北東アジア平和協力構想実現への道を探る

9条でリーダーシップを

キーワードは「一体性」

「日中韓」の枠組みは今

多国間平和構築の先例

緊張継続と対応の変化

6カ国協議を基礎に

「慰安婦」問題の解決急務

歴史問題克服への努力

枠組みを追求する時代

 

1、9条でリーダーシップを

 韓国の首都ソウルから北東へ特急で約1時間。春川市があります。日本で韓流ドラマ人気の火付け役となった「冬のソナタ」の舞台。人口約30万の自然環境にも恵まれたのどかな地方都市です。4月はじめ同市を訪れました。

 (中祖寅一)

 

 日本で『韓国の軍隊』(中公新書)の著書がある尹載善さんに、日本共産党が提唱している「北東アジア平和協力構想」について意見を聞くためです。

 尹さんは、陸軍少佐を経て、研究職に就き90年代に日本の九州大学に留学。日本の植民地支配の歴史と、今も続く朝鮮半島の軍事的緊張について、日本の若者があまりに無知であることを知り、同書を書きました。現在は、市内の翰林聖心大学で行政学の教壇に立ちながら小さな教会の牧師を務めています。

 

軍隊が今も対峙

 「ぜひ、春川まで来てほしい」。取材の申し入れに、尹さんはこう言いました。

 市内を車で案内してもらうとドラマには現れない、北緯38度線・停戦ラインから約50`の軍事拠点という現実が迫ってきました。

 駅前の広大な駐車場は2005年11月まで米軍の前線基地「キャンプ・ページ」でした。市内各所には、韓国陸軍司令部の一つなど軍事施設が多数存在します。軍事上の制約のため、存在そのものを明かせない部隊や基地もあちこちにあります。基地の門前で大声をあげ訓練する若い兵士たちの姿に日本では経験のない「怖さ」を感じます。

 停戦ラインを境に、南北双方合わせて約200万人の軍隊が今も対峙する緊張が続いているのです。

 

平和のシンボル

 尹さんは言います。「ここまで来てもらったのは、この現実を見てもらうため。偶発衝突も含め、戦争になれば北朝鮮も韓国もなくなってしまう。戦争を絶対に起こしてはならない」

 「あなたたちの平和構想には賛成だ。大いにすすめてほしい」という尹さんが強調するのは、「日本は平和憲法を絶対に維持して、平和のリーダーシップをとってほしい」ということ。「中国が軍事力強化を進めるもと、日本が平和憲法に自信を失えば軍拡競争になり、東アジアに再び戦争が起きる」

 「日本のおにぎりはナショナルミニマム(最低限の生活保障)のシンボルで、平和憲法は世界平和のシンボルだ。日本の平和憲法をもとに、アジアの平和憲法をつくる。理想主義的といわれるかもしれないが、戦争はできないのだとすれば、一番強い武器は平和憲法だ。日本の平和憲法こそ東アジアの平和への最大のヘゲモニー(主導権)だ」

 

日本共産党の北東アジア平和協力構想

 東南アジアで発展している平和の地域共同体を北東アジアでも構築しようというもの。目標と原則に、@関係国を律する平和のルールを定めた北東アジア規模の「友好協力条約」の締結、A北朝鮮問題の「6カ国協議」を北東アジアの平和と安定の枠組みに発展させる、B領土紛争問題の解決にあたっては冷静な外交的解決に徹する、C日本が過去に行った侵略戦争と植民地支配への反省は不可欠の土台であり、歴史逆流の台頭を許さない―ことを掲げています。

 

韓国「協力通じ信頼醸成を」/ASEAN・武力不行使「日米中も」/海軍シンポ・衝突回避へ「規範」採択

 いま世界が、北東アジアの安定に注目するなか、さまざまな多国間対話の提案が出ています。韓国の朴槿恵大統領が昨年5月、米国議会で提唱した北東アジア平和協力構想もその一つ。

