2016年経済アングル】

 

²  12月】

²  経済アングル/未来閉ざす軍学共同

²  経済アングル/格差拡大、止める提案

²  経済アングル/取り残される日銀

²  経済アングル/TPPの新たな危険

²  11月】

²  経済アングル/財政に憲法の理念を

²  7〜9月期GDP/東京工科大学教授工藤昌宏さんに聞く/プラスも外的要因/家計消費と設備投資は停滞

²  経済アングル/「大洪水」と社会保障

²  経済アングル/続く市場開放の拡大

²  経済アングル/「言い訳しない」はずでは

²  経済アングル/バナナの旅と税逃れ

²  10月】

²  経済これって何?/「包摂的成長」への転換/格差是正で好循環めざす世界

²  経済アングル/刺激策が支える中国

²  経済アングル/米国産米を食え

²  日銀短観、景況感横ばい/2四半期連続/先行きも視界不良

²  経済アングル/爆買い@鰍ンでいいか

²  経済の迷宮/1/シンガポール通じ税逃れ

²  経済の迷宮/1/増える日本企業/動くメガバンク

²  経済の迷宮/2/ある大手銀行員の証言

²  経済の迷宮/3/回り道、ぬれ手であわ

²  経済の迷宮/4/なぜ海外?説明困難

²  経済の迷宮/5/海外子会社の情報隠す

²  経済の迷宮/6/税逃れできる大企業

²  経済の迷宮/7/監査法人が節税℃闊き

²  経済の迷宮/8/富を移転する寄生装置

²  9月】

²  経済アングル/読み間違えた「期待」

²  経済アングル/逆流する核のごみ

²  経済アングル/「好循環」一体どこへ

²  経済アングル/統計に問題すり替え

²  経済アングル/英「金融立国」の内実

²  8月】

²  経済アングル/石炭という座礁資産

²  経済アングル/軍需を潤す経済対策

²  経済アングル/軍事に良心売れない

²  経済アングル/経済対策が示すもの

²  7月】

²  経済アングル/ヘリで金まく政策

²  経済アングル/損するほどのめり込む

²  経済アングル/悪化が続く生活指標

²  6月】

²  経済アングル/「リーマン」文言なし

²  経済アングル/格差を拡大するTPP

²  経済アングル/後出しじゃんけん

²  【5月】

²  経済アングル/G7首脳はヒーロー失格

²  経済アングル/連帯のグローバル化

²  経済アングル/アダム・スミスの昔から

²  経済アングル/「民主主義」いうなら

²  【4月】

²  経済アングル/米が支配したパナマ

²  経済アングル/結論先にありきの試算

²  経済アングル/パナマ文書、暴いた闇

²  経済アングル/広がったのは憤り

²  【3月】

²  経済アングル/TPP美化のモデル

²  経済アングル/法人税上げ投資拡大

²  地球温暖化と原発

²  今こそ主権者の手に

²  日米豪の戦略的協力

²  【2月】

²  「政策廃業」当然視か

²  やはり主権が危ない

²  「吸い上げ」から転換を

²  日銀が自ら信用失う

²  【1月】

²  病める経済ただす道

²  消費税10%反対広がる

²  二重に架空の前提

²  危険な軍事依存の道

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(本文)

12月】

経済アングル/未来閉ざす軍学共同

 安倍政権は2017年度予算案で、大学などを軍事研究に呼び込むための防衛省の研究委託制度に110億円を計上しました。15年度に始まってから3年で36倍という異常な膨張ぶりです。
 予算額の急増は、安倍政権のいら立ちの裏返しでもあります。
 5月に100億円規模への拡大を安倍晋三首相に提言した自民党国防部会の大塚拓部会長は、その際「大学研究者が防衛にかかわる研究をすることを批判する勢力がいて、その批判が非常にマイナスだ」と語り、市民運動を敵視。11月の防衛学会でも、軍事研究に対する市民の「ネガティブキャンペーン」が議論となりました。
 背景には、15年度に109件あった応募が、世論を受け16年度は半分以下に減ったことがあります。予算が成立すれば、1件当たり最大年間3千万円だった委託費は一挙に10億円規模に膨らみます。科学者の良心を金で買いたたくたくらみです。
 「未来に対する冒険は、いつになってもなくならない」「しかし、そこにこそ、希望がある」
 20日のスピーチで安倍首相は、日本人初のノーベル賞受賞者・湯川秀樹氏の言葉を引き、自らも「未来を切り開いていく」と語りました。
 湯川氏も泉下で驚いたことでしょう。生前、核兵器廃絶を物理学者としての自らの使命とし、国防の名による軍拡を厳しく批判。「平和憲法の精神に今日まだ完全に同感しない人があるとしても、軍縮後の世界では文句のない真理となる」と語っていたのですから。
 「科学は何が果たして可能であるかを教えてくれる。これこそは未来へ向かって開かれた唯一の窓である」(湯川氏)。科学者を軍事研究に動員する軍学共同は、科学をゆがめ、未来を閉ざす道です。
 (佐久間亮)
(
2016年12月27日,「赤旗」)

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経済アングル/格差拡大、止める提案

 国際労働機関(ILO)が発表した「世界賃金報告201617年版」は、賃金格差に焦点をあてました。
 平均賃金の停滞と労働分配率の低下は、社会的、経済的な影響をもたらすと警告しています。とくに経済的には、賃金上昇率の低さは、家計消費を冷え込ませ、総需要を抑制します。需要の減退が価格の低下、つまり「デフレ状態」を引き起こす経済環境では賃金の下落は、さらなる「デフレ圧力」になるというのです。
 この状況の解決策として、最低賃金と団体交渉の重要性を報告書は強調しています。最低賃金の引き上げは、企業間の格差だけでなく、企業内の格差も縮小することに貢献します。
 また、短期的な業績に基づく企業経営者への報酬に制限を加えることや、企業活動において人間の尊厳や環境の持続可能性を重視すること、男女間格差解消のためには、同一価値労働同一賃金の重要性を強調していました。
 失われた税の累進構造を回復するため、企業と個人による税逃れを許さない取り組みや低所得者への税控除にも注目していました。
 日本共産党の第27回大会決議案は、「格差と貧困をただす経済民主主義」を提起しています。この中で、働き方の改革として、同一労働同一賃金原則の確立や最低賃金の引き上げと、全国一律最低賃金制などを強調しています。さらに、税金の集め方、使い方を改革し、大企業や富裕層の税逃れを許さない法整備を進めるとともに、富裕層に応分の負担を求め、所得税の累進化を強化することなどの対策を求めています。
 「格差と貧困をただす経済民主主義」の課題は、国際的にも通じる重要なテーマなのです。
 (金子豊弘)
(
2016年12月20日,「赤旗」)

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経済アングル/取り残される日銀

 欧州中央銀行(ECB)が8日、量的緩和で買い入れる資産規模の減額を決めたことで、日銀との方向感の違いが鮮明になりつつあります。米連邦準備制度理事会(FRB)はすでに、2014年10月の量的緩和終了に続き、15年12月には金利を引き上げ、リーマン・ショック以来のゼロ金利政策を終わらせています。
 ECBのドラギ総裁は、量的緩和の縮小ではないとしていますが、ECBが緩和拡大路線をとらない方向を示したことは明らかです。結局、主要国の中で金融緩和拡大の道を走っているのは日銀だけとなりました。
 ECBの決定の背景には、欧州の成長率や物価上昇率が上向いていることがあります。同時に指摘されているのが、買い入れる国債の枯渇です。特に安全資産とされるドイツ国債が品薄といわれます。
 日銀も同じ問題に直面しています。量的・質的金融緩和(異次元の金融緩和)で買い入れている国債は年100兆円を超えます。今のペースで購入を進めれば、17〜18年中に金融市場で買える国債がなくなってしまうと予想されています。
 ただ、日本の場合は、日銀が政策の目標とする物価上昇率はマイナス、成長率は経済協力開発機構(OECD)の16年見通しで0・8%と主要国中最低です。効果がまったくあがらない金融緩和を「毒食わば皿まで」とばかりに拡大している点では欧州以上に深刻です。
 日銀の木内登英審議委員は、日銀が異次元緩和から抜け出す「出口」で生じる損失は7兆円に達すると試算し、今の4500億円程度の引当金ではまったく足りないと警告しています。政策の方向が欧米と逆向きになった今、日銀は「出口」問題と真剣に向き合うべきです。
 (山田俊英)
(
2016年12月13日,「赤旗」)

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経済アングル/TPPの新たな危険

 トランプ次期米大統領は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明しています。安倍晋三政権は、米国に翻意を働きかけるとして、そのためにも今国会での批准が必要だと主張しています。しかし、米国が2国間交渉重視へ転換しようとしているとき、TPP批准は、2国間交渉の新たな土台をつくる危険な行為です。
 次期政権の商務長官に指名されたロス氏は11月30日、テレビで、通商政策の見直しが優先課題だとして、2国間交渉を推進する考えを示しました。有害だとして国民が反対し、利益が少ないとして大企業が不満をもつTPPより、2国間交渉を通じて米国の要求を直接押し通す意図を述べたものです。
 米国は、日本のTPP交渉参加を認める条件として、TPP交渉と並行して行う日米2国間交渉を押し付けました。日米構造協議、日米包括経済協議、日米経済調和対話など、呼称を変えて続いた対日要求実現の仕組みをTPP交渉の中へ持ち込んだものです。そのため、並行交渉の課題は、その時点での対日要求の総まとめ、自動車分野の関税のほか、保険など9分野の規制緩和とされました。日米並行交渉の結果、日本の「満額回答」が交換公文として確認されました。
 TPPが批准されるなら、並行交渉の結果は、日本の政府だけでなく、国会も認めた既成事実ということになるでしょう。並行交渉の結果は、米国の対日要求の現時点における到達点なのです。
 2国間交渉を重視する米国の新政権≠ェ新たな日米交渉を求めてきたときには、並行交渉で確認した対米誓約が改めて協議されるはずがなく、むしろ交渉の新たな出発点を提供することになるでしょう。
 (北川俊文)
(
2016年12月07日,「赤旗」)

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11月】

経済アングル/財政に憲法の理念を

 財務相の諮問機関、財政制度等審議会が17日に発表した2017年度予算編成などについての建議(意見書)は早期の「財政健全化」を強調しています。建議は米英独仏の各国で財政収支が「改善」した背景に、「国民的なコンセンサス(合意)があった」として、次のように述べます。
 「日本においても、政府全体として、国民の財政健全化に対する理解を一層深めることができるよう、財政・租税教育や広報に引き続き取り組むべきであろう」
 しかし、建議が掲げる「財政健全化」の道筋は消費税の増税と社会保障の削減で国民負担を増やす方向です。こうしたやり方では日本社会を覆う格差と貧困がますます深刻になってしまいます。
 これに対し、日本共産党は、消費税に頼らず、社会保障を拡充しながら日本経済と財政を立て直す道を提起しています。
@税金の集め方の改革―能力に応じて負担する、公正・公平な税制A税金の使い方の改革―社会保障、若者、子育て中心の予算B働き方の改革―8時間働けばふつうに暮らせる社会C産業構造の改革―大企業と中小企業、大都市と地方などの格差を是正―です。
 この4点は日本国憲法の理念とも合致しています。たとえば、応能負担の税制は、法の下の平等(14条)、個人の尊厳(13条)、生存権(25条)、財産権(29条)などから導かれます。その点から考えると、所得の低い者ほど負担が重くなる消費税は、憲法の精神に逆行します。
 財政制度等審議会は国民に対し、財政や租税について学べ≠ニ上から押し付けるのではなく、まず自らが日本国憲法の精神を学び、理解すべきではないでしょうか。
 (清水渡)
(
2016年11月29日,「赤旗」)

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7〜9月期GDP/東京工科大学教授工藤昌宏さんに聞く/プラスも外的要因/家計消費と設備投資は停滞

 内閣府が14日発表した2016年7〜9月期の国内総生産(GDP)1次速報値について、東京工科大学の工藤昌宏教授に聞きました。

 景気の動向に非常に強い影響を与える二つのエンジン、家計消費と設備投資がともに長期停滞しています。これは、日本経済が低成長から抜け出せていないことを示しています。
 若干のプラス成長も、輸出による外的要因が主導しています。輸出が実質でプラス2・0%となっていますが、これは前期(4〜6月)がマイナス1・5%に落ち込んだ反動によるものです。

構造的な問題
 輸出の中身は、訪日外国人観光客などのインバウンド消費が大きく、これが輸出の数字を押し上げた可能性が大きい。つまり日本経済は、外的要因に依存しているということです。
 個人消費と設備投資の停滞は、一過性のものではなく、構造的な問題です。アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)を推進した2013年以降、その停滞はさらに際立ち、今後も改善は難しいと見通すことができます。
 個人消費の長期低迷には、雇用者報酬の慢性的低迷や、非正規雇用の増大など雇用環境の悪化が強く影響しています。正社員の求人倍率は1倍に満たず、企業は正社員の雇用をかなり抑制しています。

土台部分陥没
 お年寄りは、年金収入が落ち込んでいることを理由に消費をためらう傾向が根強い。若者には、雇用と所得の不安から消費を増やす余力などもはやありません。国民生活は土台の部分で陥没しています。
 国民は、政府の失政を生活感覚で実感しており、政府に対して非常に強い不安感を抱いています。政府への不信感は募り、それが消費抑制を強めています。生産、投資、所得、雇用の経済の好循環が根底から崩れています。この経済構造の崩れが長期低迷の根底にあります。
(
2016年11月15日,「赤旗」)

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経済これって何?/7〜9月期GDP「プラス」/家計消費は横ばい、停滞長期化

 内閣府は14日、7〜9月期のGDP(国内総生産)速報を発表しました。前期(4〜6月期)比の実質成長率がプラス0・5%、名目はプラス0・2%でした。実質のプラス成長は3四半期連続で、これを見ると日本経済は成長軌道に乗ったかに見えます。しかし、実態は逆です。
 今期のGDPの特徴は第一に、輸出がプラス2%を記録し、これが全体のプラス成長をもたらしたことです。ですが、これは前期に輸出がマイナス1・5%と落ち込んだ反動によるものです。
 住宅投資もプラス2・3%を記録しました。これは、日銀のマイナス金利政策で住宅ローン金利が押し下げられたことを背景にした、人為的なものです。
 こうした外的要因や施策頼みの人為的操作によるプラス成長は、最近のGDPにほぼ共通した特徴となっています。同時に、GDPのかさ上げは対GDP比の累積債務比率を抑え、財政状態をよく見せる錯覚をもたらします。GDP操作は失政を隠す役割も果たすということです。

 特徴の第二は、政府や日銀の「もはやデフレではない」という主張とは逆に、GDPデフレーター(GDPで用いる物価指数で、消費者だけでなく企業や政府にとっての物価変動も示す)がマイナス0・3%に落ち込んだこと。マイナスは2期連続です。これは、名目GDPを物価変動率で調整した実質GDPをつり上げ、経済の見かけをよくする効果を持ちます。
 2008年のリーマン・ショック(米大手証券の破綻で世界に波及した金融・経済危機)で激しく落ち込んだ日本経済は、その後も停滞から抜け出せずに今日に至っています。アベノミクス(安倍晋三首相の経済政策)が始動した13年以降も事態は変わっていません。それどころか、停滞はさらに長期化する気配すら見せています。
 今期のGDPは全体ではプラスになりましたが、その伸び率は低く、経済実態を示す最も重要な指標である設備投資、家計消費は横ばい(0%)と低迷しています。この二つの指標は、ともにマイナスを繰り返しながら長期にわたって停滞しています。
 雇用は相変わらず非正規労働者の増加に依存し、正社員に対する求人倍率は依然として小数点以下ですし、消費支出、物価も慢性的に減少、低下を繰り返しています。

