2021年 回顧

t  2021年回顧 植民地支配 問い直す動き続く

t  2021年回顧 米バイデン政権 前政権の姿勢を転換

t  2021年回顧 中国共産党 習指導部の賛美突出

t  2021年回顧 独総選挙 左派主導の政権に

t  2021年回顧 香港 弾圧下でも続く抵抗

t  2021年回顧 アフガニスタン 米軍撤退 タリバン復権

t  2021年回顧 ASEAN 地域平和創出 粘り強く

t  2021年回顧 イスラエル 12年ぶりの政権交代

t  2021年回顧 ジェンダー平等 市民の声 政府動かす

t  2021年回顧 ミャンマー 軍の暴挙に国民抵抗

t  2021年回顧 中南米 新自由主義に批判

t  2021年回顧 COP26開催 脱石炭の流れ加速

t  2021年回顧 核兵器禁止条約 発効、締約国会議へ

2021年回顧 植民地支配 問い直す動き続く

20211231

 過去の植民地支配や奴隷制を問い直す取り組みは今年も続きました。昨年から、欧米で広がった黒人差別に反対する「ブラック・ライブズ・マター」(BLM、黒人の命が大事だ)運動の影響もあり、世論の高まりを受けたものです。

 欧州では旧植民地大国から、略奪美術品の返還が相次ぎました。11月、フランスが西アフリカのベナンに略奪美術品26品を返還。ドイツは4月、19世紀に英軍が略奪した「ベニン・ブロンズ」と呼ばれる美術品を、来年から起源国ナイジェリアに返還を開始すると決定しました。

 ドイツは5月にも、かつて植民地支配していた現ナミビアで、数千人を虐殺し、財産を奪ったことへの償いとして11億ユーロ(約1433億円)を支払うことで、ナミビア政府と合意しました。ただナミビアからは「期待していた金額をはるかに下回った」(ムプンバ副大統領)などと不満も聞かれました。

 アムステルダムのハルセマ市長は7月1日、市が奴隷貿易に積極的に加担していたことを公式に謝罪しました。ハルセマ氏は「植民地時代の奴隷制度に関わる大きな不正義を、都市のアイデンティティーに組み込む時がきた」と強調。同市にある国立美術館で、奴隷制をテーマに特別展を開催し、奴隷制・奴隷貿易を通じて「黄金時代」を築いた自国の歴史を見つめ直しました。

 9月には、フランシスコ・ローマ教皇が、500年前のスペインによるアステカ王国征服の際に、カトリック教会が先住民に残虐な迫害を行ったことを認め、謝罪しました。スペインからの独立200周年にあたってのメキシコ政府への書簡で明らかにしたもので、中南米で大きな反響を呼びました。

 国連総会は9月、「ダーバン宣言」の採択から20年のハイレベル会合を開催。植民地支配は過去にさかのぼって非難されなければならないとした同「宣言」に基づいて、人種差別や外国人嫌悪とたたかうよう各国に求める政治宣言を採択しました。

 11月30日には、カリブ海の島国バルバドスが、エリザベス英女王を元首とする立憲君主制を廃止し、共和制に移行しました。この日は英国からの独立55周年の記念日で、植民地支配の名残を一掃しました。

 

GoTOP

2021年回顧 米バイデン政権 前政権の姿勢を転換

20211230

 昨年11月の米大統領選で現職のトランプ候補(共和)を破り当選したバイデン前副大統領(民主)は1月20日、46代目の大統領に就任しました。ハリス前上院議員は初の女性・人種マイノリティーの副大統領となりました。

 バイデン大統領は、閣僚など政権幹部に女性・人種マイノリティーを数多く起用。LGBT(性的少数者)の閣僚(ブティジェッジ運輸長官)も初めて誕生しました。

 気候変動対策では、自身が4月に主催した「気候変動サミット」(オンライン)で2030年までに温室効果ガスを50〜52%削減(05年比)する目標を示しました。また、トランプ前政権が離脱した地球温暖化防止の国際的枠組み「パリ協定」に復帰するなど、温暖化の科学的根拠を否定した前政権の姿勢を百八十度転換させました。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が続く中、ワクチンの接種を強力に推進する姿勢を提示。根強い「反ワクチン派」の存在等を理由に、国民のワクチン接種はなかなか進みませんでしたが、年末までに62%の国民が2度のワクチン接種を受けるまでになりました(27日現在、ジョンズ・ホプキンス大)。

