2014・黙ってはいられない(10月〜11月)

 

*      慰安婦」問題/笠井貴美代さん/柴田真佐子さん/寺岡シホ子さん/梁澄子さん/米田佐代子さん

*      「女たちの戦争と平和資料館」(wam)館長池田恵理子さん/「慰安婦」否定は記憶の暗殺

*      宝塚歌劇団特別顧問「ベルサイユのばら」の演出家植田紳爾さん/劇場閉鎖、二度とさせない

*      上智大学教授田島泰彦さん/メディアは毅然と対峙を

*      アジア太平洋資料センター事務局長内田聖子さん/内閣打倒へたたかい集め

*      中国人「慰安婦」訴訟弁護団長を務めた弁護士大森典子さん/信頼は過ち認めてこそ

*      同志社大学教授岡野八代さん/これが性奴隷でなくて何か

*      思想家内田樹さん/政治と会社を同一視するな

*      沖縄国際大学大学院教授・元「琉球新報」論説委員長前泊博盛さん/血の同盟≠謔阨ス和共同体

*      新聞労連委員長新崎盛吾さん/秘密法廃止求め続ける

*      「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター共同代表西野瑠美子さん/責任否定は世界の失笑買う

*      滋賀・米原市長平尾道雄さん/命守る行政の長として

*      京都大学名誉教授伊東光晴さん/いま政権を批判するわけ

*      ジャーナリスト青木理さん/「売国」あおるのは禁じ手

 

 

 

慰安婦」問題/黙ってはいられない/笠井貴美代さん/柴田真佐子さん/寺岡シホ子さん/梁澄子さん/米田佐代子さん

 「慰安婦」問題で、日本軍の関与と強制性を認め、謝罪を表明した河野洋平官房長官談話(1993年8月4日)に対する異常な攻撃が、「朝日」の検証報道(8月5、6日付)を契機に繰り広げられています。「赤旗」は論文「歴史を偽造するものは誰か『河野談話』否定論と日本軍『慰安婦』問題の核心」(9月27日付)を掲載し、全面的に反論しました。「慰安婦」問題にとりくんできた識者に、「河野談話」攻撃をどうみるか、問題の核心はどこにあるのかなど語ってもらいました。

「河野談話」攻撃通用しない/新日本婦人の会会長笠井貴美代さん
 「赤旗」論文は、朝日新聞の「吉田証言」取り消しに乗じた極右勢力が、その攻撃の矛先を、「河野談話」に向けていることをズバリ指摘しています。「河野談話」は「吉田証言」を根拠にしていないことは「談話」作成当事者だけでなく、菅官房長官も国会答弁で認めました。「談話」への攻撃が通用しないことは明らかです。
 「赤旗」論文が言うように安倍内閣の姿勢こそが厳しく問われています。内閣が、「河野談話を継承し見直すことはない」と繰り返し公式に言明したなら、「談話」のとおり、歴史の事実を認め、歴史教育の強化などを誠実に実行すべきであり、不当な攻撃に反論すべきです。
 ところが安倍首相は「吉田証言」を取り消した朝日新聞の報道に関連して国会で「日本が国ぐるみで性奴隷にしたといういわれなき中傷が行われている」とのべ、性奴隷制という「慰安婦」問題の本質を事実上否定しました。
 「河野談話」にも歴史の事実にも反し、今も癒えぬ苦しみのなかにある被害女性たちに二重三重の追い打ちをかけるものです。強く抗議し、発言の撤回を求めます。
 女性の人権問題、侵略戦争の国家犯罪である「慰安婦」問題の解決へいっそう運動を強めていきます。

性奴隷状態≠ヘ世界の常識/日本婦人団体連合会会長柴田真佐子さん
 「赤旗」の論文は、きちんと物を言うことが大事なこの時期に出された非常にタイムリーなものだと思います。
 「吉田証言」が虚偽だったことを理由に、「河野談話」を否定し、強制性はなかったとする一連のキャンペーンは異常です。政府は「河野談話の継承」を表明したばかりにもかかわらず、なぜこうした攻撃に反論しないのでしょうか。
 「慰安婦」が性奴隷状態であったという事実は、世界の常識です。それをなかったことにするなどというのは、国際的に恥ずかしい。この問題の解決を迫る勧告・声明は、今年だけでも自由権規約委員会、人権高等弁務官、人種差別撤廃委員会と相次ぎました。
 しかし、9月に国連女性差別撤廃委員会に提出された日本政府報告は、「法的に解決済み」として「河野談話」にもふれず、すでに終了した「アジア女性基金」の活動を記述するという従来通りの内容です。私たちは、NGOリポートづくりを急ぎ、早期解決を求める署名にとりくみます。

