2015焦点・論点】

2015焦点・論点 【1月】【2月】【3月】【4月】【5月】【6月】【7月】【8月】【9月】【10月】【11月】【12月】

【見出し】

*          12

*          2015焦点・論点/軍事対応でテロはなくせない/高岡豊さん/宮田律さん

*          11月

*          2015焦点・論点/安倍政権の立憲主義破壊/京都精華大学専任講師白井聡さん

*          2015焦点・論点/近づくCOP21なにをめざすか/WWF(世界自然保護基金)ジャパン山岸尚之さん

*          2015焦点・論点/TPP「大筋合意」どうみる/東大大学院教授鈴木宣弘さん

*          2015焦点・論点/進む軍学共同に抗して/ノーベル物理学賞受賞者益川敏英さん

*          2015焦点・論点/憲法公布69年、立憲主義を取り戻す/千葉眞さん/植松健一さん

*          10

*          2015焦点・論点/新基地建設反対と戦争法/映画「戦場ぬ止み」監督三上智恵さん

*          2015焦点・論点/戦争法で「駆け付け警護」解禁/東京外国語大学大学院教授(国際関係論)伊勢崎賢治さん

*          2015焦点・論点/「私の闘争宣言」/弁護士・元最高裁判事浜田邦夫さん

 

*         8月

*         2015焦点・論点/戦争法案、NGOはどうみる/南スーダンPKO拡大こんなに危険

*         2015焦点・論点/地球の海を汚染するプラスチックごみ/東京農工大学教授高田秀重さん

*         7月

*      2015焦点・論点/戦争法案に決起した思いは…/東大緊急集会呼びかけ人

*      2015焦点・論点/戦争法案とジャーナリズム/中央大名誉教授(マスコミ論)塚本三夫さん

*         2015焦点・論点/戦争法案―広がった「違憲」論/早稲田大学教授(憲法学)・全国憲法研究会代表水島朝穂さん

*      2015焦点・論点/「新国立競技場」問題点どこに/森まゆみさん/森山高至さん

*      2015焦点・論点/戦争法案反対/陸・海・空労働者の思い

*         6月

*         2015焦点・論点/夫菅原文太の遺志継ぎ沖縄に心寄せる/辺野古基金共同代表菅原文子さん

*      2015焦点・論点/文科相の国立大学への国旗・国歌「要請」/「学問の自由を考える会」代表広田照幸さん(日本大学教授・教育学)

*         文科相、国立大に「日の丸」「君が代」要請=^学長ら「国家の命令」批判

*         2015焦点・論点/紛争地から見る戦争法案/長谷部貴俊さん/安田菜津紀さん

*      2015焦点・論点/戦争は「平和」を掲げてやってくる/東京大学名誉教授(政治学)石田雄さん

*      5月

*      2015焦点・論点/戦争法案をどう阻止するか/一橋大学名誉教授渡辺治さん

*      2015焦点・論点/2030年の電源構成比率どう考える/関西大学准教授安田陽さん

*      2015焦点・論点/安倍壊憲政権に立ち向かう/憲法学者森英樹さん/戦争はごめん$Sの底からの決意

*      2015焦点・論点/「残業代ゼロ」何をもたらす/大阪市立大学名誉教授西谷敏さん/弁護士中村和雄さん

*      4月

*      2015焦点・論点/大阪市廃止をなぜ暴挙というのか/大阪市立大学名誉教授宮本憲一さん

*      2015焦点・論点/「戦後70年司教団メッセージ」の精神/カトリック東京大司教岡田武夫さん

*      2015焦点・論点/安倍政権の圧力―問われるメディア/桂敬一さん/青木理さん

*      2015焦点・論点/「戦争立法」中東の視点で見る/東京外国語大学教授黒木英充さん/元共同通信記者坂井定雄さん

*      3月

*      2015焦点・論点/TPP・農協「改革」ストップ/農協組合長が訴える

*      2015焦点・論点/日本版「司法取引」の危険/数々の冤罪事件を手がけた「冤罪弁護士」今村核さん

*      2月

*      社会保障は年5000億円削れ=^消費税は17%まで増税せよ=^財界など提言、次なる痛み

*      医療事故調の運用指針案/合意持ち越し/調査報告書、遺族への提供めぐり賛否/厚労省検討会

*         これがブラックバイト/吉良さんラジオ番組に出演

*         2015焦点・論点/「若者の住宅問題」調査にみる/平山洋介さん/稲葉剛さん

*      2015焦点・論点/安倍農協「改革」とTPP/東京大学大学院教授鈴木宣弘さん

*      1月

*      2015焦点・論点/NHK籾井会長1年と放送90年・戦後70年/メディア研究者松田浩さん

*      2015焦点・論点/平和と発展に貢献したいと国連でスピーチ/東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長村山斉さん

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【本文】

12月

2015焦点・論点/軍事対応でテロはなくせない/高岡豊さん/宮田律さん

 フランスのパリで130人の命を奪った同時多発テロ(11月13日)で、同国のオランド大統領はすぐさま過激組織ISによる犯行と言明し、その掃討を目的にしたシリア空爆を強化、欧米各国は同調する姿勢を見せています。軍事対応でテロはなくせるのか、そうでなければ何が必要なのか。中東調査会の岡豊上席研究員と現代イスラム研究センターの宮田律理事長に話を聞きました。

中東調査会岡豊上席研究員/資金・兵器の往来阻止こそ

 シリアで続くイスラム武装勢力の掃討を目的にした空爆は、米国主体の「有志連合」とロシアとの間に連携がないばかりか、現場では双方の利害が反発することも多く、空爆の効果を相互に打ち消し合っているありさまです。
 イラクとシリアでやるべきことは、国連安保理でも決議されているとおり、資金や兵器、テロリストの往来を厳格に阻止することであり、爆弾をばらまくことではありません。空爆は、シリアをアフガニスタンやイラクの二の舞いに導く可能性が高いと考えます。
 シリアでは、ロシアや中国が抱える民族紛争に関わるチェチェン人やタジク人、ウイグル人などが外国人戦闘員として力を持ち、ここでテロリストの永続的な拠点ができるならば、ロシアや中国の安全保障にとって好ましくないことは明白です。シリアを空爆する際、少なくともロシアにとってはISと反体制武装勢力を区別する意味などほとんどありません。

武器庫から強奪
 ISの所持する兵器はイラクやシリアの武器庫から強奪したものが多数あり、他の武装勢力からの横流しや、米軍が「穏健な反政府軍」に供与した最新鋭兵器がISに渡っていたりもします。
 資金については、支配地域で巻き上げる「税金」収入や、盗掘した歴史遺産や天然資源をヨルダンやトルコ経由で売却することによる収益でまかなっています。ペルシャ湾岸の篤志家からの援助もあります。
 ISによるトラックを使った爆弾テロの映像を見ていると、ほろに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のロゴが入っていることもよくあります。これらは現地で強奪されたものだと推察されます。
 シリアで起こっているのは内戦ではなく国際紛争です。シリア国民の安全や利益などまるで顧みられず、収束は外部の関係国やグループがどう取引するのかに集約されます。
 有志連合はアサド大統領を退陣させることで、ロシアやイランはアサド政権を強化することで秩序を取り戻そうという主張。有志連合は紛争終息のために自らが本格的に関与するつもりはなく、ロシアを「汚れ役」にさせる形で頼らざるを得ません。したがって有志連合の主張する、アサド政権打倒の出口戦略に勝算はないのです。

彼らの標的に
 テロリストにとって、報道機関がどれだけ時間や紙面を割いて自分たちの活動を宣伝してくれるのかが重要です。それを足がかりにして新たなファンを獲得し、戦闘員のリクルートが容易になるからです。
 パリがテロの標的になったのは言論と報道の自由が確立し、それを担うジャーナリズムに自力で取材・分析する能力があり、ネットで拡散してくれるユーザー層もいたことが主たる理由です。
 日本はIS製作の宣伝ビデオでもよく名指しされていて、日本も間違いなく彼らの標的になっています。「安全保障法」(戦争法)などの時事問題もプロパガンダの要素の一つとして重要視されることもあります。
 テロをなくすには、テロに頼らずとも政治的な主義・主張を表明でき、テロが割に合わないと彼らに思わせるような状況をつくる必要があります。究極的には民主主義の実現ということになります。
 聞き手 野村 説

 たかおか・ゆたか 1975年生まれ。在シリア日本大使館専門調査員、上智大学研究補助員などを経て現職。著書は『「イスラーム国」の脅威とイラク』(共著)など。

現代イスラム研究センター宮田律理事長/日本は米国とは違う道を

 テロが許されない卑劣な行為であることは言うまでもありません。同じように、軍事によるテロ撲滅は不可能だということも明らかではないでしょうか。
 問題のテロの実行犯の中心は、欧州各国で生まれ育った過激派です。イラクやシリアでISを軍事攻撃しても、彼らには関係ありません。逆にISをたたけばたたくほど、各地でその「権威」を高め、共鳴を広げる皮肉な結果となってしまいます。

戦争がもたらす
 ISの台頭は、米軍によるイラク戦争と占領がもたらしたものです。戦争では何十万というイラク民間人が命を奪われたうえ、少数派であるイスラム教スンニ派を冷遇・排除する分断統治体制がつくられました。これらがISの原動力となってきたのです。
 ISに対処するには、その台頭の理由や背景を読み解き、ふさわしい措置を取る必要があります。軍事介入が生み出した組織を再び軍事で壊滅するというのは、常識的にもまったく通らない話です。
 米国主導の「対テロ戦争」開始から14年間、テロはますます拡散しています。いま、対IS軍事作戦を強化している国々の指導者はいったい何を学んできたのでしょうか。
 軍事的対応が状況を悪化させるということは、米軍が「テロ勢力掃討」を理由に2004年に開始し、各地に拡大した無人機攻撃を見ても明らかです。
 現代イスラム研究センターはこのほど、12年に無人機攻撃で祖母を失い、自らも負傷したパキスタン人少女、ナビラ・レフマンさんを日本に迎えてシンポジウムを開催しました。
 無人機攻撃は、まさにゲーム感覚で、実感することなく人殺しを行うことです。殺害された人々の9割が標的外だったという調査結果があるほど多数の民間人が犠牲になっていますが、米国政府は、補償はおろか謝罪すらしません。これでは憎悪が広がるばかりです。

この思いに応え
 では、テロはどうなくしていくべきか。とくに日本の対応として重要なのは、米国のいいなりになるのではなく、独自のイニシアチブをとることです。
 一言でいえば日本はイスラムの人びととともにある≠ニいう寛容のメッセージを送るということです。例えばシリア難民を思い切って受け入れる。留学生も引き受けて、将来のシリアの復興を担う人材を育てるということはすぐにでもできることです。
 そして、IS台頭をもたらしたイラクの混乱を政治的に解決するための助言を行い後押ししていく。国民的和解が進めば、おのずとISはイラクで浮いた存在となり、シリア情勢にも波及していくのではないでしょうか。
 イスラム世界の人々は日本に敬意を抱いてきました。「米国に原爆まで落とされながら、めざましく経済発展した」という驚嘆のイメージがあります。この思いに応え感謝されるためには、米国などとは違う道を目指さなければなりません。
 しかし安倍政権が歩んでいるのは、明らかにこれに逆行する道です。戦争法を強行して、あくまでも米国にくっついていこうとしているからです。
 戦争法を成立させたことで、米国が対IS軍事攻撃への支援を求めてきても日本は断ることができなくなりました。自衛隊が出て行って現地の人を殺す事態になれば、日本人がテロの標的となる可能性がいよいよ高まります。戦争法は廃止しなければなりません。
 聞き手 小泉大介

 みやた・おさむ 1955年生まれ。2012年に現代イスラム研究センターを設立。著書は『石油・武器・麻薬 中東紛争の正体』(講談社現代新書・12月発売)など数十冊。
(
2015年12月07日,「赤旗」)

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11月

2015焦点・論点/安倍政権の立憲主義破壊/京都精華大学専任講師白井聡さん

最高法規守られぬ無法状態℃蛹者の意思示して回復を
 安倍政権による戦争法(安保法制)の強行成立から19日で2カ月。立憲主義とは何か、それが破壊される日本政治の異常事態をどう見るかについて、京都精華大学の白井聡専任講師(社会思想史)に聞きました。
 (聞き手・中祖寅一)

 ―違憲性が明白といえる戦争法が強行されました。
 白井 戦争法が強行された今がどういう状況にあるかを考えることは根本的に重要です。この点について日本共産党の志位和夫委員長が、立憲主義の危機であり、これはちょっとした政策の問題ではない。大きな違いを乗り越えて、野党が一体となってたたかわなければならない次元の違う問題≠ニ言いました。的確な指摘だと思います。
 多数の議席を持っていても、最高法規(憲法)に反する立法をしてはいけないというのが、立憲政治の根本的なルールです。権力者が、自分がこうしたいからこうするというなら、専制政治です。
 最高法規はすべての法規範の根拠になるものです。ですから、最高法規が守られていない状態は、すべての法律が根拠を失っているという異常な状態です。法学的には無法状態ということです。

専制政治
 もちろん現在でも、犯罪を犯せば逮捕され、処罰されるように、事実として無法状態があるわけではない。その意味では、現に法は有効です。しかし法に基づかない権力者の恣意的な判断で、権力の行使がなされる専制政治がまかり通っているという意味で、法学的に無法状態なのです。
 ―このような専制的な手法で安倍首相が狙うものは何なのでしょうか。
 白井 日米同盟に基づくアメリカの要求に積極的に応えて最終的には憲法を変えたいが、いま改憲の国民投票を成功させる自信はない。そこで、まず現実に戦争を始め、それにあわせて改憲を国民に迫ることではないかと、私は見ています。
 フランスで深刻なテロ事件が発生しましたが、「テロとのたたかい」を叫ぶ中で、日本の自衛隊と武装組織との戦闘が始まれば、実際に「殺し殺される」関係、戦争状態に入ります。そうなれば自衛隊と憲法9条の矛盾は決定的となります。そこでもし改憲発議がされれば、国民投票は単に現状を追認するだけのものとなります。
 では、どうすれば実際に「殺し殺される」関係に入れるか。集団的自衛権の行使が一番の近道です。米国との軍事一体化で、戦争にいく可能性は飛躍的に高まります。当面は「後方支援」ですが、実際には「後方支援」は非常に危険で、敵から見れば米軍と一体の戦力にほかなりません。犠牲者が当然出る。こうして実際に戦争に踏み出していく中で、憲法9条を葬り去るというのが安倍首相のやり方です。

沖縄でも
 安倍政権は沖縄でも、米軍新基地建設の問題をめぐり、翁長知事による新基地建設承認取り消しへの不服申し立てをやり、その一方で、処分取り消しの「代執行」に踏み出しました。いずれも工事を強行するためのものです。さらに自治体(名護市)の頭越しに地域に補助金をばらまこうとしています。共産党の赤嶺政賢議員の追及に、菅義偉官房長官はそうした行動の「法的根拠」を示すことができませんでした。法治主義も民主主義も無視した、恣意的統治の見本≠ンたいなものです。
 ―こうした立憲主義破壊の根本にあるものは何でしょうか。
 白井 それはまさに、日米同盟体制自体が、憲法と矛盾しつつ、憲法を凌駕するものとして存在するという現実です。
 安倍政権は、憲法より日米同盟の要請に応じて安全保障政策の実態を変え、本当は憲法も変えたい。しかし、9・11テロ後の世界でアフガン、イラクへの介入戦争が泥沼に落ち込む中で、「世界の警察官に付いていけばよい」という方針は説得力をもてない。立憲主義破壊の根本には、日米同盟の存在そのものと同時に、その体制の行き詰まりがあります。日米同盟の「存在意義」が説明できないから、強引に「閣議決定」で実質的に憲法を変え、戦争を引き起こして、軍事同盟の永続維持をはかろうとしています。
 憲法が「最高法規」でありながら、日米安保とそれに沿った公然の約束事(地位協定、ガイドライン)に加え、隠された約束=密約があり、法体系が二重になっている。そのどちらが本当の法なのかというと、アメリカとの約束の方だというのが安倍首相の立場であり、この国の真の姿だということを、今回の安保法制・戦争法ははっきり示したのです。
 ―立憲主義を回復するために、何が必要でしょうか。
 白井 主権者としての国民が姿を現すことが重要です。現にそのような形で市民運動が力を持ち始め、政党政治を動かしている。共産党の「国民連合政府」提案もそこから出てきました。
 2009年の「政権交代」のときには、市民の側はまだ、「傍観者」「観客」という面があったと思います。「何か面白いことやってみせてくれ」という、お任せ的なところがあった。ところが「民主党政権は、全くつまらない」といって見捨てたら、自民党が復活していま大変なことになっている。09年当時と今とで全く違うのは、市民社会が目覚め「傍観者ではだめだ」と、ますます多くの人が気づいたことです。

重大局面
 共産党の提案を受けて、民主党の日米同盟絶対の支持派からは、「共産党に流されるのはとんでもない」「こうなったら民主党を壊し(解党し)てしまえ」という反応が出ています。政局がいま重大局面に差し掛かっているのです。でたらめな政府とたたかうのか、それともそこからおこぼれをもらうのか、立場決定がすべての政治家に迫られているのです。
 こういう状況はどこから来たかというと、これもやはり一般市民が動きだしたからです。民主党の岡田(克也代表)さんは、正念場です。強い気持ちで決断してほしいですね。国民と向き合うのか、それともファシストと抱き合うのか。そういう重大な局面に差し掛かっていると思います。

 しらい・さとし 1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位修得退学。博士(社会学)。現在、京都精華大学専任講師。専門は社会思想史。著書に『永続敗戦論』『未完のレーニン』など。
(
2015年11月21日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/近づくCOP21なにをめざすか/WWF(世界自然保護基金)ジャパン山岸尚之さん

水没・干ばつ・生態系破壊/迫る温暖化の危機/「2度未満」へ問われる世界と日本
 11月30日から12月11日(予定)まで仏パリ郊外ル・ブルジェで開催されるCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締結国会議)。196の国・地域がなにを議論し、なにを目指すのか、WWF(世界自然保護基金)ジャパンの気候変動・エネルギーグループリーダーの山岸尚之さんに聞きました。
 (聞き手 野村説)

 温暖化問題の難しいところは気象災害の事象の一つひとつをとって、これが気候変動に起因するものですと、なかなか断言できないという点にあります。しかし、桜の開花時期が入学式に合わなくなってきたり、南方の蚊が北上することによって引き起こされるデング熱などの感染症の拡大、熱射病や熱中症にかかる人たちが増加傾向にあることなど、日本人にとっても温暖化は身に迫っているのです。
 生物は温暖化から逃れるために、高緯度か高標高に移動することを余儀なくされます。日本アルプスに生息する特別天然記念物のライチョウは温暖化によって特に絶滅が危惧されていますが、高山帯にすむライチョウが低い標高から上がってきたキツネなどに襲われるというような生物多様性に関わる問題も表面化してきます。
 世界では、温暖化に対してぜい弱な南太平洋の島国から、オーストラリアやニュージーランドに移住を計画する環境難民の人たちがいます。アフリカでは干ばつに起因する飢餓で多くの子どもが死んでいます。中東シリアから地中海を渡って欧州に向かう難民らも、政治的な背景に加えて干ばつによる食料不足の影響が大きいと考えられています。
 ネパールやインドではヒマラヤの山岳氷河の水資源に頼って生きている人たちがいます。温暖化がすすめば冬季に氷河が再形成されずに将来的には水不足に悩むでしょう。
 海中では、海の熱帯雨林と呼ばれるサンゴ礁が温暖化で白化し、そこに依拠する生態系が壊滅的打撃を受けます。海の豊かさが失われ、ひいては陸の豊かさも失われます。

削減目標を持つ
 COP21では、1997年のCOP3で採択した京都議定書に続く2020年以降の温暖化対策の枠組みづくりを目指します。京都議定書では、先進国だけに二酸化炭素など温室効果ガスの排出量削減の数値目標を課しましたが、今回はすべての国が何らかの形で削減目標を持つことになると思われます。
 気温上昇を産業革命以前(1850年頃)から「2度未満」に抑えることは国際的合意になっていますが、すでに同時期から0・85度上昇しており、現在各国が表明している削減目標をすべて合わせても「2度未満」達成には不十分です。
 各国が長期目標とともに5年ごとくらいで目標数値を見直し、削減量を積み上げる仕組みができるかどうかも注目されます。
 交渉の一番の難点は、先進国と途上国の取り組みに差をもうける「差異化」です。歴史的に大量の二酸化炭素を排出してきた先進国の責任をあいまいにはできませんが、一方で中国やインドなど、これまで数値的な責務を負ってこなかった新興国の対応も問われます。温暖化の被害に直面する途上国に対して資金・技術提供しながら、自国の対策も強化する姿勢を見せることが先進国に求められています。

見掛けの数合わせ
 欧米では、化石燃料産業や石炭火力発電から公的資金や投融資が引き揚げられつつあるなど、もうこの分野にビジネスチャンスはないとの雰囲気が漂っています。
 他方、日本はいまだ国内に40カ所近くの石炭火力発電所の建設計画を持ち、東南アジアへの売り込みにも積極的です。日本のエネルギー政策は、オーストラリアと並んで世界の潮流からは孤立状態にあります。
 安倍政権はCOP21に向けて「2030年までに26%削減(2013年比)」の目標を打ち出しましたが、90年比では18%減で、基準年を恣意的にずらすなど見掛けの数合わせで粉飾されています。「2度未満」達成を危うくする誠意のない態度だと言わざるをえません。
 日本の数値目標が前提にしている電源構成「エネルギーミックス」(グラフ参照)では2030年に「原発比率20〜22%」とされ、再稼働や新設、通常40年の稼働期間をさらに延長することも想定しています。加えて、二酸化炭素を最も大量に発生させる石炭電力を2010年と同水準で使い続け、再生可能エネルギーの割合を抑えています。
 日本は年間で約20兆円の化石燃料を輸入していますが、再生エネの最大の利点は言うまでもなく燃料代が不要だということです。風力発電だけでも、日本のエネルギー需要を補ってお釣りがくるくらいの恵まれた条件が日本にはあるのです。
 COP21には、約1万人の各国政府代表のほか、世界から集まる数千人の環境NGO(非政府組織)の活動家が集結し、会場の内外で各国政府への働き掛けや、大規模なデモを予定しています。私たちも歴史的な成果を上げられるよう力を尽くしますので、皆さんもどうか地球環境への関心を持ち続けていただきたいと思います。
(
2015年11月19日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/TPP「大筋合意」どうみる/東大大学院教授鈴木宣弘さん

「終わった」は、まやかし/国会決議違反は明らか
 環太平洋連携協定(TPP)交渉の「大筋合意」について、鈴木宣弘東京大学大学院教授に、その危険性、国民との矛盾、阻止する展望などを聞きました。
 (聞き手・中沢睦夫)

日本は草刈り場
 ―安倍政権は今回の「合意」を最善の結果と大宣伝しています。
 今回の「大筋合意」は、決裂しなかったと装う≠スめ、なんとか形をつくろうという「見切り発車の合意」です。各国が争っている問題について、日本は合意内容を玉虫色にしてまとめる悪い役割を果たしました。
 TPP交渉では、企業利益を追求するアメリカはもちろん、各国とも自国利益を主張し頑張ります。日本はどんどん譲る草刈り場≠ニいう状態でした。
 安倍政権は「後は国内対策だ」と、TPP交渉は終わったかのように宣伝しています。しかし、他国を見れば、それがまやかしであることが分かります。
 アメリカでは、議会に通商権限がありますが、政策を統括する上院財政委員会のハッチ委員長(共和党)は、「嘆かわしいほど不十分だ」と、難色を示しています。民主党側は「NAFTA(北米自由貿易協定)では500万人の雇用が失われた。TPPでも雇用が悪化し、環境など市民生活がむしばまれる」と反対しています。有力な民主党大統領候補のヒラリー・クリントンさんも反対を表明しました。賛成をいうのは8候補のうち1人だけです。米議会は、TPP「大筋合意」を認めず、再協議を求めるかもしれません。TPPは終わったなどという状況ではないのです。

3割で関税撤廃
 ―国会決議では、コメや麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の重要5項目などは「聖域」として「除外または再協議」となっていますが、どうなったのでしょうか。
 5項目の関税分類で586品目のうち174品目で関税を撤廃しました。3割で関税撤廃です。コメの加工品、牛タンや牛の内臓肉、ナチュラルチーズやバター調製品などです。
 国会決議については、重要品目でも関税を1%でも残していれば守ったことになる≠ニいう言い逃れさえできません。安倍政権は、まったく説明ができない状況に追い込まれているのです。
 国会決議では「国の主権を損なうISD(投資家対国家の紛争処理)条項には合意しない」となっています。しかし、日本はもろ手をあげて賛成した。最後まで頑張っていたのはオーストラリアです。「せめて、人の命、環境処理ではISDからはずせ」といっていました。公害を出す企業を規制しようとすると、ISD条項で、損害を賠償せよ≠ニ国や自治体を訴えることができます。「濫訴防止の異議申し立てができる」と政府はいいますが、国際法廷となる機関が「企業利益が大事だ」となったら負けです。なんの歯止めもありません。
 ―TPPの閣僚会合で一番もめたのは、バイオ医薬品のデータ保護期間の延長問題ですね。
 アメリカの製薬会社が保護期間の延長を執拗に求めたからです。保護期間が延長されると、その間、安価な後発医薬品の製造ができません。人の命よりも巨大企業の利益を増やすためのルールを押し付けるということです。TPPの本質を見事に露呈しました。
 日本の唯一の利益といわれる自動車分野でも、部品の厳しい原産地規制を受け入れ、ほとんど恩恵を受けないといいます。関税でも、アメリカに輸出する普通車は2・5%ですが、撤廃は25年先、トラックの関税は25%ですが、30年後の撤廃です。利益はありません。
 ―政府は、農家の不安に対し、国内対策をとるといっていますね。
 対策の中身は、何もありません。コメは、WTO(世界貿易機関)で77万d輸入していますが、今回の「合意」で、アメリカとオーストラリア向けに約8万dの輸入枠をつくります。安倍政権は、同じ数量を市場から隔離するから大丈夫≠ニいいますが、コメ在庫が増えることにかわりはなく、今でも低い米価がさらに下がります。政府は、収入保険がある≠ニいいますが、米価が下がれば下がるだけ、保険の基準が下がっていく仕組みです。セーフティーネットにはなりません。
 牛肉や豚肉の関税大幅削減・撤廃についてはセーフガード(緊急輸入制限)がある≠ニ政府はいいますが、これも「ざる対策」です。一定基準量まで輸入が増えた場合に、元の関税率に戻す仕組みですが、基準量が高いので発動しない。
 乳製品では、日本が譲歩しました。バターの輸入増のほか、マーガリンを混ぜた調整バターやナチュラルチーズの関税撤廃です。国内のチーズ向け生乳は50万dありますが、行き場を失い、日本の酪農に大打撃を与えます。

被害は1兆円超
 ―被害額はどれくらいでしょうか。
 農林水産物の被害額を試算すると、直接分かるだけで1兆円を超えます()。関連産業を加えると、さらに被害は大きくなるでしょう。
 消費者には価格低下のメリットはありますが、日本の税収40兆円のうち1割程度を占める関税収入の大半を失います。その分、税負担を増やす必要があり、相殺されることを考えなければなりません。
 食の安全性が脅かされることは大問題です。動植物の衛生・検疫にかんする国際基準(SPS協定)では、各国の自然条件や食生活の違いも勘案し、科学的根拠にもとづき、各国がSPS基準より厳しい基準を採用することも認めています。アメリカの交渉官は、「各国が決める権限がある」ことを問題にし、日本が不透明で科学的根拠に基づかない検疫措置でアメリカの農産物を締め出しているとして、TPPにおいてSPSを厳格に順守させることに執念を燃やしていると発言しました。正当な科学的根拠≠提示できなければ、変更を求められ、最終的には、ISD条項で提訴され、損害賠償で撤廃に追い込まれることも想定しなくてはなりません。

情報公開させる
 ―今後のたたかいで大切なことは?
 アメリカは「食料は武器だ」と考え、財政負担をして、輸出もしています。ヨーロッパでは、農家所得の95%が補助金です。
 日本はカロリー自給率39%です。日本人の体は6割以上が外国産≠ニいうことです。こんなに食料を粗末に考える国はありません。自分たちが生きていく食料をどう守るのか。今回の「合意」の情報を公開させる必要があります。みんなで学習もし、「だめなものはだめだ」と連携した力で運動を広げれば、TPPは阻止できる展望が生まれます。たたかいはまさにこれからです。

