2019年3月26日
中国や欧州の景気減速、米中貿易摩擦、英国の欧州連合(EU)離脱など、世界経済のリスクが高まっています。米国経済にも陰りが見え始めています。
利上げ打ち切り
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月20日、年内は利上げを行わないとの見通しを示しました。これまで年2回の利上げを想定していましたが、景気減速への警戒を強めました。量的緩和で膨らんだ保有資産の圧縮は9月末に終了します。政策金利は年2・25〜2・50%に据え置きます。
FRBは声明で、個人消費などの伸び鈍化を踏まえ、「経済活動の成長ペースが減速した」と指摘。景気判断を前回から下方修正しました。
米商務省が2月28日発表した2018年10〜12月期の実質GDP(国内総生産)は季節調整済み年率換算で前期比2・6%増。個人消費が伸び悩み、前期の3・4%から鈍化、景気の緩やかな減速を裏付けました。FRBが3月6日発表した全国12地区連銀景況報告も、判断を1月の前回報告からやや下方修正し、緩やかな鈍化を示唆しました。
英国離脱で混迷
欧州中央銀行(ECB)は3月7日、年内の利上げを断念し、来年以降に先送りする方針を決めました。減速懸念が強まる景気を下支えするため、新たな資金供給策も導入します。ECBは昨年末で量的金融緩和政策を打ち切りましたが、世界的な景気減速懸念の強まりを受け、路線修正を迫られました。
EU統計局が2月13日発表した18年12月の鉱工業生産指数は、前月比で0・9%低下し、2カ月連続で減少しました。中国をはじめとする世界景気減速の影響が出ています。
英国のEU離脱をめぐる混迷も先行きを不透明にしています。英下院は、政府がEUと合意した離脱案を2度にわたって否決。3月29日に迫った離脱期限について、EU首脳会議は3月21日、英議会が離脱案を承認した場合は5月22日まで、承認しなくても4月12日まで延期することで一致しました。
当面の「合意なき離脱」が回避されたとはいえ、これまでの混迷で、パナソニックやソニーが欧州本社をオランダへ移すなど、企業が英国事業を見直す動きが広がっています。
見通し下方修正
世界経済の減速懸念が強まる中で、国際機関も経済見通しを下方修正しています。
世界銀行(WB)は1月8日、最新の世界経済見通しで、19年の世界の成長率を2・9%と、昨年6月時点の予想(3・0%)から引き下げました。世界経済の減速や米中貿易摩擦などを挙げ、「下方リスクが高まった」としました。
国際通貨基金(IMF)は1月21日、世界経済見通しを改定し、19年の世界の成長率を3・5%と、昨年10月時点の予測から0・2ポイント引き下げました。米中貿易摩擦や米政府機関の閉鎖などを懸念し、「リスクは成長減速に傾いている」と警告しました。
経済協力開発機構(OECD)も3月6日、最新の世界経済見通しを公表し、19年の世界全体の成長率が3・3%にとどまると予想。英国のEU離脱の道筋が見えない中、政治不安がユーロ圏を中心にほぼ全ての先進国にとって経済的なリスクになり得ると指摘しました。
ポイント
(1)FRBが年内利上げなしの見通し。「経済活動の成長ペースが減速」と指摘
(2)ECBが年内の利上げ断念し、新たな資金供給策も。英国のEU離脱が混迷
(3)世界経済の減速懸念が強まる中で、国際機関が相次ぎ経済見通しを下方修正
世界経済の主な出来事
1/8 世銀が2019年の世界の成長率予想を前回からを0.1ポイント引き下げ
15 英下院がEU離脱協定案を否決
21 中国が2018年GDPを発表。成長率が前年を0.2ポイント下回る
21 IMFが2019年の世界の成長率予想を前回から0.2ポイント引き下げ
2/1 日欧EPAが発効
14〜15 米中が閣僚級貿易協議
24 米大統領が中国製品への追加関税発動と貿易協議期限を先送り
28 米国が2018年10〜12月期GDPを2.6%と発表。前期から鈍化
3/6 OECDが2019年の世界成長率予想を前回から0.2ポイント下方修正
12 英下院がEU離脱案を再否決
20 米FRBが年内は利上げしないとの見通しを発表
21 EU首脳会議が英国のEU離脱期限の延期で合意
2019年3月27日
中国の2018年の実質国内総生産(GDP)は前年比6・6%増でした。28年ぶりの低成長です。
中国政府は19年のGDP成長目標を6〜6・5%に設定しました。20年までにGDPを10年比で倍加する国家目標達成に最低限、不可欠となる成長率です。2000〜2010年の成長率は年平均10%でしたが、10年をピークに下がり続けています。それに加えて米中貿易摩擦が景気を減速させています。
18年は消費、投資の指標が前年比で1桁の伸びでした。新車販売台数は18年、28年ぶりの前年割れとなり、19年1〜2月も前年同期比15%減。2桁減が6カ月続いています。スズキは中国生産の撤退を決め、マツダも中国で減産。米フォードも合弁企業で人員を削減します。1〜2月の鉱工業生産は10年ぶりの低い伸びでした。景気の減速は製造業全体に及びつつあります。
米中貿易交渉は長期化し、合意の見通しは立っていません。トランプ大統領は「合意を急がない」と述べ、米国に有利な合意でなければ妥協しない姿勢を示しています。当初、3月開催の方向で検討していた習近平国家主席との首脳会談は、4月以降にずれ込みそうです。
米国は米国産農産品に対する関税の即時全面撤廃を求めています。中国が応じれば、昨年発動した追加関税の一部を撤廃するとしています。
米国の報道によると、中国の輸入拡大に関しては交渉に進展がみられ、中国は米社からの天然ガス購入や米製自動車の関税引き下げの前倒しに応じる見通しと伝えられます。
ただ、トランプ政権の要求は貿易だけではありません。中国製造業のハイテク化をめざす国家計画「中国製造2025」の見直しや外国為替市場への介入実績の報告まで求めています。中国側は反発しています。
中国政府は1年の方針を決める3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で大規模な景気対策を決めました。物やサービスの売買に課される増値税(付加価値税)の税率引き下げ、企業の社会保険料減など年2兆元(約33兆円)の負担軽減策です。18年の歳入総額18兆元のほぼ1割にあたります。
中国ではリーマン・ショック(08年)後の景気対策の結果、地方政府や民間企業が巨額の債務を抱えています。李克強首相は全人代の政府活動報告で「過剰生産能力、過剰在庫、過剰債務」の「三つの過剰の解消」も掲げました。
米国と摩擦が激化しているもとでは対米貿易黒字を増やす輸出拡大策はとれません。李首相の報告は「国際収支を基本的に均衡させ、輸出入の安定・質的向上をはかる」との表現で米国に配慮を示しました。昨年まで政府報告に盛り込んでいた「製造2025」には一言も触れませんでした。
中国は対外的には米国との摩擦、国内では「三つの過剰」を抱えつつ、景気てこ入れを迫られています。世界第2の経済大国、中国の景気動向は今年の世界経済全体に大きな影響を与えそうです。
(1)18年成長率は6・6%。19年は6%台前半が目標。対米摩擦が減速に拍車
(2)米国が対米貿易黒字とともにハイテク育 成策や「為替操作」を非難し交渉長期化
(3)政府は大型減税や負担軽減で景気てこ入れ。過剰債務解消や対米摩擦にも配慮
2019年3月28日