「赤旗」論文に胸のすく思い/日本キリスト教婦人矯風会副理事長寺岡シホ子さん
 朝日新聞の「吉田証言」取り消し記事を、鬼の首をとったかのように大きく取り上げ、「日本の名誉を傷つけた」と騒ぎ立てる一部メディアと現役の首相はじめ閣僚たちの発言には、怒りを通り越してあきれるばかりです。
 彼らの発言がいかに「慰安婦」問題の本質から論点のずれたものであるか、いかに国際社会で通用しないものであるかを「赤旗」論文ではっきり示していただき、胸のすく思いです。
 会員からも「『慰安婦』問題はねつ造だったのか」という質問がきています。「慰安婦」問題の解決を求めて運動してきた私たちは「吉田証言」を何の根拠にもしておらず、何も揺るがないと説明してきました。
 「慰安婦」問題がなかったかのような、とんでもなく誤った意図的な情報が氾濫し、歴史がゆがめられないように、全国の人たちに「赤旗」論文を読んでほしいと願います。コピーを配りたいぐらいです。
 過去の掲載記事の誤りを謝罪とともに取り消された「しんぶん赤旗」に敬意を表します。

被害者の証言で国際世論化/日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表梁澄子さん
 四半世紀にわたって「慰安婦」問題に関わってきた立場から、今一番言いたいのは、安倍首相をはじめとする右派政治家のデタラメな論調です。「朝日」が取り消した「吉田証言」のせいで、「日韓関係が悪くなった」わけでも、「世界に誤解が広がった」わけでもありません。
 「慰安婦」の問題の本質は、「強制連行」ではなく、監禁状態で軍人の相手をさせられ、やめる自由もない性奴隷状態に置かれたことです。そこを国際社会は問題にしているのです。吉田氏の「証言」は何ら影響を与えていません。
 世界では当然の人権感覚を持てず、「慰安婦」問題を否定し続ける安倍首相など右派政治家が日韓関係や国際世論を悪くしたのです。
 「慰安婦」問題が国際世論化されるようになったのは「吉田証言」ではありません。最大の要因は、被害者たちが名乗り出たことと、その後の活動です。
 性暴力の被害者が名乗り出るのは簡単ではありません。1991年、韓国の金学順さんが初めて名乗り出ました。金さんの行動は、韓国やフィリピン、インドネシア、東ティモールなど各地の被害者が名乗り出るきっかけとなりました。本人でなければ語りえない被害の実態は説得力を持ち、「証言」は立派な証拠です。
 戦時下性暴力で、これほどの被害者が訴え出ている例はありません。被害者たちが生きている間に事実を認め、謝罪し、賠償することこそ日本の名誉を回復する道です。

「女性の人権」後戻りはない/女性史研究家米田佐代子さん
 「河野談話」は「吉田証言」を根拠にしていないという「赤旗」論文の指摘はその通りで、研究者の間でも「吉田証言」は早い時期に否定されています。
 「慰安婦」問題が国際的に大きく取り上げられるようになったのは、朝日新聞の「誤報」が理由ではなく、1991年に被害者が名乗り出たことをきっかけに運動が広がったからです。95年の第4回世界女性会議(北京会議)が「女性の権利は人権である」と宣言して以来、国連でも「慰安婦」問題は大きな柱になりました。
 「女性の人権」は、後戻りできない歴史の流れです。「慰安婦」の存在すら否定するような論調は、国際社会では全く通用しません。こんな発言が国内で横行するのは、都議会セクハラヤジ事件でもわかるように、日本の女性の人権保障が不徹底な証拠でもあります。
 安倍内閣は「女性が輝く社会」を宣伝していますが、それならまず「慰安婦」への「謝罪」と「尊厳の回復」に取り組むべきでしょう。それが日本女性の人権保障にもつながると思います。
(
2014年10月05日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

「女たちの戦争と平和資料館」(wam)館長池田恵理子さん/「慰安婦」否定は記憶の暗殺

 私はNHKで1991年から「慰安婦」番組を作ってきました。この時すでに「吉田証言」に確証がないというのは、関係者の間で一般的な認識でした。今問題なのは「朝日」検証報道を口実にした、メディアの異様な「朝日」たたきと、「慰安婦」問題を否定する論調です。安倍首相は「朝日」の報道を「いわれなき中傷」「日本の名誉が傷つけられた」として、「慰安婦」問題そのものを否定していますが、「慰安婦」が性奴隷であったことは世界中の人が知っています。
 93年以降、国連や各種の国際人権機関では「慰安婦」報告や勧告を出し、2007年には米国やオランダなどの下院、欧州議会が日本政府への決議案を採択。今年7月に国連の自由権規約委員会は、「今も被害者の人権が侵害されている」として、日本政府に厳しい勧告を出しています。

日本軍が管理
 問題は強制連行の証拠の有無ではありません。占領した全アジアに、日本軍が管理・運営する慰安所という名の「強かん所」を造ったことが前代未聞の戦争犯罪なのです。
 91年に金学順さんが名乗り出てから、フィリピンや在日、オランダ、中国、台湾、インドネシアなどで被害者が声を上げ、日本政府に謝罪と賠償を求める10件の裁判が始まりました。以後、弁護士や支援団体が一人ひとりに綿密な聞き取りを行い、文書資料の発掘をしてきました。その結果、ほとんどの裁判で、彼女たちが性奴隷を強制されたことを事実認定しています。