 このような状況で、政府も日銀もいよいよ追い詰められ、迷走を始めました。政府は8月、事業規模28兆円余りの経済対策を閣議決定しました。国民負担を増大させる財政のバラマキです。日銀も国民不安をあおり、経済をさらに萎縮させるマイナス金利政策を導入し、市場に混乱を与えています。こんな政策が続く限り、日本経済の再生は遠のくばかりです。
 日本経済停滞の根源は、国民生活の疲弊による消費支出の長期的な冷え込みにあります。ここに直接メスを入れない限り停滞から抜け出すことはできません。
 工藤昌宏(くどう・まさひろ 東京工科大学教授)
(
2016年11月27日,「赤旗」)

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経済アングル/「大洪水」と社会保障

 資本主義的な生産が「急速にかつ深く人民の生命源をおかし」、産業人口が「退化」「衰弱」し始めていると警告したのはマルクスの『資本論』でした。
 労働時間を限りなく延ばして利潤を増やす資本の運動が、労働者のあまりにも早い消耗と死亡を生み出すと告発したのでした。マルクスが残した有名な警句は現代日本を予言したかのようです。
 「大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!≠アれがすべての資本家およびすべての資本家国民のスローガンである」「資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない」
 過労死や過労自殺を生む巨大資本の働かせ方はいうまでもありません。利潤を第一にする政治は雇用と社会保障を壊し、貧困と格差を広げ、結婚と出産を妨げてきました。
 少子化が進み、市場は縮小。日本の資本の運動は人口衰弱の「大洪水」を引き起こし、自ら経済の基盤を掘り崩すに至りました。
 財務相の諮問機関である財政制度等審議会が17日にまとめた建議は、「大洪水」に拍車をかけるような内容です。社会保障の給付を削り負担を増やす「改革」を「できる限り前倒し」するよう迫ったのです。巨大資本への優遇税制は温存・拡大することが前提です。
 すでに重すぎる医療・介護の負担は国民の健康と命を脅かしています。家計を圧迫し、将来不安を増大させ、消費を冷え込ませる重大要因ともなっています。一層の制度改悪は、経済社会の基盤を破壊する自滅行為です。
 健康で文化的な国民の生活を守るため、資本が応分の負担をするよう「社会によって強制」する制度が社会保障です。その抜本的な拡充が、経済社会の発展を可能にします。
 (杉本恒如)
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2016年11月22日,「赤旗」)

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経済アングル/続く市場開放の拡大

 安倍晋三政権は、衆院本会議で環太平洋連携協定(TPP)承認案・関連法案の採決を強行し、議論の場は参議院に移りました。
 米国では、TPPからの撤退を公言しているトランプ氏が次期大統領に選出されました。9日には米共和党のマコネル上院院内総務は、新大統領が就任する来年1月20日までの期間に米議会が同協定を批准する可能性は「ない」と記者会見で語りました。次期政権が発足するまでに承認を目指していたオバマ米大統領もTPPの議会承認を断念したと報じられています。
 TPP協定は、たとえ日本が批准したとしてもアメリカが批准しなければ発効しません。それを、安倍政権が強行に次ぐ強行で押し通そうというのは愚の骨頂です。
 「米国最優先」を掲げているトランプ氏は、「TPPから撤退する」といいます。その理由は、TPPによってアメリカの雇用が失われるというものです。今後、アメリカの大企業のために、雇用だけでなく農業や医療、金融サービスなどの分野で、日本側にさまざまな要求を突き付けてくる可能性があります。
 実際、今月上旬に開かれた日米財界人会議では、労働者の成果を業績で評価し、労働時間の制限を取り払う制度の導入を日本側に求めています。もともと日米の経済界は、日米の2国間での経済統合を求めていたという経緯もあります。
 市場関係者は、「トランプ氏の経済政策は、一国覇権主義であり、近隣窮乏化政策だ」といいます。
 TPP発効の見通しが不透明になったからといって、安心してはいられないようです。暮らしを支える日本の制度が狙い撃ちにされることへの警戒感を高める必要があります。
 (金子豊弘)
(
2016年11月15日,「赤旗」)

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経済アングル/「言い訳しない」はずでは

 「2年くらいで責任をもって達成するとコミットしているわけですが、達成できなかったときに『自分たちのせいではない。他の要因によるものだ』と、あまり言い訳をしないということです」
 発言の主は岩田規久男日銀副総裁です。2013年3月21日、「異次元の金融緩和」を決める2週間前に行った記者会見でのことでした。隣に座っていたのは黒田東彦総裁。「2%の物価安定目標を達成すべきであるし、達成できると確信している」と宣言しました。
 あれから3年半余。2%目標の実現は18年度ごろに先送りされました。1日の記者会見で黒田総裁は「原油価格の下落であるとか、新興国経済の減速であるとか、その他、世界的な共通の事象が影響していると思う」と述べました。「デフレマインドがそう簡単に払拭(ふっしょく)できない」とも言い、家計や企業の気持ち≠フせいにもしています。
 「自分たちのせいではない」と「言い訳」している場合ではないでしょう。日銀が安倍晋三政権の言いなりになって異次元緩和を行ってきたことが問われなければなりません。大量の国債を買い取って金融機関にお金を流せば、物価が上がり、実体経済にもよい影響を与えるというシナリオはとうに崩れています。安倍首相が国会の所信表明や施政方針で自らこの政策について語ることもなくなりました。
 「独立した中央銀行の行動を最終的にチェックするのは国民であり、国民に対し、専門家として『想定外のリスクが発生してしまいました』という言い訳は許されない」と退任会見で述べたのは白川方明前総裁です。18年に任期が終了する黒田総裁、岩田副総裁はそのとき何と語るでしょうか。
 (山田俊英)
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2016年11月08日,「赤旗」)

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経済アングル/バナナの旅と税逃れ

 バナナの旅を追いかけると、税逃れの構造が見えるといいます。
 来日したタックスヘイブン(租税回避地)の専門家ジョン・クリステンセン氏が講演で語っていました。
 例えばイギリス国民が食べるバナナ。生産地は遠く離れた中米のホンジュラスです。
 バナナはホンジュラスからイギリスへ、直接やってきます。実物の旅は単純明快です。
 ところが、帳簿上のバナナの所有権は奇妙奇天烈な旅路をたどります。ホンジュラスを出て向かう先はなぜかケイマン諸島。さらにルクセンブルク、アイルランド、マン島、ジャージー島、バミューダ諸島に立ち寄ります。その後でようやく、本来の目的地イギリスへ向かうというのです。
 帳簿上でバナナが寄り道する場所はタックスヘイブンです。バナナの消費が目的ではありません。何しろ実物は来ないのです。
 目的は、タックスヘイブンの子会社に帳簿上の利益を落とし、生産地ホンジュラスと消費地イギリスの双方で課税を逃れること。バナナを売買する多国籍企業が利益を独り占めするための策略です。
 「衝撃的なのは、こうした取引が完全に合法だということです」(クリステンセン氏)
 多国籍企業は税制の隙間を突いて課税を合法的に逃れるために、不自然極まりないグループ内取引の網の目を張り巡らせているのです。しかも通常、こうした取引の実態は企業秘密の闇の中です。
 生産地と消費地の双方に打撃を与える税逃れを根絶するためにはまず、秘密のベールをはぎとらなければなりません。子会社情報の公開が決定的です。
 ところが、「情報公開に反対している国の一つが日本です」(クリステンセン氏)。
 多国籍企業の闇に光を当て、税の公正を実現するかどうか。日本国民の運動が鍵を握ります。
 (杉本恒如)
(
2016年11月01日,「赤旗」)

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10月】

経済これって何?/「包摂的成長」への転換/格差是正で好循環めざす世界

 2008年の世界金融危機以降、主要資本主義国は大規模な金融緩和や財政支出で対応してきました。それにもかかわらず、経済的停滞が克服できないなかで、貧困と格差の拡大こそが経済危機の真因であるという認識が広がっています。
 1%の富裕層への富の集中が「不平等危機」(inequality crisis)を招いているというNGO(非政府組織)の指摘が、主要な国際機関で共有されるようになっているのです。

 経済協力開発機構(OECD)は12年から開始した「経済的試練への新しいアプローチ」で、「トリクルダウン」(成長の果実が労働者に滴り落ちてくるという理論)は幻想にすぎないと否定。富の集中を是正し、成長の果実を社会全体で共有する「包摂的成長」(inclusive growth)こそが「低成長のわな」を抜け出し、持続的成長を実現する道だと提唱しています。
 「低成長のわな」とは世界経済が陥った停滞の悪循環のこと。OECDは
金融緩和政策への依存が一部富裕層・大企業に富を集中させ、所得格差が拡大その結果、消費が停滞し、投資も衰退さらに教育機会、健康維持、就業機会など所得以外の不平等も拡大長期的な生産性や経済的活力が高まらず、成長への期待も失われる―という「低成長のわな」に世界経済を追い込んでいるとしています。
 ここから、「平等が経済成長の推進力」だとして、税制改革など富の再分配機能の強化を通じて教育の機会均等、子どもや家族の支援、健康保険の充実、失業手当や職業訓練の充実を進め、成長の果実が社会全体で共有されるとともに、格差の世代間継承を防ぐ政策を提起しています。
 十分な高等教育がより良い職業を保証し、それが労働力の質を高め、より生産性の高い社会を実現する好循環が生まれるというわけです。
 「包摂的成長」は14年のG20(20カ国・地域)ブリスベン・サミットの経済宣言に盛り込まれ、G20の成長戦略の重要な柱となり、主要な国際機関が政策として具体化しつつあります。

 かつて市場原理主義の牙城とされた国際通貨基金(IMF)も、そうです。今年の対日審査報告で、格差拡大が成長を妨げているとの視点から、アベノミクスで増えた企業収益が労働者に還元されないことが低成長の原因だとして、所得を増やす政策を求めました。
 IMFなどは、規制緩和や自由貿易が経済的効率性を高め、成長を促進するという立場を捨ててはいません。それでも、大企業の収益の増加と、そのトリクルダウンに依存したアベノミクスの成長戦略の限界を浮き彫りにする、新たな政策に踏み出しています。
 古い成長戦略にとらわれて「低成長のわな」に落ち込み、異常な金融緩和や雇用を守る規制の改廃などを通じて、貧困と格差をいっそう拡大するアベノミクスに対して、世界はすでに対案にチャレンジしています。
 鳥畑与一(とりはた・よいち 静岡大学教授)
(
2016年10月30日,「赤旗」)

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経済アングル/刺激策が支える中国

 「失速論≠ヘ破綻している」―19日に発表された7〜9月期国内総生産(GDP)の数字をめぐって中国共産党機関紙、人民日報(電子版)が「ハードランディング」や「衰退入り」説に反論しています。
 同期の実質成長率は前年比6・7%増。3期連続でリーマン・ショック後以来の低い伸びです。人民日報は「中国経済の未来には不確定さがあるが、さまざまな改革によって新たな成長の動力を生み出しており、世界にも貢献している」と強調します。
 中国の第13次5カ年計画(2016〜20年)が掲げる成長率は年平均6・5%以上。「2020年までにGDPを10年比で倍増する」という国家目標を実現するために必要とされる成長率です。
 掲げた数字は達成しています。ただ、世界第2の経済大国となった中国の成長減速が与える影響は大きい。
 「中国経済が投資、産業、輸出への依存から消費とサービスに軸足を移すことは想定以上に困難を伴い、一次産品輸出国や機械輸出国、さらには金融の波及経路を通じて各国に大きな影響をもたらす可能性がある」
 国際通貨基金(IMF)は10月に発表した最新の「世界経済見通し」でこう指摘しました。IMFは「中国経済の統制のとれた移行が長期的に世界経済の利益になる」としています。その一方、現在の中国経済については「マクロ経済の刺激策によるところが大きい」と警戒を強めています。
 第13次5カ年計画の主要目標の一つは、中国の独自基準で約5000万人とされる貧困人口を20年までに根絶することです。中国政府自身、「最も困難な任務」とする課題です。格差や貧困の解消が原動力となるような発展が求められています。
 (山田俊英)
(
2016年10月25日,「赤旗」)

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経済アングル/米国産米を食え

 食用米として売買同時入札(SBS)方式で輸入された外国産米の価格が偽装された疑惑が生じました。同じ価格なら国産米の方が好まれるため、「調整金」で底上げして、輸入米の価格を国産米より高く見せかけ、実際には安く流通させたとする疑惑です。
 それが事実なら、政府がマークアップという事実上の関税を徴収することで、輸入米の価格を国産米と同水準に保ち、国産米への影響を防ぐSBS方式の仕組みが掘り崩されていることになります。
 その背景には、政府が、最低輸入機会にすぎないミニマム・アクセス(MA)を「義務的輸入」とみなして、不必要な外国産米を輸入していることがあります。そこには、米輸入を増やし、食用米として消費せよという米国の圧力があります。
 米通商代表部(USTR)の貿易障壁報告書は毎年、MA米はもっぱら工業用・飼料用の非食用米と対外援助に回され、「わずかしか米国産米と分かる形で日本の消費者に届かない」と不満を表しています。米国コメ連合会も、環太平洋連携協定(TPP)交渉への日本の参加に関する公募意見で、日本の制度は「SBS方式の輸入米を除き、小売りや外食のような高価値の全粒米・食用米市場への販路を奪う」と非難しています。日本人は米国産米を食え≠ニ言わんばかりです。
 TPPでは、米国産米とオーストラリア産米に合計7万8400dのSBS方式による国別枠を新設します。また、年間77万d輸入しているMA米の中に加工用中粒種に限定した年間6万dのSBS枠を設定します。
 そのSBS方式に生じた疑惑は、徹底的に究明すべきです。同時に、その背景にあるMA米の「義務的輸入」もやめるべきです。
 (北川俊文)
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2016年10月18日,「赤旗」)

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日銀短観、景況感横ばい/2四半期連続/先行きも視界不良

 日銀が3日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、資本金10億円以上の大企業製造業がプラス6で2四半期連続の横ばいになりました。安倍晋三首相が宣伝するアベノミクスによる好循環とは裏腹に、現状は依然深刻なことが改めて示されました。

 大企業非製造業のDIはプラス18と、前回調査より1ポイント低下し、3四半期連続で景況感の悪化が示されました。国内消費低迷や訪日外国人客の高額品購入の減少で、小売りが冷え込みました。
 大企業製造業の現状DIを業種別に見ると、造船・重機はプラス4からマイナス18へと22ポイント悪化。汎用(はんよう)機械や生産用機械も落ち込みました。円高に加え、企業の設備投資姿勢の慎重化が影響したとみられます。
 自動車はマイナス2からプラス8へ改善しました。熊本地震で被災した関連工場の復旧に加えて、燃費不正をした三菱自動車の軽自動車生産再開も景況感改善を後押しした格好です。鉄鋼は国際価格の下げ止まりを受けて12ポイント改善しました。
 資本金2000万円以上1億円未満の中小企業では、製造業と非製造業ともに小幅に改善しました。しかし、小売りはマイナス13と、依然として水面下です。卸売りや宿泊・飲食サービスも厳しい状況が続いています。
 3カ月後の見通しを示すDIは、大企業製造業が横ばいのプラス6と不透明感が漂います。大企業全産業の16年度設備投資計画は、前年度比6・3%増と前回調査とほぼ変わらず、円高を背景に企業が先行きを慎重に見ていることをうかがわせました。中小企業製造業では同マイナス15・3%でした。
 大企業製造業の事業計画の前提となる想定為替レートは1j=107円92銭です。しかし、この想定では実際の水準との乖離(かいり)が大きく、輸出企業を中心に収益が下押しされ、今後の景気や消費の足を引っ張る恐れがあります。