 すずき・のぶひろ 1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教授を経て現職。『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(文春新書)『TPPで暮らしはどうなる?』(共著、岩波ブックレット)など著書多数。

農業分野の「大筋合意」被害試算
(鈴木宣弘教授まとめ)
 
コメ   約1100億円
 
牛肉    3262億円
 
豚肉    4141億円
 
乳製品  約 960億円
 
小麦   約  80億円
 
主要な果物 1895億円
 注:牛肉は全国肉牛事業協同組合試算。豚肉は日本養豚協会試算。このほかに加工品、調製品などの影響がある。野菜の影響も算入されていない。
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2015年10月30日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/進む軍学共同に抗して/ノーベル物理学賞受賞者益川敏英さん

科学者である前に人間たれ天気のいい日は集会に

 安倍晋三政権の下で大学など研究機関を軍事研究に巻き込む軍学共同の流れが強まっています。ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんに聞きました。
 (聞き手・写真 佐久間亮)

 ―今年度から防衛省が大学などに資金を提供して研究を委託する制度を始めました。軍事研究の呼び水と注目されています。
 現段階で防衛省が狙っているのは、具体的な研究成果というより、科学者と親しい関係になることだと思います。いまは基礎研究の応募でも、顔見知りになっておけば、兵器開発の相談もできるようになります。
 米国は、ベトナム戦争のときに国防総省にジェイソン機関というものをつくり、ノーベル賞級の科学者を30人ほど集めて、ベトナムの人々をいかに有効かつ速やかに殺すかなどについて議論させました。
 例えば、ゲリラを殺した数を兵士に自主申告させると、大抵水増しする。そのことを科学者たちに相談すると、彼らは、殺したゲリラの左耳を切り取り針金に刺して持ってこさせればいいと答えたといいます。

一線越えた安倍首相
 重要なのは科学者にそんなことを議論させたということです。そういう議論に一度かかわってしまえば、その後でベトナム戦争に反対とは言えなくなるでしょう。実際の戦争で、ジェイソン機関がそれほど重要な役割を果たしたとは思えません。科学者の精神動員こそが一番の狙いだったと思います。
 いまは日本の科学者のなかに軍事研究に対する拒否反応があるけど、一度泥水を飲んでしまえばずるずるっといってしまう。軍事研究に対する敷居を下げている段階だと思います。
 ―安倍政権が戦争法を強行するなど右傾化の流れのなかで軍学共同が進んでいます。
 安倍さんは一線を越えています。憲法のどこをどう読んでも、戦争ができるとは書いていません。それを勝手に解釈し直して戦争ができると言っています。
 1年ほど前、あるテレビ番組で特定秘密保護法のことを批判したら、数日後に外務省の方が研究室に見えて「先生が心配されるような問題はありません」と説得しにきました。初めての経験です。
 僕は、米国の核開発の中心人物だったオッペンハイマーの話をして、お引き取り願いました。
 オッペンハイマーは優秀な物理学者で、核開発で指導的役割を担いました。ところが、米国の4年後にソ連が核開発に成功するとスパイの疑いをかけられ、事実上、研究者生命を断たれてしまいました。特定秘密保護法も、平時にはなんでもない顔をしていて、あるときになると突然動きだす。無実の人間に疑いをかけ、怪しければ排除することが堂々とできるようになります。
 名古屋大学には「戦争を目的とする学問研究と教育には従わない」ことをうたった平和憲章があります。この憲章に対する攻撃も強まっています。
 科学は連続的なものなので、科学者が自分の研究を軍事に使ってほしくないと思っても使うことができるし、軍事転用できるから研究をやめろというわけにもいきません。研究成果を軍事に使わせないためにどうするかは、研究者個々人の問題ではなく、政治の問題だと思います。

坂田さんの言葉いまも
 ―戦後、科学者として平和運動をリードした坂田昌一さんの書を、研究室に飾っていますね。
 「科学者は、科学者として、学問を愛するより以前に、まず人間として、人類を愛さねばならない」という書です。坂田先生が脊髄がんでお亡くなりになる前、小康状態で退院されたときに書かれたものです。
 坂田先生がすごいのは正々堂々と言い切るところです。これはかなり精神力がいる。僕だったら言葉の後に「なんちゃって」と緊張緩和の言葉をつけてしまいます。
 科学者は誰でも自分の研究をしているときが一番楽しい。僕はいつも、研究室に閉じこもっている人間がいたら、今日は天気がいいからおまえも外を歩いたらどうだと言って集会に連れて来いと言っています。そこでの議論を見たら、おのずから生活者としての感覚が育っていくはずです。自分たちの孫がどういう環境で生活しているのかということなども見えてくる。
 市民と触れ合うことで生活者としての視点が科学者のなかに生まれ、科学者としての知識と生活者としての感覚が結びつく。「科学者である前に人間たれ」の精神は、そうしたなかで形成されていくのではないでしょうか。いまのような時代だからこそ、科学者にはもっと足を外に向けてほしいと思います。

 ますかわ・としひで 1940年生まれ。名古屋大学で坂田昌一氏に師事。2008年にノーベル物理学賞受賞。現在、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構機構長。近著に『科学者は戦争で何をしたか』(集英社)
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2015年11月05日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/憲法公布69年、立憲主義を取り戻す/千葉眞さん/植松健一さん

 11月3日は憲法公布から69年目の記念日です。戦争法強行のもと、日本国憲法をめぐる状況と9条の意義について、識者に聞きました。

最悪の法、廃止に大義/国際基督教大学特任教授千葉眞さん

 安倍政権の安保法強行により、日本国憲法公布以来、守られてきた平和原則が根本的に崩されつつあります。2014年7月の「閣議決定」以降、日本は「違憲状態」にあります。日本への直接の攻撃がないのに武力を行使する「集団的自衛権」発動は、9条の1項、2項を虚心坦懐に読む人であれば考えられない行為です。
 ■□
 内閣法制局は「専守防衛」「自衛隊は必要最小限度の実力組織」と解釈することで、何とか憲法9条との「整合性」を保ち、歴代政権もそれを踏襲してきました。ところが、安倍政権は、憲法の枠内の政治=立憲主義を無視し、明白に違憲の法案を強行しました。
 立憲主義を無視する安倍首相に政治を担う資格はありません。異常な政権のやり方を白紙に戻す運動を議会の内外両方で行う必要があります。
 安保法の強行成立後、日本共産党が「戦争法廃止の国民連合政府」の呼びかけを発表しましたが、私は快哉を叫びました。
 自衛隊や日米安保条約については、国民のなかに多様な意見があります。ただ、立憲主義・民主主義・平和主義を守れという思いは共通しています。この明白に違憲状態にある戦後最大の危機的状況において、諸野党が暫定政府をつくり、まずは戦後最悪の安保法を廃止することには大義があり、正論でもあります。民主党はじめ、他の諸野党も、無視できないでしょう。
 安倍政権によって、たしかに憲法9条は壊され始めました。しかし、多くの人が、国の形を壊されてたまるかという義憤≠ノ駆られ、声をあげ続けています。日本の国民の中に根づいていた非戦の意識がほとばしり出たのだと思います。
 敗戦直後、日本社会に着床した憲法9条の種は今、国民のなかに大きく根を張り、簡単には枯れない大木に育っています。
 ■□
 厳しい状況の中で、9条はまさに今が旬です。東アジアの安全保障、国際安全保障の鍵になりつつある。「平和的生存権」という憲法理念は、将来の世界の方向性を示すために必要な考え方です。国家間の信頼醸成を促す「協調的安全保障」、極貧などの構造的暴力の克服を目指す「人間の安全保障」など、非戦型安全保障は、国際政治のトレンドです。
 東南アジアや南アメリカ、ニュージーランド、そしてオーストラリアなどにも、地域での信頼醸成、軍事情報の開示と共有、政府高官の頻繁な交流・意思疎通などの方策によって、紛争回避の措置が広がっている。その意味でも、共産党の「北東アジア平和協力構想」に注目しています。
 東アジアに「脅威」はありますが、日本が9条を背景に平和外交につとめ、和解と平和のメッセージを送り続けることが重要です。「戦争国家」である米国との同盟強化は避けねばなりません。
 日本は、国連との連携と、非軍事の平和構築で世界平和に貢献する――これこそ多くの国民が強く望むところです。安倍政権から憲法を取り戻すたたかいは、まさにこれからが正念場です。
 聞き手 佐藤高志

ちば・しん
 国際基督教大学特任教授(政治思想)。立憲デモクラシーの会の呼びかけ人。著書に『「未完の革命」としての平和憲法』(岩波書店)など。

勇気と覚悟と信念の声/立命館大学教授植松健一さん

 安倍政権は、これまでの政権の中で最も憲法と国民を無視し、立憲主義とは遠いところにある最悪の政権です。そんな政権が現存していることに恐ろしさを感じます。
 安倍首相は2014年の総選挙で勝利したことをもって「安保法制(戦争法)は、選挙で支持をいただいた」と民主的正当性≠主張してきました。しかし、候補者や党員でもない限り、有権者は選挙で投票する政党の公約の全てを受け入れているわけではありません。しかも自民党は選挙で戦争法を前面に出してはいませんでした。
 ■□
 さらに総選挙は小選挙区中心の選挙制度です。小選挙区制は4割の得票で7割以上の議席を獲得する非常にゆがんだ制度であって、第1党になったとしても有権者の多数の支持を得ているとは言えません。この選挙結果で「支持された」とすることは無理があり、民主主義の観点からは正当化できるものではありません。このように、現在の選挙制度や現実の選挙のあり方に照らし、戦争法は民主的正当性に重大な問題を抱えます。
 さらに選挙だけが民意ではない。憲法には選挙以外にも表現の自由や請願権などが保障されており、戦争法では大規模なデモや抗議集会が何度も開かれるなど、反対する強い民意が示されました。一方、安倍政権はこうした国民の批判を「その指摘はあたらない」「レッテル貼り」などと、応戦にもならないかたちで遮断しました。
 戦争法は成立しましたが、これに反対する運動は、従来はデモに行ったことがない母親や学生、サラリーマンらが気軽に参加し、怒りや不満を声に出すなかで共有し、さらに広がりを見せました。「気軽」といっても、今はネットで映像が流れる時代です。場合によっては顔も名前も広く知られることになります。「就職できないぞ」という脅しもあったりする。それでも声をあげるのは、勇気と覚悟、自分なりの信念と理論が必要です。政治はこうした声を受け止めなければならない。
 まさに民主主義の起源とは、選挙制度が確立されるよりも前に、市民が声をあげて政治を動かすところからスタートしているのです。フランス革命や、近くはベルリンの壁の崩壊もそういうところから始まった。まだ規模は小さいかもしれないが、日本でこういう現象が起こったことは非常に重要なことだと思うのです。
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 選挙制度などシステム化されたものではくみ取れないものが、時にぐっと力となり政治と社会を動かす。今の安倍政権はそこまでしないと変えられない、放っておくと大変なことになるという局面です。新しい民主主義の動きを出せるのか、今からが問われている。
 放っておいてみんなが忘れて、「支持が得られた」という安倍政権の思惑が通るのか。それとも立憲主義を無視して強行したことの報いとして、民主主義の新しい動きが出てくるのか。今から参院選挙までの数カ月の中で、鋭く問われていると思います。
 聞き手 前野哲朗

 うえまつ・けんいち 立命館大学法学部教授(憲法学) 著書に『安保関連法総批判―憲法学からの「平和安全」法制分析』(共著)、『改憲を問う 民主主義法学からの視座』(共著)など。
(
2015年11月03日,「赤旗」)

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10月

2015焦点・論点/新基地建設反対と戦争法/映画「戦場ぬ止み」監督三上智恵さん

国会前が「辺野古」に見えた/沖縄発の「一点共同」広がれ
 沖縄県の翁長雄志知事は13日にも、名護市辺野古の米軍新基地建設に伴う埋め立て承認を取り消す意向です。戦争法廃止の国民的な運動とも連動し、新基地建設反対のたたかいは新たな局面に入ります。沖縄のたたかいを長年取材してきた映画監督の三上智恵さんに思いを聞きました。
 (聞き手 内藤真己子)

 ―戦争法反対で空前の運動が湧き起こり、強行成立後も続いています。沖縄の米軍新基地建設に抗議するたたかいを取材してこられた立場から、これをどう見ていますか。
 戦争法の強行採決は残念でしたが、反対の声がこれだけ広がったことは、すごく良かったと思います。
 戦争法に先立ち、「戦争ができる国」のための法律がたくさん成立しています。特定秘密保護法はよく知られていますが、米国の戦争を自衛隊が支援するテロ特措法・イラク特措法、何かあったときには港湾や病院や学校だけでなく土地も家も差し押さえられる「国民保護法」などがそうです。沖縄では一つひとつが県民生活にどんな影響を与えるか、大ニュースでした。ところが本土では国民の関心もそれほど高まらないまま、バタバタと決まっていきました。
 でも今回は、立憲主義、民主主義を破壊してでも自分たちの思う形の国=戦争する国をつくるという安倍さんの魂胆にみんなが気づいた。何が奪われようとしているのか、国民が気づいたということをプラスに捉えています。

沖縄の命の太い流れ
 ―国民一人ひとりが主体となった創意あるたたかいでしたね。
 国会前が「辺野古」に見えました。沖縄の人たちの抵抗の形がメジャーになってきたと思いました。
 私は映画「標的の村」や「戦場ぬ止み」で沖縄の人々が歌いながら笑いながら、でも絶対引き下がらないと抵抗している姿を描いてきました。声をあげることが自然だし、かっこいいし、どちらかといえばすっきりする。世代を超えてやっていかなければならないものってある。そういう沖縄の命の太い流れのようなものを全国の人に知ってほしかったんです。「自分たちも、これやりたい」と思ってもらいたかった。だから「標的の村」を見たという人がシールズの中に多くいて、国会前であんなたたかいをやってくれたのは、すごくうれしいです。

再び戦場になる危惧
 ―戦争法反対の一点で保革を超えた共闘が各地で広がりました。
 既存の枠組みを超えた「島ぐるみ闘争」のようなワン・イシュー(一つの争点)での共同の発想は、沖縄から生まれたものだと思います。
 沖縄にいると日本が戦争する国に向かっていることがあからさまに分かるんですよ。辺野古に弾薬庫と2本の滑走路と強襲揚陸艦が接岸する軍港をつくろうという。どうみても米軍の出撃基地です。自衛隊も共同利用することが明らかになっています。アメリカが「ならず者国家」と判定したら、ここから出撃していく。いままで日本はアメリカが他国を攻めたとき、「ここは攻めちゃいけない」って一度も言ったことがありません。沖縄の米軍基地から出撃し、戦争の理由にした大量破壊兵器もなかったところで無辜の民を殺しています。
 その米軍の自衛隊の出撃基地を、今度は日本の国費を使い日本の意思でつくろうとしている、それが辺野古の本質だということを映画で告発したかったのです。
 日本の防衛費は第2次安倍政権になって過去最高の約5兆円になっています。中国の防衛費が上がったからと、日本人は中国の脅威ばかり心配していますけど、中国から見たら日本の防衛費こそ、どんどん上がっている。しかも中国に一番近い沖縄に新しく出撃基地をつくる。とても挑戦的なことです。
 そのうえ宮古島には自衛隊のミサイル基地を置こうとしている。どちらが軍事的緊張を高めているのでしょうか。このままでは再び沖縄が戦場になると危惧しています。

基地も戦争法もノー
 ―翁長知事が、辺野古新基地建設の前提となる、前知事による埋め立て承認の取り消し手続きに入りました。
 辺野古に新基地をつくることを認めないという知事の決断は沖縄県民の総意です。それを軽んじる安倍政権は民主主義国家の政権の体をなしていません。
 戦争法反対、民主主義を守れと国会前に集まった市民のみなさんは、翁長知事の決断を支持し、ぜひとも新基地建設はやめろと政権に向かって声をあげてほしいと思います。それは戦争法を廃止することと同じくらい大事なことです。辺野古新基地は戦争する体制をつくるということ。新基地をつくらせないことと、戦争法廃止はまったくいっしょです。
 これは民主主義の問題でもあります。沖縄は米軍基地のために、財産権、居住の自由、平和的生存権など基本的人権を長年侵害されてきました。ベトナム戦争やイラク戦争の出撃基地となってアメリカの戦争に協力させられ、絶えず攻撃の危険にもさらされてきました。
 安倍政権が戦争法を強行し、日本は民主主義が奪われ、立憲主義も奪われています。日本の国自体が国民の生活や命を大切にしない国になってしまいます。これは沖縄の苦難を長年放置してきたこととつながっていると私は思います。
 だから、全国の人が辺野古の問題を自分の足元にふりかかっている問題として、自分たちの問題としてたたかってほしい。軍事優先の国家に進みつつあるこの国を立ち止まらせ、沖縄の民意を尊重することから、国民の手に民主主義をゆるぎないものとして取り戻したい。私は「島ぐるみ」のたたかいが、この国の、戦争の息の根を止めるたたかいとして、後世に語り継がれるものになってほしいと思っています。

 みかみ・ちえ 東京都生まれ。ジャーナリスト、映画監督。1995年から琉球朝日放送のキャスター。2012年、初監督映画「標的の村」が数々の賞を受賞。14年に独立。映画「戦場ぬ止み」を今年5月公開。
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2015年10月12日,
「赤旗」)

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2015焦点・論点/戦争法で「駆け付け警護」解禁/東京外国語大学大学院教授(国際関係論)伊勢崎賢治さん

「住民保護」で戦闘が現場の実態/PKOでの武器使用は憲法違反
 安倍政権は戦争法具体化の手始めに、南スーダンPKO(国連平和維持活動)での「駆け付け警護」(別項)など、任務遂行のための武器使用に着手しています。国際人道援助の現場を知る伊勢崎賢治・東京外国語大学大学院教授(国際関係論)は「現場を知らない者の議論だ」と批判し、戦争法廃止を訴えます。
 (聞き手・写真 竹下岳、吉本博美)

交戦主体になる
 ―安倍晋三首相は9月29日の国連総会演説で、日本の国連安保理常任理事国入りのアピール材料≠ニして、PKOの「法整備」に言及しましたが。
 「駆け付け警護」が常任理事国入りのアピールになるのなら、インドやパキスタンは、とっくになっています。両国はPKOで多くの戦死者を出していますからね。
 国連PKOに貢献するには、何が現場のニーズなのかを把握するのが当然ですが、日本では自衛隊を出すか出さないかが出発点になっており、そこからおかしくなっている。
 今、現場では大変な人道危機が起きており、アフリカでは内戦などで10万、20万単位の人命が失われています。その中で「住民保護」が国連PKOの任務の前面に出てくるわけです。
 国民が攻撃を受けたら、普通はその国の軍隊が守ります。それを国連がやるということは、住民を攻撃する勢力を武力で排除することになり、国際法でいう交戦主体になります。
 かつてのPKOは中立性を重視し、交戦を避けてきました。しかし、1994年のルワンダでの大虐殺事件で国連が何もしなかったことへの国際的な非難を契機に、「国連PKO部隊はこれから国際人道法を順守せよ」という国連の官報が出ます。つまり、必要であれば交戦主体になるのです。僕が東ティモールにいき、国連PKO(UNTAET)を統括する立場に立ったのは、その直後です。(2000年)
 そこでわれわれは住民保護のために多数の民兵を殺傷しましたが、これは戦時国際法を踏まえた合法的な攻撃でした。南スーダンPKO(UNMISS)も、同様に交戦主体として先鋭化しています。
 国際法上の自衛権は個別的・集団的を問わず、交戦権を含んでいます。ところが日本は憲法9条で交戦権を否認しています。
 住民保護とは、助けを求めてきた者を保護するために武力を行使することであり、交戦権の行使です。安保法でのPKO改定で「防護を必要とする住民…に対する危害の防止および抑止」という項目が含まれていますが、このような活動は本来、憲法9条を変えないとできないのです。
 また、政府は「駆け付け警護」について、「国連職員やNGO(非政府組織)を守る」とアピールしていますが、このような活動は文民警察の任務です。かつてのPKOは軍と警察の区別があいまいでしたが、今は文民警察が国連の非軍事要員やNGOの保護をする、PKOは交戦主体としてたたかうというすみ分けができています。
 国連職員やNGOを守ることが目的であるのなら、文民警察を出さないといけないのですが、日本ではそのような議論は一向に出てきません。とにかく、自衛隊を出したいからです。
 付け加えれば、非軍事要員の保護は単に「Protection(保護)」と呼ばれています。「駆け付け警護」といった概念など存在せず、国際社会でだれも理解できないと思います。

誤射、外交問題に
 ―現場の自衛隊員は、どのようなリスクを負うのでしょうか。
 住民保護のために武器を使用するということは、自分の身に危険が及ばなくても、住民に銃を向ける相手を殺傷するということです。その際、武装ゲリラと住民を見誤り、誤射してしまうというリスクは必ずあります。
 PKO要員は当該国との地位協定で訴追免除されるという特権があります。PKOには軍事法廷がないので、各国で裁かれます。
 ただ、日本には軍事法廷がないので、自衛官個人の責任にされてしまいかねない。今まで、自衛隊は海外派兵で一発も撃たず、だれも殺してこなかったのは奇跡だと思っています。今度は必ず、事故が起こりますよ。
 加えて、賠償責任が生じる可能性があります。国連総会でも、PKO要員による誤射に対する賠償の問題が議論されています。
 責任が認められた場合、国連として賠償することになると思われますが、その分、日本に国連分担金の積み増しを求められるかもしれない。いずれにせよ、外交問題に発展します。そのような事態を想定した議論をやっているのでしょうか。

非武装・中立で
 ―では、日本がPKOに貢献するとしたら、どのようなことが考えられますか。
 南スーダンの場合、武装ゲリラは国境をまたいで活動しています。一方、ケニアやウガンダなど南スーダンの隣国もUNMISSに参加しています。南スーダンの現状を放置すると難民が流出し、自国の安全を脅かすからです。
 以前は中立性の立場から敬遠されていた周辺国の参加が是認されている。本来は国連の集団安全保障措置であるPKOに、集団的自衛権の要素が共存しているのです。直接の当事者ではない先進国の部隊に住民保護のための交戦など求められていません。
 今のPKOは戦闘的になっているがゆえに要員が現地女性をレイプするなど、人権を守るはずの国連が人権侵害を引き起こしています。南スーダンでは、国軍とのあつれきも発生しています。日本に求められているのは、資金を提供することに加えて、例えば、PKO変質の中で、唯一残された、非武装・中立の部署である軍事監視団に人を出し、PKOを統制していくことが考えられます。

野党協力は大賛成
 ―日本共産党は戦争法(安保法制)廃止、立憲主義回復に向けて「国民連合政府」構想と、そのための選挙協力を呼びかけましたが。
 こんないいかげんな安保法はまず、廃止すべきでしょう。そのための野党協力は絶対にすべきだし、日本共産党の提案には大いに賛成です。
 同時に、それ以前の問題、今まで特措法で憲法違反の海外派兵を重ねてきたことの問題もさかのぼって検証すべきです。憲法をこれ以上、空洞化させないためにも。

駆け付け警護
 従来のPKO法では「他国の武力行使との一体化」を避けるために自衛隊による武器使用は「自己防護」に限っていました。9月19日に自公などの強行で成立した戦争法では、任務遂行のための武器使用を解禁。これに伴い、他国の部隊などを「防護」する「駆け付け警護」や「安全確保業務」(住民防護、巡回・警備など)を追加。「駆け付け警護」については、南スーダンPKOで来春からの実施を狙っています。

 1957年生まれ、東京都出身。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。2000年3月から、国連東ティモール暫定行政機構上級民政官として、現地コバリマ県の知事を務める。01年6月から国連シエラレオネ派遺団で武装解除を担当。03年2月から日本政府特別顧問として、アフガニスタンで武装解除を担当。
現在、東京外国語大大学院総合国際学研究院教授。
( 2015年10月10日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/「私の闘争宣言」/弁護士・元最高裁判事浜田邦夫さん

反知性の抵抗勢力による暗黒日本への逆コース阻止しよう
 9月の参院安保法制特別委員会の中央公聴会で、公述人として戦争法案(安保法制)を「違憲です」ときっぱりと述べ、今の政治のあり方に「日本の民主主義の基盤が崩れていく」と危機感を表明した浜田邦夫弁護士・元最高裁判所判事。危機≠フ内容について聞きました。
 (若林明)

幻想と思い込み
 ―どういう意味で日本の危機なのでしょうか。
 今日本で起こっていることは、日本の行く末を左右するような大きな問題です。戦争法の問題もそうですが大学の人文系を減らして武器生産につながる軍事研究をやれというあからさまな圧力があります。だから千人以上の大学の先生たちが学問の自由の問題としても立ち上がっています。理性にもとづいて現実を正確に見ないで、幻想と思い込み、偏見にもとづいた反知性の政治が行われており、それをサポートする一部のウルトラ右翼≠フような人たちがのさばる風潮があります。
 単に戦争法の問題ではなく、自由で平和な日本を守る、民主主義社会を守るための全面戦争≠ナす。そこまで視野を広げて国民各層のエネルギーを持続させ、来年の参議院選挙、さらに次の総選挙で安倍政権に審判を下すというプランをもって動かないといけない。私もそういう思いで運動していきます。

法の秩序を無視
 ―戦争法についてはどうですか。
 今回の戦争法で日本にとってのデメリットはたくさんあります。一番大きいのは憲法と法の秩序をまったく無視している点です。結局ナチスがやったようなクーデター的手法で成立させました。麻生副総理が「ナチスのやり方を学べ」といいましたが、それが冗談ではない状況です。
 現実的に他国から攻めてこられたら怖い、だからアメリカの助けを借りるため≠ニいうことだけですべてを正当化するのが、安倍政権の論理です。
 しかし、民主主義国家には国民主権などの原理にもとづいて国民の権利を守るための憲法があり、法の支配があります。それでこそ民主主義社会です。仮に他国が攻めてきたときにアメリカの力を借りるためには、それを無視してもいいという安倍政権の考え方は基本的に間違っています。
 この考え方の根拠となっているのが「抑止力」論です。安倍政権は今回の戦争法の「メリット」について抑止力が高まったことだといいます。私は政権を支持する人たちが、この抑止力≠ニいうマジックワードに目をくもらされていると思います。安倍政権がいう抑止力は実在するのか。私はかなり疑わしいと思います。アメリカは自国民の死傷者を減らし、税金をセーブし、その肩代わりをしろといっているにすぎない。
 いざというときにアメリカが助けてくれるから戦争法をつくりアメリカの肩代わりをしようという言い方ですが、仮に、日中間で軍事的な問題があっても、アメリカが日本を助けてくれるとはかぎりません。いざとなると経済的理由で、中国の方を選ぶ可能性があります。
 「抑止力」の存否について、国民にもわかりやすく検証し、その実像を明らかにしていくことが必要です。
 ―そのほかのデメリットはどうですか。
 「平和国家」という国際社会でのイメージを失うことです。人道的な国際支援活動をしている人はもちろん、一般企業もテロの対象になる可能性が高まるなど大きな影響を受けると思います。一般の消費財の製造業やIT関連の技術を持っている企業は、今後の国際的に展開するうえで大きなマイナスのはずです。さらに日本の中で経営が厳しく、海外に出て行こうとする中小企業にもものすごく影響があります。
 大きな問題は徴兵制です。アメリカで徴兵制が無くなったときに兵隊になっていったのは経済的に恵まれない人たちです。実際に海外に派兵して紛争に巻き込まれたとき、被害者は日本の中でも弱い立場にある人の子弟です。