番組にも介入
 安倍首相は97年に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」を立ち上げ、中学の歴史教科書から「慰安婦」の記述を削除させる運動を始めました。次のターゲットはメディアでした。私は96年までにETV特集などで8本の「慰安婦」番組を作りましたが、バックラッシュ(反動攻撃)が強まる中、企画が通らなくなりました。そして女性国際戦犯法廷を取り上げたETV2001で、安倍氏(当時官房副長官)は番組介入の当事者になりました。今ではNHK経営委員会にお友達≠4人も送り込み、「慰安婦はどこの国にもあった」と公言する籾井会長を誕生させるに至っています。
 メディアが安倍首相の思惑通りに「慰安婦」問題を否定するとしたら、まさに自殺行為です。報道機関なら、被害と加害の実態を取材してほしい。今や、「慰安婦」を否定する記憶の暗殺者≠ニのたたかいは、戦争へ進もうとするファシズム政権とのたたかいになってきました。
 聞き手・和田肇

 いけだ・えりこ NHKディレクター時代、女性、人権、教育、エイズ、戦争などの番組を制作。2010年定年退職。
(
2014年10月15日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

宝塚歌劇団特別顧問「ベルサイユのばら」の演出家植田紳爾さん/劇場閉鎖、二度とさせない

 福井市の夜空が米軍機の爆撃で真っ赤になったとき、近隣の村に神戸から疎開していました。終戦の年の1945年7月です。翌朝、福井中学に登校すると、山のような焼死体を「トラックに乗せろ」と命じられました。白骨の遺体も子どもを抱いて半分焼けた母親の遺体もありました。

感情なくした
 「罪のない人がなぜこんな目に。死にたくなかったろう」。初めは憤りや哀れみがあったのです。ぞっとしたのは、その気持ちがどこかへ行って作業している自分に気づいたときです。人間の感情をなくしている自分を許せないと思いました。焼夷弾が神戸の実家を直撃し火の中を逃げたことよりも、ずっと強烈な戦争体験です。
 戦地へ行った人はもっとすごかったと思います。戦闘や飢餓のなか、なにが残虐行為かもわからなくなったのではないでしょうか。極限状態では、人間が人間でなくなってしまう。だから絶対に戦争をしてはいけません。福井空襲の体験が、私の人生の原点です。
 宝塚歌劇団は、ロシアの文豪トルストイの名作「戦争と平和」をミュージカルにしました。トルストイ研究者から「どうせ甘い恋物語だろうと思って見たが、宝塚を見直した」と手紙をいただきました。私自身の原点があって、作品を解釈できたのだと思います。主題歌を書きました。「争うことのむなしさを知っているのに人間はどうして繰り返すのか」。いまだに変わらない問いかけです。

劇場には色が
 宝塚歌劇団は「戦争中の日本に不必要」とされ、兵庫県宝塚市の大劇場も東京の劇場も44年に閉鎖されました。公演再開は終戦の翌年です。春日野八千代さん主演の雪組公演を私も見ました。疎開先から神戸に戻った中学生のときです。外は焼け跡が広がる灰色の世界、劇場の中だけは色があふれていました。このときの大きな感動を伝えたいと、作品をつくってきました。
 阪神・淡路大震災のとき、市民感情にとってどうだろうと悩んだ末、3カ月後に公演を再開しました。ある女性は「舞台の2時間、つらいことは忘れていました。あすからも頑張ろうと思います」と言ってくださいました。
 こういうふうに喜んでいただける仕事も大事だと思いました。それができなくなる時代、劇場が閉鎖される時代に、二度とさせてはならないと思います。
 共産党は、信念を曲げない、矜持のある政党だと思います。期待します。
 聞き手 菅沼伸彦

 うえだ・しんじ 1933年、大阪府豊能町生まれ。57年、宝塚歌劇団に入団。演出家として「ベルサイユのばら」「風と共に去りぬ」など多数の作品を手がける。
(
2014年10月16日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

上智大学教授田島泰彦さん/メディアは毅然と対峙を

 朝日新聞が「慰安婦」問題をめぐる「吉田証言」関連の記事を取り消してからも、安倍政権をはじめ、一部右派メディアと侵略戦争を肯定・美化する勢力による異常な「朝日」バッシングが続けられています。
 言論を統制し国民を監視し、軍の力を強めて戦争ができるような体制をつくろうとする勢力です。

認められない
 彼らが今の日本をどういう方向に向かわせようとしているのか。集団的自衛権行使を容認し、武器輸出禁止を骨抜きにする一方、「知る権利」「取材の自由」を抑圧する秘密保護法を成立させました。盗聴を広げる法改正も企てる。権力に批判的なメディアや市民を攻撃して、自分らの策謀に有利な状況をつくろうとする。その一環として、今回のバッシングがあるのではないでしょうか。
 かつての日本の侵略戦争そのものを美化・正当化しようとする流れにのっかったものといえます。それは欧米で出てきた「アウシュビッツの虐殺はなかった」といった歴史修正主義と同じたぐいで、国際社会ではとうてい認められるものではありません。

まさに性奴隷
 国際社会が認定している「慰安婦」を性奴隷と呼ぶことは誇張ではなく、まさにそのものなのです。「吉田証言」は虚偽でも、「慰安婦」そのものの反人権性は変わりはない。それも女性自身の意思ではなく、軍による「強制」であったことが、国際社会の共通認識なのです。
 「慰安婦」制度を反省し、二度とくりかえさないことを国際社会に明示すること。それが本当の意味の「国益」です。
 ジャーナリズムは、権力の外にあって、市民の立場で監視するのが役目です。権力といっしょになってバッシングするのはもってのほか。日本がアジアで行ったことがなんであり、どんな意味を持つのか、「慰安婦」そのものが何であったかを、くり返し調査・取材して読者や視聴者に伝えてゆくことがいま一番大切です。
 不当な攻撃には社会にも訴えて、毅然と対峙すること。いまジャーナリズムががんばるしかない。それでこそ国際社会と読者の信頼を得られます。
 聞き手 森保和史