日銀短観
 日銀が民間企業の景況感や収益計画などを把握するために行うアンケート調査。正式名称は全国企業短期経済観測調査。対象は約1万社。3、6、9、12月の年4回実施しており、景気動向を見極める上で、最も重要な指標の一つ。企業心理を示す業況判断指数(DI)は、業況を「良い」と答えた企業の割合から「悪い」とした回答割合を引いた値で、企業規模や業種別に集計します。
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2016年10月04日,「赤旗」)

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経済アングル/爆買い@鰍ンでいいか

 中国は1日から1週間の国慶節(建国記念日)休みです。東京都内でも大きなトランクを持った中国人観光客が目立ちます。爆買い≠ニいわれる勢いのある消費がどうなるのか、小売業界が気をもんでいます。
 全国百貨店協会によると、訪日客の買い物の売上高は4月、39カ月ぶりに前年比マイナスに転じました。その後、5カ月連続減。しかも減少幅が毎月拡大しています。直近の8月には26・6%減の大幅な落ち込みでした。
 訪日中国人の数は増えていますが、1人当たりの売上高が減っています。中国政府が輸入関税を引き上げたことが響いたとみられます。加えて、高額品の買い物が減ったり、買い物中心から日本文化を体験するツアーに移ったり、と訪日目的にも変化が見られます。
 外国人旅行者の増加は、消費の拡大に貢献しますが、不安定さを伴うことは否めません。為替相場の変動や関税、国際関係によって急に風向きが変わることがあります。
 また、爆買い≠フ恩恵を受けるのは主に大都市です。地方では百貨店の閉店が続いています。日本国民自身の消費が増えない限り、経済の立て直しもありません。
 総務省の「家計調査」で、1世帯当たりの実質消費支出は、2月の「うるう年効果」を除けば、12カ月連続で減っています。安倍晋三政権は「日本再興戦略」で「観光立国」を掲げ、観光を「成長戦略の柱」と位置づけます。対象はもっぱら外国人旅行者です。日本人の旅行の支出は家計調査では減っています。いま政府がなすべきことは、2014年4月の消費税増税以来、落ち込んだままとなっている日本人自身の個人消費を回復することです。
 (山田俊英)
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2016年10月04日,「赤旗」)

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経済の迷宮/1/シンガポール通じ税逃れ

 アジア大陸の東南端にリトル・レッド・ドット(小さな赤い点)という愛称を持つ島国があります。高層ビルが立ち並ぶ都市国家シンガポールです。
 愛称の由来は地図上の赤い点に隠れてしまうほど小さな国土面積だといわれます。東京都のおよそ3分の1(719平方`b)。独立国としては最小クラスです。人口は約554万人で兵庫県とほぼ同じです。
 その小さな国土に、巨額のマネーが流れ込んでいます。

自国経済の3倍
 2014年にシンガポールが国外から受け入れた直接投資の残高は世界で第12位の約9千億j。同国の名目国内総生産(GDP)の3倍に達しました。直接投資は企業の支配を目的とする投資を指し、10%以上の株式所有が含まれます。
 自国経済の規模より3倍も大きな額の投資を受け入れているというのは、いかにも不自然です。実は、シンガポールから国外への直接投資も同国の名目GDPの2倍近くに及び、国外への証券投資は名目GDPの3倍を超すのです。膨大な資金が流入すると同時に流出している格好です。
 こうした異様な資金の流れを、財務省は多国籍企業の税逃れの証拠だと見ています。
 「クロスボーダー(国境をまたぐ)直接投資が増加している背景には、『実質的な経済活動とは関係の薄い第三国』を導管のように経由する取引の拡大が貢献している可能性」がある。導管(資金の通り道)となる国を経由した取引によって「第三国を経由しない場合に比べ企業・投資家の実質的な税負担を相当程度軽減」(16年5月26日、政府税制調査会資料)している―。

第4位の回避地
 シンガポールは世界第4位のタックスヘイブン(租税回避地)だと指摘する民間団体もあります。イギリスに本拠を置き、税逃れの追及で先駆的な役割を果たしてきたタックス・ジャスティス・ネットワークです。
 同団体は税率の低さや銀行の秘密性の高さなど複数の指標で各国を2年ごとに採点し、ランク付けしています。2015年の最新版によれば、4位のシンガポールはスイス(1位)やケイマン諸島(5位)などと並ぶ主要なタックスヘイブンです。
 そのシンガポールに「地域統括会社」を設立する日本企業が近年、急増しています。
 
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2016年10月05日,「赤旗」)

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経済の迷宮/1/増える日本企業/動くメガバンク

 ジェトロ(日本貿易振興機構)・シンガポールは、シンガポールに設置された日系地域統括会社の動向を系統的に調べています。15年の調査は増加傾向を裏付けました。

5社が36社に
 「シンガポール法人への地域統括機能の設置は2010年以降急増。回答企業の約半数が2010年以降設立。2015年も増加傾向は続く」(第4回在シンガポール日系企業の地域統括機能に関するアンケート調査)
 1970年以来、新たに地域統括機能をシンガポールに置く日本企業は5年間あたり平均5社でした。ところが2010〜14年の5年間で突如、36社に跳ね上がったのです。ジェトロ・シンガポール事務所に聞くと、調査結果は実感を上回ったといいます。
 「2010年以降急速に伸びている実感はあったものの、すごいな、すごくたくさん来ていたんだなというのが、数字が出たときの印象でした」
 地域統括会社とは、タイやインドなど他国で製造・販売する複数のグループ会社を統括する会社です。シンガポールに置くメリットは何か。メガバンクがホームページに掲載したリポートで端的に説いています。
 「地域統括会社の主な設置目的」の一つは「地域統括会社に利益を集約することによるグループ全体の実効税率の低減」である。「シンガポールの法人税率は、日本と比較して大幅に低いことから、シンガポールにいかにして利益を集約するかが、地域統括会社構築の一つのポイントとなる」(14年3月20日、三菱東京UFJ銀行「グローバル・ビジネス・インサイト」)
 利益を生む経済活動をアジア各国の孫会社や日本の親会社が行い、その利益を低税率国シンガポールの子会社(地域統括会社)に移せば、グループ全体の税負担が軽くなるというのです。
 10年には、低税率国の子会社の所得に日本の税率で課税するタックスヘイブン対策税制が緩和され、地域統括会社が課税対象から外されました。シンガポールでの設立が急増したのは、その後です。

税逃れの勧め
 三菱東京UFJ銀行のリポートの目的は顧客企業への情報提供です。掲載ページで「海外への新規進出や投資拡大を検討する際にぜひご活用ください」と呼びかけています。
 事実上、シンガポールを導管国とする税逃れの勧めです。
 本紙が取材を申し入れたのに対し、三菱東京UFJ銀行は文書で回答。「お客様への情報提供を目的として(リポートを)発行しており、個別具体的な商品・サービスの勧誘、特定アドバイス等の提供を目的とするものではございません」と説明しました。リポート作成を担当した法律事務所に顧客企業を紹介しているのではないか、シンガポールでの地域統括会社設立を支援した実績があるか、と尋ねたのに対しては「開示しておりません」と答えました。
 

 タックスヘイブンを経由する取引で巨額の税金を逃れ、世界的な非難を浴びてきたのは欧米企業です。しかし日本からタックスヘイブンへ流れる資金は決して小さくありません。日本の大企業も大規模な税逃れを行っている節があります。
 世界中の貧困層や中間層に負担を転嫁し、労働の果実をかすめとって富裕層の懐に入れる装置となっているのが、秘密のベールに覆われた複雑怪奇な資金の流れです。迷宮のようなその経済構造を探ります。(つづく)
 (10回連載の予定。次回から経済面に掲載します)
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2016年10月05日,「赤旗」)

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経済の迷宮/2/ある大手銀行員の証言

 5月10日、「今世紀最大の暴露文書」ともいわれる「パナマ文書」に登場する約21万法人を、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公開しました。これらの法人は、英領バージン諸島などのタックスヘイブン(租税回避地)に設立されたペーパーカンパニー(事業実体のない会社)です。
 法人に関与している日本企業やその役員の名前も挙がりました。伊藤忠商事、丸紅、UCCホールディングス、ソフトバンクグループ、セコム、楽天などです。
 本紙の問い合わせに対し、各社は口をそろえて「合法的」に税金を払っていると釈明しました。「タックスヘイブン対策税制に準拠している」(丸紅)「合法的に処理されている」(セコム)

世界的な問題に
 しかし、多国籍企業と富裕層がタックスヘイブンを利用して「合法的」に巨額の税負担を逃れられる点が、世界的な大問題となっているのです。
 低税率国に置かれた子会社に日本の税率で課税するタックスヘイブン対策税制にも、大きな穴がいくつも開いています。穴の一つが地域統括会社です。
 子会社が地域統括会社と認められれば、経済的な合理性があるとみなされ、日本での課税対象から除外されるのです。タックスヘイブンに地域統括会社を設立して利益を移せば、グループ企業全体の税負担を軽減できることになります。
 三菱東京UFJ銀行が顧客企業向けリポートで推奨しているのが、この抜け穴を利用した節税工作です。
 ジェトロ・シンガポールの15年アンケート調査(回答率24・2%)は、シンガポールに地域統括機能を置く日系企業の一部(90社)から設置目的を聞き取っています。
 「各種税制インセンティブ等を有効活用し、域内グループ全体で税務戦略を高度化するため」を率直に挙げた企業は22社(24・4%)に上りました。
 さらに、シンガポールに設置する理由として「低い法人税率、地域統括会社に対する優遇税制など税制上の恩典が充実しているため」を挙げた企業は44社(48・9%)に達しました。
 税逃れの横行を示唆する結果です。
 「統括会社は岐路にさしかかっています」

二つの変化要因
 ある大手銀行で海外の地域統括会社への支援を長年担当しているというA氏に話を聞くと、開口一番そう語りました。大手銀行は匿名を条件に取材に応じ、応対に現れたのがA氏でした。ジェトロ調査への感想を聞くと、苦笑を浮かべました。
 「税務当局に狙ってくれといっているようなものですよね」
 社会の風向きが変わり、従来は見逃されていたような節税工作に対しても、追及が強まりつつあるというのです。変化には二つの要因があると話します。
 「一つはパナマ文書です。二つ目はBEPS(税源浸食と利益移転)対策です。取り締まりを厳しくする方向になっています」
 パナマ文書は多国籍企業と富裕層の税逃れに対する世界的な批判に火を付けました。経済協力開発機構(OECD)を中心に進む国際的な税逃れ対策(BEPS対策)は多国籍企業への包囲網を確実に狭めています。
 これらの要因で地域統括会社が岐路に立つ―。A氏の証言は、裏を返せば地域統括会社を利用した税逃れが広範囲に行われていることを意味します。同時に、税逃れの追放に向けて市民社会の圧力が有効だということも、そこには示されていました。(つづく)

タックスヘイブン対策税制
 税負担率が20%未満の国・地域に事業実体のない子会社をつくった場合、この子会社の所得を日本の親会社の所得に合算して課税する制度です。低税率のタックスヘイブンに利益を移して課税を逃れる多国籍企業への対抗措置です。
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2016年10月06日,「赤旗」)

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経済の迷宮/3/回り道、ぬれ手であわ

 「2010年に日本企業が一気にシンガポールに出て行ったとき、話題になっていたのがそういう方法です」
 大手銀行の広々とした応接室でA氏はよどみなく話します。「そういう方法」とは、三菱東京UFJ銀行のリポート(14年3月20日、4月3日)が勧める節税の手法のことです。
 シンガポールに地域統括会社を設立すると、どういうしかけでグループ企業全体の税負担を軽くできるか。リポートは懇切丁寧に説明しているのです。いささか込み入っていますが、せっかく明かしている手の内です。のぞいてみましょう。
 大原則は、シンガポールに最大限の利益を移転することです。
 「シンガポールの法人税率は、日本と比較して大幅に低いことから、シンガポールにいかにして利益を集約するかが、地域統括会社構築の一つのポイントとなる」

低税率利用して
 利益の移転には二つの経路があります。
 一つはアジア各国のグループ会社(被統括会社)から利益を移す経路です。もう一つは日本の親会社から利益を移す経路です。
 第一の経路で利益移転に使えるのは「配当、利子、使用料」などだとリポートは指摘します。例えば利子と使用料について、次のように解説しています。
 「利子、使用料等はシンガポールにおける課税対象となるが、シンガポールの法人税率が日本の法人税率よりもはるかに低いことから、日本本社が直接受け取り、日本の法人税の課税対象となるよりも有利なことが多い」
 利子は融資への報酬。使用料は特許などの知的財産の使用を許可することへの対価です。これらを受け取ると、企業の所得となって法人税がかかります。同じ額の利子や使用料を受け取るのなら、税率の低いシンガポールで受け取る方がお得ですよ、というわけです。
 実際、16年度の税率を比べると、日本の法人税の実効税率(国・地方の合計)は29・97%。シンガポールの税率は17%である上、要件を満たす地域統括会社に対しては5〜15%に軽減する優遇措置があります。シンガポールで納税すれば、はるかに大きな利益が残るのです。
 さらに、こうして残った利益を「配当の形」で「日本本社に送金することも考えられる」とリポートは助言します。配当にかかる税金はごくわずかだからです。シンガポールでは、企業が外国株主へ配当金を払っても非課税。日本でも、外国子会社からの受取配当は総額の5%しか課税対象になりません。
 つまり、アジアへの投資の見返りを日本で直接受け取るのをやめ、いったんシンガポールで受け取って納税してから日本に送る回り道をつくるだけで、ぬれ手であわの大もうけができるのです。

アジアも税収減
 こうした節税工作で日本が税収を失うのは明白です。一方、アジア各国の税収も大きく減っているはずだと語るのは『〈税金逃れ〉の衝撃』の著書がある深見公認会計士事務所の深見浩一郎代表です。
 利益移転には別の方法もあると深見氏は指摘します。シンガポールの地域統括会社に業務を委託する対価として、アジアのグループ会社が業務委託料を支払うことです。
 「業務委託料を支払う会社の課税所得は減り、受け取る地域統括会社の所得として課税されることになります。アジア各国の法人税率は20〜30%なので、はるかに低税率のシンガポールで課税されれば、節税効果は大きい」
 グループ会社の所得がシンガポールに移される分、アジア各国は税収を失うのです。実際、シンガポールの地域統括会社は収入の多くを業務委託料に依存しています。
 ジェトロ・シンガポールの15年調査では、地域統括会社90社のうち独自の事業収入を得ているのは28社だけでした。多くの企業が域内グループ会社からの業務委託料(31社)、同配当(27社)、同使用料(9社)、同利息(8社)を収入源としていました。
 利益移転を裏付けるデータです。
 (つづく)
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2016年10月07日,「赤旗」)

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経済の迷宮/4/なぜ海外?説明困難

 シンガポールの地域統括会社の多くは自ら利益を生んでいません。アジア各国のグループ会社からだけでなく、日本の親会社からも利益が移転している―。税逃れの証拠ともなるデータがあります。
 地域統括会社の一部(90社)から回答を得たジェトロ・シンガポールの調査結果です。
 それによれば、最も多くの地域統括会社が頼る収入源は、日本の親会社からの業務委託料(35社)なのです。グループ会社を統括する業務などを日本の親会社から委託され、「対価」を受け取っているとみられます。
 日本の親会社からの業務委託料に収入の100%を依存する会社は14社。50%以上100%未満を依存する会社は11社ありました。
 三菱東京UFJ銀行のリポートは、日本からの利益移転のメリットを特に強調します。
 「日本本社が保有する資産(特に知的財産権等の無形資産)をシンガポール地域統括会社に移転し、日本本社から地域統括会社に対してロイヤルティー(使用料)やマネジメントフィー(業務委託料など)、利子、保険料、賃料等の費用を支払うことにすれば、日本における課税所得は減少し、日本よりも税率の低いシンガポールにおいて地域統括会社の所得として課税されることとなるから、グループ全体の税負担が大きく圧縮される」

