【2020年 回顧】

 

t  核兵器禁止条約 批准50超、来年1月発効

t  南シナ海 緊張続くも認識に変化

t  米大統領選 高投票率 バイデン氏勝利

t  米議会選 民主党進歩派が勢力増

t  ベラルーシ 公正選挙求め運動続く

t  香港 国安法施行 弾圧強まる

t  フランス 政権に国民の抵抗続く

t  中南米 感染広げた新自由主義

t  女性への暴力 広がる抗議 法改定も

t  米「BLM」行動 差別反対 全国・世界へ

t  国連 創設75年 多国間主義宣言

 

核兵器禁止条約 批准50超、来年1月発効

20201216

 広島・長崎への原爆投下から75年の今年、人類史上初めて核兵器を違法なものと定めた核兵器禁止条約に署名・批准する国が増え、10月24日には、批准国が発効に必要な50カ国に到達しました。条約の規定で、来年1月22日に発効することが決まりました。

 核兵器国や日本などその同盟国は同条約を敵視し、発効の妨害まで繰り広げました。米国は同条約を批准した各国に、批准書の撤回を迫る書簡を送りつけました。

 それにもかかわらず、同条約を支持する動きは広がりました。9月には、北大西洋条約機構(NATO)加盟の20カ国と日本、韓国の大統領、首相、外相、防衛相経験者56人が連名で、核兵器禁止条約に参加するよう呼び掛ける公開書簡を公表。NATO加盟国のベルギーやノルウェー、ドイツでは条約への参加を模索する動きもあります。

 第75回国連総会は12月、核兵器禁止条約への署名・批准の進展を「歓迎する」決議案を130カ国の賛成で採択。賛成国は2017年の制定の際、同条約に賛成した122カ国を上回りました。

 今年は核不拡散条約(NPT)の発効50年、4〜5月には5年に1度の再検討会議が予定されたものの、米国で新型コロナウイルス流行が続いていることを受け、来年8月に延期されました。核兵器廃絶をめざす国家連合「新アジェンダ連合」など17カ国の非核兵器国は発効50年を受けた共同声明で、核軍縮に向けた約束を実施するよう核兵器国に改めて求めました。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、米ロ英仏中にインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を加えた9カ国の核弾頭の合計は1万3400発で1年前よりわずかに減少。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によると、同9カ国は19年、合計で730億ドル(約7・8兆円)を核兵器関連予算に充てました。

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は5月、米国が1992年以来実施していない核爆発実験を再開するかどうか、トランプ政権内で議論したと報じました。反対論があって、結論は出なかったとしているものの、核兵器使用も辞さない同政権の危険な思惑を裏付けました。

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南シナ海 緊張続くも認識に変化

20201217

 南シナ海の緊張はコロナ禍や相次ぐ自然災害に見舞われても和らぎませんでした。

 中国は係争地・西沙(パラセル)諸島周辺で7〜9月、少なくとも3回の軍事演習を実施。8月下旬には中距離弾道ミサイルを同海へ発射しました。

 さらに、軍事拠点化する南沙(スプラトリー)諸島の人工島に哨戒機や戦闘機を配備し、防空識別圏の設定を検討。沿岸諸国は「南シナ海行動宣言に反し、情勢を複雑化させる」(ベトナム)、「緊張をさらに高める」(フィリピン)と強く反対しました。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)は12月、中国海警の艦船が今年も他国の排他的経済水域内の複数の環礁で日常的にパトロールを実施していたとの報告書を発表。海警艦船による他国の資源開発の妨害、漁船沈没事件も相次ぎました。