 朴大統領は「域内国家間の経済的相互依存の増大にもかかわらず、政治と安保協力は立ち遅れている、いわゆる『アジアパラドクス』現象をどう管理するか」としつつ、「米国を含む北東アジア国家が環境、災害救助、原子力安全、テロ対策などの『ソフトイシュー』(やわらかい課題)から対話と協力を通じて信頼を積み重ね、他の分野に協力範囲を広げていく」ことを提唱しました。

 

太平洋またぎ

 昨年12月には東京で開かれた日本・ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議に参加するために来日したインドネシアのユドヨノ大統領が、憲政記念館での特別講演で、「中国と日本の良好な関係は、われわれの地域の未来に決定的に重要だ」と日中の緊張緩和を促しつつ、インド・太平洋友好協力条約の締結を呼びかけました。ASEAN諸国が互いに武力の不行使を約束しあっていることを、太平洋をまたいでアメリカから、北東アジア、東南アジアへ、そしてインド洋まで広げるという壮大な提唱です。

 ASEAN諸国は、南シナ海での中国との対立をめぐり、南シナ海行動規範策定へ「履行指針」を採択(昨年7月)。同9月からは規範策定への公式協議を開始し、4月21、22日の高官会合で作業の加速化を合意しています。

 これに先立つ昨年6月には、ベトナムがASEAN10カ国に対し「武力の先制不使用の協定」を結ぶよう呼び掛け。この協定をASEANの対話パートナー国である中国、米国、日本などにも適用することを提案しました。

 昨年11月にブルネイで開かれた東アジア首脳会議(EAS)18カ国の高官会合では、ロシア、中国、ブルネイが「アジア・太平洋安保・協力の原則枠組み宣言」を共同提案。今年に入っても、台湾の馬英九総統が2月26日、中国の防空識別圏設定をめぐり、日本、中国を含む関係各国に対し東シナ海の洋上、空域での「行動規範」を共同で策定するよう呼び掛けました。

 4月22日には、日米中など21カ国の自衛隊・海軍の代表が開いた「西太平洋海軍シンポジウム」で「海上衝突回避規範」を全会一致で採択。海軍艦艇や航空機が海上で予期せず遭遇した場合に射撃管制用レーダー照射を回避すべきことなどを決めました。緊張が激化する一方だった東シナ海を含む新たな動きです。

 多国間対話と武力の不行使を中心とする平和のルールづくりは、単なる理想論ではなく、現実政治のもとでのアジアの本流となってきているのです。

 日本共産党は、昨年11月、こうした流れに学びつつ、日本の立場でより具体化した「北東アジア平和協力構想」を提唱、今年1月の第26回大会で確認しました。

 アジアの動きと日本共産党の提起について日本の外務省元高官はつぎのように述べます。

 「ルールづくりの話し合いは決定的に重要。中国との間で領土問題の存在を認めるか認めないかに固執するのは愚の骨頂だ。ルールづくりの主張が市民権を得つつある中で、安倍首相が靖国神社に参拝し、チャンスの芽をつぶした。しかし、今はできるところから始めるしかない。韓国提案にも賛成だ」

 

反感より友好

 日本の著名なASEAN研究者の一人は、ASEANが地域の平和共同体として発展してきた秘けつを語ります。「ASEANも最初は悲観的だったが、その悲観を裏切り続けて前進した。成功のポイントの一つは、外交の不文律として互いに反感を持っていてもそれを表に出さない政治家の知恵。互いに我慢、妥協することで、そこから手に入れる友好関係がどれほど大きいかを理解し、政治家が決断することだ」

( 2014年04月30日,「赤旗」)(TOP)

 

2、キーワードは「一体性」

 韓国の朴槿恵大統領が提唱した北東アジア平和協力構想の真意はどこにあるのか―。同大統領の外交アドバイザーの一人で、構想の起案に参加した世宗研究所の陳昌洙日本センター長をソウル市内に訪ねました。

 (面川誠中祖寅一)

 世宗研究所は、安全保障問題で韓国の代表的シンクタンクの一つです。おだやかな表情で出迎えてくれた陳氏は、構想の背景について真剣な口調で語り始めました。

 「中国の浮上が激しくなり、いま共通の課題について話し合わないと、対立して本当に破綻するという危機感が強くなっている」「中国の防空識別圏の問題や日本の集団的自衛権の問題によって、目に見える形で対立が先鋭化している。いま本当に行動するべきだという気持ちだ」

