、日本は国連を中心とした安全保障の道にこそ進むべきだということです。憲法9条という誇るべき国際公約から何も学ばない首相は、国連憲章と日本国憲法の破壊者です。

 聞き手 竹原東吾

 

 あらい・あきら 砂川事件、百里基地訴訟、朝日訴訟、家永教科書裁判など憲法裁判に数多く参加。

( 2014年06月03日,「赤旗」)(TOP

35、山形県首長九条の会代表・米沢市長安部三十郎さん/国家の前に国民がある

 4月に「山形県首長九条の会」を結成しました。

 私は会社員をやめて市長選に立候補し、市民と対話を重ねるなかで鍛えられ、3度目の挑戦で米沢市長につきました。

 

市民から学んだ

 市長になる前から憲法9条は大事だと感じていましたが、特別な思いがあったわけではありません。ただ、市長として戦没者追悼式など平和に関わる行事にとりくむなかで、米沢市内の戦争体験者や遺族の思いを見聞きし、悲惨な戦争の現実を学びました。そこで、9条が「大事」というだけではなく、市長として9条を守るために行動しなければいけないと強く思うようになったのです。

 住民が戦争にまき込まれることなく、平和に暮らしていけるために努力するのは首長の義務です。そのためには憲法9条が必要なのです。

 日本は大変な犠牲を払って9条を得ました。二度と日本国民が殺したり殺されたりする場に登場するべきではありません。

 集団的自衛権の行使容認など軍事的対応を強めれば、戦争に国民がまき込まれる危険は増すわけですから、政府の言う「積極的平和主義」には矛盾があると感じます。

 

市民と話し合い

 これまで歴代内閣が憲法上許されないとしていたことを、閣議決定だけで変えようとする手法にも違和感があります。私は、秘密保護法や今回の集団的自衛権の問題を見ていて、政治家にとって、国民のために国はある≠ニの認識が大切だと感じます。立憲主義や民主主義から問題が指摘されていますが、それは国家の前に、かけがえのない個人がまずあるという考え方からきているはずです。

 米沢市は4年前から、中学生代表が広島、長崎、沖縄に訪問し平和を学ぶ事業を始め、毎年2月には平和講演会を開催してきました。参加した中学生の作文からは、国のあり方や国際社会にまで目を向ける姿が読みとれ、うれしく感じます。引率した職員も、中学生の真剣な姿に感動し、積極的な変化があります。

 平和の大切さや憲法9条の重要性などを幅広い市民と話し合っていきたい。話し合えば、本当に大事なものは必ず残り、実現すると思っています。

 聞き手 前野哲朗

 あべ・さんじゅうろう 2003年12月から山形県米沢市長 山形県首長九条の会代表

( 2014年06月02日,「赤旗」)(TOP

 

36、立憲デモクラシーの会呼びかけ人中山智香子さん/東京外国語大学大学院教授/チリ軍政思い起こす

 

私は、経済の状態と政治の動きは構造的に関係があるという立場で研究してきました。その立場から協力できることがあるかもしれないと思って、「立憲デモクラシーの会」に加わりました。

日本は20世紀中盤以降、ほとんど戦争にからまないできました。憲法9条のおかげです。戦後のこの国の根幹だと思います。

自由や人権制限

世界の歴史をみると、政権の一存で何か根本的な方向や政策を動かしたいときに、憲法に手をつけるのがみられます。1973年のクーデター後の軍政下の新自由主義のチリでは、80年に「防衛された民主主義」という国防の名のもとに、人々の自由や人権を制限する改憲を行いました。それでも一応、国民投票の手続きを踏みました。今回の日本の改憲は、それすらありません。突然に解釈を変えてごまかそうなど、基本の手前からルール違反で、ありえない話です。

居ても立ってもいられず、安倍晋三首相が記者会見した515日は首相官邸前-行きました。最近は、国会や官邸前にいろいろなことで、人が集まって声を上げています。それを無視しようとしても無視できなくなっています。

大いなる不経済

安倍首相は、脅威があるから対処できる形をつくるのだと言いますが、一体なぜ、どんな戦争をして何を得たいのでしょうか。戦争は結局、大いなる不経済です。それに日本が再び海外に軍を出すことは、他国にものすごく警戒されています。靖国問題に象徴されることです。軍事的貢献によってひとかどの国になろうなどと、万が一本気で考えているのなら、あまりに現状認識がずれています。

現政権の政策スタイルは、新自由主義の亜種です。新自由主義を推し進めると格差が広がり、多数の人が不満を持ちます。それを封じるため、政治は非民主的に流れていきます。今の日本は、当時のチリのように直接弾圧はしていませんが、秘密保護法で何でも隠し、異なる考えを萎縮させようとするのは同じです。

