2017年回顧

n  17回顧/東南アジア/過激主義拡散に対策

n  17回顧/美術/表現の自由で、せめぎ合い

n  17回顧/演劇/社会に向き合う熱♀エじ

n  17回顧/論壇/袋小路の安倍政権喝破

n  17回顧/文学/個と多様性をめざして

n  17回顧/映画/ナチス糾明の力作多数

n  17回顧/音楽/戦没学生の思いつなぐ

2017回顧/東南アジア/過激主義拡散に対策

20171227

 フィリピン南部ミンダナオ島で5月、過激組織IS系のイスラム武装勢力が人口約20万人の都市マラウィ市を武装占拠した事件は、東南アジア諸国全体に衝撃を与えました。
 「定着を許せば、東南アジアに何十年も問題をもたらしかねない」。シンガポールのウン・エンヘン国防相は強い警戒感を示し、翌月の「アジア安全保障会議」で、参加各国の国防相と緊急会合を開催しました。
 東南アジア各国は、インドネシア、マレーシアなどから1000人前後がシリアやイラクに渡りISに加わっていたと推計。テロ・暴力的過激主義の浸透と拡大に危機感を強めていました。

中東のIS連携
 インドネシアのリャミザルド国防相は、同国のイスラム人口約2億人の1%未満でも過激化すれば100万単位になるとアジア安保会議で指摘しました。
 マラウィ市の武装勢力は、人員・資金調達で中東のISと連携、インドネシアなどの外国人戦闘員が加わり、1000人規模の勢力になっていたことが明らかになりました。
 国境を越える過激勢力に対し、地域諸国は連携を強化。フィリピン、インドネシア、マレーシアは6月、海上からの戦闘員流入や密輸を防ぐ合同パトロールを開始しました。

地域協力を推進
 東南アジア域外の東アジア諸国も「地域的な対応が必要」(オーストラリア)として、フィリピン国軍への個別の支援のほか、情報共有の強化などの地域協力を推進しました。
 マラウィ市での掃討作戦は10月下旬に終了。5カ月にわたる市街戦で軍・警察側165人、市民47人、武装勢力側約920人が死亡しました。フィリピン議会は13日、IS支持勢力の完全掃討などを理由にドゥテルテ大統領が求めたミンダナオ島での戒厳令の1年延長を承認しました。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)は11月の首脳会議で「暴力的過激主義対策マニラ宣言」(9月の閣僚会合で採択)を発表。過激化の防止のために、平和・穏健主義教育や社会的弱者支援を含む包括的対策での協力を打ち出しました。
 シンガポールのリー・シェンロン首相は11月、議長国を務める来年のASEANで、テロや国境を越える犯罪対策を重点課題にしていくと表明しました。
 (ハノイ=井上歩)

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17回顧/美術/表現の自由で、せめぎ合い

20171220

 憲法9条を守る願いを込めて始まった「九条美術展」。第7回のことしは、12月に東京・練馬区立美術館で開催されました。会期中の講演会では、発起人の一人、野見山暁治さんが自作を語り、戦没学生の絵を集めたのは、自分だけが生き残った鎮魂の思いからだと語りました。元NHKプロデューサーの永田浩三さんが詩人・峠三吉と画家・四国五郎について話し感動を呼びました。アンデパンダン展、平和美術展、職美展、写真展「視点」、漫画家の「くまんばち展」などで戦争法や共謀罪への怒り、たたかいへの共感が多数、表現されました。
 国立新美術館の「ミュシャ展」は大きな話題を集めました。華麗な女優たちのポスターを描き、19世紀末のパリで活躍した画家ですが、晩年、故郷に戻り、大国の支配からの独立を目指します。自身のルーツ・スラヴ民族の歴史を圧倒的なスケールで巨大カンバス20点に描きあげました。
 近年、政治的メッセージを込めた作品へのクレームが増えています。4月、群馬県立近代美術館で朝鮮人強制連行追悼碑をモチーフにした作品が撤去されました。美術評論家連盟は、表現の自由や市民による鑑賞の機会を奪い事前検閲の禁止に抵触するとして抗議声明を発表しました。沖縄県うるま市のアートイベントで米軍機墜落をモチーフとした作品が非公開になりました。
 こうした動きに対し、「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」を模索してきた全国美術館会議が、従来の10原則に加えて「表現の自由、知る自由を保障し…活動の自由を持つ」と明記したことは注目されます。
 没後40年「熊谷守一展」、「分断」「孤立」「接続」がテーマの横浜トリエンナーレ、反戦、反核の画家・四国五郎と清掃員画家・ガタロの師弟展、ASEAN諸国現代アートの多彩な展開を示したサンシャワー展、旧「満州」を伝える写真を特集した異郷のモダニズム展なども注目を集めました。
 「堀文子展」99歳、「野見山暁治展」97歳、「浜田知明(100歳)・秀島由己男(83歳)展」、「草間彌生展」88歳など、先達の展覧会が元気です。
 国宝展、運慶展、北斎展などは多くの観客でにぎわいました。美術鑑賞の広がりと共に、「稼げる文化」というだけでない美術館、博物館の地道な取り組みへの関心が強まることが期待されます。
 (日高ルミ)