民主運動育てる
 ―戦争法のほかにも日本社会の危機というべき点はありますか。
 言論の自由への攻撃をはじめ右傾化≠ニいえる傾向が現実に起きています。SEALDs(シールズ)の奥田愛基くんに殺人予告が送られました。テロ国家のように日本の社会全体が変えられてしまう危機感を覚えます。
 公聴会での私の発言に対してもインターネット上で、「極左」「無国籍者」という誹謗(ひぼう)中傷が行われました。私が「極左」になると私より「左」だった人はどこに行ってしまったのか。「無国籍者」という非難は、つきつめれば、国を愛するなら安倍政権を支持しなさい、そうでないと日本人ではないという考えです。戦前の「あいつは『赤』だ」「あいつは『非国民』だ」という言い方と同じです。
 さらにNHKはじめ一部メディアの偏向の問題があります。日本の言論の自由、民主主義が問われる重大な問題です。
 ―これからの戦争法廃止の運動についてどう思いますか。
 私も国会前の行動に数回参加しました。新しい民主主義が始まった。それを育てる。今の戦争法に限らず原発の問題などいろんな問題で新しい民主的な運動を社会的に育てていくことが日本全体として必要です。安倍首相は時間がたてば反対はおさまると思っているようですが、国民をばかにした話です。だから運動を持続的にいっそう広げることが大事です。私もできることをやっていくつもりです。そこで私個人のマニフェスト=闘争宣言を掲げました。
 「自由で、平和な美しい日本を守ろう! 抵抗勢力は、知的なものに反発しこれを圧迫し、人の尊厳を冒す言動をし、また幻想を追って自らのそして世界の現実を冷静に見つめることを拒否する人々だ。第2次世界大戦終戦後70年で日本が築き上げてきた自由で豊かな社会、ユニークな国際的信用を大きく傷つけてはならない。この抵抗勢力がたどっている戦前の暗黒の日本への逆コースを阻止しよう! そのため、言論の自由、学問の自由そして憲法と法の支配をあくまでも守るために、皆で立ち上がろう!
 2015年10月2日 弁護士 濱田邦夫」
 私はこの考えにもとづいて行動したいと思います。

 1936年生まれ。東京大学法学部卒業後、62年弁護士登録。82年日弁連常務理事。2001年5月最高裁判事(06年5月退官)。現在、弁護士事務所客員弁護士
(
2015年10月08日,
「赤旗」)

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2015焦点・論点/戦争法案、NGOはどうみる/南スーダンPKO拡大こんなに危険

 戦争法案の最も現実的な危険性は、事実上停戦合意が崩れている南スーダンでの自衛隊PKO(国連平和維持活動)の拡大にある―。このことが、日本共産党の小池晃議員が参院安保法制特別委員会で暴露(11日)した自衛隊の内部資料によって明らかになりました。その危険について、日本国際ボランティアセンターの谷山博史代表理事、今井高樹スーダン現地代表に話を聞きました。
 聞き手・中祖寅一、中川亮

中立性を失わせ標的に/日本国際ボランティアセンター(JVC)スーダン現地代表今井高樹さん
 南スーダンでは2013年12月に勃発した内戦で、大統領派のディンカ族が反大統領派のヌエル族に対する武装襲撃を繰り返し、ヌエルの人々はいまだに襲撃を恐れています。そのため首都ジュバでは、ヌエル族の人々が自分の家に帰れず、住民を保護する国連施設(POC)にとどまっています。
 POCの警護は、「無防備な住民をテロリストなどの武装勢力から守る」ことではありません。民族グループ間の対立を背景に、襲撃してくるのは武装した住民や民兵で、それに対して同じく武装した住民による反撃が加えられることもあります。どこまでが武装した住民で、どこからが「普通の住民」なのかといった境界線はもちろん存在しません。自衛隊がこの戦闘に巻き込まれて発砲した場合、それは「テロリスト掃討」ではなく、市民に向けて発砲する危険を含みます。
 自衛隊が仮にヌエル族の誰かを撃ってしまった場合、国中のヌエル族から日本が敵視される可能性があり、ディンカ族を撃った場合はディンカ族から敵視されることも、もちろんあり得ます。
 紛争や対立の中に武力をもって介入することは、常にどちらかの側から、時には両方から敵視される危険を強くはらんでいます。日本に対する敵対感情が起きれば、日本の人道援助団体による活動も困難になります。
 南スーダンでは、もともと民族対立で内戦になっているのではなく、内戦が民族対立の要因であり、内戦によって民族対立があおられているのです。どうにかして、この内戦を早期に終わらせることが国際社会の第一の責務です。そのための日本の役割を考えた時、自衛隊を派遣し武器使用を拡大するのは、日本の役割を放棄しているのではないか。平和と中立のイメージを生かし、紛争解決の外交努力をすることこそ第一です。
 法案では「人道的な国際救援活動に従事する者」への保護として、NGOへの自衛隊の「駆けつけ警護」を規定しています。しかし、戦時に敵味方の別なく人間の生命や尊厳を守る人道支援活動で、中立性、公平性を保つことは私たちの出発点です。どんな勢力にせよ、武装警護されて行動することは活動の中立性を失わせ、敵対勢力からの標的になる。だから大半の人道支援団体が共有する原則では、武装警護を付けることは「最後の手段」で、基本的には避けるべきとされています。
 NGOへの「駆けつけ警護」という議論は、NGOの行動原理と現場の危険を無視したものです。

住民殺害の恐れ高まる/JVC代表理事谷山博史さん
 安保法案の中に、自衛隊のPKO(国連平和維持活動)の任務として「住民の保護」や「特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護」などの治安維持の任務、さらに「駆けつけ警護」が入っています。これは従来の「停戦合意」のもとで復興支援を中心とした自衛隊のPKOから大きく変質するものです。
 しかも「特定の国の要請」で、治安維持活動に参加できる(国際連携平和安全活動)ことにもなっています。これはPKOの枠を完全に超えるものです。
 こうした法案の枠組みを見ると、@停戦合意が崩れPKOそのものが攻撃的なものに変質することに対応するAさらに、そもそもPKOの枠組みの外で活動できるようにする―その両方をにらんでのものではないかと感じます。
 紛争の現場では、PKOも、対テロ治安支援も、戦闘への後方支援も、境界がまったくあいまいです。南スーダンでも、内乱・内戦状態の中で、本来、PKO参加5原則にてらすなら日本の自衛隊がとどまっていられない状況です。「PKO」という名称を残しつつ、状況変化に対応して何でもできるようにするものではないか。隣国ウガンダが政府軍に加担して空軍を派遣しましたが、これも治安支援として行っているのです。
 そこに出て行くとき一番深刻な問題は、自衛隊が攻撃されることであり、戦闘に巻き込まれて住民を殺すことです。「住民の保護」になれば、反政府勢力の攻撃の対象になるのは避けられません。「住民の中でたたかう」ことは、誰が敵で味方なのか区別がつかず、住民を殺害する可能性は飛躍的に高まります。殺せば、日本に対する平和的イメージと信頼感は一瞬にして失われるでしょう。
 自衛隊として既成事実を積み重ねるという思惑があるにせよ、それなりの準備や経験が必要なはずです。法案が成立もしていない、訓練や準備もできていない中で、自衛隊内部でここまで急いで南スーダンPKOでの任務拡大を進めようとするのは、やはりアメリカに対する公約のためではないでしょうか。

内戦状態つづく南スーダン
 南スーダンは、2011年にスーダンから分離独立したのもつかの間、2013年12月から大統領派と元副大統領派との政争が武力衝突に発展。民族対立を巻き込みながらの内戦状態が続いています。内戦の中で、敵対する民族グループへの襲撃が発生し、保護を求めるヌエル族住民が国連の施設に、数万人規模で避難する状況が続いています。
 昨年5月には、国連安保理決議2155で、南スーダンに展開する国連PKOの任務の重点が「国づくりの支援」から「住民の保護」に切り替わり、「国連憲章第7章」に基づき、武力行使を含む「全ての必要な手段をとる」とされました。
 こうした流れの中で、安倍晋三首相は昨年4月のオバマ米大統領来日の際、日米共同声明で「日米両国は、アフリカを含む世界の平和、安定及び経済成長を推進することにコミットしている」とアフリカに言及。6月の通信社電は、首脳会談でオバマ大統領が安倍首相に対し、アフリカで展開する国連PKOへの積極参加を要請し、安倍氏が派遣を検討すると伝えたことを、米政府筋の話として報じています。
 同年9月26日の国連総会「PKOハイレベル会合」でのスピーチで安倍首相は「特にアフリカにおいてPKOの早期展開は喫緊の課題」と明言しています。

PKO5原則
 @紛争当事者間での停戦合意の成立A紛争当事者による日本の受け入れ同意B中立的立場の厳守C@〜Bの条件が崩れた場合の撤退D武器の使用は生命等の防護のために必要な最小限に限定する。
(
2015年08月30日,
「赤旗」)

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2015焦点・論点/地球の海を汚染するプラスチックごみ/東京農工大学教授高田秀重さん

循環的社会へ転換必要/戦争は最大の環境破壊
 世界中の海を漂うプラスチックごみに有害な化学物質が付着していることを世界で初めて明らかにした高田秀重・東京農工大学教授(56)が先月、国から海洋立国推進功労表彰(内閣総理大臣賞)を受けました。表彰式が衆議院の「戦争法案」強行採決の日と重なったため複雑な思いだったといいます。世界各地の市民とともに地球規模の汚染の実態を明らかにしてきた高田教授は、戦争法案が世界の人々との信頼の絆を断ち切ることになると反対しているからです。高田教授に聞きました。
 (間宮利夫)

 プラスチックの大量生産が1960年代に始まると、間もなく、海鳥や海亀がプラスチックを飲み込んでいることが報告され始めました。そして、プラスチック製品を作る原料である大きさが数_のレジンペレットも世界中の海に存在することがわかってきました。
 私たちの研究の始まりは東京湾でした。東京湾にペレットを入れた籠を浮かべ、少しずつ取り出して分析しました。PCB(ポリ塩化ビフェニル)などの有機塩素系の化学物質濃度が、日を追うごとに高くなりました。

有害物質を濃縮
 プラスチックごみが、有害な化学物質を吸着し濃縮していることが明らかになったのは、これが最初でした。2001年にこの結果を発表し、05年にインターネットなどで世界中の人々に呼びかけ、各地で拾ったペレットを送ってもらい分析する「インターナショナル・ペレット・ウォッチ」を始めました。
 これまでに南極を除く全ての大陸の50カ国、200地点以上から送られたペレットを分析しました。すべての試料に有害な化学物質が含まれていました。欧米や日本で拾ったものでPCBなどの濃度が高く、東南アジアで有機塩素系農薬の濃度が高いなど、地域ごとの違いもわかりました。
 結果はホームページ(pelletwatch.org)で世界地図の上に値を示して、有害化学物質による汚染状況が一目でわかるようにしています。それを見た人が周りの人に教え、関心が広がっています。
 イギリスの研究者たちが04年に海の砂の中に顕微鏡でしか見えない極小のものがあると発表しました。ペレットを含む、5_以下のプラスチックごみはいま、マイクロプラスチック問題と呼ばれ、国連も注目しています。
 これほど小さくなると、小さな貝や魚にも取り込まれます。私たちの最近の研究で、海鳥が飲み込んだプラスチックごみの有害化学物質が海鳥の脂肪に移行し濃縮されることが明らかになりました。貝や魚でも同じことが起こっていることが懸念されます。

代替品の利用を
 海へ流入しているプラスチックは年間800万dにもなると推定されています。一方、毎年化学物質が新たに生み出され、累計で1億種に達したといいます。10年近く前は3000万種でした。
 新しい化学物質が有害だとわかるのに何年もかかり、その間に汚染が進んでしまった例が、いくつもあります。海を漂うプラスチックごみに吸着・濃縮されれば取り返しがつきません。壊れにくく残留性の高い化学物質は使わないこととともに、プラスチックごみを減らす必要があります。
 プラスチックの約40%は使い捨てです。過剰包装をやめる、紙に代える、マイバッグを使うなど、方法はいくらでもあります。国は最終的には焼却すればいいという考えですが、燃やせば大気中の二酸化炭素が増え、地球温暖化が加速します。
 焼却に多額の税金が投入されていることも忘れてはいけません。人口数十万人の都市で出るごみを処理でき、ダイオキシンなどの有害な化学物質を放出しない高性能な焼却炉を作るには100億円かかります。耐用年数は、30年です。こんなやり方は持続しません。
 リサイクルの現実はどうでしょうか。代表格のペットボトルをみても、関東地方の荒川流域でNGOが1年間に約3万本を回収しました。全世界では、相当数のペットボトルが海へ流入していると考えられます。使い捨てのプラスチックは減らしていって、必要な部分には植物由来のプラスチック代替品を利用する循環的な社会へ変えるべきです。

戦争法案は許せません

 ペレット・ウォッチでは、私たちが直接現地に出かけ採集や講演もし、目の前の海で起こっていることを知ってもらう活動もしています。東南アジアやアフリカ、南米など、どこでもやさしく迎えられました。日本が戦争をしない国、憲法9条を持つ国であるおかげだと思います。
 日本がアメリカと一緒に戦争をする国になってしまったら、これまでのような活動はできなくなるかもしれません。私たち自身が身の危険を心配しなくてはならなくなる可能性もあります。
 ベトナム戦争での枯れ葉剤散布や湾岸戦争での油田の破壊のように、戦争は最大の環境破壊です。環境問題の研究者として、戦争法案は許せません。
 私も「安全保障関連法案に反対する学者の会」の呼びかけにすぐさま賛同し署名しました。ほかの多くの研究者と同様に、法案の内容の問題と併せて、安倍政権の学問をないがしろにする姿勢に反対だからです。

 たかだ・ひでしげ 理学博士。1986年に東京農工大学教員となり、2007年から教授。12年より国連の海洋汚染専門家会議(GESAMP)ワーキンググループのメンバー。
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2015年08月21日,「赤旗」)

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7月

2015焦点・論点/戦争法案に決起した思いは…/東大緊急集会呼びかけ人

 東京大学の学生と教員が共同し、10日に駒場キャンパスで開いた「安保法案 東京大学人緊急抗議集会」。予想を超える300人が参加し、「画期的」と言われました。31日の「安全保障関連法案に反対する学生と学者の共同行動」に向けても活動を強めています。集会を呼びかけた学生と教員に思いを聞きました。

東大理科
T類1年田中慶季さん/この政治続けば闇の時代に
 学内では専門知識もないのに声をあげるなんてという声も聞かれます。僕は理系で安全保障や法律について専門の勉強をしていませんが、だからといって戦争法案に声をあげないのはおかしい。それならなぜ選挙があるのかということになります。
 顔と名前をさらし学内で声をあげる。そうさせる思いは何かとよく聞かれますが、この政治が続けば闇の時代になってしまう。声をあげにくい窮屈な社会がいいとは思えませんでした。社会がこんな状況なのに、自分は何のために勉強しているのかと一時は悩みました。行動せずにはいられないし、一緒に立ち上がる仲間がいます。
 試験もあるし面倒だけれど、立憲主義が覆され、自分たちの生きかたの根本が無理やり変えられようとしている今、何とか学内に政治的な雰囲気をつくり出したかったんです。
 「東大・九条の会」などで活動してきた友人たちと、切迫感と発信力があり幅広い人が集まれることをしようと話し合いました。もちろんいちばんのねらいは学生です。
 多くの学生を巻き込むには、どうしても教員の協力がいります。先生方には学生を引き付ける力、発する言葉の力がある。九条の会でつながりがあり信頼していた小森陽一先生や市野川容孝先生に相談し、教職員組合との共催にしました。
 集会の企画を決めたのは、開催日の2週間前です。みんなできることは何でもしようとスイッチが入り、2週間ぶっ通しで全力を尽くしました。
 ツイッターで宣伝し、当日来られない人も行動に参加できるようウェブで賛同メッセージを送れるようにしました。毎日昼休みと5限後には学内で街頭宣伝、正門前には目立つ大きな立て看板をおいてメッセージなどを掲示しました。どうやら好評で、たくさんの人に見ていただきました。
 目標は100人でしたが、当日集まったのは300人。あれほどの人が危機感を表現する場、共有する場を求めていたんだとうれしかった。ある学生は「希望を感じます」とささやかな言葉をかけてくれました。
 学校や職場などのコミュニティーでこの法案について語りあい、危機感を表面化させられる場をつくることが必要だと思うんです。集会以後、参加した友達と法案について話せるようになったり、ゼミの有志で国会前に行ったりと、動き出している学生がけっこういます。教職員と学生が共同し波紋が広がっていることにこの先の展望を感じます。まだはじめの一歩です。
 刺激があれば、わっと反対の声はあがる。各地で次々に波紋が広がっていく光景は政権にとって恐怖だ、と思っています。
 聞き手・写真 田中佐知子

東大教授(医療社会学)市野川容孝さん/学問・大学に深く関わる
 私は「安全保障関連法案に反対する学者の会」の呼びかけ人もしていますが、自分の足元の東京大学でもこの法案を考える場があるべきだと思いました。
 なぜなら、今回の法案は学問の存在意義や大学のあり方にも深く関わるからです。学者の言うことが、そのまま政治的に正しいとは限りません。しかし、学者は政治について、主権者の国民に向かって発言する義務や権利があります。
 安保関連法案は、日本が海外での戦争に参加するための法律です。しかも自衛といいながら、他国、特に米国がおこす戦争に参加するための法律です。ほとんどの憲法研究者が、この法案は違憲と言っているのに、それが無視され可決されるなら、一体、何のための憲法学なのか。
 安倍政権は、教授会の権限を弱める学校教育法の改定をし、大学での軍事研究も進めたがっているようですが、安倍政権のそういう姿勢に、多くの大学人が危機感をもっていると思います。アピール賛同者の考えもさまざまでしょうが、そうした危機感は共有していると思います。
 そこに学生から法案に反対する集会をやりたいという提案がありました。
 学生中心の集会に教員、職員が協力して一緒に主催するのは、集会で高橋哲哉東大教授が言ったように「前代未聞」だと思います。
 集会前の打ち合わせでは、学生に「思うとおりにやってもらってかまわない」「皆さんの決定に基本的にしたがいます」と言いました。学生の主体性を尊重しました。
 集会まで2週間ぐらいしか準備期間がありませんでした。学生はホームページの立ち上げなどインターネットを利用して賛同者を広げてくれました。結果、集会は成功し、アピール賛同者は688人(26日現在)になりました。
 この集会のために尽力した学生たちには、立憲主義が壊されてしまうことへの危機感があると思います。さらに、同世代の自衛隊員が他国を支援する兵たん業務について命を落とすかもしれない、それを黙ってみていられないという思いが共通してあるのではないでしょうか。自分たちのことだけではない、学生たちの他者への想像力≠感じます。
 今後も、この法案に反対する集会や学習会ができればいいと思っています。
 聞き手 若林明
(
2015年07月31日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/戦争法案とジャーナリズム/中央大名誉教授(マスコミ論)塚本三夫さん

空文化する戦後再出発の誓い/平和に寄与がメディアの責務
 安倍政権が国会を大幅に延長して、成立強行をねらう戦争法案(安保法案)をめぐって、ジャーナリズム・メディアのあり方が鋭く問われています。中央大学名誉教授でマスコミ論が専門の塚本三夫さん(75)にマスメディア・ジャーナリズムの現状について聞きました。
 (聞き手・原田浩一朗)

 自民党の若手・中堅国会議員の勉強会「文化芸術懇話会」(6月25日)で言論弾圧を主張する発言が相次ぎました。

見えにくい弾圧
 世論の厳しい批判にあわてた安倍首相は、1週間後の7月3日になってようやく自民党総裁としての責任を認め、陳謝しました。
 日本の新聞・通信社、主なテレビ局が加盟する日本新聞協会も、編集委員会声明を発表して抗議しましたが、報道機関としての命にかかわる重大問題であり、各社が徹底的に抗議するべきです。
 重大だと思うのは、問題の発言をした国会議員らが、広告料やスポンサーをテコにしてメディアに圧力をかけることを当然視し、得意げに語っていることです。日常的に、さまざまな経路でメディアに有形無形の圧力をかけているのは想像に難くありません。
 戦前の天皇制権力からの言論弾圧は、ある意味わかりやすかったのにくらべて、現代の言論弾圧は見えにくいのが特徴です。ジャーナリズムは奮起して、監視し暴露してほしいと思います。

抜かれた「キバ」
 アジア・太平洋戦争の敗戦直後に、日本のメディアは、こぞって再出発を誓いました。朝日新聞の宣言「国民と共に立たん」(1945年11月7日)が有名です。すべての新聞社が、戦争中、天皇制政府・軍部に積極的に協力して、国民を侵略戦争に駆り立てる役割を果たしたことを反省し、いわば許しを請うて再出発をはかったのです。
 ドイツでは、ナチスに協力した新聞がすべて廃刊になり、ゼロから出発したのと対照的でした。
 ところが、この再出発にあたっての国民にたいする公約がいつのまにか空文化しているように思います。
 メディアは、資本主義的な私企業として運営されているため、「企業の論理」と「ジャーナリズムの論理」の厳しい対立関係をはらんでいます。
 共同通信の社長も務めた原寿雄さんは「『パンをとるか、ペンをとるか』を迫られた時、ペンをとる人間でなければ、ジャーナリストになるべきでない」とよくいっていました。
 残念ながら、1960年ころからの「高度経済成長」のなかで、メディアの「情報産業化」が進みました。「商品論理」が優越し、ジャーナリズム性が失われていきました。伝えるものの意味やメッセージ性が失われ、伝えられるもの≠ニしての「商品」が棚に並んだような「等列化」が進んだのです。
 そのなかで、「権力を監視する」という、ジャーナリズムにとって命というべき「キバ」を抜かれてしまった。

批判性こそが命
 情報・事実の伝達のスピードを競う「情報の論理」で勝負すれば、紙のメディアはインターネットとは勝負になりません。
 ジャーナリズムは、伝達のスピードではなく、事実のどこに問題があるのかをじっくり掘り下げることが大事です。「情報の論理」ではなく、「報道の論理」「ジャーナリズムの論理」で勝負するということです。
 ジャーナリズムとは単なる個人的表現活動でもなければ、単なる「情報伝達活動」でもありません。ジャーナリズムは「社会的表現活動」です。
 「表現」は、事柄の主体的な選択・批評、その意味を再定義する活動ですから、批判的なモメント(契機)を本来的に含みます。批判性がなかったらジャーナリズムとはいえない。
 とりわけ、権力の発する情報にたいして、たえず疑問を持つべきです。権力が使う「キーワード」を無批判に使うべきではありません。
 たとえば90年8月から始まった湾岸危機のとき、「国際社会」という言葉が日本のメディアで突然使われ始めました。
 「国連」「国連加盟国」といった概念は以前からありました。これに対して「国際社会」とは、実際には「アメリカを中心とした多国籍軍を構成した諸国」のことを指す概念でありながら、あたかも世界全体を代表しているかのように装う「マジックワード」でした。
 議論のテーブルをどう設定するかもとても重要です。権力は常に、「権力にとって都合のいいテーブル」を設定しようとします。
 最近も、昨年7月に安倍政権が集団自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を閣議決定して以降、メディアの多くは政権が設定したテーブルの上に乗っかってしまい、安倍政権が提出した安保法案=戦争法案について、「あいまいだ」とか、「武力行使の要件はどうのこうの」といった細かいことを問題にするだけでした。
 「そもそもこの法案は憲法違反だ」「議論のテーブルそのものがおかしい」という根本的な批判をほとんどしなかったのです。
 6月4日に衆院憲法審査会で3人の憲法学者全員が「この法案は憲法違反だ」と断じて以降、やっと根本的批判を始めたところではないでしょうか。

読者に依拠して
 ジャーナリズムは、「どこに依拠するのか」を問うべきだと思います。権力なのかスポンサーなのか。
 違うでしょう。読者・市民から信頼され、支持される―。メディアにとってこれほど安泰なことはありません。自民党が「つぶしたい」と思う琉球新報と沖縄タイムスが沖縄県民の圧倒的な支持を得ているのは教訓的です。
 そして、今回のように、どこかの社が権力から攻撃されたら、ジャーナリズムは全力を挙げて、いっせいにたたかわなくてはなりません。
 ジャーナリズムとは、実体ではなく社会的な活動であり社会的機能を示す概念だと考えています。だからこそ、「個別の会社の論理」ではなく、「普遍の論理」、たとえば「真理」であるとか「平和」といったもの―に寄与するものでなくてはならないのだと思います。
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2015年07月22日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/戦争法案―広がった「違憲」論/早稲田大学教授(憲法学)・全国憲法研究会代表水島朝穂さん

立憲主義の心が動いた
 安倍政権と与党が衆院採決強行を狙う戦争法案。しかし、国民の理解は広がらないばかりか、圧倒的多数の憲法学者、元内閣法制局長官、元最高裁判事から「憲法違反」と宣告され、反対世論は広がり続けています。国民的に「違憲」論が広がった背景や法案の危険な狙いについて、全国憲法研究会代表の水島朝穂早稲田大学教授に聞きました。同研究会は、「日本国憲法を護る」ことを目的にうたう唯一の憲法研究者の学会です。明文改憲論が急になった1965年に創設されました。
 聞き手 中祖寅一、中川亮

 憲法学者が「この法案は違憲だ」と発言した時点から、「朝日」「毎日」「東京」などの一般新聞もようやく「違憲」と言い出しました。世論調査でも「違憲」が多数になっています。「違憲」という言葉がこんなに受け止められたことはこの数十年で初めてです。これは「安倍政権は本気で日本を武力行使する国に変えようとしている」ということを、人々が論理だけでなく、生活者としての直感からも、重大な危機と察知し始めたことによるものと思われます。
 現代のハイテク軍隊では徴兵制の現実味は少ないですが、直感の中には子どもが兵隊にとられるという感覚、あるいは米国のように貧困層を対象にした経済徴兵制≠フ問題につながるものもあるでしょう。憲法の解釈変更で、違憲である集団的自衛権の行使を閣議決定し、それに沿った法案まで審議されている以上、徴兵制もいずれ解釈の変更でやるのではと危機感が募るのは当然です。
 「非戦闘地域」を撤廃するなど、拡大する戦死リスクを問われた安倍晋三首相は「すでに1800人の殉職自衛官がいる」と答弁しましたが、この説明には、「その中に一人として戦死者はいないのに」という強い違和感を覚えたと思います。自衛隊法の職務離脱罪や命令反抗罪について国外犯処罰規定を新設することも、入隊で宣誓した日本の防衛の枠から逸脱しており、適用は許されないものです。

高まるリスク
 自衛隊が海外で武力を行使すれば、報復として日本国は武装勢力から確実に狙われます。東京のどこかの駅で爆弾が爆発し、多くの人が殺傷されるようなことも現実化する。海外で生活、活動している日本人もかえって危険にさらされます。まさに「日本国民のリスク」は高まるのです。
 逆に、もし自衛隊が現地で民間人を殺せば外交問題に発展します。ドイツがアフガンから撤退を決めたのは、ドイツ兵55人が戦死しただけでなく、「クンドゥスの悲劇」と呼ばれる事件で140人以上の民間人を殺してしまったことが大きいのです。
 このように、武力紛争に介入するということは、日本社会全体が「殺し殺される」当事者になっていくということです。決して自衛隊員だけの問題ではありません。
 さらに、そういう社会は、民主主義の基本である討論と合意に代わって、命令と服従という軍隊的なものが覆うようになります。戦争とは自由が究極に侵される状態です。すでに予兆はあり、言論弾圧とも受け取れるマスコミへの圧力、秘密保護法や盗聴法、「日の丸」掲揚を大学へ求めるなど、いままで手をつけなかったことにまで政府が介入している怖さがあります。
 「違憲」という言葉に急速に共感が広がったのは、こうしたことに対する警戒感からではないでしょうか。人々の中の、いわば立憲主義の心が動いた。憲法研究者の樋口陽一氏がいう「自由の下支えとしての憲法9条」という感覚です。

何をするのか
 安保関連法案で日本が海外のどこへ出かけて何をするのか。
 私は、自衛隊が「海賊対策」の名目でつくれられたジブチの「拠点」(基地)をベースに近い将来、中東からアフリカ方面のさまざまな紛争を米国にかわって抑えていくことになると見ています。米国は地球全体を六つにわけ、太平洋軍、南方軍、欧州軍などそれぞれの地域統合軍で世界を仕切っています。この中で米アフリカ軍(AFRICOM)は当のアフリカに司令部を置けない。54のアフリカ諸国全てが拒否しているからで、アフリカ軍司令部は、ドイツ南西部の都市に置かれています。そこに昨年から自衛隊の佐官クラスが常駐しています。
 米国財政は厳しく、米軍が大きく引いていく流れの中で、紛争が起こりそうな地域に自衛隊を投入する。米国の世界戦略、武力による平和のために、自衛隊がその役割を果たす。さらに米軍と協力しながら北アフリカから中東でIS対策にも出て行く。そうすると、これらの地域で日本に対する見方はがらりと変わるでしょう。世界で知られる日本国憲法の平和構想に真っ向から反するものです。