 新型コロナで打撃を受けた経済や国民生活を回復させるための大規模政策を発表。新型コロナ経済対策法(米国救済計画)、インフラ投資法が議会で通過し、大統領の署名を経て成立しました。しかし、大企業・富裕層増税を財源に、子育て・教育支援、社会保障、気候変動対策を盛り込んだ、1兆7500億ドル(約200兆円)規模の「ビルド・バック・ベター」(より良い復興)歳出法案は、上院で民主党の一部議員が反対し成立が危ぶまれています。

 外交政策では、アフガニスタン駐留米軍の撤退を完了。ただ、タリバン政権復活などの混乱で、バイデン氏の支持率は下落しました。

 新型コロナの感染拡大、サプライチェーン(供給網)の混乱、高インフレが続くなか、バイデン政権への風当たりは強まる一方です。各種世論調査で大統領の支持率は下がり、支持42・9%、不支持53・4%(米政治専門サイトのリアル・クリア・ポリティクス平均、11〜26日)となるなど、人気は低迷しています。

 

GoTOP

 

2021年回顧 中国共産党 習指導部の賛美突出

20211229

 7月1日、中国共産党は創立100年を記念する式典を北京の天安門広場で開きました。習近平総書記(国家主席)が演説し、貧困対策で成果を挙げて「小康(ややゆとりある)社会を全面的に建設した」と宣言。中華人民共和国建国100年の2049年まで「社会主義現代化強国を全面的に建設する目標に意気盛んにまい進している」と訴えました。「中華民族の偉大な復興」を強調し、台湾統一に強い決意を示しました。

 11月には第6回中央委員会全体会議(6中全会)を開き、毛沢東、ケ小平(とう・しょうへい)の時期に続く第3の「歴史決議」を採択しました。決議は「習近平同志の党中央と全党の核心としての地位」「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導的地位」の二つを「確立した」と明記。12年以降の習指導部の時代を突出させ、「長年解決したくてもできなかった難題を解決した」「党と国家の事業は歴史的成果を上げた」と称賛しました。

 中国のある政治学者は「来年秋の第20回党大会以降も習氏が総書記を続ける政治的基礎を固めたと言える」と解説します。

 一方で歴史決議は、民主化運動を武力弾圧した1989年6月4日の天安門事件を改めて正当化。中国全土を混乱に陥れた文化大革命(66〜76年)に関し、「党と国家、人民に新中国成立以来最も重大な挫折と損失をもたらし、痛ましい教訓となった」と指摘したものの、過去の歴史決議が教訓として批判した「個人への過度な権力集中や個人崇拝」には触れませんでした。

 中国の大学教授ら知識人は「近年、個人崇拝が強まっている。異論が抑えられ、思想統制が始まったようだ」と懸念しています。

 中国では新年度の9月から「習思想」を教える授業を小学校低学年から必修化し、教科書も出版。教科書の中には「習おじいさんは仕事で忙しいのに、私たちの活動に参加し、私たちの成長に関心を持ってくれている」と、習氏を称える記述もあります。

 6月に北京に開館した中国共産党歴史展覧館も、習時代の成果が突出。来年の党大会に向け、さまざまな分野で習指導部の成果を強調する宣伝が強まりそうです。(

 

GoTOP

 

2021年回顧 独総選挙 左派主導の政権に

20211228

 ドイツで9月26日、連邦議会選挙(総選挙)が行われ、最賃引き上げや富裕層への増税を掲げた社会民主党(SPD)が第1党となりました。その後の連立協議を経て今月8日、SPDのショルツ党首が新首相に就任。環境保護派の緑の党、企業寄りの自由民主党(FDP)との連立政権が成立しました。

 選挙戦の争点は、気候変動や格差是正、年金問題でした。20年以上続けられてきた新自由主義路線が貧困や格差拡大を生み、その転換を求める票が、CDU・CSUを敗北に追いやりました。4期16年首相を務めてきたメルケル氏率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は選挙で大敗。8・8ポイント減となりました。

 SPDは最賃引き上げや富裕層への増税で社会的公正の実現を約束。かつて、2005年まで続いたシュレーダー政権で、社会保険料負担のない財界寄りの短期・低賃金雇用を導入し、格差を拡大させた教訓を踏まえ、支持を広げました。