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17回顧/演劇/社会に向き合う熱♀エじ

20171220

 表現の自由や人権に不当な圧力が加えられている社会状況を告発する作品が上演され、社会に向き合う演劇人の熱≠感じさせました。
 劇団青年座「断罪」(作/中津留章仁、演出/伊藤大)は、ある大物俳優の、現政権を堂々と批判するテレビ番組での発言が物語の発端です。芸能事務所での人権侵害、内部告発を描きながら、圧力に屈しない生き方、現代日本の抱える病理の元凶をも突き詰めようとする力作でした。二兎社の「ザ・空気」(作・演出/永井愛)も、大手テレビ局の報道番組を舞台に日本のメディアの自粛、忖度、自己規制の実態を告発。いま必要なのは空気を読むことなのか≠ニいう声が胸に響く作品でした。
 過去の戦争から学び、再び平和を踏みにじろうとする時代に警鐘を鳴らす作品も心に残りました。
 新国立劇場「トロイ戦争は起こらない」(作/ジャン・ジロドゥ、演出/栗山民也)はヒトラーがドイツの再軍備を始めた時代に書かれた作品。トロイ戦争を題材に、報復、戦争という悪の連鎖から人間は逃れることはできないのかと問いかけました。創立80年を迎えた文学座の「冒した者」(演出/上村聡史)と、文学座・文化座・民芸・青年座・東演の新劇交流プロジェクトによる「その人を知らず」(演出/鵜山仁)はいずれも三好十郎の作品。戦争、平和と自由を主軸に人間の本質に迫る重厚な舞台でした。
 築地小劇場以来の新劇の先輩たちのたたかいを継承し今に生かす二つの舞台も貴重でした。困難な時代を切り開く苦闘や情熱が伝わってきた青年劇場の「梅子とよっちゃん」(作/福山啓子、演出/瀬戸山美咲)。劇団民芸「『仕事クラブ』の女優たち」(作/長田育恵、演出/丹野郁弓)は弾圧の時代に生きた女優たちの個性を描ききりました。
 生きることへの感謝を描いた劇団銅鑼「いのちの花」(作/畑澤聖悟、演出/齊藤理恵子)や、山田洋次監督の監修・脚本による歌舞伎に挑戦した劇団前進座「裏長屋騒動記」も新鮮な印象を残しました。
 20、21回と連続して行われた非戦を選ぶ演劇人の会による「ピースリーディング」、「安保法制と安倍政権の暴走を許さない演劇人・舞台表現者の会」による駅頭でのサイレントスタンディングは安倍政権の暴走に抗する演劇人らしい反戦・平和の活動として市民を励まし続けています。
 (寺田忠生)