学説と運動で
 自衛隊は、皮肉にも集団的自衛権が行使できないことによって、政府の憲法解釈上その存在がギリギリ担保されているのです。政府は、自衛隊を「合憲」とするために、集団的自衛権の行使は許さないといわざるを得なかった。それを明確にした1972年見解の翌年、73年には長沼ナイキ基地訴訟で自衛隊違憲判決が出されています。そういうせめぎあいの中で、日本が海外で武力行使できないようにしてきました。
 長年にわたる9条の原点を守る憲法学説(自衛隊違憲論)と運動があったからこそ、そのような展開になってきたことを忘れてはなりません。
 なお、国際法で認められる「個別的自衛権」の行使は、「自国が直接攻撃を受け」ていなければなりません。従来の政府の自衛隊合憲ラインの鍵の一つもそこです。でも、注意すべきは、「これは合憲の個別的自衛権の範囲内だ」などとしていても、「日本が直接攻撃を受けていない」のに武力行使できるようにするような維新の党の「対案」は、集団的自衛権行使を容認する政府案と本質は同じで、海外で武力行使できる範囲を広げていくのに寄与するだけです。政府法案は廃案しかありません。
 いま求められていることは、日本の安全保障をめぐる理念や方法論の違いを超えて、安倍政権が昨年7月の閣議決定で突破した「専守防衛」ラインにまで引き戻すという一点で共同する運動を広げていくことです。

 みずしま あさほ 1953年東京生まれ。広島大学助教授などを経て1996年から早稲田大学教授。全国憲法研究会(全国憲)代表。著書に『ライブ講義 徹底分析!集団的自衛権』(最新刊)など多数。
(
2015年07月15日,
「赤旗」)

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2015焦点・論点/「新国立競技場」問題点どこに/森まゆみさん/森山高至さん

 2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場が混迷を深めています。建設費が膨れ上がる一方、財源のめどは立たず、2019年5月の完成時期も危うい。7日、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議で詳細が説明されます。この計画のどこに問題があるのか。識者に聞きました。
 (青山俊明)

環境・財源…亡国の道/「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」共同代表・作家森まゆみさん
 私たちは「神宮の森と景観を守るため、国立競技場を壊さず改修を」と勉強会を繰り返し、提案もしてきました。それだけに3月、建物の解体が始まったときは、本当にショックでした。
 しかし、神宮周辺の緑は都心に残る貴重な森です。その環境を守るため、旗を降ろすわけにはいきません。
 6月末、文科省が公表した建設費は2520億円。基本設計より900億円も高い。しかも五輪後に屋根を付けるという。さらに財源のめどもたっていないというのですからむちゃくちゃな話です。このままでは亡国の道です。
 負担は建設費だけではありません。年間維持費は35億円です。改修費も20年後に建築費の半分以上はかかる。どれだけお金をかければ気がすむのか。これは兵糧も作戦もないまま突き進み、多くの犠牲者を出した日本軍のインパール作戦と同じです。
 震災と原発事故の被害を受けた東北では、20万人がいまだ避難生活を強いられています。国は被災者支援を打ち切ろうとする一方で、無駄の多いスタジアムに巨額の費用を注ぎ込む。東北から見たら「ふざけんじゃない」という話です。
 事業主体のJSCは恣意的なコンペを行い、建設費を膨らませ、無責任な計画を進めてきました。
 デザインコンペに応募したプリツカー賞受賞建築家の坂茂さんは「800億円でできる案を出したのにかすりもしなかった。競技場にこれほどの予算を掛けるのは前代未聞でばかばかしい」と話していました。
 私たちは1年半前からJSC、文科省に計画の見直しを求め、抗議、要請、提案をしてきました。賛同者は3万6千人。民主主義ならステークホルダー(利害関係者)の意見を聞くのは当たり前でしょう。でも彼らは、まったく聞く耳を持っていません。JSCは面会要請を業務多忙を理由に断ってきました。
 JSCは、サッカーくじで肥え太ってきました。新国立の財源が足りないと、対象を海外サッカーに拡大し、今度はプロ野球にまで広げようという。サッカーくじは、射幸心をあおる貧困ビジネスです。国民の税金をつぎ込んだ上に、新国立の建設費を国民から巻き上げるためのものです。文科省の外郭団体である独立行政法人がそんなことをしていいのでしょうか。
 このままではホワイトエレファント(無用の長物)になり、神宮の森も破壊されます。都営霞ケ丘アパートの住民は住み家を追われ、民主主義の聖地、明治公園もつぶされます。
 問題の決着はまだついていません。おかしなことは「おかしい」と声を上げることが市民の役割。いまの計画は絶対にやめさせたい。

巨大アーチ構造が元凶/建築エコノミスト・建築家森山高至さん
 新国立競技場は2019年5月の完成に間に合うのか、2520億円で収まるのか。私は現状では無理だと思います。
 最大の問題は、開閉式屋根を支えるキールアーチという構造物にあります。建設費を押し上げ、工期を伸ばす元凶です。キールとは、船の竜骨のことで巨大な鉄骨をアーチ状に組んだものです。
 これは橋などによく使われています。しかし、新国立では長さ約370bと適正規模を超えています。隅田川にかかる永代橋の2倍です。地上で巨大な橋を造る難工事になります。
 アーチは自重によって横方向に広がろうとする力が働きます。長さが2倍になれば加わる力は8倍です。アーチの両端を止める基礎杭は巨大なものとなり、隣接する地下鉄大江戸線の駅を貫いてしまいます。
 そこで新国立はアーチの両端を「タイバー」という弦のようなものでつなぐ工法を取ることになる可能性が高い。それでも問題が生まれます。
 タイバーは競技場の地下20bに通さなければなりません。掘り出した土砂を運ぶだけで相当な時間がかかり、アーチも大きくなる。コストも工期も増えるのは確実です。
 五輪スタジアムの建設費は北京の鳥の巣が400億円、ロンドンは600億円程度でした。競技場の機能とは直接関係ないキールアーチのため、新国立は通常より費用が1400億円も余計にかかるのです。
 いま設計を変えたら、さらに工期が遅れるという意見もありますが、私は逆だと考えます。複雑で前例のない、現在の計画では許認可にも多くの時間がかかるからです。10月着工と言われていますが、まず無理でしょう。実施設計ができてから認可が通るまで数カ月かかります。
 着工後も問題があります。工事中にトラブルが起き、工法変更すれば、そのつど許可を取り直すため、工事が止まります。
 許認可を下す国土交通省は、国の威信を掛けた建物だけにチェックは厳しい。つまり、時間を無駄食いする設計なのです。
 解決するには、早く設計でき、早く造れる計画にすればよいのです。
 スタジアムは中央の競技場をスタンドが囲むパイのような形です。切り出した一片をきちんと設計すれば、施工も楽にできます。通常のスタジアムなら十分間に合う。建築家の槇文彦さんらの提言も、そういうものです。
 工費の6割は人件費ですから、時間をかけない造り方をすれば値段も下がります。早くできるほど安くできるのです。
 今秋、完成予定のサッカー・Jリーグのガンバ大阪の新スタジアムは、4万人収容の専用施設です。その建設費は約140億円にすぎません。なぜか。直線で構成された左右対称のデザインで、4分の1を設計すれば、それを全体に展開できる。素材も既製品の鉄骨で、コストを抑えています。
 設計施工者は新国立の施工者の竹中工務店。安くつくる技術もアイデアも、日本のゼネコンはもっています。
 このままでは時間とお金をかけても、期日まで競技場ができない事態になりかねません。競技にも必要ないキールアーチ構造はやめるべきです。いまこそ、政治が決断するときです。
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2015年07月05日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/戦争法案反対/陸・海・空労働者の思い

 日本を「海外で戦争する国」につくりかえる戦争法案。民間労働者をはじめ、多くの国民に被害がおよぶ危険が高まります。陸海空それぞれの現場に携わってきた労働者に聞きました。
 (田代正則、堤由紀子、行沢寛史)

輸送業務は軍事標的/全日本建設交運一般労働組合(建交労)委員長赤羽数幸さん

 私たちの仲間は、交通運輸や建設にかかわる労働者です。戦時中は、軍需工場の建設作業に動員され、兵員や武器の輸送に従事させられました。運輸産業は戦争が起きたら徴用される産業です。ふたたび人を殺したり、殺されたりするための道具にされるのは我慢なりません。

危険な業務に従事
 政府は民間労働者に戦争協力をさせるため、さまざまな手だてを講じてきました。1997年、有事の際に最前線の戦闘地域に民間会社の労働者を送り込む「即応予備自衛官制度」が導入されました。協力した企業には1人につき51万円余の給付金が支給されるため、不景気に苦しむ企業がたくさんの労働者を訓練に送り出した過去があります。
 さらに1999年の「新ガイドライン関連法」で「後方地域」での民間協力を規定しました。当時、陸海空港湾労組20団体は共同声明を発表し、廃案を求めたたかいました。
 「新ガイドライン関連法」では、国内に危機が迫った際の対応にとどまるなどの限定があります。ところが、いま国会で審議されている「戦争法案」は、海外のいたるところに出て行ってアメリカの戦争に協力しろと踏み込んだものであり、非常に危険です。
 「国民保護法」(武力攻撃事態対処法)では、有事の際に協力を求める法人の中に「運送事業者」が入っています。弾薬や燃料の補給、武器、兵員の輸送などを含む兵たん活動は、最大の軍事標的になります。こんな危険な業務に組合員を従事させることなどできません。

平和な社会でこそ
 交通運輸、建設業にかかわる者にとって、平和な社会のもとで国民生活や社会に貢献したいという願いは、労使の別なく共通するものだと思います。建交労が毎年開く労使共同セミナーで、今年は「戦争法案廃案」の共同アピールを出す準備をすすめています。
 建交労は「失業と貧乏と戦争に反対する」をスローガンに掲げてきました。労働組合の存在意義をかけて、たたかいぬきます。

民間船も動員される/一等航海士・元外航船員本望隆司さん

 私は、1980年に始まったイラン・イラク戦争の最中、原油を輸送するタンカーの一等航海士としてペルシャ湾を何度も航行しました。

戦争放棄したから
 当時、湾内では日本船も攻撃されるなど大変危険な状況がありました。日本船はペルシャ湾に入るときに船団を組み、「日の丸」を大きく掲げました。憲法9条で、戦争を放棄したという前提があったからできたことです。
 しかし、戦争法案では、攻撃されれば反撃することになります。政府は「後方支援」といいますが、実際は兵站活動であり、前線部隊に食料、武器、弾薬、医療物資、野営地や橋梁の資材などをすべて一体に送り込む行動です。前線で荷物をおろすための人員も必要です。ここが一番ねらわれるのは当然です。
 周辺事態法では「後方支援」の民間協力を決めています。
 現に災害時での自衛隊と民間の協力はすすんでいます。
 防衛省は、何かの際に備えて民間船とのチャーター契約を結んでいます。また国は、民間企業に対して非常時に航海命令をだすことができます。さらに、「トン数標準課税」という外形標準課税の優遇税制があります。企業がこの認定を受けるには、国による航海命令を受託することが条件になっています。
 防衛省は民間船のチャーター契約をすすめていますが、契約は深刻な海運不況に苦しむ企業にとって、安定した収入源となるため抵抗感がないわけです。

軍事・民間一体に
 有事になれば民間協力がさらに強化される恐れがあります。
 戦闘行為に入れば、大量の戦闘部隊を送るために、相当の輸送量を確保する必要があります。軍艦は戦車などの大量輸送などできません。国は民間船の協力が必要なのです。
 防衛省は、有事にそなえて、現役の民間船員を予備自衛官にすることを検討しているとの報道も出ています。
 兵站活動が軍事・民間一体にすすめられる危険が強くあります。そうなれば自衛隊員だけでなく、民間人もまきこまれかねません。戦争法案は廃案にすべきです。

航空機がテロの対象に/航空連前議長・日本航空解雇撤回パイロット原告団長山口宏弥さん

 日本が戦争法案によって、憲法9条違反の「集団的自衛権」を行使し、世界中で米国と一緒に戦争すれば、日本の航空機は、軍事報復の標的とされる危険性があります。

パンナムの例では
 米国のパンアメリカン航空(通称・パンナム)はかつて、世界の航空界のリーダーとして、世界中に路線網を巡らせていました。しかし、1991年に運航停止。その後、98年に再び経営破綻をして、会社そのものが消滅しました。米国の象徴として、軍事報復テロの標的となったことが原因のひとつです。
 82年、パンナム機内で爆弾が爆発する事件がありました。86年にはテログループにハイジャックされ、機内で銃撃戦となり、乗客乗員20人が死亡しました。88年、イギリスのスコットランド上空でリビアのテロに爆破されて乗客乗員259人が死亡し、墜落現場の住民11人も巻き添えとなりました。
 パンナムは「テロの標的」というイメージが定着しました。利用者が激減し、遺族への補償金支払いなど致命的な打撃を受けました。
 日本航空はハイジャックにあったことがありますが、軍事報復の標的にはなりませんでした。憲法9条があり、軍事物資の輸送を行わないので、「日本の航空会社は安全だ」というイメージがあります。
 日本の航空会社は、米国防総省の米軍輸送資格を取るよう、米国から日本政府を通して要請を受け続けています。自衛隊には長距離を飛べる輸送機がなく、民間機なら一気に運べるからです。

米軍輸送資格断る
 私たち航空労働者は民間航空の軍事利用に反対してきました。兵員や軍事物資を運べば、相手国から敵と見なされ、直接の攻撃対象とされてしまいます。安全を守れません。航空各社が集まる定期航空協会も、米軍輸送資格の取得を断ってきました。
 6月3日に自衛隊機と民間機があわや衝突という重大トラブルがありました。空港が軍事利用され、航空管制、空域の調整なども軍事優先になれば、さらに危険が広がります。
 戦争法案は、「国民の生命と財産を守るため」どころか、殺し殺される関係を戦場以外にも広げます。

法案に民間協力規定
 戦争法案の柱の一つである「海外派兵恒久法案」では、国による民間協力を依頼できる規定が盛り込まれています。法案13条は、「防衛大臣は…関係行政機関の長の協力を得て、物品の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供について国以外の者に協力を依頼することができる」としています。周辺事態法が、「国以外の者に対し、必要な協力を依頼することができる」(9条2項)とした民間協力の規定と同じ内容です。
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2015年07月04日,「赤旗」)

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6月

2015焦点・論点/夫菅原文太の遺志継ぎ沖縄に心寄せる/辺野古基金共同代表菅原文子さん

日本は再び戦争しない≠サの願い立ち枯れぬよう声あげる時
 俳優の故・菅原文太さんは、昨年11月、沖縄県知事選挙で翁長雄志氏(現知事)の応援に立ち、約1カ月後急逝しました。妻の菅原文子さんはその遺志を継ぎ、今年4月、米軍新基地建設に反対する「辺野古基金」の共同代表の一人に就任しました。その思いは――。
 聞き手 内藤真己子

 ―基金の共同代表に就かれたわけを聞かせてください。
 「落花は枝に還らず」といいますが、夫は小さな二つの種をまいて去りました。一つは、先進諸国に比べて格段に生産量の少ない無農薬有機農業を広めること。もう一粒の種は、日本が再び戦争をしないという願いが立ち枯れ荒野に戻ってしまわないよう、ともに声をあげることです。今も生者とともにあって、これらを願い続けているだろうと思います。
 3・11の福島原発事故のあと彼は「俳優はやめた」といったのです。「おれが俳優やっている時代じゃない」と。

宿題を置き去り
 日本はあの時点で大きな転換をしなくちゃいけない、戦後ずっと宿題にしたまま抱えて置き去りにしてきた、いろんな問題がここへ来て噴出しました。「原発村」をはじめ既得権益にぶら下がっている人たちにガチガチに固まった日本。「これはいかんぞ」ということですよね。そのなかでも沖縄問題が一番大きいのではないでしょうか。
 観光地以外の沖縄を知る人たち、沖縄に友人がいる人たちは、沖縄だけがいまも特殊な戦時下≠ノ置かれているということを知っています。
 あそこから米軍機が攻撃に飛び立っていくのは、沖縄が戦時下に置かれているのと同じことを意味します。
 こんど安倍首相が、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使、武力行使を認める安保関連法制を通そうとしています。でもそれでは日本全体が沖縄と同じになります。3人の憲法学者がいうようにこの法案の違憲性は、はっきりしている。それを押し通そうとするのは無法国家ですよ。
 「後方支援」といったって早い話が兵たんだから。これは軍の一番枢要な役割で、武力行使の一翼を担っています。アメリカやオーストラリアに「後方支援」をすることになったら、自衛隊員だけに危険があるんじゃなくて、私たち普通の暮らしをしている人間も、危険にさらされるということを考えた方がいい。
 辺野古基金の共同代表を引き受けたのは、新基地建設に反対している翁長県知事を応援し、支えたいという気持ちが一つ。もう一つは辺野古の問題は日本の今後を占う非常に大きなテーマを含んでいると思ったからです。
 沖縄は米軍基地があるゆえに普通に暮らすことに制約があるわけです。沖縄本島の面積の18%が米軍基地で占有されている。日本国憲法で保障された居住の自由など人権が侵害されています。軍用機ががんがん飛びまわっていて、普天間基地の辺りなど音がうるさく、人の住む環境を超えています。

時代遅れの同盟
 ―ところが安倍首相は日米同盟を強化し、アメリカが世界のどこででも戦争を起こしたら、自衛隊を参戦させようとしています。
 日本の戦後は大国アメリカと二人三脚で、日米安保体制に縛られた時代でした。それが沖縄にもっとも集約されています。「憲法よりも上に安保がある」という人もいる。しかし日米安保条約は、こちらが変えようと思えば廃棄できるんです。同じ民主主義を奉じる国としての関係はあってもいいだろうけど、従属した軍事的同盟はもう時代遅れで必要ありません。「しょうがない」といって受け入れた人も、今考え直す時期じゃないでしょうか。
 そもそも安保条約は成り立ちからしてアメリカの意図が明々白々ではないですか。アジア大陸にむけて首輪のようにちょうどいい位置に日本列島がある。各地の米軍基地と自衛隊を一体化すれば、日本列島が全部基地の島になってしまいます。
 憲法9条をもつ日本国憲法を「アメリカの押し付けだ」と言う人もいるけれど、70年間戦争をせずに日本人が3代にわたって守ってきたもので、血となり肉となっています。日本国憲法はもう日本の固定種≠ナす。堂々と誇りを持って将来に引き継いでいくべきです。

本気度問われる
 ―菅原文太さんは翁長さんの応援で「政治の役割で最も大事なことは、絶対に戦争をしないことだ」と訴えられ、感動を呼びましたね。
 がんの闘病中で体力も衰えていたなか、沖縄まで行って1万5000人もの人の前に立つのは、自分の限界を超えてやったことです。いま日本人は、そうした本気度が問われていますね。沖縄は戦後70年にわたって米軍基地を押し付けられ、何回もそのことを考えてきたので鍛えられてきたのだと思います。
 まず全国の力で安倍内閣の安保法制をつぶすことが大事です。これを崩せば勢いを止めることができる。本土も沖縄と思いを一つにして安保法制をやめさせる、世界が注目するようなたたかいをやらないといけないのではないかと思います。

辺野古基金
 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設に反対する運動を物心両面から支援する基金。共同代表は菅原文子さんのほか、映画監督の宮崎駿氏、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏、元外務省主任分析官の佐藤優氏ら9氏。寄付金は6月24日現在、約3万8000件、約3億6000万円になります。

 すがわら・ふみこ 1942年東京生まれ。立教大学卒。2009年山梨県北杜市で夫らと、農業生産法人・おひさまファーム竜土自然農園を設立。完全無農薬の有機農業を営む。
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2015年06月30日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/文科相の国立大学への国旗・国歌「要請」/「学問の自由を考える会」代表広田照幸さん(日本大学教授・教育学)

特定の授業に国が介入の恐れ/学問の自由・成果の尊重こそ
 安倍晋三首相が、国立大学の入学式、卒業式で国旗掲揚・国歌斉唱が「正しく実施されるべきだ」とのべた(参院予算委員会、4月9日)のを受け、下村博文文部科学相は16日、各学長に実施を「要請」しました。この動きに反対する「学問の自由を考える会」代表の広田照幸日本大学教授(教育学)に聞きます。
 (西沢亨子)

 「要請」をしないよう求めた「考える会」の声明は予想外の手応えで、1カ月で賛同が3000人を超しました。
 今回の問題で重大なのは、安倍首相が「新教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべき」だと「要請」の根拠に教育基本法を置いていることです。第2条(教育の目標)の「我が国と郷土を愛する…態度を養う」ですね。

一線越す口出し
 小・中・高校の場合、教育基本法をうけて学校教育法に同様の条項を置き、それをうけて学習指導要領に「国旗と国歌の意義を理解させ、これを尊重する態度を育てる」と定めた上で実施させてきました。
 ところが大学の場合、そうした法令上の根拠がありません。いきなり教育基本法を根拠に、大学の入学式・卒業式という具体的な教育場面で、国旗を揚げて国歌を歌えという具体的な教育内容に踏み込んできた。
 教育基本法を根拠に大学の教育の中身に国が口出しするのが許されれば、入学式だけでなく、特定の授業がたとえば「国と郷土を愛する」という教育基本法の条文に照らして逸脱ではないか、という話になりかねない。大学教育の中身に国が直接口を出すという点で、一線を越えるものです。
 大学には憲法23条で保障された「学問の自由」があります。「学問の自由」には「学問の成果を教授する自由」が含まれるというのが最高裁判決です(ポポロ事件、1963年)。自律的な学問が教育内容を決めるのであって、教育基本法の掲げる目標にそって教育しろとなれば大学教育が全く違うものになります。
 今、政府は国立大学の人文社会系の縮小を求めています。これも、時の政府の考えにそった教育・研究を大学に求める点では同じです。ただしそれは組織の見直しレベルの要求であって、具体的な中身を指示しようとするものではない。国旗・国歌要請は、政治的関心から政治家が乱暴に教育の中身に介入してきた点で異例です。これまでの大学統制のやり方とは異質で、新たな次元に入り込む分水嶺になりかねません。
 教育内容への介入で現実に心配されるのは、特定の教員の授業が狙い撃ちされることです。たとえば海外派兵の政策を批判的に吟味する講義をしたりすると、それが攻撃される、といったことも起きかねない。戦前起きたのがまさにそれです。矢内原事件(別項)では当時の東大総長が文部省によばれ、大学令の「国家思想ノ涵養」に照らして矢内原の言論はどうなのかと詰められた結果、総長が屈して、矢内原は辞表を書かされたのです。

予算で締めあげ
 大学への国旗・国歌押し付けに法令上の根拠がないのは下村文科相も認めていて、だからこそ「要請」にすぎない、と弁明しています。しかし今の国立大学は予算で締めあげられていて「要請」は大きな圧力になる。私が「考える会」の代表になったのも、国立大学で管理的地位にある大学人が発言しにくい状況がすでにあるからです。
 この間、国立大学の予算で基盤的な経費が削られ、各大学は「競争的資金」獲得に追われてきました。2000年代初め頃はまだ、基盤的経費の上のプラスアルファを競争的に配分するものでしたが、今は基盤的経費さえも競争的に配れとなって国立大学は浮足だっている。さらに大学評価がいろんな形で制度化されていて、国に物を言うと、それに影響して不利益を被らないか、大学に迷惑をかけないか、とみんな恐れている。大学の自治を細らせる構造ができています。
 国に統制され、権力に物言わぬ大学になると、物事を疑い、突き詰めて考えるのはやめようとなり、知的活力が衰えます。教育を通じ、物事を相対化したり批判的なものの見方を身につけ、新しい発見、新しい可能性を生みだす人間を社会に送り出すという役割も果たせなくなります。
 現政権には、「学問の自由」とともに「学問の成果を尊重しろ」といいたいですね。戦争法案について、国会で参考人の憲法学者が全員「憲法違反だ」と言っているのに、政府は「問題ない」という。学問の成果を全く軽視した憲法解釈、安全保障論議は、もう一つの大きな問題です。

矢内原事件
 日中全面戦争が開始された1937年、東京帝大の経済学部教授・矢内原忠雄の、戦争を批判した論文や講演が「国体精神に相いれない」と政府、国粋主義者、大学同僚に攻撃され大学辞職に追い込まれた事件。

 ひろた・てるゆき 1959年生まれ。東京大学教授などを経て日本大学教授。『陸軍将校の教育社会史』(サントリー学芸賞受賞)、『《愛国心》のゆくえ』『格差・秩序不安と教育』ほか。
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2015年06月17日,「赤旗」)

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文科相、国立大に「日の丸」「君が代」要請=^学長ら「国家の命令」批判

 下村博文文部科学相は16日、国立大学の学長が一堂に会する会議で、大学の入学・卒業式で「日の丸」掲揚と「君が代」斉唱を行うよう要請しました。下村氏は「各大学の自主的判断にゆだねられている」としながらも、「国旗国歌は、長年の慣行で国民の間で広く定着し、国旗国歌法が施行されている」などとして押し付ける姿勢を示しました。
 下村氏は、小中高校では学習指導要領にもとづき「国旗掲揚、国歌斉唱を指導している」と強調。国立大学に対して「適切なご判断をお願い申し上げる」と述べました。
 会議終了後、記者団に対して滋賀大学の佐和隆光学長は「(『日の丸』掲揚・『君が代』斉唱が)慣例になっているとは受け止めていない」と強調し、「(国立大学は)納税者に対して責任を果たすべきだが、国家の命令に従うべきではない」と語りました。
 掲揚・斉唱をしていない京都大学の山極寿一総長も「大臣は、適切に判断をといっているので、これまでの伝統を踏まえて適切に判断する」とのべました。
 「日の丸」「君が代」の強制は、思想・良心の自由、学問の自由などを定めた憲法に反するものです。1999年の国旗国歌法の制定時に政府自身、「強制や義務化はしない」と国会で答弁していました。しかも大学には小中高等学校のような学習指導要領もなく、大学の自治・学問の自由に対する不当な介入にあたります。(焦点・論点3面)
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2015年06月17日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/紛争地から見る戦争法案/長谷部貴俊さん/安田菜津紀さん

 安倍晋三首相は、海外での武力行使につながる戦争法案推進の理由の一つに、民間の国際人道支援活動に危険が及ぶことをあげています。紛争の現場を知る2人の方にこの「理由」についてどう見ているかを聞きました。

軍と一線画すことが安全守る/日本国際ボランティアセンター(JVC)事務局長長谷部貴俊さん
 ―安保法制=戦争法案の論議をどう見ていますか。
 いま議論されている法案は、自衛隊の派遣が許されなかった「戦闘地域」の概念をなくすとか、武器の使用も緩和されるなどきわめて危険な問題が多くあります。
 私は2012年までの7年間、アフガニスタン支援の現場にかかわりましたが、米軍・英軍とタリバンの激戦地があった一方、どこが前線でどこがそうでないのかの区別がつかないところが多い。地元の人でさえ難しいのです。昨年1年で戦闘に巻き込まれ犠牲になった民間人は国連によると3699人といわれ、前年比25%増ときわめて悪化しています。普通の人々が安心して暮らせる状況には程遠いのです。
 米軍、NATO軍の兵士もたいへんな緊張を強いられていました。米兵が金属音を聞いただけで銃を乱射してしまうとか、攻撃を恐れ間違って民間人を殺したりしていました。
 自衛隊をこうした地域に送ることは非常に危険です。交戦規定をゆるくしたら、極限の緊張状態の中で現地の人を殺す可能性は高まります。
 ―安倍首相はNGO(非政府組織)職員の絵をパネルで示し「彼らが突然、武装集団に襲われても自衛隊が救う」とくりかえしてきましたが。
 これは逆に危険ですし、多くは交渉で解決されています。「NGOを守る」ことを理由に海外での武力行使を正当化することは、やめてもらいたい。むしろ武力行使によって日本が失うものの大きさを見据えてもらいたい。
 私たちは国際協力NGOとして紛争地を含む国・地域で30年以上活動してきました。その経験と実践にもとづき、中立を貫く、武器を持たない、軍隊と一線を画す、そして現地の必要性にもとづく支援を原則に活動をつづけてきました。
 私も現地スタッフも、アフガニスタンで武器を持ちませんでした。そうすることで家族・親族を爆撃や戦闘で殺されている一般の住民が「この人たちは軍隊といっしょではないんだ」とわかってもらえる前提になります。支援地域のナンガルハル県(カブールの東)で、たとえば診療所の運営、学校と協力し女子生徒も対象としたけがの応急措置研修、マラリア予防など保健の母親教室をすすめてきました。
 大事なことは、まず村の長老にこれらの事業をおこなう理由をよく説明して理解を得ることです。事前に情報収集して危ないところにはいかないなどが安全の保障になってきました。
 欧米諸国は攻撃による地域の破壊とその後の「支援」を一体でやっていました。それだけに軍隊と一線を画す、日本なら自衛隊と一線を画すことが、私たち国際NGOの安全を守るために欠かせないことなのです。
 私たちが提言「紛争地の現実を直視し、武力行使で『失うもの』の大きさを考慮した議論を求めます」(昨年6月)を発表したのもそうした趣旨からです。
 ―NGOの活動にとって憲法9条はなんでしょうか。
 武力の行使を禁じた9条は理念だけでなく、紛争現場にのぞむ日本の関わり方を示してきたと考えています。それだけでなく今後9条をもとに、他の国ではできない支援を日本ができるという展望を持っています。各地の紛争によって住民が悲惨な状況に置かれていることを見ている私たちが、皆さんにこの真実をもっと知らせていきたいと思います。
 聞き手 山沢猛

