【シリーズもの】

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11月)〜(12月)

 

*        シリーズ核兵器のない世界を/大阪/ヒバクシャ国際署名のとりくみ/上/寝屋川市/人口3割目標に幅広く

*         シリーズ核兵器のない世界を/大阪/ヒバクシャ国際署名のとりくみ/下/大阪市西淀川区/「継ぐ」若い世代が元気

*         シリーズ核兵器のない世界を/禁止条約実現へがんばる被爆者/松山五郎さん大阪/国連の決議を励みに

*        臨時国会/共産党議員団の奮闘/1/強行採決国会=^道理と筋通し共闘で対決

*        日ロ首脳会談/領土問題進展なし/道理なき交渉大失敗

*        そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その1/新しい時代開いた力って?

*        そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その2/格差と貧困の拡大とは?/経済ただす4改革を

*        そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その3/世界に広がる新しい動きって?/その1

*         そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その3/世界に広がる新しい動きって?/その2

*         そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その4/「平和の対案」って何?/その1

*        そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その4/「平和の対案」って何?/その2

*        そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その5/歴史が決着、三つのたたかい

*        地球と宇宙の平和/インドで議論/日本共産党副委員長緒方靖夫/2/「ヒバクシャ国際署名」注目

*        「映画の未来」と出合う/映画祭第17回東京フィルメックス/社会と切り結び、もがく人間像/松岡環

*        シリーズ今こそ聞きたいTPP/時代遅れのモデル/格差・貧困助長する

*        シリーズ今こそ聞きたいTPP/ISDS条項/上/外国企業が政府を提訴

*         シリーズ今こそ聞きたいTPP/ISDS条項/下/暮らしも主権も脅かす

*        シリーズ今こそ聞きたいTPP/日米同盟強化/早期批准へ突き動かす

*        シリーズ今こそ聞きたいTPP/批准進まない背景/各国でも強い反対運動

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/1/強権・全土で・戦争法対応/暴力で弾圧してまで―過去に例なし

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/2/沖縄、新たな「銃剣とブルドーザー」

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/3/自衛隊増強、広がる反発/沖縄・奄美に「初動隊」配備計画

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/4/佐世保・佐賀で自衛隊版「海兵隊」/日米殴り込み°駐_に

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/5/岩国・最新鋭機の重大事故で自治体反発/極東最大の米航空基地へ

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/6/米軍機爆音眠れない/米軍のため新空中給油機配備へ

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/7/米「本土防衛」の最前線/日米一体化が年々強化

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/8/F35戦闘機整備拠点に/オスプレイ訓練が激化

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/9/配備強化と日米軍事一体化/横須賀・厚木

*        シリーズ安倍政権下で進む基地強化/10/進む拠点化、自動参戦の危険/横田

*         シリーズ今こそ聞きたいTPP/多国籍企業に利/農業・地域経済に打撃

*         シリーズ今こそ聞きたいTPP/農産物輸入が拡大/最悪の農業破壊協定

*         シリーズ現代の視点/東京理科大学教授大庭三枝さんに聞く/南シナ海とASEAN

*            10月)

*         「しんぶん赤旗」いま読みどき/安倍政権とメディア/シリーズ「部活って何」

*         シリーズ今こそ聞きたいTPP/貿易だけではない/労働・環境まで多分野で

*         シリーズ今こそ聞きたいTPP/秘密の交渉過程/詳細を明らかにしない

*         シリーズ今こそ聞きたいTPP/批准急ぐ安倍政権/大企業のため規制緩和

*         シリーズ安倍改憲を問う/無言館館主窪島誠一郎さん/平和憲法を守るために無言≠ナはいられない

*         シリーズ安倍改憲を問う/俳人長谷川櫂さん/弱者を守る社会つくろう/これが憲法のメッセー

*         シリーズ安倍改憲を問う/伊藤塾塾長・弁護士伊藤真さん/憲法読み解く力、市民がしっかり

*         シリーズ安倍改憲を問う/芥川賞作家諏訪哲史さん/9条は「無敵の盾

*         シリーズ・アラブ民衆蜂起5年/モロッコきょう下院選挙/なお大きい国王の力

*        9月)

*        「維新」政治どうみる/Q&A/1/参院選で果たした役割/「改憲反対勢力」つぶし

*        維新」政治どうみる/Q&A/2/ルーツと狙い/行き詰まり大阪市解体へ

*        「維新」政治どうみる/Q&A/3/大阪でやってきたこと/その1/「格差と貧困」の拡大

*        シリーズ安倍改憲を問う/ジャーナリスト『日本会議の正体』の著者青木理さん/民衆を縛る建て付け

*         「維新」政治どうみる/Q&A/4/大阪でやってきたこと/その2/異常な競争、教育破壊

*        「維新」政治どうみる/Q&A/5/大阪でやってきたこと/その3/独裁的手法と破綻

*        「維新」政治どうみる/Q&A/6/「異質の危険」/「オール大阪」の共同

*        「維新」政治どうみる/Q&A/7/堺市長選・住民投票/画期的な共同の勝利

*         「維新」政治どうみる/Q&A/8/ダブル選での「野合」攻撃/「異質の危険」に共同

*         「維新」政治どうみる/Q&A/9/「大阪都」構想/ラストのはずがまた

*         「維新」政治どうみる/Q&A/10/「強み」と「弱み」/民主的な改革を示し

*        韓国財団が安倍首相に「おわびの手紙」要請

*        8月)

*         シリーズ数値が示す日本経済/商店/生活支える小売業が減少

*         シリーズ数値が示す日本経済/エネルギー/猛暑でも原発必要なし

*         シリーズ数値が示す日本経済/消費/収入乏しく生活切り詰め

*         シリーズ数値が示す日本経済/雇用・賃金/非正規4割、賃金は最低

*         シリーズ数値が示す日本経済/海外生産比率/自動車2倍、空洞化拍車

*         シリーズ数値が示す日本経済/農業・農村/下/TPPが危機に追い打ち

*         シリーズ数値が示す日本経済/農業・農村/上/自民農政で崩壊の危機

*         シリーズ数値が示す日本経済/中小企業/休廃業・解散が高水準

*         シリーズ数値が示す日本経済/金融/下/取引の7割が海外筋

*         シリーズ数値が示す日本経済/金融/上/日銀が国債の3割保有

*         異次元緩和破綻/上/政府と危険な一体化

*         異次元緩和破綻/下/株価つり上げ格差拡大

*        シリーズ自民党改憲案の論点/識者に聞く/東海大学法科大学院教授永山茂樹さん/緊急事態条項で独裁へ

*        シリーズ自民党改憲案の論点/識者に聞く/東海大学法科大学院教授永山茂樹さん/自民党改憲案は戦時を想定

*        7月)

*        フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/1/つくり手もハッピーに

*        フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/2/「友産友消」で生活安定

*        フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/3/人のつながりが見える

*        フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/4/負の連鎖を断ち切る

*        フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/5/未来へ意思示す消費者に

*        英報告書、日本も問われる/イラク戦争検証シンポ/NPO

*        6月)

*        地域医療の先行きは

*        介護者支援を考える/支援法制定へ提言/東京でシンポ

*        歴史教科書のこれから/研究団体などがシンポ

*        シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/9条にたった平和外交戦略

*        保育事故と規制緩和/上/認可外で事故多発

*        保育事故と規制緩和/中/病死≠ナ事故隠し

*        保育事故と規制緩和/下/命と未来の分岐点

*        大企業決算の特徴/2016年3月期/上/自動車/海外拡大で6社増収増益

*        大企業決算の特徴/2016年3月期/中/電機/好業績から一転、停滞感

*        大企業決算の特徴/2016年3月期/下/銀行/国債売却で差額を稼ぐ

*        安保法制に反対/大学人がシンポ/山梨

*        少年法/年齢引き下げ批判/日弁連シンポで専門家

*        福井で憲法誕生70年講演会/安倍政権を許せない

*        平和主義考える弁護士会シンポ/札幌

*        行動する若い世代、語る/日本母親大会、新しい試みも/8月20〜21日、石川と福井

*        ひと/エキタス(AEQUITAS)京都を立ち上げた橋口昌治さん(38

*        白タク「反対」/労働者らがシンポ開催/乗客の安全どう確保/乗務員の身分保障は/仙台

*        大企業決算の特徴/2016年3月期/上/自動車/海外拡大で6社増収増益

*        大企業決算の特徴/2016年3月期/下/電機/好業績から一転、停滞感

*        シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/原発ゼロ、再生エネ先進国へ/自然エネルギー市民の会代表・日本環境学会元会長和田武さん/再生エネ倍増すればGDPが最も上昇する国

*        シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/原発ゼロ、再生エネ先進国へ

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*        5月)

*        シリーズ5兆円突破の軍事費/各国が削減すれば世界はどう変わる

*        シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/雇用ルール確立/「働き方」変える

*        シリーズ5兆円突破の軍事費/兵器購入見直し、保育に財源回せ/保育士・町田ひろみさん

*        シリーズ5兆円突破の軍事費/オスプレイ1機で100の保育所

*        女性参政権100年まもなく/広場に記念像設置へ/ロンドン市長表明

*        シリーズ学問はおもしろい/阪南大学教授桜田照雄/思考の力で現実解きあかす「わかった!」の実感が喜び

*        シリーズ5兆円突破の軍事費/1割超、米軍のため/武器、米から爆買い

*        シリーズ5兆円突破の軍事費/大軍拡の借金/国民1人3万7000円

*        シリーズ5兆円突破の軍事費/大軍拡の借金/憲法の財政原則に違反

*        シリーズ・テロとどう向き合うか/イスラム協力機構事務局長顧問アブドル・ボカリ氏/テロ、宗教と結びつけない

*        シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/税金の集め方/能力に応じた税負担

*        4月)

*        韓国総選挙/変革求める人々/上/政権への厳しい審判

*        韓国総選挙/変革求める人々/中/地域主義から新時代へ

*        韓国総選挙/変革求める人々/下/青年の一票、政治動かす

*        シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/共済/全国保険医団体連合会事務局次長橋本光陽さん/米保険業界参入が狙い

*        3月)

*        シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/中小企業/駒澤大学教授吉田敬一さん/存立基盤を脅かす危険

*        シリーズ待ったなし!戦争法廃止/南シナ海で戦略的寄港活発化/海自、米軍追随の艦艇派兵すでに

*        シリーズ待ったなし!戦争法廃止/北海道千歳市の北部方面隊で編成、南スーダン派遣部隊/宿営地共同防護の危険

*        シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/金融/弁護士和田聖仁さん/危機防ぐ規制を妨害

*        シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/国有企業/「TPPに反対する人々の運動」世話人近藤康男さん

*        シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/ISD条項/弁護士岩月浩二さん/基準は外国企業の利益

*        シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/食の安全/日本消費者連盟前共同代表山浦康明さん/消費者の権利奪われる

*        シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/農産物/農民連国際部副部長岡崎衆史さん/行き着く先は関税ゼロ

*        シリーズ・テロとどう向き合うか/インドネシア/イルファン・イドリス氏に聞く/平和がイスラムの教え

*        シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/労働/全国労働組合総連合(全労連)国際局長布施恵輔さん/基準引き下げの懸念

*        安倍政権補完勢力おおさか維新/上/改憲政党℃相にアピール

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【本文】

11月】〜【12月】

日ロ首脳会談/領土問題進展なし/道理なき交渉大失敗

 「みなさん、がっかりすることになりますよ」。政府高官が予告していた通り、15、16両日に行われた安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との首脳会談は共同声明も出されず、最大の懸案事項である領土問題で何の進展もなく、大失敗に終わりました。トランプ新政権のもとでの日米関係の不透明さとあわせ、外交で政権浮揚を図るという安倍首相の戦略にほころびが見えてきました。
 (竹下岳、山田英明)

重大な主権放棄にも
 首脳会談は初日、首相のおひざ元である山口県長門市で始まりましたが、プーチン大統領が予定より約2時間40分遅れて到着するという波乱の幕開けとなりました。
 さらにプーチン氏は会談の冒頭、「温泉に入れば会談の疲れが取れる」と語りかけた安倍首相に対して、「大事なのは疲れない交渉をすることだ」とあしらいます。当初からロシア側のペースで進むことを予感させました。
 果たして結果は、その通りになりました。
 首相は16日午後の共同記者会見で、「私たちの話し合いの進展を70年以上、待ち続けている」と述べ、旧ソ連の不当な領土拡大で故郷を追い出された択捉、国後、歯舞、色丹の元住民に思いを致すかのような発言を行います。しかし、日本側は領土問題を先送りした上での「共同経済活動」で合意。これに関して16日付のロシア経済紙ベドモスチは1面トップで「(共同経済活動について)ロシアの主権を認めることになりかねず、日本は拒否してきた。日本がこの道を歩み始めるとすれば、日本からの非常に大きな、いわば歴史的な譲歩だ」との元駐日大使のコメントを紹介しています。
 平均81歳になるという元住民を裏切る、重大な主権放棄につながりかねない内容です。「日本を取り戻す」という第2次安倍政権発足当時のスローガンは、もはや雲散霧消したといわざるをえません。
 首脳会談では、「新しいアプローチ」と称して、日本側が提案した8項目の経済・民生協力プランに基づき、政府間で12件、民間レベルでは60件を超える協力案件で合意。民間を含めた日本側の協力は総額3000億円にも上ります。プーチン大統領は共同記者会見で、これら経済協力の具体的な項目を一つひとつ、誇らしげにあげました。
 しかし、領土問題では「四島返還」どころか、北海道の一部である歯舞・色丹の返還についても、「1956年の日ソ共同宣言(別項)では日本に受け渡すことになっているが、どのような形で、受け渡すかは明快に提起されていない」として否定的な見解を示しました。ロシア側は領土問題で自らの主権≠ヘ放棄せず、一切の譲歩≠燻ヲしていません。
 経済協力をテコに、ロシア側の見返りを期待する「道理ない」交渉では、領土問題の前進には向かわないことが、改めて浮き彫りになりました。

対ロ制裁の逆行行為
 日本政府は、ロシアによるウクライナへの軍事介入問題に対して国際社会が行う経済制裁に参加しています。
 そもそも5月の主要7カ国(G7)伊勢志摩サミットの首脳宣言に、議長としてロシアへの制裁の再確認を盛り込ませたのは安倍首相自身でした。
 欧州連合(EU)は15日の首脳会議で、対ロシア経済制裁の延長を決めています。
 領土交渉の「前進」に付け込まれ、軽々しく経済協力の拡大に合意することは、制裁への逆行行為と、国際社会から批判されかねない行為です。

「不公正」の是正こそ
 日本政府は、「北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」との方針に固執。安倍首相は11月25日の参院本会議で、日本共産党の井上哲士議員の質問に、「サンフランシスコ平和条約第2条C項(別項)を一方的に破棄して、千島列島等の返還を求めることはなしえない」と言明しました。
 政府は、サ条約のこの条項を不動の前提として、領土交渉を進めるために、「国後、択捉は千島列島にあらず。だから返還せよ」と主張してきました。
 「千島列島は北千島と南千島の両者を含む」というサ条約批准当時の自らの見解もなげすて、「国後、択捉は千島列島にあらず」と主張する日本政府の姿勢は、歴史的にも国際法的にも通用しません。
 日ロ領土問題の根源は、旧ソ連のスターリンが「領土不拡大」という第2次世界大戦の戦後処理の大原則を踏みにじり、「千島列島の引き渡し」を求め、米英がその要求に応じ、「ヤルタ秘密協定」に書き込まれたことにあります。サ条約の「千島列島の放棄」条項は、その不公正の延長線上に立ったものです。
 問題解決のために必要なのは、戦後処理における不公正を「領土不拡大」という国際的な道理に立ち戻って是正することが必要です。
 「領土不拡大」の原則に立つならば、日ロ両国が平和裏に国境を画定した領土交渉の到達点(=1855年の日魯通好条約、1875年の樺太・千島交換条約)に立つのは当然です。つまり、全千島列島が日本の歴史的領土となった到達点を交渉の土台に据えなければなりません。
 日本政府は、サ条約の千島関連条項が第2次世界大戦の戦後処理の大原則に背く不公正なものだったと認識し、この条項を廃棄・無効化し、千島返還を要求する国際法上の立場を確立すべきです。その上で千島列島の全面返還を内容とする平和条約締結の交渉を行うべきです。
 この立場での交渉を行ってこそ、国後、択捉の返還の道も開けてきます。

サンフランシスコ平和条約2条C項(1951年)
 日本による千島列島の放棄を定めた項目。「日本国は、千島列島並びに日本国が1905年9月5日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」としている。
 

日ソ共同宣言
 1955〜56年の日ソ国交回復交渉で最終的に結ばれた。この中で、「ソビエト社会主義共和国連邦は、…歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、…平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」としている。
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2016年12月17日,「赤旗」)

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臨時国会/共産党議員団の奮闘/1/強行採決国会=^道理と筋通し共闘で対決

 9月下旬に始まった臨時国会が17日、閉幕しました。安倍政権と自民・公明・維新の悪政推進ブロックに、野党間や市民との共闘を進めて対決し、政治を前向きに動かすために奮闘してきた日本共産党国会議員団が果たした役割を振り返ります。

 大手紙でも「採決強行国会」(「朝日」16日付)と特徴づけるほど強行採決が繰り返された臨時国会。議会制民主主義の道理を訴えて、筋を通し、政府・与党の強権的な国会運営をただしてきたのが日本共産党です。
 年金カット法やカジノ解禁推進法への「反対」は、成立直前の世論調査では「賛成」のそれぞれ2倍・3倍以上(NHK調査)。環太平洋連携協定(TPP)にも多くの国民が不安や疑問を抱き、慎重な審議を求めていました。

多数頼み#癆サ
 「にもかかわらず『こんな議論何時間やっても同じだ』と採決を強行し、国会と国民をないがしろにした安倍政権の責任は重大です」。15日未明の衆院本会議で内閣不信任案の賛成討論に立った日本共産党の穀田恵二国対委員長の声が響きました。
 日本共産党はこの間、政府・与党から相次いだ「強行採決」けしかけ#ュ言を「審議を通じて国民の理解を得るという基本的見地が欠けている。根本には国会での多数を頼み、数で通せばいいという発想がある」(穀田氏)と厳しく批判。TPPについては、慎重審議を求める国民の声に応える、全分野での参考人質疑や10カ所での地方公聴会などを含む、徹底審議を求めました。
 衆院でTPP承認案が本会議の開会をめぐって協議が続けられている最中に強行開会された特別委員会で採決された際には、衆院規則に照らしてもルール違反であることを明らかにし、佐藤勉議院運営委員長も「ルール上はできない。こんなことがまかり通れば議運はいらない」と語りました。
 共産、民進、自由、社民の4野党国対委員長が、強行採決のたびに強く抗議し、大島理森衆院議長にしかるべき対応を申し入れると、議長も「決して平穏な状況のもとで採決が行われたわけではない」(TPP承認案)と認め、「提出者の努力で充実した審議ができなかったのかという思いがある」(カジノ法案)と語らざるを得ませんでした。
 15日の討論で穀田氏はこう主張しました。