膨大な個人情報を収集する米国の巨大IT(情報通信)企業で不祥事が相次いでいます。個人情報の保護や市場支配力を背景にした不公正な取引を防止するため、各国は対策を加速させています。
こうしたIT企業はビジネスや情報配信をする基盤(プラットフォーム)を提供するため、「プラットフォーマー」と呼ばれています。
インターネット交流サイト最大手のフェイスブックは21日、利用者のパスワードが同社の従業員によって閲覧できる状態で保管されていたと発表しました。対象は数億人分にのぼるといいます。同社では昨年10月に名前や連絡先、交友関係などの個人情報が約2900万人分流出しました。ずさんな情報管理の実態が改めて明らかになりました。
膨大な個人情報を危険にさらす巨大IT企業をけん制する動きも出ています。
フランス政府のデータ保護機関である情報処理・自由委員会(CNIL)は1月21日、グーグル社に対して5000万ユーロ(約62億円)の制裁金を科すと発表しました。個人情報収集に際して用途を利用者に明確に説明せず不備があったとしています。
欧州諸国では、情報や市場を独占するプラットフォーマーを規制する動きが広がっています。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は20日、グーグルがEU競争法(独占禁止法)に違反したとして14億9000万ユーロ(約1900億円)の制裁金の支払いを命じました。利用者が入力した検索キーワードに連動して広告を配信する「アドセンス」をめぐって、支配的地位を乱用して競合他社を排除したと指摘しました。
EUは、プラットフォーマーに課税する「デジタルサービス税」について3月中の合意を目指していました。しかし12日、EU全体でのデジタルサービス税の導入を見送りました。税制優遇でIT企業を誘致してきた一部の加盟国が反対姿勢を崩しませんでした。ただ、英国やフランス、スペインなどの数カ国が独自にデジタル税の導入や検討を進めています。
日本もプラットフォーマーを規制しようと検討が進んでいます。
2月13日には、総務省の有識者会議が中間報告書を発表。電気通信事業法が定める「通信の秘密」に関する条項を海外IT企業に適用する方針を示しました。同法は、利用者情報の保護を目的に、電子メールなどの通信内容の閲覧や漏えいを禁じています。国内に拠点や設備を持たない海外企業には適用されていませんでした。
公正取引委員会は1月から、巨大IT企業に関する調査を開始。2月27日にはアマゾンなどネット通販会社に関するアンケート調査を始めました。市場支配力を背景に不利な取引条件を事業者に強いているかどうかが、調査の焦点です。公取委、総務省、経済産業省は昨年12月に、巨大IT企業による不公正な取引を規制するために独占禁止法の運用の見直しを検討すると発表しました。
(1)フェイスブックは数億人分のパスワードが社内で閲覧できる状態だったと発表
(2)欧州委員会がEU競争法違反でグーグルに対して巨額の制裁金を科すと発表
(3)日本政府はIT大手を規制するため独禁法や電気通信事業法などの適用を検討
2019年3月29日
安倍晋三内閣は、1月18日の閣議で2019年度予算案の修正を閣議決定しました。毎月勤労統計の不正を受け、雇用・労災保険の追加給付に必要な費用を手当てするための措置。「国家の顔」ともいえる予算案が政府の統計不正によって修正を余儀なくされたのです。前代未聞の事態です。
今回の不正は、日本の公的統計の根幹を揺るがす重大事態です。統計法は、「国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報」「国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする」と規定しています。勤労統計は、国際労働機関(ILO)や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関に定期報告されています。国際的信頼も失墜させました。
総務省によると、国の基幹統計56のうち、23もの統計で不適切な事例が判明。「合理的意思決定」の前提が崩壊しています。これでは、政府の経済政策が「国民生活の向上」につながりようがありません。
日立製作所は1月17日の取締役会で英原発建設計画の「凍結」を決定しました。発表文で「民間企業としての経済合理性の観点から判断した」としました。
日立の英国での計画が挫折したことで、日本の原発輸出は「全滅状態」に陥りました。
原発推進勢力は、原発輸出が破綻する中でも、国内原発再稼働にはあくまで固執しています。中西宏明経団連会長(日立製作所会長)は会見で「(再稼働は)どんどんやるべきだと思う」と発言し、「原発ゼロ」の世論を無視し、原発メーカーの利益を優先させています。
内閣府が7日発表した1月の景気動向指数(速報値)で、景気の現状を示す一致指数は3カ月連続で悪化しました。基調判断を、「足踏みを示している」から「下方への局面変化を示している」に引き下げました。この表現を使うのは14年11月以来、4年2カ月ぶりです。
20日発表された月例経済報告は景気の全体判断について「このところ輸出や生産の一部に弱さもみられる」との文言を追加し、3年ぶりに下方修正しました。日銀も15日の金融政策決定会合で、「輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられる」として、輸出と生産に関する判断を下方修正しました。
景気判断の下方修正が相次いでいるのは、米中経済摩擦や中国の経済成長の減速、英国の欧州連合(EU)離脱問題などで世界経済の不透明感が強まっていることが最大の要因。日本経済の「外需」頼みは、いよいよ通用しなくなっています。
一方、月例経済報告は「緩やかに回復している」との表現は残しました。しかし、消費水準は水面下で、いわば「おぼれている」状態。消費税増税を前にして税率が据え置かれる食料品の値上げ発表が相次いでいます。その一斉値上げを政府があおっていることを安倍首相は認めています。この上さらに、安倍政権が内需を冷え込ます消費税増税を強行すれば、最悪の景気後退の引き金を引くことになります。
(1)毎月勤労統計不正で予算案修正は、前代未聞。公的統計の根幹を揺るがす事態
(2)日立の英原発「凍結」決定で原発輸出は総崩れ。国内再稼働にはあくまで固執
(3)景気判断の下方修正相次ぐ。景気「ゆるやかに回復」はおぼれている状態隠ぺい
1月11日 偽装された毎月勤労統計調査の影響発表
17日 日立製作所が英原発建設計画を「凍結」
18日 毎月勤労統計の不正を受け、2019年度予算案の修正を閣議決定
2月12日 日産自動車、有価証券報告書に記載していなかった前会長カルロス・ゴーン被告の92億円の役員報酬を計上
19日 ホンダ、英国の乗用車工場を閉鎖すると発表。2021年中に生産を終了
3月6日 みずほフィナンシャルグループ(FG)、約6800億円の損失を計上発表
6日 日産自動車の前会長のゴーン被告保釈。同被告は、作業着で変装
15日 日銀、金融政策決定会合で輸出と生産に関する判断を下方修正
20日 政府は3月の月例経済報告で「このところ輸出や生産の一部に弱さもみられる」との文言を追加し、景気判断を下方修正
2019年3月30日
雇用や給与、労働時間の変動を調べる毎月勤労統計をめぐり、2種類の不正処理が相次いで発覚しました。