 たじま・やすひこ 1952年埼玉県生まれ。上智大学文学部新聞学科教授。憲法・メディア法専攻。著書に『この国に言論の自由はあるのか』(岩波書店)、編著に『秘密保護法 何が問題か』(同)など。
(
2014年10月19日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

アジア太平洋資料センター事務局長内田聖子さん/内閣打倒へたたかい集め

 安倍首相の国会答弁は、質問には答えず、おごりそのものです。私たちが反対しているTPP(環太平洋連携協定)交渉もひどいものです。先の日米協議では、甘利明TPP担当大臣が、牛肉や豚肉の関税削減で相当踏み込んだ譲歩案を示したといいます。自民党の公約や国会決議に明らかに違反しています。
 それでもアメリカのオバマ政権は満足しません。「関税はゼロにせよ」です。アメリカ側は、自動車部品の関税は「数十年後まで残す」という。
 アメリカは11月に上下両院の中間選挙があるので、オバマ政権は強気ですし、こんな案を出しても日本政府は受け入れると踏んでのことだと思います。日米協議はその後も事務レベルで続いています。オバマ大統領がめざす11月のTPP大筋合意にむけ25日から閣僚会合があり、目が離せません。安倍内閣が農業は切り捨てたうえ、自動車問題も含め、譲歩してしまう危険があります。

声上げること
 アメリカは、多国籍企業の利益を背景に、水道の民営化などサービス分野自由化の国際交渉もしています。日本の財界も、さらなる海外進出のため、その交渉を推進しています。
 安倍内閣は「世界で一番企業が活動しやすい国」をうたって、「国家戦略特区」づくりを急いでいます。大企業を呼び込むために法人税は安くし、働く人の労働条件、賃金は抑えようということでしょう。ですから、日本の企業の「ブラック化」はTPPとつながっているのです。
 「誰のためのTPP?」に続き、「ブラックバイトに負けない!」というDVDをつくりました。おかしいと思ってもどうしていいか分からない、そんな状態から声をあげることが大切だといいたいのです。

言葉を工夫し
 11月29日には、安倍内閣打倒の大集会があります。私も呼びかけ人となりました。TPP反対、秘密保護法や原発問題など「シングルイシュー」で運動が広がってきました。でも一つだけでは政権は変えられないと、みんな気づいています。
 安倍政権は、強兵のための富国をしようという政治です。個別のたたかいを集め、打倒する力を大きくする必要があります。もっと普通の人に届く言葉を工夫し、安倍内閣のねらいを打ち破らなければなりません。
 聞き手 中沢睦夫

 うちだ・しょうこ 慶応大学卒業後、出版社勤務、住民運動を経て、アジア太平洋資料センター(PARC)に。2006年から事務局長。「STOP TPP!!官邸前アクション」の呼びかけ人。
(
2014年10月23日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

中国人「慰安婦」訴訟弁護団長を務めた弁護士大森典子さん/信頼は過ち認めてこそ

 朝日新聞が「『慰安婦』を強制連行した」とする「吉田証言」を取り消したことによって、「強制連行の証拠がないから『慰安婦』問題は基本的になかった」というキャンペーンが横行しています。安倍晋三首相も「河野談話」継承をいいながらキャンペーンをあおるような発言をくり返しています。
 日本軍「慰安婦」問題は、被害にあった女性たちの証言によってすさまじい人権侵害の実態が知られ、国際社会は衝撃を受けました。そして、二度と戦時下の性暴力を行わないよう日本政府に加害の事実を認め、謝罪し、賠償し、加害者を処罰し、繰り返さないよう教育することを求めているのです。

問題の本質は
 「吉田証言」が虚偽だったとか、強制連行のあるなしが「慰安婦」問題の本質ではないのです。
 1995年〜2005年の中国人「慰安婦」裁判では、現地に二十数回足を運びました。長い月日がたちましたが、日本軍の加害行為は村の人々の記憶に、そして当時のまま残っている遺物などにはっきり残っています。そして司法は、証拠にもとづきこれら日本軍「慰安婦」裁判について加害と被害の事実を認定しました。
 過去にきちんと向き合わず「こんな歴史はなかった」と言い続ける日本は、いくら経済が発達していても、国際社会から見れば信頼できない国だと見えるはずです。
 過ちを認めたからといって、世界は「日本はダメな国」とは決して評価しません。なぜなら、人間のつくる社会だからどこの国にも過去の過ちはあると考えているからです。むしろ、過去の過ちをきちんと認めて始末をつけてこそ国際社会の信頼を得られると、多くの人に気付いてもらいたい。

危機感覚える
 今回の「朝日」の検証報道で、一部大手メディアが「朝日」たたきにやっきになっているムードに危機感を覚えます。
 それは知る権利の危機であり、いま起こっていることは、「慰安婦」問題を超えた民主主義の危機だと思っています。
 「慰安婦」問題にかかわっていなくても、全ての法律家、民主勢力、団体、個人が立ちあがらなければいけない場面だと思います。
 聞き手 仁田桃