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17回顧/論壇/袋小路の安倍政権喝破

20171219

 米国でトランプ政権が誕生し、波乱の幕開けとなった2017年。論壇では、対米追随外交批判に始まって安倍政権への批判が続き、その行き詰まりを感じさせました。
 西谷修(立教大学特任教授)「『アメリカの世紀』の終わり」(『現代思想』1月号)は、トランプ大統領の排外主義や利己的専横に「過去への退行」と警鐘を鳴らす一方、米国の「民主的社会主義者」サンダース議員の躍進など、社会構造の変革を求める運動が各国で起きていることに注目しました。
 栗田禎子(千葉大学教授)「『トランプ=安倍枢軸』下の危機とたたかいの展望」(同前)、星浩(ジャーナリスト)「選択肢が少ない日本外交」(『週刊東洋経済』2月18日号)、猿田佐世(新外交イニシアティブ事務局長)「トランプ・ショックを契機に」(『週刊金曜日』同10日号)は、「日米同盟」最優先の安倍外交の問題点を当初から危惧していました。
 森友問題の発覚を受け、小林正弥(千葉大学教授)「籠池泰典氏の言う『神風』はいつ、どう吹いたか?」(『WEBRONZA』4月5日)は、専制、家産官僚制、縁故主義の発生を示したと指摘。郭洋春立教大学教授らによる座談会「国家戦略特区の実相とは」(『世界』8月号)は加計問題の舞台≠ニなった「戦略特区」が、経済成長の動因を目的とした他国の「経済特区」と違い、首相周辺の関係者や一部企業などの私利私欲のための制度となっている実態を告発しました。
 北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐっては、『文芸春秋』10月号のてい談「米軍は核を使いたがっている」の丹羽宇一郎・元伊藤忠商事会長、インタビュー「朝鮮半島危機と拉致被害者」(『世界』12月号)の蓮池透氏ら、財界出身の言論人や拉致被害者家族からも、日本こそ対話による平和解決の先頭に立つべきだという提言が出されました。ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)国際運営委員の川崎哲「核兵器禁止条約は世界を変える」()は、「核抑止論」は「神話」だと喝破し、禁止条約こそが核戦争を防ぐ現実的な安全保障策であることを明らかにしました。
 中野晃一(上智大学教授)・植野妙実子(中央大学教授)対談「市民のための政治を築き直す」(『週刊金曜日』11月3日号)は、総選挙で立憲民主党を野党第1党に押し上げた力が、「市民との連携」の蓄積にあったと指摘。野党と市民の共闘の未来、改憲阻止へのたたかいを語り、新たな年を展望する視座を示しました。
 (田中佐知子)

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17回顧/文学/個と多様性をめざして

20171219

 「文学が重要だと信じている」―2017年のノーベル文学賞を受賞した日系英国人作家、カズオ・イシグロ氏の記念講演での言葉です。「危険なまでに断絶が深まっている今こそ、お互いの声を聞かねばならない。良いものを書き、良いものを読めば、障壁を打ち破ることができる。新しい考えや、私たちをつなぐ人間的で偉大な視点も見つかるかもしれない」と、文学の可能性を語りました。
 世界中で広がる貧困と格差、頻発するテロ、排外主義の台頭、高まる核戦争の危機の中で、文学の意義が問われた1年でした。
 震災後から顕著に現れたディストピア(反理想郷)小説が引き続き発表され、暗黒の近未来の描出の中に、個と多様性を獲得すべく抵抗する人々が登場していることが今年の特徴です。
 絶対権力の「党」が支配する島国の帝国が開戦した日から始まる中村文則『R帝国』、核燃料最終処分場造成が噂される2045年の北関東の町が舞台の黒川創『岩場の上から』、AI(人工知能)の専制による大淘汰に抗する島田雅彦『カタストロフ・マニア』など、未来を見据え警鐘を鳴らしつつ、現実に対峙し変革に挑む人々を描きます。
 文学界新人賞と芥川賞を受賞した沼田真佑『影裏』は、岩手を舞台に震災前後の庶民の息遣いをみずみずしい筆致で詳述し、崩壊と喪失の記憶を刻みました。主人公に性同一性障害の恋人がいたとするさりげない設定に、多文化共生への意志が読み取れます。
 「タフなカナリア」と呼ばれてきた笙野頼子氏は、『植民人喰い条約 ひょうすべの国』でTPP発効後の日本の惨状を描出し、『さあ、文学で戦争を止めよう』では戦争法(安保法制)が成立した日本は既に戦前なのだと告発しました。
 大企業の非正規切りに抗して仲間と共に裁判闘争を続ける派遣社員の苦悩と希望を描いた田島一『争議生活者』は、労働者の命さえ踏みにじられる現代に人間の尊厳と社会正義とは何かを明確に打ち出しました。
 「赤旗」連載の丹羽郁生「飛翔の季節」は、政治活動に情熱を注いだ団塊世代の青春の記録であり、ふりかかる苦難を乗り越えていく人生の道程を伝えます。
 最後に、今年死去した二人の文学者、長崎での被爆体験を原点に核の恐怖を書き続けた林京子氏と、「マスコミ九条の会」の呼びかけ人も務めた詩人の大岡信氏の遺志をかみしめたい。
 (平川由美)