一つは、2004年以降、東京都の大企業(従業員500人以上)の調査を、本来の全数調査から抽出調査に切り替えたことです。賃金の高い大企業の標本数が3分の1に減らされた結果、給与額が実態より低く出ました。
厚生労働省は1月11日、こうした不正処理の影響を公表。同統計の給与額に基づいて決まる雇用保険や労災保険の給付が約537億円も過少になり、1973万人に被害が及んでいたことが判明しました。厚労省は3月以降、順次、追加給付を行うとしています。
もう一つの不正処理は、安倍晋三政権下の18年1月、厚労省が小企業労働者の標本数を減らすなどの変更を行った際、過去にさかのぼった数値の補正(遡及〈そきゅう〉改訂)を中止したことです。調査対象が別物となり、統計の連続性が失われました。比較にならない17年と18年の数値を比べた結果、18年の賃金上昇率が実態より過大に出ました。
18年1月には、従業員30〜499人の企業の標本入れ替え方式が変更されました。従業員499人以下の企業は抽出調査とされ、倒産などで標本が脱落して実態から離れていくため、一定期間後に標本を入れ替えるのです。その方式を総入れ替えから部分入れ替えに変えました。入れ替えで生じる数値の段差を減らし、遡及改訂を中止する目的でした。
同時に、以下のような標本の変更も行いました。(1)不正に減らされていた東京の大企業の標本数をひそかに3倍に復元した(2)経済実態調査を反映して賃金の低い小企業労働者の標本数を減らした(3)賃金の低い日雇い労働者を調査対象から除いた。
これらの影響で、名目賃金は0・8%かさ上げされました。標本を変更したのなら、過去にさかのぼって補正しなければ、統計がつながらなくなります。ところが、厚労省は、遡及改訂を一切行わずに、17年と18年の数値を比べ、異常に高い賃金上昇率を公表しました。
2月12日、日本共産党の志位和夫委員長は衆院予算委員会で、実態に近い「共通事業所の比較」をすれば、18年の実質賃金は17年比マイナス0・5%になると指摘。「『所得環境は着実に改善している』という(首相の)主張に真っ向から反する」と述べ、消費税増税中止を迫りました。
安倍政権・官邸の関与で毎月勤労統計の遡及改訂が中止された疑惑が浮上しています。
15年1月に標本入れ替えと遡及改訂が行われ、過去にさかのぼって賃金データが下方修正されました。データ公表直前の15年3月31日、厚労省は中江元哉首相秘書官(当時)に事情を説明。中江氏は厚労省に「改善の可能性を考えるべきではないかとの問題意識を伝えた」(19年2月15日、衆院予算委員会で答弁)といいます。
厚労省はその2カ月後に突然、毎月勤労統計「改善」の検討会を開始。賃金が「過去の3年間にさかのぼって変わってしまったため」に「毎月勤労統計ショックだとか、いろいろな言葉で大変騒がれた」と、開会の理由を説明していました。
(1)毎月勤労統計の不正処理で雇用保険などの給付が過少になっていたことが発覚
(2)安倍政権下でも不正処理が行われ、18年の賃金上昇率が過大だったことが発覚
(3)安倍政権・官邸の関与で過去にさかのぼった数値補正を中止した疑いが強まる
2019年6月18日
米国と中国の貿易摩擦の長期化、英国の欧州連合(EU)離脱の混迷が、世界経済の先行きをますます不透明にしており、国際機関も軒並み、経済予測を下方修正しています。
連邦準備制度理事会(FRB)は5月1日、政策金利の据え置きを決めました。
FRBは2015年末以降、計9回の利上げを行ってきました。しかし、景気減速への警戒を強め、3月20日には、年内は利上げを行わないとの見通しを示していました。
パウエルFRB議長は4日、貿易摩擦が長期化する恐れを指摘。景気悪化につながれば「適切に行動する」と述べ、利下げを含む金融緩和策を講じる考えを示唆しました。
FRBが5日発表した全国12地区の連銀景況報告は、米国景気は「控えめなペースで拡大した」とし、4月の前回報告に比べ判断をやや引き上げました。ただ、一部で製造業が鈍化するなど減速の兆しも指摘しました。
他方、米中貿易摩擦の激化を背景に、企業が慎重姿勢を強めており、先行きの不確実性が広がっているとの見方も示しました。
3月29日に予定されていた英国のEU離脱は、10月末へ延期されたものの、英国経済には急ブレーキがかかっています。国民統計局が10日発表した4月の国内総生産(GDP)は前月比0・4%減、3月(0・1%減)に続くマイナスとなりました。
欧州中央銀行(ECB)は6日、政策金利を据え置きました。その上で、金利据え置きの期間を20年上半期まで延長する方針を決めました。
ECBは3月、19年中の利上げを断念する決定を下したばかり。しかし、米中貿易摩擦の激化や英国のEU離脱の混迷など、世界的に景気の先行き不透明感が増す中で、利上げ時期をさらに先送りしました。
ユーロ圏の消費者物価指数は4月、ECBが目標としている「2%弱」を6カ月連続で下回りました。ユーロ圏経済は昨年後半から回復の勢いが鈍化しています。
国際通貨基金(IMF)は5日、米中貿易摩擦が相互に全品目に追加関税を発動する事態に発展すれば、20年の世界のGDPが0・5%(4550億ドル=約49兆円)落ち込むとの試算を示しました。
IMFは5月23日にも、米中貿易摩擦が全面対決になれば、世界の経済成長率が短期的に0・3%程度下振れするとの試算を公表しています。輸入品物価が上昇し、低所得者層がしわ寄せを受けるとの懸念を示しました。
IMFは4月9日、世界経済見通しを改定し、19年の成長率予想を3・3%と、1月時点から0・2ポイント下方修正しました。世界銀行(世銀)も4日、19年の世界成長率見通しを2・6%と、1月時点から0・3ポイント引き下げました。(つづく)
(1)米FRBは政策金利据え置き。景気減速を警戒し、利下げ含む緩和の構え示唆
(2)EU離脱混迷で、英経済に急ブレーキ。欧州中銀は利上げ時期をさらに先送り
(3)世界経済の先行きさらに不透明に。国際機関も軒並みに成長率予想を下方修正
4/9 IMFが19年世界成長率予想を3.3%へ0.2ポイント下方修正
15〜16 日米貿易交渉閣僚初会合
17 中国1〜3月GDP発表。前年同期比6.4%増。前期と同じ
5/1 米FRBが金利据え置き
10 米国が対中国追加関税第3弾10%を25%へ引き上げ
13 米国が対中追加関税第4弾公表
15 米大統領令、安全保障に影響する外国通信機器の使用禁止
23 OECDが19年世界成長率予想を3.3%へ0.2ポイント下方修正
23 IMF経済見通し。米中摩擦で世界経済成長率0.3%下振れ
6/4 世銀が19年の世界成長見通しを0.3ポイント引き下げ
5 IMF試算、米中全面対決で20年世界GDP49兆円落ち込み
13 日米貿易交渉閣僚会合
2019年6月19日
米中両国による閣僚級貿易協議は5月9〜10日の会合で暗礁に乗り上げ、トランプ政権は10日、対中追加関税の引き上げを実施しました。米中摩擦は解決の糸口が見えません。
5月の追加引き上げは「第3弾」の全面実施です。米国は中国による知的財産権侵害を理由に昨年9月、中国からの輸入品約5700品目、2000億ドル(約22兆円)相当に10%の追加関税を課しました。協議が不調の場合、25%に引き上げるとしていました。5月の協議で中国が合意事項を覆したと非難し、全面実施に踏み切りました。
中国政府は米中貿易協議に関する白書を発表して全面的に反論。対抗措置として6月1日、米国からの輸入品600億ドル相当に対する追加関税を最大25%に引き上げました。
