2021国内回顧

t  回顧’21 出版 本と話題

t  回顧’21 美術 “表現の喜び”さまざまに

t  回顧’21 論壇 市民・野党共闘の成果指摘

t  回顧’21 映画 自粛に対峙 意欲的な創造

t  回顧’21 文学 見えない世界 豊かに描出

t  回顧’21 音楽 音楽の力信じ新たな試みが

t  回顧’21 演劇 苦難乗り越え新たな創造へ

 

 

 

回顧’21 出版 本と話題

政治・社会問う本が目を引いた1年

20211226

 昨年を上回る新型コロナの感染爆発が繰り返された2021年は、政治と社会の現状を問う出版物が目を引く1年となりました。

 出版科学研究所の調べでは、1月から10月の紙の書籍・雑誌の販売動向は、前年同期比で書籍1・8%増、雑誌3・2%減で、全体では0・4%減でした。1月から6月までの上半期は、書籍・雑誌とも近年にない伸びでしたが、夏以降、反転し、とくに雑誌は大幅減となっています。

 出版取次大手の日本出版販売が発表した年間ベストセラーは、永松茂久著『人は話し方が9割』(すばる舎)、アンデシュ・ハンセン著『スマホ脳』(新潮社)が1、2位。感染拡大によるコミュニケーション不足への不安や、スマホなどデジタル機器との接触増が背景にあると指摘されています。

気候危機打開の政策提示に関心

 明日香壽川著『グリーン・ニューディール』(岩波新書)などが、経済発展や貧困克服にもつながる気候危機打開の政策を提示し関心を集めました。

 女性が受ける、目に見えないさまざまな不利益をデータで示したキャロライン・クリアド=ペレス著『存在しない女たち』(河出書房新社)など、社会のジェンダー構造に目を向ける著述も活発でした。

 政府の無策で新型コロナの感染爆発が繰り返されるなか、稲葉剛著『貧困パンデミック』(明石書店)はコロナで悪化した日本の貧困状態を緊急報告し、合田寛著『パンデミックと財政の大転換』(新日本出版社)は求められる経済・財政政策を提起。後藤逸郎著『亡国の東京オリンピック』(文芸春秋)は五輪の利権に群がる腐敗構造を浮き彫りにしました。

権力とメディア 現状暴くものも

 権力のメディア支配戦略と、権力に追従する巨大メディアの現状を、松田浩著『メディア支配』(新日本出版社)、上西充子著『政治と報道』(扶桑社新書)、望月衣塑子著『報道現場』(角川新書)などが暴きました。

 日韓の研究者が協力した笹川紀勝ほか編著『国際共同研究 三・一独立万歳運動と植民地支配体制』(明石書店)、赤旗編集局編『日本の侵略 加害と被害の真実 忘れさせないために』(新日本出版社)など、日本の侵略戦争と植民地支配の史実の発掘も多角的に行われました。

 19年秋から刊行が始まったカール・マルクス著、日本共産党社会科学研究所監修『新版 資本論』全12冊(新日本出版社)は今年、第9〜第12分冊が刊行され、完結。マルクスの執筆意図に沿って、恐慌と革命を直結させる古い恐慌論を克服したマルクスの新しい恐慌論と革命論、労働時間短縮を土台に諸個人の自由な発展を展望した未来社会論などが、読み取りやすく改訂されました。コロナ禍と気候変動を克服した社会を展望する道標となることが期待されます。

 

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回顧’21 美術 “表現の喜び”さまざまに

20211222

 コロナ禍の緊急事態宣言による美術館の休館などで作品発表の場が減少するなか、“表現をする喜びとは何か”をさまざまな展覧会を通して考えさせられた1年でした。

 臨時休館で、会期を変更・短縮した展覧会も多数ありました。現在は通常に戻りつつありますが、一部で事前予約制や入場制限もあり、コロナ前の“気軽に展覧会を訪れる”という状況はまだ先になりそうです。