 

長期的な視野で

 陳氏が語る構想は、SARS(新型肺炎)などの伝染病、災害救助、環境などの「ソフトイシュー」で長期的視野に立ち、「協力の習慣」と「信頼の文化」の形成を進めることです。長期的視野に立つこと▽課題ごとに多元的に話を進め認識の共同体をつくること▽「韓国は主導権を求めないことなどを柱にあげます

 キーワードは、「北東アジアとしてのアイデンティティー(一体性)」です。

 域内諸国の経済的相互依存関係は増大しているのに、政治と安全保障面での協力は立ち遅れている―こうした問題意識から、足りないのは「一体性だ」と感じたのです。

 陳氏はいいます。「よりハードなイシュー、例えば北朝鮮の核問題、日本の集団的自衛権の解釈変更と中国の軍拡など安全保障問題については、ある程度信頼があるときに話をする」

 

日本の歴史問題

 一方、陳氏は、北東アジアに「一体性」が欠けている一番重要な要因について「韓国は日本の歴史問題だとみている」と指摘します。

 日本共産党も「北東アジア平和協力構想」で、過去の日本の侵略戦争と植民地支配への反省を「不可欠な土台」と位置づけています。旧日本軍「慰安婦」問題で、日本軍の関与を認め、おわびと反省を表明した「河野談話」を見直そうとする動きにも、志位和夫委員長が正面から反論した見解を発表しました。陳氏は、志位見解について「日本でもっとも良心的な政党だとみんなが理解している」と感想をのべました。

 日本共産党の北東アジア平和協力構想について陳氏に尋ねるとこう語りました。「賛成だし協調できる課題だ。災害救助など非伝統的安保の課題も含め、できるところから民間も含め、柔軟に共同することが重要だ」

( 2014年05月01日,「赤旗」)(TOP)

 

3、「日中韓」の枠組みは今

 政治面では冷え切ったように見える日中韓3カ国ですが、3カ国首脳会談を開催するための枠組みはいまも存在しています日中韓3国協力事務局です

 

3国事務局常設

 3月11日、同事務局の岩谷滋雄事務局長(日本)、陳峰事務次長(中国)、李鍾憲事務次長(韓国)が都内で共同記者会見しました。李事務次長は日中韓の関係について、長期的には「地理的な近さ、経済の相互依存、文化交流などの前向きな要因が後ろ向きな要因を上回る」と期待を語りました。

 3国協力事務局がソウルに常設されたのは2011年11月。1999年の東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議を始まりとする日中韓協力は、2008年にASEANから「独立」して首脳会議を年1回、持ち回りで開催。09年の首脳会議で、「効率的で組織化された体制」をつくるために常設事務局の設置を決めました。

 3月には日本で第2回防災机上演習を実施。昨年11月にはソウルでの日中韓保健相会合で、新型感染症対策で協力する共同実行計画を締結しました。

 4月29日には日中韓3カ国環境相会合が開かれ、PM25問題などで、各国が汚染物質の削減技術提供など、協力関係強化を明記した共同声明を採択しました。

 

武力行使抑える

 インドネシア戦略国際問題研究センターのイイス研究員(国際政治担当)は、日中韓3カ国の協力枠組みの活用を提案します。「日中韓3国協力事務局は、東南アジア諸国連合(ASEAN)がやってきたことと同様の原型になり得る」と指摘。「まず日中韓が東南アジア友好協力条約(TAC)のような条約を結びます。これは北東アジアの紛争解決で武力行使を抑える協力的な枠組みです。その発展のために、北朝鮮に条約への参加を呼び掛けるのです」

 イイス氏は、北東アジアが難局の中、水面下でもいいから話し合いを始めるべきだと言います。「ASEANのような地域枠組みをつくる出発点となり、安定化に非常に重要な意味を持ちます」