 おおもり・のりこ 1995年に中国人「慰安婦」訴訟を提起し、弁護団長を務める。「『慰安婦』問題解決オール連帯ネットワーク」共同代表。
(
2014年10月24日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

同志社大学教授岡野八代さん/これが性奴隷でなくて何か

 「赤旗」の論文「歴史を偽造するものは誰か」は、ほんとうにその通りです。「事実にもとづいた報道って、こうだよな」というのが私の感想です。
 「朝日」の「吉田証言」取り消しによって、「慰安婦」問題で日本軍の関与と強制性を認め謝罪した「河野談話」を否定するのは、とんでもない話です。「吉田証言」があったから「河野談話」があったのではありません。官房副長官として談話作成にかかわった石原信雄氏も認めています。
 安倍首相は「河野談話」の継承をいいながら、「日本が国ぐるみで性奴隷にしたと、いわれなき中傷が世界で行われている」と国会答弁。ひどいですね。安倍首相は、韓国へ行き元「慰安婦」の方の前でそんなことが言えるでしょうか。証言にもとづいて告発・勧告した国連の諸人権機関や研究者にも失礼ですよ。

売り物扱いに
 国際社会では、日本軍「慰安婦」問題は20世紀最大の人権侵害のひとつです。明らかな性奴隷制です。日本軍が戦線を広げるとともに、当時、軍人たちがピー屋≠ニ呼んでいた「慰安所」も増えます。最激戦地で軍艦でしか行けないルソン島にも「慰安所」があったんです。
 中曽根康弘元首相は手記で「私は苦心して、慰安所をつくってやった」と語り、産経新聞元社長の故鹿内信隆氏は、ピー屋≠ノついて「調弁する女の耐久度とか消耗度」を考えたと語っています。陸軍の規則には、1人30分、将校は泊まれるとか、値段も書いてある。女性は売り物です。元「慰安婦」の金学順さんの証言によると、1日に性交渉させられた軍人は、3〜4人、戦闘が激しくなると7〜8人。これが性奴隷でなくてなんでしょう。
 安倍首相は「女性が輝く社会」という。その首相が、「河野談話」の否定・撤回を狙って結成した議員連盟出身の女性政治家4人を閣僚や自民党政調会長に起用しました。女性の人権侵害の急先鋒を登用して「女性が輝く」なんて。許せません。ドイツなら政治家にもなれない人たちです。

侵略に無反省
 安倍首相に、侵略戦争への反省はなく、戦犯は国内法でいう犯罪者ではないという。秘密保護法によって、集団的自衛権発動の理由も国民に知らせず、日本を海外で戦争する国にしようとする。
 戦前の歴史を反省したから日本は国際社会に戻れたということを、安倍首相はまるで理解していません。
 聞き手 渡辺健

 おかの・やよ 三重県生まれ。専門は西洋政治思想史、現代政治理論。著書に『フェミニズムの政治学ケアの倫理をグローバル社会へ』など。京都96条の会代表。
(
2014年10月27日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

思想家内田樹さん/政治と会社を同一視するな

 「うちわ」や政治資金管理の不始末で辞任する閣僚がいる一方で、ネオナチや在特会(「在日特権を許さない市民の会」)と親密な関係にある閣僚の方は辞任しない。おかしな話です。
 朝日新聞の誤報を根拠に「慰安婦」問題にかかわる歴史的事実を全否定するように世論をあおっている政治家やメディアもあまりにも不誠実です。
 誤報にかかわった元朝日新聞記者が在職する大学に「辞めさせろ」と脅迫した人間がいました。脅迫を受けた側が「脅迫を受けたから」という理由で社会的不利益を強いられた。脅された側がそのせいで不利益を被らなければならないというのも全く不条理な話です。右を見ても左を見ても条理も論理もなく、ただその場の勢いだけで言葉が垂れ流されている。

「株式会社」化
 僕は、ことの元凶は「国民国家の株式会社」化にあると思っています。安倍首相や大阪の橋下市長は政治を会社経営と同一視している。会社が倒産したら株券は紙くずになるけれど、それは懐手で金もうけしようとした出資者の自己責任です。同じ理屈で、政治家が国や自治体に与えた被害は選んだ有権者の自己責任だという話になっている。
 だから、彼らは「私に文句があれば次の選挙で落とせばいい」というたんかを切るようになる。それはどれほど失政の被害が大きくても自分は「次の選挙での落選」以上の責任を取る気がないということですし、「次の選挙」で再選されたら、一切の責任はないという保証を有権者から与えられたという理屈です。
 ふざけたことを言ってはいけない。国や自治体は株式会社と違って倒産でおしまいにはならない。その負の影響は未来の世代にまで続きます。頭が悪いのか、悪意なのかわかりませんけれど、彼らは有限責任体としての株式会社モデルに基づいて無限責任体としての国家について語っている。