さらにトランプ政権は6月末以降、約3800品目、3000億ドル相当の中国製品に最大25%の追加関税を課す「第4弾」を計画しています。第1弾からすべて合わせると、中国からの輸入品の95%に追加関税を課すことになります。28〜29日、大阪市で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議で習近平国家主席との米中首脳会談が行われるかどうかが注目されています。
米政府は華為技術(ファーウェイ)をはじめ中国IT(情報技術)企業の排除を強めています。ファーウェイのスマートフォン出荷台数は昨年、世界第3位。次世代通信規格「5G」をめぐる米中の主導権争いが背景にあります。
トランプ大統領は5月15日、「国家安全保障に深刻な脅威をもたらす」外国企業の通信機器の使用を禁じる大統領令に署名しました。中国製IT機器を通じて米国の機密情報が中国政府に渡る恐れがあるとして、中国企業の締め出しを狙っています。インテルなど米企業によるファーウェイとの取引停止が広がり、日本でも同社製スマホの発売延期など追従の動きが出ています。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、米国の輸入に占める対中追加関税「第4弾」の対象品目の割合は玩具・スポーツ用品、縫製品、履物・帽子の90〜100%にのぼります。米国内の販売価格上昇によって小売業や消費者に悪影響を及ぼす恐れがあります。
米アパレル・フットウエア協会が5月に「米国経済を破滅させる自傷行為だ」と「第4弾」を非難。大手靴メーカー・小売企業172社が履物を対象から外すようトランプ大統領に公開書簡を出しました。農業分野でも輸入品値上がりの被害を受けている米国大豆協会(ASA)が「関税引き上げのエスカレートは支持できない」と政権を批判しました。
中国では新車販売台数が5月まで11カ月連続で前年割れ。米中摩擦の影響で落ち込みに歯止めがかかりません。消費の低迷が懸念されています。
(1)米中協議が行き詰まり、米国は追加関税第3弾の引き上げを発動。第4弾も準備
(2)米国は「安全保障上の脅威」を理由にファーウェイを排除。日本で同調の動き
(3)米国内で業界団体から政権批判。中国では自動車販売など消費に悪影響
2019年6月20日
日本経済の景気後退は、いよいよ隠せなくなっています。
内閣府が7日発表した4月の景気動向指数は、景気の基調判断を2カ月連続で「悪化」としました。2カ月連続で「悪化」は、2012年11月以来6年5カ月ぶりです。政府の景気判断を示す月例経済報告は5月、「輸出や生産の弱さが続いている」と判断を下方修正しました。18日発表された6月の同報告も5月の判断を据え置きました。内閣府の景気動向指数研究会のメンバーでもある小峰隆夫大正大学教授は、5月29日に開催された「日経」の景気討論会で「現在は景気後退局面」と言明しました。
内閣府が10日発表した1〜3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0・6%増。この成長ペースが1年続いた場合の年率換算は2・2%増となりました。しかし、内需が弱いため、輸入が4・6%減少。輸出から輸入を引いた外需がプラスとなり、全体を押し上げる結果となりました。GDPの過半を占める個人消費は0・1%減っています。
財務省が3日発表した1〜3月期の法人企業統計調査によると、金融・保険業を含む資本金10億円以上の大企業の内部留保は449兆9000億円でした。前年同期から26兆4000億円増えました。史上最高です。大企業は、アベノミクスの「恩恵」を受け、第2次安倍晋三政権成立以前の12年1〜3月期と比べると、1・42倍の急増です。
金融機関を除く全産業(全規模)の経常利益は、前年同期比10・3%増の22兆2440億円でした。1〜3月期として過去最高で、プラスは18年7〜9月期以来、2期ぶりでした。
一方、製造業は、米中貿易摩擦の影響を免れず、経常利益が6・3%のマイナス。中国向けのスマートフォン用電子部品の生産などが落ち込みました。
昨年11月、安倍政権は「消費税増税前の値上げは『便乗値上げ』とみなさない」と明記したガイドライン文書を発表。便乗値上げをあおるガイドラインを受け、今春、食料品を中心に値上げが相次いでいます。冷凍食品が約2〜13%、ミネラルウオーターが約8・7〜9・6%、牛乳が約1・5〜7%、アイスクリームが約8・5%、カップ麺が約4〜8%値上がりしています。外食ではコーヒーやカレーなども値上がりしています。
生活関連品の価格上昇は、消費者心理を直撃。5月の消費動向調査では、消費者心理の明るさを示す消費者態度指数(2人以上の世帯、季節調整値)は前月比1・0ポイント低下の39・4となり、8カ月連続で悪化しました。
安倍政権による消費税の増税強行が10月に迫っているにもかかわらず、駆け込み需要すら起こっていないほど消費者心理は冷え込んでいます。
(1)1〜3月期GDP改定値が年2・2%増加。輸入減少が理由。個人消費減少
(2)大企業の内部留保過去最高の449・9兆円。前年同期から26・4兆円増
(3)消費税増税前に食料品の値上げ相次ぐ。消費者態度指数は8カ月連続悪化
4/1 日銀短観6年ぶりの下げ幅。大企業製造業が前回比7ポイント低下
8 IHI航空機エンジン部品製造で7138件の不正検査と発表
5/8 トヨタ自動車2019年3月期連結決算で売上高が30兆2256億円
13 景気動向指数の基調判断6年2カ月ぶり悪化
31 5月の消費動向調査で消費者態度指数8カ月連続悪化
6/3 2019年1〜3月期の大企業の内部留保450兆円
7 景気動向指数の基調判断2カ月連続で「悪化」
7 毎月勤労統計調査、賃金が実質・名目とも4カ月連続減
8 G20財務相・中央銀行総裁会議
10 1〜3月期GDP改定値発表。年率2.2%増加
11 骨太の方針原案発表
2019年6月21日
1989年に消費税が導入されて4月で30年になりました。導入当初、3%だった税率は97年4月に5%、2014年4月に8%へと引き上げられてきました。そしていま、政府・与党は10月に強行を狙う10%への消費税率引き上げに向け、急ピッチで準備をすすめています。
自民党は4月23日、党所属の全議員あてに「消費税でくらしが変わります 万全の対策で景気をささえます」との文書をメールで送りました。文書は「消費税でくらしが変わります」として、教育無償化、保育の受け皿整備、給付型奨学金の支給の拡充、低所得の高齢者に給付金支給などを羅列し、増税を「ばら色」に描くもの。議員あてメールには「大型連休中に地元などでのご説明にご活用ください」としています。
6月7日には参院選公約を発表し、「10月に消費税率を10%に引き上げます」と明記しました。
政府も「骨太の方針」で10月に「消費税率の8%から10%への引き上げを予定している」と明記しました。19年度当初予算に「十二分な規模の措置を盛り込んだ」と誇示しています。
一方で現在の経済状況のもとで消費税率を上げてもいいのかという批判の声は根強くあります。5月21日には、岩田規久男前日銀副総裁や藤井聡京大教授(元内閣官房参与)ら有識者が消費税増税の景気悪化リスクを指摘する意見集をまとめました。同日、藤井教授が首相官邸に提出しました。岩田氏は、個人消費は14年4月の消費税増税以降、低迷していると指摘。政府が予定通り10月に消費税率を上げると「デフレ脱却は不可能になる」と強調しています。