聞き手山田俊英

なかやま・ちかこ東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授(社会思想史、経済思想)。経済と戦争のかかわりを研究。

(20140611, 「赤旗」)

37、特定秘療保護法に反対する牧師の会共同代表安海宣さん/平和でこそ信頼される

安倍首相は、友人を集めて安保法制懇をつくり、集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲を押し付けようとしています。旧約聖書に出てくるレハブアム王の物語と重なります。

テロの脅威呼ぶ

レハブアム王は、重税と過酷な労働の軽減を訴える民の声を聞くよう助言する長老-たちを退けました。それどころか、自分に仕える友人の助言でさらに過酷な負担を民に押しつけます。その後、国は分裂して戦の絶えない状況に陥ります。

憲法解釈を変えてアメリカと一緒に戦争する国になれば、日本の信頼が崩れ、アメリカと同様にテロにおびえる国になってしまいます。

私が生まれ育ったインドネシアのカリマンタン島には、第2次世界大戦時の日本軍による虐殺の様子を彫った石碑と、犠牲者の基地があります。訪れるたびに、言葉では表現し尽くせない感情を覚えました祖父母を殺された友人たちの悲しみにも触れてきました。

一方で、日本国憲法に基づき平和的に争いを解決する日本人に対する信頼も実感しました。初めは、私たちを歓迎しない島民もいました。宣教師の父が「日本兵は刀を持ってきましたが、平和の福音(聖書)を持って戻ってきました」と語りかけ、受け入れられていきました。今、日本のパスポートがあれば、多くの国に受け入れられます。国際社会で信頼されている証しです。

アメリカの神学校に在学していた2001911日、世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ同時多発テロが起きました。アメリカ政府が「神の名」をゆがめてナショナリズムをあおり、復戦争に突き進む過程を目の当たりにしました。

テロによる悲しみに対し、「アメリカに神の祝福あれ」という言葉が街中に掲げられました。しかし、平和を求める聖書の本質がゆがめられ、「正義の戦争をするアメリカに神の祝福あれ」という意味にあっという間にすりかえられました。アメリカは、戦争をやったからこそテロにおびえる国に変わっていったのです。

情報を広く発信

キリスト者をはじめ多くのひとは、安倍政権が日本を戦争できる国に変えようとしていることを憂えていますが、アメリカではあまり知られていません。国内外にこの情報を発信し、決して神が願わない戦争-の道を阻止したい。

聞き手秋山豊

あつみ・かずのぶ1973年生まれ。東京都新宿区の東京めぐみ教会で牧師を務める。

(20140620, 「赤) (TOP

38和歌山大学学長山本健慈さん/「殺さぬ」声上げ続ける

ことしの卒業式式辞で「秘密保護法を容認できない」と話しました。

戦前の治安維持法の時代、旅で見た風景を語っただけで、学生が「スパイ」とされ罰せられた事件があります。何が秘密かも知らされない秘密保護法は、何かを知ろうとする若者の意欲を萎縮させます。

社会には多くの判断の違い・対立があります。それらを自由な学びのなかで考え、自らの判断を形成し、社会・政治に参加していく。学生だけでなく、市民に学び続ける自由が保障されてこそ、民主主義は成立します。

価値観は多様に

W杯サッカ-を見ていると、攻撃的な選手もいれば防御がうまい選手もいます。フィールドで個性が衝突しています。そこにはルールがあり、逸脱すればレフェリーが止めるしくみがあります。

100人いれば100通りの価値観・個性があります。どう共生するかを人間社会は考え、ルールをつくってきました。その一つが憲法9条です。とくに北東アジアで日本人が生き続けるうえで、守らなければならないと思います。

安倍政権は、集団的自衛権の行使容認を71日にも閣議決定する構えです。「日本の命運をかける」問題というなら、もっと激しい議論をするべきです。

日本の若者が、アメリカの青年が経験してきたように外国に行って血を流すという、戦後なかった危険に導こうとしているのです。

役職上、政治・行政・経済の各界の要職の方と会いますが、大学改革を含めてこの間の諸改革について、これで日本がよくなると実感をもって語る人には会っていない感じです。むしろ苦悩・疑問があるように感じます。こうした疑問が捕られぬまま、他国の戦場に向かう青年への責任意識のない議論で、憲法解釈が変えられてはならないと思います。

少年の声に応え

卒業式では、西ドイツの大統領だったウイツゼッカー氏の講演も紹介しました。「ヒトラーはいつも、偏見と敵意と憎悪をかきたて続けることに腐心していました。若い人たちにお願いしたい。敵対するのではなく、互いに手をとりあって生きていくことを学んでいただきたい」