妄想≠フ戦略
 対米従属を通じて対米自立を果たすというのが戦後の自民党政権の基本戦略ですが、安倍政権は対米従属をさらに徹底させることで対米自立を早めたいという倒錯した戦略にシフトした。秘密保護法は米軍の軍事機密を守るためですし、集団的自衛権の行使容認は米軍の海外軍事行動を支援することが目的です。でも、アメリカに従属すれば日本が主権を回復できるというのは彼らの妄想にすぎません。
 政治がここまで劣化しているのに、それを精密に報道し、分析できるまともなメディアが存在しない。「赤旗」の報道の方がNHKよりバイアス(偏り)が少ないというのは戦後はじめての事態じゃないですか。
 聞き手 渡辺 健

 うちだ・たつる 1950年生まれ。神戸女学院大名誉教授。専門はフランス現代思想。合気道7段の武道家。『街場の共同体論』など著書多数。
(
2014年10月28日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

沖縄国際大学大学院教授・元「琉球新報」論説委員長前泊博盛さん/血の同盟≠謔阨ス和共同体

 沖縄では事実が県民の前に明らかになるまで20年かかるんです。
 普天間基地の辺野古「移設」について、防衛省幹部は早くから「すべての計画はオスプレイのため」といっていましたが、2011年まで配備は隠され続けてきました。
 辺野古への新基地計画は、実は1966年に米海軍が構想していたものです。ベトナム戦争による米国の財政難で断念されましたが、今度は日本の税金で最新基地を提供しようというわけです。

日本中の問題
 県民の命と財産をどう守るか。いま知事選で普天間と辺野古の問題に象徴されているわけですが、本質的には沖縄の基地全体の問題であり、沖縄の経済をどう発展させていくかという問題なんです。
 さらにいえば、国民の安全をどう守るかという、憲法と日米安保に関わる日本全体の問題でもあります。
 安倍首相は集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲を強行し、日米の「抑止力」で日本を守るといいます。沖縄ではこれを「ゆくし(沖縄の方言で『うそ』)力」というんです。
 むしろ安倍さんが自ら、戦争しなきゃいけない環境をつくっているのではないか。靖国参拝などで中国や韓国の反日感情を高め、軍事力を強化したうえ、その力を背景に外交を展開しようとしています。
 「イスラム国」への空爆やイスラエルの非難決議に国連で唯一反対した対応をみても、米国は「おかしいんじゃないの」と世界中から思われています。その米国も今は血を流すのは嫌がっているんです。安倍さんのやり方を見ていると、日本だけが血を流したがっているみたいです。
 軍事力でなんでも解決できるというのは今や幻想です。血の同盟≠ネんて時代遅れのことはやめて、私はアジア共同体(AU)をつくるべきと考えています。アジア人同士で一滴の血も流さないという誓いこそ必要です。

鍵は経済協力
 共産党の「北東アジア平和協力構想」は、軍事中心に物事を考える勢力にくさびを打ち込む点で重要な提言です。
 軍事に頼らない地域にしていくには、EU(欧州連合)にみるように域内の格差をなくし、みんなで豊かになるという経済協力体制の構築がポイントです。沖縄も、外交が活発な平和なアジアの中でこそ、交流・物流の拠点として発展できると思います。
 聞き手 池田晋

 まえどまり・ひろもり 1960年、沖縄県生まれ。外務省機密文書のスクープ報道で日本ジャーナリスト会議大賞など受賞。著書に『沖縄と米軍基地』など。
(
2014年10月30日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

新聞労連委員長新崎盛吾さん/秘密法廃止求め続ける

 特定秘密保護法は、そもそも表現や報道の自由を制限する性格の法律で、運用基準に「表現の自由を尊重する」との留意事項が明記されたとしても、信用できるものではありません。12月10日の施行が閣議決定されましたが、報道に関わる立場として、廃止を求める主張は続けなければなりません。
 報道が国の発表をそのまま流すようになれば、戦中の大本営発表と何ら変わらなくなってしまいます。国の宣伝に利用されないためには、報道機関が制限を受けず、自由に取材、報道をすることが必要不可欠ですが、秘密保護法は報道機関を統制する足がかりになりかねません。

法なくても逮捕
 これまでも、国の秘密に迫った記者に、政権がきばをむく前例はありました。1972年の沖縄返還時に日米密約をスクープした毎日新聞の西山記者が、外務省職員と情を通じて情報を得たとして、国家公務員法違反の罪で逮捕、起訴された事件です。秘密保護法がなかった時代でも、国がその気になれば、簡単に記者を逮捕することができるのです。
 秘密保護法が施行されても、すぐに記者を逮捕するような分かりやすい出来事は起きないでしょう。警察当局は世論を気にするので、単純な適用はしないと思いますが、表に裏に立件をちらつかせるなどして、都合の悪い取材をさせないよう圧力をかけるケースが頻発するのではないでしょうか。記者を萎縮させて、取材の意欲を失わせることが狙いの一つだと思います。
 私は記者として、千葉県警キャップや警視庁の公安担当などを経験しました。特に公安関係の取材では、発表だけに頼ることなく、当局がマークしている関係者と接触して情報を得ることがあります。当局の担当者から非公式な情報を得ようとすることもあります。おそらく、その中には「特定秘密」として扱われるような情報もあるでしょうし、取材の間に気づかずに「特定秘密」を入手したり、報道してしまうことがあるかもしれません。微妙な取材は、今まで以上にやりづらくなります。