 他方、長年ASEAN外交にたずさわってきたインドネシアのスマディ国防相顧問は、成果を急いではならないと忠告します。「一足飛びに友好協力条約を結ぶのは難しいが、まず前段階として政治宣言のような形でコンセンサスを目指す。北朝鮮については、日中韓が何らかの対話フォーラムをつくり、そこに北朝鮮を招待する試みもあり得るでしょう」

 (面川誠松本眞志)

( 2014年05月02日,「赤旗」)(TOP)

 

4、多国間平和構築の先例

 北東アジア平和協力構想の現実性は、歴史的にみても根拠があります。

 

欧州のOSCE

 欧州には57カ国が加盟する欧州安保協力機構(OSCE)があります。OSCEは対立する国々も参加して信頼醸成を図り、軍事衝突を未然に回避することを目指す協調的な多国間安全保障の先駆的な例とされます。

 米国を中心とした北大西洋条約機構(NATO)と旧ソ連を中心としたワルシャワ条約機構という二つの軍事同盟が対立した「東西冷戦」中の1975年、両陣営の首脳が勢ぞろいした会合の合意により、軍事緊張緩和のために設置された欧州安保協力会議(CSCE)が95年に改編されたものです。

 ウクライナ情勢をめぐって厳しく対立している米ロ、EU加盟国はすべてOSCEに加盟しています。米ロ、EU、ウクライナが4月17日に発表した「ジュネーブ合意」は、武装集団の武装解除などで合意しましたが、合意履行の監視を委ねられるのはOSCEしかありませんでした。

 OSCE議長国スイスのブルカルテル大統領(外相)は22日の記者会見で、「危機的な状況を緩和するためには信頼醸成が必要だ。事態打開の鍵を握るのは、国家、地域を含むあらゆるレベルでの政治的意志だ」と強調しました。

 

アジアはARF

 アジア太平洋地域での先例は、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)です。94年に発足し、ASEAN10カ国と米国、中国、日本、韓国、北朝鮮など計26カ国1機関が参加。北朝鮮が恒常的に参加する唯一の安保対話枠組みです。

 毎年夏に開かれる外相級会合では、南シナ海問題、北朝鮮の核開発などをめぐり率直な意見が交わされます。

 2013年7月のARF外相級会合は、信頼醸成を進めると同時に紛争を未然に防ぐ「予防外交」実現の指針となる基本文書を採択しました。この文書で「紛争が武力衝突に激化することを防ぐ手段」とされているのが、戦争放棄を明文化した東南アジア友好協力条約(TAC)です。

 ASEANは12年11月、紛争予防、解決を支援する機関として「ASEAN平和和解研究所」を発足させました。非政府組織(NGO)とも連携して、紛争当事国への勧告などを出します。

 ASEANのモクタン事務次長は、「平和構築と維持はASEANの核心的な価値であり主要な貢献でもある。ASEAN域内だけでなく、(日米中など)パートナー国の積極的な関与を引き出すかを考えている」と述べています。

 (面川誠)

( 2014年05月04日,「赤旗」)(TOP)

 

5、緊張継続と対応の変化

 今年1月、中国人男性が気球に乗り、尖閣諸島に着陸を試みようとしました。「専門家の間で一時緊張感が非常に高まった」―。元政府高官は語ります。

 「同じ海域で活動する海上保安庁と中国の海監のどちらが身柄確保するか。日本が確保したら中国にとっては『自分の領土』で中国人が日本に逮捕されたことになる。必死になり銃器が使われる悪夢もありえた。新たな想定外のことが起きる可能性は残っている」

 別の元外交官は「船が頻繁に入ってくるのを止めない限り、緊張状態の本質はまったく変わらない。放置すれば、『撃つ』という事態が起きない保証はない」と述べます。

 

日中友好の活動

 他方、変化も現れています。

 中国の程永華駐日大使は2月13日の春節新春会でのあいさつで、昨年12月20日に岸田文雄外相と会って両国関係を議論したとし、「数日後に日本の指導者が靖国神社を参拝し、中国との対話のドアを閉ざし、皆さんの希望と努力は水の泡となった」と発言。さらに次のように述べました。