 コロナ禍でも真摯(しんし)に芸術と向き合い、制作を続けてきた美術家の努力が展覧会再開後に結実した印象を受けました。壮大な絵画世界で見るものを圧倒する洋画家の、半世紀に及ぶ創作活動を紹介した「物語る 遠藤彰子展」や、沖縄戦や米軍基地問題をテーマに発信を続ける映像作家・美術家の「山城知佳子 リフレーミング」展は、コロナ禍でも旺盛な制作で社会問題と対峙(たいじ)し、作品に時代への問いを刻もうとする意気込みを感じさせました。

 第74回日本アンデパンダン展が2年ぶりに開催され、震災・沖縄・戦争などをテーマにした自由な表現であふれました。同展開始当初から活躍した女性作家ら36人の創造の軌跡を作品と資料でたどりました。

 “表現すること”の喜びを率直に伝えた展覧会にも注目しました。50代から独学で油絵を描きはじめ、自由な発想で身近なものへの愛情を作品にした「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」や、表現方法や人生の歩みは違っても芸術を「生きる糧」とした5人の作家を取り上げた「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」展は、年齢や経歴を問わず、表現手段を持つことは人生を豊かにすると気づかせてくれました。

 30年間の美術動向を追った「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ) 1989―2019」、戦時中の役割も含め、民藝(みんげい)運動を包括的に紹介した「柳宗悦(やなぎ・むねよし)没後60年記念展 民藝の100年」などは時代の影響を受けつつ、それを乗り越えようとする芸術家の在り方を浮き彫りにしました。

 障害がある人も、誰もが同じように芸術を享受することの可能性を示した企画もありました。「ユニバーサル・ミュージアム――さわる!“触”の大博覧会」は、触ることで視覚以外の多様な感覚を発見できる展覧会でした。

 「表現の不自由展」が東京(延期)、名古屋(開催、途中で中止)、大阪(全日開催)で企画され、妨害に屈しない主催者や美術家のたたかいが、作品を見たいと願う人々との連帯を広げました。

 

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回顧’21 論壇 市民・野党共闘の成果指摘

20211222

 弱肉強食の新自由主義政治の行き詰まりを示す論調が、多く見られました。

 橋本健二・早稲田大学教授は、今回のコロナ禍は、人々に平等に襲いかかったわけではないとして、「旧中間階級とアンダークラスの二つの階級がより負の影響を受け」ているとして、自民党政権ではこれらの層を支えることは難しいとのべます。(『週刊ダイヤモンド』9月11日号)

 佐久間裕美子(文筆家)「アメリカ新たな労働運動の波」(『世界』10月号)は、「企業や富豪たちがもうかればそのおこぼれが末端までトリクルダウン(=したたり落ちる)して景気を浮上させるという新自由主義は、欺瞞(ぎまん)だった」と告発。「気候変動アクティビズムや反差別運動などといった幅広いプログレッシブ(=進歩的な)運動と連帯し、世界の被抑圧層とつながる」ことを提唱しています。

 今年は各雑誌や週刊誌が、ジェンダー平等を特集しました。

 三浦まり(上智大学教授)「クオータの取扱説明書(トリセツ)」(『世界』7月号)は、女性のリーダーが少ない現状を打破するために、日本でもクオータ(割り当て)制の導入が急務だと主張。女性の議員を増やすことは目的ではなく手段であり、「民主主義の前進」や「ジェンダー規範に由来する抑圧からのあらゆる人の解放」をめざして運用すべきだと強調します。

 太田聰一(慶応大学教授)「LGBT法案と中高年男性のバリアー層」(『週刊東洋経済』6月12日号)は「日本では性的少数者に非寛容なタイプが企業の幹部層に多い」とのべ「多様な個人が活躍する成熟社会」日本の実現を呼びかけます。