民主主義の基本
 集団的自衛権行使を容認する解釈改憲や沖縄・辺野古への新基地建設も、安倍首相が言う「普通の国」イコール「戦争ができる国」の条件を満たすという意味では、同じ流れの中の動きです。異様な盛り上がりを見せた朝日新聞バッシングも、報道への圧力の一環として見ることができるでしょう。報道の自由は、民主主義国家の基本です。個々の記者が不要な圧力を感じることなく、自由に取材活動ができる環境を守っていくことが大切です。
 聞き手 田代 正則
(
2014年11月05日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター共同代表西野瑠美子さん/責任否定は世界の失笑買う

 朝日新聞は済州島で「慰安婦」を「強制連行した」とする吉田証言を「虚偽」と判断し、取り消す検証記事を掲載しました。以来、まるで「慰安婦」問題それ自体が虚偽であったかのような発言が相次いでいます。

歴史ねじ曲げ
 安倍晋三首相も衆議院予算委員会(10月3日)で、「この誤報によって多くの人々が傷つき、悲しみ、苦しみ、そして怒りを覚えた」などと、まるで被害者は「自分たち」であるかのような答弁を行いました。
 河野談話を継承すると言いつつ「朝日」の報道、あるいは吉田証言が「慰安婦」問題の加害性を「作り上げた」かのように言い、日本の責任を無化するのは本末転倒、歴史事実を根底からねじ曲げるものです。
 昨今、1996年の国連人権委員会の「クマラスワミ報告」に対しても、吉田証言に関連する部分の撤回を求める動きがあります。
 しかし、同報告書は吉田証言の紹介以上の行数で、彼の証言を批判する秦郁彦氏の主張を紹介しています。それだけでなく、秦氏の「大部分の『慰安婦』は日本陸軍と契約を結んでいた」などの主張も紹介されています。
 「慰安婦」問題の責任を懸命に否定する姿は、国際社会の失望と失笑を買うばかりです。国際社会との落差、すなわち安倍政権に最も欠けているのは、「慰安婦」制度がいかに重大な人権侵害であったかという認識です。

被害者が出現
 91年8月に韓国の被害者金学順さんが姿を現し「生きた証人がここにいる」と声を上げました。それを機に、アジア各地から次々に被害女性たちが声を上げました。被害者の出現で、それまで「戦争の秘話」のようにひそひそ語られてきた「慰安婦」が、実は重大な人権侵害の被害者であると考えられるようになり、認識の転換が起こったのです。
 この間、日本政府は国連人権機関から「慰安婦」問題に関する勧告を何度も受けましたが、「法的拘束力はなく履行義務はない」と背を向けたままです。しかし、「生きているうちに解決を」と立ち上がった女性たちも高齢になり、残された時間は限られています。
 被害者を飛びこえた解決などありません。日本政府は人権の視点をしっかり持ち、一刻も早く正当な解決に向き合ってもらいたいと思います。
 聞き手 仁田桃

 にしの・るみこ ルポライター。著書に『従軍慰安婦のはなし』(明石書店)、『「慰安婦」バッシングを越えて』(VAWW RAC編/大月書店)など多数。
(
2014年11月06日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

滋賀・米原市長平尾道雄さん/命守る行政の長として

 7月に集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更が「閣議決定」されました。本来の憲法改正の手続きを踏まず、武力行使につながる憲法解釈の「閣議決定」を政権内の協議のみで行ったことは、立憲主義を覆すものです。日本国憲法の定める平和主義の根幹に関わる重大な変更です。非核三原則を全世界に訴え、戦争の放棄、恒久の平和を誓った非核・平和都市宣言(2005年6月)を市議会において全会一致で議決している米原市として到底容認できるものではありません。

9条のおかげ
 戦後69年間、戦争による自衛隊員の犠牲者を1人も出してこなかったのは憲法9条のおかげです。亡くなった父は戦時中、軍属でした。子どもの頃、父から「したくないことをさせられるのが戦争だ。戦争は二度としてはならない」と聞かされました。
 日本国民だけでも310万人以上が亡くなった戦争の悲惨さを若い世代に語り継がなければという気持ちが強くあります。
 安倍政権は怖いです。二度と戦争はしないという戦後政治の原点から外れ、「戦争できる国」にならなければならないと堂々と言っている政権です。ヘイトスピーチ(差別扇動行為)を行う「在日特権を許さない市民の会」(在特会)との関係が問題になっている人を国家公安委員長に起用し、「慰安婦」問題では「いわれなき中傷」といい、国際社会の批判に挑戦しています。破裂する風船のような危うさを感じます。

再生エネ推進
 福島原発事故から3年半が経過しましたが、いっこうに事故収束の兆しは見えず、事故原因の究明もされていません。それなのに安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、これからも原発を続けていこうとしているのはおかしいと思います。
 米原市は福井県の敦賀原発から35`から60`の距離に位置し、多くの市民が万一の原発事故に大きな不安を感じています。米原市は琵琶湖の上流に位置する「水源の里」として水を大事にし、地域資源を活用した再生可能エネルギーの推進をしています。
 「戦争はしない」「原発はいらない」という二つのことは、市民の命を守る使命に立つ行政の長として、また政治家として自信と誇りを持って言い続けていきたい。
 聞き手 浜田正則