 「中日の政治関係が行き詰まっている中で、民間の友好と地方の交流は一層重要であり、日中友好の各団体の活動は特に大切だ」

 日本中国友好協会の田中義教理事長は、「中国側の対応の変化を感じると言います2010年の尖閣海域での漁船衝突事件以降、太極拳での交流事業さえ中国側が事前にキャンセルした経緯もありましたが春節の後中国大使館の汪婉参事官を大使館に訪ねると「従来の日中関係7団体だけでなく、幅広く民間団体交流を広げる」意志を田中理事長に示したといいます。

 

方針は平和共存

 3月11日には、中国の唐家せん元外相が会長を務める中日友好協会の代表団(団長王秀雲副会長)が東京の日中友好協会本部を訪問、草の根レベルの交流を話し合いました。協会は7月ごろに訪中する予定です。

 元政府高官の一人は「習近平主席の周辺外交の基本方針は、平和共存共同繁栄だ。それを日本に適用するには尖閣、靖国などの障害で動けない状態だが、安倍政権と民間を切り分け動き出そうとしている」と解説します。

 民間レベルでの多元的対話は、韓国の平和構想とも重なります。

 3月8日には、日中の研究者が東京に集まり、双方が「排他的ナショナリズム」を乗り越えようと、米国の学者も交えシンポジウムを開催。主催した「新しい日中関係を考える研究者の会」の一人は「中国側から不参加が必ず出ると思ったが、呼んだ6人全員が参加した。現場の呼びかけに、上をうかがうことなく対話できる雰囲気になっている。積み上げていくしかない」と述べます。

 (中祖寅一)

( 2014年05月05日,「赤旗」)(TOP)

 

6、6カ国協議を基礎に

 オバマ米大統領が日本、韓国、マレーシア、フィリピン4カ国の歴訪を終えた4月29日、北朝鮮外務省が談話を発表しました。談話は米国のアジア太平洋重視政策を非難した上で「新しい形態の核実験も排除されない」として、4回目の核実験強行を示唆した内容ではないかと警戒を広げました。

 

平和安定を探求

 北朝鮮の核開発をめぐっては、2003年に北朝鮮、韓国、米国、中国、ロシア、日本による6カ国協議が始まり、2005年9月に▽北朝鮮の核兵器開発放棄▽米朝日朝国交正常化▽北東アジア平和安定のための共同努力―を盛り込んだ共同声明を発表しました。

 とりわけ注目されたのは、「北東アジア地域における安全保障面の協力を促進するための方策について探求していく」ことが明記されたことです。

 しかし北朝鮮は06年に核実験を強行。09年と13年にも核実験を重ねました。6カ国協議も08年から中断したままです。

 中国社会科学院日本研究所の楊伯江副所長は「日米韓の一部の学者は、6カ国協議は役に立たないと批判する。確かに6カ国協議は完璧ではないが、6カ国協議より良いものはない。これが現実だ。北東アジアの安保問題で多国間の対話メカニズムがあるのは非常に重要だ」と強調します。

 「北朝鮮の核問題は多国間の地域の問題だ。現在のところ最も理想的な方法を見つけることができない状況だから、6カ国協議はわれわれの対話の基礎になる」

 

交渉再開の意義

 今年に入ってから、6カ国協議の中国首席代表が平壌入りしたほか、各国首席代表がワシントン、ソウル、北京を行き来するあわただしい動きを見せています。中国は6カ国協議再開を米国に説得していますが、米国は慎重な姿勢です。

 オバマ大統領は4月25日、ソウルで朴槿恵韓国大統領と共同記者会見し、「北朝鮮が本気で対話をしたいなら、非核化が(交渉の)テーブル上になければならない」と強調しました。一方でオバマ大統領は同日付の韓国紙中央日報の書面インタビューで、北朝鮮が核放棄という約束を守れば「恒久的な安全保障と経済発展を得られる」と呼び掛けています。

 韓国慶南大学の金根植教授は現地紙上で「状況の悪化を防ぎ、交渉に入るという意味だけでも6カ国協議再開は十分に意味がある。北朝鮮の核交渉が再開して対話に入れば、北東アジアに対決ではなく協力の土台をつくれる」と指摘します。