 ドイツ西部で7月に発生した洪水は大きな被害を広げ、気候変動問題に一層注目が集まりました。公共放送ZDFの出口調査では、有権者の46%が環境保護を最も重要な政治課題として挙げました。抜本的な気候変動対策を掲げた緑の党は、51議席増やし第3党となりました。

 3党は11月24日、連立政権協定を発表。石炭火力発電の全廃を予定より8年早め、「理想としては」2030年に実現すると明記しました。最低賃金に関しては、現行の9・6ユーロから12ユーロ(約1500円)への引き上げを盛り込みました。

 ただ、財務相にはFDPのリントナー党首が就任。政府の借り入れを制限する「債務ブレーキ」復活も視野に入れるなか、SPDや緑の党が主張する社会的公正の実現がどこまで実現できるのかが問われます。

 協定には、来年3月に予定されている核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加が明記されました。SPDは選挙公約で、オブザーバー参加に言及。緑の党は禁止条約への加入を公約。FDPは「核なき世界への長期的な支持」にとどまっていました。オブザーバー参加は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国としてノルウェーに次いで2カ国目です。

 

GoTOP

 

2021年回顧 香港 弾圧下でも続く抵抗

20211227

 香港では、昨年施行された国家安全維持法(国安法)を使った弾圧が本格化し、選挙制度改変で民主派は政治の場から完全に排除されました。しかし、人権抑圧を受けながらも、香港市民はさまざまな場面で「静かな抵抗」を続けました。

 香港当局は1月、民主派53人を国安法違反容疑で一斉逮捕、その後47人を起訴しました。

 昨年、創業者の黎智英(れい・ちえい)氏が国安法違反容疑で逮捕された香港紙・蘋果(ひんか)日報(リンゴ日報)は、幹部が相次いで逮捕され、資産が凍結されるなどし、6月に停刊に追い込まれました。蘋果日報は香港の言論・報道の自由の象徴として市民に愛されており、停刊は衝撃を与えました。

 幹部らが国安法違反容疑などで逮捕されるなどの圧力を受け、50以上の民主派団体などが解散・活動停止に追い込まれました。その中には、天安門事件の追悼集会を主催してきた「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)、デモ主催団体の「民間人権陣線」(民陣)、香港最大の教員組合「香港教育専業人員協会」(教協)など民主化運動を主導してきた多くの団体が含まれています。

 中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は3月、香港の選挙制度改変を決定。「愛国者による香港統治」原則を持ち込み、民主派は選挙に立候補すらできない仕組みとなりました。今月19日の立法会選挙(定数90)でも、「非親中派」の1議席を除き残りすべての議席を親中派が占めました。

 一方、投票率は過去最低の30・2%で、「白票」などの無効票も投票総数の2%に上りました。当局が選挙を正当化するために投票率を上げようと躍起になる中、制度や政権に不満を持つ市民が棄権という形で「静かな抵抗」をしました。

 6月4日の天安門事件追悼集会は当局に禁止されたものの、数千人の市民が街頭などでろうそくを持ち追悼。蘋果日報の最後の朝刊(6月24日付)は通常の10倍の100万部発行されましたが、早朝から市民が長蛇の列をつくり、完売しました。

 香港のある大学教授は6月、本紙の取材にこう語っています。「香港の市民社会には大きな活力があり、それぞれの方法で抗争を続けるだろう」

 

GoTOP

 

2021年回顧 アフガニスタン 米軍撤退 タリバン復権

20211226

 アフガニスタン駐留米軍は8月末に撤退を完了し、バイデン大統領は「米史上最も長い戦争を終わらせた」と演説しました。アフガン戦争は20年前の米同時多発テロへの報復として当時のブッシュ政権が始めました。戦争を続けてもテロはなくならず、バイデン氏は「テロの脅威は全世界に拡散した」と破綻を事実上認めました。

 米軍が撤退作業を進める一方で、アフガンの武装勢力タリバンは急速に支配地域を拡大。8月15日には首都カブールを制圧しました。米国が支援してきたガニ政権は崩壊しました。

 9月上旬には、主要閣僚全員が男性およびタリバン関係者で占められた暫定政権が発足しました。同時多発テロの首謀者をかくまっているとして、米国が一方的な軍事攻撃で崩壊させたタリバン政権が復活しました。