 はせべ・たかとし 1973年福島県生まれ。大学院で農村開発専攻。JVCのアフガニスタン現地代表など歴任。2012年から現職。NPO法人つながっぺ南相馬理事。日本平和学会国際交流委員。

「攻撃しない国」が日本の強み/フォトジャーナリスト安田菜津紀さん
 ―紛争地で取材をしてきた立場から戦争法案についてどう考えていますか。
 アサド政権、反政府勢力、IS(過激派組織)との三つどもえの戦闘がつづくシリアの隣国ヨルダンの難民キャンプの取材を続けています。どんな戦争でも一番の被害者となるのは子どもたちです。爆撃のために頭に無数の手術の痕を残す5歳の少年アブドラ君は、私が帰国して1週間後になくなりました。最後に会ったときに、病床のアブドラ君が握り返してくれた手の感覚を今も忘れられません。
 中東へ行くきっかけとなったイラク難民の友人の言葉、「戦争を始めてしまうと僕たちはチェスのコマなんだ。チェスを動かす人間は決して傷つかないけれど、コマはどんどん傷つく。これが戦争なんだ」を思い出します。しかし、アブドラ君は決してチェスのコマではなく、意思を持ち、未来を持つ人間でした。軍事優先で多くの紛争地の人々を切り捨ててしまう戦争に加担するのが、この法案です。日本をそんな国にしてはいけません。
 ―日本が果たすべき役割は何でしょうか。
 一度武器を使い始めれば、対話の余地はなくなります。この法案が志向する武力行使は、相手のことを理解する道を断ってしまうことになります。憲法9条をもつ日本の役割は武力対武力の連鎖を断ち切ることだと思います。
 日本のNGOは今も、ヨルダンの難民キャンプで活動し、多くの人々に信頼されています。シリアの人たちは耳を傾け、民間の人道支援を受け入れてくれました。日本が、「どこも攻撃をしない国」だという認識が広くあるからです。今はまだ日本はそう見られています。しかし、今回の法案で、日本の立場が変わってしまいます。「どこも攻撃をしない国」「平和的な国」というこれまでの日本の強みを失うことになります。日本の立場が変われば、彼らは日本の支援活動を受け入れなくなるかもしれません。それどころか、攻撃の対象になっていく可能性もあります。「あなたたちの国もアメリカと同じか」ということになれば、これまで長く積み上げてきた日本の強みを自ら崩してしまう。それがこの法案だと思います。
 ―同世代の若い人たちに言いたいことはありますか。
 私と同世代やさらに若い高校生・中学生の中には「隣国から攻撃されたらどうするのか」ということから戦争法案に賛成する人もいるようです。しかし集団的自衛権の行使の一番の問題は、イラク戦争のようなアメリカの無法な戦争に日本が参加し、日本人が侵略の加害者になるかもしれないということです。加害者になる危険についての視点の弱さは、日本人が過去の侵略戦争でアジアの国々、そこに住む人々に何をしてきたのかを学ぶ機会が少なかったからではないでしょうか。
 安倍政権はこの法案が日本に何をもたらすか事実に基づいてきちんと説明していません。「他国の脅威」をいたずらにあおっているように思います。多くの若い人たちは今漠然とした不安を持っており、法案の正体を知れば必ず反対すると思います。
 聞き手・写真 若林明

 やすだ・なつき 1987年生まれ。2012年名取洋之助写真賞を受賞。著書『ファインダー越しの3・11』など。「サンデーモーニング」(TBS)のコメンテーター。
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2015年06月13日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/戦争は「平和」を掲げてやってくる/東京大学名誉教授(政治学)石田雄さん

憲法守る主権者の力を示すとき
 東大社会科学研究所所長を務め、日本軍国主義の背景や要因を研究してきた石田雄さん(91)。学徒出陣から復員後、東大法学部で丸山真男ゼミに参加、戦後政治学を牽引してきました。憲法9条全面破壊の戦争法案の審議も始まるもと、思いを聞きました。
 聞き手 中祖寅一

 もともと左翼文学少年だった自分が、軍国少年となり、軍隊での生活を通じ、終戦の時にはポツダム宣言を読んでも、どうして日本が戦争をやめるのか、隊員に説明できないほど理解力を失っていたのはなぜか―。
 私は戦後、どうして自分が戦争に加担したのかを反省、探求するために研究者となり、軍国化の要因について研究してきました。
 いま安倍晋三首相は、アメリカとの切れ目のない戦争協力の体制を進める一方で、「徴兵制になることは絶対にない」などと言っています。しかし、自衛隊に犠牲者が出れば、たちまち自衛隊の応募者が少なくなり、徴兵制になりかねません。私の孫の世代や、さらに若い世代の人たちに、また戦争で人殺しをさせることになる。そうなったら、私が戦後70年間勉強してきたことは一体何だったのか、生きてきた甲斐がない。大きな責任も感じます。せめて生きている間に、できるだけのことをしなければと思っています。
 警告したいのは「戦争」と「平和」という言葉の使われ方です。安倍首相の「積極的平和主義」という言葉には注意が必要です。
 積極的平和主義を、もし「ポジティブ・パシフィズム」と訳せば、あらゆる物理的暴力だけでなく、経済的搾取や貧困などの構造的暴力にも反対する概念です。しかし、安倍首相は決してそんなことは言いません。「積極的平和主義」を英語にするときには、「平和に貢献するために積極的に行動する」というように変えています。この場合の「積極的」ということは、実は「武力に頼る」という意味です。
 ■  ■
 安倍首相の言葉を聞いて、私自身も平和を望みながら軍国化の道に進んだことを思い出しました。
 1931年、小学生のときに満州事変が起こって以降、10年間、日本は中国での軍事衝突を「事変」と呼び、戦争ではないという建前で戦争し、多くの人を殺しました。
 私が影響を受けた戦前の哲学者・三木清でさえ、1939年に「今次事変の世界史的意義」として、時間的には資本主義問題の解決であり、空間的には東亜統一の実現にあると述べました。つまり欧米帝国主義とそれと結んだ中国をやっつける。そうすれば大東亜共栄圏ができ、平和がやってくるといった。左翼文学少年だった私は、貧困問題も解決できるのだと思って、軍国少年へと変わっていったのです。
 ところが二十歳になり軍隊に入ると、人を殺さなければならないことに気づきました。しかし、自分には銃剣や軍刀で人を直接殺すことはできない、海軍ならば遠くから撃つだけだろうと思って、海軍を志願し、結局、陸軍になりました。
 しかし軍の教科書を読むと、軍は戦闘する組織で上官の命令は絶対です。命令の是非を論じたり、理由を問うことは許されない。
 人を突き刺す突撃訓練をしながら、理由もなく殴られそれを叩き込まれます。いつでも誰でも、命令で人を殺す。命令に従わず殺さなければ陸軍刑法では最高死刑でした。
 言われたことに対し問いかけが許されない状況に追い込まれ、例えば「平和のための戦争」に異を唱えられない一方的な関係になると、人の思考能力が失われ、組織や社会全体が動かなくなります。
 戦争と軍隊は人の思考能力を奪う。言葉の意味を問うことを許さない軍事的社会と戦争は、人の理解力を奪ってしまうのです。
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 さらに言論が制限され人々の行動の範囲が狭くなるもとで、「特攻隊を志願するものは?」と聞かれると、競って一歩前に出るようになります。そのような忠誠心の競争が起こると、最後は支配者をも自縄自縛にして、いったん始めた戦争をやめるにやめられないことにもなる。実際、戦争末期にはそういう状態になりました。
 今、特定秘密保護法や政府の言うとおりに教科書を書かせる、日の丸・君が代の強制などが起こっています。安保法制を「戦争法案」と批判したら議事録から削除するという脅しもありました。これら言論の統制、思想動員の動きは、戦前の教訓から見て非常に警戒すべきです。
 安倍首相には取り巻きがいて、右翼的な世論を煽って人気を取ろうとするけれども、それで自縄自縛に陥って、首相自身、引っ込みがつかなくなる危険もあります。
 戦前と比べ、現在はより悪くなったところもあることに注意を向けたい。日独伊三国同盟の中で、日本は決してドイツに従属していたわけではありません。しかし、現在、日本はアメリカに従属する安保体制のもとにあり、4月末のガイドライン(軍事協力指針)でも、世界中のどこへでも出かけて、アメリカに切れ目のない戦争協力をすることになっています。
 より怖いのは、グローバル化した世界で、アメリカの武力行使に加担すれば、世界中で報復を招く。日本人が世界中でテロにあう危険が高まることです。国内50カ所以上の原発が狙われれば、核攻撃を受けるのと同じです。今までより報復の危険が大きい。危険になるのは自衛隊員だけではないのです。
 一方、戦前との決定的な違いもあります。
 戦前は天皇主権だったのに対し、現在は国民主権の時代であり、平和憲法を武器にして国民が声を上げていけば、十分抵抗していくことはできます。みんなで声を上げ、行動し、安倍政権の戦争政策を批判することです。
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 さらにいま差し迫っているのは、憲法9条をどうするかという当面の闘争の問題です。
 重要なことは、9条は、それだけでは書かれた文字にすぎないが、それを生かすのは主権者の力だということです。
 9条をめぐっては自衛隊を合憲とするか、専守防衛を認めるか、PKO(国連平和維持活動)で派遣しても武器を使わないなど、いろいろな段階がある。憲法の解釈論でもありますが、どこまで認めるかは、最後は世論の問題です。
 90年代以降、海外派兵が拡大し既成事実がつくられました。イラク派兵は、実際には違憲ですが、ぎりぎり自衛隊が直接殺すことはなかった。それに歯止めをかけたのは、憲法9条を生かそうという主権者の運動の力です。いまその力が問われている。
 公明党は「新3要件」は歯止めだといっていますが、時の政府の判断に任せる限り、全く歯止めにはなりません。彼らに明確な歯止めを示せなければ、次の選挙で負けると世論の力でわからせる。どこまで与党に圧力をかければ、世論による歯止めを実際に機能させられるか、ここを突き詰めていく必要があります。
 私たちには、長期的な課題もあります。
 言論統制や思想動員が強まる中で、言葉の創造的機能が失われないようにする努力が必要です。そのために人々が絶えず問いかけ、自分と違った意見と交流し、自分の思考を確かめる。自分よりも不利な状況にあり発言しにくい人の立場にたって、すべての人が発言できるように努力する。現在では非正規労働者など、深刻な状況に追い込まれ、言葉を発することが難しい人々の存在を考えることも重要です。
 その努力によって初めて、思想と言葉の本来の機能が発揮されるのではないでしょうか。そうした社会の動きがある限り、希望は持てます。いまいろいろな草の根運動が起き、考える空気が大きくなっていることは希望です。共産党にはそれを支え、励ますような役割を積極的に果たしてもらいたいと思います。

 いしだ たけし 1923年青森市生まれ。1949年東大法学部卒業。東大社会科学研究所教授、同所長、千葉大学教授などを歴任。その間、ハーバード大学(米国)、オックスフォード大学(英国)、ダル・エス・サラーム大学(タンザニア)などで研究、教育。著書に『明治政治思想史研究』(未来社)、『日本の政治と言葉 上下』(東大出版会)など多数。
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2015年06月01日,「赤旗」)

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5月

2015焦点・論点/戦争法案をどう阻止するか/一橋大学名誉教授渡辺治さん

米国の意受け憲法破壊、「大国」狙う/列島揺るがす国民的共同を急速に
 米国が世界で起こすどんな戦争にも、いつでもどこでも自衛隊が参戦・支援できるようにする「戦争法案」。安倍内閣の憲法9条徹底破壊の狙いと、これを阻止するためにどのようにたたかうべきなのかについて、一橋大学名誉教授の渡辺治さんに聞きました。
 (中祖寅一)

 戦争法案は、あらゆる形でアメリカの戦争に加担するものです。戦時だろうと、平時だろうと、いつでも。戦場だろうと、どこへでも。国連決議があってもなくても、どんな戦争にも。弾薬の輸送・提供から武器の輸送、修理や医療、道路建設まで、なんでも。集団的自衛権の行使で、アメリカの戦争に直接参戦する道も開きます。
 戦後70年、自民党政権下ですら維持されてきた「海外で戦争しない」という原則、戦後日本がアジア諸国から受け入れられる要因となった「国是」を、くつがえすものです。
 憲法を守れという強い国民の声に押され、自衛隊の活動に厳しい制約を課すことで自衛隊を合憲としてきた自民党政権下の憲法の解釈を、自ら根本的に否定する「改憲」にほかなりません。
 重大なのは、戦争法案が成立すれば、直ちに米国側から戦争加担を求める要求が噴出する可能性があることです。シリアやイラクをはじめ中東などでの米軍の軍事支援、南シナ海での中国による力ずくの現状変更の動きを念頭においた共同監視活動、軍事演習への参加の要請、圧力です。
 いわゆる米ソ冷戦終結後の四半世紀、アメリカはずっと世界で戦争し続けてきました。国連を無視した単独行動でアフガン、イラクなどで大戦争をし、大破綻しました。その結果、国家財政の破綻、国内の厭戦・反戦世論で米国自身が戦争政策をこれまでどおりには続けられなくなり、国際世論も大きく変化しました。
 しかし、だからといって米国は世界の覇権を放棄することはありません。そこで登場したのが、「肩代わり」戦略です。アジア・太平洋地域では今まで以上に日本を全面的に従属させるだけでなく、中東まで含めて「世界の」秩序維持に日本を使っていく。それを示したのが、4月末の日米新ガイドライン(軍事協力指針)でした。
 こうした米国の意を積極的に受け入れることで自らも海外に派兵する「大国」になる、これが安倍政権の戦争法案のねらいです。

改憲の本命
 戦争法案は、憲法9条を破壊する改憲の本命だ、ということを明確につかむことが重要です。9条の明文改憲に反対する人々でも、戦争法案は本命の9条明文改憲のさきがけ、前哨戦だと思う人もいますが、違います。
 今度の法案は、自民党政権の下でも政府解釈で維持してきた9条による自衛隊活動に対する歯止めをすべて壊し、9条の規範的意義を解体する解釈・立法による改憲そのものです。戦後政治が根本から変わります。
 もちろん法案を強行できたら、安倍首相はそこに止まらず必ず明文の改憲に向かうでしょう。戦争法案と並行して、安倍政権は、2016年の参院選以降の改憲発議を狙い、憲法審査会で改憲原案作りへ向け動きを始めています。それは戦争法案でつくった戦争体制を完成させるものとなります。憲法9条に手をつけずに法律で9条の中身を壊し、あとから明文改憲を、というやり方です。
 実はこのやり方は、安倍首相自身が、第1次内閣のときに「戦後レジームからの脱却」を掲げ、明文改憲に挑戦して失敗したことからの教訓です。
 「九条の会」が全国7000に広がり、世論が大きく「反対」に動き安倍首相の改憲路線は挫折した。首相の祖父の岸信介も、明文改憲を提起して大きくつまずいた。そこで安倍首相は、9条はいじらずに、まず閣議決定で政府解釈を変更し、法律で9条の解体を進め、明文改憲へと進む「戦略」に的を絞ってきたのです。
 戦争法案は、安倍首相にとっても「この道しかない」という正念場で、彼らも不退転の決意です。私たちにとっても、憲法を守ることができるか否か、今が正念場だということです。この戦争法案を阻止すれば、彼らは明文改憲に進むことはできなくなりますし、逆に、万一通せば、一気に明文改憲にまで踏み込んでくるからです。

3万人集う
 安倍首相は、一括法案という形で、国会での多数をたのみに、法案を提出した途端に一気に押し切る構えです。これは軽視できませんが、安倍首相の最大の弱点は、彼が「失敗」から学んだと言っても結局、最後まで本当の国民の力、運動の力の怖さを理解できないことです。それを私たちが示せるか、大きな勝負どころです。
 戦争法案を阻むには、9条の破壊に反対する広大な国民の共同を急速につくることが不可欠です。
 5月3日には横浜で、非常に幅広い団体、個人が共同し3万人の大集会が持たれました。近年ではかつてない共同の動きがすすんでいます。これをいっそう強めなければなりません。全国津々浦々、全ての地域でこうした動きをつくり、急速な形で国会を包囲する。
 国会外での国民の声と、国会内での戦争立法を追及、共闘する動きの両方がどうしても必要です。
 国会で自民、公明が多数を持っている状況はありますが、列島を揺るがすような保守層も含む広範な国民運動と、国会内の政党の共闘が連動し、与党議員への包囲を強めれば、法案の強行を止めることができます。
 古賀誠氏や河野洋平氏など、かつての自民党領袖が公然と懸念を語っています。その背後には、自民党現役議員層の不安、分厚い自民党支持層、保守層の懸念があります。この保守層に積極的に共同を呼びかけていく。

地域の怒り
 とくに強調したいのは、地域には、戦争への不安と同時に、TPP(環太平洋連携協定)、原発再稼働など安倍政権のくらし破壊に対しても怒りが鬱積していることです。中央の大手メディアでは戦争法案に「賛成」と「反対」が真っ二つに割れていますが、地方紙に目を移すと、実に41紙が集団的自衛権の行使に「反対」し、法案の閣議決定後も厳しい批判論評や社説が相次いでいます。大都市とともに地域を根城にした運動が戦争法案を追い詰める鍵です。
 7000を超える九条の会の多くは、職域や分野別の会を含めて、それぞれの地域に根を張って活動してきました。今こそ出番ではないでしょうか。
 さらに、戦争法案を阻むたたかいは沖縄の辺野古新基地建設を許さないたたかいと、車の両輪でたたかう必要があります。アメリカの戦争に加担する「海外で戦争する国」づくりは、辺野古の新基地建設、沖縄のアメリカの戦争拠点化と一体だからです。
 この二つのたたかいは、「安保は日本の平和に役に立っているのか」という問いを改めて提起していることに注目する必要があります。戦争法案は日米安保条約の範囲を拡大し、世界中どこでもアメリカの戦争に日本が加担する体制をつくろうとしています。辺野古新基地建設は、安保のグローバル化に伴う米軍再編の一環として強行されようとしています。安保と基地では平和は守れないという声をあげていく必要があります。
 戦争法案をはばむことは9条の生きる日本、9条の生きるアジアをつくる第一歩となります。9条に基づく「安保のない日本」「武力なき平和」に向けた私たちの構想も大きく語り広げていくときです。

 わたなべ・おさむ 1947年東京生まれ。現在、一橋大学名誉教授(憲法学、政治学)、「九条の会」事務局。
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2015年05月17日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/2030年の電源構成比率どう考える/関西大学准教授安田陽さん

ベースロード電源は前世紀の発想/再生エネが世界を変えている
 東京電力福島第1原発事故から4年、安倍政権は2030年までの電源構成比率を決めようとしています。4月末に発表された経済産業省の原案(審議会で了承)は、2割台の原発比率を維持する一方、再生可能エネルギーの導入には消極的です。日本風力エネルギー学会理事の安田陽・関西大学准教授に聞きました。
 (聞き手 佐久間亮)

 ―経産省案は30年時点の原発比率を20〜22%としています。根拠としているのがベースロード電源(ベース電源)です。欧米ではベース電源の比率が6割以上なのに日本は4割なので、足りない分を原発で埋めるといいます。
 そもそもベースロードとは、日々変化する電力需要に対し常に一定の出力を要求される電力の最小の量のことで、これを供給する電源がベースロード電源と呼ばれます。電力工学の基本的な概念で、一般に原発のほか石炭火力、流れ込み式水力、地熱がこれにあたります。私も大学の授業ではそのように教えています。(図@)

日本独自の定義
 それに対して、昨年閣議決定されたエネルギー基本計画などでは、ベース電源について「発電コストが低廉で、安定的」という日本独自の定義づけが行われています。
 また、同省の長期エネルギー需給見通し小委員会資料では、カナダ、米国、フランス、オランダなどではベース電源の比率が80〜100%に近くなっています。最小の量を担うはずのベース電源が80〜100%というのは、電力工学の見地からは想像できません。
 さらに、基本計画ではベース電源に入っていなかった天然ガス火力を、天然ガスの自給率が100%超の国ではベース電源に含めるなど、首をひねる記述もみられます。
 このように経産省は学術的でない定義を使って、なんとしてもベース電源が重要だという結論を導き出そうと、お粗末な議論を展開しています。
 ―ベース電源は今後も有効な概念なのでしょうか。
 世界で再エネの普及が進むなか、ベース電源は古典的な概念となり、消え去りつつあります。
 欧州連合(EU)では、再エネ電力を優先的に供給する「優先給電」がEU指令で義務づけられており、出力抑制の必要があるときは、石炭火力や原発から抑制しなければなりません。欧州では石炭火力を需要や再エネに追従する形で変動させている国が多くありますし、フランスやドイツでは原発もそうなっています。(図A)
 一方、日本の固定価格買い取り制度(FIT法)は優先給電を明記していないうえ、原発より前に再エネを出力抑制することになっています。再エネに対する理念が欧州とは全く逆になっています。
 面白いのは、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)が12年にだした報告書の中で、原発は一定の出力で動かすのではなく再エネの出力に合わせて変動させることが可能なので、原発は再エネの大量導入に貢献できると書かれていることです。そこには昔ながらのベース電源の姿はありません。
 ―原子力業界が自らベース電源の立場を放棄したのですか。
 放棄というより、ベース電源に固執していては生き残れないのでしょう。NEAの報告書はとても面白いのですが、日本ではほとんど紹介されていません。こと電力に関しては、海外情報が的確に日本にもたらされていない気がします。
 いまごろ日本でベース電源という指標を持ち出すこと自体がナンセンスだし、時代の潮流から取り残されています。
 ―経産省案では30年の再エネ比率は22〜24%で、そのうち太陽光が7%、風力はわずか1・7%です。
 FIT施行後の各国の動向をみると、スペインでは施行から15年後に風力発電だけで10%の導入率(年間の総発電電力量に対する割合)を達成しています。ポルトガルはわずか10年で達成しています。
 経産省案では、FIT施行後18年かけて2%未満しかなく、あまりに情けない数値です。世界では再エネの高い目標を設定し、そこに向かってなにが必要かを議論しているのに、日本の目標は再エネの導入を抑えるキャップになっています。

コストを見ても
 ―「再エネは非効率・不安定・高コスト」の大合唱が続いています。
 再エネは自然界のエネルギーをちょっとおすそ分けしてもらって発電するので、そもそも効率が悪くても問題ない発電システムです。火力などの場合は、土のなかに埋まっていたものをわざわざ持ってきて、そのうち4割しか使われず6割は熱で捨てることになります。だから効率性が問われてくるわけです。質が異なるものを比べること自体ナンセンスです。
 エネルギー収支でみれば風力発電は非常に優秀です。機械の製造や設置に要したエネルギーは1年以内に回収できます。
 また、再エネは不安定だと言われますが、風力や太陽光のような変動する電源を電力系統全体でマネジメントするのが21世紀の電力技術であり、それができないというのは21世紀に対応する技術力がない国だと言われかねません。
 ―経済界からは、再エネ導入で電気料金が高くなると、円安になっても産業空洞化が止まらないという声も聞こえてきます。
 コストの平均値をとれば、再エネは現時点では火力より高くなっていますが、風力でも石炭火力より安いものもあります。一方、これから環境規制が強まっていくことを考えれば、火力は今後安くなることはありません。原発も事故が起きればコストは青天井です。再エネが高いと攻撃するのではなく、どうすれば安くできるか、技術革新を起こせるかを議論すべきです。
 また、再エネのせいで電気料金が上がったというのも十分検証が必要です。増税や石油価格の上昇といった他の複合要因を無視して、全ての責任が再エネに押し付けられています。むしろ再エネの導入が進めば電力市場価格が下がるということが欧米では明らかになっています。
 さらにコストだけでなく「便益」(リターン)も考えることが重要です。今の世代の投資は、次世代への贈り物となるのです。
 ―欧米では安全保障の観点からも再エネの導入が進められているといわれます。
 欧州があれだけ洋上風力にこだわっているのは、ひとえにロシアの天然ガス依存から抜け出すためです。欧州風力エネルギー協会は20年までに原発20基分、30年までに80基分の発電電力量を洋上風力で賄う目標を出しています。米国で風力の導入を急いでいるのも中東依存から脱却するためだとみられます。
 環境面だけでなく、再エネは国の存亡をかけた国家戦略になっています。世界から見ると、日本は生き残る気があるのかとなります。
 福島原発事故という痛苦の経験をしながら、前世紀の発想のままエネルギー政策を決めれば、日本の将来に大きな禍根を残すことになると思います。

 やすだ・よう 1967年生まれ。国際エネルギー機関(IEA)Wind Task25(風力発電大量導入)、国際電気標準会議(IEC)TC88/MT24(風車耐雷)などの国際委員会メンバー。著書に『日本の知らない風力発電の実力』(オーム社)など
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2015年05月08日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/安倍壊憲政権に立ち向かう/憲法学者森英樹さん/戦争はごめん$Sの底からの決意

いまこそ憲法の初心に立って
 68回目の憲法記念日にあたり、憲法をめぐる状況について、憲法学者の森英樹さんに聞きました。
 (佐藤高志、中祖寅一)

 4月27日に日米新ガイドライン(軍事協力指針)を政府間合意し、日米が世界中で切れ目のない軍事協力を進めることが確認され、これと並行して与党幹部内では大筋合意された「戦争立法」の法案化作業に日本政府は正式に突入しました。
 この容易ならざる事態の中で迎える今年の憲法記念日は、例年と質的レベルを異にするといわざるを得ません。「戦争立法」=壊憲の先に、文字通りの改憲を公言する安倍政権のもと、それこそ「壊憲から改憲へ」という「切れ目のない」憲法敵視策のただなかで迎えることになるからです。

戦争への道が焦点に/深刻なめぐり合わせ
 しかも、戦争への道が、あろうことか「戦後70年」の今年の政治的焦点になる深刻なめぐり合わせです。
 安倍首相は今でも自身のホームページで、「憲法を頂点とした行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組み」を「戦後レジーム」と呼び、そこからの「脱却」を叫び、「脱却を成し遂げるためには憲法改正が不可欠」とほえ続けています。憲法が命じた尊重擁護義務違反にほかなりません。
 政府は昨年7月の「閣議決定」で、長年、「憲法上許されない」としてきた集団的自衛権の行使について、その限定を破り容認に転じました。
 とんでもないのは、それだけではありません。これまで武力行使になるとしてきた「戦闘地域」での「後方支援」に、自衛隊が踏み込みます。さらに「戦闘現場ではやらない」という新しい地域制限にも「例外」を設け、ここで「捜索・救助」活動も行うと言い出しています。これは昨年の「閣議決定」を早くも「乗り越え」るものです。
 明文改憲がなかなかできない中で、憲法9条と国民の運動が、自衛隊のあり方や、活動にさまざまな限定を押し付けてきました。
 いま安倍首相が明文改憲を迂回しつつ、そうした「限定」を次々と壊す動きの中で、私たちの「批判・対抗の基軸」をどこに置くかが重要です。
 ここで私たちは憲法の初心に立ち、戦争と武力行使、武力による威嚇と軍事力の保持を根底から否定する構えに立つことが必要だと思うのです。その初心こそが政府の動きに「限定」をもたらしてきた根源だからです。