 先月ハノイで開かれた「南シナ海国際会議」。主催したベトナム外交学院のズン学院長代行は、複雑化や懸念の一方、「光明もあった」と指摘しました。

 「多くの沿岸諸国が南シナ海に関して法的な立場を明確にしたことだ。国連海洋法条約と国際法の役割と価値に対する各国の強い支持が示された」

 インドネシア、マレーシアを含む沿岸4カ国は今年、国連向け外交書簡で、南シナ海のほぼ全域に権益があるとする中国の主張に反論。さらに米国、オーストラリア、英仏独(共同提出)も、初めて国際法の角度から突っ込んだ見解を発表。いずれも中国の主張は海洋法条約と国際法に合致しておらず、受け入れられないとの立場で共通しています。

 南シナ海問題で「国際法の擁護」を一致点とする立場は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の舞台で推進されてきました。

 「すべての国が法の支配と国際協定での約束を順守するよう強く要請する」(6月、ドゥテルテ比大統領)。同首脳会議や東アジアサミット(EAS)の声明は、「海洋法条約は、すべての海洋活動がその中で行われるべき法的枠組み」と述べ、交渉中の南シナ海行動規範も国際法と合致したものとなるべきだとの考えを示しました。

 南シナ海に国際的な注目が集まり始めたのはハノイでASEAN関連会議が開かれた2010年。今年、国際社会が国際法との関わりで示した認識の深まりは、10年間の大きな変化を物語るものとなりました。

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米大統領選 高投票率 バイデン氏勝利

20201218

 11月に行われた米大統領選は、民主党のバイデン前副大統領がトランプ大統領(共和党)に勝利しました。フロリダ大プロジェクトの集計によると投票率は66・7%で、1900年以来、120年ぶりの歴史的な高水準となりました。

 国民の分断をあおった4年間のトランプ流政治が、多くの有権者の危機感と政治への関心を高めました。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各州が郵便投票や期日前投票を促進したことも、投票率を後押ししました。

 バイデン氏は2008年のオバマ前大統領を抜き、約8128万票の史上最多得票を集めました。とりわけ同氏を支持したのは若者や女性、黒人、ヒスパニック、アジア系など、人種でも世代構成でも多様な有権者です。トランプ氏の就任以来、国民があらゆる分野で地道に続けてきた抵抗運動が、反トランプを一致点にした広範な国民の結束につながりました。

 民主党予備選では、草の根の運動と結びつき野放しの資本主義を批判する「民主的社会主義者」サンダース上院議員をはじめとする、進歩派の候補者が善戦しました。中道派のバイデン氏は、公立大学の授業料無償化や学生ローン返済軽減といった進歩派の政策を、予算規模を縮小させて自らの政策に取り込みました。

 一方のトランプ氏も、08年のオバマ氏および16年の自身の得票を大きく上回る7422万票を獲得。トランプ氏は強固な支持基盤としてきた白人層の支持率をほぼ維持する一方、民主党が支持基盤としてきた非白人層の中でも4年前より支持を広げました。

 また、トランプ氏はバイデン氏の勝利が確実になった後も、選挙で「不正があった」と根拠のない主張を続け、法廷闘争を乱発。自らの勝利のため民主主義のルールすら無視するトランプ氏に、裁判所は次々と敗訴を言い渡す一方、共和党の多くの議員・公職者が擁護・支持に回りました。

 選挙人の投票によって結果が確定した後も、トランプ氏は敗北を認めておらず、24年に向けた再出馬を示唆しています。4年間でトランプ氏が広げてきた事実に基づかない自国第一の政治や、国民の分断がバイデン氏就任後も容易には解消しないことを示しています。

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米議会選 民主党進歩派が勢力増

20201219

 米大統領選と同日実施の上下両院選では、当初予想されていた反トランプ旋風に乗った民主党の圧勝とはならず、下院では同党が引き続き過半数を維持するものの、共和党が10議席ほどを積み増しました。一方、国民皆保険などを掲げる民主党進歩派は勢力を増しました。上院過半数の行方は、南部ジョージア州での1月の決選投票の結果次第となっています。