 米軍の撤退期限を目前にした8月26日にはカブール国際空港付近で自爆テロが発生し、米兵13人とアフガン市民170人以上が死亡。IS系武装勢力が犯行を認めました。

 バイデン政権は翌日、報復として東部ナンガルハル州で無人機攻撃を実施。その後もカブール市内で無人機攻撃を行いました。カブールでの攻撃では子どもを含む民間人10人が犠牲になりました。米軍はのちに誤爆だったと認め、謝罪しました。

 バイデン大統領はテロリストを「地の果てまで追い詰めて代償を支払わせる」と言明。アフガン内外で無人機などを使って対テロ戦争を続ける姿勢を示しています。平和団体などは、テロと報復の悪循環が続くと懸念を表明しています。

 米大学の調査によると、20年間の戦争でアフガンでは約4万7000人もの民間人が亡くなりました。治安部隊や警察関係者の犠牲者は約6万6000人です。戦争で社会と経済は荒廃し、国連によると子どもの餓死が相次ぐなど人道危機が深刻化しています。

 米国側では約2500人の兵士が死亡しました。この間の対テロ戦争で米国が支払った費用は、今後見込まれる帰還兵の治療や戦費調達の利子なども含め約8兆ドル(約912兆円)になります。米国はこれから長期にわたって戦争の代償を支払うことになります。

 

GoTOP

 

2021年回顧 ASEAN 地域平和創出 粘り強く

20211224

 「東南アジア諸国連合(ASEAN)は、インド太平洋の繁栄と安全の要だ」(米バイデン大統領)―。2021年、大国間の対立の強まる国際政治のなかで、インド太平洋とASEANが焦点となりました。

 中国は国際法上否定された一方的な権益主張と行動を南シナ海で継続。マレーシアの資源開発やフィリピンの海洋活動への妨害を繰り返し、10月には中国海警船がフィリピン公船に放水砲を撃つ事件を起こしました。海警局に他国船の管理強化や武器使用を認める改定法も施行しました。

 これらの動きに、フィリピンなど沿岸諸国が抗議や懸念を表明。 ASEANは共同声明に「国連海洋法条約と国際法を擁護する重要性」を盛り込み、国際法の尊重を求める立場で結束を示しました。

 米、英、オーストラリアは9月、豪州の原子力潜水艦配備を中心とする新しい軍事・安全保障協力「AUKUS」を発足させ、南シナ海で対抗する動きを示しました。これにはマレーシアとインドネシアが軍拡競争の懸念を示しました。

 米国や同盟国はこの地域で「ルールに基づく秩序を守る」として、ASEANを重視したインド太平洋政策・戦略を相次いで発表。中国もASEANとの特別首脳会議に習近平国家主席が初出席し、関係を格上げしました。

 ASEANは大国間の対抗への対応を迫られる一方、世界からの理解や関心の高まりを生かして主体的な外交を展開しました。

 「アジア太平洋はすべての国が平等で、いかなる大国の手先でも従者でもなく、法の支配を至上とする平和の地域であるべきだ。ASEANインド太平洋構想(AOIP)の原則と計画に従ったASEANとの協力を歓迎する」(ドゥテルテ比大統領)

 ASEAN諸国は10月の東アジアサミット(EAS)で、AOIPに協力するよう関係国に要求。ASEANが地域平和のために築いてきた諸原則に基づき、インド太平洋で「対抗ではなく協力」を進めるよう迫りました。

 ASEANが米国や豪州と開いた首脳会議の議長声明はASEAN諸規範を順守する重要性を明記し、東南アジア非核地帯条約にも言及。EAS議長声明には東南アジア友好協力条約(TAC)とAOIPの重要性を認める文言が盛り込まれ、厳しい情勢下でも地域平和創出の取り組みを前進させようとするASEANの努力が実った形となりました。

 

GoTOP

 

2021年回顧 イスラエル 12年ぶりの政権交代

20211223

 イスラエル国会は6月、反ネタニヤフ勢力8党でつくる新政権を承認し、連続12年、通算15年にわたり首相を務めたネタニヤフ氏が退陣に追い込まれました。汚職疑惑で起訴されている同氏の退陣を求めるデモが続いていました。

 新首相には右派ヤミナのベネット党首が就任。パレスチナのアッバス議長はイスラエルによる入植活動の継続に対し、「2国家解決策に基づく政治解決の展望を破壊している」と批判しています。