正しいことぐらい強いものはない
 憲法9条の根底にあるのは、戦争に明け暮れた国民の被害体験と、アジア諸国民への深刻な加害への反省から、もう戦争はごめんだという心の底からの決意にほかなりません。憲法の制定過程には紆余曲折がありますが、この9条を受け取った国民は「これでもう殺し合うことはない」と心底から安堵したのです。9条はすべての「戦争、武力行使、武力による威嚇」を「永久に放棄」し、そのためにすべての「戦力」の不保持と交戦権の否認を決めています。
 どう読んでも「丸腰でいこう」という高貴な決意です。9条制定当時から「丸腰ではどうも」という懸念の声はありました。
 しかし当時の、自民党の先輩たちによる政府は「みなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの国よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません」と説いていました(文部省『あたらしい憲法のはなし』1947年)。
 これがぐらつくのは50年の警察予備隊設置からです。この再軍備が54年の自衛隊設置に及ぶや、政府は、わずか7年前に「正しいこと」と断言した見地を捨てて、憲法を変えようとしました。しかし国民の反撃にあって55年総選挙でも56年参院選でも、護憲の声が両院ともに3分の1を超える議席として結実し、改憲は失敗します。すると今度は解釈を変えて「必要最小限の個別的自衛権」保持・行使なら憲法に違反しない、と言い始めました。
 いま、憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を合憲にしようとする「解釈改憲」が問題になっていますが、実はもう前科があるのです。ただ、9条があり、「正しいこと」と言い切った最初の解釈があるので、これを気にして、せめて海外に出て戦争することはしない、という「専守防衛」の「歯止め」を維持してきました。
 ここを崩そうとするのが今の解釈改憲です。その意味では、1月末に急逝された「九条の会」呼びかけ人で憲法研究者の奥平康弘さんが、生前最後の対談で指摘したように「九条は自衛隊設置を許した『個別的自衛権』で歪められ、『集団的自衛権』で無くされようとしている」(『季論21』26号での堀尾輝久氏との対談)のです。
 安倍首相は、9条を壊すのに「積極的平和主義」なるものを持ち出しています。平和学では、戦争のないことを消極的平和と呼び、戦争の原因になる貧困や差別や搾取などの構造的暴力をなくした状態を「積極的平和(positive peace)」と呼んできました。ところが、言葉は同じでも安倍さんの「積極的平和主義」はまるで違います。安倍流「積極的平和主義」は、対外的には首相の米議会演説でもそうだったように「proactive contribution to peace」と発信していますので、訳せば「平和のために先手を打って貢献すること」と言ったほどの意味合いですが、これは、湾岸戦争(91年)あたりから盛んに言われた「一国平和主義」批判のなかから登場した軍事的「国際貢献」の発想です。
 ここには構造的平和という発想がありません。国際紛争は何らかの構造的理由で起こるのですから、それをひたすら軍事力で「解決」しようとしても真の解決にはなりません。憲法前文の言うように、「全世界の国民が恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する」という構造的平和をつくりだすことこそが「積極的」な紛争解決の道なのです。

外交をはじめ努力を9条が要求している
 こうした姿勢に対しては、最近の北朝鮮の核開発の動きや中国の軍備拡大など東アジアの情勢の展開の中で、再び「理想に過ぎる」という批判が絶えないのも事実です。
 これに対しては、昨年の本紙(9月18日付)で、憲法学界のオピニオンリーダーである樋口陽一さんが語っていた、「攻められることはない、絶対に安全だという論証はできません。絶対安全という論証ができないことを国是とし、それほどの決心を求めたのが9条」であり、「他国から攻められることのない、外交をはじめその前提をみたす努力を要求しているのが9条」という視点が、いま、とりわけて必要でしょう。9条が選び取った、重いけれども高貴な、大いなる努力を求める道です。
 アフガン、イラク戦争に見られた、米国による単独行動主義は大破綻を遂げました。「武力で平和はつくれない」ことに、現実の共感が広がっていることも事実です。IS問題はじめ、困難もありますが、その中で、9条が選び取った大いなる努力の道を進むことに大きな確信を持つことが大事なのです。
 もり ひでき 1942年、三重県生まれ。憲法学。名古屋大学名誉教授、日本民主法律家協会理事長、憲法会議代表委員。
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2015年05月03日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/「残業代ゼロ」何をもたらす/大阪市立大学名誉教授西谷敏さん/弁護士中村和雄さん

 過労死の促進につながる「残業代ゼロ」制度=「高度プロフェッショナル制度」の創設をねらう安倍政権。労働基準法改悪案を閣議決定し、国会に提出しました。「残業代ゼロ」制度は、働き方にどのような影響をもたらすのか。制度のモデルがある米国の実態はどうか。2人の識者に聞きました。
 (行沢寛史)

働き方の根幹を掘り崩す/大阪市立大学名誉教授西谷敏さん

 労働時間の問題を考える際のポイントは何か。私は、「労働は1日8時間」という原則を確認することから出発すべきだと思います。

社会全体にゆがみが
 8時間労働制は、1日を三分して、8時間働き、8時間休息(睡眠)をとり、そして8時間の自由時間を享受するというものです。つまり、働きながら、家族や友人と過ごす、あるいは自分の趣味や社会的活動などの時間を保障するという重要な原則なのです。
 ヨーロッパやアメリカの労働運動は、長年の血のにじむような努力の結果、8時間労働制を獲得してきました。現在、EUでは残業を含めて週48時間が最高限度になっています。
 日本ではどうでしょうか。労働基準法で1日8時間とされていますが、残業協定=三六(さぶろく)協定により、労働時間の歯止めがなくなっています。週60時間以上働いている労働者がたくさんいます。
 日本の長時間労働の弊害はとりわけ過労死、過労自殺という極端な形で現れています。過労死の根絶は緊急の課題です。
 しかし、長時間労働は、過労死や健康破壊の原因になるだけではありません。それは、労働者の自由な人間らしい生活を妨げ、社会全体に大きなゆがみをもたらします。その観点から長時間労働を見直すべきです。
 いま必要なのは、いかにして長時間労働に歯止めをかけ、8時間労働制を現実のものとするかです。安倍政権は、この課題に逆行しています。
 労働基準法改悪案のポイントは二つあります。一つは、裁量労働制の対象範囲の拡大です。これは、長時間労働をさらに助長することになります。
 最大の問題は、「高度プロフェッショナル制度」の創設です。労働時間制限を受けず、時間外手当支払いなどの規制を適用除外にする労働者をつくるものです。
 前回2007年にホワイトカラー・エグゼンプションの導入に失敗したことを反省したのでしょうか。「時間ではなく成果で評価される働き方」などと、わざとわかりにくい表現でごまかしています。しかし、「いくら残業させても残業代は払わない」という本質は変わりません。
 残業代の支払いは、労働時間を短縮するための規制と、長く働いた分の補償として賃金を支払うという二つの意味があります。
 「高度プロフェッショナル制度」の対象とされる年収1075万円以上の労働者であれば、なぜこの二つの意味をもつ残業代を支払わなくてもよいのか。政府の説明はいずれも納得できる根拠を示していません。
 また労働者には、自らの裁量で仕事をすすめるという条件もありません。長時間労働を命じられても拒否できないのです。

8時間労働制の否定
 この制度が認められれば、8時間労働制が正面から否定され、労働基準法の体系が崩壊しかねないと思います。
 労働基準法をはじめとする労働法は、労働者を保護するために企業の行動を規制する法律です。規制の緩和は、労働者に大きな影響を及ぼします。労働者は当事者なのです。規制緩和を防ぎ、労働法を強化するには、労働者、労働組合の強大な運動が必要です。

モデルの米国は規制強化/弁護士中村和雄さん

 今年1月、日弁連調査団の一人として、米国の労働時間法制を調査してきました。米国には、「高度プロフェッショナル制度」のモデルであるホワイトカラー・エグゼンプション(WE、労働時間規制の適用除外制度)があります。
 その米国はいま、労働時間規制を強化しようとしています。
 米国では1938年に公正労働基準法が制定されて以来、WEが導入されてきました。現在、対象となるホワイトカラー労働者は、週455j(5万4600円)以上の収入とされています。月収で22万円弱、年収で262万円程度です。米国のホワイトカラー労働者の9割近くが、WEの対象になるといわれます。
 米労働省はこの十数年間で、適用除外とされる労働者の広がりと長時間化を懸念していました。
 実は米国では、ブッシュ政権下の2004年に労働統計がとられなくなり、正確な実態がわからないのです。しかし、オバマ大統領は昨年3月に出した覚書で、WEの見直しを指示しました。内容は、年収要件などの引き上げ、対象労働者の要件の明確化です。
 これを受けて、米労働省は、近く省令の改正案を出す予定です。
 改正の背景には、労働時間をめぐるいくつかの問題があります。

あきれた日本の議論
 一つは、労働時間規制の適用から外れている労働者は、規制が適用される労働者より長時間働いていることです。米会計検査院の1999年調査では、WEの労働者の方が、労働時間が長いのです。
 そこで調査団員が米労働省の担当者や組合の幹部に「日本では、残業代を払うから『ダラダラ残業』となり、残業代をなくせば定時に帰るという意見がある。どう思うか」と質問しました。すると「経営者は残業代を払わなくていいなら、いくらでも残業させる」「日本ではなんてバカな議論をしているんだ」と、あきれていました。
 もう一つは、WEの対象となる労働者が不明確になっていることです。米国は、日本よりも職務が明確で、WEの対象労働者も細かく定められています。しかし、WEとされた労働者が、対象として適格なのかという問題が噴出し、2013年には残業代をめぐる訴訟が全米で8000件近く起きています。
 日本では、職務がよりあいまいです。いくら省令で細かく定めても、対象要件を満たすのか、という問題はつきまとうでしょう。経営側の弁護士からも、高額訴訟が提訴される危険が高まるとの懸念がすでに出ています。

大幅賃上げで時短を
 日本で労働時間規制の適用除外制度を導入することは、長時間労働が深刻な問題となっている日本の実態にも、米国のこうした動きにも逆行しています。
 いま米国では、最低賃金引き上げを求める動きが強まっています。これは、1日8時間労働でも、生活できる賃金の保障を求める運動として、労働時間の問題とも結びついています。日本でも長時間残業の温床になっている固定残業代がついて初めて、まともにくらせる賃金になる例はたくさんあります。労働時間の短縮にとっても大幅賃上げが必要です。
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2015年05月01日,「赤旗」)

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4月

2015焦点・論点/大阪市廃止をなぜ暴挙というのか/大阪市立大学名誉教授宮本憲一さん

市解体で都市問題解決しない/自由な市民の都市に誇りを
 橋下徹大阪市長の「大阪都」構想に基づき、17日に同市の有権者に問われる大阪市の廃止と五つの特別区への分割についてどう考えるか―。長年、地方自治を研究してきた宮本憲一大阪市立大学名誉教授に京都市内の研究室で聞きました。
 (聞き手・藤原直)

 ―維新の会が「都」構想と呼ぶ大阪市廃止・分割案についてどうお考えですか。
 大阪市は歴史的に形成されてきた日本を代表する大都市であり、24区のコミュニティーを基盤とした自治体です。これを廃止するのは極めて乱暴なことであり、暴挙だと考えています。
 私は京都市民ですが、京都の市民に「京都市をなくして、いくつかの区に再編してもよいですか」と尋ねれば、ほとんどの市民は反対します。神戸市でも同じです。現に大阪府の堺市の市民も市の廃止に反対しました。
 当初、「都」構想を政令市改革の一案として議論していた専門家の間でも、具体化された現在の未熟な案には、これを一般的に評価するほどの関心すらなくなっています。
 具体的には、やはり財政調整に大きな問題がありますね。現在の市のかなりの税源が府に取られる。しかも府から特別区に配る交付金の配分割合の決定権は府にあります。5区の意見が十分に反映されるか疑問があるし、吸い上げられた財源が特別区のために使われる保証もありません。
 120もの事務が、住民の声が届きにくい一部事務組合に任される。これだけでもこの構想は間違いだと普通なら判定しますよね。
 とくに大阪市をつぶすという橋下氏の個人的な目的が先にあって、なぜ大阪市が廃止されなければいけないのか、大都市を分割していいのかという基本的な問題がまったく議論されていない。それが私は非常におかしいと思っています。
 そもそも大都市には集積の利益と言われるメリットがあります。近代社会では経済や医療、高等教育、文化といったものが、一定の人口規模や経済的な諸力がなければ成立しません。ですから、どの国でも大都市が形成され、一国の華をなしています。大都市は全国に発信する文化や経済の核を育てるゆりかごです。その発展は一国にとっても重要な意味をもっています。
 他方、大都市には集積によるデメリットもあります。貧困や公害、住宅難や交通渋滞といった都市問題です。この影の部分を直すのが都市政策です。
 大都市のメリットを維持しながら、都市問題を都市政策で改善していくのが都市行政の基本です。それなのに、角を矯めて牛を殺すようなことをしてどうするのか。市を解体しても都市問題は解決しません。しかも、いったん壊してしまったら、単に市民にとってだけではなく、一国全体に大きな不利益をもたらすことは間違いないわけです。
 大阪市を五つの特別区と府に分けると、市の都市政策に関わってきた優秀な人材も、その蓄積もバラバラになります。辞める人も出てくるでしょう。区行政が落ち着くまで恐らく数十年はかかる。サービスが落ちるのは目に見えています。

 ―では大都市において今、本当に必要なこととは何でしょう。
 まず、都市政策というものを、もっと市民の福祉を向上させるために行うべきだということ。そのためにも、住民参加の仕組みを充実させなければならないということです。
 大都市において住民の声をどう行政に反映させるかという課題は各国共通しています。しかし、そのために大都市を廃止して分割した例はないわけです。
 どうしているか。例えばニューヨーク市では、59のコミュニティー委員会に50人ずつの委員が選ばれ、市議会とは別に市政に参加する仕組みをつくっています。ここで議論されたことはかなりの割合で予算にも反映されています。イタリアにも地区住民評議会という制度があります。
 日本の政令市でも内部に区自治協議会を設置したところもあるし、行政区を総合区に格上げすることなどができるようになってきたので、各都市で市民自身が地域に合った住民参加の仕組みを考案していけばいいのです。

 ―橋下氏は1990年代に府と市がそれぞれ建てた高層ビルを「二重行政」と批判し、政令市である大阪市が大きな予算をもち府と似たような仕事をするから無駄が起きると主張しています。
 それも間違いです。そのビルが両方とも破綻したのは事実ですが、それは二重行政の失敗ではなくて、それぞれの行政の失敗にすぎません。
 市をつぶして、府知事という「一人の指揮官」をつくるという考え方自体がよくないんですよ。やっぱり府があれば、市も市議会もあり、市民がいるんでね。例えばカジノの誘致問題で府知事と市長の意見が違ったって構わないんですよ。
 ただ、いまだに少なくない市民が橋下氏の構想に期待を寄せている理由は、何よりもまず中身がよくわかっておらず、大阪が「都」になれば、東京に匹敵する経済力や行財政力になるのではないかという幻想があるからだと思います。しかし、実際には大阪市が無くなるだけで、今回の投票では府の名称すら「都」にはなりません。
 第一、大阪がなぜ東京のまねをしなければならないのでしょうか。私は、戦後の大阪府市政、財界の政策の失敗の原因は、東京の後追いをしてきたことにあると思います。民生部門が多い「商業の都」だったのに東京の重化学工業に追いつこうとして造った堺泉北コンビナートが、あまり地域経済に貢献せず、逆に公害を出したこともありました。(茨城県の)筑波(研究学園都市)のまねをして失敗した「けいはんな学研都市」にしても、湾岸部の開発にしても、失敗の連続だった。地域の特徴を踏まえて大阪の持っている力をどう引き出すかということにならなかったからです。そこにきて今度は、戦時中、戦争のためにつくられて今でも安定しない都区制度までまねるという。それで良くなるというのはまったくの幻想です。
 大阪市民はもっと誇りを持たなければいけません。戦前は「都市政策は大阪を見ろ」と言われ、どの街も大阪を模範にしました。東京高商(現在の一橋大学)の教授から助役を経て市長になった関一市長(在任1923〜35年)が目標とした「住み心地よき都市」を今こそ目指すべきです。
 関は、御堂筋や地下鉄の建設で有名ですが、本領は社会政策にあります。労働者住宅や保育所をつくり、市民の絶大な協力で大阪商科大学(現在の大阪市立大学)を創設し、文化の殿堂としました。大阪衛生試験所をつくり、日本初の大気汚染観測を始めています。
 当時、中川望という府知事や、関の親友だった東京市顧問・岡実が「都市格」を大阪市の目標として提唱しています。岡は、日本には天子(天皇)のいる権力の都はあったけど市民の都市がなかったと。だけど大阪は「都市格」のあるまち、すなわち、市民の自治都市でなければならないと言ったんです。
 いまは国際的にも都市の目標というのは環境や文化にあります。大阪には人々に尊敬される都市になってほしい。権力の都にはなってほしくない。
 昔から大阪は江戸じゃないんです。大阪は市民がつくった市民の街なんですよ。自由なる市民の都市。そこに大阪の意義があります。「シティ」とはそういうものです。

 みやもと・けんいち 1930年台北市生まれ。名古屋大学経済学部卒。大阪市立大学名誉教授、滋賀大学名誉教授・元学長。立命館大学でも教授を務めた。『都市政策の思想と現実』(有斐閣)、『日本の地方自治 その歴史と未来』(自治体研究社)など著書多数。
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2015年04月29日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/「戦後70年司教団メッセージ」の精神/カトリック東京大司教岡田武夫さん

憲法の「不戦の理念」私たちの宝/平和の実現へ世界の人々と協力 
 ―日本カトリック司教団が2月に発表した、戦後70年の司教団メッセージが注目されています。「憲法の不戦の理念」を支持し、特定秘密保護法や集団的自衛権行使の動きを批判していますね。
 今年が第2次世界大戦終結70年という節目の年であり、最近の政治の動きが平和を脅かす心配を感じさせるものであることから、通常なら8月15日の終戦記念日に向けて出すものですが、早めに発表したいということになりました。司教全員が一致して協議会のメッセージとして採択したということです。
 このメッセージはローマ法王にも伝えました。
 どんな宗教も平和を説き、平和のために働くことを進めていると思います。キリスト教の教えも平和を大切にします。「平和のために働く人は幸い。その人は神の子と言われる」とイエスは言われました。しかし、教会の歴史を見ると必ずしも、教会や教会のメンバーがそのためによく働いたとはいえない事実が見られます。私たちは、われわれの歴史を振り返りながら、改めて平和のために働く決意を新たにしようと考えるわけです。
 1986年にこの大聖堂(東京カテドラル聖マリア大聖堂)にアジアの司教の代表者が集まりましたが、私の前任者である白柳誠一大司教は、アジア・太平洋戦争による2千万を超える人々の死への責任を告白し、許しを願いました。また1995年、戦後50周年にあたり、当時の司教全員で出した「平和への決意」というメッセージでは、日本軍による残虐な破壊行為、元日本軍「慰安婦」問題にも言及し、謝罪を行い、償いの責任を表明しています。
 2000年には時の教皇ヨハネ・パウロ2世が、第2次世界大戦について教会がそれを阻止する努力が足りなかったと言われました。人間の基本的な価値、基本的な人権が侵害され、そして全体主義政権が成立して、国民の自由や権利を束縛し、外国への侵略を行おうとしていたときに、その流れを見過ごす、あるいは気がついても阻止することができなかった。教会がもっとはっきり発言すべきであった、というメッセージでした。

平和は辛抱強いたたかいの成果
 ―今回のメッセージにもそうした反省と決意が貫かれています。
 悪に対して悪をもってする、暴力に対して暴力をもってするのではなくて、平和は悪が善によって打ち負かされるときのみもたらされる辛抱強いたたかいの成果であり、非暴力による対話によってこそ平和を築くことができます。憲法9条はこの理想を述べている私たちの宝だと思います。これはキリスト教の精神からいって当然のことです。
 憲法に恒久平和を掲げて、曲がりなりにも70年守ってきたことは誇りうることです。この70年間でほかのことでは反省すべきことはありますが、戦闘による殺りくをしないで済んでいる。それは各国が日本をそういう憲法をもつ国だとわかっているからではないですか。
 ―昨年7月に集団的自衛権行使容認の閣議決定にたいし安倍首相あての抗議声明を司教協議会名でだされました。その中で「対話や交渉によって戦争や武力衝突を避ける希望を失ってはならない」といっていますね。
 われわれはそう信じています。それがわれわれの信念です。日本が行ったアジアでの侵略行為があり、日本にも広島、長崎の原爆投下、東京大空襲があり、ほかにもいろいろな悲惨なことがありました。もう戦争はこりごりのはずだと思っていましたが、いろんな理由をつけてまた戦争ができるようにする動きが現れています。
 今回のメッセージを審議する時に、非常に特色のある発言がありました。沖縄に那覇教区があり司教さんがいらっしゃいます。その司教が毎日体験している米軍基地問題です。これだけ沖縄の人が叫んでいても政府は耳を傾けようとしない。アメリカの要望に応える方向で、結局、沖縄の人の苦しみに耳を貸さないという怒りを彼は持っています。それでメッセージには「沖縄県民の民意をまったく無視して新基地建設が進められている」「平和を築こうとする努力とは決して相容れません」と盛り込んであります。
 ―戦前からの歴史問題を考えたとき、東アジアの国ぐにや国民との相互理解や交流が必要です。その点ではどうですか。
 1996年から、日本と韓国のカトリック教会の司教が年1回会い交流しており、すでに20回を数えました。参加は自由で、最初は数人でしたが、今はほとんど全員が参加し、交互に訪問しています。最初は両国の歴史教育の違いなどについて専門家の意見を聞いたりしたのですが、次第に東アジアの国として共通の問題、例えば、原子力発電の問題、あるいは自殺者の問題などについて情報交換して助け合おうということになっています。
 またご存じのように、フィリピンからはたくさんの移住者、滞在者がいます。そういう方々に生活上支援をしながら友好親善に努めるために教会あげて努力しています。衣食住のことから、滞在の法的な問題などで保護・支援しています。

核兵器・原発は現代の「バベル」
 ―東日本大震災につづく東京電力の福島第1原発事故のときにも、司教全員でただちに原子力発電所を廃止しましょうというメッセージを出しましたね。
 旧約聖書に、バベルの塔の話があります。人間が天に届くような塔をつくろうとして、神様がそれをやめさせたので、お互いに言葉が通じなくなったという形で説明されています。バベルの塔は人間の神に対する反抗と思い上がりということの例えです。現代では核兵器、原子力発電がそれにあたります。
 3月にローマに行きまして、フランシスコ教皇と日本の司教全員が自由で率直な懇談をしました。そのとき教皇が人間はバベルの塔を建てているようなものだと現代文明批判をおっしゃっていました。原発、武器の製造をはじめ人間の今の愚かな行為についてでした。
 ―日本共産党は思想・信条が違っても「海外で戦争をする国」づくり、原発再稼働、沖縄新基地建設に反対するなどの課題で共同できるとして追求してきました。司教団のメッセージも平和を実現する協力を呼びかけています。
 日本のカトリック教会は小さな存在ですが、諸教派のキリスト者、諸宗教の信仰者、さらに世界の平和を願う人びととともに平和の実現へ働き続けると決意を表明しています。
 私は日本共産党とは思想的に異なりますが、共産党が日ごろ言っていることには賛成です。改憲の動きの強まりのなかで、平和の擁護を貫いている共産党にはがんばってもらいたいと思います。
 聞き手・山沢猛

戦後70年司教団メッセージ
 日本のカトリック教会は16の教区にわかれており、このうち東京、大阪、長崎は大司教区で、教会管区にもなっています。大司教3人を含む16人の司教が全員一致して発表するのが「司教団メッセージ」です。
 戦後70年の司教団メッセージは、
@教会は人間のいのちと尊厳に関する問題に沈黙できない、A戦争放棄への決意、B日本の教会の平和に対する使命、C歴史認識と集団的自衛権行使容認などの問題、D今の世界情勢の深刻な危機の中で―などの柱からなっています。

 おかだ・たけお 1941年千葉県生まれ。東京大学法学部卒。2000年白柳誠一大司教(のち枢機卿)のあとをついで東京教区大司教に。現在、日本カトリック司教協議会会長。
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2015年04月21日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/安倍政権の圧力―問われるメディア/桂敬一さん/青木理さん

 安倍首相と政権のいっそうの右傾化と暴走はメディアへの干渉・圧力を大きな特徴としています。NHKの翼賛放送局化をはじめとしてテレビへの攻勢も目立っています。この事態にメディアと国民はどう立ち向かっていけばいいのでしょうか。研究者とジャーナリストに聞きました。

萎縮を克服し国民とともに/ジャーナリズム研究者桂敬一さん

 一昨年の秘密保護法、昨年の集団的自衛権行使容認といった「安倍政治」の暴走は、これまでの戦後史にはなかった現象、露骨な右傾化の動きで、今やそれが行き着く先の危機、戦後民主主義の崩壊が危ぶまれます。

取り込みが特徴
 この右派路線は、新聞・テレビなどメディアの取り込みを大きな特徴としており、マスコミ対策の要には、元NTT広報部報道担当課長の世耕弘成官房副長官がいます。
 NHKの取り込みでは、安倍人脈の財界人が動いて経営委員会に委員を送り込み、そこの推挙で、あの籾井勝人氏を会長に据えました。籾井会長は就任会見で「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と述べ、その後のNHKの報道の安倍ベッタリは、目に余るものがあります。
 民放も含めた放送全体への干渉もひどい。昨年の総選挙に臨んで自民党は、副幹事長・報道局長名で「公平中立と公正」を求める異例の要望書を在京テレビ局に送りつけました。
 メディアの側にも、みずから介入を招く弱点があったのではないかと考えます。
 2009年の総選挙の際、朝日新聞は「政権選択の選挙」を唱え、他紙の「政策選択の選挙」と比べ、民主党政権の実現支持が明白でした。だが、それが実現すると朝日は、与党になったらおとなになれと、鳩山首相のアジア政策をくさしました。
 元来朝日は船橋洋一氏を筆頭に、アーミテージなどの「ジャパン・ハンドラー(日本を操る者)」人脈との関係が強く、自民党流の対米重視です。
 これでは足元を見透かされてしまう上に、読売・産経が自民一辺倒で、メディア全体としては「慰安婦問題」「歴史認識」「原発」「護憲」、どの点でも安倍政治との対決が不徹底になりやすい。とくに日米安保のゆがみが集中的に現れている沖縄問題、対米経済従属を深めるTPP(環太平洋連携協定)との対決ができません。

言論の自由危機
 メディアが「言論の自由」を標榜し、国家権力の横暴を阻むときは今です。ところが安倍首相が自分の「言論の自由」を口にし、メディアを恫喝する異変が生じています。
 昨秋、TBSに出演した首相は、この局の番組が「アベノミクスの恩恵を感じない」とする町の声を拾って報じたのを「(局が声を)選んでいる」と公然と非難、国会で後日問題にされると、「私にも言論の自由がある」と反発しました。
 「言論の自由」とは、国民へのその保障を憲法が政府・国家に義務づけているもので、最高権力者=首相なら、どこでもなんでも言える、というような自由ではありません。
 とくに免許事業である放送の生殺与奪権を握る首相が、テレビで制作者を脅すようなことを言うとは、言語道断です。
 「言論の自由」の上に成り立つジャーナリズムの実践に携わるメディアは、単なるビジネスではなく、社会的公共財としての役割発揮が国民から期待されています。
 しかし、その自由の実践が安倍流「メディア取り込み」のなかで萎縮しがちで、とくに昨年の「朝日バッシング」以降、メディアの現場のあちこちで自粛が蔓延、大事な自由が使い切れていないのが気になります。
 アメリカと一緒に世界中どこででも戦争ができる体制の構築を急ぎ、今国会で安全保障関連法制定を強行しようとする安倍政権に対し、一点共闘の境界を越えた市民が3月22日、一斉に「NO!」を突きつける大集会を成功させました。
 平和憲法破壊のたくらみを阻止する、こうした「国民の正当な怒り」に依拠するならば、メディアはなにも恐れる必要はありません。萎縮を克服して、「国民とともに起つ」ことこそ、今求められているものです。
 (小寺松雄)