 現時点での確定議席は下院(定数435)で民主党222、共和党211、上院(定数100)では共和党50、民主党48です。

 来年1月に始まる新議会では、進歩派議員連盟が下院で現在の95人から100人超の一大勢力となります。

 進歩派は、2018年の中間選挙に続く勢力増によって、次期政権に対して一定の発言力の行使が可能となりました。

 新たに下院で当選した進歩派のうち、ジャマル・ボウマン氏(ニューヨーク州)は黒人の元中学校長で、予備選では、16期務めた現職の外交委員長を破る党内波乱で勝利。活動家出身のコリ・ブッシュ氏(ミズーリ州)も、10期務めた民主党のベテラン現職を下し、同州初の黒人女性議員になります。

 両氏とも、2年前に初当選したオカシオコルテス下院議員らと同様、政治団体「米国民主的社会主義者」(DSA)に所属しています。

 大統領選の指名争いでは、進歩的な政策を掲げたサンダース、ウォーレンの両上院議員が格差の拡大に苦しむ若者を中心とした世代から熱烈な支持を集めました。

 バイデン次期大統領は協力を得るため進歩派に譲歩を示しつつも、主要政策では進歩派や草の根の運動が掲げる政策要求とは距離を取っています。トランプ大統領と共和党は選挙戦を通じ、民主党が「過激」「社会主義に向かっている」などと攻撃を繰り返しました。

 新型コロナ危機やトランプ氏がもたらした国内外の混乱に対処し、国民の要求に応えるうえで、党内進歩派が果たす役割がますます重要になっています。

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ベラルーシ 公正選挙求め運動続く

20201220

 「現在のデモ抗議の参加者は減っているが、ここを持ちこたえれば来年には、勢いを取り戻す」

 旧ソ連ベラルーシの野党指導者スベトラーナ・チハノフスカヤ氏が14日、ドイツのシュタインマイヤー大統領に語った言葉です。

 ベラルーシでは今年、公正で自由な選挙を求める歴史的な運動が続いています。

 8月9日の大統領選挙では、ルカシェンコ氏が「地滑り的勝利」をしたと発表されましたが、市民が選挙の不正を訴えて抗議行動を開始。以来、毎週日曜日を中心に18週間にわたり続いています。

 政権側は当初からデモに対して治安部隊に暴力的な鎮圧を命令。放水車、ゴム弾、警棒などを使い暴力的に取り締まり、これまでに少なくともデモ参加者4人が亡くなり、数千人が負傷。のべ3万人以上が治安部隊に拘束されました。それでも市民は首都ミンスクでしばしば10万人以上のデモを実施するなど、全国規模で抗議行動を展開。一時は国営企業の労働者が抗議ストを行いました。デモで掲げられる白と赤の旧国旗が自由と民主主義を象徴するものとなりました。

 ルカシェンコ氏は、1994年の大統領就任後、憲法の大統領3選出馬を禁止する憲法規定を削除し、議会選挙や大統領選挙では書類不備などを理由に立候補を認めないなど野党を締め付け。26年間、権力の座にあり続けてきました。

 一方、最近は経済失策や汚職腐敗、新型コロナ対策のまずさが目立ち、同氏の支持率は急低下していました。

 ルカシェンコ氏は今回の大統領選でも有力野党候補を次々と排除。逮捕された候補者の妻、チハノフスカヤ氏が唯一の野党候補として出馬しました。

 選挙後、チハノフスカヤ氏は、国から追放され、隣国リトアニアを拠点に活動をしています。

 暴力的な鎮圧の中、デモ参加者の要求は、当初の選挙やり直しから、ルカシェンコ氏の退任や政治囚の解放を求める運動に転化。欧州諸国にルカシェンコ政権の制裁を働きかけ、発動させています。

 一方、ロシアのプーチン政権はルカシェンコ氏に肩入れ。ベラルーシで民主化が進むかどうか、大きな岐路に立ちます。

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香港 国安法施行 弾圧強まる

20201221

 昨年、数百万人規模で盛り上がった香港の反政府運動は、今年6月の香港国家安全維持法(国安法)の施行で、強権的に弾圧されました。政権側の弾圧は、香港の自由や民主を求めるデモや集会だけでなく、メディアや教育、議会などあらゆる分野に及んでいます。