理解得られない
 「そもそも、国会審議の責務とは、法案の内容、国民の生活や権利がどうなるのかを国民に明らかにすることにある。いくら国会で多数を占めていても、それは国民から白紙委任を得たものではない。国民が納得できる徹底審議で政治を進めるのが議会制民主主義ではないのか」
 与党と維新が繰り返した強行採決は、その政策があまりにも国民の利益に反しているために、いくら審議しても国民の理解を得ることができないという国民との深刻な矛盾を示しています。たたかいはこれからです。
 (つづく)
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2016年12月19日,「赤旗」)

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シリーズ核兵器のない世界を/大阪/ヒバクシャ国際署名のとりくみ/上/寝屋川市/人口3割目標に幅広く

 大阪原水協は、核兵器を禁止し廃絶する条約を結ぶことをすべての国に求める「ヒバクシャ国際署名」を、883万8000人の大阪府民過半数を目標に頑張るよう呼びかけています。先進的なとりくみをする寝屋川市と大阪市西淀川区を歩きました。
 (大串昌義)

 寝屋川市では、11月23日、原爆被害者の会(広長友の会)が中心になって、寝屋川労連や新日本婦人の会、革新懇など8団体が加わっている市段階の「ヒバクシャ国際署名」推進協議会を結成しました。まずは人口23万7000人の3割、8万人をめざしています。会長は、広島で被爆した「広長友の会」会長の山川美英(よしひで)さん(75)です。

市長に協力要望
 「広長友の会」は10月25日、北川法夫市長に「被爆者のアピール『核兵器廃絶国際署名』の運動にひきつづきご協力をおねがいしたい」という要望書を提出しました。
 「日本非核宣言自治体協議会及び平和首長会議と連携を図りながら、核兵器廃絶、恒久平和の実現に取り組んでおります」と、歴代市長として初めて回答が返ってきました。山川さんは笑顔を浮かべながら、「近々、市長に署名してもらい、市として運動してほしいと要請するつもりです」と語ります。
 山川さんは、府段階の推進連絡会をつくり、宗教界や教育界など幅広い大きな運動にしたいと意気込みます。推進協議会の中谷光夫事務局長(寝屋川原水協事務局長)は「署名の集約は広長友の会がしています。寝屋川は大阪でも特に被爆者のみなさんが元気です」といいます。

被爆者が力発揮
 「広長友の会」は、用紙の現物が届いた6月から署名を始めました。
 被爆者同士が励ましあい、市民や友達、親戚に署名協力を呼びかけています。「被爆者は、何かできることをしたいと思っているのです」と山川さん。自分の名前を書き、82円切手を貼った署名入り返信用封筒を常に持ち歩いています。
 ヒバクシャ国際署名の1回目の国連提出(10月6日)は56万人余でした。寝屋川市では9月までに1000人分を集めました。
 広島の爆心地から4`bで被爆した松山五郎さん(87)は、署名の束を大阪原水協の小松正明事務局長のもとに持っていきました。「この署名はみんなして取り組める。これで世界中を包囲すれば、核兵器は地球上からなくせると思います」
 (つづく)
(
2016年12月20日,「赤旗」)

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シリーズ核兵器のない世界を/大阪/ヒバクシャ国際署名のとりくみ/下/大阪市西淀川区/「継ぐ」若い世代が元気

 集合住宅が立ち並ぶ人口9万5000人の大阪市西淀川区。住民過半数の5万にあたる「ヒバクシャ国際署名」を集めようと、若い世代が元気です。
 全国福祉保育労働組合西淀川福祉会分会よどっこ保育園班の保育士、内田知也さん(25)は長崎生まれの被爆3世です。
 甲状腺がんで亡くなった祖母が、怖がって被爆のことを語れなかったといいます。建物が壊れたり、友人を亡くしたりしたからではないかと考えています。

自分たちの声を
 保育士になった3年前から駅前で核兵器廃絶署名を呼びかけています。「ヒバクシャ国際署名」は100人分集めています。「子どもたちが笑顔を絶やさないためにもっと集めたい。核兵器や原発などあってはいけません」
 唯一の被爆国なのに、国連総会第1委員会で核兵器禁止条約の締結交渉国際会議を来年開く決議に「反対」し、被爆者を苦しめる政府に怒りをぶつけます。「国連には、政権の声でなく、自分たちの声を通してもらいたい。国際署名を、大阪で、日本で集めきって、被爆国として数多く集めたと世界にアピールしたい」
 この8月広島でおこなわれた原水爆禁止世界大会に初めて参加したのは、同分会みどり保育園班の保育士、藤田かなえさん(25)です。
 原爆資料館には小学生の時行ったことがありました。改めて見学しました。「世界大会に行って、原爆は怖いものだとわかりました。体験を周りに伝えることが大切だと考えています」と話します。
 毎日当たり前に暮らせるのはみんなが平和をつくっているからだと学びました。戦争やテロで核兵器が使用される脅威に直面していることも。学んだことは街頭署名の対話で活用しています。

「戦争はあかん」
 「戦争のなかでも怖いのが核戦争。なんとしても区民過半数の署名をやりきる」
 こう語るのは、「戦争あかん!西淀川実行委員会」事務局長を務める西淀川労連の矢野正之副議長です。
 区内の労働組合、市民・女性団体でつくる同実行委員会。戦争法廃止の2000万署名を共同して取り組みました。「1月から5月までの5カ月で3万超集めた経験は初めて。規模も速度も違った。この運動を継続したい」
 「戦争あかん!! あなたの署名が世界を変える ヒバクシャ国際署名にご協力を!!」と書かれた横断幕を掲げて宣伝しています。
 連合系や純中立の労働組合へも対話に足を踏み出しています。
 来年3月、6月から7月、国連で核兵器禁止条約の締結交渉会議が開かれます。条約締結に賛成する圧倒的多数の国を後押しする草の根の運動が必要だと強調する矢野さん。「特に3月に世論を盛り上げることが否応なく迫られます。『6・9』行動、集合住宅への署名ローラーを成功させたい」と力を込めます。
 (この項おわり)
(
2016年12月21日,「赤旗」)

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シリーズ核兵器のない世界を/禁止条約実現へがんばる被爆者/松山五郎さん大阪/国連の決議を励みに

 国連総会が核兵器禁止条約の交渉会議決議を採択した背景に、被爆者を先頭にした日本の反核平和運動がありました。被爆体験を語り、「ヒバクシャ国際署名」にとりくむ被爆者は「生きている間に何としても核兵器のない世界を実現したい」と元気に活動しています。
 (大串昌義)

 大阪府寝屋川市に住む広島被爆の松山五郎さん(87)は、府内で行われる被爆証言を聞く会や「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」、「ヒバクシャ国際署名」行動に精力的に出て行って、核兵器全面禁止・廃絶を訴えています。
 松山さんは71年前の8月6日、広島市の旧制中学4年生(16歳)の動員学徒として、爆心地から4`b離れた三菱造船所(南観音町)の事務所で軽作業をしていました。
 窓越しに紫色の巨大な閃光(せんこう)が走りました。防空壕(ごう)へ一目散に駆け込みました。
 学校の指示で学徒が解散したのは午前11時すぎ。外へ出ると、診療所をめざして列をなしているおびただしい負傷者が見えました。誰もが黙って、むき出しの両手を胸の前に出し、髪はボウボウ、服はボロボロの姿でした。

心の傷
 松山さんは、爆心地から1・8`bの寄宿舎の室長で、下級生の安否が気になりました。戻る途中の土手には、幼稚園の先生らしきひん死の人。先生の近くの人から「学生さん、荷車にのせて運んでくれ」と求められ、「人を連れてくる」といってその場を立ち去りました。「言い訳にしかならない」。心に傷を負いました。
 被爆後、腕に紫色の斑点が現れ、歯茎からの出血、脱毛、激しい下痢に苦しみました。
 戦後、広島で教員をしていましたが、体験は語りませんでした。放射能に対する偏見が怖かったからです。
 1995年に大阪に引っ越しました。広島から来たことを伝えて以降、寝屋川市原爆被害者の会(広長友の会)の人たちと毎年写真展を開く活動をしています。2005年からの核不拡散条約(NPT)再検討会議から、大阪代表団としてニューヨーク行動に参加。
 広長友の会40周年の08年、77人の被爆体験をまとめた「八月のあの日」の編集責任者を務めました。「ここから被爆者同士が積極的に活動するようになりました」と振り返ります。
 広島に帰っても、現場の土手だけは行けなかった松山さん。体験集ができたとき、1人で広島に行き、花を供えました。「負い目の何分の1かは返すことができました。被爆体験を後世に伝えることが生きている人間のやるべき仕事です」

仲間と
 11月29日の大阪市西淀川区の塚本駅前。「戦争あかん!西淀川実行委員会」が宣伝すると聞き、駆けつけ訴えました。22歳の若者が「おっちゃんが被爆者やって聞いて、署名やらなあかんと思ってん」と話し、「署名書いたって」と仲間を呼ぶ場面があったといいます。
 17年6月の核兵器禁止条約の交渉会議にぜひ行きたい≠ニ意気込む松山さん。「国連総会決議はうれしいし励みになります。命ある間に禁止条約をみたい。そのために追い込みをかけるのは『ヒバクシャ国際署名』だと思います。日本の署名活動が世界中に広がるよう頑張りたい」と力をこめます。(随時掲載)
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2016年12月27日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/10/進む拠点化、自動参戦の危険/横田

 アジア地域の米軍の空輸拠点だった横田基地(東京都福生市など5市1町)は、@作戦地域へ部隊を送り込む拠点基地Aアジア地域の米軍と日本を含む同盟国の航空部隊を指揮する司令部―として姿を変えようとしています。横田基地の変貌は、米軍がインド・アジア太平洋地域で軍事作戦を開始すれば、戦争法の下、自動的に日本が集団的自衛権を行使し参戦する危険につながります。
「すさまじい音がして、窓ガラスがガタガタ震えました。戦争でも始まったんじゃないかと思いました。ここをついの住み家≠ニ思っていましたが、このまま住んでいけるか不安になりました」
 基地北西に隣接する瑞穂町の都営団地に住む女性(73)は振り返ります。今年7月30日〜8月5日かけて、米軍三沢基地(青森県三沢市)のF16戦闘機14機が飛来し、爆音をまき散らしました。マレーシア軍との共同演習後、三沢基地への帰還途中でした。

海外に出撃
 1月にも嘉手納(沖縄県)と烏山(オサン=韓国)両基地での演習に参加する米アラスカ州のF22戦闘機14機が飛来しました。
 東京平和委員会の岸本正人事務局長は「多数の戦闘機が一度に横田基地へ飛来するのはベトナム戦争(1964〜71年)以来という異例の事態。米本土や日本国内の米空軍部隊が、アジア各地への展開で横田を使い、軍事力を誇示する一つの作戦になっているのではないか」と指摘します。
 横田基地部隊の海外展開訓練も実施されています。
 昨年11月1〜4日にかけ同基地配備のC130輸送機が、日米合意で飛行が制限されている午後10時〜午前6時の時間帯に離着陸しました。同時期に韓国で実施された夜間出撃訓練を含む米韓合同演習に関連したもの。横田基地を離陸したC130は嘉手納と三沢に展開し、韓国への物資・兵員の輸送を行いました。
 2011年11月以降、C130輸送機による編隊・低空飛行や、パラシュート降下訓練が首都圏とその周辺で行われ、関東甲信と静岡の9都県に広がる訓練飛行ルートも明らかになりました。(地図)
 今後、2017年後半からは特殊作戦部隊を敵地深く送り込むためのCV22オスプレイ特殊作戦機10機の配備が始まり、基地に隣接するIHI(旧石川播磨重工業)瑞穂工場(瑞穂町)には、F35ステルス戦闘機エンジンの整備拠点の建設が進んでいます。

軍事作戦へ
 もう一つの大変貌は、横田基地の第5空軍司令部が、2000年代初めから米軍が進めた統合作戦体制に対応した軍事作戦司令部に転換したことです。
 米軍の統合作戦体制は、1人の司令官が陸海空・海兵隊のすべての部隊を指揮する体制です。全体を指揮する統合任務部隊司令部のもとで、航空部隊を指揮する「統合部隊航空構成司令部」としての役割を担うのが、第5空軍です。
 その転換は米軍単独でなく、航空自衛隊と一体で、オーストラリアなど他の同盟国も含めた多国籍軍の指揮まで視野に入れています。
 10月30日から11月11日まで実施された日米共同統合実動演習「キーン・ソード2017」には、イギリス、オーストラリア、カナダ、韓国の各国軍がオブザーバーで参加。米国を中心とした同盟国軍による「合同演習」化=多国籍軍化の動きも強まっています。
 横田基地の撤去を求める西多摩の会の高橋美枝子代表は「アメリカが横田基地を司令塔に各地の紛争地に軍事介入し、戦争法で日本全土を戦争にまきこみかねない危険を感じています。沖縄では、戦争のための新基地はつくらせないと頑張っています。私たちも横田基地強化を許さず撤去をめざし頑張ります」と話しています。
 (佐藤つよし)
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2016年12月14日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/11/アジア関与強める米陸軍に対応/朝霞駐屯地

海外派兵任務指揮する陸上総隊司令部を新設
 10月23日、陸上自衛隊朝霞訓練場(埼玉県新座、朝霞両市)で行われた自衛隊観閲式は、陸上自衛隊と米陸軍の一体化を象徴するものでした。
 地上パレードの最後を走った暗緑色の車両7台は、米陸軍ストライカー装甲車です。米陸軍はインド・アジア太平洋地域への関与を強め、それに対応する陸上自衛隊の再編が、同訓練場に隣接する陸自朝霞駐屯地(東京都練馬区と埼玉県朝霞、新座、和光の3市)を中心に進もうとしています。

米軍と陸自の一体化の柱に
 朝霞駐屯地での米陸軍と陸自一体化の柱となるのは、2017年度に新設される陸上総隊司令部(仮称)です。これまで陸自の最高作戦司令部だった全国5方面隊の上に立ち、海外派兵任務を含めた陸自全部隊を指揮する統一司令部です。
 陸上総隊司令部を新設する構想は2000年代初めからとりざたされてきました。「日本防衛」を5方面ごとに担当する現体制を覆すもので、自衛隊OBなどの反発もあり、具体化しませんでした。
 それが13年12月の中期防衛力整備計画に盛り込まれ、一気に加速。その背景に、米国のアジア重視による兵力再配置(リバランス)があります。
 米国のイラク撤退完了宣言(11年12月14日)後のアジア重視で米太平洋軍司令官が打ち出したのが、イラク・アフガニスタン戦争に3度にわたり投入されてきた米陸軍第1軍団司令部(ワシントン州ルイス・マコード統合基地)の「太平洋地域へのシフト」です。同司令部はアジア重視への転換により、陸自と米陸軍の共同指揮所演習「ヤマサクラ」(YS)にも、13年12月のYS65以降毎年参加しています。
 11月30日〜12月13日まで健軍駐屯地(熊本市)で実施されたYS71で、第1軍団司令官のスティーブン・ランザ中将は、日米で異なる意思決定過程を克服し、共通の基盤を見いだすことが最優先課題だと強調。「演習の重要な箇所は、日米部隊が相互に作戦上の観点、情報上の観点から何に接近するかの同一の図も持つこと、共通作戦図を構築することだ」と明らかにしました。(米陸軍ニュースサービス、12月13日)

演習も装備も一体化が進む
 この第1軍団司令部に対応するのが陸上総隊司令部です。同司令部発足で、横須賀基地(神奈川県)の米第7艦隊と海自自衛艦隊、横田基地(東京都)の米第5空軍と空自航空総隊と合わせ、日米の陸海空の作戦司令部の一体化と連携関係が確立することになります。
 一体化が進むのは司令部だけではありません。米陸軍は、第1軍団指揮下で軍事作戦を実施する第7歩兵師団と第25歩兵師団のもとに、輸送機で輸送することも可能であり、96時間以内に世界のどこへでも展開できるストライカー旅団戦闘団を集中配備しました。
 10月の自衛隊観閲式で行進したのは、第7歩兵師団傘下にある、第2歩兵師団第2ストライカー旅団戦闘団第23歩兵連隊第4大隊B中隊でした。同中隊は、饗庭野(あいばの)演習場(滋賀県高島市)で8月〜9月に実施した日米共同演習「オリエント・シールド2016」に、陸自第3師団第36普通科連隊とともに参加。観閲式までの約1カ月間、米海兵隊キャンプ富士(静岡県御殿場市)で訓練を続けていました。
 第1軍団司令部とこれらの旅団戦闘団は14年以降毎年、日韓豪やフィリピン、タイ、インドネシア、マレーシア各軍との連携・協力関係を構築するために、「パシフィック・パスウエイ」と名付けた一連の共同演習を実施。オリエント・シールドやYS71もこの一環です。
 陸自は、この米陸軍の即応体制強化に対応する形で、14年度以降の防衛計画の大綱をもとに師団・旅団の「機動師団・機動旅団」への再編を行い、本州と四国の戦車を廃止しストライカー同様の8輪装甲車に105_戦車砲を搭載した「機動戦闘車」を導入しようとしています。
 (佐藤つよし)
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2016年12月25日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/12/海外出撃の拠点、空爆に参加/米空軍三沢基地

ISを攻撃/参加常態化
 F16戦闘機を主力とする第35戦闘航空団の基地である米空軍三沢基地(青森県三沢市)は、三沢対地射爆撃場、八戸貯油施設、パイプラインなどと併せて総面積2380f、三沢市の面積の約2割を占める広大な基地群です。
 同基地は世界規模で軍事戦略を支えるアメリカの海外出撃拠点となり、F16はアフガニスタンとイラク戦争への出撃を繰り返してきました。さらに、イラクとシリアで進められている過激組織ISへの空爆作戦にも、三沢からの参加が常態化しています。
 高高度対空型無人偵察機グローバルホークも一昨年から一時配備。今年は、滑走路補修工事があり見送られましたが、毎年5月ごろから10月ごろまで、週2回程度の運用を予定しています。
 さらに、防衛省は21日、航空自衛隊三沢基地への自衛隊グローバルホーク配備を発表しました。
 このほか、米海兵隊岩国基地(山口県)からのFA18戦闘攻撃機の天ケ森射爆撃場での移転訓練や、米ワシントン州オークハーバーにある米海軍第132電子攻撃飛行隊(EA18Gグラウラー)の一時配備、さらに2017年からは、米空軍横田基地(東京都)に配備されるCV22オスプレイが天ケ森で実弾訓練を行うことを発表しています。