 (小林拓也、面川誠)

( 2014年05月08日,「赤旗」)(TOP)

 

7、「慰安婦」問題の解決急務

 旧日本軍「慰安婦」制度の被害者が共同生活を送る韓国京畿道広州市の「ナヌムの家」。安信権所長は今年2月と3月に日本大使館員と東京から来た外務省関係者とソウルで懇談しました。

 安所長は、「日本側は同じ話の繰り返しだった。『慰安婦』問題は解決済みだと。日本は国際的な人権法を基準に考えてほしい」と表情を曇らせます。

 

ハルモニの願い

 2012年に野田政権が李明博政権に「日本政府出資による元『慰安婦』への支援金」などの案を打診した際、肝心の慰安婦には何の相談もありませんでした。安所長はハルモニ(慰安婦)に問題の決定権がある事実を公式に認め、誠実に謝罪して名誉の回復を受けること、それがハルモニの願いだとし、外交当局間の決着を優先する姿勢を批判します。

 同時に、「日本側は強制性を認める記録がないというが、戦場で常に生命の危険を脅かされていたハルモニたちが、そういう場所に置かれ、強いられた行為は強制的なものだ」と問題の本質を指摘します。

 11年8月に韓国憲法裁は、日韓請求権協定の規定に基づいて、解決のための日韓協議を怠ってきたことは憲法違反だとする決定を出しました。請求権協定とは、韓国政府が1965年、日韓基本条約締結と同時に日本と締結した協定で、植民地支配時代の被害に対する請求権を放棄したもの。同時に同協定第3条1項は、協定解釈に違いがある場合は「外交上の経路を通じて解決するとしています

 

憲法裁判決受け

 憲法裁判決を受け韓国外務省の趙世瑛東北アジア局長(当時)は、日本大使館を通じ、「慰安婦」被害者の請求権を確認するための政府間協議を申し入れました。

 趙氏は「憲法裁の決定以降、外交で妥協を図ることは不可能になった」と振り返ります。

 「日本が、敗戦から国際社会に再び受け入れられた、その原点に立ち戻るべきだ。『被害者が生きているうちに次善の策を』は通用しない。被害者個人が求め、納得できることは何か、そこに尽きる」。趙氏は、「危ないのは安倍政権が戦後体制を否定する方向に進んでいくことだと危機感を募らせています

 韓国の有力地方紙の一つ江原日報(春川市)の論説委員長の権赫淳氏は、「東北アジアの安定にとって根本的問題は、日本の植民地支配の反省がないことだ」と強調します。日韓での平和構想に向けた対話の不可欠の土台として、「慰安婦」問題の解決が急務です。

 (面川誠、中祖寅一)

( 2014年05月09日,「赤旗」)(TOP)

 

8、歴史問題克服への努力

 「北東アジア地域で、きちんとした対話の枠組みがなく、紛争の可能性が高まることを管理抑制するチャンネルがない」

 都内で3月29日に開かれた言論NPO「新しい民間外交イニシアチブ」主催のシンポジウム。米外交問題評議会(CFR)のスコットスナイダー氏はこう述べました。

 日中、日韓の政府間外交が冷え込み、緊張高まる北東アジア情勢は、もはや国際社会の懸念です。同シンポは、「東シナ海で偶発事故から軍事紛争が起こる可能性があるのに政府間外交が動かない。誰がこの状況を解決できるのか」(工藤泰志同NPO代表)との問題意識で開かれました。

 なぜ対話が進まず、緊張だけが高まるのか―。

 韓国東アジア研究院の李淑鐘院長は、旧日本軍「慰安婦」問題など安倍政権の歴史認識をあげ、「歴史の書き換えが行われようとしている。ここが原因で対立がおこってきた」と指摘しました。

 