 中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は6月30日、国安法を全会一致で可決。香港で即日施行されました。

 国安法は、(1)国家分裂(2)政権転覆(3)テロ活動(4)外国勢力と結託して国の安全に危害を加える行為―に対し、最高刑で終身刑の刑罰を科します。行為の有無などの判断は中国当局の意向が反映されることになります。そして容疑者を中国本土で裁判にかけることも可能になりました。

 国安法は香港の法律の上に君臨することになり、国安法の解釈権は全人代常務委が握ることになります。同法の施行に対し、香港の立法会(議会)は何ら関与できませんでした。

 法律の中身も成立過程も、香港の高度な自治を保障し、中国自身が国際社会に公約した「一国二制度」に反するものです。国際社会から厳しい批判が起こりました。

 12月7日までに40人が国安法で逮捕されました。その中には、若手民主活動家の周庭氏、香港紙・リンゴ日報の創業者である黎智英(れい・ちえい)氏も含まれています。黎氏は11日に国安法違反で起訴されました。周氏は国安法で起訴されていないものの、昨年6月に違法集会を扇動した罪で禁錮刑を下されました。

 当局は、新型コロナウイルスの感染拡大を口実に、9月に予定されていた立法会選の1年延期を強行しました。全人代常務委は11月、香港の立法会議員が、「中国が香港に対して主権を行使することを認めない」などとする場合、議員資格を失うと決定。これを受け、香港政府は4人の民主派議員の資格を剥奪しました。

 教育に対しては、学生の自ら考える力を養う目的で導入されていた「通識教育科」の形骸化を進めています。香港警察は9月、一部のネットメディア、フリーランスや学生記者をメディアと認めない方針を発表しました。

 ただ、香港市民は自由と民主を求めるたたかいを放棄していません。リンゴ日報によると、勾留された黎氏は「恐れることはない。闘争を続ける」と表明しました。

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フランス 政権に国民の抵抗続く

20201222

 5年間の任期半ばを過ぎたマクロン仏大統領は今年、年金改革、コロナ危機対応、治安問題など、内政で多くの試練にさらされました。

 1月16日の25万人デモなど、年金改革法案への反対運動が昨年から続き、2月の国民議会(下院)では、左翼政党「服従しないフランス」とフランス共産党が合わせて3万6千以上もの修正案を提出して抵抗。それでも政権は、内閣の信任を問えば賛否投票なしに可決できるという強権的な憲法49条3項を発動し、3月3日下院を強引に通過させました。

 その上でマクロン大統領は3月16日、新型コロナ対策の外出禁止発令と同時に、年金改革の中断を表明しました。

 コロナ禍のなか行われた市町村(コミューン)議会選挙(3月15日、6月28日)では、緑の党、社会党、フランス共産党、「服従しないフランス」などの左翼・緑陣営が得票率26%に達し、共和党ら右派陣営(同24%)を上回り、「共和国前進」ら与党陣営(12・5%)は惨敗しました。

 この結果を受け、フィリップ内閣は7月3日に総辞職。高級官僚のカステックス氏が新首相に就任しました。

 秋にはコロナ感染の第2波が深刻化し、11月の新規感染者は週30万人を超えました。

 雇用も悪化し、労働省の統計によると3月以降のリストラで6万7千以上の雇用契約が破棄。政府は企業支援を中心とした経済対策を講じるものの改善せず、9〜11月には3万5千以上の雇用が失われました。