同じ思いを日本の若者も抱いています15歳の少年は「戦場で人は殺せません」と新聞に投書しました。私も声を上げ続けます。

聞き手・菅沼伸彦

やまもと・けんじ1948年、山口県生まれ。専門は生涯学習。大阪府内の保育園の会長理事も務める。(20140630,「赤旗)

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39ソフトウエア会社アシスト会長ビル・トッテンさん/米にへつらう憲法破壊

安倍晋三政権が閣議決定した集団的自衛権の行使容認。自衛という言葉にごまかされてはいけません。本質は、アメリカの戦争に日本の自衛隊が軍事力をもってかかわることです。明確な憲法9条違反です。

 

実際に戦争が起こったときに、戦地に行かされるのはその国の若者です。ベトナム戦争以降、アメリカが戦地に送り込んだ兵士の多くは貧しい階層の出身者でした。背景には格差社会があります。持てる者と持たざる者との貧富の差の拡大。今の日本も同じ状況があります。

 

「属国」の日本へ

アメリカ国民の中には、自分の子どもを戦地で死なせたくないという危機感が広がっています。アメリカはできるだけ自国民を戦地に送りたくないと考えています。だから、「属国」である日本を使おうとしているのです。

バックにいる、戦争を継続したいと願う勢力も強大です。軍需産業があり、多国籍企業、金融資本もあります。安倍政権はこうしたアメリカの要求を受け入れ、国民の声を無視し、憲法を勝手に解釈して戦争する国づくりを進めているのです。

憲法破壊の動きは、自衛隊のイラク派兵から一段と強まりました。アメリカ言いなり、アメリカにノーと言えない、歴代自民党、民主党政権は、すぐには憲法改正ができないので、展理屈をこねて憲法9条を顧みず、憲法を少しずつ掘り崩してきました。安倍首相は、集団的自衛権の行使容認をめぐり、憲法の「解釈はこうだ」といい、黒を白と言いくるめるようなことばかり並べます。

 

大企業のために

彼らの頭の中には、民主主義よりアメリカのこと、政治献金を出す日本の大企業の利益のことしかないのではないか。株価引き上げ策も法人税減税も、一部の大企業とお金持ちのための政策にすぎません。

このままでは、アメリカの「御用聞き」になってしまう危険すら感じます。アメリカにへつらう憲法破壊の政治は恥ずべきことです。憲法を守ることは非常に重要です。これは危ないと思ったら、次の選挙で自民党を追い出したらいい。聞き手 矢守一英

(20140713, 「赤旗) (TOP

40ジャーナリスト斎藤貴男さん/米国には最高に好都合

安倍政権の解釈改憲は、積極的に米国に従属するためのものです。占領下でつくられた憲法を日本が明文改憲するより解釈改憲する方を米国は歓迎します。日本を自国の枠組みの中に置いたまま戦争を手伝わせたい。米国にとっては最高に好都合ではありますね。

もう一つの目的は、インフラや原発輸出を進める多国籍企業のバックアップとしての軍事力の確保です。米国と財界の利益をイコール国益だと短絡できる神経には、政治家としての資質を疑わざるを得ません。

公明党は何のブレーキにもなりませんでした。社会的弱者を基盤にしているはずの政党が、そうまでして権力の切れっぱしがほしいのでしょうか。

私の父はシベリア抑留の、母は東京大空襲の経験者でした。母は、父の帰還を待っていた頃からの一時期、創価学会員だったこともあります。戦争はもう嫌だという両親の思いを、僕らの世代で踏みにじらせるわけにはいかない。

(20140714,「赤旗」) (TOP

41ピアニスト小川典子さん/戦争の悲しみ自覚して

イギリスは、毎週戦死者が出ている戦争中の国です。私はロンドンに住んでいて、毎週戦死者の報道を聞いていますが、そのたびに首相は「国のために命をささげた人をたたえる」というコメントを出さなければなりません。

戦死した人が、町の目抜き通りをとおって教会へ運ばれるときには、人々は敬礼して見送ります。これがどれだけ痛々しいことなのか、今の日本の首相や政府は、分かった方がよいのではないでしょうか。

イギリスは第2次世界大戦の戦勝国でもあるので、終戦記念日はお祭り≠ナすし、戦争に対する考え方は、日本とは対照的だと感じることもあります。

それでも、軍隊に入隊した家族がイラクに配属されたときの悲しみを、私は何人もの友人から聞きました。

今まで日本が強固に守ってきたものを変えて戦争に積極的に参加するようになれば、それが深い悲しみにつながるということを日本の政府には自覚してもらいたいと思います。

(20140714,「赤旗」) (TOP