かつら・けいいち 1935年生まれ。日本新聞協会研究所長、東京大学新聞研究所教授、立正大学教授などを歴任(ジャーナリズム研究)

伝えるべきは果敢に伝える/ジャーナリスト・テレビコメンテーター青木理さん

 僕が出演するのは情報番組が多く、政治ニュースをそれほど扱っていませんが、報道番組を中心に政権の影や圧力が強まっているのは間違いありません。
 例えば、ある番組に与党幹部が出演した際、司会者が少し強い調子で批判し、直後に身内の政治部記者から番組にクレームがきた。取材しにくくなることなどを恐れたんでしょう。また、一部のプロデューサーには「政権批判ばかりでなく、いいところも言及してください」などと言ってくる者もいる。直接の圧力ではありませんが、一種の萎縮、自粛でしょう。
 以前はこのようなことは無かった。安倍政権になってから顕著です。

自省すべき点も
 背景にあるのは、メディアに強圧的な政権の態度です。
 昨年、TBS「ニュース23」に首相が出演した際、街頭インタビューが政権批判ばかりだとキレる騒動がありました。バカげた話です。首相を出演させてヨイショの声を伝える方が異常でしょう。むしろ批判を積極的に紹介し、首相も丁寧に応じてこそ意味がある。民主主義社会におけるメディアと権力者の役割です。
 しかも、直後に自民党は在京キー局に「公正中立」な報道を求める文書を送りつけた。こうした強圧的な態度にメディアも戦々恐々としている。
 メディア側にも自省すべき点があります。特に大手メディアは記者クラブ制度などの悪弊をあらためず、「権力監視」といいながら、自らも特権階級に身を置いている。そこを市民に見透かされ、メディア批判はかつてないほど広がっています。政権と対峙することを放棄し、萎縮や自粛傾向を強めれば、メディア不信はさらに広がり、政権のやりたい放題となってしまう。
 巷の書店には嫌韓・嫌中本が並んでいます。情報番組でも中国のコピー商品などの話題を大きく取りあげたり、韓国の事故や事件を盛んに取りあげたりし、「日本はスゴい」といった内容が増えている。視聴率が取れるんだそうです。
 ネット右翼と呼ばれる連中が多数派とも、日本の世論を左右しているとも思いません。ただ、自国を優越視し、隣国を下に見る風潮が強まっている。また、ネット右翼のような連中は、意に沿わない報道に露骨な攻撃を仕掛けてくる。電話だったりメールだったり、ツイッターなどでも盛んに批判を繰り広げる。
 僕も経験がありますが、そうした抗議への対応は面倒だから、刺激するような話題は避けよう…そう考える番組制作者がいるのも事実です。
 もちろん、制約のなかで頑張っている制作者もいます。一方、現実には今のテレビや新聞の過半は政権応援団と化している。メディアの役割を理解しない政権下、かつてないほど悪い状況が生まれています。

声援励まし必要
 テレビもジャーナリズムの重要な一翼を担っている以上、どんなに政権が強圧的でも、伝えるべきは果敢に伝えないといけない。辛うじてファイティングポーズをとっている番組には、声援や励ましの声を届けることも必要でしょう。
 戦後70年、今ほど異常な状況はありません。特定秘密保護法が強行成立し、集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、安保法制の整備を含め、これまでの歯止めは次々と取り払われてしまいつつある。憲法「改正」も企まれている。
 メディアとジャーナリズムの矜持にかけて、踏ん張らねばならない。私たちは歴史の岐路に立っています。
 (和田肇)

あおき・おさむ 1966年生まれ。共同通信記者としてソウル特派員など務める。2006年退社。11年からテレビ朝日「モーニングバード」などでコメンテーター。

■2013年以降の安倍政権とメディア

13年10月 安倍内閣が、首相に近い5人をNHK経営委員(新4人、再1人)に任命(のちに国会で承認)
   12月 NHK経営委員会が財界出身の籾井勝人氏を会長に任命
14年1月 籾井会長が就任会見で「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」など数々の暴言
13〜14年 安倍首相とメディア幹部との会食がひんぱんに
14年11月 安倍首相が、出演した民放番組で街の声について「(局が)選んでますよ」とクレーム。2日後に自民党が在京テレビ局に選挙報道で「要望」
15年2月 籾井会長が「従軍慰安婦」番組について「政府のスタンスを見てから対応」
15年3月 テレビ朝日「報道ステーション」でコメンテーターの古賀茂明氏が「番組を降りるが、菅官房長官ら官邸からバッシング」と発言。菅長官が記者会見で「事実無根」「放送法があるので、まずテレビ局がどう対応するのか」
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2015年04月08日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/「戦争立法」中東の視点で見る/東京外国語大学教授黒木英充さん/元共同通信記者坂井定雄さん

 安倍政権による「戦争立法」の策動で、米軍の補完部隊として中東への自衛隊派兵の拡大が想定されます。それは日本に何をもたらすか。そもそも日本は中東といかに向きあうべきか。中東情勢に詳しい東京外国語大学の黒木英充教授と、元共同通信記者の坂井定雄さんに聞きました。
 (聞き手・小玉純一)

東京外国語大学教授黒木英充さん/国益を考えているのか

 今回の法整備の根底にあるのは、力を低下させた米国を日本の自衛隊が中東地域で補うことです。自衛隊はアフガニスタン戦争で米艦に補給し、イラク戦争でイラクに駐留しました。今後は、これまで以上のことを、いつでもどこでもやれるようにする狙いです。
 尖閣諸島の領有権問題はその世論誘導に使われています。尖閣での日中衝突の危険が叫ばれますが、米中戦争はまずないでしょう。米国は中国と戦争せずに、競い合いながら世界を抑えようとしているのです。
 中東のエネルギー資源への需要は日本だけでなく、中国、インド、インドネシア、ベトナムなどアジア諸国全般にあり、米国はその根っこをつかんでおこうということです。しかし、イラク戦争で大失敗し、シリア内戦もあって過激派ISを生み出してしまった。一方、巨大な人口を抱える中国はエネルギー・食糧資源を視野に入れ、中東・アフリカに関与を強めています。

両国利害同じ
 日本が自衛隊基地を置くジブチには中国も基地を置いています。ペルシャ湾だけでなくスエズ運河、紅海、インド洋という海上交通路の利害は日本も中国も同じです。日中はここでも話し合えるはずです。
 外交は国益を考え、したたかでなくてはなりません。いろんな保険をかけて、やっていく必要があります。日本は1970年代の石油危機後、米国に配慮しながらも、パレスチナ問題で独自の立場をとり、革命後のイランに油田を確保していました。
 いま政府・与党はペルシャ湾での自衛隊の機雷掃海を持ち出しています。この想定はイラン敵視を意味します。
 自民党の小池百合子議員や中谷元・防衛相が想定するスエズ運河なら一体、敵はどこですか。「ここが重要だから自衛隊を」というのは、どこまでものを考えた結果なのか。
 自衛隊を中東に出し、人を殺したら日本はおしまいです。イラクをめちゃくちゃにした米国の手下だと見られます。「日本は原爆を落とされたけれども平和国家として発展した」とみんな思ってきました。そのイメージを根底から変えてしまいます。

トラウマの話
 自衛隊の中東派遣の背景として、1991年湾岸戦争時のトラウマの話があります。日本はカネを出したが自衛隊を出さず感謝されなかったというのです。これが事実だったとしても、感謝しなかった方が問題なのであって、それをトラウマというのなら、これこそ自虐的です。基地を提供するだけでなく「思いやり予算」を差し出しても、米国から「安保ただ乗り」といわれて引け目を感じる感覚も同じです。
 今こそ複眼的に世界を見つめて長期的な国益を考え、したたかに振る舞わねばなりません。心ある多くの人は心配しているはずです。

 くろき・ひでみつ 東京大学東洋文化研究所助手、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助手、助教授を経て同教授。2006年より同大のベイルートにある中東研究日本センター長。

元共同通信記者坂井定雄さん/送るべきは人道支援者

 安倍首相は1月の中東歴訪国の中にエジプト、イスラエルを入れました。ここには日本人人質・殺害事件で過激派ISの口実に利用されただけでない問題があります。

暴力に免罪符
 クーデターで政権を奪ったエジプトのシシ政権は同胞団員と支持者数千人を投獄し次々死刑判決を下しています。イスラエルは昨年、ガザを攻撃し、2000人以上のパレスチナ人を殺しています。
 安倍首相は両国首脳と握手し、暴力に免罪符を与えてしまった。その日本の姿をアラブに示してしまった。賢明な外務省関係者は歴訪に反対でしたが、首相の意向が働いたようです。
 その安倍首相が「国民を守る」といってペラペラ話すことは、日本人母子が乗る米艦船を防護するなど実際にはありえないことばかりです。これは一国の首相としてはあるまじき態度です。
 自衛隊を出す事態だというペルシャ湾封鎖の話もしかり。イランの側から機雷を敷設して超大国の米国と軍事で対決するとは考えられません。
 首相は結局、自衛隊を海外に自由に出せる国家にしたい。そのための口八丁手八丁です。腹が立ちます。

空気が変わる
 私は1970年代から中東とかかわってきました。平和国家でアラブと敵対したことがない国、日本から来たということで、私は恩恵を受けました。90年代末、大学教授時代に、ヨルダンからパレスチナを通りエジプトまで、日本人学生20人とバス旅行をしました。どこでも親切にされたものです。
 それが、2003年に米国が始めたイラク戦争で、自衛隊をイラクに派遣してから人々の空気が変わりました。私は05年から3年間、カイロを拠点に生活し、学術交流の話でパレスチナの研究者と会合を持った際、よそよそしさを感じました。日本政府が資金援助をするにもかかわらずです。
 イラク戦争が過激組織ISを生んだこと、米国に責任があることをアラブの人たちはよく知っています。オバマ政権は対ISの地上戦に米軍を出していませんが、共和党政権になればありうる。自衛隊は絶対に米軍を支援してはなりません。
 日本は憲法で戦争を放棄したのです。軍隊を出すのではなく、人道支援の人を出し、心に触れる支援を強めて、アラブの人々の信頼を回復すべきです。
 シリアの戦場への派遣は難しい。しかし、シリア難民は300万人。レバノン、ヨルダン、トルコにいます。ここには送れます。
 レバノンの難民キャンプなどでも日本人はほそぼそと活動していますが、たいへん感謝されています。しかし、圧倒的に数が足りません。帰国後の職の保障がないのも要因です。難民支援がキャリアになるような仕組みづくりが急がれます。

 さかい・さだお 1966〜93年、共同通信記者。ベイルート支局長を歴任。93年〜2005年、龍谷大学法学部政治学科教授。05年〜08年、日本学術振興会カイロ研究連絡センター長。
(
2015年04月06日,「赤旗」)

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3月

2015焦点・論点/TPP・農協「改革」ストップ/農協組合長が訴える

 自民・公明の安倍晋三内閣がすすめるTPP(環太平洋連携協定)交渉と、農協「改革」の名による農協つぶしに、農業関係者をはじめ多くの人びとが懸念と反対の声を上げています。各地の農協代表理事組合長に話を聞きました。
 (聞き手 若林明、内藤真己子)

共産党の農業政策はええ/JAあわじ島(兵庫)森紘一さん(元南淡町長)
 安倍首相は農協「改革」で中央会制度を廃止し、農家所得を上げるといいます。しかし所得向上の具体策を示さない。言葉だけきれいで中身がありません。
 農産物は豊作・凶作で価格が変動します。生産量が増えすぎたら値段が暴落するんです。われわれが出荷している淡路島のタマネギはブランド品で、高値で取引されます。それでも暴落するのは同じです。農家所得を上げる、食料自給率を引き上げるというなら、農産物の価格保障をして所得安定を図るべきやと思います。
 フランス、ドイツ、イタリアのブドウ農家がなんで続いているのか。それは国の農業政策がかなりしっかりしているからでしょう。
 その点、日本共産党の政策はええと思います。農業を基幹産業に位置付け、農産物の実態に合わせた価格保障と所得補償を組み合わせて経営が安定して持続できるようにする、と言っています。共産党はいったん言い出したら変わらないのがえらい。
 農協「改革」の方向をみると農林中金が銀行のじゃまになる、共済も生命保険会社のじゃまになるから分離せいという。これは農協を解体しにかかっていると解釈してもいいぐらいのことです。
 農業はもともと国の基幹産業であるにもかかわらず、政府は粗末に扱ってきました。2012年の総選挙の前には、野党だった自民党の候補者はTPP参加に反対と言っていました。もう選挙のときだけ上手に言うても、百姓は全部言うことを聞かんようになるのではないでしょうか。

食料生産を守るのが基本/JAふえふき(山梨)關本得郎さん
 政府は今回の農協「改革」で、全中(全国農業協同組合中央会)による各地域の単位農協を監査・指導をやめさせ、公認会計士にやらせようとしています。これは農協の本来のあり方からおかしいと思います。
 公認会計士の監査になれば、当然、損益、会計監査中心で企業の監査と同じということです。投資家のための監査という性格が強くなります。農協は協同組合であり営農指導や農家の生活を守ることを目的としており、企業とは性格が違います。
 農協「改革」は、全国的な共同購入、共同販売を行っている全農(全国農業協同組合連合会)の株式会社化を提起しています。株式会社化すれば、今まで適用除外となってきた独占禁止法の適用を受けます。
 私たちは果物中心の農協で、資材の共同購入、農産物の共同販売を基本にやってきました。そうした共同の事業ができなくなる。組合員の営農と生活を守る農協の役割を果たせません。
 山梨県のワイン生産は地域にとっても重要産業です。桃の花は地域の観光資源になっています。また、金融面でも、農家を中心に個人の資産を預かっており、公共的な役割を担っています。
 なんといっても日本の食料生産を守ることが基本です。TPP交渉では米、小麦、牛肉・豚肉など重要5品目を必ず守ってもらう。国会決議もあげて約束しているわけですから。
 農業問題での共産党の話は一番すじが通っていると思います。実現できるように頑張ってほしい。

農業衰退は政府に責任が/JAいわて平泉鈴木昭男さん
 TPPでもし政府が米、小麦、牛肉など重要5品目で妥協すれば、農家の所得に莫大な影響を及ぼし、窮地に追い込まれることになります。おそらくアメリカはTPPを基点にしてさらなる「自由化」を求めてきます。すでに、国会決議で守ると約束していた米について、年間5万dを追加輸入枠として増やすといわれています。アメリカの大規模農家や大企業に日本の市場を明け渡すことになるのではないでしょうか。
 政府の考えは結局、「グローバル化」の名で日米の大企業に農業への入り口を開放しようということです。参入する企業との競争の結果、ほとんどの農家がやっていけなくなってもひと握りの大企業に農業をやらせればよいという考えなのです。
 農協は協同組合の一つであり、立場の弱い人が集まって団結して、暮らしや営農活動で助け合う組織です。
 農協「改革」で、政府・与党は准組合員が多いことを問題視しています。しかし、なぜ准組合員が増えたのか、農政の失敗で離農者がたくさんでてきたからです。正規の組合員がやむを得ず准組合員になったのです。農協のせいにするなどとんでもないことです。
 私は日本の農業を衰退させたのは、歴代の政府・与党の責任だと思っています。
 昨年の米価暴落で、私たちの農協では米の収入が約15億円減りました。これも、米の価格は市場に任せればいいという政策の結果です。TPPでも農協「改革」問題でも運動は一過性ではいけません。格差社会をつくらないために国会要請など運動を続けていきます。

将来ビジョン示せぬ農政/JA伊豆の国(静岡)鈴木正三さん
 今の農政は、日本農業の将来をどうするかというビジョンが見えません。例えば、TPPがもし妥結し関税が引き下げられたら、日本の農業はアメリカなどの大規模農業と競争することになります。規模による価格競争では勝てません。
 地域に根づいていない大手企業が参入し農業経営をやることにも問題があります。たとえば農業はボランティアのような労働を必要とします。農家は、農業用水や農道、林道の維持のために、年に何回か共同作業をやります。企業がやれば大変なコストになります。
 政府の農協「改革」を見ると、利益が上がる、お金がもうかる農業をめざしているように見えます。しかし、農業は経済的な利益ばかり重視するのではありません。実際、多くの農協が地域社会への貢献を重視してやっています。外国からの輸送に多くのエネルギーを使って、そのためCO2を大量に発生させるのがいいのか。地球環境にも配慮した農業を考えるべきです。
 安倍首相の発言を聞くと、稼げる企業・人はどんどん稼いで豊かになれ、時間がたてばそれが広がると考えているようです。果たしてそのようになるか、歴史を振り返ってみる必要があります。こつこつと地道にやっている人たちが、今より少しでも豊かに農業をやっていこう、そのために協同していこうというのが農協です。
 共産党には社会的・経済的弱者の声を政治に反映する政党でありつづけることを期待します。
(
2015年03月29日,
「赤旗」)

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2015焦点・論点/日本版「司法取引」の危険/数々の冤罪事件を手がけた「冤罪弁護士」今村核さん

他人の罪を語らせる「証言買収型」/密告の制度化で冤罪の危険高まる
 政府は今国会で、盗聴法の範囲拡大と、日本版「司法取引」の導入を盛り込んだ刑事訴訟法の改悪法案の提出を狙っています。「司法取引」とは、どんな制度なのか。数々の冤罪事件を手がけた「冤罪弁護士」の今村核さんに聞きました。
 (矢野昌弘)

 ―「司法取引」という言葉は、日本ではなじみがありません。どんな制度ですか?
 「司法取引」はもともと、自分の罪を認める代わりに量刑などを軽くしてもらう制度です。
 米国の「司法取引」は、第1回公判で被告が有罪を認めれば、証拠調べはしません。本人が犯罪を認めて裁判を迅速に終わらせる代わりに罪を軽くしてもらう制度です。

 ―日本でも同じ制度になるのですか。
 今回、日本で導入しようとするのは、そうではありません。他人の罪を明らかにして、自分の罪を軽くしてもらう制度です。
 報道では「司法取引」と呼んでいますが、法務省の法制審議会は「捜査・公判協力型協議合意制度」と呼んでいます。単に「司法取引」ではなく、「証言買収型司法取引」と呼んだ方がいいのではないかと思います。

 ―「証言買収型司法取引」の危険性はどんな点にありますか。
 日本でもこれまで、他人の罪を語ることで、自分の罪を軽くしたいとの動機でウソの証言がされて、多数の冤罪が生まれたことは、よく知られています。
 取引として制度化・合法化されると、「自分の罪を軽くしたい」という動機がこれまで以上に強く働き、警察もそれを利用しようと考え、捜査が誤りやすくなります。

米国で誤判次々

 ―米国では、冤罪事件の検証が行われています。
 米国では近年死刑や終身刑、懲役何十年という判決を受けた人物のDNA型と、犯人遺留の体液等から検出したDNA型が一致せず、冤罪が明らかになった事例が相次ぎました。
 1989年から、これまでに300事例を超えました。予想を超える誤判の多さに、米国司法の威信は傷つきました。
 これら誤った判決を導いた主な証拠は何でしょうか。DNA鑑定による冤罪救済に取り組む「イノセンス・プロジェクト」の弁護士が分析しています。
 分析(複数要因)では、「目撃証言」が約76%、「虚偽自白」が約16%、「密告者(スニッチ)」による証言が約21%です。
 「スニッチ」とは「被告人の犯行告白を聞いた」と、法廷で話す代わりに自分の量刑を裏取引≠ナ軽くしてもらう情報提供者のことです。
 米国では「スニッチ」が常態化していて、密告して罪を軽くしてもらおうと餌食≠待ち受ける累犯者が収容施設に多数いると指摘されています。日本で同じことが起きてもおかしくありません。

警察の違法聴取

 ―日本ではどうでしょうか。
 無実の人が密告に巻き込まれる冤罪事件は日本でも多く起きています。
 米国のスニッチに似た事例では、北九州市で起きた引野口事件(2004年)があげられます。
 放火殺人事件の被疑者にされた女性Kさんが、代用監獄で同房の女性Mに「首を刺した」等と犯行告白≠オたという事件です。
 同房の女性Mは、多数の窃盗と覚せい剤取締法違反で逮捕され、実刑となることを非常に恐れていました。自身の窃盗などで、警察が取り調べたのは、わずか4日。Kさんの房内での言動についての事情聴取は、57日にのぼります。
 Kさんは無罪となりますが、警察はMを意図的にスパイとして同房に入れ、犯行告白を聞き出そうとしました。裁判官はMを使った聴取は違法と判断しました。

 ―「証言買収型司法取引」は密告の制度化≠ニいえますね。
 この制度が、危険だという認識は立法者側にもあります。
 法制審は、誤った密告を防ぐ措置として「虚偽供述罪」を設けるとしています。これは捜査官の前で、他人の罪についてウソの供述をしたら処罰するというものです。
 厚生労働省の郵便不正事件では、村木厚子さんの上司、部下らは「村木さんの指示があった」と、大阪地検特捜部が作成した調書でのべていました。ところが法廷では、相次いで調書の内容をくつがえしました。
 「虚偽供述罪」があると、捜査官の前で証言したことを覆し、法廷で真相を語ったことが処罰の対象となってしまいます。供述した人の口を固めてしまうことで、冤罪の危険を高めてしまいます。

 ―弁護士は、どんな立場に置かれますか。
 密告を防ぐ歯止めとして法制審は、他人の罪を話す側の弁護人の合意を必要としています。
 しかし、弁護人にしてみれば、依頼者の話が本当なのか虚偽なのか判断しようがない。弁護人が板挟みになって苦しむことが容易に想像できます。

権力による悪用

 ―権力による悪用は考えられますか。
 例えば市民団体に警察の捜査員を潜入させて、「特定秘密を入手しよう」と「共謀しました」と密告させます。密告した捜査員は、「証言買収型司法取引」で、不起訴など軽い処分ですませる。
 一方で団体の他のメンバーについては、特定秘密保護法の共謀罪で重罰を受けるという事態も考えられます。1952年に大分県で起きた菅生事件では、日本共産党に接近した公安警察官が交番爆破事件の罪を共産党員に押しつけようとしました。こうした過去の事件からも悪用はありえることです。
 秘密保護法に加えて、盗聴法拡大や証言買収型司法取引、さらには共謀罪がセットになると、政府にとって弾圧の強力な武器になることは間違いありません。

証言買収型司法取引
 法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」が昨年、盗聴法の拡大と合わせて提案し、今年の通常国会での法制化を求めています。冤罪事件が相次ぎ発覚したことを受けて発足した同部会は当初、取り調べの全面可視化を焦点としていました。しかし部会は、可視化の対象事件を、全事件の約2%にとどめる不十分なものとなりました。

いまむら・かく
 1962年生まれ。東京大学法学部卒。92年、弁護士登録。司法修習44期。下高井戸放火事件、「浅草4号」事件などを担当。
現在、自由法曹団常任幹事、同司法問題委員会委員長。著書に、『冤罪弁護士』『冤罪と裁判』。
(
2015年03月08日,「赤旗」)

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2月

社会保障は年5000億円削れ=^消費税は17%まで増税せよ=^財界など提言、次なる痛み

 財界団体や民間シンクタンクが相次いで「痛みを伴う社会保障改革」とさらなる消費税増税を提言しています。消費税率10%への増税と社会保障切り捨ての「一体改革」が終わってもいないのに、次の段階の国民負担増を計画するよう迫る内容です。

■法定化をせまる
 経済同友会は提言「財政再建は待ったなし」(1月21日)の中で、毎年5千億円(公費)の社会保障費削減を主張。「将来の歳出について拘束する」財政健全化法の制定を求めました。小泉純一郎内閣が強行した「毎年2200億円削減」を上回る社会保障費の大幅カットを、あらかじめ法定せよというのです。
 消費税率は段階的に17%まで上げ、社会保障費は削り続け、法人実効税率だけは引き下げるという大企業奉仕の三位一体改革≠ニなっています。
 2月16日には総合研究開発機構(NIRA)が「社会保障改革しか道はない(第2弾)」と題する提言(第1弾は1月19日)を発表しました。NIRAは経済同友会の牛尾治朗元代表幹事(ウシオ電機会長)が会長を務める民間シンクタンクです。
 NIRA提言は「財政健全化に向けた具体策はここにある」として、2020年度までに3・4兆〜5・5兆円の社会保障費(公費)を削減する具体策を示しました(表)。単純計算で毎年5700億〜9200億円もの削減となります。

■過激な介護攻撃
 なかでも際立つのが介護保険に対する攻撃の過激さです。「2020年代に向けて最も増加率が高い」として標的にした格好です。
 政府は現在、要支援1〜2の主要なサービスを自治体任せの事業に移して公的保障を切り下げる改悪を進めています。その方向を極限にまで推し進め、要支援1〜2と要介護1のサービス利用料を全額自己負担にするというのです。要介護2〜5の利用料も2割に引き上げるといいます。
 これでは、極めて限られた高齢者しか給付を受けられない制度に介護保険が変質します。公的保険としての信頼性を失わせることは必至です。
 それでもNIRA提言は「比較的早期に実行可能」と断言。さらには、国・地方の基礎的財政収支を20年度までに黒字化することと、そのための中期財政計画を「一括して法定化する」ことを求めています。「遅滞なく社会保障改革を行っていく」ねらいです。
 消費税率については20年度までに追加で2%前後引き上げたうえ、その後も「3年ごとに数%(例えば2〜3%)ずつ引き上げていく必要がある」と明記しています。

■公正な税制こそ
 こうした議論の特徴は、財政危機をあおったうえで、「増税といえば消費税」「削減といえば社会保障」という恣意(しい)的な枠をはめ、国民を袋小路に追い込もうとしていることです。しかし世界では、国境を利用して税金逃れをする富裕層や多国籍企業に応分の負担を課し、「公正な税制」を確立することが政治の焦点に浮上。日本でも草の根運動が急速に広がっています。(杉本恒如)

要介護度
 介護を必要とする程度を表す区分。非該当、要支援1〜2、要介護1〜5の8段階あります。専門家の調査と審査を経て市町村が認定します。本来、要支援1〜要介護5のいずれかに認定されれば保険給付を受けられるというのが介護保険の約束です。

■NIRAが提言する社会保障削減の内容と額
病床の削減や入院受療率の低下
 0.8兆〜2.7兆円
ジェネリック(後発)医薬品の普及
 0.3兆〜0.5兆円
調剤薬局技術料と過剰投薬の抑制、薬価の引き下げ
 0.8兆円
要支援1〜2と要介護1のサービスを全額自己負担化、要介護2〜5の利用料を1割から2割に引き上げ
 1.1兆円
公的年金等控除の圧縮で年金生活者に増税
 0.4兆円
合計
 3.4兆〜5.5兆円
(
2015年02月28日,「赤旗」)

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医療事故調の運用指針案/合意持ち越し/調査報告書、遺族への提供めぐり賛否/厚労省検討会

 厚生労働省の検討会は25日、10月から新たに始まる医療事故調査制度(事故調)の運用指針のとりまとめ案を審議しましたが、合意に至りませんでした。焦点となったのは病院が行う事故調査(院内調査)結果を遺族に説明する際、書面の提供をどうするかなど。今後、座長が案を示し、各委員の同意が得られない場合は再度検討会を開く見通しです。
 制度は「予期しなかった死亡・死産」が発生した場合に病院が第三者機関の「医療事故調査・支援センター」に報告したうえで院内調査し、結果を遺族とセンターに報告。遺族が納得できなければセンターに調査を依頼することができます。
 院内調査結果の遺族への説明方法で同省が示した案は、病院が「口頭(説明内容をカルテに記載)または書面(報告書または説明用の資料)、もしくはその双方の適切な方法により行う」「遺族が納得する形で説明するように努めなければならない」というものです。
 遺族側委員らが報告書を遺族に提供するか、提供に努めるなど遺族の希望を反映した適切な方法で、と要請。案には大方の同意が得られましたが、1人の委員が、医療訴訟などの証拠として使われる懸念がある、遺族が納得する形での説明が義務でないと明記されなければ反対とのべ、合意に至りませんでした。
 一方で、日本病院会会長の堺常雄委員は、同会が昨年10月に行った会員へのアンケート調査結果を紹介。74%の659病院が、報告書は遺族に「当然手渡すべきだ。匿名性を配慮したうえで手渡すべきだ」と回答し、「説明を十分に行うので手渡さなくてもよい」は13%でした。同氏は「現場では真摯(しんし)にとりくんでいる」とのべました。
 意見が分かれていた調査報告書に再発防止策を記載するかどうかでは、厚労省が「院内調査で再発防止策の検討を行った場合、管理者が講ずる再発防止策については記載する」との案を示し、異論はほぼ出ませんでした。
 検討会後に会見した同委員で医療事故被害者遺族の永井裕之さんは「10月から制度をスタートさせることがなにより大事です。すでにいい事故調査をやっている病院や医師の知見、ノウハウが生かされる制度にしてほしい」と語りました。