 9〜10月には、シャルリエブド旧本社前の刺傷事件、パリ近郊の中学教師殺害事件、ニースの教会での殺人事件など、イスラム教信者による殺傷事件が相次ぎました。

 これを受けて、マクロン政権は、治安当局の権限を拡大する「総合治安」法案を11月24日、国民議会で強行採決しました。しかし、反対運動が広がり、11月28日の抗議デモには50万人(内務省発表で13万5千人)が参加。政権は、警官の撮影禁止条項(24条)の「全面的な書き換え」を表明せざるをえませんでした。

 9日に閣議提出された「イスラム分離主義」を敵とみなす「共和国原則強化」法案と併せて、ムスリム・移民・人種への差別の拡大や警察国家化への懸念を広げ、依然、反対運動が続いています。

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中南米 感染広げた新自由主義

20201223

 中南米は21日現在、新型コロナウイルスの感染者が約1472万人、死者が約48万5000人確認されています(世界保健機関〈WHO〉集計)。世界人口の約8%を占めるこの地域で、感染者は世界の約20%、死者は30%近くと突出しています。

 人口比死亡者数は、新自由主義経済政策をいち早く取り入れ、プライマリー・ケア(1次医療)が脆弱(ぜいじゃく)なチリ、ペルー、メキシコなどで高くなっています。大統領が感染を軽視したブラジルの死者数は米国に次ぎ、社会インフラが貧弱なアマゾンの先住民居留地は「制御不能」といわれます。

 労働者の半分は政府機関が関与しないインフォーマル(非公式)就労という構造も、コロナ禍が浮き彫りにした地域特有の問題です。真っ先に失職し、失業手当の受給資格もない人々です。

 国連はパンデミックでこの地域の4000万人以上が失業すると予測。近年、格差解消などを求めて各地で発生している抗議行動はさらに高まりそうです。

 チリでは、新憲法制定の是非を問う10月の国民投票で、8割近くが賛成。軍政時代の現憲法は、教育や福祉を国家の義務とは明記していません。新憲法にどう盛り込まれるのかが焦点です。

 ボリビアでは、10月の大統領選で社会主義運動(MAS)のルイス・アルセ元経済・財務相が低所得者への分配などをかかげて勝利しました。同氏は、昨年の選挙で不正疑惑が発覚して辞任、亡命したモラレス大統領(当時)の後継。左派政権の返り咲きです。

 ベネズエラの物資不足はますます深刻です。国内総生産(GDP)はマドゥロ大統領就任の2013年比で8割減の見通し。米国の制裁も影響しています。

 12月の国会選挙では、公正性が保証されないと主要野党がボイコットし、与党が「圧勝」。投票率は30%でした。与党幹部は「投票しない者に食料はない」と公言。配給停止を示唆しました。

 核兵器禁止条約を批准した51カ国(21日現在)のうち21カ国は中南米です。発効要件である50カ国目は親米といわれるホンジュラスでした。平和と対米自立の流れは絶えていません。

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女性への暴力 広がる抗議 法改定も

20201224

 新型コロナウイルスの影響が各国で配偶者やパートナーによる暴力(DV)の増加につながった今年、女性への暴力反対の行動が発展し、政府が解決の方向に踏み出し、議会で法改定が行われる動きが広がりました。

 欧州では1月に発足したスペイン新政権が3月、「同意のない性行為は性的暴行」と位置づけ、女性を性被害から守るための刑法改正案を閣議決定しました。

 同国では、新型コロナによる都市封鎖でDV増加が懸念されると、政府が「暴力防止キャンペーン」を全国で実施。テキストメッセージでの被害届送信を可能にし、心理療法士ともやりとりができるよう工夫しました。

 フランスでは、パリと周辺3県で3月の封鎖措置後、わずか1週間でDV被害が36%も増加。政府は100万ユーロ(約1億2600万円)の資金を投じ、計2万泊分のホテルの部屋をDV被害から逃れてきた人のために購入。外出制限下でも営業している食料品店周辺に臨時の相談窓口を設置しました。

 中東のエジプトでは7月、同じ男から性被害を受けた女性がインターネット上で次々に告発し、男は逮捕。政府は性暴力を訴えやすくするため、被害者の身元を秘匿する法律の制定を打ち出し、議会が8月に承認しました。