還流95%非課税
 さらに重大なのは、そうしてシンガポールにたまった利益を日本に再び送るメリットを説いていることです。
 「そのようにしてシンガポール地域統括会社が稼得した利益を配当の形で日本本社に還流した場合でも、外国子会社配当益金不算入制度により、95%は非課税となる」
 シンガポールの法人税率は日本の税率より13〜25%も低いので、日本本社の所得をシンガポールに送れば納税額が激減します。大きな税引き後利益が残るのです。それを配当として日本本社に還流すれば、たいした課税もされず、日本本社の税引き後利益が膨らむというわけです。
 つまり、日本で生み出した所得に日本で課税されるのを避け、シンガポールに移転して納税後に日本に戻すという回り道をつくれば、巨額の税逃れを達成できるのです。
 こうした操作が可能なのは、地域統括会社に経済的な合理性があると判断され、日本のタックスヘイブン(租税回避地)対策税制の適用除外とされているからです。もしも同税制を適用されれば、シンガポールでの所得は日本での所得と合算課税され、回り道は無意味になります。

実体のない会社
 では、地域統括会社に本当に経済的合理性があるのか。大手銀行で地域統括会社への支援を担当してきたA氏の見方は否定的です。
 「(税逃れ対策の進展で)実体のない会社には(実体のある場所の政府が)課税するということが国際的なコンセンサス(合意)になっています。その場所に会社を置く必要があるかという質問に答えられないとゴースト(幽霊会社)だということになります。利益を移転しているだけだということになる」
 「統括会社の場合、海外ビジネスを統括するといっても、日本で同じことができないの? 海外じゃなきゃだめなの? ということが問われます。どこまで説明できるのか」
 「(統括業務の)総務・人事・経理はホワイトカラーです。昔は決算書の作成も人がやっていたので大きな雇用になったけど、機械化が進んで人はほとんどいりません」
 「アジアと日本とでは時差もたいしてない。それに日本で総務・人事・経理をやる人の方が優秀です。時給1000円であれだけ働くんですから。シンガポールの人は1000円では雇えません」
 「だから税務当局からみると狙いどころになる。シンガポールに移して本当にコストが安くなったの? と聞いてくるでしょう」
 アジアのグループ会社を統括する機能を日本からシンガポールに移す合理性や必然性は説明しにくい、という見解です。
 (つづく)
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2016年10月08日,「赤旗」)

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経済の迷宮/5/海外子会社の情報隠す

 子会社の事業の実態はほとんど公表されません。株式を公開しなければ、投資家向け情報を記載した有価証券報告書を公表する義務も課されないため、多くの場合に売上高や収益は不明です。結果として、グループ会社から移転した利益の規模も分かりません。
 海外子会社には親会社所在地国の課税権が及ばず、税務調査に入れないため、国家も資金の流れの全体像を把握できません。
 多国籍企業が海外に置く子会社は、税逃れに役立つと同時に、それを覆い隠すベールとしても機能するのです。日本企業がシンガポールに置く地域統括会社の内実も闇の中です。
 大規模な税逃れが行われているなら、シンガポールの子会社に利益が集中しているはずです。そこで本紙は、シンガポールに子会社を置く日本企業23社に、子会社の設置目的や事業内容、従業員数、経常利益などを尋ねる質問状を送りました。その際、節税について説明を求める意図を明確に示しました。対象は、2010年以降に地域統括機能を設置した事例(予定や組織改変を含む)として、ジェトロ・シンガポールの調査に記載された大企業です。

節税目的を否定
 23社中7社は一切回答せず、回答を寄せたのは16社でした。うち3社(住友商事、東京ガス、メルコホールディングス)は、税制上の統括会社に該当しないと回答。12社は節税が目的ではないと説明しました。
 ところが、節税目的を否定した12社のうち、地域統括会社の経常利益と従業員数を明らかにしたのはわずか2社でした。第一生命保険(2200万円、従業員35人)とパナホーム(0円、同4人)です。
 経常利益は「非公表」と回答したのは、住友化学(従業員100人)、ニコン(同10人)、日本通運(同7273人)、三井化学(同80人)、三菱重工業(同200人規模)の5社。
 旭硝子、サントリー食品インターナショナル、パナソニック、日立製作所の4社に至っては、従業員数も「非公表」と答えました。資生堂は従業員数と経常利益について「マネジメント会社のため算出不能」と説明しました。
 「節税が目的ではない」と主張しつつ、節税効果が出ているか否かを表すような客観的な情報は隠し通す、という不透明な回答が多数を占めたのです。
 一方、節税の意図を正面から認めたのが、精密機器や紙製品を製造する日清紡ホールディングスです。同社は11年に100%子会社「日清紡シンガポール」を設立しました。
 本紙の質問に対し、設立目的は「アジア市場の成長を取り込み、当社グループ事業の深耕を加速させる」ことだと回答。シンガポールに置いた理由については、周辺地域へのアクセスや情報収集の容易さなどと並んで、「低い法人税率、地域統括会社への優遇など税制上の恩典が充実しているため」をあげました。
 従業員は4人。計50億〜100億円の売り上げがあるグループ会社3社(2カ国に設置)を統括していると答えました。ただし、直近の経常利益は約1000万円の赤字になっていると説明しました。

情報公開が必要
 今回の回答で子会社の経常利益を明らかにしたのは、さほど大きな利益の出ていない企業ばかりでした。
 「多国籍企業は子会社の情報をすべて公開すべきです。とりわけ地域統括会社は多くのグループ会社を統括し、利益を集中するなど、重要な機能を果たす子会社です。情報を隠す裏には税逃れの意図があることを疑わざるを得ません」
 本紙の質問と回答に目を通して指摘するのは、タックスヘイブン(租税回避地)に詳しい政治経済研究所の合田寛理事です。
 「統括会社はタックスヘイブンに設置されていても、タックスヘイブン対策税制の適用除外になるという優遇措置を受けています。このことからも、情報の公開は必要です」
 全質問に回答した企業(第一生命、日清紡ホールディングス、パナホーム)の存在は、情報公開が決して無理な課題ではないことを示すといいます。
 (つづく)
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2016年10月12日,「赤旗」)

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経済の迷宮/6/税逃れできる大企業

 シンガポールに置いている子会社の実態を尋ねた本紙の質問状に対し、一切答えなかった企業は7社でした。

多くの会社統括
 7社の子会社はどんな事業を行っているのか。調べてみると、アジア各国で実質的な事業を行う数多くのグループ会社を統括しているとみられる事例がほとんどでした。しかし従業員数や収支など、事業の実態と資金の流れを示す情報は見当たりませんでした。
 キリンホールディングスは「東南アジア地域統括会社」として100%子会社キリンホールディングス・シンガポールを10年に設立しました。子会社が「統括」しているのは、ミャンマー、ベトナム、フィリピンでビールや清涼飲料水を製造・販売するグループ会社だとみられます。
 持ち帰り弁当「ほっともっと」などを展開するプレナスは、15年に「フランチャイズ本部」機能を担う100%子会社プレナス・グローバルをシンガポールに設立しました。タイ、シンガポール、オーストラリア、台湾、中国、韓国での事業を「統括」しているとみられます。
 三菱商事は13年、「金属資源トレーディング事業」の「本社機能」を持つ100%子会社ミツビシ・コーポレーション・RtM・インターナショナルをシンガポールに設立しました。日本の「本店を中心」に推進していた「事業戦略立案」の機能を移したと発表しています。
 東芝は「アジア・太平洋地域統括会社」として100%子会社の東芝アジア・パシフィックをシンガポールに置いています。
 統括機能を持つ子会社が「特定子会社」になっている事例も複数ありました。特定子会社とは、保有資産などが大きく、親会社の経営に重大な影響を及ぼす子会社のことです。
 ヤマトホールディングスは14年にヤマトアジア株式会社をシンガポールに設立。「中間持株型の地域統括会社」で、特定子会社となっています。マレーシア、タイ、インドネシア、インド、ベトナムなどで運送業を展開するグループ会社を「統括」しているとみられます。
 日清食品ホールディングスはシンガポールに特定子会社であるニッシン・フーズ・アジアを設置。インド、タイ、ベトナム、インドネシアなどで即席めんやカップめんを製造・販売するグループ会社を「統括」しているとみられます。
 レンズ製造のHOYAはアジア・オセアニアの「地域本社」として特定子会社HOYAホールディングス・アジア・パシフィックをシンガポールに置いています。

「刺され」る例も
 実際のところ、地域統括会社を使った節税は思惑通りいくのか。大手銀行のA氏は、日本企業の節税行為を目の当たりに見てきたと証言します。
 「弁護士事務所とかコンサルタント会社はあおるんです。マネジメントフィー(業務管理料)が入ればいいだけだから。しかし何も考えずに(節税工作を)やってみると、国税(庁)に刺される」
 実際に「刺されて」追徴課税を受けた例を「たくさん見た」といいます。一方で、うまくいく地域統括会社は多いのだとも。
 「成功するのは規模の大きいところです。中小・中堅企業はメリットがないでしょうね。オフィスがあり、人を雇って、トータルコスト(総体的費用)に見合うメリットがないといけない。それなりの規模の会社には有効な手ではあります」
 オフィスや従業員を置いて事業の実体をつくらなければ地域統括会社と認められず、日本での課税対象になります。コストをかけてなおメリットがあるのは、アジア・オセアニア各国のグループ会社から巨額の利益を移転できる会社だけだというわけです。移転する利益に応じて節税額も大きくなるからです。
 シンガポールの地域統括会社に利益を集める税逃れ工作で成功しているのは、周辺各国に大規模な製造・販売拠点を置く大企業だということです。(つづく)
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2016年10月13日,「赤旗」)

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経済の迷宮/7/監査法人が節税℃闊き

 「税務部門の人たちが顧客の節税を手伝うサービスをしているのは以前から知っていたけど、近ごろの実情はあまりにひどすぎる」
 著書『〈税金逃れ〉の衝撃』で「国家をむしばむ脱法者」を批判した深見公認会計士事務所の深見浩一郎代表はこう語ります。2001年に独立する以前、大手国内監査法人の監査部門で働いていました。大手都市銀行や外資系コンサルティング会社に勤めたこともありました。
 「当時よく耳にしたのは、海外の税制を使って相続を有利にする方法ですね。海外に資産を持っていき、税金をあまり払わずに、より多くの資産を子どもたちに移転するというサービスです」

香港とオランダ
 日本の監査法人も盛んにアドバイスを行っているといいます。
 「同じ系列の会社の中に監査部門と税務部門があって、税務部門は節税のアドバイスをする。いくつも顔を持っているわけですよ。会社が違っても中身は一つですから、同じビルに入っていて内線電話でつながったりする。自分の監査のお客さんにはアドバイスできないけどね。自分の墓穴を掘るようなことになってしまうから」
 相手企業が監査の顧客ではない場合に限り、監査で問題になりかねない際どい節税方法を手引きするというわけです。つまり、日本の富裕層や大企業も大々的に税逃れをしているのですか―。尋ねてみると即答でした。
「やっています、やっています。個人もそうだけど、法人もやりすぎです」
 大手銀行で地域統括会社への支援を担当してきたA氏は、日本企業が海外の統括拠点にしているのはシンガポールだけではないと打ち明けます。
 「アジアでは香港、ヨーロッパではオランダが多いですね。欧米企業はアイルランドを使います。でも日本企業はオランダとなじみが深い。オランダ大使館の勧誘が盛んだった経緯があるからです」
 名前が挙がったのはどれもタックスヘイブン(租税回避地)として知られる国・地域です。こうした国・地域を経由した多国籍企業の税逃れの規模は、わずか20年ほどの間に大きく膨れ上がりました。国境をまたぐ投資のいびつな膨張が、動かぬ証拠です。
 世界各国が国外から受け入れる対内直接投資の残高総額は、1995年から2014年までの20年間で35兆jも増え、13倍になりました。しかもこの間に直接投資の受入国・地域として急浮上したのは経済規模の小さなタックスヘイブンでした。(表)
 95年時点では、対内直接投資の残高が大きいのは米・仏・英など経済規模の大きい国でした。ところが14年にはオランダが2位、ルクセンブルクが3位にランクイン。香港は6位、シンガポールは12位、アイルランドは13位に入りました。

GDP超す流入
 これらの国・地域は製造・販売などの実質的な事業が行われる現場ではありません。現にルクセンブルクは名目国内総生産(GDP)の58倍もの直接投資を受け入れています。香港は6倍、オランダは5倍です。多くの場合、資金の通り道(導管)になるだけで、実際の事業は他国で営まれるのです。
 資金が流入すると同時に流出している事実からも、そのことは明白です。国外に対して行われる対外直接投資の額も、ルクセンブルクでは名目GDPの68倍に達しています。香港とオランダでは6倍です。
 これらの国・地域に共通するのは、法人に対する低税率や優遇税制です。利益を移転して他国での課税を逃れるための、多国籍企業の道具になっているのです。深見代表は強調します。
 「自由な資本移動と一体化した税逃れの規模と巧妙さは想像の域を超えています。もはや国ごとにばらばらの対応をしていたのでは解決できません。国家の壁を乗り越えた規制の導入が必要です」
 (つづく)
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2016年10月14日,「赤旗」)

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経済の迷宮/8/富を移転する寄生装置

 産業に乏しく他国の資金を吸い寄せて成長するタックスヘイブン(租税回避地)の生態は、宿主の養分を吸って生きる動物に例えられることがあります。
 「タックスヘイブンの活動は、まったくもって寄生虫のようで、世界経済・国家システム双方を餌にしている」(ロナン・パランほか『タックスヘイブン』)
 ただし、寄生虫と異なる複雑な構造も持ち合わせています。吸い寄せた資金の大半がタックスヘイブン自体を素通りして出ていく点です。寄生の装置を背後で操り、支払うべき税を逃れて、他国民および自国民から資金をかすめとる張本人は、主に先進国の多国籍企業と富裕層なのです。
 税逃れに都合のよいタックスヘイブンの法制度自体、先進国の会計事務所や法律事務所が設計したものだといわれます。
 「パナマ文書」に登場するペーパーカンパニー21万社の設立には、アーンスト&ヤングなどの巨大会計事務所や、ベーカー&マッケンジーなどの巨大法律事務所が関与。クレディ・スイスをはじめとするメガバンクも関わっていました。

「底辺への競争」
 この人為的な寄生装置には周辺国を同化する作用もあります。
 低税率の国・地域に資金を移転する多国籍企業は、資金呼び込みのために税率を引き下げる「底辺への競争」を巻き起こしてきました。タックスヘイブンは、他国の税率を下へ下へと引っ張る最底辺の重りの役割を果たしてきました。今や世界各国の法人税率がタックスヘイブンの水準に接近しつつあります。
 税逃れや減税で多国籍企業の利益が増えると、波及的な恩恵を受けるのは誰か。
 「富裕層を中心とする個人株主だと考えられます。額に汗して稼ぐ勤労所得ではなく、有産階級特有の金融資産から生じる不労所得が増えるのです」
 深見公認会計士事務所の深見浩一郎代表は、そう指摘します。
 大手銀行で多くの企業の税務戦略を目撃してきたA氏の見方も同じです。
 「税率が20%と40%では最終的な利益が20%違うわけで、確かにこの違いは大きいです。しかし税負担を20%に下げて投資に回すといっても、どれだけ回るのか。今はマイナス金利ですから、本当に投資をするのなら借り入れてもいいはずです。個人のポケットに入ればいいということではないのか、と思ってしまいます」
 企業に節税を迫る外国人投資家の言い分に本質が表れているとも話します。
 「『日本企業は稼ぎが悪い』と、外資系の株主はいいます。『税金を払いすぎだ。株主に還元せずに、国に還元している』と」
 税金の支払いを減らして、株主にもっと寄こせというわけです。
 実際、企業の設備投資は低迷し、株主配当は急増しているのが日本の現状です。2016年3月期の上場企業の株主配当総額(予定)は前期と比べて10%も増え、8兆6300億円。3年連続で過去最高を更新しました。(時事通信集計)
 例えば、シンガポールを使ってアジア各国と日本での課税を逃れる多国籍企業の利益は、富裕な株主の懐に転がり込んでいるのです。