医療事故調査制度
 医療事故の原因究明と再発防止を行い、医療の安全と質の向上を図ることが目的です。調査の対象は医療に起因し、また起因すると疑われる死亡・死産。昨年6月に成立した医療・介護総合法で医療法に位置づけられました。検討会は昨年11月から6回開催。運用のための省令や通知などの案を論議してきました。委員は医師、弁護士、医療事故の遺族など24人。
(
2015年02月27日,「赤旗」)

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これがブラックバイト/吉良さんラジオ番組に出演

 日本共産党の吉良よし子参院議員は25日、ラジオ日本「岩瀬恵子のスマートNEWS」に出演し、雇用や「政治とカネ」問題、原発再稼働など、国政の焦点課題について語りました。吉良さんの同番組出演は2013年8月の初当選直後に続き2度目です。
 「1回目は、議員になりたてのホヤホヤで、湯気が出るくらい(でした)」とキャスターの岩瀬さんから紹介された吉良さん。6日の参院決算委員会で安倍晋三首相らにブラック企業問題で質問したことをリスナーに報告しました。
 さらに吉良さんはブラック企業の実態を紹介。
アルバイトスタッフに対し、出勤後に着替えや経営理念の唱和後にタイムカードを押させる労働基準監督署から104回も是正勧告を受けながらメディアが取り上げるまで取締役会にも報告されない―
 これに対し岩瀬さんは「(タイムカードを押すのは)ドアから入った途端かなと思いますけど…」と驚きのコメント。吉良さんは、違法な働かせ方を防止するため「(社名公表による)社会的抑止力って本当に大事だと思うのです」と強調しました。国会で労働者派遣法改悪や「残業代ゼロ」制度導入が狙われていることも紹介し、「これをなんとしても食い止めたい」と語りました。
 「ブラック企業とか原発再稼働(の話)になると、表情がキリッとしますね。ますますいろんな人の声を代弁して、国会活動頑張ってください」。番組の最後に岩瀬さんがエールを送りました。
(
2015年02月26日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/「若者の住宅問題」調査にみる/平山洋介さん/稲葉剛さん

 若年・未婚・低所得者に焦点をあてた「若者の住宅問題」と題する提案書が昨年12月、民間の「住宅政策提案・検討委員会」から発表されました。同委員長の平山洋介神戸大学大学院教授と、メンバーの一人で「若者ホームレス」問題に取り組むNPO法人もやい理事の稲葉剛氏に話を聞きました。
 (聞き手・党国民運動委員会 高瀬康正)

人生の停滞¥オく貧困放置/神戸大学大学院教授(生活空間計画)平山洋介さん

 今回の調査を行って、改めて感じたのは若者の人生の停滞≠ニいうことです。
 以前の経済成長期の若者の多くは地方から大都市に移動し、アパートを借り、結婚し子どもを生み、やがて持ち家を確保するという人生のコースを歩むことを目標としていました。頑張ればそれが実現可能だという側面がありました。
 しかし、現在は未婚で低収入の少なくない若者が親との同居を続けざるをえない、親元を離れても重い家賃に苦しんでいます。人生の最初の段階で「停滞」する状況に置かれています。

低家賃で良質
 若い世代の貧困の増大はおもに雇用の観点から調査研究がされてきましたが、私たちの調査は住宅からの接近≠フ大切さをあらためて提起しました。つまり、低家賃で良質な住宅が増えれば、親元を離れて独立し、家庭を持ち子どもを育てようとする若者が増えるのではないか、という問題意識を持っています。
 これまでは優遇税制や金融支援による「持ち家政策」が主流でした。低成長が続き、若者の貧困化が進む中で、政府の住宅供給政策を根本的に転換することが必要になっています。若年層の住宅問題は、彼ら自身に苦痛をもたらすと同時に、社会の持続さえ困難にします。社会の再生産に必要なのは、新しい世代が先行世代に続いて人生の軌道を整えるという、サイクルの形成です。
 フランスの経済学者ピケティ氏の富と格差についての著書が話題を呼んでいますが、資産を持つものと持たざるものと格差が世界の主要国で広がっています。
 相続資産をもたない若者がふえる一方、相続資産をもつ家族がそれを次代につなげる「世襲社会」が日本でも復活しています。これを放置すると、不平等が次世代に受け継がれ、拡大します。政府は、住宅関連等の生前贈与非課税枠の拡大など、不平等をさらに増大させる政策をとっています。

家賃補助策を
 フランスやデンマークなどの政府は、若者向けの家賃補助を実施してきました。これには、少子化対策の側面があります。日本では公的住宅政策が不十分なうえに、若者への家賃補助はごく一部の自治体が実施しているだけです。
 若者の貧困を放置していては、社会が持続しません。社会的再分配を進め、若い人たちが親の家にとどまるのか、自分の住宅を借りるのかを選択できるようにする政策が必要です。政府や各政党が若者の状況を検討するさい、この報告書が参考になるよう願っています。

「家族依存」は社会のゆがみ/NPO法人もやい理事稲葉剛さん

 今回の提案書に先立ち、過去2回にわたって「若者ホームレス白書」を出してきましたが、NPOの相談現場では2004年ごろから若者の相談が増えていました。
 近年、路上生活者は減っていますが、「ネットカフェ難民」に代表される広い意味でのホームレスは増えています。最近では脱法ハウス≠ネど違法で劣悪な住宅に若者が住んでいることが問題になりました。私はハウジングプア≠ニ名づけていますが、若者全体では少数者だった住宅困難者が多数者になりつつあるというのが実感です。
 今回の調査で衝撃的だったのは、親の住宅に住む若者が4分の3を占め、そこから出ると生活が成り立たないという若者が増えていることです。親元に住まざるを得ないという貧困な状況に追い込まれています。

高いハードル
 日本の住宅政策は国土交通省が所管していますが、もっぱら「建てる」政策が中心です。高度成長期に拡大した持ち家政策(主に金融・税制支援)が現在の住宅の貧困拡大に対応できていません。
 公営住宅もありますが若者には入居資格が原則ありません。民間賃貸住宅への支援政策はなく、事実上野放し状態です。敷金や礼金、仲介料などの初期費用があるうえに保証人が必要になるなど、低所得の若者にはハードルが高いのです。2008年のリーマン・ショックのあと、第2のセーフティーネットとしての離職者への住宅手当が創設されました。しかし、当初6カ月間の支給期間が現在では3カ月に短縮され、ハローワークに通うことが条件になるなど使い勝手が非常に悪い。

公的支援拡充
 脱法ハウス≠ノ暮らしている若者の多くはワーキングプアで、生活保護基準よりも少しだけ収入が多いので、生活保護の対象にもならない。また、すでに生活保護を受けている人も、今年から住宅扶助が減額され、「家賃が下がったから」と大家から立ち退きを迫られることも起こりかねない――。まさに住宅無策≠ニいう状態です。
 若者も公営住宅に入居できるよう条件を緩和する、入居できない人への家賃補助などが求められます。NPO法人がすすめる空き家のシェアハウス(共有住宅)の活用など、民間での取り組みへの支援も必要です。
 今回の調査結果は大きく見れば「家族による支え合い」に依存しすぎた社会のゆがみを映し出したものです。それを改めて公的支援の拡充による生存権の保障が求められています。

 首都圏と関西圏の若年(20〜39歳)・未婚・低所得者(年収200万円未満)を対象に1767人が回答。若者の非正規雇用などのまん延が、厳しい住宅事情をもたらしていることを示しています。
結婚する、できる≠ヘ1割未満
増加した移動しない人生
多い極貧レベルの人たち
いじめ、ひきこもり、就職挫折、人間関係トラブル、うつ病
親持ち家が6割、自己借家は2割
住居費や家事で親に頼る
住居費負担の過酷さ
55.8%が何らかの住宅困窮、暮らし向き苦しい58%
(
2015年02月15日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/安倍農協「改革」とTPP/東京大学大学院教授鈴木宣弘さん

農協解体は地域社会を壊す/農業が巨大企業の食い物に
 何のために誰のためにやる「改革」なのか―。安倍政権が狙う農業・農協「改革」にたいし、農協関係者だけでなく与党内からも疑問の声があがっています。鈴木宣弘東京大学大学院教授(農業経済学・国際貿易論)に農協「改革」と環太平洋連携協定(TPP)の問題点について聞きました。
 (聞き手・山沢猛)

 ――安倍首相は「強い農協をつくり農家の所得を増やしていくのが目的だ。中央会は地域の農協のサポート役に徹してほしい」といって、農協法を改定し、中央会(全国農業協同組合中央会、JA全中)による地域の農協への指導・監査権の撤廃をいっていますが。

国際団体も反対
 今回の「改革」は現場の意見や声はまったく無視され、財界側の意見がそのまま政府方針にもちこまれています。地域の農協がいまJA全中によってしばられて創意工夫ができないなどという事実はありません。みんな自分で販路をさがしながら、全中やJA全農(農作物販売を担う全国農業協同組合連合会)という全国組織をうまく活用して、個別販売(地域農協による販売)と系統販売(全農を通じての販売)を組み合わせて工夫してやっています。地域の農協は中央会の役割をきちんと評価しています。(グラフ参照)
 「廃止するのはJA全中の指導・監査だけだ」といっていますが、まずは全中の権限をはがせば全国的な結集力が弱まり、TPP反対運動などのエネルギーをそぐことができると踏んでいます。
 それから「全農を株式会社化する」といっています。全農は全国的な共同販売を担い、独占禁止法の適用除外になっていますが、株式会社化したら適用除外をはずされます。個々の農家の取引交渉力はイオンなど買い手の大手スーパーにくらべたらきわめて弱いので、価格を維持するために農家が集まって共同販売をしています。
 この共同販売はカルテル(企業連合)ではなく、むしろ競争条件を対等にするためのルールとして国際的に認められて制度になっています。それを日本だけつぶせといっているのです。
 世界の主な協同組合が加盟する国際協同組合同盟(ICA)も昨年6月、日本の農協が経済や震災復興に「多大な貢献」をしていると評価し、国連が2014年を国際家族農業年に定めた趣旨からも、農協運動の解体に「反対」すると表明しています。
 ――全中、全農の弱体化は個々の農家の不利益までつながるんですね。
 生産農家を守ってきた相互扶助(=助け合い)組織を民間企業化するわけですから、そうなります。独禁法の適用除外を解かれると、農家同士で熾烈な競争をすることになり、買い手側がさらに買いたたける状況がつくられます。
 象徴的な例として、イギリスで独占禁止法の適用除外だった生乳の生産者組織「ミルク・マーケティング・ボード」(MMB)が1994年に解体され、その後農村は大手小売りと酪農多国籍企業の草刈り場≠ノされ、欧州連合で最低の乳価に暴落した事実を忘れてはなりません。

金融・保険を分離
 ――政府の規制改革会議が、農協から金融・共済部門を切り離すことも打ち出しました。
 安倍内閣の農業・農協「改革」の背後には、アメリカと日本の大銀行・大保険会社がいます。彼らが一番狙っているのが、JAバンク、JA共済という金融・保険部門です。その運用資金はあわせて120兆円といわれます。なかでも東京や神奈川など都市近郊農業がさかんなところでは、JAバンクやJA共済を信頼して利用する住民が増えて、高い貯金量を誇っています。大銀行、大保険会社はこの市場がのどから手が出るほどほしい。
 金融・共済の問題は郵政事業の分割民営化のときとよく似ています。郵貯マネー350兆円をアメリカと日本の大銀行・保険業界がどうしても利用したいというのをうけて、小泉内閣のときに郵政事業を解体しました。それでもまだあきたらなくてTPPに日本が参加する条件として、全国の郵便局の窓口で、アメリカ保険大手のアフラックの商品を売ることまでのまされました。
 今だけ、カネだけ、自分だけ≠ニ私は呼んでいますが、自分たちの目先の利益しか頭にない人たちが安倍政権と組んで、なりふりかまわず農協つぶしの暴走をしている、これが実態です。
 ――日本の農協は、営農指導、金融・共済、医療など総合的に機能していることが特徴ですね。
 そうです。農協は農家が結集して販売力を強化することが目的ですが、同時に、肥料や農薬など生産資材の共同購入、その資金調達、相互扶助の共済保険や病院(厚生連病院)もあります。
 農協の営農指導は農家へのサービスですからもともと赤字で、経済事業もそれだけで黒字がでることはありません。金融と共済で出た利益を活用することで初めて総合的事業として成り立っているのです。JAバンクやJA共済が切り離されたら他の事業も成り立たず、農協自体が立ち行かなくなります。
 政府は「準組合員の利用量を制限」しろなどといっていますが、たとえば北海道では、離農者や一般住民からなる準組合員がいちばん多く、8割を占めています。なぜかというと、純農村の地域では、銀行、ガソリンスタンド、スーパー(農協のAコープ)も農協関係しかないというところが多くあるからです。政府の言い分は地域社会がつぶれてしまってもいいという、現実を知らない議論です。
 日本では、イオンやローソンのファーム(農場)、それから竹中平蔵氏が会長の人材派遣会社パソナなども農業への参入に意欲的です。
 安倍政権がめざす将来の農業の姿は、規制をはずし株式会社が自由に農地の取得ができるようにする、参入した企業がもうかるような業種や地域で農業をやってもらう、そうでない多くのところでは農業はもういらないということになります。
 「10年で農業所得倍増」という意味も、99%の農家がつぶれても、あとの1%の巨大企業が参入して仮にもうかって所得が2倍になれば「所得倍増」だといっているにすぎません。

反対のうねりを
 ――TPP交渉と今後のたたかいについてどうですか。
 日米両政府はTPP交渉を3月中旬の閣僚会合で合意にもっていきたいと考えています。そのために抵抗勢力を黙らせることが、農協解体攻撃の目的の一つです。
 佐賀県知事選で県の農協は覚悟を決めて与党に対抗して、与党候補敗北という結果をだしましたが、それを無駄にしてはいけません。いっせい地方選挙もあります。全国からTPP交渉中止、農協解体やめよの声をもう一度あげる必要があります。そのために、共産党さんには新たなうねりを起こす原動力の一つになってもらいたいと思います。

 すずき・のぶひろ 1958年三重県生まれ。東京大学農学部を卒業後、農林水産省入省、九州大学教授などを経て現職。『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(文春新書)など著書多数。
(
2015年02月05日,「赤旗」)

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1月

2015焦点・論点/NHK籾井会長1年と放送90年・戦後70年/メディア研究者松田浩さん

戦前の教訓と民主化の理念ふまえ「政権からの独立」取り戻そう
 今年は1925年(大正14年)に日本で初めてラジオ放送が始まって90年です。またこの1月は、安倍政権が送りこんだといえる籾井勝人NHK会長が誕生して1年という節目です。「籾井会長下のNHK1年」を放送の歴史と戦後70年の中でどうとらえるか―長く放送とメディアを研究してきた松田浩さんに聞きました。
 (小寺松雄)

 ―放送誕生はどんないきさつだったのでしょうか。
 松田 日本のラジオは、大正デモクラシーの流れのなかで産声を上げました。当初は新聞資本をバックに商業放送の予定でしたが、当時の犬養毅逓信相が「放送は偉大な広播力がある」ので「政府の監視容易な組織に」する必要があると社団法人でスタート。同年3月から東京、名古屋、大阪で順次放送が始まりました。ところが1年半後に政府は3放送局を強制的に「日本放送協会」に統合してしまう。これがNHKの前身です。日本の放送は当初から強力な「政府管理」下に置かれたのです。
 31年の「満州事変」を経て、放送は急速に軍国主義の宣伝機関となり、40年の内閣情報局設置を機に企画段階から政府の指導下に置かれるようになる。そして一路、「国家政策の徹底」「戦意高揚の道具」へと突き進んでいきます。

戦後再出発の試み
 ―45年、日本の敗戦で放送はどう変わりましたか。
 松田 アメリカを中心とする占領軍は、ポツダム宣言にもとづき戦前からの言論・出版の弾圧法規を廃止し、日本の民主化を進めます。NHKの中からも民主化運動が起き、労働組合が結成されます。
 46年1月には、占領軍の指導のもとでNHK民主化のための放送委員会が発足、新生NHKの会長として経済学者の高野岩三郎(大原社会問題研究所所長)を選出します。
 ところがアメリカの占領政策は47年ごろを境に「民主化」から「反共」へと転換、50年には労働分野を中心にレッドパージが行われ、こうして戦後の民主化に終止符が打たれるわけです。
 戦後の放送法制のもとになる電波3法(電波法、放送法、電波監理委員会設置法)のたどった運命も、時代に大きく翻弄されます。というのは、電波3法には、新憲法と同様に戦後民主化の理念と戦前の教訓が込められ、放送の政府からの「独立」と民主主義のための放送という基本理念が貫かれていました。ところが吉田茂内閣が「日本の独立」と同時に、民間人が政府から独立して放送行政を行う「電波監理委員会」の制度を廃止してしまった点です。
 ―直接、放送行政を握ることで、次々と放送の「独立」や「自由」を空洞化していったわけですね。
 松田 放送法では第3条の「放送の自由」(権力の不介入)が大前提なのに、予算を人質にとってNHKの放送に注文をつけたり、安倍内閣のように経営委員の任命権を使って政府の息のかかった会長をNHKに送り込みました。また、放送法第4条の倫理規定(「不偏不党」「政治的公平」「意見が対立している問題についての多角的論点解明」など)を勝手に解釈して、放送の自由に圧力を加えたりしています。
 そもそも第4条の精神は、放送が「言論・思想の自由市場」として十全に機能するよう政治の影響を排除し、言論の多様性を求めたもので、政府やその代理人の会長が、これを根拠に「放送の自由」を規制しようなどというのは本末転倒もいいところです。憲法や放送法の精神がまるでわかっていない。

籾井氏は「代理人」
 ―25日は籾井会長就任1年です。戦後のNHK再出発から70年という時点で、籾井会長はどのような位置を占めていますか。
 松田 籾井会長の本質は、安倍政権によって組織的に送り込まれた政権の代理人です。しかも自民党の望むNHKの「国策放送局」化を積極的に推進する役割を担っている。NHKの歴史始まって以来のことです。
 安倍政権は第1次政権時代以来、NHK支配に強い意欲を持ち、安倍氏を取り巻く財界人グループ「四季の会」と図って、福地茂雄、松本正之、籾井氏と3代にわたって「四季の会」とつながりのある財界出身会長をNHKトップに送り込んできた。だが、福地、松本両会長は放送面では自民党と一定の距離をとった。
 そこで今度は、政権の期待を一身に担う形で籾井会長が担ぎ出されたわけです。籾井会長は就任会見で、およそ公共放送のトップにふさわしくない暴言をはいて物議をかもしましたが、皆さまのNHK≠安倍さまのNHK≠ノ変えるべく送り込まれた人物が、不見識な発言しかできないのは当然です。

まず国民的議論を
 ―籾井会長は辞任を求める市民や退職者の声に耳を貸さずに居座り続けています。
 松田 政府からの自主・自律を生命とする公共放送のトップに、政府のヒモ付き会長が居座っていること自体が民主主義にとって大問題なのです。即刻、退陣願うこと、そして再び同じ轍を繰り返さぬよう、経営委員や会長の選任システムを国民世論で変えていくことが必要です。イギリスのBBCのように、公募・推薦制によって公開・民主の原則のもとに言論・報道機関のトップに最適任の見識の持ち主を選ぶ仕組みを確立することです。放送行政を政府から切り離す独立放送規制機構(独立行政委員会を含む)の設置は、いまや世界の大勢です。政府が放送行政を握っている国は、日本やロシアぐらいです。まず国民的議論を起こさなければ…。NHKの中でも働く人たちが力を蓄え、市民運動が彼らを包み込みながら大きなうねりを作り出していくことが重要です。

 まつだ・ひろし 1929年生まれ。日本経済新聞記者として長年、放送を取材。その後、立命館大、関東学院大教授を歴任(メディア論)。著書に『ドキュメント放送戦後史 
TU』(双柿舎)、『NHK〜危機に立つ公共放送』(岩波新書、新版)など。

この1年余のNHKと籾井会長をめぐる動き

13年10月 安倍首相を囲む財界人の「四季の会」会合に古森重隆元経営委員長、石原進現経営委員ら
   11月 安倍内閣が百田尚樹、長谷川三千子氏ら首相に近い4人を経営委員に任命
   12月 経営委員会が籾井勝人・元三井物産副社長をNHK会長に選出
14年1月 籾井会長が就任会見で「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」など数々の暴言(のち取り消すが「考えは変わってない」と表明)
   2月 百田経営委員が都知事選で田母神俊雄候補の応援演説に立ち「南京虐殺は東京大空襲など米国の蛮行を隠すためのデマ」と暴言
   2月 浜田健一郎経営委員長が籾井会長について「自身の立場の理解が不十分」と「注意」(就任会見発言についで2度目)
   2月〜「放送を語る会」など7団体が会長辞任求める署名提出(署名7万超す)
   3月 国会でNHK予算承認、6野党が反対
   9月 退職者有志1572人が籾井会長の辞任を要求、代表7人が記者会見
15年1月 「爆笑問題」が年始番組で政治ネタを没≠ノされたと暴露。籾井会長はこれを受け、会見で「政治家ネタで個人名を出すのはやめたほうがいい」
(
2015年01月25日,「赤旗」)

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2015焦点・論点/平和と発展に貢献したいと国連でスピーチ/東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長村山斉さん

基礎科学は平和の開拓者=^国は敵対でも研究者は共同
 「基礎科学は、すべての国の人々を一つにする。人類にとって真のピースメーカー=i平和の開拓者)だと信じています」。米ニューヨークの国連本部で昨年10月、「平和と発展のための科学」というテーマでスピーチした村山斉・東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長(50)。美しい星空を見上げて宇宙の神秘を考えることから惑星・地球の平和と発展に貢献したいと訴えた、そのココロとは―。

 ――政治・外交分野では敵対している国の人が、基礎科学の研究で一緒に仕事することがよくあるのですね。
 村山 私は、欧州原子核研究機構(CERN)の科学政策委員会のメンバーです。CERNでは、インドとパキスタン、イスラエルとイラン、ロシアとウクライナの人たちが、一緒に仕事をします。友好的な関係の国々からも戦争中の国々からも何千人もが集まって実験装置をつくっています。ヒッグス粒子を発見した実験もそうです。CERNは一つの平和のシンボルです。
 研究者は、科学が平和に結びつくことを意識するというより、むしろ平和を享受しています。敵対国でもCERNにくれば一緒に仕事ができると。
 東西冷戦時代もそうでした。西側がCERNをつくった数年後、対抗する研究所を旧ソ連がつくりました。でも10年ほどたつと、敵対するはずだった二つの研究所が共同研究を始め、何十年も協力を続けています。
 研究者はみんな当然のことだと意識せずにそういう方向にいく。むしろ、研究所を見学に訪れた一般の人にとって衝撃ではないですか。日本だったら終戦前は英単語を口にすることですら「敵性語」だとされたわけですから。敵対する国の人が一緒に研究しているなんてありえないよと。
 研究者の個人レベルでは、敵対国の人と共同で論文を書くことは普通です。

国交できる前に
 ――こうした流れが太くなれば国同士の戦争がなくなりますか。
 村山 中東ヨルダンにある放射光施設「セサミ」計画には、イスラエルもパレスチナもイランも参加しています。敵対する国同士がお金を出し合って新しい加速器をつくり、一緒に使おうというのです。国交もないのにトップ同士が話しあっているわけです。本当にすばらしいことだと思います。そんな例はたくさんあります。
 CERNでも第2次大戦後の設立当初、ドイツ人は嫌われていたそうです。しかし大きな施設や装置を一緒に建設しているうちに敵対心が薄れたと、イスラエル人が言っていました。国交ができる前に共同研究の枠組みはできていたのです。
 もともとCERNは第2次大戦後のヨーロッパを統合する、平和を実現するということが念頭にあってつくられた組織です。ヨーロッパ共同体という意識が生まれる前にこういうことが先駆けでできていたことが、ヨーロッパの平和の機運をつくる一環になったのではないでしょうか。
 ――CERNは軍事研究に関与しないと宣言しています。東京大学も同じですね。
 村山 研究を非軍事に限っているから平和につながっているか、あまり実感はありません。ただ私は、原爆の設計をしている米国の研究所に行ったことがあります。そこでは軍事研究の区画には、機密事項を扱う資格のない私たちは入れません。素粒子や原子核を研究する区画に入るときでさえ、携帯電話やパソコンを持ちこめませんでした。安全な人間と危険人物かもしれないという区別が常にされている。普通の大学や研究所の環境との違いを強く感じました。
 研究の発展のためには、自由がないと新しいアイデアや研究テーマは生まれてこないですから、自由を保障する意味で非軍事であることは確かに大事なことですね。

戦争の爪痕衝撃
 ――国連のスピーチで家族のことや自分の体験に引きつけて平和について語りました。
 村山 祖父母は第2次世界大戦中、ソウルで暮らし、父もそこで生まれました。終戦が近づくと反日感情が強まり、家の表札を「村山」ではなく「金」と書いていたそうです。終戦後、日本への引き揚げ船に乗る直前、混乱のなかで9歳だった父ははぐれて取り残されそうになりました。運よく見つかりましたが、もし残留孤児になっていたら私は存在しませんでした。
 私は11歳から4年間、分断国家だった西ドイツのデュッセルドルフに住んでいました。1978年、修学旅行で分断されたベルリンへ行きました。西ベルリンは活気ある近代都市でしたが、東ベルリンへの検問を過ぎると地雷原と監視塔があり、東から西に人が逃げないようにしている。町は、第2次大戦の廃虚が並んでいる状況でした。戦後33年たっても、これだけ戦争の爪痕が残っているのかとショックでした。
 米国での研究生活では、宇宙の神秘を解きたいという共通の目的で、自殺テロを目撃したイスラエル人、イスラム革命から逃げたイラン人、亡命したユダヤ系のロシア人など、紛争や迫害にあった友人と一緒に研究しました。
 ――科学のワクワクする気持ちは、世界の発展のカギだとおっしゃいましたね。
 村山 発展というのは、人類の置かれている状況が、現在のような人道的に許しがたいものから、よりよい納得できる状況に改善させることだと考えています。そのためには科学的知識が必要です。
 私たち日本人は、福島の原発事故から科学と社会のあり方を学ばねばなりません。米国の友人たちは、人間活動が地球温暖化をもたらし自然災害の元になっている事実を受け入れなければなりません。
 私たちが地球という小さな岩の上に住む生物だという、大きな視点をもって見るだけで議論が変わってくる。手を取り合って行動できると思うのです。

友好関係のタネ
 ――紛争が絶えない世界でどのように平和に貢献したいですか。
 村山 宇宙の研究について、途上国の学生に講義をしています。途上国であれ発展した国であれ、科学は万国共通語ですから、文化も言葉も関係なく話せます。
 CERNに訪れる毎年数千人の高校生や先生たちは、世界中の研究者が平和的に研究して宇宙の深遠な疑問を解こうとしている姿に驚きます。その興奮はどんどん伝染していきます。日本にも同じような国際組織ができればいいですね。
 次世代超大型望遠鏡TMT計画にはインドや中国も参加しています。そういう計画が国としての友好関係のタネになって育つのが望みです。同じ方向に向いた瞬間、手は横にあるわけですから。
 聞き手 中村秀生

むらやま・ひとし 1964年、東京都生まれ。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)機構長、米カリフォルニア大学バークレー校教授。専門は、素粒子理論(超対称性理論、ニュートリノなど)。東京大学で理論物理学の博士号取得後、東北大学助手などを経て、2007年にIPMU初代機構長に就任。『宇宙は何でできているのか』『宇宙になぜ我々が存在するのか』『宇宙を創る実験』など著書多数。
(
2015年01月05日,「赤旗」)

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