 総選挙結果が冷静に分析されるにつれ、市民と野党の共闘の重要な成果や、自民には脅威だったことがはっきりしてきました。

 鈴木哲夫(ジャーナリスト)「共闘の覚悟問う立憲代表選」(『サンデー毎日』11月28日号)は、小選挙区で立憲民主党が現有から9議席ふやし前回比で3倍化したことを例に、「野党候補の一本化の成果が、小選挙区では出たと確実に言える」と指摘しています。そして自民党三役経験者の「辛勝だ」「何か風が一つ吹けば、ガラリと変わるような際どい勝利だった」という言葉を紹介しています。

 野中尚人・学習院大学教授は「次の政権交代を10段階とすれば6まで来ている」との認識から「数年単位でみれば共産を排除しない形で中道から左派まで幅広く連携する方向に収斂(しゅうれん)していく」と展望しています。(「朝日」11月17日夕刊)

 

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回顧’21 映画 自粛に対峙 意欲的な創造

20211221

 コロナ禍のもと、なぜ創り、なぜ上映するのかが鋭く問われた一年。緊急事態の推移に伴う不安の中、現実に根ざす力のこもった作品の公開が続きました。

 人間疎外の進む社会での元受刑者の更生が胸に染み入る「すばらしき世界」(西川美和)、福祉行政の貧困を突き人間の尊厳をうたう「護(まも)られなかった者たちへ」(瀬々敬久〈ぜぜ・たかひさ〉)、武骨者の変容への希望をもたらす「空白」(吉田恵輔)、ベトナム人技能実習生の苦境を照らし出す「海辺の彼女たち」(藤元明緒〈あきお〉)。また、「大(だい)コメ騒動」(本木克英)や「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」(池田暁)は、歴史と現代をつなぎ、「キネマの神様」(山田洋次)は、映画愛をたたえて悔いのない人生を問いかけ、創り手の年輪を感じさせました。

 独特の会話を繰り広げて見せる濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」「偶然と想像」は、それぞれカンヌ、ベルリン国際映画祭で受賞し、新世代の力を鮮やかに示しています。

 ドキュメンタリーでも、核廃絶や戦争、移民、脱ダム問題、政権の告発、保健所の苦闘など、現実に斬り込む監督の志が届く作品があいつぎました。

 外国映画では、「ユダヤ人の私」「ホロコーストの罪人」「沈黙のレジスタンス」ほか、ナチスの犯罪の究明が多様な形で伝えられ、同時に時代の中でどう生きるかの問いも見る者に投げかけています。

 さらに、アジア系女性監督が車上生活者を描いた「ノマドランド」(米アカデミー賞)、名優の演技で高齢者の生が迫る「ファーザー」、性的少数者が新しい親子関係を結ぶ「親愛なる君へ」、米国民主主義の実相を伝える「ボストン市庁舎」など現代を浮き彫りにし見応えがありました。

 コロナ禍による自粛の要請に対して、今年も映画人が分野や立場を超えて連帯し声を上げました。自粛への補償などを求めての国会要請や、休業要請への抗議のスタンディングなどが行われ、日本映画製作者連盟や「SAVE the CINEMA」、映画館の組合など4者が初めてそろって「さらなる支援を」と声明を出したのは画期的なことでした。

 日本映画界のジェンダー格差の実態調査や労働環境を考えるシンポジウムも重ねられています。

 芸術文化振興会の助成金不交付で東京地裁が違法と判決。その控訴審の行方など、新年の成り行きが注目されます。

 

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回顧’21 文学 見えない世界 豊かに描出

20211221

 2021年の文学シーンは、宇佐見りん『推し、燃ゆ』の芥川賞受賞(1月)から始まった感があります。疎外と孤独の空洞を抱えて推し(ひいきのアイドル)を支えにやっと息をしている高校生の姿は、切ない共感を呼び、年間ベストセラー総合3位(日本出版販売)。推しは神なき時代の神なのか。生身の人間と社会に傷つき、「あたし」を肯定も否定もしない存在に救われつつ、その神は資本主義のシステムに取り込まれていて…。八方ふさがりの息苦しさが、この国の現状を突きつけます。