安倍色を否定

 昨年10月に200人を超える研究者によって「新しい日中関係を考える研究者の会」が発足しました。事務局を担当する菱田雅晴法政大教授は、「外から見ると日本がもっぱら安倍カラーでとらえられている。『そうではない』と声をあげ、緊張した日中関係を解きほぐす一歩にする。新しい研究会を発足させた経緯だ」と述べます。会員は現在270人まで増えています。

 同会は、3月8日に「日中関係の源流を探る」と題してシンポジウムを開き、日中双方およびアメリカの研究者も参加して、1970年代の日中国交正常化を検証。旧ソ連との対立や経済交流の深化を背景に、米中接近と日中国交回復が進んだ経緯を議論し、その中で歴史問題の克服が進まず、いま安倍政権の歴史逆行が強まっている問題が共通して指摘されました。

 笹川平和財団で日中の海上航行安全のルールづくりへ対話促進事業を進める于展氏も、「日中間には体制的な違いがあるが、日本と韓国は同じ民主制国家。安倍首相は価値観外交と言うが、なぜ韓国とここまで衝突するのか。北東アジアの一体性の欠如は歴史問題に起因する」と述べます。

 

相互理解が重要

 中国、韓国の歴史学者らと共に日中韓3国共通歴史教材『未来をひらく歴史』の作成に取り組んできた都留文科大学の笠原十九司名誉教授はいいます。

 「民間でも、日本側が過去の侵略戦争と植民地支配への反省をはっきりさせなければ話し合いは始まらなかった。共同研究を始めて10年以上たつが、違いを出し合い、相互に理解するという初歩的な段階。地道に長く続けることが大切です」

 (山田英明、栗原千鶴)

( 2014年05月10日,「赤旗」)(TOP)

 

9、枠組みを追求する時代

 東京日比谷公会堂で行われた「53憲法集会」。日本共産党の志位和夫委員長は、会場の外にまであふれた聴衆にこう語りかけました

 「私たち日本共産党は、今年1月の党大会で…『北東アジア平和協力構想』を提唱しました」「これは決して理想論ではありません。すでに東南アジアの国ぐに――ASEAN諸国が実践している『東南アジア友好協力条約』(TAC)など、『紛争の対話による解決』をめざす平和の地域共同の枠組みを、北東アジアでも構築しようというのが私たちの提案です。憲法9条を持つ日本こそが、こうした平和の地域共同の枠組みづくりの先頭に立ってがんばるべきではないでしょうか」

 

民間レベルでも

 元外務省高官の一人は日本共産党の提起について述べます。

 「極めて正論で、当然支持を得られるべきだ。今すぐ政府レベルでは無理でも、民間レベルでどんどん知恵を出していく。そういうことがあたりまえになり、みんながどんどん意見を出す時代に突入すべきだ」

 日本の経済産業省のホームページには日中韓について次のような解説があります。

 「(日中韓)三カ国でGDPは世界の211%、貿易額では世界の192%を占めています(2012年)。日中韓は世界の成長センターであるアジアにおいて中核となる存在であり、三カ国がこれまで以上に積極的に協力を進めていくことが、東アジア、ひいては世界経済の発展のためにも必要不可欠となっています」

 そうであるなら、北朝鮮問題を含め、北東アジア地域で緊張を対話によってコントロールし、「紛争の対話による解決の枠組み」を追求することこそ、最も現実的かつ責任ある立場です。

 

重要な規範共有

 3月8日に「新しい日中関係を考える研究者の会」主催で開かれた日米中研究者のシンポジウムで、東京大学の高原明生教授は、日中の緊張打開について「経済的相互依存だけでは戦争は防げない」と強調。抑止力の維持を留保しつつ、「共通の規範の共有が重要だ。決して力を使って問題を解決しない。これは前世紀の悲惨な戦争と多大な犠牲のもとに人類が獲得した重要な規範だ」と述べました。

 前出の元外務省高官も言います。

 「日本と中国、韓国も入れて、どういう東アジアをつくるのか、その議論を始めよう。それは角を突き合わせていがみ合うアジアか。平和でむつみあい誠実に、相手に対し寛容な、そういうものがいきわたる東アジアかを」

 (中祖寅一)

( 2014年05月11日,「赤旗」)(TOP)