国民世論も増税反対が多数です。6月9日付「東京」に掲載された世論調査では10月に10%へ消費税率を引き上げることについて賛成が37・7%にとどまったのに対し、反対は59・7%でした。18日付「産経」の世論調査でも反対は53・1%、賛成は41・6%でした。
政権中枢でも消費税増税への動揺が広がります。安倍晋三首相の側近とされる萩生田光一幹事長代行は、4月18日に消費税増税について「崖に向かってみんなを連れていくわけにはいかないので、そこはまた違う展開はある」と述べ、増税延期の可能性を示唆しました。
日本共産党は5月22日、参院選政策の第1弾として「消費税増税の中止 くらしに希望を―三つの提案 家計を応援し、貧困と格差をただし、明日に希望が持てる政治を」を発表しました。
安倍政権が消費税増税による増収分を財源に充てるとした施策のうち幼児・保育無償化、高等教育の負担軽減、低年金底上げなど、社会保障や教育・子育てに関するものを、さらに充実した形で実現する提案です。しかも、必要な財源7・5兆円は大企業や富裕層に応分の負担を求めることや思いやり予算の廃止など無駄遣いの是正によって、消費税に頼らずに確保します。
三つの提案は1%の富裕層や大企業のための政治ではなく、99%の国民のための政治を実現する政策です。参院選で、市民と野党の共闘が勝利し、日本共産党が躍進することで、「安倍政治サヨナラ」の審判をくだし、消費税増税を葬り去るとともに、希望ある新しい政治の扉を開くことが求められています。
(おわり)
(1)自民党公約や政府「骨太の方針」に10%への増税明記。急ピッチで準備進む
(2)有識者や国民多数から「増税反対」の声大きく。政権中枢にも動揺が広がる
(3)日本共産党が増税中止と「三つの提案」を発表、参院選で増税ノーの審判を
2019年10月1日
米中貿易摩擦が激化しています。米国が昨年7月に対中追加関税の第1弾を発動してから1年以上が過ぎ、世界経済への影響が懸念されています。
国際通貨基金(IMF)は7月、世界経済見通しを改定し、2019年の成長率予想を3・2%と、4月時点から0・1ポイント引き下げました。米中摩擦の激化などによって「景気の下振れリスクが強まっている」と警告しました。
IMFは9月12日には、20年の世界全体の国内総生産(GDP)が0・8%押し下げられる可能性があると試算しました。米中摩擦が解消されなければ21年以降も成長抑制が続くと懸念を示しました。
経済協力開発機構(OECD)も19日発表した経済見通しで、19年と20年の世界経済の成長率を前回5月時点の予測から引き下げました。
「中国が米国の雇用と富を奪っている」とするトランプ米大統領は強圧的姿勢を貫き、これまでに4弾の追加関税を発動しました。中国から譲歩を引き出そうと、あせりも見られます。中国は関税の上乗せや米国産農産物の輸入一時停止で対抗する一方、決定的な対決は避けようと、米国の出方を見つつ対応しています。10月には両国の閣僚級協議が再開される見通しです。
7月30〜31日に閣僚級協議が進展なく終わった直後の8月5日、米国は中国を「為替操作国」に認定しました。中国が輸出に有利になるよう通貨、人民元の為替相場を元安に誘導していると非難し、制裁の対象にしました。中国は翌6日、米国産農産物の輸入停止を発表して報復しました。
9月1日には、米政府が対中追加関税の第4弾を発動。対象を中国からの輸入品ほぼすべてへ広げました。まず3243品目、約1120億ドル(約12兆円)相当に15%を上乗せし、残りは12月15日に実施します。これに対して、中国は米国からの輸入品約750億ドル相当に9月から最大10%の追加関税を課しました。
米国は、すでに実施してきた第1〜3弾の追加関税も現行25%から30%へ引き上げます。当初10月1日に発動する予定でしたが、トランプ大統領は9月11日、発動を10月15日に延期すると発表しました。これを受けて、中国は、停止していた米国産農産物の輸入を再開。10月10日に閣僚級協議が行われる見込みとなりました。
中国経済は、ここ数年の減速傾向に加え、米国との貿易摩擦で落ち込みを深めています。今年4〜6月期の実質GDPは前年同期比6・2%増。四半期ごとの数字を公表している1992年以降、最低です。8月の鉱工業生産は前年同月比4・4%増。17年半ぶりの低い伸びでした。製造業の不振が深刻化してきました。
米国でも減速が懸念されています。第4弾の発動を前に、米アパレル・フットウエア協会は「最終的に米国の消費者に打撃を与える」として全面撤廃を求めました。全米小売業協会も「米国の家庭は負担増を強いられ、米経済は減速する」と警告しました。
米連邦準備制度理事会(FRB)が9月4日発表した地区連銀景況報告は、米国経済が拡大を続けているとする一方、製造業と農業に貿易摩擦の影響が表れていると指摘しました。
(1)IMF、OECDが世界の成長見通しを引き下げ。米中貿易摩擦が影響
(2)米国は対中追加関税第4弾を発動。第1〜3弾分も10月に追加引き上げ
(3)閣僚級協議に向けて駆け引き。中国の成長率は四半期ベースで最低に落ち込み
7/15 中国の4〜6月期実質GDP前年比6.2%増。四半期で最低
30〜31 上海で米中閣僚級貿易協議
31 米FRBが10年半ぶりに利下げ
8/5 米国が中国を為替操作国に認定
9 英国の4〜6月期実質GDPが6年半ぶりマイナス成長
14 ドイツの4〜6月期実質GDPが前期比0.1%減
24〜26 仏ビアリッツでG7サミット。首脳宣言を断念
9/1 米国が対中追加関税第4弾を発動。中国は対抗措置
11 米大統領が対中追加関税第1〜3弾の引き上げを2週間延期
12 欧州中銀が3年半ぶりに利下げ
14 サウジの石油施設に攻撃
18 中国の8月の鉱工業生産が17年半ぶりの低い伸び
18 米FRBが追加利下げ
2019年10月3日
米中貿易摩擦、英国の欧州連合(EU)離脱、中東情勢の緊張など、世界経済の先行きに不透明感が強まっています。これに対処して、米国、欧州をはじめ、各国が金融緩和に転じています。国際機関は、世界の成長率予測を立て続けに下方修正するとともに、利下げと通貨安の競争を警戒しています。
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月18日、政策金利を0・25%引き下げ、年1・75〜2・00%としました。米中貿易摩擦や世界経済の減速を受けて不透明感が強まっていると判断。リーマン・ショック後の2008年12月以来10年7カ月ぶりとなった7月31日に続き、利下げに踏み切りました。
パウエルFRB議長は記者会見で「リスクに対する保険を掛ける措置」と説明。予防的な利下げとして小幅な金融緩和にとどめたとしました。「景気後退は予想していない」としつつ、「景気が悪化すればより積極的な利下げが適切」と今後に含みを持たせました。
FRBの7月の利下げ後、新興国や途上国など10を超える国・地域が利下げしました。世界的な金融緩和傾向が強まる中、各国は利下げに動かなければ自国通貨高を招きかねず、世界的な通貨安競争に拍車が掛かる恐れが出てきました。
欧州中央銀行(ECB)は9月12日、利下げや量的緩和の再開を含む包括的な追加金融緩和策の導入を決めました。利下げは16年3月以来3年半ぶり。米中貿易摩擦の激化など世界的な景気減速懸念が強まる中、10年7カ月ぶりに利下げした米FRBに続きました。