日英共同で初演習実施
 安倍政権が岩手県滝沢市の陸上自衛隊岩手山演習場で戦争法に基づく「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」の訓練を公開した10月24日、米空軍三沢基地(青森県三沢市)では、航空自衛隊と英軍の共同訓練「ガーディアン・ノース16」が行われました。
 この訓練は日英両国の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)の合意に基づき実施されました。空自が米国以外の国と国内で共同訓練を実施するのは初めてです。三沢基地を視察した稲田朋美防衛相は、初の日英共同訓練の意義について「法の支配という価値観を(日本と)共有する英国がアジア太平洋地域で存在感を示すことは意義深い」と話しました。

安保でなく憲法で平和
 青森県は、中国・北朝鮮からの長距離弾道ミサイル発射に備えた米日「ミサイル防衛」計画に組み込まれています。
 米軍は07年、米軍車力(しゃりき)通信所(つがる市)に移動型Xバンドレーダー、08年に三沢基地に情報処理システム「JTAGS」を配備。日本も自前の最新鋭レーダー「ガメラレーダー」を11年、むつ市大湊分屯基地に設置しました。
 青森県平和委員会の大宮慶作事務局長は、安倍政権は集団的自衛権の行使で、米国向けに発射された弾道ミサイルの迎撃を可能にしていると指摘。「基地と共存共栄」で日米親善を図る三沢市、陸・海・空の三つの自衛隊を持ち、若者の入隊・就職率が全国一の青森県で、安倍政権が狙う戦争する国づくりの実態を知らせ、基地反対の世論を高める運動を広げたいと話します。
 22年ぶりに三沢市で開かれた日本平和大会(10月22・23日)では全国から2日間で延べ1500人が参加。青森県の実態を共に学び、「基地はいらない、戦争法廃止、安保じゃなく『憲法』で平和を」と声をあげ市内をパレードしました。
 (青森県・藤原朱)=このシリーズは終わります。

これまでの掲載日
 「シリーズ 安倍政権下で進む基地強化」の前回までの掲載日は次の通りです。
 
@総論(10月31日)/A辺野古・高江・伊江島 米軍基地増強(11月4日)/B南西諸島への自衛隊増強(11月6日)/C佐世保・佐賀 自衛隊版海兵隊(11月13日)/D岩国・艦載機移転(11月19日)/E中国山地 米軍機訓練(11月27日)/F京都 Xバンドレーダー、福知山基地(11月29日)/G小牧・F35整備工場、富士・オスプレイ訓練(12月4日)/H横須賀・厚木 米軍増強、日米一体化(12月11日)/I横田 戦闘機飛来、司令部強化(12月14日)J朝霞駐屯地 陸上総隊司令部(12月25日)
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2016年12月27日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/9/配備強化と日米軍事一体化/横須賀・厚木

過去最大の14隻態勢も
 米原子力空母の唯一の海外母港である米海軍横須賀基地(神奈川県)では、米軍・自衛隊の配備強化と日米軍事一体化が同時に進められています。
 同基地には13隻が配備されています。内訳は
@地球の約5分の1の地域を作戦範囲とする第7艦隊司令部がおかれる揚陸指揮艦ブルーリッジA原子力空母ロナルド・レーガン(RR、原子炉2基)Bイージス艦11隻―です。
 米オバマ政権は、アジア太平洋地域に兵力配備の重心を移す「戦略的リバランス(再配置)」を進めてきました。2014年公表のQDR(4年ごとの国防計画見直し)には、20年までに米海軍艦艇の6割を太平洋地域に配備し「日本の海軍駐留を強化する」と明記。横須賀基地で過去最大の14隻配備を狙い、15年から17年にかけてイージス艦を追加配備しています。
 08年9月25日から配備されていた原子力空母ジョージ・ワシントンにかわり、15年10月1日にRRが配備されました。米軍は横須賀を恒久的な原子力空母の母港にしようと狙っています。
 同基地には原子力潜水艦も頻繁に寄港しています。入港回数は、すでに昨年(18回)を上回る21回。原子力空母と合わせると原子炉4基が存在する事態も起き、市民の不安を広げています。

戦争法で統合部隊化
 日米軍事一体化の推進も深刻です。
 米海軍のグリナート作戦部長は、米国での講演(14年5月)で米空母打撃群と海上自衛隊の統合に言及し、「将来的に北大西洋条約機構(NATO)の同盟国と同じように作戦を実施することも考えるべきだ」と強調しました。米国のブレア太平洋軍司令官(当時)も、「それら部隊は統合されるだろう」(14年7月、ニュースサイトのインタビュー)と述べています。
 安倍政権は、14年から第7艦隊司令部への連絡官派遣を開始。日本共産党の畑野君枝衆院議員は国会質問(15年7月)で、戦争法によって米軍などのための「武器等防護」が規定され、自衛隊が平時から米艦防護を行う体制に組み込まれ、日米統合部隊化する事実を明らかにしました。
 米海軍厚木基地(神奈川県大和市、綾瀬市)では、陸上自衛隊東富士演習場(静岡県)と米軍横田基地(東京都)、日米のオスプレイ整備拠点となる陸上自衛隊の木更津駐屯地(千葉県)と結ぶ訓練拠点のひとつとして、オスプレイの訓練が繰り返し強行されています。
 厚木基地にオスプレイが飛来したのは14年7月でした。綾瀬市長(当時)は「さらなる負担増となり容認できるものではない」との抗議文を提出。市民や民主・平和団体、共産党も「厚木基地は訓練拠点ではない」と抗議しました。
 米軍は、その後もオスプレイの訓練を繰り返し、今年に入ってからは、午後9時すぎに6機が飛来・着陸する事態もありました。無通告も目立っています。
 横須賀基地への飛来もありました。米軍は空母に艦載する輸送機C2グレイハウンドを順次CMV22オスプレイに替える予定で、引き続き訓練が頻繁に行われる可能性もあります。
 (神奈川県・下元怜美)
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2016年12月11日,「赤旗」)

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そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その1/新しい時代開いた力って?

 日本共産党への関心、疑問にこたえる新シリーズ「そこが知りたい 日本共産党」。最初は、第27回党大会(来年1月15〜18日)の大会決議案を通じて、日本共産党が、日本や世界の情勢をどうとらえ、どう変革しようとしているのかを連載で紹介します。

 「野党と市民の共闘を大きく発展させ、安倍政権を打倒し、自民党政治を終わらせ、野党連合政権をつくろう」―。決議案第1章のこのよびかけを「共産『本気』の共闘」(「朝日」16日付)とマスメディアも注目しました。
 野党連合政権を先々の課題ではなく、当面の焦眉の課題とし、その実現をよびかけました。まさに、戦後かつてない激動的な新しい情勢が展開しています。
 決議案では現在の情勢を「安倍自公政権とその補完勢力に、野党と市民の共闘が対決する、日本の政治の新しい時代が始まった」と規定しています。「新しい時代」とは何か―。
 前回党大会(2014年1月)では、日本の情勢を「自共対決」の始まりと特徴づけました。3年弱の国民のたたかいが政治対決の構図をさらに一段前に進め、「自公とその補完勢力」対「野党と市民の共闘」という新しい時代が始まったのです。
 先の参院選では32の1人区のすべてで野党統一候補が実現し、11の選挙区で勝利。10月の新潟知事選での野党と市民の統一候補の勝利は、国民の願いに応える「大義の旗」を掲げ、野党と市民が「本気の共闘」をすれば政府・与党に打ち勝てることを証明しました。
 野党勢力の大同団結の障害になってきた「日本共産党を除く」という「壁」も崩壊。対決構図の一方の極で共産党は重要な役割を果たしています。

野党連合政権つくり自民政治終わらせる
 この新しい時代を切り開いた力はどこにあったのか―。
 決議案は明快に答えています。一つは安倍暴走政治に対抗する戦後かつてない新しい市民運動が発展したことです。このなかから「野党は共闘」の切実な声があがり、野党共闘がつくられていきました。もう一つは、日本共産党が一連の国政・地方選で躍進したことです。
 この二つの力が合わさって情勢の前向きの激動をつくりだしました。(年表)
 躍進した共産党が「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」を提唱(15年9月)し、全国規模の選挙協力に踏み出したことが共闘の発展に大きく貢献しました。思想・信条の違いをこえた統一戦線によって社会変革をすすめる≠ニいう綱領を持つ党ならではの決断です。
 新しい対決構図がつくられた根底には何が―。
 決議案は党綱領を踏まえズバリ解き明かしています。「二つの異常」―「異常な対米従属」「異常な財界中心」を特質とする自民党政治の深刻な行き詰まりという「社会の土台での激動」です。
 戦争法強行や辺野古新基地建設、貧困と格差の拡大、原発再稼働…。自民党政治は国民との矛盾を広げ、民意との衝突が不可避です。「安倍政権は、民意無視の強権政治に頼るほかに、いまやこの国を統治する術(すべ)をもてなくなっている」(決議案)のです。強権政治が国民の新たなたたかいを呼び起こし、新しい対決構図をつくり出したのです。
 このように安倍政権の暴走政治は古い自民党政治と一体のものです。安倍政権の打倒は、単に暴走政治を阻止するだけではありません。自民党政治を終わらせる大きな一歩となります。
 野党4党はすでに、国政選挙でできる限りの協力を行い、安倍政権打倒をめざすことを合意しています。安倍政権と対決する政治的内容も確認しています(別項)。野党が本気で、安倍政権を倒すのであれば、それに代わるどういう政権をつくるかを国民に示す責任があります。
 日本共産党は、野党連合政権について「真剣な協議をつうじて、前向きな合意を得るために知恵と力をつくす」(決議案)と表明しています。

野党4党の合意

■政治的合意
 国政選挙でできる限りの協力を行い、現与党およびその補完勢力を少数に追い込み、安倍政権の打倒をめざす

■政策的合意
(1)安保法制を廃止し、立憲主義を回復する
(2)「アベノミクス」による国民生活破壊、格差と貧困を是正する
(3)TPP(環太平洋連携協定)や沖縄問題など、国民の声に耳を傾けない強権政治を許さない
(4)安倍政権のもとでの憲法改悪に反対する

こうしてできた対決構図/安倍自公政権VS野党と市民の共闘

2013・6 共産党が東京都議選で17議席、第3党に躍進
   7 共産党が参院選で改選3議席から8議席に躍進
   12 秘密保護法が国会で成立
2014・1 沖縄県名護市長選で辺野古新基地反対の稲嶺進氏が圧勝
   7 集団的自衛権行使容認を閣議決定
     「閣議決定」に抗議する官邸前行動に約6万人
   11 沖縄県知事選で新基地建設反対の翁長雄志氏が圧勝
   12 共産党が総選挙で8から21議席に躍進/沖縄4選挙区で基地反対派が勝利
2015・4 共産党がいっせい地方選の41道府県議選で111議席(前回80議席)の躍進。初めて47すべての都道府県に議席確保
   5 安保法制=戦争法を閣議決定・国会提出
   7 衆院で戦争法を強行採決
     「総がかり」と「SEALDs」が呼びかけた国会前抗議に6万人
     「安倍政権NO!首相官邸包囲」に7万人
   8 戦争法廃案を求める国会行動に12万人、全国で数十万人が参加
   9 戦争法を強行採決
     共産党の志位和夫委員長が「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」を提案
   12 市民団体有志が安保法制廃止と立憲主義回復を求める「市民連合」を結成
2016・2 5野党党首会談で戦争法廃止や国政での選挙協力など4項目の合意
   3 戦争法施行
   5 野党党首会談で、衆院選での「できる限りの協力」を合意
     32の参院1人区すべてで野党統一候補が実現
   6 「市民連合」の政策要望書に4野党が調印
   7 32の参院選1人区のうち11で野党統一候補が勝利
     共産党は改選3を倍増させる6議席獲得 
   10 新潟県知事選で野党と市民の共闘で米山隆一氏が勝利
   11 南スーダンPKO「駆け付け警護」を閣議決定
     野党と市民連合の意見交換会が参院選に続いて再開
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2016年11月27日,「赤旗」)

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そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その2/格差と貧困の拡大とは?/経済ただす4改革を

 日本ではいま、格差と貧困が大きな社会問題になっています。日本共産党第27回大会(来年1月15〜18日)決議案は、格差と貧困問題に焦点をあて、どう打開するのかを示しています。

 自民党政権のもとで、とくに1990年代後半以降、弱肉強食の新自由主義的な経済政策が続き、格差と貧国が拡大しました。安倍政権の経済政策「アベノミクス」はそれをいっそう深刻にしました。
 決議案は、格差問題の全体像をつかむため三つの視点からとらえています(グラフ参照)。90年代後半と比べると―。
 一つ目は富裕層への富の集中です。超富裕層の1人当たり金融資産は2倍に増えました。莫大(ばくだい)な配当と、「株価つり上げ政治」による株式の値上がり益が大株主にもたらされたためです。
 二つ目は中間層の疲弊です。労働者の平均賃金は55万6千円も減少しました。給与所得者数では、年収500万〜1000万円の層が210万人減る一方、年収500万円以下の層が532万人も増えました。非正規雇用の増大で低賃金労働者が増え、中間層がやせ細っているのです。
 三つ目は貧困層の拡大です。日本の相対的貧困率は14・6%から16・1%に上がり、OECD(経済協力開発機構)34カ国中ワースト6位に。先進国のなかでも「貧困大国」です。子どもの相対的貧困率は13・4%から16・3%に増え、「貧困の連鎖」が深刻です。
 働きながら生活保護水準以下の所得しかないワーキングプア世帯は、就業者世帯の4・2%から9・7%と2倍に。「貯蓄ゼロ世帯」は3倍に急増し、30・9%に達しています。
 決議案は「超富裕層がますます富み、国民の全体の所得が低下するなかで中間層が疲弊し、貧困層が増大する―これが現在の日本社会の姿である」と解明。貧困は特別な事情でなく「職を失えば誰もが貧困に陥ってもおかしくない。『板子一枚下は地獄』。そうした社会に陥っている」と指摘しています。
 格差と貧困の拡大、中間層の疲弊をいかに克服するか―。これを国の経済政策の基本にすえる必要があります。
 決議案は、格差と貧困をただす経済民主主義の改革として、四つの改革を提案しています。

税金の集め方の改革/能力に応じて負担する、公正・公平な税制
 消費税増税は景気を悪化させるだけでなく、格差と貧困の拡大に追い打ちをかけます。富裕層と大企業は、巨額の富を蓄積し、税負担の能力を十分にもっています。消費税10%は中止し、「消費税に頼らない別の道」へ転換します。

税金の使い方の改革/社会保障、若者、子育て中心の予算
 日本の国民1人当たりの公的社会支出は、アメリカの9割以下、ドイツの8割、フランスの7割です(2013年)。軍拡や大型開発中心の予算にメスを入れ、社会保障、教育、子育て支援など、格差と貧困の是正につながる予算を増やします。

働き方の改革/8時間働けばふつうに暮らせる社会
 人間らしく働けるルールを確立し、格差と貧困の根本的是正に道を開きます。

産業構造の改革/大企業と中小企業、大都市と地方などの格差を是正
 賃金格差は、中規模事業所で大企業の約6割、小規模事業所では5割程度です。大都市と地方の格差拡大、農村、地域経済の疲弊も深刻です。中小企業の振興と農業支援を行い、地域振興策を「呼び込み」型から、今ある地域の力を支援する「内発」型に転換します。
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2016年12月04日,「赤旗」)

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そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その3/世界に広がる新しい動きって?/その1

 国連を舞台に来年には核兵器禁止条約交渉が始まり、欧米では新しい社会変革の動きが広がっています。日本共産党の第27回大会(来年1月15〜18日)決議案は、こうした世界の動きと日本共産党の立場を明らかにしています。注目は、こうした世界の平和と進歩の流れと、日本のたたかいが響きあっていることです。

核兵器禁止実現へ画期的な一歩

国連が条約交渉開始へ
 20世紀に起こった世界の最大の変化は、植民地体制が完全崩壊し、100以上の国が独立して主権国家となったことです。前回党大会決議(2014年1月)は、この「世界の構造変化」が「世界の平和と社会進歩を促進する力として、生きた力を発揮しだした」ことを解明。その力はいま、「核兵器のない世界」実現へ画期的な動きとなってあらわれています。
 「核兵器を禁止し、その全面廃絶につながる法的拘束力のある法文書を交渉するため、2017年の国連会議招集を決定する」
 こううたった決議案を、米ニューヨークの国連本部で開かれてきた国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障問題)が採択しました(10月27日)。反対38カ国、棄権16カ国に対し、賛成は123カ国。国際社会の圧倒的多数が核兵器禁止条約の交渉開始を求めていることをはっきりと示しました。
 国連会議は3月27〜31日と6月15日〜7月7日にニューヨークで開かれる予定。1945年の広島、長崎への投下で核兵器が初めて人類に対して使われて以降、国連が具体的に核兵器禁止条約の交渉開始を決めるのは初めてです。
 核兵器禁止条約に、仮に最初は核保有国が参加しなかったとしても、国連加盟国の多数が参加して条約が締結されれば、核兵器は人類史上初めて「違法化」され、最も残虐な兵器に「悪の烙印(らくいん)」をおすことになります。そうなれば核保有国は、法的拘束は受けなくても、政治的・道義的拘束を受け、核兵器廃絶に向けて世界は新しい段階に入ることになります。大会決議案は「『核兵器のない世界』への扉を開く画期的な動き」だとして高く評価しています。

各国と市民運動の合流
 こうした前向きの激動をつくりだす力になったのは、「二つの力の合流」(大会決議案)です。
 一つは、圧倒的多数の途上国、先進国の一部を含めた諸政府の共同です。マレーシアなど非同盟諸国が中心となって1996年以降、国連総会には核兵器禁止条約を求める決議案が毎年提案され、圧倒的多数で採択されてきました。核兵器の非人道性を追及する「核兵器の人道的結末」決議は2015年に144カ国もの賛成で採択されました。
 もう一つは、被爆者を先頭にした「核兵器のない世界」を求める反核平和運動市民社会の運動です。被爆者を先頭に、日本の反核平和運動は、当初から一貫して、広島、長崎の実相を訴え、核兵器の非人道性、残虐性を告発してきました。核兵器の全面禁止・廃絶を求める国際署名にはこの10年余で、世界でのべ5000万人以上が賛同しました。これらの草の根からの取り組みが、国際政治を動かす大きな力となりました。

追い詰められる保有国
 核兵器禁止が現実的な日程にのぼったことに危機感を深めたのは、核保有国です。
 米国は、決議案採択前に北大西洋条約機構(NATO)加盟国に「単なる棄権ではなく、反対票を投じる」よう圧力をかける書簡を配布していました。NATO本部はその事実を日曜版編集部に認めています。唯一の被爆国である日本政府は国民の意思を踏みにじって同決議に反対しました。米政府は、この書簡が日本にも送られた可能性を否定していません。
 この書簡は、核兵器禁止条約が実現すれば、保有国による生産・保有・使用だけでなく、他国への核兵器配備や核兵器搭載艦の入港なども禁止されると分析。「米国の拡大抑止(核の傘)の土台が破壊される」と危機感をあらわにしています。核兵器禁止条約がいかに保有国を追い詰めているかを示しています。
 大会決議案は、この問題の帰趨(きすう)を決めるのは世界の世論と運動だと指摘。「ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名」(ヒバクシャ国際署名)の成功のため力を尽くすと表明しています。
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2016年12月11日,「赤旗」)