負担構造の転換
 一方、法人税収が減る国家は、国境から逃れられない貧困層や中間層に負担を転嫁しています。社会保障費を削り、消費税を増税する日本は典型的です。経済協力開発機構(OECD)租税委員会が1998年に公表した「有害な税の競争」報告書も、税逃れの害悪の一つに負担構造の転換をあげました。
 「労働、財産および消費といった移動が難しい課税ベースに対して税負担が変換するという好ましくない状況を作り出す」
 勤労者への所得税や保険料、国外に資金を移せない中間層への資産税、所得が低い人ほど負担率が重い消費税などに、負担の重点が移り変わるのです。
 要するに、タックスヘイブンとは、世界中の貧困層と中間層に食いついて所得や資産を吸い上げ、こぞって富裕層に移転する、巨大な寄生装置なのです。(つづく)
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2016年10月15日,「赤旗」)

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9月】

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経済アングル/読み間違えた「期待」

 日銀が使う言葉にはわかりにくいものが少なくありません。なぜ物価が日銀の意図したように上がらないかの理由づけに黒田東彦総裁が持ち出す「適合的な期待形成」もその一つ。「過去の物価状況が続くだろう」と人々が予想することを言うのだそうです。日本人は欧米人に比べてこの要素が強いから、日本は物価が上がりにくいのだという説明です。
 21日の金融政策決定会合後に公表した「目で見る金融緩和の『総括的な検証』と『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』」という文書には、物価に関する人々の予想度合いを数値化した国際比較のグラフまで登場しました。目で見てもわかりません。日本人はこういう傾向だ≠ニいうのでは説明になっていません。日銀は物価上昇のために努力しているが、国民が期待してくれないから物価が上がらないと言いたいのでしょうか。日銀の方が国民の期待を読み違えています。
 総じて日銀が今回発表した「総括的検証」は言い訳と自己弁護に満ちています。黒田総裁は記者会見で、原油価格の下落がなければ物価は上がっていたと述べ、政策の手詰まりを認めませんでした。
 日銀は「予想物価上昇率」に向かって物価が上がると人々が予想すれば、みんなが物を買うようになるという理論≠ノ基づいて金融緩和政策を続けています。しかし、物価が上がらないでほしいと庶民が願うのは当たり前です。物価が今後上昇しそうだから値上がり前に物を買っておこうとしてもお金がなければ買えません。実質賃金は下がり、消費税は上がる。年金は実質的に減らされ、介護も切り下げられる―こんな状況で消費が増えるわけがありません。物価を上げれば消費が増えるという逆立ちした政策はもう終わりにすべきです。
 (山田俊英)
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2016年09月27日,「赤旗」)

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経済アングル/逆流する核のごみ

 経済活動には廃棄物がつきまといます。廃棄物処理法は、産業廃棄物についての排出事業者の責任を明確にし、事業者は産廃の処分先などが決まらなければ工場を動かすことができません。
 唯一の例外があります。同法は、廃棄物に含むものを「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油」と具体的に例示したうえで、最後に「放射性物質およびこれによって汚染された物を除く」としているのです。日本での商業原子炉の稼働から半世紀。いまだに放射性廃棄物の処分先が決まっていない原発を特別扱いしているのです。
 ごまかしの一つが核燃料サイクルです。歴代政権は、軽水炉で使ったウラン燃料からプルトニウムを取り出し、高速増殖炉やプルサーマルで使用するとしてきました。そのため、使用済み燃料は「資産」として扱われ、発電所で冷却したあと再処理工場に送られることになっていました。
 しかし、1兆円以上つぎ込んできた高速増殖実験炉「もんじゅ」は、相次ぐ重大事故と不祥事で完全に破たん。政府もついに廃炉を含めた検討に入りました。
 核兵器の原料になるプルトニウムを日本はすでに48d保有し、さらに毎年8dずつ再処理で取り出すことにしています。プルサーマルでの使用は少量のため、再処理するほどプルトニウムがたまり続けます。核拡散の危険を高める行為として、世界の懸念の的になっています。
 「もんじゅ」廃炉で再処理の根拠が失われると、使用済み燃料を再処理工場に移送できなくなるだけでなく、再処理工場にたまっている使用済み燃料がもとあった発電所に送り返される可能性もあります。行き場のない核のごみの逆流。原発はゼロにするしかありません。
 (佐久間亮)
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2016年09月21日,「赤旗」)

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経済アングル/「好循環」一体どこへ

 各省庁の白書は、政府の政策がいかに成功しているかを宣伝する役割を持っています。「経済財政白書」もその一つ。ただ、2016年度版の書きぶりは15年度版と微妙に違います。昨年度のタイトルは「四半世紀ぶりの成果と再生する日本経済」、今年度は「リスクを越えて好循環の確立へ」。
 昨年の前文「はじめに」では「企業収益の改善が雇用・所得環境の改善に結び付き、消費や投資の拡大に結び付く『経済の好循環』が生まれ、景気を前向きに進めるメカニズムとなってきていた」とアベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)が「好循環」をつくりだしたことを得々と述べていました。
 今年、石原伸晃経済財政担当相が書いた序文では「現在の日本経済は、世界経済に様々なリスクがみられる中で、経済の好循環を確立していくことが課題となっています」とあり、「好循環」が課題と扱われています。「国内では、個人消費や設備投資が力強さを欠くなど経済の所得面から支出面への波及には遅れがみられており」とも述べています。
 本文でも今年の主要なテーマはなぜ個人消費や企業の設備投資が伸びないのかの説明です。特に若年子育て世帯が消費を抑えるのはなぜかといった分析もあります。要因に挙がったのが非正規雇用の増加や社会保障などの負担増。白書は、これがアベノミクスによるものとは書きませんが、そうであることは明白です。
 次の臨時国会を「アベノミクス加速国会に」と安倍首相は言いますが、政府が28兆円、当初予算の3分の1近い巨額の経済対策を打ち出さなければならないほど、経済の実態は深刻です。アベノミクスがもたらした経済の落ち込みをまず直視すべきです。
 (山田俊英)
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2016年09月13日,「赤旗」)

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経済アングル/統計に問題すり替え

 国内総生産(GDP)の算出方法について日銀と内閣府の間での議論が注目されています。日銀が7月20日に「税務データを用いた分配側GDPの試算」というリポートを公表したからです。
 政府は、個人消費や企業の設備投資などのデータをもとにGDPを算出しています。一方、リポートでは企業や個人が受け取った所得について、国税・地方税収のデータを用いて算出しました。
 試算の結果、2014年度の実質GDPは政府発表の前年度比0・9%減に対し、リポートは2・4%増となりました。リポートは、政府発表とのかい離の多くが「雇用者報酬のかい離による」としています。
 日銀がこうした試算をした背景に、企業業績や雇用が「改善」しているのに、個人消費の低迷で、GDPが成長していないことへの不満があると考えられます。黒田東彦日銀総裁も7月の経済財政諮問会議で、「税収(の伸び)は良いが、GDP推計が下がっているのは少し違和感がある」と述べました。
 個人消費は、総務省「家計調査」などを用いて算出します。一部の経済アナリストや学者は家計調査について「サンプルが偏っていて実態を反映していない」などと批判しています。しかし、家計調査は、統計学的に選ばれた世帯を対象に、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調査するもの。国民の暮らしぶりをまとめた貴重なデータです。
 結局、企業を応援すれば家計も潤う≠ニいうトリクルダウンが破たんしている事実を認めたくなくて、統計の精度に問題をすり替えているのです。家計調査に「偏り」があるのならば、調査・検証し、改善すればすむ話です。
 (清水渡)
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2016年09月06日,「赤旗」)

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経済アングル/英「金融立国」の内実

 大英帝国の崩壊後、弱体化したイギリス経済は1980年代に復活したという説があります。労働組合や社会保障など働く人びとの権利に集中砲火を浴びせた「鉄の女」サッチャー首相が、経済停滞の「英国病」を克服したともてはやします。
 しかし「復活」の内実はどんなものだったのか。タックスヘイブン(租税回避地)研究の進展の中で改めて注目を集めています。
 イギリスの主要産業として勃興したのは金融でした。自国市場と切り離した非居住者向け市場の形成により、規制や税金のかからない金融取引の天国として、外国資金がなだれ込んだのです。この市場は、ケイマンなど英国領・英国王室領のタックスヘイブンと結びついて拡大しました。
 「イギリスそのものがタックスヘイブンである」(ロナン・パランほか『タックスヘイブン』)。タックスヘイブン研究の先駆者たちはこう断言します。
 イギリス政府は法人税率も次々に引き下げてきました。現在は20%。さらに18%、15%へと下げる考えを表明しています。税逃れを取り締まる日本の対策税制の対象になるほどの低税率です。国家をまるごとタックスヘイブンにする動きです。
 課税を逃れて増殖する資金は不労所得として富裕層のポケットに入り、課税を逃れられない世界中の貧困層や中間層に負担が転嫁されています。日本の手本ともされる「金融立国」の中核には、税逃れを誘発して他国民の労働の果実をかすめとる寄生のシステムがあったのです。
 金融産業がもたらした富は一握りの人びとに集中し、イギリスは華やかな金融街シティーの陰に貧民街が広がる格差社会となっています。寄生経済を膨張させるシステムの克服は、働く人びとが報われる世界をつくるために、避けて通れない大仕事です。
 (杉本恒如)
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2016年08月30日,「赤旗」)

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8月】

経済アングル/石炭という座礁資産

 船が浅瀬や暗礁に乗り上げることを座礁といいます。操舵(そうだ)は一切きかず、穴の開いた船底からは大量の海水が流れ込む危機的状態です。古来、船乗りに恐れられ、ギリシャ神話には歌声で船乗りを暗礁へ導く人魚セイレーンが登場します。
 座礁は海のなかだけではないようです。英オックスフォード大学の研究チームが発表した「日本における座礁資産と石炭火力」というリポートが注目を集めています。座礁資産とは、なんらかの事情で負債化した資産のこと。リポートは、気候変動対策の進展や再生可能エネルギーの普及で、日本の石炭火力発電は今後5〜15年の間に座礁すると予測。総額は6・8兆〜8・9兆円になるとしています。
 福島第1原発事故以降、日本では温室効果ガスを大量に排出する石炭火力の新設計画が乱立しています。巨費を投じて石炭火力を建設しても、温室効果ガス規制が強化されたり、再生エネの発電費用が低下したりすれば、石炭火発は想定した運転期間を待たずに停止に追い込まれる座礁資産になるというわけです。負債のつけは税金や電気料金の値上げとして市民に回ってきます。
 リポートに、日ごろ大手電力企業の言い分を代弁している財界系シンクタンク・国際環境経済研究所がかみついています。反論の柱の一つが「(現在の地球温暖化対策は)実現可能性のみならず、科学的根拠についても議論が分かれている」というもの。普段は温暖化対策に原発が必要と主張している同じ人物が、石炭火発が問題になると温暖化懐疑論者になるというお粗末さです。
 大企業の利益のためなら平気で前言をひるがえす研究者の姿は、まるで人類を座礁させようとするセイレーンのようです。
 (佐久間亮)
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2016年08月23日,「赤旗」)

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経済アングル/軍需を潤す経済対策

 安倍晋三内閣が2日閣議決定した経済対策には、「安全・安心の確保」という項目で「自衛隊の運用体制を強化することなどにより、厳しさを増す安全保障環境に対処する」ことが盛り込まれました。その具体的措置として「警戒監視態勢の強化、迅速な展開・対処能力の向上、弾道ミサイル攻撃への対応」と明記されました。
 日本共産党の赤嶺政賢衆院議員へ防衛省が提出した資料によると、
@「警戒監視体制の強化」として新型哨戒機P1、SH60K哨戒ヘリコプターの整備とF15戦闘機の改修などA「迅速な展開・対処能力の向上」として、C2輸送機の整備とCH47輸送ヘリコプターの整備改修などB「弾道ミサイル攻撃への対応」としてPAC3ミサイルの整備など―が計画されています。
 整備とは調達をさし、改修は機能向上した機種の調達をさすことがあります。つまり経済対策の名で日本の軍事産業を潤そうというものです。
 防衛省が購入を計画している兵器のうち、新型哨戒機P1とC2輸送機は川崎重工と防衛省が共同開発し、川崎重工が生産しています。CH47輸送ヘリコプターは川崎重工がライセンス生産しています。SH60K哨戒ヘリコプターは三菱重工と防衛省の共同開発で、三菱重工が生産。F15戦闘機、PAC3ミサイルは三菱重工がライセンス生産しています。
 安倍政権の経済政策であるアベノミクスは、一握りの多国籍企業の利益を拡大することにその本質があります。同時に、軍事大国化を目指すというもう一つの側面が経済対策の中にあからさまに表れています。それはアメリカの世界戦略に追随し、日本の多国籍企業の利益を追求するという軍事大国への道にほかなりません。
 (清水渡)
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2016年08月16日,「赤旗」)

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経済アングル/軍事に良心売れない

 昨年11月の防衛学会でのことです。報告に立った防衛装備庁の堀地徹防衛装備政策部長(当時)は、軍事研究に反対してきた日本の科学界について「時間の問題だ。来年くらいには」と語りました。
 科学者を軍事研究に呼び込むため防衛省が始めた研究委託制度(1件あたり最大3000万円)に、多くの有名大学が応募してきたことを挙げ、軍事研究禁止の壁は早晩崩れると自信をのぞかせたのです。
 その鼻は大きく折られたことでしょう。昨年度109件あった研究委託制度への応募が、今年度は44件と半分以下に減ったのです。軍学共同反対の論陣を張ってきた池内了・名古屋大学名誉教授は「運動の成果」と手ごたえを語ります。
 一方、旧帝大から初めて北海道大学が応募して選ばれたように綱引きは厳しさを増しています。
 自民党国防部会が5月に政府に提出した提言は、防衛省の研究委託制度の予算を現在の6億円から100億円規模に拡大するよう要求。政府の科学技術政策を立案する総合科学技術・イノベーション会議の構成員に防衛相を加えることも求めています。
 大塚拓部会長は提言策定後、報道陣にこう語ったといいます。
 「(軍学共同に前向きな研究者からは)大学研究者が防衛にかかわる研究をすることを批判する勢力がいて、その批判が非常にマイナスだと聞いている。乗り越える気概はあるが数千万円ではという声もある」
 軍学共同を妨害する反対運動への憎悪とともに、科学者の良心を金で買いたたこうという考えが透けて見えます。科学者一人ひとりの良識とともに、科学者を孤立させない市民の連帯がますます求められています。
 (佐久間亮)
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2016年08月09日,「赤旗」)