 今年は東日本大震災から10年の節目の年でした。石巻で津波にのみ込まれ行方不明になった知人が訪ねてくるという設定で、群像新人文学賞(5月)と芥川賞(7月)を受賞した石沢麻依『貝に続く場所にて』は、復興オリンピックの美名の下で未曽有の惨禍が忘却されているのではないか、と告発しました。

 芥川賞同時受賞(7月)の李琴峰(り・ことみ)『彼岸花が咲く島』は、台湾出身作家初の受賞であったため、ネット上で誹謗(ひぼう)中傷を受け、くしくも受賞作のテーマの一つである排外主義と歴史修正主義が、日本にはびこっていることの証左となりました。

 李氏は受賞スピーチで「そのような暴力的で、押し付けがましい解釈は、まさしくこれまで私が文学を通して、一貫して抵抗しようとしてきたものなのです」と語っています。

 今年完結した本紙連載小説2編は、実生活では見えていない世界を読書によって体験するという文学の役割を再認識させるものでした。木曽ひかる『曠野(あれの)の花』は、ホームレスにまで追い込まれた人々の社会的背景を掘り下げ、支援のありようを叙情豊かに描出しました。

 丸山正樹『わたしのいないテーブルで』は、コロナ禍のろう者の苦悩を差別の歴史をひもときながらあぶり出しました。

 コロナ禍の現在に続く医療逼迫(ひっぱく)の構造的要因を示唆したのは、橘(たちばな)あおい『小夜啼鳥(さよなきどり)に捧(ささ)ぐ』。医療・福祉が削減された1980年代に、人間の尊厳を守る看護を目指して奮闘した看護師たちの青春の記録です。

 昨今のAI(人工知能)の進化を踏まえ、その技術が浸透した近未来の格差社会が舞台の作品も注目されました。平野啓一郎『本心』は、貧しい暮らしの中で事故死した母のVF(ヴァーチャル・フィギュア)を手に入れ、「自由死」が合法化された下で死を望んでいた母の本心を探ります。

 カズオ・イシグロ『クララとお日さま』は人型ロボットと病弱な少女の友情物語。いずれも仮想現実を梃(てこ)に人間とは何かを問い、未来の希望を模索しました。

 MeToo運動が広がりフェミニズム文学への関心が高まる中、韓国文学の邦訳出版が相次いでいます。パク・ソルメ『もう死んでいる十二人の女たちと』収録の女性が突然暴行され殺害される物語は、ソウル・江南(カンナム)駅殺人事件や小田急線刺傷事件など、女性憎悪による実際の事件を彷彿(ほうふつ)させます。

 男女の賃金格差に切り込んだイ・ミンギョンのエッセー集『失われた賃金を求めて』は、まさに私たちの問題。公正な社会の実現は、現状から目をそらさず声を上げることから始まると教えてくれます。

 

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回顧’21 音楽 音楽の力信じ新たな試みが

20211217

 年明け早々の1月7日に緊急事態宣言が出され、昨年に続いて、コロナとのたたかいの1年となりました。同時に、新しいものを生み出そうという試行錯誤が随所で見られました。

 ステージ上での距離や海外アーティストが来日できないなどの制限により、昨年後半に行われた定期演奏会では、ベートーベンなどなじみの深い古典的名曲が目立ちました。しかし今年に入ってからは、日本初演や新しい解釈での上演が続きました。さまざまなオーケストラで聴衆を引きつける手法がとられ、高い水準での演奏が行われました。新日本フィルハーモニー交響楽団の「ヘンゼルとグレーテル」のように、古い作品や過去にどう向き合うかを問いかけるものも多くありました。今の時代を見据え、知られていない曲や作曲家をどう伝えるかを工夫し、今までの殻を破ろうと固定観念を外して迫る意気込みが見られました。

 困難に直面している音楽界を活性化しようと、「クラシック・キャラバン2021」が全国19カ所で開催されました。フリーランスの実演家を中心に「クラシック音楽が世界をつなぐ」ことを実感させました。