 イスラエルでは一昨年4月以降、4度の総選挙が行われ、全てでネタニヤフ氏の汚職疑惑が問われました。直近の今年3月の選挙では、ネタニヤフ氏が率いるリクードが第1党を維持したものの議席を減らし、同氏を支持する勢力全体で国会過半数の61議席に及びませんでした。選挙後、ネタニヤフ氏は組閣に失敗。第2党イェシュアティドのラピド党首が各党と協議を進めて連立合意しました。

 ネタニヤフ氏は1996〜99年に首相を務め、2009年に返り咲きました。国際法に反して入植地を拡大してきました。

 今年5月、東エルサレム旧市街近くに住むパレスチナ人がユダヤ人入植者に立ち退きを強要されている問題が要因となり、イスラム組織ハマスとの間で大規模な戦闘が起き、ガザではイスラエルの空爆で250人以上が死亡しました。

 同国は1967年の戦争で東エルサレムも占領・併合し、エルサレム全体を「首都」としていますが国際社会は認めていません。パレスチナは東エルサレムを首都とする独立国家の樹立を目指しています。

 ベネット新政権のもとでも、イスラエル当局は東エルサレムとヨルダン川西岸でパレスチナ人の複数の住居などを破壊しています。

 イスラエルとハマスの停戦後、ブリンケン米国務長官は、トランプ前米政権が閉鎖したパレスチナとの外交窓口となるエルサレムの米総領事館を再開する意向を示しました。ベネット氏はこれを拒否しています。

 10月には、イスラエル当局は西岸で約1300棟の入植地住宅建設の入札を公示。さらに約3000棟を建設する計画を進めています。欧州連合(EU)からも「国際法に反している」「建設中止を求める」との批判が出ています。

 

GoTOP

 

2021年回顧 ジェンダー平等 市民の声 政府動かす

20211222

 「パンデミック(世界的流行)から立ち直る機会に、排除と不平等の時代を終わらせよう」―。3月8日の国際女性デーに、国連のグテレス事務総長は訴えました。コロナ禍でさまざまなジェンダー不平等が浮き彫りになる中、世界中の人々の声が政府を動かした1年となりました。

 コロナ禍で生活に困窮し生理用品が買えない「生理の貧困」が深刻化しました。ニュージーランドとフランスでは2月、学生への生理用品の無償提供を決定しました。

 メキシコでは、生理用品が入手できない女性が42%に上り、女性団体「尊厳ある生理」が生理用品の無償化や非課税化を求めて運動。政府は10月、生理用品への付加価値税の撤廃を決めました。

 国連によると、コロナ禍で2人に1人の女性が直接・間接的に暴力を体験しています。

 ギリシャでは、元セーリング選手が過去の性暴力を告発し、「#MeToo」運動に発展。政府は2月、性犯罪に対する処罰の厳格化や被害者支援の強化に踏み切りました。

 エジプトでも、学生運動の圧力で、複数の女性をレイプした男性を当局が逮捕し、「#MeToo」運動が拡大。政府は7月、性犯罪を重罪とし、処罰を厳格化する法律を可決しました。

 「女性に対する暴力撤廃の国際デー」の11月25日には、世界各地で抗議デモが行われ、参加者が「暴力はもうたくさんだ」「私たちは黙らない」と声をあげました。

 米国では、女性の権利を後退させる動きもありました。南部テキサス州で性的暴行や近親姦(かん)による妊娠であっても、胎児の心拍確認後の中絶を禁止する州法が施行され、反対の声が全米に広がりました。10月には、全50州600カ所以上で「女性の行進」が取り組まれ、「私の体のことは私が決める」と訴えました。

 同性婚を法的に認める国も増えています。スイスでは、9月に行われた同性婚の是非を問う国民投票で賛成多数となり、来年7月から同性カップルの結婚が可能となりました。

 南米チリでも12月、同性婚を合法化する法案を圧倒的多数の賛成で可決。当事者や人権団体が長年求めてきたもので、保守・右派政治家にも支持が広がりました。

 

GoTOP

 

2021年回顧 ミャンマー 軍の暴挙に国民抵抗

20211220

 ミャンマー国軍は2月1日、総選挙での勝利を経て政権2期目に入ろうとしていたアウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領ら、国民民主連盟(NLD)政権の幹部を拘束。クーデターで政権を奪い取りました。