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経済アングル/経済対策が示すもの

 政府・与党間で経済対策の取りまとめが進んでいます。経済対策の事業規模は当初想定されていた10兆円から倍以上となり、28兆円超にする方針です。
 この経済対策の規模は、安倍晋三政権が発足した直後となる緊急経済対策(2013年1月閣議決定)の20・2兆円や、消費税増税による景気の「腰折れを防ぐ」目的で行われた「好循環実現のための経済対策」(13年12月閣議決定)の18・6兆円を超えるものです。第2次安倍政権発足以来、最大級の経済対策となります。
 参院選中、安倍首相は都合のいい統計指標を並べて「アベノミクスは成功している」と繰り返しました。しかし政権発足以来、最大級の経済対策が必要なくらい、実体経済が悪くなっているのです。
 政府は、経済対策の財源として「アベノミクスの果実」を使うとしています。しかし、年明け以降の円高や株価の乱高下などで企業業績が悪化し、法人税収が伸びなかったため、経済対策に充てられる15年度の国の決算剰余金は限られており、建設国債や財投債などを追加発行するとしています。結局、国の借金を増やし、国民負担増につながりかねません。
 経済対策には、リニア中央新幹線の大阪延伸の前倒しや整備新幹線の建設加速、港湾整備など、不要不急の大型プロジェクトが含まれています。また、自民党が政府に提出した経済対策要望には固定翼哨戒機P―1や哨戒ヘリコプターSH―60Kの整備まで含まれています。経済対策の名で高額兵器購入まで紛れ込ませるのです。
 経済対策の規模、財源、内容のどれをとってもアベノミクスの破たんを示しています。
 (清水渡)
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2016年08月02日「赤旗」)

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7月】

経済アングル/ヘリで金まく政策

 「ヘリコプターマネー」、略して「ヘリマネ」なる政策≠ェメディアで取り上げられています。ヘリコプターで紙幣をばらまくに等しいことなのでこう呼ばれます。最初に言い出したのは米国の経済学者ミルトン・フリードマンだといわれます。政府が近くまとめる総額20兆円といわれる経済対策の財源が不明確です。「ヘリマネ」を選択肢に挙げる米連邦準備制度理事会(FRB)のベン・バーナンキ前議長が12日に安倍晋三首相を訪ねたこともあって、政府、日銀が「ヘリマネ」に踏み出すのではないかと臆測を呼んでいます。
 あえて政策に≠付けるのは政策に値しないからです。「ヘリマネ」に明確な定義はありませんが、中央銀行が巨額の現金を発行し、政府がその資金で財政支出を増やします。結果は歯止めのきかないインフレ、そして国ぐるみの破産です。戦前の日本政府は日銀に国債を引き受けさせて戦費を調達し、経済破綻を招きました。「ヘリマネ」は日銀が直接、現金をばらまくのですから、さらに悪質です。
 日銀の黒田東彦総裁は「ヘリマネ」を否定しますが、「日本はすでにヘリマネに片足を突っ込んでいる」と評するエコノミストもいます。借換債を含めて政府が発行する国債は年間約130兆円。日銀は「異次元の金融緩和」でほぼ同額の国債を市場から買い入れています。財政法が禁じた日銀の国債引き受けに近い。金融緩和をしても日本経済は落ち込み続け、「アベノミクス不況」です。異次元緩和はマイナス金利政策へと、ありえない政策の泥沼に突き進んでいます。「次はヘリマネか」と取り沙汰される原因はなんでもあり≠フ金融政策を続けてきたアベノミクスそのものにあります。
 (山田俊英)
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2016年07月26日,「赤旗」)

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経済アングル/損するほどのめり込む

 140兆円の公的年金積立金を株式で運用する危うさが改めて浮き彫りになりました。2015年度の運用が5兆円の損失となったのです。
 年金積立金は現在、債券と株式で運用しています。安倍晋三政権は14年、それまでの国債中心の運用を見直し、株式の基本比率を24%から50%に引き上げました。アベノミクスによる株高演出のため、巨額の国民の財産を株式に投下できるようにしたのです。
 恐ろしいことに、年金資産運用は株式で損をすればするほど株式にのめり込む仕掛けになっています。
 株式運用で損失を出して株式比率が下がると、その比率を基本比率まで戻そうとする力が働くからです。基本比率を守るという名分で、金融危機でリスクが高まっている株式に年金資産を投じることになるのです。
 実際、07年7月の金融バブル崩壊に端を発した世界経済危機の際、年金運用は1年9カ月で20兆円近い損失を株式で出しながら、同時期に6兆2千億円もの新規資産を株式に振り向けました。しかも、そのうち5兆5千億円は08年9月のリーマン・ショック以降という異常さでした。
 得をしたのは、資産運用を請け負って手数料を稼いだ金融機関と、「100年に1度」といわれる経済危機のなか株式を売り抜けた外国人投資家でした。
 安倍政権が14年に株式比率を倍にしたことで、次に経済危機が起きればその影響はリーマン・ショック時以上の衝撃となって年金資産運用を襲うことになります。安倍首相は、伊勢志摩サミットではリーマン・ショックを引き合いに出して世界経済の不透明感を強調しました。そうであるなら、いますぐ株式運用を見直すべきです。
 (佐久間亮)
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2016年07月20日,「赤旗」)

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経済アングル/悪化が続く生活指標

 8日発表された6月の景気ウオッチャー調査は、街角の景況感を示す現状判断指数(DI)が3カ月連続で悪化し、41・2となりました。これは2012年11月以来の低水準で、第2次安倍晋三内閣発足後、最悪の結果です。
 街角の景況感だけではありません。生活関連の指標はことごとく、第2次安倍政権発足前の水準にまで引き下がっています。総務省の「家計調査」によると、5月の消費支出の実質指数(季節調整値)は2人以上の世帯で93・0と、12年12月の98・8を5・8ポイントも下回っています。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、4月の実質賃金指数(季節調整値)は95・7で、12年12月の98・3から2・6ポイントも下がってしまいました。
 深刻なのは、足もとで名目の現金給与総額が下落していることです。5月の現金給与総額(速報値)は前年同月比0・2%減の26万7933円で15年6月(2・5%減)以来のマイナスでした。名目の現金給与総額は労働者が実際に手にする額であり、より生活実感に近い数値です。
 労働者の賃金が減少するために、消費が伸び悩み、価格が下落傾向になります。5月の消費者物価指数(総務省)は、総合値でマイナス0・4%と3カ月連続で前年同月を下回りました。12年12月のマイナス0・1%を下回る水準で、商品価格の連続低下である「デフレ」も脱却できていないといえます。
 安倍首相は参院選で、口を開けば「アベノミクスは順調に結果を出している」と繰り返し、「道なかば」「エンジンを最大限吹かす」と訴えました。しかし、暮らしの指標が第2次安倍政権発足以前を下回る現状は、アベノミクスが「道なかば」ではなく国民を塗炭の苦しみに陥れる道だと示しています。
 (清水渡)
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2016年07月13日,「赤旗」)

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6月】

経済アングル/「リーマン」文言なし

 17日、関係閣僚会議に提出された6月の月例経済報告で海外経済に関する判断は前月と同じ「弱さが見られるものの、全体としては緩やかに回復」でした。5月に開かれた伊勢志摩サミット(主要7カ国首脳会議)の議長記者会見で安倍晋三首相が7回も「リーマン・ショック」と騒いだのは何だったのかと改めて思いました。
 「商品価格の下落幅はリーマン・ショック時に匹敵」「新興国への資金流入がマイナスとなったのもリーマン・ショック後、初めて」「世界経済の成長率は昨年、リーマン・ショック以来、最低」―会見での発言はいま読んでもしつこい。それほどまでにこだわった「リーマン」ですが、今回の月例経済報告には一言もありません。
 リーマン・ショックは100年に一度≠ニ形容される経済危機です。一国の首脳が軽々しく口に出せる言葉ではありません。「月例」は経済情勢に関する政府の認識を示す報告書です。サミット直前の5月の報告に一言もなかった「リーマン」がなぜ突然出てきたのかと安倍首相が追及されたのは当然です。しかし、6月の報告では何事もなかったかのように済ませています。
 安倍首相はサミット後、「私がリーマン・ショック前の状況に似ているとの認識を示したとの報道があるが、まったくの誤りだ」と発言をなかったことにしています。
 安倍首相は「世界的な成長の減速」を理由に消費税率10%への増税を2年半延期しました。アベノミクスが日本経済を疲弊させたことを覆い隠すために「リーマン」を持ち出したことは、6月の「月例」でも明らかです。経済情勢の認識を失政隠しの道具に使うなど首相のすることではありません。
 (山田俊英)
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2016年06月21日,
「赤旗」)

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経済アングル/格差を拡大するTPP

 環太平洋連携協定(TPP)が、米国をはじめとする多国籍大企業を利する一方、各国国民に被害をもたらすことが、多方面から指摘されています。
 その一つ、米タフツ大学世界開発環境研究所(GDAE)のTPP影響分析は、発効後10年間で日本の国内総生産(GDP)が0・12%落ち込み、7万4000人の雇用が失われると試算しました。また、TPPによって労働から資本への所得の再分配が進み、労働分配率が低下し、格差がいっそう拡大すると警告しました。
 この分析に参加したジョモ・K・スンダラム元国連経済社会局経済開発部事務局次長が5月末、来日して語ったところによると、TPP推進の立場の分析は、
@貿易収支は変化しないA財政収支は変化しないB完全雇用が維持されるC所得分配は変化しない―の四つの仮定を前提としています。タフツ大学の分析は、これらの非現実的な前提を取り除いて試算した結果、失業の増大、格差の拡大などの結論を得ました。
 米国をはじめ各国のTPP反対運動が共通して指摘するのも、失業の増大や格差の拡大です。それは、北米自由貿易協定(NAFTA)などの諸協定がもたらした現実を直視したものです。
 国連の人権問題専門家は、TPPのような協定は、貧困問題を深刻化させるなど人権に否定的影響があると警告しています。デシューター前国連人権理事会特別報告官は、人権の一部である食料への権利を実現するには、食料主権が前提条件となると指摘しています。
 日本共産党は参院選政策で、TPPの国会承認に断固反対し、各国の経済主権、食料主権を尊重した平等・互恵の投資と貿易のルールをつくることを訴えています。
 (北川俊文)
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2016年06月14日,「赤旗」)

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経済アングル/後出しじゃんけん

 安倍晋三首相の言い回しは前回の参議院選挙(2013年7月21日)を想起させます。首相は連呼したものです。「経済を成長させ、家計が潤うためには、この道しかない」と。
 経済政策「アベノミクス」の「成果」を前面に押し出し、他の争点を後景に追いやったのです。選挙が終わると、憲法の解釈を勝手に変え、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を強行しました。
 もう一つ、ひた隠しにしたのが家計を押しつぶす社会保障政策でした。安倍・自民党の公約はまるで充実をめざすかのようでした。
 「『社会保障制度改革国民会議』の審議の結果等を踏まえて」社会保障の「必要な見直しを行います」。「さあ、安心を取り戻そう」
 選挙が終わった途端、国民会議は改悪ずくめの報告書案を出しました。「後出しじゃんけんのような庶民イジメ」(『サンデー毎日』8月4日号)でした。
 安倍政権は、要支援の人から介護保険の給付を受ける権利を奪うなど、歴史的な制度改悪を押し通しました。
 今回も同じ手口です。さびた「アベノミクス」の上に「1億総活躍」というめっきを施し、「可能な限り社会保障を充実させる」と語ります。つまり、可能でなければやらない≠ニいうことです。
 実際には、新たな庶民いじめを隠しています。安倍政権が2日に閣議決定した「骨太の方針」には、「改革工程表」に沿って「経済・財政再生計画」に取り組むとの文言があります。「工程表」とは、昨年末に安倍政権が決めた社会保障の連続改悪計画です。要介護1〜2の人まで介護保険給付から排除するなどの重大な内容です。
 選挙では具体的な政策を問うべきです。「後出しじゃんけん」で憲法と経済を破壊させないために。
 (杉本恒如)
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2016年06月07日,「赤旗」)

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5月】

経済アングル/G7首脳はヒーロー失格

 伊勢志摩サミットの会場には、スーパーヒーローの姿をした主要7カ国(G7)首脳陣の等身大パネルが飾られていました。自信満々で特殊スーツに身を固めたG7首脳陣。用意したNGOは開幕前、「真のヒーローになってほしい」と期待を語っていました。
 結果はどうか。閉幕後、サミットの議題となった12のテーマについて各分野のNGOが5段階で採点しました。結果は平均2・25。4以上は一つもありませんでした。特に、地球温暖化対策については「G7の対応として全く不十分」「政治的なリーダーシップを発揮する重大な機会を逸することになってしまった」など厳しい批判が集中しました。
 なかでも議長国、日本の姿勢です。日本の2030年までに温室効果ガス排出削減目標は極めて低く、世界が日本の水準にとどまれば温暖化は危険水域に達してしまいます。
 しかも、G7の中で唯一、石炭火力発電を推進しており、海外にも安倍首相を先頭にトップセールスで売り込んでいます。NGOは、天然ガス火力発電と比べても2倍超の温室効果ガスを排出する石炭火力について、サミットで中止を表明するよう日本政府に求めたものの、実際は議題にもあがりませんでした。
 日本がサミットで提唱した「質の高いインフラ輸出」も、狙いの一つは石炭火力の輸出拡大です。日本の石炭火力輸出は、いまでも深刻な人権侵害や環境破壊を引き起こしています。ところが安倍政権は今回、調査から着工までの期間の大幅短縮を表明しました。
 原発についても「温室効果ガス排出削減に大いに貢献」するとの一文も首脳宣言に潜り込ませました。正義のヒーローどころか、まるで悪の親玉です。
 (佐久間亮)
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2016年05月31日,「赤旗」)

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経済アングル/連帯のグローバル化

 長年にわたって不平等と不正の温床になってきた資本主義世界の最深部に解明の光があたりつつあります。
 巨万の富を隠し、課税と規制を逃れるための暗幕となっているタックスヘイブン(租税回避地)。それは富裕層と多国籍資本が投機的な金融取引に巨額の資金を投じ、マネーゲームに興じるための舞台でもあります。
 「経済のグローバル(地球規模)化」の陰で国境を悪用した税逃れが進み、貧困と格差が広がりました。各国国民は投機マネー呼び込みの「国際競争」にいやおうなしに巻き込まれ、法人税率の引き下げや雇用の劣化、社会保障費の削減を強いられてきました。投機マネーが命じるのは資本の優遇だからです。
 課税や規制からの資本の自由を最上位に置く「新自由主義」の台頭は、資本の自由を体現するタックスヘイブンを利用した「国際競争」によって支えられてきました。
 「税の理不尽な仕組み」について告発を続ける国際NGO「税公正ネットワーク」のリズ・ネルソン氏が22日、日本の「公正な税制を求める市民連絡会」が開いた集会にメッセージを寄せました。
 ネルソン氏は、今後10年間の活動の焦点は「あしき競争」との対決だと述べました。「例えば、法人税率を低くしあって、互いの足を引っ張り合うような競争のことです」
 さらに、不公平な税制の是正を求めて日本で活動する「市民連絡会」を、次のように励ましました。
 「みなさまの活動は、国境を越えて世界の人々が税の理不尽な仕組みとたたかう決意が固いことを示す意思表示になります」
 各国国民に資本が押し付けるグローバルな競争に対抗して、公正と公平を求める人々のグローバルな連帯が着実に育っています。
 (杉本恒如)
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2016年05月24日,「赤旗」)

 