米中貿易摩擦の長期化や英国のEU離脱をめぐる不透明感が世界経済の先行きに暗い影を落とす中、ユーロ圏の景気と物価は既に失速気味です。金融緩和による景気てこ入れが避けられないと判断しました。
欧州最大の経済大国ドイツの4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比0・1%減。英国も0・2%減と落ち込みました。ユーロ圏全体でも0・2%増にとどまりました。
国際通貨基金(IMF)は8月21日、米中貿易摩擦を念頭に、為替操作で貿易不均衡は解決しないとの見解を示しました。自国通貨安の誘導や高関税は、貿易不均衡の是正効果が限られる一方、「国際金融システムの秩序に悪影響を及ぼす」と警告し、通貨安競争の回避を促しました。
この中で、各国が景気下支えのために利下げし、輸出競争力を高める通貨安を誘導しているとの懸念があると指摘しました。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が7月30日公表した世界貿易投資報告によると、18年の世界貿易(輸出額)の合計は、前年比9・7%増の19兆243億ドルでした。金額は過去最高でしたが、米中の追加関税応酬などを背景に、世界経済が減速。伸び率は前年(10・7%増)から鈍化しました。
一方、19年1〜3月期の輸出額を入手可能な主要33カ国・地域の合計でみると、前年同期比2・6%減。ジェトロは、19年は世界全体で輸出の減少傾向が続くとの見方を示しました。(つづく)
(1)米国が10年7カ月ぶり利下げ。各国・地域も追随。利下げ・通貨安競争の懸念
(2)欧州中銀も3年半ぶり利下げ。独・英がマイナス成長。欧州景気に急ブレーキ
(3)IMFは各国が景気下支えの利下げと、輸出競争力のため通貨安を誘導と懸念
2019年10月4日
政府は9月の月例経済報告で、景気全体の判断を「輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している」に据え置きました。しかし実際は、消費が長期にわたって低迷する中、海外要因で輸出も不振に陥っています。
8月の消費動向調査によると、消費者心理を示す消費者態度指数は37・1でした。消費税率を8%に引き上げた2014年4月以来5年4カ月ぶりの低水準。悪化は11カ月連続です。
消費低迷の最大の要因は、賃金が上がらないことにあります。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、7月の実質賃金は前年同月比マイナス1・7%でした。マイナスは7カ月連続です。
大企業はもうけを賃金に回さず、利益をため込んでいます。大企業の内部留保は449兆1420億円と過去最高を更新しました。
6月の日銀短観では、企業の景況感が2四半期連続で悪化しました。景況感を示す業況判断指数(DI)は、中小企業製造業が7ポイント下落のマイナス1。大企業製造業は5ポイント低下のプラス7と2016年9月以来、2年9カ月ぶりの低水準でした。米中貿易摩擦などによる輸出の低迷が重荷となっています。
19年上半期(1〜6月)の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は8888億円の赤字でした。8月の貿易収支も2カ月連続の赤字となっています。
安倍晋三政権は「徴用工」問題をめぐって、輸出管理を簡素化する優遇対象国から韓国を除外しました。規制強化が日韓関係の悪化に拍車をかけています。
10月末には英国が欧州連合(EU)から離脱する可能性が高まっています。ジョンソン英首相が「合意なき離脱」に踏み切れば、世界経済に大混乱をもたらす恐れがあります。
地域経済の疲弊や日銀の低金利政策で、地域金融機関の経営環境は厳しさを増しています。金融庁の19年度金融行政方針によると、5年度以上赤字が続く銀行は、17年度の23行から18年度は27行に増加しています。金融庁は行政方針で、地銀の再編を促す規制緩和を打ち出しました。しかしいずれも、地銀の苦境に対応するものではありません。
安倍晋三首相とトランプ米大統領は、国連総会に合わせて行った首脳会談で、貿易協定とデジタル貿易協定の「最終合意」を確認し、共同声明に署名しました。トランプ氏が「米国の農家、牧場主らにとって巨大な勝利だ」と述べたように、日本側が一方的に譲歩するものとなりました。
日米共同声明は、「他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の課題について交渉を開始する」としました。両政府は今後、日本の経済主権を脅かす、包括的な日米自由貿易協定(FTA)交渉を進めようとしています。
(1)長引く消費低迷に、米中貿易摩擦や対韓貿易規制で輸出入減が追い打ち
(2)低金利政策で地銀疲弊。金融庁が地銀再編促す規制緩和を打ち出す
(3)日米貿易協定を「最終合意」。農畜産物などで日本が一方的に譲歩
7/1 日銀短観で企業の景況感が2期連続の悪化
18 貿易統計で2019年上半期の貿易収支が8888億円の赤字
8/1 就活生の内定辞退率、リクルートキャリアが販売と公表
2 日本政府が輸出管理をめぐる優遇対象国から韓国を除外
6 農水省が18年度の食料自給率を過去最低の37%と発表
28 トヨタとスズキが資本提携
28 金融庁が19年度金融行政方針を公表
9/2 18年度法人企業統計で内部留保が過去最高の449兆円に
9 4〜6月期GDP改定値を年率1.3%増へ下方修正
18 8月の貿易収支は2カ月連続の赤字
25 日米両国が貿易協定に最終合意
2019年10月5日
インターネット上の事業を通じて企業が蓄積する個人情報の不適切な取り扱いが大問題になっています。
就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア社(東京)は8月1日、就職活動中の学生が内定を辞退する可能性(内定辞退率)を人工知能(AI)で予測し、そのデータを38社(後日34社に訂正)に販売していたと発表しました。リクナビ上での学生の閲覧・行動履歴などを使って内定辞退率を算出していました。
学生への具体的な説明がないまま根拠不明の内定辞退率が募集企業側に提供され、採用試験の合否判定に影響を及ぼした可能性が浮かび上がりました。
学生らは「就活妨害」「人生を狂わせる」と猛反発。同社は同月4日、またたく間にサービス廃止へ追い込まれました。政府の個人情報保護委員会は26日、同社に是正を求める勧告と指導を行いました。
続いて厚生労働省も9月6日、同社に行政指導を行いました。内定辞退率の販売は職業安定法に違反すると指摘し、業務体制を改善し再発防止策を講じるよう求めました。
こうした中、データの市場を独占的に支配する巨大企業への規制が焦点になりつつあります。公正取引委員会は8月29日、個人情報を収集・利用して膨大な利益をあげる巨大IT企業を、独占禁止法で規制するための指針案を発表しました。個人情報には経済的価値があると認め、利用者の意に反して個人情報を収集・利用すれば独禁法が禁止する「優越的地位の乱用」と認定するものです。
指針案の適用対象は、商取引や情報発信の基盤を提供する対価として利用者から個人情報を取得する事業者(プラットフォーマー)としました。利用者がサービス利用のために不利益を受け入れざるを得ない場合はプラットフォーマーが優越的地位にあると認定することとし、優越的地位の乱用について4類型をあげました。