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そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その3/世界に広がる新しい動きって?/その2

格差と貧困の拡大に高まる怒り

グローバル資本主義の深刻な矛盾

欧米で社会変革の動き
 大会決議案は、欧米ではグローバル(地球規模)資本主義の暴走のもとで、格差・貧困の是正と平和を求め、選挙を通じた社会変革をめざす新たな社会変革の動きが生まれていることに注目しています。(左表)
 グローバル資本主義とは、多国籍企業や国際金融資本が、最大限の利益を上げるために、各国の国境を超えて地球規模で動き回ることです。
 それによって中間層が疲弊・縮小し、格差が急速に広がっています(右表)。全世界で見ると、世界の大富豪わずか62人の資産が世界の下位50%の富と同じという極限的な両極化が起こっています。(下図)
 注目すべき新たな社会変革の動きの一つは、福祉予算削減や年金改悪など緊縮政策の転換を求める市民運動と連携した政党が選挙で勝利して政権に就いたギリシャとポルトガルです。
 ギリシャでは急進左派連合(SYRIZA=シリザ)を中心とするチプラス政権が2015年1月に誕生し、9月の再選挙で再選されました。シリザはギリシャ共産党(国内派)の流れを引く左派諸派の連合体です。
 ポルトガルでは同年10月、左翼ブロック、ポルトガル共産党などが社会党に閣外協力するコスタ政権ができました。
 スペインでは反緊縮の市民団体を母体にしたポデモス(私たちはできる)が、初選挙で第3党に進出しました。

日本の運動とも響きあった発展
 一方、英米両国では主要政党の党内選挙で、当初「泡沫(ほうまつ)候補」とみなされていた「民主的社会主義者」が勝利、大躍進しました。
 英国では野党・労働党の党首選挙(昨年9月)で、戦争阻止連合議長、核軍縮運動(CND)副議長などを務めるコービン下院議員(67)が60%の得票で当選しました。
 米国では民主党の大統領選候補者を決める同党予備選(今年2〜6月)で、「民主的社会主義者」を名乗るサンダース上院議員(75)が43%の得票率で大健闘。「本命」クリントン前国務長官を脅かす支持を集めました。
 「サンダース現象」は、米金融界の中心地ウォール街の占拠を訴えた「オキュパイ(占拠)」運動や、「時給15j」への最低賃金引き上げを求める運動など、米国の市民運動に根をもったものです。
 大会決議案は「欧米での新たな動きは、格差・貧困の是正と平和を求める新しい市民運動と結びついた社会変革の動きとして、いま日本で発展しつつある野党と市民の共闘と響きあうものとなっている」と指摘しています。

アメリカが陥る深い行き詰まり
 米国による01年以降のアフガニスタン報復戦争、イラク侵略戦争で、数十万人の民間人の命が奪われました。泥沼の内戦をつくりだし、テロを世界中に拡散させ、過激派組織ISを生み出す主要な原因になりました。この15年間の世界の現実は軍事的覇権主義が大破たんに直面していることを示しています。
 米社会はグローバル資本主義、新自由主義の経済政策のもとで格差と貧困が拡大し、国内産業の空洞化、中間層の没落がすすんでいます。
 11月の米大統領選では、得票数で260万票以上も多いクリントン氏が、獲得選挙人数で上回った共和党トランプ氏に負けました(表)。トランプ氏の勝利は、米社会の陥っている深刻な行き詰まりと矛盾の反映にほかなりません。

大国主義・覇権主義に未来はない

中国、見過ごせない誤り
 中国の国際政治における動向に、見過ごすことのできない四つの問題点があらわれてきました。
 一つは、核兵器の問題で、深刻な変質が起こっていることです。
 中国はある時期まで、核兵器禁止の国際条約を繰り返し求めてきました。しかし15〜16年の国連総会で、核兵器禁止条約の国際交渉を現実の日程にのせようという動きに対して、核保有国の一員としてこれに背を向ける態度をとりました。「『核兵器のない世界』を求める動きに対する妨害者として立ち現れて」(決議案)います。
 二つは、東シナ海・南シナ海での力による現状変更をめざす動きです。
 東シナ海の尖閣諸島では中国公船による領海侵入が激増・常態化。南シナ海では南沙諸島での人工島建設などを露骨に進め、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は今年7月、国際法違反だとの判断を示しました。
 三つは、国際会議の民主的運営を踏みにじる横暴なふるまいです。四つは、中国の横暴なふるまいは、日本共産党と中国共産党の間で確認してきた原則ともまったく相いれない態度だということです。
 「以上の事実にてらして、今日の中国に、新しい大国主義・覇権主義の誤りがあらわれている」と大会決議案は指摘。現在のような新たな大国主義・覇権主義の誤りが今後も続き、拡大するなら、「社会主義への道から決定的に踏み外す危険」が現実のものになりかねない、と警告しています。

横暴なロシアの復活も重大問題
 ウクライナ・クリミア併合(14年3月)などロシア・プーチン政権による大国主義・覇権主義の動きも重大です。これらの横暴は、スターリン時代の覇権主義の復活そのものです。

すべての国が立場対等
 大国主義・覇権主義には決して未来はありません。すでに歴史によって審判が下されています。米国によるアフガン・イラク戦争など軍事的覇権主義は、失敗と破綻におわりました。旧ソ連は、スターリン以来の覇権主義の誤りを是正できないままに崩壊しました。
 21世紀の世界は、一握りの大国が世界政治を動かした大国中心の世界ではなく、国の大小での序列がない世界になりつつあります。
 核兵器廃絶に向けた歴史的激動を見ても明らかなように、世界のすべての国々が対等・平等の資格で世界政治の主人公になる新しい時代が開かれつつあります。
 日本共産党は、半世紀以上にわたって堅持してきた自主独立の精神を発揮し、国際政治から大国主義・覇権主義を一掃するために奮闘します。
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2016年12月11日,「赤旗」)

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そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その4/「平和の対案」って何?/その1

 日本共産党第27回大会決議案は、安保法制=戦争法への対案をしっかり示し、安保条約や自衛隊に対する党の立場を広く明らかにしています。

対案1/北東ア平和協力構想を提唱

 決議案は二つの「平和の対案」「北東アジア平和協力構想」(別項)と「グローバルな課題解決への五つの提案」を示しています。
 「北東アジア平和協力構想」は3年前の前回大会で提唱。東南アジア諸国連合(ASEAN)が実践している、あらゆる問題を平和的に話し合いで解決する東南アジア友好協力条約(TAC)のような、平和の地域協力の枠組みを北東アジアでも構築しようという構想です。

国外から評価
 提唱から3年。日本共産党は、関係国の政府・政党・大学・研究所との意見交換を重ね、国際会議も通じて「構想」実現を呼びかけ、多くの賛同と評価が寄せられています。
 アジア政党国際会議(ICAPP)第8回総会。志位和夫委員長が「構想」を紹介し、その後全会一致で採択した総会宣言はASEANのような地域の平和協力の枠組みを、北東アジアを含む全アジア規模に広げる≠アとが提起された。(14年9月)
 訪韓した志位氏が韓日議連の会長代行、幹事長と会談。両氏は「構想」に関し「望ましい方向」「良い方向」と賛意を示し、「韓中日3カ国の協力が重要」だと強調。(15年10月)
 ICAPP第9回総会。日本共産党は南シナ海問題など領土に関する紛争について国際法を基礎に平和的に解決する≠アとを提案し、総会宣言に明記される。(16年9月)
 マレーシア政府のシンクタンク・マレーシア戦略国際問題研究所(ISIS)と懇談。「構想」は「きわめて具体的」「ISISの中でも北東アジアでのTAC(友好協力条約)の議論を始めている」との評価が。(16年9月)

世論と合致
 軍事対応一本やりから、憲法9条を生かした平和外交に切り替える。この方向は国民の願いにもかなうものです。NHKが実施した世論調査では、憲法9条の果たす役割を圧倒的多数の国民が評価したうえ、「武力に頼らない外交」を願っているからです。(グラフ)
 日本共産党第27回大会決議案は「この『構想』をもって対話をすすめ、国内外でこの方向での合意形成がはかられるよう力をつくす」と強調しています。

対案2/グローバル課題五つの提案

 もう一つは「グローバルな課題解決への五つの提案」です。人類が地球的規模で直面している課題について、憲法9条を持つ国として、次のような努力方向を提案しました。

(1)国際テロ根絶
 
@国連を中心に法による裁き≠基本にすえ、テロ組織への資金・人・武器の流れを断つ国際的協力を進めるA貧困、教育、紛争などテロの根源を除去するB異なる諸文明間の対話と共存関係の確立に力を尽くす。

(2)貧困削減
 食料、保健、教育など基礎的生活分野の支援を中心にODA(政府開発援助)を充実させる。

(3)難民支援
 難民の定義をあまりにも狭く解釈する立場を改め、難民を受け入れ、生活や教育の援助を行う。

(4)人道危機への対応
 内戦などがもたらす人道的危機に対し、非軍事の人道支援、民生支援を抜本的に強化する。

(5)気候変動への対応
 温室効果ガスの削減目標を抜本的に上積みし、石炭火力増設の中止、再生可能エネルギーの大量普及、原発に依存しないエネルギー政策に転換する。

北東アジア平和協力構想とは

 北東アジアで平和を築くために日本共産党は次の四つの目標と原則を提唱しています。
(1)域内の平和のルールを定めた北東アジア規模の「友好協力条約」を締結する。
(2)北朝鮮問題を「6カ国協議」で解決し、この枠組みを地域の平和と安定の枠組みに発展させる。
(3)領土問題の外交的解決に徹し、紛争をエスカレートさせない行動規範を結ぶ。
(4)日本が行った侵略戦争と植民地支配の反省は不可欠の土台となる。

北朝鮮問題どう対応?

 北朝鮮の核・ミサイル開発に国際社会がどう対応すべきか。日本共産党はすでに(1)「軍事対軍事」の危険な悪循環ではなく、対話による解決に徹する(2)国際社会が本気になって「核兵器のない世界」への具体的行動に取り組むという二つの方向を示してきました。
 さらに、国際社会が北朝鮮の開発を止められていない事実を踏まえ、「従来の延長線上にとどまらない外交的対応と、中国を含む国際社会による制裁の厳格な実施・強化という両面での対応を抜本的に強化すること」(大会決議案)を提案しました。
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2016年12月18日,「赤旗」)

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そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その4/「平和の対案」って何?/その2

安保と自衛隊どうする

 先の参院選で政府・与党は、野党と市民の共闘に対して共産党の主張は日米安保条約の廃棄と自衛隊の解散だ。無責任だ≠ニ攻撃をくり返しました。
 大会決議案は、こうした攻撃に立ち向かう基本姿勢として二つの点を強調しています。

真の争点は
 第一は、いま問われているのは日米安保条約や自衛隊の是非ではありません。真の争点は、安保法制=戦争法によって「海外で戦争する国」づくりを許していいのかどうかです。
 野党と市民の共闘は、安保条約や自衛隊に対する態度の違いを超えて結束しています。
 日本共産党は、共闘の一致点を何よりも大切にし、野党と市民の共闘に、日米安保条約や自衛隊についての独自の立場を持ち込まない態度を鮮明にしています。
 政府・与党の共産党攻撃≠ヘ真の争点を隠し、自らの憲法破壊の行いを覆い隠すためのものです。
 第二は、安保条約や自衛隊に対する党独自の立場を広く明らかにする努力です。
 党綱領は日米安保条約の廃棄と対等平等の日米友好条約の締結≠ニ憲法9条の完全実施に向けた自衛隊の段階的解消≠フ方針を示しています。

安保/日本防衛と無関係/国民合意へ

 安保条約に基づく駐留米軍は日本の防衛とは無関係。干渉と介入を専門とする「殴り込み」部隊です。(図)
 日本が米国の無法な戦争の根拠地とされ、協力させられてきたのは歴史の事実です。しかも在日米軍は、夜間の離着陸訓練や低空飛行訓練、米兵犯罪が裁かれないまま放置されるなど、米国内でも許されない異常な特権を受けています。
 安保条約をなくしてこそ日本は、米国の引き起こす戦争の根拠地から抜け出すことができ、米軍基地の重圧から解放され、真の独立国家となれます。決議案は「安保条約廃棄を求める国民多数をつくるための独自の努力を行う」としています。

自衛隊/憲法との矛盾、段階的に解消

 憲法9条にてらせば自衛隊が憲法違反であることは明らかです。世界でも先駆的意義をもつ憲法9条の理想に向かって、自衛隊の現実を改革していくことが政治の責任です。
 憲法と自衛隊の矛盾は一挙に解決することはできません。次のような段階を踏み、一歩一歩進めていきます。
(1)海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。
(2)安保条約が廃棄されても「自衛隊は必要」と考える国民が多数にのぼる状況は当然予想され、自衛隊を同時になくすことはできない。
(3)独立・中立の日本がすべての国ぐにと友好関係を築き、国民の圧倒的多数が「もう自衛隊がなくても安心だ」という合意が成熟したときに初めて、9条の完全実施に向けての本格的な措置に着手する。
 かなりの長期間にわたって自衛隊と共存する期間が続くことになります。その際、急迫不正の侵害や大規模災害など、必要に迫られた場合に、自衛隊の活用も含め、あらゆる手段で国民の命を守るのは当然です。
 大会決議案は「日本共産党の立場こそ、憲法を守ることと、国民の命を守ることの、両方を真剣に追求する最も責任ある立場である」と強調しています。
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2016年12月18日,「赤旗」)

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そこが知りたい日本共産党/第27回大会決議案/その5/歴史が決着、三つのたたかい

 日本共産党は来年、党創立95周年を迎えます。第27回大会決議案は、95年のたたかいを経てつかんだ成果、到達点を明らかにしています。
 「日本共産党の95年は、日本国民の利益を擁護し、平和と民主主義、社会進歩をめざして、その障害となるものに対しては、相手がどんな強力で巨大な権力であろうと、正面から立ち向かってきた歴史である」
 大会決議案はこう強調し「歴史が決着をつけた三つのたたかい」に光をあてています。

1/戦前の暗黒政治/戦後に生きる先駆性

 第一は、戦前の天皇制の専制政治・暗黒政治とのたたかいです。
 1922年7月15日、日本共産党は、侵略戦争反対と主権在民の旗を掲げて結成されました。天皇制政府は、日本共産党に激しい弾圧を加え、作家の小林多喜二をはじめ、多くの党員が命を落としました。それでも日本共産党は国民主権と反戦平和の旗を降ろさず、不屈にたたかいつづけました。
 日本共産党のたたかいの先駆性は、歴史が証明しました。敗戦で受諾したポツダム宣言は、日本の戦争を侵略戦争だと認定し、軍国主義の排除、日本の民主化を明記。日本国憲法は国民主権を明記し、戦前の日本共産党の主張が戦後日本の根本原理となったのです。
 12年間獄中でたたかい抜いた故・宮本顕治元議長など戦前の日本共産党のたたかいは、戦時を知る良心的知識人からも高く評価されています。(別掲)

評論家加藤周一さん
 「宮本顕治さんは反戦によって日本人の名誉を救った。戦争が終わり世界中が喜んでいるのに日本人だけが茫然(ぼうぜん)自失状態だった時に、宮本さんは世界の知識層と同じように反応することができた」(訃報に接しての談話、「しんぶん赤旗」2007年7月21日付)

2/ソ連、中国の覇権主義/あやまり認めさせた

 第二は、戦後の旧ソ連などによる覇権主義とのたたかいです。
 50年にはソ連のスターリンが中国を従えて、日本共産党に武装闘争を押し付けようという干渉を行い、中央委員会が解体されました。この党史上最大の危機を乗り越えるなかで、日本共産党は、どんな大国の干渉も許さない自主独立の路線を確立しました。
 60年代にはソ連と中国・毛沢東派の双方から、日本共産党を押しつぶそうとする激しい干渉を受けました。このたたかいも歴史が決着をつけました。
 ソ連共産党は、79年の日ソ両共産党首脳会談で、過去の干渉について反省を言明。さらに論争は続きましたが、91年、ソ連共産党の崩壊によって終止符が打たれました。
 中国共産党は、98年6月の両党会談の合意文書で、中国による干渉行為について、「内部問題相互不干渉の原則にあいいれないやり方をとったことについて真剣な総括と是正をおこなった」と表明しました。
 二つの大国の党にその誤りを認めさせた党は、世界にも日本共産党しかありません。

3/共産党除く「オール与党」体制/共闘が発展「壁」破る

 第三は、「日本共産党を除く」という「オール与党」体制とのたたかいです。
 60年代の終わりから70年代の日本共産党の第一の躍進に対して、支配勢力は共産党封じ込めを図って反撃してきました。
 日本共産党を政権協議の対象にしないことを明記した80年の「社公合意」を契機として、日本共産党をかやの外に置く反共作戦が開始されました。
 90年代前半には自民党政治の危機が深まるもと「自民か、非自民か」の共産党しめだしの一大キャンペーンが行われ、選挙制度も小選挙区制導入の大改悪が強行されました。
 90年代後半、国政選挙で日本共産党が連続的に躍進するなか、2000年代には財界が主導して「自民か、民主か」の「二大政党による政権選択」の大キャンペーンを展開。日本共産党の前進を阻む最強・最悪の逆風となって作用しました。
 同時にこの反共作戦は、最悪の「反国民作戦」でした。新自由主義的「構造改革」路線により、格差と貧困が広がりました。自衛隊の海外派兵体制がエスカレートし、沖縄の基地問題の矛盾も噴き出しました。
 このもとで、さまざまな分野で「一点共闘」が広がり、悪政を国民的に包囲する流れが広がっていきました。こうした国民のたたかいが合流して、15年から16年に野党と市民の共闘を生み出しました。「日本共産党を除く」という「壁」は過去のものとなったのです。

「共産党除く」壁を打破するまで

1980・1 日本共産党排除の「社公合意」締結
 93・7 総選挙で「自民か、非自民か」の大キャンペーン
   8 「非自民」の細川連立政権が成立
 94・1 小選挙区制と政党助成金制度を導入(「非自民」連合は短期で破たん)
 9698 日本共産党が総選挙・参院選で躍進
2003・10 民主党と自由党が合併し(新)民主党発足(「二大政党による政権選択」キャンペーン)
   11 総選挙で共産党20議席から9議席へ
 04・7 参院選で共産党20議席から9議席へ
 09・8 総選挙で民主党大勝。鳩山民主党政権成立
 12・12 総選挙で民主党大敗。安倍自公政権成立
 13・7 参院選で共産党6議席から11議席へ
 14・12 総選挙で共産党8議席から21議席へ
 1516 戦争法のたたかいで野党と市民の共闘発展
 16・7 参院選で野党統一候補11人当選、共産党が11議席から14議席へ
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2016年12月25日,「赤旗」)