 同国がようやく歩み始めた民主化の道を覆す暴挙に対し、ミャンマー国民は空前の規模で立ち上がりました。

 「民主主義を返せ」「ミャンマーに正義を」。クーデターに抗議する数十万人の市民が連日、各地の街頭でデモを実施。市民は民族衣装や職業制服での行進、フラワーデモなどをSNSで世界に発信し、ミャンマーの現状と思いを伝えました。暴力的弾圧の危険を押して街頭に立つ市民の姿に、多くの人が胸をうたれました。

 公立病院や学校などで働く数十万人の公務員が「不当な権力に従えない」と「市民不服従運動(CDM)」とストライキに参加。大学教員2万人、公立学校教員10万人が加わったとされ、軍政は学校や銀行など重要部門を運営不能に追い込まれました。税金不払いや国軍関連商品のボイコットも広がりました。

 国軍は国民の抵抗に激しい弾圧を加えました。3月3日、マンダレーでデモの前線にいたチャルシン(通称エンジェル)さん(19)が治安部隊の銃撃で殺害される事件が発生。国軍は3月〜4月、デモ参加の市民に繰り返し実弾を発砲し、1日で100人以上を殺害するなど暴力を激化させました。

 軍政は4月以降、CDM参加者や民主派の拘束を強化。「政治犯支援協会」によると死者は1300人以上、拘束は累計1万700人に達しています。

 民主派は4月に「国民統一政府(NUG)」を発足させ、少数民族勢力と共同して軍事独裁打倒の政治運動を展開。9月には全土蜂起と戦闘強化を宣言し、各地で「国民防衛隊」と国軍との衝突が激化しています。

 これにより国内で推定60万人の避難民が発生。NUGは村の焼き打ちや拷問など国軍の戦争犯罪を告発しています。

 国民の生活は、新型コロナの感染拡大と軍政下の混乱の二重の危機で困難を極めており、国連は貧困層が4年前の2倍に増加すると予測。それでもミャンマーの民主派と国民は「軍の独裁が終わるまでたたかう」との決意を示しています。

 軍政は、国内で国民からの頑強な反抗と経済・社会危機に直面。国際社会でも孤立を深め、政治的にますます窮地に追い詰められています。

 

GoTOP

 

2021年回顧 中南米 新自由主義に批判

20211218

 中南米地域では、新型コロナウイルスによる累計死者数が150万人以上で全世界の3割近くを占めました。昨年に続き、コロナ禍で浮き彫りになった新自由主義路線の弊害に国民の厳しい目が注がれ、汚職や治安悪化への批判が高まる中、政権交代が相次ぎました。

 コロナ禍の死者数が人口比で世界最悪のペルーでは、6月の大統領選で生まれたカスティジョ左派政権が、医療予算の大幅増や大企業増税などに踏み出そうとしています。

 ホンジュラスでも左派野党連合のカストロ氏が11月の大統領選で右派与党の候補を破りました。同国初の女性大統領の誕生です。カストロ氏は対米自主路線、国民生活重視の政策を掲げています。

 4月のエクアドル大統領選では100日以内の900万人ワクチン接種を掲げた中道右派のラッソ氏が当選。前政権下では、医療や埋葬が新型コロナの感染拡大に追い付かず、路上などに放置された800体近い遺体を警察などが収容する事態でした。

 チリでは5月、新自由主義モデルの土台となってきた現憲法に代わる新憲法づくりに抵抗する与党の右派連合が制憲議会選で大敗し、新憲法制定のプロセスが前進。11月の大統領選では、このプロセスをリードしてきた共産党などの左派連合候補が次点につけました。トップに立った右派候補と12月19日の決選投票に臨みます。

 ニカラグアの11月の大統領選では現職のオルテガ大統領が「圧勝」しましたが、当局が野党の有力候補らを「反逆罪」などで排除した「偽り」の選挙だと多くの国から批判されています。

 経済危機が続くベネズエラからすでに累計で600万人が国外に逃れたと報じられています。11月の地方選では棄権が40%を超えたものの、与党が圧勝。野党の選挙参加は5年ぶりですが、その敗北は内部対立などによる求心力低下のためと指摘されています。

 コロナ禍で60万人以上が死亡したブラジルではコロナ対策を軽視するボルソナロ大統領への批判が拡大。上院調査委員会は10月、死者を増やす過失があったとの判断を下し、同大統領に対する訴追を検察に勧告しました。

 

GoTOP

 