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17回顧/映画/ナチス糾明の力作多数

20171215

 今年の映画界で特筆されるのは、ナチスの犯罪を追及する外国作品の多さです。1月の「アイヒマンを追え!」から始まり、夫婦で市民に反戦の決起を呼び掛ける「ヒトラーへの285枚の葉書」、ホロコースト否定論者との法廷闘争を描く「否定と肯定」ほか、多様な方法、製作(独、仏、英、米、チェコほか)による10本近い作品が公開され、歴史の真実を明らかにし今日を生きる大きな示唆を与えました。
 ケン・ローチ、故アンジェイ・ワイダ、ダルデンヌ兄弟、アキ・カウリスマキらの名匠も、圧政や難民問題での抵抗の姿勢を鮮烈な映像で示しました。
 日本映画も監督の年輪の刻まれた力作が目白押しでした。喜劇に高齢者の孤独死を溶け込ませた山田洋次監督「家族はつらいよ2」、無償の愛を描いた降旗康男監督「追憶」、戦争に抗う青春を捉えた大林宣彦監督「花筐」、是枝裕和監督の法廷心理劇「三度目の殺人」、老老介護に純愛を映した佐々部清監督「八重子のハミング」など現実が豊かな技量で刻みこまれた作品群です。
 さらに、障害者の愛を真正面から描いた松本准平監督「パーフェクト・レボリューション」、家族の再生の物語「幼な子われらに生まれ」(三島有紀子監督)なども送り出されました。
 荻上直子監督の「彼らが本気で編むときは、」、米アカデミー賞の「ムーンライト」、フィリピンの「ダイ・ビューティフル」ほか性別違和や同性愛差別を超える人生を模索する作品が増え、自由な生き方への関心の強さを示しています。
 ドキュメンタリーでは、オール沖縄につながる瀬長亀次郎の生涯を描いて広く話題を呼んだ「米軍が最も恐れた男」をはじめ沖縄のたたかいが数々記録されました。大震災被災地で復興をめざす人々、治安維持法犠牲者の名誉回復のたたかいなどの作品も粘り強く撮り続けられてきました。
 映画人九条の会は、「ザ・思いやり」1・2の上映会や学習会、自由と生命を守る映画監督の会は、2度にわたって「映画監督と時代」のシンポジウムを開くなど、地道な活動を続けてきました。日本映画復興会議も、国の映画振興政策を考える学習会などを開催。
 映画人は、共謀罪の施行に、表現の自由に関わる死活問題として抗議の声をあげました。これは新年にも引き続く課題です。
 (児玉由紀恵)

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17回顧/音楽/戦没学生の思いつなぐ

20171215

 9条改憲が狙われる中、戦争に反対し、命を未来につないでいくという願いを音楽に託した1年でした。
 戦争への危機感からか、歴史を見つめ直す公演の企画が目立ちました。「戦没学生のメッセージ」(シンポジウムとコンサート)では、戦前、東京音楽学校(現東京芸術大学音楽学部)で学んだ学生の作品に焦点を当て、戦争で亡くなった4人の作品を学生らが演奏。残された楽譜を実際の音としてよみがえらせ、命を絶たれた作曲家の思いを現代に伝えました。
 サントリー芸術財団主催の「片山杜秀がひらく〈日本再発見〉戦中日本のリアリズム」は、戦争と向き合った作曲家らの鋭い感性を聴衆に届けました。
 国連会議での核兵器禁止条約の採択で核兵器廃絶への声が高まる中、原爆をテーマにした作品を取り上げた公演もありました。広島で被爆した峠三吉の『原爆詩集』をもとに大木正夫が作曲したカンタータ「人間をかえせ」(第1部)を、東京ニューシティ管弦楽団と「東京労音人間をかえせ合唱団」が27年ぶりに演奏。38回目の「東混・八月のまつり」は、林光作曲「原爆小景」(詩・原民喜)などの作品を歌い継ぐことの意味を考えさせました。
 「日本のうたごえ祭典」は、「つなごう いのち つくろう 平和世(ゆ)」をテーマに石川県で初めて開かれ、戦争や原発に反対するたたかいへの連帯や、未来を生きる子どもらへ命をつないでいくことの尊さを歌い上げました。
 開館20周年の新国立劇場は、水準の高いオペラの上演を続け、多くの観客が鑑賞できる環境を提供するなどの成果を示しました。日本のオペラ界を担う若手の育成という役割も果たしましたが、一方で公的支援の削減により自主制作が厳しい状況にも置かれています。日本から発信するオペラの制作など今後の活動が注目されます。
 オーケストラの活動ではメシアンの大作の日本初演をはじめ、オペラを演奏会形式で取り上げる企画が広がり、期待が寄せられています。
 地域オペラも意欲的な取り組みを見せました。愛知県の三河市民オペラは、高い水準の歌唱と、手づくりの良さを生かしてヴェルディの「イル・トロヴァトーレ」を上演。メモリヤルイヤーでは生誕450年のモンテヴェルディの名曲が各地で演奏され、バロック人気の定着を感じさせました。
 (中村尚代)

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