(1)利用目的を知らせずに個人情報を取得する(2)利用目的の範囲を超えて消費者の意に反して個人情報を取得・利用する(3)適切な安全管理措置を講じずに個人情報を取得・利用する(4)サービスの対価以上に個人情報を提供させる―場合です。
公取委は意見を公募した後で指針を定め、施行する方針です。
グーグルやフェイスブックといった巨大IT企業の本拠地である米国でも、規制の動きが強まっています。
米司法省は7月23日、IT大手が反トラスト法(独占禁止法)に違反していないか調査に乗り出すと発表しました。調査分野として検索やソーシャルメディア、ネット通販をあげ、IT大手がどのように支配的な地位を獲得したのかなどを調べると説明しました。
また、米48州と首都ワシントン、自治領プエルトリコの司法長官はグーグルが反トラスト法(独占禁止法)に違反している疑いがあるとして調査に乗り出しています。調査を主導するテキサス州のパクストン司法長官が9月9日に明らかにしました。(おわり)
(1)リクルートキャリア社が学生の内定辞退率を推測して販売していたことが判明
(2)個人情報を収集するIT大手を規制するための指針案を公正取引委員会が発表
(3)IT大手が反トラスト法に違反している疑いで米司法省などが調査に乗り出す
2019年12月17日
米中両国が13日、貿易協議の「第1段階」で合意したと発表しました。しかし、世界経済の最大の下押し要因となっている米中貿易摩擦の解決にほど遠い内容です。
米国は2018年7月以来、中国からの輸入品に第1弾から第4弾の追加関税を実施してきました。今回の合意では、このうち今年9月1日に発動された第4弾の追加関税を引き下げます。テレビや衣料品など1200億ドル分(約13兆円)に15%の追加関税を課していますが、7・5%に引き下げます。
今月15日に予定していた第4弾のさらなる追加関税の発動は延期しました。スマートフォンや玩具など1600億ドル分に15%の追加関税を課すことになっていました。中国からのほぼ全輸入品に追加関税がかけられる事態になるところでした。
ただ、第1弾から第3弾の追加関税(約2500億ドル分に25%)は現行のままです。
中国は米国産農産品の輸入を拡大します。米側は、中国が今後、年400億〜500億ドルの米国産農産品を輸入することになったと説明しています。貿易摩擦が激化する前の2倍の水準です。トランプ大統領はテレビの取材に「農家のみなさん、今よりずっと大きいトラクターを買ってください」と、合意が生産拡大につながることを宣伝しました。
しかし、中国政府は輸入の数値目標を示しておらず、両国の説明は隔たっています。今後の展開しだいで、トランプ政権が再び追加関税を発動する可能性もあります。
合意文書への署名は20年1月とされ、文書は発表されていません。もともと「部分合意」したと発表されたのは10月11日。3〜5週間以内に協定文を作成して両国が署名することになっていました。それから今回の合意発表まで2カ月以上。文書化はさらに先になりました。合意内容を詰めるより合意の発表を急ぐところに、来年の大統領選挙に向けたトランプ大統領のあせりがあらわれています。
13日に記者会見した中国商務省の王受文次官によると、合意文は知的財産権、技術移転、農産品、金融サービスなど9章から成ります。
ただ、米国が中国に対策を求めてきた、進出企業に対する技術移転の強制や知的財産権の保護について、合意にどう盛り込まれるかは現時点で不明です。
米国は、中国政府が自国の国有企業に補助金を支出してハイテク産業を育成していることを問題視していますが、次の段階の交渉へ先送りされたもようです。
ライトハイザー通商代表は米メディアのインタビューで、「第2段階」の交渉日程は未定だと述べています。
国際通貨基金(IMF)は10月の世界経済見通しで、米中貿易摩擦を懸念し、19年の世界成長率予測を3・0%に下方修正しました。リーマン・ショック後の09年以来の低水準です。米中摩擦の解決は今回の合意ではまだ見通せません。
(1)米中貿易交渉が「第1段階」の合意。米が関税一部引き下げ。中国は農産物購入
(2)米政権は成果を強調するが追加関税第1〜3弾は継続。中国は輸入数値を示さず
(3)中国政府の産業補助金など米国が問題視する主要事項は「第2段階」へ先送り
10/9 OECD、「デジタル課税」原案を発表
15 IMF、世界の成長率予想を7月時点から0.2ポイント下方修正
18 7〜9月期中国GDP発表。4〜6月期から0.2ポイント低下
18 米、対EU報復関税を発動
30 7〜9月期米GDP発表。4〜6期から減速
11/7 IMF専務理事、世界の債務が188兆ドルで過去最高と公表
8 OECD、多国籍企業による税逃れの防衛策を正式発表
12/10 WTO上級委員会の2委員の任期切れ。上級委が機能を停止
11 米FRBが金利を据え置き
12 英総選挙で保守党が単独過半数獲得。英国のEU離脱が確実に
13 米中が貿易協議の「第1段階」で正式合意と発表
2019年12月18日
12日の英総選挙で保守党が単独過半数を獲得し、2020年1月31日の欧州連合(EU)離脱が決定的になりました。金融市場では離脱をめぐる不透明感が薄れたとして通貨ポンドや株価が上昇しました。しかし、EUとの将来の関係、市場縮小への対応など英、EU双方に難題が待ち受けています。
英国はEU単一市場の一員です。域内では人、物、サービス、資本の移動は基本的に自由。関税もかかりません。EUから離脱した後、混乱を招かないためには貿易をはじめ経済や国境管理から安全保障に至るまでEUとの関係を定める「将来関係に関する協定」を新たに結ぶ必要があります。
協定の正式な交渉は来年1月の離脱後に開始されることになっています。離脱後も現状を維持できる「移行期間」は20年末まで。1回だけ最大1〜2年の延長が可能ですが、ジョンソン英首相は移行期間の延長を申請しないと宣言しています。膨大な協定を11カ月で締結、批准し発効させなければなりません。
EUと協定を結べなかった場合、EU加盟国からの輸入に関税がかかる可能性があります。英国との出入国に関する協定がなければEUとの人の移動に支障が生じます。これまでに個人や法人が英国で取得した免許がEU域内で無効になる恐れもあります。「合意なき離脱」といわれる状況と同じ事態です。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が9〜10月に実施した日系企業へのアンケート調査によると、在英製造業では70・8%が「英国のEU離脱問題でこれまでにマイナスの影響があった」、68・8%が「今後の事業にマイナスの影響がある」と答えました。具体的には「通関、物流の混乱」「関税」「通関手続きの発生」などがあがりました。英国から欧州大陸へ移転した企業は、統括拠点13社、販売拠点7社、生産拠点2社となっています。
ドイツに次ぐ欧州第2の経済大国である英国がEUから離脱することでEUの市場規模が縮小することも懸念されています。
欧州では大手IT(情報技術)企業を対象にしたデジタル課税の取り組みが進んでいます。フランスが3%(売上高)の「デジタルサービス税」を導入したことに対し、米通商代表部は12月2日、制裁関税を検討すると表明しました。フランスからの輸入品24億ドル(約2600億円)相当に最大100%の高率関税を課すとしています。米国のIT大手企業が課税対象となることへのトランプ政権の報復です。フランス政府は米国が実施するなら報復を辞さないとしつつ、紛争の回避を米側に求めました。