経済アングル/アダム・スミスの昔から

 今から240年前の1776年に出版されたアダム・スミスの『国富論』には税金の集め方の基本原則が示されています。
 「すべての国の臣民は、できるだけ各人の能力に比例して、すなわち、各人がそれぞれの国家の保護のもとで享受する収入に比例して、政府を支えるために拠出すべきである」
 今では「応能負担の原則」として広く知られ、日本の憲法にも取り入れられています。
 「収入に比例して」税を納める原則を根底から覆す存在こそ、グローバル資本主義が生み出したタックスヘイブン(租税回避地)です。
 超富裕層などが、その巨額資産を隠し、払うべき税金から逃れています。中米パナマの法律事務所から漏洩(ろうえい)した「パナマ文書」が、タックスヘイブンの一端を明らかにし、世界に衝撃を与えています。
 トマ・ピケティ氏ら300人を超す現在の経済学者が各国の首脳あてに書簡を発表しました。「タックスヘイブンは、一部の富裕層や多国籍企業に間違いなく利益をもたらしていますが、この利益は他者の損失の上に成り立っており、格差と不平等を助長する大きな要因になっています」と指摘しています。
 情報の不透明性と秘密主義が汚職や腐敗を助長し、正当な税収を確保する国家の能力を阻害。貧しい国々にはとりわけ大きな被害を与えます。
 書簡は、タックスヘイブンの秘密主義に切り込み、各国が国別の報告書を公開することについての新たな国際合意を求め「タックスヘイブンの時代の終わりに向かって重要な取り組みを」と強調しています。
 アダム・スミスが生きていたら、まっさきにこの書簡に賛同したことでしょう。
 (金子豊弘)
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2016年05月17日,「赤旗」)

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経済アングル/「民主主義」いうなら

 「税制こそ議会制民主主義といってもいいと思います」。安倍晋三首相は2014年11月18日、衆院解散にあたっての記者会見の場でこのように話しました。たしかに税金と議会制民主主義は切っても切り離せません。日本国憲法は税について法律に基づくと定め(84条)、国会が唯一の立法機関(41条)としているからです。
 民主主義を掲げる以上、税制の中身も憲法に沿って応能負担原則を貫かなければなりません。応能負担の税制とは、能力に応じて負担するということです。憲法の「個人の尊厳」(13条)、「法の下の平等」(14条)、「生存権」(25条)、「財産権」(29条)などから導かれるものです。
 大企業や資産家など負担能力の大きいところからより多くの税金を集め、社会保障や福祉を充実させて、低所得者ほど手厚い施策をとることを憲法は求めています。しかし、これに正反対のことをやっているのが安倍政権です。
 安倍政権は10%への消費税率引き上げを狙っています。消費税は所得の低い者ほど重い負担が乗りかかる税金です。この税率を引き上げるということは、応能負担原則とは相いれないものです。
 その一方で大企業が負担する税金は引き下げています。12年末の第2次安倍政権発足以降、復興特別法人税を廃止し、国と地方を合わせた法人実効税率を引き下げるなど約4兆円の減税のばらまきです。社会保障も毎年1兆円程度の増額が見込まれる自然増を5000億円規模に抑制するとしています。
 「民主主義」を口にするなら、憲法を実現する税財政政策をとることは当然です。それができない安倍政権には、国民の力で退場を命じなければなりません。
 (清水渡)
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2016年05月10日,「赤旗」)

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4月】

経済アングル/米が支配したパナマ

 このところメディアに「パナマ文書」が出ない日はありません。中米パナマは人口400万人、面積は北海道よりやや小さいくらい。1989年12月、ここに最新兵器で武装した5万数千人の米軍が攻め込みました。当時の米大統領はブッシュ。後にイラク戦争を始めたブッシュ大統領の父です。
 パナマの独裁者ノリエガを倒し、逮捕するとの口実でしたが、米軍はステルス攻撃機まで動員して国軍本部があった地域を無差別爆撃。住宅も学校も焼き尽くしました。
 パナマには建国当初から米国が深くかかわってきました。パナマは19世紀にスペインの支配を脱し、独立国コロンビアの州に。しかし、パナマ運河建設を計画した米国の画策によって1903年、分離・独立しました。米国が軍事的に太平洋とカリブ海・大西洋を結ぶ運河を必要としたからでした。
 約80`bの運河の管理権、運河両岸各8`b地帯の施政権を握ったのは米国。米軍基地も置かれました。米国による支配・占領です。1977年の新パナマ運河条約によって運河地帯は99年12月31日、パナマに返還されました。89年の米軍侵攻は返還を10年後に控え、民族主義者など米国に抵抗する勢力を一掃するためでした。
 運河が返還され、米軍が撤退した後も米国はパナマに強い影響力を持っています。パナマ独自の紙幣はなく、ドル札が使われています。外国人が自由にお金を持ち込んで取引できるオフショア金融センターが置かれています。ここを利用しているのは米国をはじめ世界の多国籍企業や大金持ちです。米国の支配を受けたパナマの歴史がタックスヘイブン(租税回避地)としての今日の姿につながっています。
 (山田俊英)
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経済アングル/結論先にありきの試算

 政府による環太平洋連携協定(TPP)の影響試算は、現実からかけ離れており、農業者の怒りを買っています。TPPの影響で価格が低下し、生産額が減少しても、国内対策によって生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるというのです。米についても、「生産量や農家所得に影響は見込み難い」としました。
 生産額が減っても、生産量も所得も変わらない国内対策とは、どんなものでしょうか。政府の「TPP関連政策大綱」は、「(今年)秋を目途に政策の具体的内容を詰める」としています。政府試算は、まだ詰めてもいない国内対策の成功を織り込んだのです。政府主催の地方説明会で、「『国内対策』抜きの試算」を求める声が続出したのも当然です。
 政府試算が「影響なし」と評価した米について、青森、福井、滋賀、和歌山、熊本の5県が独自に試算しました。5県合計で、生産減少額が82・2億円にのぼりました。5県はそれぞれ、輸入米の流通や輸入米在庫の増加で地元産米の価格が下落すると想定。それに基づき生産減少額を算出しました。
 政府は、TPPで農林水産物の81%の関税撤廃を約束しながら、関税率10%以上かつ生産額10億円以上の農林水産物33品目しか試算していません。米以外で、政府が試算の対象から外した地元特産物への影響を独自に試算した道県もあります。
 実は、政府試算は、逆立ちした理屈に基づいています。TPPの影響で価格が下落しても、所得や生産量は変わらないという結論が先にあります。それには国内対策が必要で、それが成功すれば、生産量も生産額も変わらないというわけです。政府試算は、「結論先にありき」なのです。
 (北川俊文)
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2016年04月19日,「赤旗」)

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経済アングル/パナマ文書、暴いた闇

 タックスヘイブン(租税回避地)の利用者を記載した「パナマ文書」の暴露は、今日の世界が抱える闇の世界の一端を明るみに出しました。所得税を源泉徴収される労働者はもちろん、普通の人が所得を申告せず、税金を払わなければ犯罪になります。しかし、巨万の富を持つ金持ちや多国籍企業は、タックスヘイブンを利用して税率が低い国や無税の国に資産を隠し、合法的に税金をごまかしています。以前からわかっていたことですが、対策は遅々として進みません。
 お金の流れに国境がなくなっていますが、税制は各国の主権に属する問題です。タックスヘイブンはこれを利用しています。経済協力開発機構(OECD)や20カ国・地域(G20)はこれまで何度も国際的な税逃れへの対策を協議し、「税源浸食と利益移転」(BEPS)プロジェクトを策定しています。
 ただ、各国の税当局が一つ一つの企業を監視していたのでは、世界に展開する多国籍企業の資金の流れをつかむことはできません。各国政府の共同が必要であり、それを可能にするのは指導者の決意です。その人たち自身がタックスヘイブンを利用していたのですから、闇の闇たるゆえんがわかりました。
 多国籍企業が法の抜け穴を利用して、本来払うべき税金を払わないことで被害を受けるのは国民です。税収が少なくなる分は他の税を増税するか、社会保障や教育など必要な施策を削るか、ということになります。税逃れは途上国が貧困問題に取り組む資金も奪っています。
 日本政府はどうか。パナマ文書に関し、調査に乗り出すかどうかを聞かれた菅義偉官房長官は「考えていません」(4月6日記者会見)と後ろ向きです。
 (山田俊英)
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2016年04月12日,「赤旗」)

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経済アングル/広がったのは憤り

 1日発表された日銀短観。いよいよ大企業製造業の景況感が後退しました。先行きの見通しも急落。この結果は、エープリルフールのおふざけ≠ナはありません。「この道しかない」と、3年間進んできた「この道」の到着駅には、安倍晋三首相が国民に示したばら色の景色は広がっていませんでした。
 株価頼み、海外頼み、そして大企業頼み―。これがアベノミクス(安倍政権の経済政策)の特徴です。乗客である主権者の国民は、実は踏みつけにされてきたのです。
 最近、安倍首相がいわなくなった言葉があります。「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくり。ここにきて、その当事者の財界から新たな財政刺激策を求める声があがっています。いま口にすれば、大企業奉仕が見抜かれるからでしょうか。
 行き詰まりの末、安倍首相は米国の経済学者に助け舟を求めました。「ドイツ訪問時に財政出動での協調を説得しなければならないが、何かいいアイデアは」
 尋ねられた経済学者は、「外交は私の専門ではない」と応じたといいます。この質問は首相が「オフレコ」でと念を押してのものでした。コラムニストでもあるこの学者に「オフレコ」は通じなかったようです。やりとりが公開されたことで、思考停止状態に陥っている首相の水準が、すでに水面下に深く沈んでいることがはからずも明らかになりました。
 国民に対して首相は今でも、「アベノミクスの効果を全国津々浦々に」というのでしょうか。その実、全国津々浦々に広がっているのは「豊かになった実感はない」「消費税が10%になったら生活ができない」「参院選では自民党を懲らしめたい」…。アベノミクスへの失望感と憤りです。
 (金子豊弘)
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2016年04月05日,「赤旗」)

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3月】

 

経済アングル/TPP美化のモデル

 安倍晋三首相は、環太平洋連携協定(TPP)で国内総生産(GDP)が14兆円増え、雇用が80万人増えると吹聴しています。政府の「TPP協定の経済効果分析」を金科玉条にしたものです。
 しかし、「経済効果分析」は、「TPPの効果によりわが国が新たな成長経路(均衡状態)に移行した時点」で、あるべき状態を示したにすぎません。
 「経済効果分析」は言います。
 「TPPの経済効果は、わが国各地域の企業、事業者、農林漁業者等が、TPPを十二分に活用し、意欲的に事業等を拡大・推進することで現実のものとなる」
 「TPPはあくまで手段にすぎず、それが生み出しうる果実を得るためには、TPPで創出される大きな市場に挑む積極的な行動が不可欠である」
 つまり、TPPに効果があるから、効果が出るまで頑張れば、効果が出るというわけです。それでは、効果が出なかったとき、TPPが免罪されて、「企業、事業者、農林漁業者等」が頑張らなかったせいになってしまいます。
 「経済効果分析」のモデルは、完全雇用が前提です。ある分野で雇用が減っても、労働者は他分野へ自由に移動でき、失業は起きない想定です。案の定、「経済効果分析」は、失業が起きず、GDP増加分だけ雇用が増えると試算します。
 米タフツ大学世界開発環境研究所は、雇用への影響を重視したモデルを使い、TPP発効10年後、すべての参加国で雇用が減少し、格差が拡大すると試算しました。日本では、7万4000人が失業するとしました。
 国立国会図書館がまとめた「TPPの概要と論点」は、「モデルの相違によって、経済効果の試算結果が大きく異なる事実」を指摘しています。政府のモデルは、TPP美化が目的のモデルなのです。(北川俊文)
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2016年03月29日,
「赤旗」)

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経済アングル/法人税上げ投資拡大

 国内の需要を拡大するためには、国民の所得を増やすことが不可欠であることは、だれも否定できません。安倍晋三政権は、そのためには企業の「稼ぐ力」を強化することが必要だとして、法人税減税を実施しました。ところが、大企業側は今年の春闘では、いっそう賃上げを渋っています。
 国際通貨基金(IMF)のスタッフが発表したリポート(14日)は、日本で賃上げが実現しない理由に、非正規雇用が他国に比べて「非常に高い」ことなどの構造問題があると指摘します。大企業が「競争力を取り戻すため」に「海外に生産拠点を移し、大幅に賃金の低い非正規労働者ばかりを採用」したことが背景になっているといいます。
 では、なにをすればいいのでしょうか。IMFリポートは、「過剰な利益の伸びを還元しない企業に対し税制上の懲罰的措置を設けること」、つまり賃上げ実現のため法人税増税を求めたのです。
 安倍内閣が開催している「国際金融経済分析会合」の初会合で発言したスティグリッツ・米コロンビア大教授は、G7(先進7カ国)の国々では、「成長の果実は一部のトップ層に偏って分配されている。格差は拡大し、賃金の上昇は停滞」していると分析しました。解決策の一つとして、「国内での投資や雇用創出に積極的でない企業に対して、法人税を引き上げる方が、投資拡大を促す」と提言しました。その一方、「法人税減税は投資拡大には寄与しない」と断じました。
 「この道しかない」と叫び続け、大企業には法人税を減税し、国民には消費税増税と社会保障の切り捨て・負担増を押し付ける安倍政権の経済運営は、その実、国際的にも逆行していたのです。
 (金子豊弘)
(
2016年03月22日,「赤旗」)

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地球温暖化と原発

 原発固執勢力は地球温暖化対策を最大の口実にします。ところが、高浜原発の運転差し止めを認めた9日の大津地裁決定は、運転再開に不安を覚える理由の一つに地球温暖化を挙げました。「地球温暖化に伴い、地球全体の気象に経験したことのない変動が多発するようになってきた」からです。決定は、原子力規制委員会の規制基準は温暖化の影響も考慮に入れるべきだといいます。
 同日、米海洋大気局は昨年の世界の大気中二酸化炭素(CO2)濃度の上昇幅が過去最大だったとし「過去数十万年より急速で、自然の過程と比べると爆発的だ」と警告しました。
 地裁決定は「有史以来の人類の記憶や記録にある事項は、人類が生存し得る温暖で平穏なわずかな時間の限られた経験にすぎない」とも指摘します。温暖化による地球環境の急激な変化が、原発の過酷事故につながることはないのか。規制委はその危険性を検証したのか。重要な視点です。
 一方、安倍晋三政権が4日に発表した地球温暖化対策計画案は、極めて不十分な中期目標を示しただけ。首相は3年前世界のCO2排出量を50年に半減させるため先進国は80%削減を≠ニ提唱したのに。
 計画案は、規制委が認めれば原発の再稼働を進める姿勢です。CO2を大量に排出する石炭火力発電も野放しです。策定に関わった審議会委員からは「80%削減は非科学的だ」との暴言も飛び出しています。
 人類の未来を左右する温暖化対策に背を向け、温暖化が原発に与える影響を検討することもなく再稼働に突き進む。これが、「国民の安全を守る」と繰り返す政権の正体です。
 (佐久間亮)
(
2016年03月15日,「赤旗」)

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今こそ主権者の手に

 経済活動の柱に据えるべきは家計であり、国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費です。アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)はこの経済の柱を破壊しています。
 もともとアベノミクスは、消費税増税を実行するために、今の官邸陣が考え出したものでした。日銀の異次元の金融緩和にしても、機動的財政運営による大型公共事業の推進にしても、成長戦略の名による減税を柱とした大企業優遇策にしても「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざすことがその狙いです。
 経済政策の具体策を策定しているのが財界・大企業です。大企業の利益拡大が主眼です。政策策定の場には、主権者である国民の代表は不在です。苦境に陥っている暮らしを底上げし、貧困と格差を是正し、家計を直接温めるという発想もありません。
 実際、消費税が8%に引き上げられて国民の生活苦はさらに増し、年金、介護、医療分野の連続的負担増は、家計を痛めつけています。GDPは第2次安倍政権発足以降の12四半期中、5回もマイナス成長に沈んでいることがなによりの証拠です。
 世論調査にも端的にあらわれています。「日経」(2月29日付)では、アベノミクスを「評価しない」との回答は50%に上りました。「読売」(26日付)では、「評価しない」は57%に達しました。
 では主権者は、政府にどのような政策を望んでいるのでしょうか。「読売」の調査では、「年金など社会保障の充実」が63%、「医療・介護負担の軽減」は57%、「子育て・教育費の負担軽減」が36%となっています。「法人税減税などによる企業支援」はわずか6%にすぎません。
 経済政策を主権者の手に取り戻すことは急務です。
 (金子豊弘)
(
2016年03月08日,
「赤旗」)