 地元の女性活動家モズン・ハッサン氏は本紙に「新型コロナウイルス流行に伴う外出自粛などで女性への暴力の増加が広く知られたことや、支援団体の働きかけが被害者の沈黙を破る要因になっている」と語ります。

 イスラエルでは女性への暴力や殺人に抗議する集会や、16歳の少女への集団レイプ事件を受けて性暴力を非難するデモが実施されました。同国政府に暴力の根絶に向けた措置への予算増額や、被害者への医療支援の拡充を求めています。

 クウェートの人権活動家アスラ・リファイ氏は「どうすれば女性を守れるか、各国の取り組みを互いに学んでいる」と言います。同国では8月、DV被害者を支える女性活動家らの要求が実り、保護施設の設置などを含む新法が議会で承認されました。

 イラクでも8月に政府が加害者への処罰を含む反DV法案を議会に提出。11月には首都バグダッドで法律の制定を求めるデモが起きています。

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米「BLM」行動 差別反対 全国・世界へ

20201225

 5月25日夜。米中西部ミネソタ州の最大都市ミネアポリスで、食料品店に買い物に来た男性、ジョージ・フロイド氏が偽札使用の疑いで地元警察に拘束されました。フロイド氏は後ろ手に手錠を掛けられうつ伏せに倒された後、約9分間にわたり頸部(けいぶ)を警官の右ひざで圧迫されました。

 「息ができない」―必死の訴えにもかかわらず白人警官は圧迫を解かず、フロイド氏はその後、病院に運ばれ、死亡しました。

 フロイド氏は黒人男性です。彼が受けた残虐行為はスマートフォンで録画され、SNS上で世界に拡散されました。犯行に関わった警官4人は全て逮捕・起訴されました。

 翌日からミネアポリスのみならず、ニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンなど、全ての州・特別区で抗議行動が広がりました。人種差別反対、BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事だ)をよびかけるデモは数カ月間にわたり、1968年のキング牧師暗殺以来の全国規模の運動に広がりました。

 トランプ大統領はこの平和的な行動を敵視し、各州知事を「弱腰」とののしり、連邦軍投入の可能性まで言及。6月1日には、ホワイトハウス前の平和デモ隊を治安部隊で蹴散らし、教会の前で聖書を掲げました。キリスト教界から抗議の声が上がるなか、国防総省・米軍は、軍隊の投入に明確な異を唱えました。

 トランプ大統領がデモ隊を「弾圧」した通りは、4日後にはバウザー・ワシントン市長により「BLM通り」と命名され、人種差別に反対する人々が集まる名所となっています。

 フロイド氏殺害事件の後も、南部アトランタ、中西部ウィスコンシン州などで、警官による黒人銃撃事件が起きています。ミネアポリス、ニューヨーク両市、一部州では、同様の事件再発防止等にむけた「警察改革」が進んでいますが、抜本的な改革にむけた連邦レベルでの取り組みは道筋が見えていません。

 人種差別の問題は、11月の大統領選で大きな争点の一つとなり、警察を擁護し、平和デモと対峙(たいじ)した極右グループを応援する姿勢を示したトランプ大統領は敗北しました。警察改革、人種差別撤廃に取り組む民主党バイデン新政権の手腕が注目されます。

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欧州連合(EU)コロナ復興基金を設立

20201226

 欧州連合(EU)は年初から、イタリア北部に始まる新型コロナウイルスの大流行、死者の急増に見舞われました。多くの国が国境封鎖や医療用マスクの輸出禁止など自国第一の対応を行ったため、EUの「連帯」はどこに行ったのか、と批判が噴出しました。