イタリアなどもデジタル課税を検討しています。経済協力開発機構(OECD)はデジタル課税の多国間共通ルールの原案を公表しました。20年1月の合意をめざしています。
(1)英総選挙で保守党が単独過半数を獲得し20年1月31日のEU離脱が確定
(2)1年以内にEUと協定を結ぶ難題。英からの企業移転、単一市場縮小などに懸念
(3)デジタル課税を導入したフランスにトランプ政権が高率関税で報復を宣言
2019年12月19日
安倍晋三政権は10月1日、消費税率10%への大増税を強行しました。10月の経済指標からは、前回の増税時(2014年4月)以上の影響が明らかとなっています。西村康稔経済再生担当相は12月10日の記者会見で、10月以降の消費関連の統計について「前回ほどの大きな反動減はない」と述べましたが、日本経済の深刻な落ち込みは覆い隠せるものではありません。
内閣府の景気動向指数(15年=100)は、景気の現状を示す一致指数が前月比5・6ポイント低下の94・8でした。14年4月の同4・8ポイント低下、100・8を上回る下げ幅でした。
内閣府の10月の景気ウオッチャー調査によると、景気の現状判断指数は前月比10・0ポイント低下の36・7。14年4月の38・4を下回りました。
総務省の10月の家計調査によると、消費支出は前年同月比で実質5・1%減少し、328万円。下げ幅は、14年4月の4・6%減を上回りました。
商業動態統計(経済産業省)によると、10月の小売業販売額は前年同月比で7・1%減少。日本百貨店協会によると、百貨店の売上高は同17・5%減でした。それぞれ、4・3%減と12・0%減の14年4月時を上回るマイナス幅でした。
日銀の12月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感は4四半期連続で悪化しました。大企業製造業の業況判断指数(DI)が前回9月調査のプラス5から5ポイント低下。第2次安倍政権発足後の13年3月以来の低水準となりました。
消費不況に中国など海外の景気低迷による輸出不振が重なり、日本経済の重しとなっています。
財務省の貿易統計速報(通関ベース)によると、19年度上半期(4〜9月)の貿易収支は8480億円の赤字でした。赤字は2期連続。前年同期から輸出が5・3%と輸入が2・6%、それぞれ減少しました。
11月の貿易収支は、821億円の赤字でした。赤字は2カ月ぶり。輸出額は前年同月比7・9%減、輸入額は同15・7%減と、輸出入とも大幅に落ち込みました。
消費が低迷し、輸出が減る中、消費税増税を強行したことで、日本経済は落ち込みの悪循環に陥りつつあります。
消費税は30年前に導入されてから、大企業・富裕層減税の穴埋めに使われてきました。財務省の法人企業統計調査によると、大企業の内部留保は456・1兆円と過去最高を更新しました。一方で、賃金は上がらず、第2次安倍政権発足後、実質賃金は年間18万円も低下しました。貧困と格差が広がり続けています。
景気の好循環をつくり出すには、賃金引き上げや社会保障・教育の拡充などによって国民生活を支援する経済対策が必要です。消費税率を緊急に5%に引き下げることが、その第一歩です。
(1)消費税増税で経済指標が軒並み悪化。2014年の前回増税時以上の落ち込み
(2)米中貿易摩擦が日本にも影響。輸出入減、消費不況に消費税増税で悪循環に
(3)景気好循環つくるためには生活支援の経済対策を。消費税率の5%減税は急務
10/2 関西電力が「原発マネー還流疑惑」で社内調査報告書を公表
10 セブン&アイHDが国内グループで約3000人削減すると発表
21 19年度上半期の貿易収支が8480億円の赤字
30 日立とホンダが自動車部品メーカー4社を経営統合と発表
11/18 ヤフーとLINEが経営統合に合意
20 金融庁が金融審議会で東証を3市場に再編する案を提示
28 パナソニックが半導体事業から撤退発表
12/2 大企業の内部留保が過去最高の456.1兆円に
11 10〜12月の大企業景況判断指数がマイナス6.2
13 12月の日銀短観発表。企業の景況感が4四半期連続悪化
2019年12月20日
安倍晋三政権が10月1日に強行した10%への消費税率の引き上げによって、前回の増税(2014年4月)以降、低迷していた消費の底が抜け、生産活動にも悪影響を及ぼしています。
消費税増税を盛り込んだ19年度政府予算を編成して以降、安倍首相は「前回(8%への増税)の反省を踏まえ、いただいたもの(消費税)を全てお返しする形で対策を行う」と繰り返してきました。十分な対策があるから景気は悪くならないということです。
しかし増税を強行した結果、景気悪化が鮮明になりました。家計の消費支出(年換算)は9月の370・3万円から10月は327・9万円に急落。消費水準は前回増税直後となる14年5月を下回りました。
「対策」を行ったはずの分野でも消費が低迷しています。税を優遇したはずの住宅や自動車も伸びていません。景気動向指数を構成する新設住宅着工床面積は10月にマイナス。普通車・小型車、軽自動車を合わせた新車販売は11月、前年同月を12・7%下回りました。10月の前年同月比24・9%減に続く2カ月連続の前年割れです。住宅や自動車への税制優遇は購入できる人しか恩恵がない、極めて不公平な「対策」です。その分野ですら「対策」が効果を発揮しませんでした。
「対策」の目玉とされてきたのが中小店舗でキャッシュレス(非現金)支払い時に2〜5%のポイントを還元するという制度です。経済産業省は12月1日現在の参加店舗は86万店、1日あたりの平均還元額は12億円に拡大しているとしています。19年度当初予算で確保した関連費用2800億円では不足するとして、補正予算案に追加費用1497億円を盛り込んでいます。
しかし、ポイント還元を利用できる店舗は地域によってばらつきがあります。利用可能店舗が1軒もない自治体は六つあります。86万店のうちには、インターネット上の店舗や個人タクシー、ガソリンスタンドなども含まれており、国民の生活と地域経済を支えてきた地域の実店舗のうち制度が利用可能なのはわずかだとみられます。
さらに制度を利用するためには、クレジットカードやスマートフォンでの支払いが必要となり、そこでも格差が生じ、極めて不公正となります。政府自身の政策が税財政の公正さに疑念をもたらすことになります。
「低所得者対策」を口実に導入された複数税率が現場を混乱させています。小売業者はレジの改修などを迫られました。高知市の幸町スーパーマーケットはレジ改修による設備投資の負担やキャッシュレス決済による資金繰りの悪化で倒産しました。
帝国データバンクのまとめによると、飲食店の倒産は過去最高をうかがう勢いです。複数税率では食料品は8%に据え置かれるものの、外食は10%となります。
政府の政策である複数税率によって、倒産が多発するのであれば、政治の責任は免れません。小手先の「対策」では矛盾を広げるだけです。国民生活と日本経済のために消費税を5%に引き下げることが求められています。
(1)10%への消費税率引き上げによる景気悪化に政府の「対策」は役に立たず
(2)「ポイント還元」は利用可能店舗や利用者が限られる。税の公正さに疑念
(3)複数税率の導入による倒産も発生。政策が原因の倒産は政治の責任に直結