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日米豪の戦略的協力

 安倍晋三政権の武器輸出政策は、米国の世界戦略とも深く結びついています。例えば、三菱重工が狙うオーストラリア(豪州)の次期潜水艦プロジェクトです。建造数12隻、調達費用500億豪j(約4兆円)以上という巨大案件です。
 安倍政権は、日本をパートナーに選べば
日米豪の戦略的協力の発展日本の世界トップレベルの技術力長期のメンテナンス協力―の三つの利点があると売り込みます。潜水艦に搭載する戦闘システムは、米豪が共同開発するため、日本が加われば「日米豪の戦略的協力のモデルになる」(中谷元・防衛相、2015年11月22日の第6回日豪外務・防衛閣僚協議後の共同記者会見)と強調します。
 もともと、12隻の潜水艦建造は豪州の「09年国防白書」で打ち出された計画でした。国防予算を30年まで毎年2・2〜3%増額させるとした同白書の大軍拡計画は、世界経済危機による豪州の財政悪化で一度はお蔵入りになりました。
 その計画が再び動きだした背景にはアジア・太平洋地域に重点を移す米国のリバランス(再配置)戦略があります。
 「(米国は)この地域の友好国や同盟国に対して、将来の米国の戦略において役割を果たすようにという合図を送ってきた。つまり、日本や豪州のような国々は、米国が要求する能力と相互運用性を備えておくことが期待されている」
 豪州戦略政策研究所のアンドリュー・デービス研究部長は12年の講演でこう語り、米国が求める能力の一つとして米国製ミサイルが搭載可能な潜水艦を挙げます。
 米国が豪州を大軍拡へ駆り立て、それを商機と日本が売り込む―。同盟強化の名の下に福祉へ回るはずの予算が消えていく豪州の姿は、日本にも重なります。
 (佐久間亮)
(
2016年03月01日,「赤旗」)

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2月】

「政策廃業」当然視か

 安倍晋三政権は来年4月に消費税率を10%に引き上げるとともに、インボイスの導入を狙います。インボイスとは品目ごとに税額を明記した請求書のことで、食料品など一部の品目の税率を現行8%に据え置く「軽減税率」の導入に不可欠とされます。課税業者は消費税を納める際、納品業者から受け取ったインボイスを添付して、仕入れにかかった消費税額を控除します。インボイス発行に伴う事業者の事務負担増大が問題になっています。
 さらに重大なのは、これまで消費税納税が免除されてきた売り上げの少ない事業者は、インボイスが発行できず、納品先が仕入れ税額控除を受けられなくなるため、取引から排除される恐れがあることです。排除を避けるためには納税業者になるしかありませんが、インボイス発行の事務負担が増大します。免税業者にとっては、「取引からの排除」か「事務負担の増大」の二者択一が迫られ、廃業につながりかねません。
 民主党議員が15日の衆院予算委員会でこの問題を取り上げ、麻生太郎財務相は次のように答弁しました。
 「そういった(廃業の)例がないとは言わない。一つや二つあったとか、百あったとか千あったとか、いろいろ例が出てくる」
 廃業する業者が出てきて当然という態度です。しかし、消費税増税も「軽減税率」やインボイスの導入もすべて政府の都合です。政府の政策による小規模業者の廃業、「政策廃業」を当然視するものにほかなりません。
 麻生財務相は18日の衆院予算委員会でこの答弁を追及され、「誤解を招いたのであれば訂正する」と述べました。しかし、訂正すべきは答弁ではなく、来年4月に消費税を増税する路線そのものです。
 (清水渡)
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2016年02月23日,「赤旗」)

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やはり主権が危ない

 環太平洋連携協定(TPP)の投資の章に盛り込まれた投資家対国家紛争解決(ISDS)条項が国家の主権を侵害するという懸念があります。その懸念は、国会審議を通じてより強まりました。
 ISDS条項は、進出先の制度や政策のために損害を受けたと主張する外国企業がその国の政府を相手取って損害賠償などの訴訟を起こすことができるものです。そこで、問題は、誰が紛争解決の判断を下すかです。
 訴訟は、国内裁判所へ申し立てられる場合も、仲裁廷へ持ち込まれる場合もあります。さらに、国内裁判所で敗訴した企業が、その後、仲裁廷へ訴えた実例もあります。
 仲裁廷は一般に、投資紛争解決国際センター(ICSID)などのルールに基づいて設置され、裁判官役を務める仲裁人が紛争解決の判断を下します。国の制度や政策にかかわる訴訟に対し、国内裁判所ではなく、国外に設置される仲裁廷が判断を下すことは司法権の侵害だとする批判が、TPPに署名した各国で起きています。
 8日の衆院予算委員会では、国内裁判所と仲裁廷の判断が食い違った場合、どちらの判断が効力を持つかについて、岩城光英法相の答弁が迷走。審議がしばしば中断しました。結局、岩城法相は言を左右にして、どちらの判断が効力を持つかを隠し通しました。
 仲裁廷の判断が効力を持つと答えれば、主権侵害だとの批判がますます強まるのは明らかです。国内裁判所の判断が効力を持つのなら、仲裁廷はなくてもよいことになります。しかし、仲裁廷はもともと、国内裁判所で争うのを嫌う企業の必要によるものなのです。
 法相が見解を示さなかったことで、ISDS条項への懸念はますます強まりました。
 (北川俊文)
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2016年02月16日,
「赤旗」)

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「吸い上げ」から転換を

 アベノミクスのもと、「富める者」はますます裕福になっています。日本共産党の山下芳生書記局長が1月28日の参院本会議(代表質問)で指摘したように「大企業は2年連続で史上最高の利益を上げ、一握りの富裕層は株高で資産を増やした」からです。
 一方で、国民の暮らしはますます深刻です。1月29日に発表された12月の家計調査では、2人以上の世帯の消費支出は4カ月連続で実質減少しました。勤労者世帯の実収入も4カ月連続で実質減少しています。
 全国中小企業団体中央会が1月21日に発表した12月の中小企業月次景況調査では、景況と売上高の指数が年末年始の需要期にもかかわらず、2カ月連続で悪化しました。各地の業者からは、「例年、お歳暮・おせち用かまぼこの受注が増加する月だが、売上げ、客単価ともに下落。全体の売上げは前年同月比約マイナス5%。また県外デパートや企業からの注文も悪く、依然不況が継続」(鹿児島県・かまぼこ製造業)「牛・豚肉の国産と輸入品の相場が高騰したが、売価に反映できずに薄利が続いた」(栃木県・食肉卸)などの苦境が伝えられます。
 国民の購買力低下や景気低迷のもと、幅広い層から2017年度に狙われる消費税率10%への引き上げに反対の声が上がっています。日本チェーンストア協会の清水信次会長は「そもそも税率10%への消費増税を再延長か凍結してほしい」(1月28日付「日経」)と表明しました。
 安倍晋三首相は1月21日の参院決算委員会で「税収というのは国民から吸い上げたもの」と本音を吐きました。国民から吸い上げ、大企業と富裕層に分け与えるアベノミクスからの転換こそ必要です。
 (清水渡)
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2016年02月09日,「赤旗」)

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日銀が自ら信用失う

 日銀が初のマイナス金利を導入することで懸念されるのが新手の詐欺です。「銀行にお金を預けると利子を取られますよ。それよりは…」という手合いです。心配した読者からも電話をいただきました。
 今回のマイナス金利は、民間銀行が日銀に預けるお金の増加分に課されるものです。一般の預金に適用されるわけではありません。
 もっとも、銀行や証券会社は「預金より高い利回りが期待できます」と、超低金利に乗じて元本割れの可能性がある金融商品を売り込んできました。土壌は培われています。マイナス金利詐欺≠ありえない話と片付けることはできないでしょう。
 日銀は、黒田東彦総裁が1月21日には国会で「考えていない」と答弁したマイナス金利を、8日後の金融政策決定会合で9人の委員中4人の反対を押し切って決定。日銀そのものが信用できなくなっています。かつて「公定歩合と衆院解散についてはうそをついてもいい」と言われたことがありましたが、今後は「マイナス金利についても」となるのでしょうか。
 そこで思い出すのが3年前、白川方明・前日銀総裁の退任記者会見です。日銀が市場を思い通りに動かすことができるという市場観、政策観に「危うさを感じる」と警告しました。就任間もない安倍晋三首相が日銀に「大胆な金融政策」を迫ったことに抵抗を示し、任期切れ前に職を退いた白川氏でした。
 NHKのドラマ「あさが来た」はただいま銀行開業の場面。教えを請うあさに実業家、渋沢栄一が「銀行経営に一番大切なものは信用」と説いていました。銀行の銀行である日銀が自ら信用を失う行動をとり続けるなら、日本経済はさらに危うさを増すことになります。
 (山田俊英)
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2016年02月02日,「赤旗」)

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1月】

病める経済ただす道

 世界の貧富の格差は著しく拡大し、極端な水準に達しています。
 国際協力団体オックスファムがダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に向けて発表した報告書(「1%のための経済」)によれば、2015年に世界で最も裕福な62人が所有する資産は、世界人口の下層50%(36億人)の総資産に匹敵するに至りました。10年と比べ、最も裕福な62人の資産が5千億ドル以上増えた一方、下層50%の資産は1兆ドルも減りました。
 欧州では緊縮政策が貧困層に大打撃を与え、米国では経済危機後の成長分の95%を上位1%の富裕層が占有していると指摘します。
 富裕層の資産額の典拠は米誌フォーブスの世界長者番付です。15年度の番付によると、ファーストリテイリングの柳井正社長が総資産202億ドルで41位に入っています。
 同団体が打開策の「最優先事項」にあげたのはタックスヘイブン(租税回避地)への対処です。「世界の富裕層や多国籍企業」は、極端に税率が低いタックスヘイブンに7兆6千億ドルもの資産を隠しており、「社会が機能するための大前提である納税義務を果たさないでいます」。
 こう強調した上で、「極度の貧困をなくすためには、各国政府が企業や個人を含む富裕層からしっかりと税収入を得ることが不可欠」と提起しました。
 さらには、先進国でも途上国でも格差が広がる背景に、国民所得に占める労働賃金の低下があると分析し、最低賃金を「生活賃金」の水準に引き上げることを求めています。男女間の賃金格差の是正も呼びかけます。
 富の集中に歯止めをかけ、「病める世界経済」をただす道へ踏み出す年にしなければなりません。
 (杉本恒如)
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2016年01月26日,「赤旗」)

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消費税10%反対広がる

 安倍晋三政権が2017年4月からの実施を狙う、消費税率10%への再増税に反対の声が広がっています。「朝日新聞」が昨年12月に行った世論調査では消費税率を10%へ引き上げることに「反対」が56%と、「賛成」の35%を大きく上回りました。消費税をなくす全国の会が11日に行った成人式宣伝では「今でも生活が大変なのに(消費税率)10%なんてありえない」などの声が寄せられました。15日付「産経」は1面で「再増税中止宣言せよ」との見出しを掲げて、「安倍晋三内閣はきっぱりと来年4月からの消費税再増税中止を宣言」するよう迫りました。
 「10%への消費税率引き上げ反対」の世論が広がる背景に生活苦があります。15年11月の「家計調査」(総務省)では2人以上の世帯において、消費支出は前年同月比7003円(2・5%)も減少し、物価変動を考慮に入れた実質で2・9%もの減少です。内閣府が12日に発表した15年12月の「景気ウオッチャー調査」には、「14年4月の消費税増税以降、衣食住部門のすべてで来客数の前年割れが続いている」(北海道・スーパー店長)、「消費税増税以降、全く販売量が伸びない。客の所得が増えていないところに増税と物価上昇があり、将来に不安があるため住宅ローンをやがて支払えなくなるのではないか、と思っているようである」(南関東・住宅販売会社)など経営への悪影響を訴える声が寄せられています。財界の新年パーティーではスーパー業界の大物が「国内の消費動向はよくない」と消費税率の引き上げに警戒感を強めるコメントをしていました。
 国民生活を破壊し、中小企業の営業を危うくさせる消費税の増税はきっぱりと中止すべきです。
 (清水渡)
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2016年01月19日,「赤旗」)

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二重に架空の前提

 「大筋合意」された環太平洋連携協定(TPP)が2月4日、ニュージーランドで署名される見通しだと報じられています。今年もTPPをめぐる攻防が続きます。
 安倍晋三政権は、TPPを既成の事実として国民に押し付けようとしています。そのため、「総合的なTPP関連政策大綱」や「TPP協定の経済効果分析について」を発表して、夏の参議院選挙を前にTPPへの国民の不安を和らげ、批判をそらそうと躍起です。
 しかし、「経済効果分析」は、効果を誇張し、影響を過小評価しているとして、関係者の強い怒りを呼び起こしています。農林水産物分野では、生産額減少を1300〜2100億円と極少に見積もり、食料自給率は現状の39%から変化しないとしているのです。
 実は、「経済効果分析」の前提にからくりがあります。「TPP関連政策大綱に基づく政策対応を考慮して算出」した結果、「体質強化対策による生産コストの低減・品質向上や経営安定対策などの国内対策により、引き続き生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるものと見込んでいる」といいます。要するに、TPP対策が利いて影響がほぼなくなると想定して試算したわけです。
 しかし、「TPP関連政策大綱」は、農林水産業について、今年の「秋を目途に政策の具体的内容を詰める」としています。まだ具体的内容のない対策がすでに奏功したという二重に架空の状態を前提にした試算は、「虚構」にすぎません。
 そのような「虚構」を使ってまでTPPを美化しようと腐心するところにも、国民を無視し、国会決議に反して、TPPを強引に推進する安倍政権の暴走ぶりが表れています。
 (北川俊文)
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2016年01月12日,「赤旗」)

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危険な軍事依存の道

 戦争する国づくりは、必然的に経済の軍事化を伴い、日本経済の土台を破壊しつつあります。
 ともすると経済と軍事の問題は、別々のテーマとしてとらえられがちです。実際、戦後の日本の為政者たちは、軍事と経済という二つの分野を意識的に対抗させて、対米従属の保守政権を維持・管理してきました。典型だったのが「安保の岸」と「経済の池田」でした。安全保障=軍事面で国民の批判を受ければ、今度は経済政策で、という2項対抗型の戦略でした。しかし、この経済と軍事の両分野は、実際には強固に結びつき、連動しながら展開しています。
 私たちは、この経済と軍事の両者を統一的・包括的にとらえることで、アベノミクスの本質をつかむことができます。
 一握りの多国籍企業のために国民経済をもてあそび、経済を軍事に動員し、対米従属の下で多国籍企業の権益を確保するという安倍政権の危険な暴走がいよいよ明らかになっています。シリーズ「軍事依存経済」は、その課題に取り組む私たちの挑戦の一つです。
 戦前の軍事費を分析した『昭和財政史4巻 臨時軍事費』で、大蔵省昭和財政史編集室の故大内兵衛は、「軍備の拡大は、経済上の困難や不景気を一時的に先へ延ばすことはできても、経済上の困難を根本的に解決するものではなく、かえって困難を大きくし、問題を複雑にするにすぎない」と指摘しました。
 戦後の特徴は、日本は対米従属の下に置かれていること。4年目に入った安倍政権は、日本をいっそうアメリカの世界支配に組み込み、自律的発展の道をふさいでいます。
 今年、先達に学び、その警句を生かした報道に努めたいと思います。
 (金子豊弘)
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2016年01月05日,「赤旗」)

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