 1年の延期を経て実施された5年に1度のショパン国際ピアノコンクールでは、ブルース・リウさんが優勝、反田恭平さん(2位)と小林愛実さん(4位)の幼なじみの2人が入賞し、大きな話題になりました。

 オペラでも斬新な演出や現代性を意識した企画が相次ぎました。1年延期しての「サムソンとデリラ」(東京二期会)では、コロナ問題もとり入れ、旧約聖書の問題を今のものとして提示しました。神奈川県立音楽堂のフランス発オペラ「シャルリー」では、政治への無関心や事なかれ主義で全体主義があっという間に社会をむしばみ、気付いた時には後戻りできなくなる恐怖を生々しく描きました。新国立劇場ではAIと歌手や子どもたちが同じ舞台に立つオペラも作られ、新技術と音楽の融合の可能性を模索しました。

 日本のうたごえ祭典が、被爆75年を迎え核兵器禁止条約が発効した今年、16年ぶりに広島で開かれました。1年延期し直前まで開催が危ぶまれたなか、全国からの支援も受けて、「核兵器禁止条約発効! ひかりにむかって」をテーマに、平和への願いを込めた歌声を響かせました。主なコンサートはネット上で配信されました。

 

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回顧’21 演劇 苦難乗り越え新たな創造へ

20211217

 コロナ禍による昨年の「自粛」要請以降、演劇界は多くの公演が中止・延期を強いられ、損失は補償されず、公演再開後もかつてない苦難に直面しています。歴史を積み重ねてきた劇団が困難な中で相次いで節目の年を迎え、新たな創造の道に歩みだした姿が、まず心に残りました。

 創立90周年を迎えた前進座は4月に「90年の夕べ 温故創新」を開催。劇団理事長の藤川矢之輔さんが「全国のみなさんから温かい励ましをいただいて活動を続けられました。感無量です」とあいさつしました。続く国立劇場での記念公演(「俊寛」ほか)は緊急事態宣言の中、後半日程からの開催形態となりましたが、随所に次代に受け継ぐ心が伝わる舞台でした。

 創立80周年を迎えた劇団文化座は「ビルマの竪琴」(原作/竹山道雄、脚本/杉浦久幸、演出/鵜山仁)、「子供の時間」(作/リリアン・ヘルマン、訳/常田景子、演出/西川信廣)を上演。戦争の愚かさや、根深い差別・偏見というテーマに切り込みました。昨年の創立70周年記念公演が延期となった劇団民藝(みんげい)は1年越しの上演となった「どん底―1947・東京―」(原作/マキシム・ゴーリキー、脚本/吉永仁郎、演出/丹野郁弓)で、生き抜くために貪欲な人々のエネルギーを描きました。

 日本の現状を見据え、告発・問題提起する視点の作品も上演されました。

 青年劇場「ファクトチェック」(作・演出/中津留章仁)は、権力にすりよっていくメディアの実態を告発。報道のあり方に葛藤する人間像を深く描きながら、危険な方向に向かっている日本社会の現実にも警鐘を鳴らしました。

 劇団俳優座「戒厳令」(作/アルベール・カミュ、訳/中村まり子、演出/眞鍋卓嗣〈たかし〉)は、死の疫病に覆われた社会と全体主義の抑圧・恐怖、反抗する心を描写。1948年の作品ながら、無責任な政府の実態も含め、あまりにも現代と重なり合う展開力で、改めて演劇の醍醐味(だいごみ)を再確認できた一作でした。

 外国人留学生への差別や偏見に一石を投じた文学座の「ジャンガリアン」(作/横山拓也、演出/松本祐子)、対米開戦に至る過程を批判的に捉えた劇団チョコレートケーキの「帰還不能点」(作・古川健、演出・日澤雄介)、模擬原爆をきっかけに日本の戦争を被害と加害の両面から描いた東京芸術座の「パンプキン! 模擬原爆の夏」(原作/令丈ヒロ子、脚色・演出/北原章彦)も、力のこもった興味深い作品でした。(

 

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