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地球と宇宙の平和/インドで議論/日本共産党副委員長緒方靖夫/2/「ヒバクシャ国際署名」注目

 会議での発表テーマは、韓国での米軍基地問題、高高度防衛ミサイル(THAAD)問題、宇宙での軍事情勢と軍拡阻止の課題、インドでの反原発と新しい原発建設反対闘争、ガンジーと平和思想と実践など多岐にわたりました。
 「戦争の経験」を訴えた31歳のウィリアム青年(米国)は、アフガン、イラク戦争に参加しての非人道的な経験、兵士から平和活動家への転身を語りました。

原爆そもそも
 私は、核兵器廃絶と北東アジアの平和について20分間発言しました。国連で来年、核兵器禁止条約締結にむけて議論が開始される画期的な情勢、それを阻止しようとする核兵器5大国とのたたかいの政治地図と展望を紹介し、広島、長崎でおきた現実を報告し、「ヒバクシャ国際署名」をひろめてほしいと訴えました。
 若い学生はじめ参加者のなかには、広島、長崎は知っていても、71年前にそこで21万もの生命が失われ、その被爆後遺症が続いている実態までは知らない方が多数おり、原爆のそもそもの話をすることの大切さを改めて実感しました。
 「私は50人」「僕は30人」などと訴えに応えて、838人分の署名が会議最終日までに集められ、構内のガンジー像の前で、サタナヤラナ法科大学院院長から受け取りました。ある教授は「自分は1000人分集める」とのべ、共催団体のナラヤナ・ラオ「グローバル・ネットワーク」理事長は、「2万5000人分を目標としている」とのべました。
 韓国代表とは「街は人であふれており、インドは署名には最良の場所」と意見が一致しました。1カ月のキャンペーンをすれば、万単位の署名が集められると確信しました。

「実態に衝撃」
 私の発表の後に、「被爆実態に衝撃をうけた。被爆者はどのような支援を受けているのか」「日本は被爆国でありながら、日本政府は米国の核兵器の傘に入り、核兵器廃絶にあまり取り組んでいないようにみえる。なぜか」という質問がありました。
 これらは普通でしたが、「あなたの話には疑問を感じる」と切り出して、「米国ではトランプ大統領が誕生する。これは、核兵器廃絶の流れに逆行することにならないか。なぜ、核兵器廃絶が前進できるのか」という興味深い質問がありました。これには、米国の政治いかんを問わず、世界は中小国がプレーヤーとして活躍する大きな変化が生まれており、トランプ政権の出現の背景や、今後、確定していく外交政策を見る必要があることなどを話しました。
 「インドは核不拡散条約(NPT)に参加していない核兵器保有国だが、どう働きかけるのか」という率直な質問には、核兵器を非合法とする条約をつくるもとで、すべての国の核保有を道義的に追いつめる情勢をつくっていく道を訴えました。
 日本からは、立命館大学の藤岡惇教授が参加されており、パワーポイントを使用して、宇宙軍拡と福島の原発について素晴らしい発言をされました。先生は、もともと専門のアメリカ経済に加えて、宇宙軍拡問題も研究され「グローバル・ネットワーク」日本代表として活躍されています。
 (つづく)
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2016年12月01日,「赤旗」)

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「映画の未来」と出合う/映画祭第17回東京フィルメックス/社会と切り結び、もがく人間像/松岡環

 東京フィルメックスも回を重ねて第17回を迎えた。作家性の強い、個性的なアジア映画を上映する映画祭だが、今回はコンペ部門の審査員を引き受けたため、いつもと少し違った視点から作品を見ることができた。

デビュー作が最優秀作品賞
 今回のコンペ作品は、「オリーブの山」(イスラエル、デンマーク)、「バーニング・バード」(フランス、スリランカ)、「普通の家族」(フィリピン)、「マンダレーへの道」(台湾、ミャンマー、フランス、ドイツ)、「神水の中のナイフ」(中国)、「よみがえりの樹」(中国)、「恋物語」(韓国)、「私たち」(仮題/韓国)、そして日本映画「ぼくらの亡命」と「仁光の受難」の10本。この中で最優秀作品賞を受賞した「よみがえりの樹」は、1987年生まれという若い張憾依監督のデビュー作である。
 中国陝西省の山間の村を舞台にした本作は、実は幽霊譚だ。数年前に亡くなった妻が小学生の息子に憑依し、心残りだった思い出の木の移し替えを夫に依頼する。夫はもちろんのこと、妻の両親もこの憑依をいささかも疑わない。そういった豊かな精神世界を持つ村も、経済発展に伴う人々の町への移住で徐々に荒廃していく。
 チャン監督は幼い頃、転生や憑依の話を老人たちから聞いて育ったそうで、後年、学校で「聊齋志異」を読んだ時には、同じような話が載っていると驚いたという。そんな経験をベースに、異界を現実世界に潜ませた映像がシンプルなカメラワークで重ねられ、去った人々の思いが残る土地が映し出される。将来の伸びしろを感じさせる、繊細な作品だった。

内戦の余波で夫を殺されて
 審査員特別賞の「バーニング・バード」は、サンジーワ・プシュパクマーラ監督の2作目で、スリランカ内戦の余波で夫を殺された妻が、8人の子どもと義母を養うためにどん底まで落ちざるを得ない姿を描く。映像に力があり、象徴性に満ちた画面からは緊迫感が漂ってくる。
 また、賞は与えられないが秀作として言及しておきたいという「スペシャル・メンション」になった韓国映画「私たち」(仮題)は、10歳の少女のひと夏を描いた作品で、アップを多用し、子どもたちの表情だけでさまざまな感情の動きを見せる。いじめ問題を核に、経済格差や親の離婚など子どもを取り巻く世界も織り込みながら少女の成長する姿が描かれるが、自在に子どもたちを動かすユン・ガウン監督の演出力は、とても初監督作品とは思えない。

映画の力信じ思い凝縮させ
 このほか、マニラの路上生活者ティーンズ夫婦が誘拐された赤ん坊を必死で捜す、エドゥアルド・ロイ・Jr監督の「普通の家族」や、ミャンマーからタイに密入国して働こうとする男女を描く趙徳胤監督の「マンダレーへの道」も、見応えのある作品だった。
 どの作品も社会と切り結び、もがく人間を描いていて、見る者の胸に迫る。そこに感じられるのは、まさにフィルメックスのテーマである「映画の未来へ」、あるいは「映画で未来へ」という意志である。映画の力を信じる作り手たちの思いが凝縮する作品群と向き合えた、幸せな8日間だった。
 (まつおか・たまき アジア映画研究者)
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2016年12月05日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/時代遅れのモデル/格差・貧困助長する

 日本や米国の政府は、環太平洋連携協定(TPP)を「21世紀型」と自賛し、今後のモデルとして世界に押し付けようとしています。しかし、TPPは、国境を越えて活動する多国籍大企業の利益に奉仕する従来型の増強版≠ナす。多国籍企業本位のグローバル化(地球規模化)が貧富や格差を助長することは、今や、国際的な共通認識になりつつあります。
 日米など12カ国がTPPに署名する直前の2月2日、国連人権理事会の「民主的で平等な国際秩序の促進」に関する独立専門家、アルフレッド・デ・サヤス氏が声明を発表し、TPPは人権を尊重しない「時代遅れのモデル」だとして、署名も批准もしないよう訴えました。

人権に逆流生む
 同氏が2015年7月に国連総会へ提出した報告書は、従来の投資協定や自由貿易協定(FTA)が国際秩序にもたらす、人権に反する影響を取り上げ、もうけ中心の市場原理主義に人権が服従させられていると批判しました。特に投資家対国家紛争解決(ISDS)について、万人の福祉を保障する国家の機能を損ない、人権に対する逆流をもたらすと警告しました。同報告は、国連憲章や、国際機関の活動を通じて国際的に確認された人権基準に基づく代案をめざす「行動計画」も提言しています。
 そのほか、人権問題を担当する国連の特別報告者や専門家10人も15年6月2日、TPPを含む投資協定やFTAについて、人権への否定的影響を懸念する連名の声明を発表しています。声明は、TPPが健康保護、食品の安全、労働基準に関する基準を引き下げ、医薬品独占の権益を企業に与え、知的財産権の保護期間を延長すると指摘。人権の保護と促進に逆行する影響をもたらすと警告しました。また、極貧問題を深刻化させ、対外債務を軽減する交渉を困難にし、社会的弱者の権利に悪影響するとしました。

民主平等の秩序
 国連人権理事会の「食料に対する権利」に関する特別報告者(当時)のジャン・ジグレール氏は08年1月の報告書で、新自由主義理論は民営化や貿易自由化が飢餓を根絶すると主張するが、実際はその逆だと指摘しました。その上で、「食料に対する人権は、全国家、全国際機関、多国籍企業を含む全非国家部門が実行しなければならない」と勧告しました。
 米大統領選挙の結果は、一部の大企業と富裕層に富が集中し、格差と貧困が拡大し、中間層が没落するなど米国社会の矛盾と行き詰まりを反映したものとなりました。共和・民主両党候補がともにTPPに否定的だったのも、TPPが雇用を失わせ、貧困と格差を広げることへの強い批判を反映したものでした。
 国際的にも各国でも批判の強い、多国籍大企業奉仕の従来型であるTPPではなく、各国の経済主権や食料主権を尊重し、環境や人権に配慮した民主的で平等な国際経済秩序が求められています。
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2016年11月11日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/ISDS条項/上/外国企業が政府を提訴

 環太平洋連携協定(TPP)には、多国籍企業が投資先の政府を国際的な仲裁機関(裁判所)に訴えることができる仕組みが盛り込まれています。投資家対国家紛争解決(ISDS)条項です。訴えを起こせるのは企業だけです。裁判で問われるのは、政府が企業の利益を侵害しなかったかどうかです。仲裁法廷が設置されるのは国外です。徹底して、多国籍企業の利益をはかる仕組みです。

原発・最賃も標的
 ―スウェーデンの電力会社バッテンフォールが、ドイツ政府による原発ゼロの決定によって損害を受けたとして、同政府をエネルギー憲章条約違反として投資紛争解決国際センター(ICSID)に提訴。47億ユーロ(約5400億円)の賠償請求。係争中。
 ―エジプト政府が最低賃金を引き上げたことに対し、フランスの水道会社ベオリアが契約違反、両国投資協定違反としてICSIDに提訴。係争中。
 ―メキシコで地方自治体が廃棄物処理場建設を不許可としたことに対し、米国のメタルクラッド社が北米自由貿易協定(NAFTA)違反としてICSIDに提訴。2000年8月に1670万j(約17億円)の賠償をメキシコ政府に命じる判決。
 いずれもISDS条項にのっとった国際的な裁判です。原発、最低賃金、環境といった国民の生命、暮らし、安全を守るために政府のとった政策が、多国籍企業の利益を侵害したとされ、巨額の賠償を求められています。

米国企業が乱発
 ISDS条項を使って世界中で裁判を乱発しているのが米国企業です。国連貿易開発会議(UNCTAD)の集計によると、これまでのISDS裁判のうち、米国企業が起こしたものが145件で最多。2位のオランダ企業(89件)、3位の英国企業(64件)を大きく引き離しています。
 訴えられた国は、アルゼンチンが59件でトップです。同国が経済危機に陥った際にとった政策変更が、多国籍企業の利益を侵害したとして訴訟の標的にされました。訴えられた件数が多い国を見ると、経済危機への対応や政権交代で政策が変わった南米や東欧諸国。さらに、米国中心のNAFTAに加盟しているカナダとメキシコ、などです。
 TPPもNAFTA同様、米国を中心とする協定です。TPPのISDS条項は、米国企業が日本を含む各国政府に自らの利益をごり押しする仕組みを提供します。
 (この項つづく)
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2016年11月01日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/ISDS条項/下/暮らしも主権も脅かす

 投資家対国家紛争解決(ISDS)で多国籍企業が国を訴えた件数は、国連貿易開発会議(UNCTAD)の集計によると、現時点までの累計で739件。1990年代から急増しています。

政府に委縮効果
 ISDSの仲裁(裁判)で巨額の損害賠償を請求されること自体、政府を委縮させる効果があります。あらかじめ多国籍企業の主張を考慮して政策を決めるよう圧力が働きます。
 UNCTADによると、賠償請求額が判明した訴訟498件のうち最も多いのが1億j(約105億円)以上5億j未満で166件。次いで1千万j以上1億j未満が151件です。裁判で確定した賠償額は1千万j以上1億j未満が最も多く、47件、次いで100万j以上1千万j未満が35件。請求、判決とも日本円にして億単位です。
 裁判が行われる仲裁機関は世界銀行傘下の投資紛争解決国際センター(ICSID)や国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)などです。裁判官は訴えを起こした企業、訴えられた企業と仲裁機関の三者がそれぞれ選任します。しかし、選任の対象となる法律家は、国際的な商取引で多国籍企業のために働いている弁護士が多く、途上国などは不利な立場です。

国内司法に優先
 仲裁法廷の判決は国際法で強制力を持ち、国内司法機関の判断に優先します。
 タバコの外箱に健康に害があることを表示する義務をめぐって米国のタバコ多国籍企業フィリップ・モリスの香港子会社がオーストラリア政府を訴えたケースがありました。同社はまずオーストラリアの裁判所に訴えて敗訴。その判決を無効にするために国際仲裁法廷に訴えを起こしました(敗訴)。日本の国会でも国際仲裁法廷と国内裁判所の判断が異なった場合、どちらが優先するかをめぐる質疑が行われ、2月8日の衆院予算委員会で岩城光英法相(当時)はどちらが有効かを答弁しませんでした。
 国際仲裁法廷の判決は賠償命令であって、企業側が勝っても、直接、政府に政策変更を求めるものではありません。しかし、敗訴した国が判決に沿って政策を変えなければ、また訴訟の対象となり、いつまでも損害賠償を求められ続けることになります。結局、巨額賠償を通じて多国籍企業の言いなりにさせられます。
 ISDS条項は国民の暮らし、安全も国家主権も危うくする仕組みです。しかも米国が中心となるTPPはISDS条項をいっそう危険なものにします。
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2016年11月02日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/日米同盟強化/早期批准へ突き動かす

 環太平洋連携協定(TPP)は、アジア太平洋地域を重視する米国の戦略的「リバランス(再配置)」の重要な柱です。そのことが、アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)の「成長戦略」の柱という位置付けと合わせて、安倍政権をTPP早期批准へ突き動かしています。
 米国の戦略的「リバランス」は、アジア太平洋地域で、日米同盟をはじめ米国の同盟関係を強化する一方、台頭する中国には外交的関与の強化で対処し、米国の影響力を維持していくことを目指しています。TPPはその経済版≠ネのです。

戦略の中核的柱
 オバマ米大統領は9月6日、訪問先のラオスで演説し、「TPPはアジア太平洋に対する米国のリバランスの中核的な柱だ」と断言しました。大統領は、「TPPが支える貿易と成長は、米国の安全保障同盟と地域連携を強化する」と述べる一方、「TPPを推進できないと、経済的悪影響を招くだけでなく、この死活の地域における米国の主導権に疑念を生じさせることになる」と強調しました。
 安倍首相も9月19日、対日投資セミナーでの演説で、「TPPは、米国の『アジア・リバランス戦略』の柱であり、米国がアジア太平洋地域の発展をリード(主導)するとの意思を示すものだ」と述べ、「基本的価値を共有する国々が絆を深め、さらにその輪を広げていく」ことに「TPPの戦略的意義」があると強調しました。
 オバマ大統領は2009年の1期目就任当初から、経済成長が著しいアジア太平洋地域を重視する姿勢を打ち出しています。同年11月には、東京での講演で、TPPを通じてアジア太平洋地域に米国主導の経済圏を形成する意図を、次のように語っています。
 「米国は、環太平洋連携諸国とともに、広範な参加国を持ち、21世紀の貿易協定に値する高い基準を持つ地域協定を形成するという目標を目指す」
 同年12月、カーク通商代表(当時)が議会へ送った書簡は、もっと率直に、アジア太平洋地域の市場における米国の取り分を増やすと述べています。
 それが、現在のTPPなのです。

日米財界が期待
 日米財界も、日米同盟に期待をかけています。日本がTPP交渉に参加した13年の日米財界人会議の共同声明は、次のように強調しました。
 「日米両国は特にアジア太平洋地域において、アジア太平洋自由貿易圏の構築を長期目標に、ルールに基づく高い水準の経済圏創設に向けた主導的な役割を果たすことができ、かつそうした役割を果たすべきである」
 その立場から、日本のTPP交渉参加を「日米経済関係や日米同盟を強化する歴史的な機会をもたらすものともなった」と歓迎しました。
 日米など12カ国がTPPに署名した2月4日(米国時間3日)には、オバマ大統領は声明を発表し、「TPPは、アジア太平洋のような活力ある地域で特に重要な21世紀の交通規則≠、中国のような諸国にではなく、米国に書かせる」と強調し、米国主導を誇示しました。
 安倍首相が15年4月、米上下両院合同会議での演説で述べた通り、「単なる経済的利益を超えた長期的な安全保障上の大きな意義」があるため、「米国と日本のリーダーシップ(主導権)」でTPPを推進することが、安倍政権の役割なのです。それは、米国の戦争に集団的自衛権を掲げて日本が参加する安保法制(戦争法)とともに、日米同盟強化の車の両輪をなすものです。
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2016年11月09日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/批准進まない背景/各国でも強い反対運動

 環太平洋連携協定(TPP)に署名した12カ国の中で、批准した国はまだありません。交渉を主導してきた米国でさえ、議会審議の見通しが立っていません。早期批准が予想されていたベトナムも、国会議長が「米大統領選挙を含め各国の動向をみて検討する」として、批准を急がない意向を示しています。TPP施行に必要な関連法の整備にかなりの時間がかかる国もあります。
 各国で批准が進まない根底には、TPPに強く反対する各国内の運動があります。

見通しない米国
 米国では、米労働総同盟・産業別組合会議(AFL―CIO)や消費者団体「パブリック・シティズン」などが反対運動を展開し、TPPを批准しないよう連邦議員に働きかけています。広範なTPP反対世論の圧力を受けて、民主・共和両党の大統領候補がそろって現状のTPPに反対を表明しています。クリントン候補は第1次オバマ政権の国務長官として、TPP推進の立場にあった人物です。しかし、大統領選挙の中ではTPP反対を表明せざるを得なくなっているのです。
 残り任期がわずかのオバマ大統領は、任期中に議会承認を得たい意向です。しかし、大統領選挙と同時に、下院の全議席と上院の3分の1が改選されるため、現在の議会が審議するのは無責任だとする声が強まっています。また、現行のTPPでは不足だとする批判もあり、審議の見通しが立っていません。
 カナダでは、全国に60の支部を持つ民間非営利団体(NPO)の「カナダ人評議会」がTPP反対を表明しています。各支部がTPP反対の公開討論会を開いているほか、下院国際貿易常任委員会の意見公募に対し、反対意見を集中するよう訴えています。
 オーストラリアでも、豪公正貿易投資ネットワーク(AFTINET)、医療諸団体、豪労働組合評議会(ACTU)などが、集会や討論会を開き、反対運動を繰り広げています。また、76議席の上院で、与党・保守連合の30議席に対し、TPP反対の3野党の合計が38議席の半数を占めるため、上院での審議に向けて反対意見を集中するよう呼び掛けています。