2021年回顧 COP26開催 脱石炭の流れ加速

20211217

 英北部グラスゴーで11月13日まで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は、石炭火力発電の段階的削減の加速に言及する成果文書を採択して閉幕しました。個別のエネルギー源に触れた異例の文書は、世界で脱石炭の流れが加速していることを印象付けました。

 英国は「石炭火力を歴史に追いやる」(シャーマ議長)との方針のもと、脱石炭に向けた声明を発表。「排出削減措置のない石炭火力から、先進国は2030年代に、世界全体では40年代に離脱する」との内容を盛り込んだ声明には、40超の国・地域が署名しました。

 日本が石炭火力建設を支援するベトナムやインドネシアも賛同しました。シンガポールは、脱石炭連盟(PPCA)に新たに加盟。アジアでも脱石炭が進みつつあると明らかになりました。一方、石炭火力に固執する日本の姿勢は悪目立ちし、温暖化対策に後ろ向きの国に贈られる「化石賞」を前回に続き受賞しました。

 石炭だけでなく、他の化石燃料からの脱却を見据えた動きもありました。デンマークと中米コスタリカが主導して発足したのは「脱石油・天然ガス連盟(BOGA)」です。記者会見では「化石燃料の時代は終わった」(スウェーデンの副首相兼環境・気候変動相)との発言が相次ぎ、世界各地のメディアが大きく報じました。大規模な産油国は加わっていないものの、石炭以外の化石燃料からも脱しようという動きに、注目が集まりました。

 岸田氏が石炭に固執する姿勢を示した演説には、厳しい声が上がりました。アフリカ気候正義連盟(PACJA)のハメド・ファシーさん(33)は「石炭から撤退しよう。これが私のメッセージだ」と語りました。

 成果文書では他にも、各国の温室効果ガス排出削減目標の強化を呼びかけました。気候変動の国際的枠組み「パリ協定」で定めた世界の平均気温の上昇を産業革命から2度未満、できれば1・5度未満を目指すとした目標に関しても「1・5度に抑える努力を追求する」と踏みこみました。「この10年間の行動が決定的」と言われるなかで開かれた会議は一定の「成果」があったものの、合意内容の具体化については課題が残りました。

 

GoTOP

 

2021年回顧 核兵器禁止条約 発効、締約国会議へ

20211216

 核兵器禁止条約は昨年10月、批准国が発効に必要な50カ国に到達し、条約の規定で今年1月22日に発効しました。史上初めて、核兵器は国際的に違法なものとなりました。その後も批准国は増え、今月14日までに57カ国となりました。署名国は86カ国です。

 発効にあたって、国連のグテレス事務総長は「核兵器のない世界にむけた重要な一歩だ」と歓迎。市民社会、特に「核爆発や核実験の生存者が痛ましい証言を行い、それが条約の道徳的な力になった」と称賛しました。

 最大の核保有国、米国のバイデン大統領は大統領選で「核兵器の役割を低減させる」と公約したものの、今年発足した同政権は同条約を「核軍縮の目標を達成するのに何の役にも立たず、米国は支持しない」(ブリンケン国務長官)などと敵視し続けました。

 しかし、核保有国に核軍縮を迫る草の根の声は世界中で広がりました。

 米国で人口3万人以上の約1400市で構成する全米市長会議は8月末「核兵器禁止条約への反対を見直し、同条約を核なき世界の実現に関する包括的な合意交渉に向けた前向きな一歩として歓迎する」よう政府に求める決議を採択しました。

 条約で発効後1年以内に開かれるとされた締約国会議は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)を受けて、来年3月にオーストリアのウィーンで第1回が開かれます。

 今年10〜11月に開かれた第76回国連総会の第1委員会(軍縮・安全保障問題)では、核軍縮には「国際安全保障環境を考慮に入れた段階的プロセス」が最良だと核保有大国が主張するのに対し、「締約国会議を支持する」との発言が相次ぎました。12月の本会議では、決議「核兵器禁止条約」が4年連続で採択されました。

 ノルウェーでは、10月の総選挙結果を受けてできた新政権が締約国会議へのオブザーバー参加を表明。北大西洋条約機構(NATO)加盟国で初めてとなりました。

 ドイツでも、社会民主党、緑の党、自由民主党の3党連立で12月に発足したショルツ新政権が、前月に発表した3党連立政権協定で締約国会議へのオブザーバー参加の意向を表明しました。

 

GoTOP