 ひらお・みちお 1950年生まれ。旧米原町、米原市職員を経て2005年に初代米原市長に就任。現在2期目。全国革新懇のアピール「憲法を守る一大国民運動の発展をよびかけます」に賛同。「脱原発をめざす首長会議」会員。
(
2014年11月08日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

京都大学名誉教授伊東光晴さん/いま政権を批判するわけ

 私は長い間、政治について発言しない主義でした。しかし、政治に積極的に発言していた都留重人さん(経済学者、2006年没)はなく、同じような立場で発言する人間がいないから政治的発言をすると宣言しました。特にいま批判しなければならないのが、アベノミクスに隠された「四本目の矢」、安倍晋三首相の「政治変革」です。
 安倍政権は保守政権ではありません。右翼政権です。集団的自衛権を認めることは憲法9条に完全に違反します。集団的自衛権は国家間の紛争を武力で解決できるという考えの上に立っています。
 憲法9条は理想主義ではなく、現実主義だと思います。国家間の紛争は武力以外で解決するしかないというのが2度の世界大戦の教訓です。戦後アメリカが中東その他に何度も武力介入しましたが、国際紛争は一度も解決されませんでした。武力以外で解決するのが現実主義なのです。

経済効果なし
 安倍首相は株価の上昇を得意がっていますが、株価が上がったのは「外国人買い」のためです。欧米市場で株価がリーマン・ショック前を回復し、投資先を探していた外国人投資家が、安倍政権誕生前に日本市場に入ってきて株を買ったのです。政権交代を期待して日本の投資家が買ったのではありません。
 日銀は年間50兆円もの国債を買い入れてきました。しかし、各銀行は融資先がないので、資金は銀行が日銀に持っている当座預金勘定に積み上がっています。経済的効果を及ぼすはずがありません。
 財政では1992年ごろから税収がぐんと落ち、支出が増えました。政府税制調査会がアメリカのような「フラットな税」(累進課税でなく税率を一律にした税制)にすると言って所得税や法人税を減税したからです。税収減と支出の増加を折れ線グラフにすると「ワニの口」のような形です。安倍政権はこの状態で法人税を減税するというから、まさに開いた口がふさがりません。

労働憲法崩す
 そして小泉政権以来の労働市場改革です。戦前、中間搾取を許した教訓から、戦後、営利をもった職業あっせんを禁止しました。これを労働憲法と呼びました。それを崩して派遣労働を認めてしまった。とんでもないことです。有能な女性が正社員になれず、派遣社員をしている。そんな状況をつくりながら安倍首相は「女性が活躍する社会」などとよくも言えたものです。
 聞き手 山田俊英

 いとう・みつはる 1927年生まれ。東京商科大学(現・一橋大学)卒。理論経済学、経済政策専攻。近著に『アベノミクス批判』『原子力発電の政治経済学』(岩波書店)など。
(
2014年11月09日,「赤旗」)

(GOtoTOP)

ジャーナリスト青木理さん/「売国」あおるのは禁じ手

 朝日新聞が「吉田証言」の記事を取り消したことをもって、日本軍の関与と強制性という「慰安婦」問題の本質が変わるわけではありません。

抗議取材して
 「赤旗」論文も指摘しているように河野談話には「吉田証言」はまったく反映されていない。また国連クマラスワミ報告書では「吉田証言」について懐疑的な声があるとも紹介しています。
 私は通信社の特派員として韓国にいたとき、日本大使館前で毎週水曜日に行われている抗議集会をよく取材しました。その場で元「慰安婦」のオモニが泣きながら訴えるのを聞いたが、とてもウソをついているとは思えませんでした。
 韓国は、もともと儒教の国だから「貞操観念」という意識が強い。そのなかでおばあちゃんたちが自分の貞操に関わる「恥の過去」を明かして謝罪をしてくれといっているのに、日本政府がなにもしないことに韓国国民は怒っているのです。
 だから日本政府が、この問題で誠実な対応をしない限り日韓関係はよくならない。隣国の韓国と仲良くできないようでは、他のアジア諸国とも真の信頼関係を築くことができないでしょう。
 一部メディアの「売国的だ」「国益を損ねた」などという「朝日」バッシングも異常です。誤報は訂正しなければならないし、批判されてもしかたがない。しかし、それを口実に「売国的」とキャンペーンするのは、かつての大政翼賛報道と同じ。隣国を差別し、排他的空気をあおることは、絶対にやってはいけない禁じ手です。

「国民益」守る
 本来、政府の問題点、権力者の不正を追及するのがメディアの最も重要な役割です。このチェック機能があってこそ民主主義社会が成り立ち、「国民益」が守られるのです。
 最近は、さすがにやりすぎたと思ったのか、一定の変化が生まれています。「政治とカネ」の問題を追及する記事が増えているけど、こちらの方がメディアの役割でしょう。
 やってはいけないこと、やるべきこと。歴史の岐路というべき今、政治家もメディアも踏みとどまって考えてほしい。
 聞き手 森近茂樹

 あおき・おさむ 1966年生まれ。ジャーナリスト、元共同通信記者。著書に『日本の公安警察』(講談社)、『青木理の抵抗の視線』(講談社)など多数。
(
2014年11月11日,「赤旗」)

(GOtoTOP)