批判には共通点
 各国のTPP反対運動の批判は共通しています。そこにも、各国国民を犠牲にして多国籍大企業の利益を図るTPPの本質が表れています。
 まず、投資の章に含まれる投資家対国家紛争解決(ISDS)条項を、国家主権を侵害するものだと批判しています。知的財産の章に含まれるバイオ新薬のデータ保護については、安いジェネリック医薬品(後発医薬品)の市販を遅らせ、貧しい患者の命を危険にさらすと非難しています。労働や環境では、多国籍大企業に基準を守らせる強制力がなく、基準が引き下げられると指摘しています。そのほか、TPPの秘密交渉が民主主義の原則に反し、TPPの評価が客観的でないなど、日本の反対世論と同じです。
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2016年11月08日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/1/強権・全土で・戦争法対応/暴力で弾圧してまで―過去に例なし

 安倍政権下で日米ガイドライン(軍事協力の指針)が改悪され、戦争法が強行されるなか、沖縄県の米軍オスプレイパッド(着陸帯)や辺野古新基地建設の強行だけではなく、全国で米軍・自衛隊基地の強化が進んでいます。その背景と、各地での最新の動きをシリーズで伝えます。(次回から4面掲載の予定)

「負担軽減」と裏腹に

 「政権として基地負担の軽減のため、できることは全てやる」
 8日、沖縄県を訪問した菅義偉官房長官は沖縄県東村の伊集盛久村長らを前にこう語り、同村高江の着陸帯6カ所を年内に完成させる意向を示しました。菅氏の訪問を境に、砂利などを搬入するダンプカーは1日10台から一気に60台まで増えました。
 安倍政権は高江で抗議する市民らを弾圧するため、7月から機動隊員約500人を動員。名護市辺野古の米軍新基地建設(現在は裁判中で一時停止)に反対する市民らに対しても、2014年8月以来、海上保安庁や機動隊を動員し、力で押さえつけてきました。
 日本の歴代政権は「日米安保絶対」の立場から米軍基地の維持を至上命令としてきました。しかし、市民らの非暴力の抵抗を暴力で弾圧して基地建設を進めるのは、安倍政権以外に例がありません。
 高江も辺野古も、口実は「沖縄の負担軽減」です。着陸帯を建設すれば、米軍北部訓練場(東村、国頭村)の「過半」が返還される―。辺野古新基地ができたら、普天間基地(宜野湾市)が返還される―。
 しかし、実態は
@辺野古に垂直離着陸機MV22オスプレイが100機も運用可能で、強襲揚陸艦も接岸可能な最新鋭の基地をつくるA高江にも、使い勝手の悪い既存の着陸帯に代わり、オスプレイのための最新鋭の着陸帯をつくる―。その結果、「負担軽減」どころか負担が強まり、基地が恒久化されます。

沖縄と本土を一体に
 重大なのは、「沖縄の負担軽減」を口実に、全国で基地強化が進んでいることです。
 「沖縄への配慮」―。17年後半から米空軍横田基地(東京都福生市など)に配備される特殊作戦機CV22オスプレイについて、防衛省関係者はこう述べます。同機は当初、米空軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)への配備が想定されていましたが、辺野古新基地ノーの世論との兼ね合いから、横田配備となったのです。しかし、嘉手納や伊江島補助飛行場(伊江村)などでの訓練が想定されており、実態は沖縄と本土の一体的な強化です。
 さらに、
@オスプレイの整備拠点(千葉・陸自木更津駐屯地)A嘉手納所属機やオスプレイの訓練移転(費用は日本側が負担)B普天間から米海兵隊岩国基地(山口県岩国市)へのKC130空中給油機移駐C嘉手納のMC130特殊作戦機や沖縄の特殊部隊が頻繁に横田を利用してパラシュート降下訓練を強行―などの動きが出ています。

艦載機移転も「純増」
 米海軍厚木基地(神奈川県大和市など)の米空母艦載機部隊の岩国移転も「基地負担の軽減」を口実にしています。しかし、移転先の岩国では艦載機59機が「純増」となり、F35Bステルス戦闘機の配備とあわせ、大幅な負担増になります。空母離着陸訓練(FCLP)のための新たな基地建設も、馬毛島(鹿児島県西之表市)などで狙われています。
 しかも、米軍は厚木基地を手放すつもりは全くありません。

自衛隊―日米一体化

 米軍と並んで、自衛隊基地の新たな強化が進んでいます。
 米軍と自衛隊の一体化はこれまでも
@インド洋・イラク戦争での米軍支援A自衛隊司令部の米軍基地移転B日米共同演習の拡大・深化―などにより加速してきました。その上で安倍政権下で新たな動きが出ています。
 
@ガイドラインと戦争法に基づく強化 昨年9月、安倍政権が強行した戦争法により、集団的自衛権の行使容認と「戦地」での米軍支援が可能になり、日米の軍事一体化は新段階を迎えました。
 戦争法の上位にある新ガイドライン(日米軍事協力の指針)に盛り込まれた戦争司令部=「同盟調整メカニズム」(ACM)運用が昨年から始まり、横田が日米一体化の拠点として強化されつつあります。
 また、同指針では基地の共同使用を明記しており、自衛隊基地の「米軍基地化」が加速する危険があります。オスプレイや米海兵隊地上部隊の訓練が激化している陸自北富士、東富士演習場(山梨県、静岡県)などで、その傾向が強まっています。
 
A南西諸島での自衛隊基地新設 中国の軍事的台頭を念頭に、自衛隊の「南西諸島シフト」が急速に進んでいます。
 これまで自衛隊基地がなかった沖縄最西端の与那国島に自衛隊基地がおかれ、宮古島、石垣島、さらに鹿児島・奄美大島でも基地建設や部隊増強が狙われており、地元住民との深刻な矛盾を引き起こしています。
 長崎県佐世保市を拠点に、自衛隊版海兵隊といえる「水陸機動団」が置かれます。これに伴い、県営佐賀空港に自衛隊オスプレイの配備が狙われています。同空港は軍事利用を前提にしておらず、深刻な矛盾を引き起こしています。
 
B米国製最新鋭装備の導入 安倍政権になり、オスプレイなど米国から高額兵器の導入が相次いでいます。軍事費を引き上げ、基地の新たな増強につながっています。
 大きな影響を与えるのが、F35Aステルス戦闘機の空自三沢基地(青森県三沢市)への配備です(42機)。これに伴い、整備拠点(リージョナルデポ)を、横田基地に隣接するIHI瑞穂工場(東京都瑞穂町)と、空自小牧基地(愛知県小牧市)に隣接する三菱重工小牧南工場に設けます。両基地には今後、米軍を含むF35が頻繁に飛来する危険があります。
 オスプレイなど海軍、海兵隊機にも給油可能な最新鋭の空中給油機・KC46Aが空自美保基地(鳥取県境港市)に配備される計画が明らかになり、地元に不安を広げています。

「抑止力」通用しない
 一連の動きは在日米軍基地の恒久化・地球規模の出撃拠点化に加え、米軍・自衛隊の一体化を加速して、日本を「海外で戦争する国」に変えるためのものです。その口実になっているのが「抑止力」の強化です。
 しかし、これだけ日米同盟の強化を進めても中国や北朝鮮に対する「抑止力」足りえず、米軍主導の地球規模の「対テロ」戦争も失敗に終わっています。
 辺野古新基地建設に反対する「オール沖縄」のたたかいをはじめ、基地強化に反対する超党派のたたかいも全国に広がりつつあります。日米両政府の足場は決して強固ではありません。
 (竹下岳)
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2016年10月31日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/2/沖縄、新たな「銃剣とブルドーザー」

辺野古・高江・伊江島一体で海兵隊強化
 「銃剣とブルドーザーを想起させる」―。沖縄県の翁長雄志知事は、「オール沖縄」の世論を無視して名護市辺野古の米軍新基地を推進する安倍政権をこう評しました。
 「銃剣とブルドーザー」とは、沖縄を占領していた米軍が1953年〜55年にかけて住民の土地を強制接収し、基地を拡張したことを指します。
 キャンプ・シュワブ沿岸部の辺野古新基地、北部訓練場の高江オスプレイパッド(着陸帯)、伊江島補助飛行場の着艦訓練場「LHDデッキ」の大幅拡張(地図)…。2014年以降、沖縄本島北部で進む新たな基地増強は、伊江島を除いて機動隊や海上保安庁といった実力組織を用いて住民を弾圧しながら強行している点で共通しています。

オスプレイ・F35の拠点に
 さらに重大な共通項は、いずれも侵略部隊・海兵隊の強化につながっている点です。
 土地の強制接収が続く最中の54年7月29日、当時のアイゼンハワー米政権は、本土に配備されていた海兵隊(第3海兵師団)の沖縄移駐を承認。海兵隊の基地として沖縄本島北部の民公有地が大規模に接収され、56年にキャンプ・シュワブ(現・名護市)、57年に北部訓練場(現・国頭村、東村)の運用が開始されたのです。
 以来、沖縄は米本土以外で唯一の海兵隊の拠点として強化され、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク・アフガニスタンでの「対テロ」戦争への出撃・侵略拠点となってきました。
 今、進められている基地増強の狙いは、海兵隊をアジア太平洋全域で強化し、出撃能力のさらなる強化と基地の恒久化です。
 辺野古、高江、伊江島の基地強化はいずれも、米海兵隊の垂直離着陸MV22オスプレイやF35Bステルス戦闘機の配備・運用を前提にしたものです。米空軍の特殊作戦機CV22オスプレイの運用も想定されており、これらの基地強化は一体で進められています。

海からの侵攻能力強化狙う
 さらに、
@辺野古に強襲揚陸艦が接岸できる軍港をつくり、エアクッション型上陸艇(LCAC)用の斜路をつくるA高江着陸帯のうち、G地区から沖縄本島東海岸の訓練水域を結ぶ歩行ルートを建設する―という計画があります。海兵隊が海から敵地に侵攻する強襲上陸作戦能力の強化につながります。
 安倍政権はこれらを「基地負担の軽減」と称して正当化しています。実態は、世界的にも貴重な生態系を持つ沖縄本島北部のやんばるの森や辺野古の海を破壊し、沖縄を地球規模の侵略拠点として強化・恒久化するものにほかなりません。
 安倍政権は中国や北朝鮮の存在をあげ、在沖縄海兵隊を「抑止力」だとしています。しかし、在沖縄海兵隊の主力である第31海兵遠征隊(31MEU)は佐世保基地(長崎県佐世保市)の強襲揚陸艦隊とともに、毎年、1年の半分は海外展開しています。「抑止力」とは無縁の存在です。
 ただ、米軍は近年の戦争で水陸両用作戦を事実上、行っていません。「負担軽減」どころか、火事場泥棒的な基地機能の強化が進められているのです。
 しかも、高江・辺野古の基地建設は日本国民の税金によるものです。新基地ノー・オスプレイパッドノーの沖縄のたたかいへの全国的連帯は、国民生活にも直結します。
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2016年11月04日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/3/自衛隊増強、広がる反発/沖縄・奄美に「初動隊」配備計画

 防衛省は中国の軍事的台頭を念頭に、南西諸島に自衛隊基地を新設・増強する計画を進めています。垂直離着陸機オスプレイや水陸両用車、ヘリ空母などで構成される陸上自衛隊版「海兵隊」部隊などが機動展開するための基盤づくりです。
 この中に、真っ先に軍事的対応を行う「初動担任部隊」として、鹿児島県の奄美大島、沖縄県の与那国島(与那国町)、宮古島(宮古島市)、石垣島(石垣市)への陸上自衛隊の配備計画が進められていますが、住民の不安と反発が広がっています。
 奄美大島には、北部の奄美市に警備部隊と地対空ミサイル部隊の350人、南部の瀬戸内町に地対艦ミサイル部隊など200人を配備するとし、2015年度に用地取得に着手。与那国島には3月28日に与那国駐屯地を開設し、約160人の沿岸監視部隊を配置しています。

ミサイル部隊、島に配置計画
 宮古島には700〜800人規模、石垣島には500〜600人規模の警備部隊と地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊などを配備する計画です。
 防衛省は各地で開いている説明会で、中国や北朝鮮の軍事動向を強調し、脅威をあおって陸自配備の必要性を訴えるなど地元工作を繰り返しています。
 しかし、一方的な配備計画に住民たちは黙っていません。
 与那国島では自衛隊配備が進められましたが、島人口の約1割が自衛隊関係者となったことで「自衛隊が町長や議員のキャスチングボートを握り、島の自治が根底から失われる」といった懸念が住民から出されており、反対運動も継続されています。
 宮古島では、下地敏彦市長が6月、自衛隊の受け入れを表明する一方、候補地のひとつの大福牧場への配備は認めないと述べるなど、二転三転。防衛省も9月に、もう一つの候補地の千代田ゴルフ場への施設配備案を提示しましたが、ミサイル発射装置は配備するものの、弾薬庫は千代田には配備しないという矛盾した方針を示すなど迷走してきました。

軍事基地反対世論の広がり
 その背景に、6月の県議選で配備反対を掲げたオール沖縄候補の勝利や、反対運動の強まりがあります。来年1月の市長選でも焦点となっています。
 石垣島では、防衛省が示した配備候補地周辺の開南(かいなん)、於茂登(おもと)、嵩田(たけだ)の3地区に続き、開南に隣接する川原地区も10月に反対決議をあげました。
 10月11日には、これら4地区や自衛隊配備反対運動に取り組む市民団体や労組などが、一致団結し連携を強めるため「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」を結成。配備反対署名は1次と2次集計分あわせて2万1621人分にのぼりました。
 10月23日には県選出野党国会議員4人が、同市を訪れ市民と意見交換し、反対運動を発展させようと一致。議員らは2日、防衛省で若宮健嗣防衛副大臣に市民から託された署名を提出しました。
 同市の田口るりさん(69)は「武力による弱肉強食が許される時代ではない。軍が入ってくるのは絶対に反対」と話しています。
 (柳沢哲也)
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2016年11月06日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/4/佐世保・佐賀で自衛隊版「海兵隊」/日米殴り込み°駐_に

佐世保/最新鋭艦船配備、水陸機動団創設
 米国防総省はアジア太平洋に兵力配備の重心を移す「戦略的リバランス(再配置)」を進めています。その一環として、2020年までに海軍艦艇の60%を太平洋地域に配備するなど、日本への海軍駐留を強化しています。
 米海軍はすでに、最新鋭のドック型揚陸艦グリーン・ベイを佐世保基地(長崎県)に配備。これに加えて最新鋭ステルス駆逐艦ズムワルト、F35Bステルス戦闘機の運用が可能な強襲揚陸艦ワスプを17年秋にも配備しようとしています。
 そのために17会計年度の国防予算案には佐世保基地立神岸壁の改修工事費を盛り込んでいます。19年には次世代の強襲揚陸艦アメリカの佐世保配備を狙うなど、侵略力をいっそう強めています。
 一方、日本政府は新防衛大綱で、「統合機動防衛力の構築」と称し、
@陸海空自衛隊が海外に迅速かつ持続的に展開できる能力を構築するA前線との間で兵士や武器を迅速に輸送するためのオスプレイ、水陸両用戦闘車両、無人偵察機、新型空中給油機などを新たに導入するB米海兵隊のような「殴り込み」作戦を行う水陸機動団を創設する―との方針を盛り込みました。
 その具体化として、佐世保では
@相浦陸自駐屯地に水陸機動団団本部・連隊を2100人体制で発足させ、最終的に3000人体制にするA崎辺地区に水陸両用車両基地(52両)、その訓練場を陸域・海域に設けるB隊舎や庁舎を建設する―計画です。関連の施設整備には183億9200万円の費用を要するとしています。
 戦争法発動のための日米共同演習も積み重ねられてきました。水陸機動団の前身(相浦西部方面普通科連隊)は06年以降毎年、米海兵隊との演習を実施。最近では米軍オスプレイ、LCAC(エアクッション型上陸艇)も交えた「離島奪還統合訓練」まで行うようになりました。
 佐世保の米海軍、陸自、海自はいつでも共同で作戦を強行できる態勢を整えたといってよいでしょう。戦争法廃止の課題は急務です。
 (山下千秋・日本共産党佐世保市議)

佐賀/県営空港で狙うオスプレイ配備
 佐世保の水陸機動連隊の輸送を担うために狙われているのが、県営佐賀空港(佐賀市)への陸上自衛隊の最新鋭輸送機V22オスプレイの配備です。
 オスプレイ17機のほか、同県の陸自目達原駐屯地から攻撃ヘリAH1、AH64など約50機を移駐させ、自衛隊員700〜800人を配置。空港の西側約33fに駐機場や格納庫、燃料タンク、弾薬庫などを整備するとしています。米国からのオスプレイの納入が始まる18年度にあわせて「駐屯地開設」をめざしています。
 防衛省は、九州北部には水陸両用作戦の主要部隊が多く存在していると配備の理由を説明しています。しかし、佐賀空港は民間空港です。空港建設時に県・市(当時は川副町)・漁協で交わした公害防止協定覚書付属資料に「自衛隊との共用は考えていない」という文言があります。
 公害防止協定の解釈を変更してでも配備を進めようとする動きに反発が強まっています。9月に地元川副町4校区で行われた防衛省の説明会では、オスプレイの安全性や環境への影響などで反対意見が相次ぎました。安倍首相が国会で「(米軍の)訓練の一部を佐賀で行うということで進めている」と発言(10月13日)したことでさらに反対の声が広がっています。
 (佐賀県・古賀誠)
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2016年11月13日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/5/岩国・最新鋭機の重大事故で自治体反発/極東最大の米航空基地へ

 米海兵隊岩国基地(山口県岩国市)は、2017年度以降に米海軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機部隊59機が移駐すれば、配備機数は約130機、軍人・軍属・家族合わせて約9500人となり、極東で最大の米航空基地に変貌します。
 10年前の3月に空母艦載機部隊移駐の賛否を問う住民投票が行われ、圧倒的な市民が移駐反対の意思を示しました。現在の福田良彦市長は、
@普天間基地の移設先が決まらないうちの先行移駐は認められないA市民の安心安全対策の実施―というハードルを示して、「艦載機部隊移駐は容認していない」と述べています。しかし、日米両政府は移駐に向けて着実に準備を行っています。
 基地内では新たに兵舎や格納庫、学校、病院といった施設が建設されています。さらに、米軍の滑走路沖合移設事業の土砂取り場となった愛宕山開発事業跡地には、野球場や陸上競技場などの運動施設と1坪約130万円といった豪華な家族住宅約260戸の建設が急ピッチで進められています。
 福田市長は、「米軍再編交付金」と一般財源を活用して、医療費の助成対象を中学校3年生まで拡大し、所得制限も撤廃、子どもの医療費を中学校卒業まで無料にする補正予算を提案。基地の機能強化に対する被害や不安を交付金で「麻痺(まひ)させる」施策を取っています。