 初の女性トップとなったフォンデアライエン欧州委員長にとっては、就任早々の大きな試練となりました。EUは、コロナ禍の大きな被害を受けたイタリア、スペインなどへの財政支援を行うため「コロナ復興基金」の設立に踏み込みました。緊縮政策の推進役だったドイツのメルケル首相が、南欧諸国の代弁者となって支援を訴えてきたフランスのマクロン大統領と合意したことで、流れができました。

初の共同債務

 紆余(うよ)曲折はありましたが、7月のEU首脳会議で、欧州委員会が市場で債券を発行して、資金援助を行う7500億ユーロ(92兆円)の基金で合意しました。EUが共同で債務を負うのは、欧州統合の長い歴史の中で初めてのことです。

 12月13日までの欧州(EUと欧州経済地域の31カ国と英国)でのコロナによる死者数は約37万6000人で、世界の死者数の約23%と高率です(欧州疾病予防管理センター)。EUや各国政府による緊縮政策による医療・福祉の削減の害悪が、パンデミック(世界的流行)で浮き彫りになりました。

55%削減合意

 気候変動問題で、EUは12月の首脳会議で、2030年までに温室効果ガスを1990年比で55%削減する新たな排出削減目標を決めました。これまでの40%削減から大きく上積みしました。50年までの排出実質ゼロを目指し、欧州委員会は、法的拘束力のある「欧州気候法」の制定を目指しています。

 また12月には、オンライン上のヘイトスピーチ(差別扇動行為)など違法コンテンツの規制、グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンなどのデジタル大企業の規制を内容とする法案を発表しました。重大な違反には罰金や企業分割などの罰則があります。

 米国での警官による黒人殺害事件で人種差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動が広がる中で、欧州議会は6月、大西洋奴隷貿易は「人道に反する罪」だとする決議を採択しました。

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国連 創設75年 多国間主義宣言

20201228

 国際連合(国連)は今年、創設75年を迎えました。グテレス事務総長は1月の年頭演説で、(1)諸地域の緊張の激化(2)気候危機(3)世界的な不信(4)サイバー分野―の「四つの脅威」に21世紀を生きる人類が直面していると警告。すべての人に平和な未来が訪れるよう各国が努力するべきだと強調しました。

即時停戦訴え

 国連専門機関の一つ、世界保健機関(WHO)は3月11日、新型コロナウイルスについて「パンデミック(世界的流行)とみなしうる」と表明。グテレス氏は同23日、新型コロナという「共通の敵」に立ち向かうため「世界のあらゆる場所での即時停戦を呼び掛ける」と訴えました。その後、数次にわたり「対応計画」を打ち出しました。

 「ジェンダー平等」を「行動綱領」として採択した第4回世界女性会議(北京)から25年、女性の地位向上などに取り組む国連機関、UNウィメンは3月、報告書を発表。ムランボヌクカ事務局長は「若干の前進はあるがジェンダー平等を達成した国はない」といっそうの努力を促しました。

 第75回国連総会は9月15日に開幕しました。例年、各国首脳が集まって行われる一般討論演説もビデオでの参加を可能としました。開会にあたりボズクル議長(トルコ)は「現在われわれが置かれている状況からも、多国間主義にもとづく機構が必要だということが改めて分かる」と強調しました。

 創設75年を記念するハイレベル会合は21日に宣言を採択。「多国間主義は選択肢ではなく不可欠なものだ。国連はその取り組みの中心となるべきだ」と表明しました。

同一賃金促す

 9月18日は国連総会が制定した初の「同一賃金国際デー」でした。同一価値労働同一賃金の実現に向け、さらなる取り組みを各国政府、国際機関、市民社会および民間企業に促しました。

 ノルウェー・ノーベル賞委員会は10月9日、今年のノーベル平和賞を国連の世界食糧計画(WFP)に授与すると発表しました。武力紛争地域や災害被災地に食料を届け、平和な世界を築くために貢献してきた活動が評価されました。

 新型コロナのパンデミックの影響で、国連のかかわるさまざまな国際会議が中止ないし延期となりました。

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