海自機と共用、大型停泊場も
 米軍岩国基地の大きな特徴は二つあります。
 一つは、滑走路を沖合に移設したことで、水深13bの大型バースを基地施設として取得したことです。これにより3万d級の大型艦船が接岸可能になりました。このバースを使って武器・弾薬・食料などをフリーの状態で荷積みや荷降ろしできるようになりました。沖縄に配備されたMV22オスプレイの陸揚げは全てこのバースが使われ、岩国で整備調整されました。
 もう一つは、海上自衛隊の航空機部隊が米軍岩国基地を共同利用している点です。情報収集、機雷掃海、海難救助などの任務を持つ37機が配備されています。昨年4月の新たな日米軍事協力の指針(ガイドライン)で「日本以外の国に対する武力攻撃の対処行動」の一つとして、「海上作戦」を行うことが記されています。米軍との訓練の一体化が急速に進むことが考えられます。

来年配備控えF35引火事故
 急浮上してきた問題が、最新鋭の米F35Bステルス戦闘機の配備です。国は8月末、17年1月にFA18ホーネット12機をF35B10機に、同年8月にAV8Bハリアー8機をF35B6機に機種変更することを伝達してきました。これに対して福田市長は11月2日の市議会全員協議会で、「配備計画を承認する」との考えを示しました。
 ところが、F35Bが10月27日、米本土で飛行中に引火する事故を起こし、最も重大な「クラスA」に分類されていたことが発覚しました。山口県の村岡嗣政知事は9日、配備容認を撤回。福田市長も14日の市議会で「きちんとした対策が取られるまで承認できない」と述べ、配備容認を撤回しました。
 日米両政府は来年1月のF35B配備を目前にして、深刻な矛盾に直面しています。
 (松田一志・日本共産党岩国市委員長)
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2016年11月19日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/6/米軍機爆音眠れない/米軍のため新空中給油機配備へ

米軍機爆音眠れない/中国山地低空飛行訓練

 広島県北広島町から兵庫県朝来市にかけて中国山地を横断する米軍の低空飛行訓練ルート・ブラウンルートや、広島、島根、山口3県にまたがる自衛隊訓練空域・エリア567の周辺では、米軍機の激しい爆音で住民の生活が脅かされ続けています。防衛省が日本共産党の塩川鉄也衆院議員に提出した資料によると、2007年〜16年9月末までの苦情件数は、島根県で238件、広島県で118件にのぼります。

 防衛省中国四国防衛局が設置した島根県浜田市旭町の騒音測定器では、9月30日の午前7時から午後7時までの間に9回の爆音を確認しました。

「恐怖感じる」
 電車が通過する際のガード下の騒音(100デシベル)に匹敵する最大99・4デシベル記録しました。夜間の訓練も繰り返され、住民は「恐怖を感じた」「子どもが眠れない」と悲鳴を上げています。
 低空飛行解析センターの大野智久代表は、「中国山地には長く深い谷が散在していて、米軍にとっては訓練に好都合な条件が整っている。ルートは目安にすぎず、旋回して戻ってくるとの目撃情報も多い」と言います。

艦載機が移駐
 岩国基地(山口県)の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会の坂本千尋事務局長は、「岩国基地に59機の空母艦載機が移駐すれば、低空飛行訓練も激しくなる。情報共有ネットワークを広げ、運動を強めたい」と語ります。
 10月19日には、島根県西部の5市町(浜田、益田、江津、川本、邑南)で構成する米軍機騒音等対策協議会が、防衛省と外務省に「強い対応」を要請しました。
 広島県では、低空飛行の目撃件数が多い4市町(廿日市、三次、北広島、安芸太田)が情報交換会を開く(10月12日)など、自治体の取り組みも強まっています。
 (丹田智之)

米軍のため新空中給油機配備へ/鳥取・美保基地

 防衛省は2020年以降、鳥取県の航空自衛隊美保基地に新空中給油機KC46Aを3機配備する計画です。同機が給油可能な自衛隊機の機種は、小牧基地(愛知県)に配備されているKC767と同じですが、給油可能な米軍機の機種は、新たに戦闘機のF35、FA18、オスプレイのCV22、MV22へと大幅に拡大します。

最新鋭に再編
 米軍岩国基地(山口県)には来年、最新鋭ステルス戦闘機F35Bが16機配備され、厚木基地からFA18スーパーホーネットなど米空母艦載機が59機移駐し、オスプレイも頻繁に飛来しています。美保基地への新給油機は、事実上、米軍のための配備です。
 KC46A配備に伴い、空中給油機部隊、約120人が小牧基地から移設し、T400練習機の教育飛行隊、約10機、100〜190人が他基地に集約、一元化します。自衛隊のパイロット養成のための訓練基地が、自衛隊・米軍への空中給油を含む輸送基地、最新鋭の出撃基地に再編強化されるのです。

市街地上空で
 防衛省は、通常の訓練は島根県沖の日本海上空の「U訓練空域」で行うとしていますが、戦闘時には即発進できるように24時間待機飛行するため、市街地上空での空中給油の可能性も否定しません。
 KC46Aは「空飛ぶガソリンスタンド」と呼ばれ、一度事故が起これば大事故につながりかねません。1994年には土佐湾で空中給油訓練中のFA182機が接触事故を起こし、1機が墜落しています。
 美保基地には、燃料の貯蔵タンクも必要となり、空中給油機とその施設は有事の際に格好の標的にされます。
 また、新輸送機C2が来年3月までに3機、18年度までに計8機が配備される計画です。C2配備は美保基地のみです。
 (鳥取県・岩見幸徳)
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2016年11月27日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/7/米「本土防衛」の最前線/日米一体化が年々強化

米「本土防衛」の最前線/米軍経ケ岬通信所

運用2年で相次ぐ事故
 京都府京丹後市に配備された米軍Xバンド・レーダー(TPY2)基地・米軍経ケ岬(きょうがみさき)通信所は、本格運用からまもなく2年がたとうとしています。同通信所は、アメリカの「本土防衛」を目的に弾道ミサイルを探知・追尾するもので、近畿では唯一の米軍基地。戦争になれば「レーダー基地がまず攻撃されるのでは」と、住民は不安な日々を送っています。
 稼働当初から住民を苦しめた発電機による激しい騒音は一定の対策がとられたものの、なお低周波による健康への被害などが懸念されています。米軍関係者による交通事故は後を絶たず、発生件数は人身事故を含め約30件にのぼります。事故当事者への十分な支援もなく、住民が一方的な不利益を被っています。
 「丹後松島」とも言われる風光明媚(めいび)な景観も、基地による破壊が進んでいます。保護を要する地形などを登録する京都府のレッドデータブック2015年版では、京丹後市丹後町の海食洞「穴文殊」について、米軍基地によって「海からの景観が大きく損なわれた」と記述されました。地域の信仰の対象でもある「穴文殊」の真上に設置されているのが米軍のトイレであることがわかり、住民の怒りが沸き起こっています。
 また、レーダー基地所属の米軍人・軍属による実弾射撃訓練が、陸上自衛隊福知山駐屯地(福知山市)の射撃場で行われることを受け入れることを政府が閣議決定し、大問題になっています。福知山駐屯地の米軍との「共同使用施設」化は、事実上、第二の米軍基地が京都府内に生まれることになります。使用される銃器や訓練内容は明らかにされず、騒音・安全対策についても不安の声が上がっています。
 (京都府・渡辺研一)

日米一体化が年々強化/陸自饗庭野演習場

オスプレイ同乗し訓練
 陸上自衛隊饗庭野(あいばの)演習場(滋賀県高島市)では、毎年のように米軍との共同訓練が行われ、日米軍事一体化が進んでいます。
 2013年10月には、米海兵隊の垂直離着陸機MV22オスプレイを使った国内初となる日米共同訓練を強行。飛来した2機のオスプレイに米海兵隊員と自衛隊員が同乗し、敵陣地に降下・侵入するヘリボーン訓練を実施しました。市街地上空を避けて飛ぶよう求める地元の意向は無視されました。
 自衛隊の実弾射撃訓練で、演習場近くの民家の屋根を銃弾が貫通した事件のあった15年には、事件後中止されていた実弾射撃訓練を日米共同訓練に合わせて再開させ、日米軍事同盟優先の姿勢をあらわにしました。
 戦争法施行後初めて行われた今年9月の日米共同訓練では、米陸軍のストライカー装甲車と陸上自衛隊の74式戦車がいっしょに目標を攻撃する訓練を実施。有毒化学物質に汚染されたという想定で、自衛隊員がストライカー装甲車の除染作業を行うなどの訓練も行われました。
 あいば野平和運動連絡会の早藤吉男共同代表は「饗庭野の『米軍基地化』を許さないたたかいがますます重要になってくる」と話します。
 (滋賀県・浜田正則)
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2016年11月29日,「赤旗」)

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シリーズ安倍政権下で進む基地強化/8/F35戦闘機整備拠点に/オスプレイ訓練が激化

F35戦闘機整備拠点に/三菱重工小牧南工場

飛来が増え安全に懸念
 県営名古屋空港に隣接した三菱重工小牧南工場(愛知県豊山町)がF35ステルス戦闘機の整備拠点(リージョナル・デポ)に指定され、日本が購入する42機中、38機の最終組み立ても同工場で始まり、新たな軍事強化が進んでいます。
 整備拠点は2014年12月に米国政府が発表しました。エンジンは東京のIHI瑞穂工場(瑞穂町)に、機体は愛知の三菱重工が担当することになりました。韓国も40機を購入する予定で、米軍も含め小牧南工場で整備することが狙われています。名古屋空港でのF35の飛行は最終組み立て後の試験飛行も含めて相当な数となることが考えられます。
 名古屋空港の滑走路を挟んで向かいには航空自衛隊小牧基地があり、輸送機からの部品落下などが頻繁に起きています。利用増による騒音被害防止を含めて、周辺の春日井市・小牧市・豊山町は何度も要望書を出しています。名古屋空港周辺の市民および議会、市で組織する春日井市飛行場周辺対策市民協議会も同様の要望をしています。
 日本が購入するF35は青森県の空自三沢基地に配備される予定です。3年前には、騒音がF16よりも10デシベル大きくなるとしたデータが防衛省から三沢市議会に伝えられました。F16は100デシベル(電車の通るガード下程度の騒音)を出しています。
 春日井市議会の3月議会で共産党の宮地隆議員はこのデータを示し質問。市はリージョナル・デポについてはFAX1枚での連絡しかなく、同様の説明はされていないことを明らかにしました。宮地議員は、情報提供の欠如を批判し、対策を求めています。
 (今村一路)

オスプレイ訓練が激化/富士周辺の演習場

基地返還に公然と逆行
 静岡県の陸上自衛隊東富士演習場(御殿場市、裾野市、小山町)は、演習場内の一角を占める米軍キャンプ富士(御殿場市)を拠点に、オスプレイの飛来・離着陸訓練などが定期的に行われる常用常設の訓練エリアとなっています。
 11月4日には1度に7機の米海兵隊・MV22オスプレイが、米軍普天間基地(沖縄県)から飛来し、演習場内で離着陸訓練を行いました。海兵隊が行う長距離襲撃演習「ブルー・クロマイト」のため、空中給油機を使って海兵隊員を運んでいたことが判明しています。
 米海兵隊は、「戦略展望2025」のなかで、キャンプ富士、東富士演習場に加え、地続きの陸上自衛隊北富士演習場(山梨県)を重要な演習場と位置づけて、海外と同様の実戦的訓練ができる場所にしようとしています。加えて、南側にある米軍沼津海浜訓練場(今沢基地、静岡県沼津市)も「海岸の保持、使用は必要不可欠。より一層の収容能力を持つように開発していくこともありうる」としています。
 同訓練場の見た目は何もない砂地の海岸ですが、ベトナム戦争時には揚陸艦を使って戦車などがキャンプ富士と往来した歴史があります。2014年9月には米海兵隊がキャンプ富士から水陸両用車(AAV7)4両をトラックで運び、揚陸訓練を強行しました。
 来年以降、横田基地(東京都)配備が狙われているCV22オスプレイが東富士演習場で射撃訓練を行う計画も、米軍公表の「環境レビュー」に明示されています。
 御殿場平和委員会の渡辺希一事務局長は、「東富士演習場の使用協定では米軍基地の早期全面返還が前提となっていますが、逆行することを公然と発表していることは許せません」と話しています。
 (静岡県・内田伸治)
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2016年12月04日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/多国籍企業に利/農業・地域経済に打撃

 政府は、環太平洋連携協定(TPP)で日本の輸出が増え、国内総生産(GDP)も雇用も増えると説明しています。ところが、実際は、それとは逆に、TPPが利するのは国境を越えて事業を展開する多国籍大企業で、被害を受けるのは国内の農業生産、地場産業、地域経済、そして国民生活です。
 多国籍大企業は、最適地生産といって、最も有利だと考える国に生産や流通、販売の拠点を置き、現地で生産、調達、流通、販売しています。利益を最優先する行動の結果、日本の「産業空洞化」が起き、地域の再生産構造が破壊され、経済の持続可能性が掘り崩されています。

国内取引と同じ
 TPPは、各国の関税・非関税障壁を撤廃し、規制を緩和・撤廃し、行政手続きを簡素化し、基準や規格を共通にします。TPP参加12カ国間の貿易を、一国内の取引と同じように変えます。多国籍大企業は、国境を越えて製品・部品を移動させても、関税もかからず、多くの手続きも免れます。一国内で行う企業グループ内の取引と同じように、国境を気にせずに利益を追求する環境ができるのです。
 そのことは、関税減免の対象になる製品の生産地を定めるルールである「原産地規制」にもよく表れています。例えば、自動車の場合、日本車に日本製でない部品が組み込まれても、TPP参加12カ国内で製造された部品の合計が、二つの計算方式で45%以上または55%以上に達していれば、参加12カ国で関税減免の対象になります。メード・イン・ジャパン(日本製)ではなく、メード・イン・TPP(TPP域内製)の原則なのです。
 100%日本製でなくてもよいわけですから、他国で販売する車を日本で生産し、日本から輸出する必要はありません。政府の説明とは逆に、日本の「産業空洞化」が加速され、日本への逆輸入も増えることになるのです。

苦境さらに加速
 他方、国内の下請け企業は、多国籍大企業が進出した先の下請け単価との競争を一層強いられます。単価引き下げ競争が嫌なら、多国籍大企業について海外へ出ていかざるを得ません。日本企業のアジア進出が本格化して以降、東京都大田区でも東大阪市でも、多くの中小企業が苦境に陥りました。すでに起きていることが、TPPで加速されることになるのです。
 地域経済へ与える影響が甚大です。中小企業の活動は、製造業のノウハウや熟練技能を持つ多くの異業種の企業が集まる地域の産業集積の中で、人、モノ、金を回すネットワークで成り立っています。TPPによって中小企業の経営が悪化し、ネットワークのある一工程が欠けると、ネットワーク全体が崩壊の危機に陥ります。
 農業はもちろん、履物・皮革などの地場産業も、TPPによる関税撤廃・削減で、輸入・逆輸入が増えると、大打撃を受けます。
 このように、TPPは、多国籍大企業を栄えさせるのと引き換えに、地域経済に被害を与え、地域社会を疲弊させることになるのです。
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2016年11月04日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/農産物輸入が拡大/最悪の農業破壊協定

 環太平洋連携協定(TPP)は、関税撤廃を原則としています。関税撤廃で農産物輸入が拡大されれば、国内の農業が大打撃を受けることは必至です。
 国会衆参両院農林水産委員会の決議は、TPP交渉で、米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の農産物重要5項目を「除外」または「再協議」とするよう求めました。「除外」とは関税撤廃・削減の対象にしないことです。「再協議」とは将来の交渉へ先送りし、当面は交渉しないことです。

関税撤廃を約束
 しかし政府は、国会決議に反して交渉し、農産物重要5項目の28・6%の品目で関税撤廃を約束しました。撤廃しなかった品目でも、米の輸入で米国とオーストラリアに対して合計7万8400dの国別枠を新設し、麦の輸入でも米国、カナダ、オーストラリアに対して国別枠を新設しました。さらに牛・豚肉の関税を大幅に削減するなど、全く「無傷」の品目はありません。明らかに国会決議違反です。農林水産物全体では、82・3%の品目で関税を撤廃します。
 政府は、関税割り当てやセーフガード(緊急輸入制限)などを用いて、関税を撤廃しない「例外」を確保したと強弁しています。しかし、国内向けの言い訳にすぎません。
 TPP発効後7年たつと、米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、チリのいずれかから要請があれば、日本の輸入を増やすために、関税、関税割り当て、セーフガードに関する日本の約束を見直す協議に応じなければなりません。5カ国はみな農産物輸出大国です。TPP発効の時点で農産物の一部に関税が残っていたとしても、撤廃を迫られ続けることになるのです。

対策込みで試算
 TPPの影響を評価した政府試算は、農林水産物の生産減少額は1300億〜2100億円にとどまり、米には「影響なし」としています。ところがこの試算は、現行の関税率が10%以上で、国内生産額が10億円以上の農産物19品目と林水産物14品目について試算したにすぎません。しかも、政府が対策を講じるので基本的に影響が出ないという前提に立っているのです。
 これに対し、農業関係者をはじめとして、対策を前提としない影響試算を求める声が相次いでいます。一部の道府県が独自試算を行っているほか、東京大学の鈴木宣弘教授も政府試算と同じモデルを使った独自試算を発表しています。それによると、農林水産物で1兆円、食品加工で1・5兆円の生産額減少が生じるといいます。
 政府は、国会決議に反して重要農産物の関税に手を付けただけでなく、関税撤廃の「例外」を確保したとごまかして、関税撤廃へのレールが敷かれた過去最悪の農業破壊協定を押し通そうとしているのです。
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2016年11月03日,「赤旗」)

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シリーズ現代の視点/東京理科大学教授大庭三枝さんに聞く/南シナ海とASEAN

平和的解決へルール作り推進
 中国の南シナ海への強硬な海洋進出が、同国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国との間で大問題となっています。この問題でASEANはどのような対応をしているのか―。東京理科大学の大庭三枝教授(国際関係論)に聞きました。
 (豊田栄光)

 ASEANは1976年に、武力不行使、紛争の平和的解決などの原則を定めた東南アジア友好協力条約(TAC)を結び、地域の平和を構築するルール作りを推進し、自らも実践してきました。南シナ海問題でも、武力不行使、話し合いによる解決を一貫して主張しています。
 中国は92年、南シナ海の大部分を領域だとする領海法を制定しました。それに対してASEANは、紛争の平和的解決などをめざす法的拘束力のある「南シナ海行動規範」(「行動規範」)の策定を打ち出しました。
 ASEANと中国は2002年、国際法やTACの順守、航行の自由尊重などを記した「南シナ海行動宣言」(「行動宣言」)に合意し、「行動規範」策定でも一致しました。

意見が違っても一定の合意形成
 しかし中国は09年ごろから、南シナ海問題で強硬姿勢にでています。カンボジアがASEAN議長国だった12年には、外相会議で共同声明が採択されませんでした。
 カンボジアが中国寄りの姿勢を示し、これに紛争当事国であるフィリピンなどが反発し、共同声明案で合意できなかったためとみられています。ASEANの「一体性」が崩壊したとの見方も出ました。
 しかし、こうした意見の相違があるなかでも、ASEANは一定の合意を形成し、それを対外的に表明することで、地域紛争解決へ向けた存在感を示そうとしています。
 ASEANは、首脳会議や外相会議で「行動宣言」の重要性や、「行動規範」策定作業の継続の必要性に言及するほか、紛争の平和的解決などを繰り返し確認しています。
 15年4月の首脳会議の議長声明は、南シナ海での「埋め立て」は平和と安定を脅かすとし、同年11月の首脳会議の議長声明は、「軍事化」に懸念を表明しています。今年8月には、来年前半までに「行動規範」の枠組み合意をめざすことを確認しています。
 中国が想定以上に強硬姿勢をとり、ASEANは戸惑っていますが、彼らは軍事力で中国と対決しようとは考えていません。

国際司法裁判で領土問題を解決
 ASEANはTACを地域の規範とし、域内の平和と安定を図る仕組みづくりに取り組んできました。94年に、アジア太平洋地域の安全保障を話し合うASEAN地域フォーラムが発足しました。このとき、TACの目的と原則を「地域の諸国間関係を管理する際の行動規範」として承認することが議長声明に盛り込まれました。同フォーラムのメンバーには米国、中国、日本などが含まれています。
 05年誕生の東アジア首脳会議(ASEAN+日中韓印豪ニュージーランド)に参加するにはTAC署名が条件とされました。米国も09年にTACに署名、この会議に参加しました。
 ASEAN諸国間の領土問題では、02年にインドネシアとマレーシアが、08年にマレーシアとシンガポールが国際司法裁判所の判決で問題を解決しました。TACに準拠した紛争の平和的解決の実践です。
 安倍晋三政権はASEANのこれらの実績を評価してというよりは、中国をけん制するうえでASEANを重視しているようです。
 大国間関係が国際関係の95%を決めるという見方もありますが、私は中小国の役割と影響力は無視できないと思っています。
 ここ30年ほどの歴史を振り返ってみると、ASEANが納得しない地域制度は実現していません。中小国の連合体であっても、ASEANの外交交渉力は評価できると思います。
(
2016年11月01日,「赤旗」)

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10月】

シリーズ安倍改憲を問う/無言館館主窪島誠一郎さん/平和憲法を守るために無言≠ナはいられない

新著『手をこまねいてはいられない―クモ膜下出血と「安保法制」』/大病から生還、見えるようになった政治の「病」
 戦没画学生の作品を集めた「無言館」(長野県上田市)館主の窪島誠一郎氏に、自身の闘病体験と政治考を重ねた新著『手をこまねいてはいられない―クモ膜下出血と「安保法制」』についてききました。
 田中倫夫記者

 「自分が大病を体験し、この国の政治がかかえる『病』がよく見えるようになりました」
 参院選で野党統一候補の勝利をめざす「信州市民の会」の旗揚げの記者会見(2015年12月23日)に出かけ、その席でクモ膜下出血で倒れた窪島さん。9時間半にわたる開頭手術で、生還することができました。

病で考え変化
 「麻酔から目覚めて感じたことは、『生き残った』という幸運への感謝と、生還した兵士がよく感じる、生き残った自分へのある種の『負い目』『うしろめたさ』です」
 「自分は日常、生きているのではなくて、生き残っているんだ、あるいは、生きたくても生きられなかった人たちに命を託されているんだと。人生の残り時間、ロスタイムが見えてきた。それらが今回の病の体験から得た大きなことですね」
 いままでの仕事を振り返って、向き合うものに向き合っていなかったのではないかと思うようになりました。
 「私は、『信濃デッサン館』と『無言館』という美術館をつくり、大正・昭和期の絵描きたちを追いかけてきました。しかし、必ずしも、時代や社会が無言館に抱いているイメージをよしとしないところがありました」
 絵筆を銃に替え、戦場に駆り出された戦没画学生を、「戦争犠牲者」としてしかとらえないことで、本来の表現者としての尊厳をないがしろにしているのではないか? 無言館が政治にかかわることは、何か不純ではないか―との思いもありました。
 「ところが、病気を患う中で、それでいいじゃないかと思い始めました。画学生から糾弾されるのを覚悟の上で、今の若い芸術青年たちが、そういう宿命にさらされぬように、自分はやはり矢面に立ってでもここで努力すべきじゃないかと。人間の営みの中で政治に無関係なものなど何もない。生きている自分が、もう、『無言』で『手をこまねいてはいられない』と」
 退院すると、世の中は参院選の最終盤。窪島さんは病み上がりにもかかわらず、選挙応援に立ちました。長野では野党統一候補の杉尾秀哉さんが自民党に7万票差で勝利しました。
 「私自身には、60年安保のときの岸信介氏と、いまの戦争法をめぐる安倍晋三首相がコピーのようにダブります。60年安保の前には警職法が改悪されて、警察官の権力を強化した。いまは戦争法の前に秘密保護法を制定した。国民の目と耳を封殺して、あっという間にやりたいことをやりぬける。既視感がある。一度見た風景です。ちょうど同じような時代がやってきたのではないか。もう一度同じようにだまされていいのか」

謝らない傲慢
 安倍首相の改憲路線をきびしく批判します。
 「かつて私たちの国は、一部の為政者の誤った国策によって、2千万人以上の外国人の命を奪い、300万人余もの日本人の犠牲者を出した。今も多くの被爆者を苦しめている広島・長崎への原爆投下を招いた。だからこそ私たちは戦争を完全に否定する平和憲法を制定し、この国を再建してきたはずです。戦没画学生たちは今、戦争法を、秘密保護法をどう思っているのか、聞いてみたいのです」
 安倍暴走政治全体についても。
 「権力についている政治家は、なぜああも自分たちの過ちについて謝らないのか。アベノミクスが失敗しても、国民の年金を株運用で大穴を開けても、なぜ謝罪しないのか。それは戦争について謝らない姿勢にも通じます。自己を顧みない態度は権力の傲慢(ごうまん)以外の何ものでもありません」
 総選挙に向け、野党共闘に期待を語ります。
 「経済でも原発でももっともっと政策をぶつけ合い練り上げて、一体となって安倍政治に立ち向かうことが必要です。共産党が選挙協力に踏み切ったことは英断、大きな変化でした。ぜひ、市民運動と政党をつなげる役割を果たしていってほしい」

くぼしま・せいいちろう=1941年生まれ。64年に世田谷区に小劇場「キッド・アイラック・アート・ホール」を設立。79年長野県上田市に「信濃デッサン館」、97年に戦没画学生慰霊美術館「無言館」を設立。実父・水上勉との再会をつづった『父への手紙』など著書多数
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2016年10月30日,「赤旗」)

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シリーズ安倍改憲を問う/俳人長谷川櫂さん/弱者を守る社会つくろう/これが憲法のメッセージ

新著『文学部で読む日本国憲法』/理想欠き懐古趣味の自民草案
 東日本大震災直後に『震災歌集』を出版した俳人の長谷川櫂さん。新著『文学部で読む日本国憲法』を出しました。俳人は憲法をどう読んだのか―。
 神田晴雄記者

 「文学部で読む…」という書名の意味をこう書いています。
 〈シェークスピアの戯曲や芭蕉の俳句や谷崎(潤一郎)の小説を読むように日本国憲法を読んでゆく〉〈言葉の奥に広がる世界を解明する文学の方法で憲法を読む〉
 「憲法学者の憲法の読み方はひとまず置いて、憲法はわれわれにどんなメッセージを伝えようとしているのかをしっかりとらえることが必要だと思いました」
 憲法が第一に言っていることは「国民一人ひとりが幸福になるために国はどうすべきか」だと。
 「私たちが夫婦、家庭、社会、国をつくっているのは子どもや老人、障害者、一人で生きていくのが難しい人たちを守るためだと思います。弱者を守るために社会をつくるという考え方は、日本国憲法の根本に流れています」
 憲法前文の〈そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて…その福利は国民がこれを享受する〉が、その具体的文言にあたると話します。

相模原の事件
 7月に神奈川県相模原市の知的障害者施設で元職員によって入所者が殺傷された事件を「憲法」という角度から語ります。
 「いなくなればいい人間≠ネんていないのです。弱者を守る社会を憲法に従ってつくることが大事です」
 安倍晋三首相は自民党改憲草案(2012年)を「撤回するつもりはない」と国会で答弁しました。
 「今、憲法改正をする必要はないと思います。というのは今の憲法の条文と解釈であらゆる問題に対応できるからです。9条『改正』を国会で発議したとして、今の状況で国民投票をやったら結果はどうでしょうか。『改正ノー』です。世論調査などを見ても明らかです。自民党は選挙でたくさん議席をとったけれども9条改正は不可能です」
 改憲草案に理想主義が欠落しているのも問題だと言います。
 「憲法というものは法律の中で唯一理想をうたう法律です。日本国憲法には、国民主権や平和主義などの崇高な理想が前文にあります。憲法の憲法たるゆえんです。ところが自民党の改憲草案には理想が欠落していて、懐古趣味に堕しています」
 集団的自衛権行使を認めた安保法制=戦争法を違憲だと、個人の正当防衛と対比して語ります。
 「集団的自衛権とは日本が攻撃されていないのに、同盟国が攻撃されたからといって、よそまで自衛隊が出かけて行ってたたかうということです。自分がたたかれてもいないのに。これは正当防衛にあたりません。これまで政府がいっていた『固有の自衛権』には含まれません」

国防軍は論外
 自衛隊については「合憲か違憲かは常識的に決めるべきであって、ここは共産党と意見が違うかもしれません」と語ります。「一般に、常識に照らし合わせてここはいかにもおかしい≠ニいうところが法律にあった場合、現実に沿って法律を解釈することがいろいろな法律でおこなわれています。もちろんその場合でも憲法の文言による限界はありますが」
 日本共産党は平和外交を展開しつつ9条の完全実施に向けて国民的合意を得ながら段階的に自衛隊を解消していくという立場です。
 「国民的合意はとても大事です。それは『国民の常識』にするということです。自民党の改憲草案は『国防軍』創設をうたっていますが、これは国民の常識からかけ離れているので、国民が支持するはずがありません」

はせがわ・かい=1954年熊本県生まれ。「季語と歳時記の会」代表、俳句結社「古志」前主宰。東京大学法学部卒業後、新聞記者を経て俳句に専念。評論集『俳句の宇宙』(サントリー学芸賞)、句集『虚空』(読売文学賞)、句集『沖縄』などの著書がある
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2016年10月23日,「赤旗」)

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「しんぶん赤旗」いま読みどき/安倍政権とメディア/シリーズ「部活って何」

安倍政権とメディア/NHK問題、提起に反響
 「赤旗」は安倍政権のメディア抑圧、とくに放送分野への攻撃をくり返し告発。政府翼賛姿勢むきだしの籾井勝人NHK会長の言動を厳しく批判してきました。
 14日付「焦点・論点」は、籾井氏の任期が来年1月までであることから、「NHK会長選任に国民・視聴者の声を」を掲載。永田浩三(元NHKチーフプロデューサー)、小林緑(元NHK経営委員)両氏が、「NHKは市民のための仕事を」「安倍応援団などとんでもない」と訴えました。
 読者から多く寄せられている「放送法の精神を理解しない籾井会長の再任などとんでもない」「視聴者の要望にこたえた会長選任システムを」との声を反映しています。
 この記事に、あるNHK元幹部は「おたくの報道は、籾井会長批判の厳しさや会長選任への問題提起など耳を傾けるところが多い」と語っています。
 NHK改革を求める市民・視聴者運動を重視。「放送を語る会」「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」など市民団体が取り組む署名運動や、各地で結成されている「NHK問題を考える会」などの動きをそのつど伝えています。

シリーズ「部活って何」/体験や思い、次つぎ届く
 まったく経験のない競技の顧問が苦痛。休みはお盆と年末年始だけなんて。どうして暴言や暴力がなくならないの―。
 こうした声にこたえて、16日付からシリーズ「部活って何」が始まりました。学校での部活動、とりわけ運動部のあり方を考えていきます。
 1回目は子ども、教職員、保護者の思いとともに、なぜここまで過熱化してきたのかを歴史もひもときながら問題提起しました。
 「体験や思いをお寄せください」と呼びかけたところ、切々と訴えるメールがいくつも届いています。練習時に孫がアキレス腱(けん)を切る大けがをしたにもかかわらず、顧問に持っていた書類を投げつけられ「俺のいうことを聞かないからやろ」と怒鳴られた体験。また、運動系の部活に入っていた女性は「スポーツをすることの楽しさを学んだり、仲間ができたりしたので意義は感じている」としながらも、「現状の歯止めのない状況では、子どもたちにも顧問の先生たちにも負担が大きすぎ、効用よりも負担の方が大きくなってしまう」とつづっています。
 シリーズで大切にしたい視点は「子どもにとってどうなのか?」です。読者のみなさんと一緒に、よりよいあり方について考え合っていきます。
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2016年10月27日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/貿易だけではない/労働・環境まで多分野で

 環太平洋連携協定(TPP)は、単なる貿易協定ではありません。前文と30章からなる協定文のうち、純粋に貿易にかかわるのは5章ほどです。多くは、多国籍大企業が国の違いを気にせずにもうけを追求するために、各国の規制を緩和・撤廃し、行政手続きを簡素化し、基準や規格を共通にすることを目指すものです。国民の命と暮らしを守るために定められた規制さえ緩められかねません。

ごく異例な協定
 TPP交渉は、21の分野にわたり、24の部会で行われました。特に、労働や環境の分野を含めたのは、他の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)と比べ、極めて異例です。衛生植物検疫(SPS)のように、国民の安全・安心を第一に基準を定めるべき分野もあります。また、国有企業や政府調達のように、各国独自の公共政策にかかわる分野もあります。
 労働問題は本来、国際労働機関(ILO)が中心になって扱うべきものです。世界貿易機関(WTO)の協定にも、労働問題は入っていません。しかし、TPPが労働分野を含めたことで、働く者の労働条件や権利が多国籍大企業の利益にそって切り縮められる恐れがあります。
 環境問題も同様です。環境保護の基準は、他の分野とかかわりなく、独自に定められるべきものです。地球温暖化の防止のために、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が国際的努力を行っていることでも明らかです。しかし、TPPは、環境保護のために多国籍大企業の活動に規制をかけることがなく、逆に環境基準が緩められる懸念があります。
 衛生植物検疫は、輸入食品の安全を確保するために必要です。しかし、TPPは「国際的基準」に従うことを求め、各国独自に安全基準を定めることを拒否します。それでは、安全を確認できなくても、危険を確認できない限り規制できなくなります。食品輸出企業や遺伝子組み換え産業などにとって極めて都合よくできています。

対象みえぬまま
 TPPは、国有企業を民間営利企業と同じ扱いにするよう求めています。各国は、独自の事情によって、多かれ少なかれ国有企業を持っています。その事情を無視して、一律の基準で扱いを決めることはできません。しかも、対象にする国有企業の一覧表はTPP発効後6カ月以内に公表され、国会議員も、何が対象になるか分からないままTPPを審議しなければなりません。
 政府調達は、官公需の受発注を内外企業に開放する取り決めです。日本については、WTOの基準と変わりません。しかし、将来は、適用範囲を拡大し、受発注の最低額を引き下げる「追加的な交渉」が行われるため、地元業者を優先する地方自治体の施策に影響が出る可能性もあります。
 ここに挙げたのは、ごく一部です。TPPは、あらゆる分野で一律の基準を求める協定です。「国の形を変える」といわれるのは、そのためです。
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2016年10月28日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/秘密の交渉過程/詳細を明らかにしない

 昨年10月の環太平洋連携協定(TPP)の「大筋合意」以降、政府は、国民から「懸念・不安の声が寄せられていることも事実」として、「合意内容をていねいに説明する」と繰り返し述べてきました。しかし、国会審議が行われている今も、TPPの内容がよく分からないと感じている国民は少なくありません。なぜなら政府は、国会に対しても、十分な情報を提供していないからです。
 政府が発表した協定文の日本語訳は、全体の3分の1程度です。しかも、協定文本体に条文の一部が欠落するなど3カ所の誤り、概要説明書に15カ所の誤訳がありました。

責任を果たさず
 政府を代表して交渉に当たってきた甘利明TPP担当相(当時)は、本来、説明の先頭に立つべき立場にあります。しかし、自身の資金疑惑のために辞任し、その責任を果たしていません。
 国会質疑でも、「いちいちのやりとりについては、発言を控えたい」(安倍晋三首相)などとして、交渉の詳細を明らかにしません。国会の要求で、しぶしぶ提出した甘利TPP担当相とフロマン米通商代表の交渉記録は、全文が「黒塗り」でした。
 その原因は、TPPが秘密交渉でまとめられたことにあります。各国政府は交渉に当たって、守秘契約を結んでいました。交渉文書や交渉内容を知ることができる者をごく一部の関係者に制限した上、TPP発効後4年間、妥結しなかった場合は最後の交渉会合から4年間、それらの資料を秘匿することにしたのです。
 他方、政府が発表したTPP影響試算は、都合のよい前提に立ち、効果を過大に、影響を過小に評価した代物です。国内総生産(GDP)が14兆円増え、雇用が80万人増え、農林水産物の生産減少額は1300億〜2100億円にとどまるというのです。米にいたっては、「影響なし」と見積もっています。
 ところが、青森、新潟、福井など8県が米への影響を独自に試算したところ、8県の合計で最大222億4000万円の生産減少額が見込まれます。外食や中食に使われる業務用米が輸入米と競合し、価格が暴落するというのが試算の根拠です。

過小評価の試算
 現在でも、輸入米が国産米より安く出回っていた疑惑が生じています。年間77万d輸入しているミニマム・アクセス(MA)米のうち、売買同時入札(SBS)方式で輸入している食用米の取引で、政府が公表した価格で取引していると見せかけて、実際には安く取引していた価格偽装が発覚したのです。
 自民党は政権復帰する前の総選挙では、「TPP断固反対。」を掲げました。その公約を投げ捨て、交渉に参加したのです。国会決議は、米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の農産物重要5項目の関税を交渉しないよう求めていたにもかかわらず、約3割の品目の関税撤廃を約束しました。
 このように、自らの公約や国会決議に違反し、情報を隠し通し、悪影響を過小評価した試算でごまかす政府の姿勢が、TPPを国民に分からないものにしています。
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2016年10月27日,「赤旗」)

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シリーズ今こそ聞きたいTPP/批准急ぐ安倍政権/大企業のため規制緩和

 環太平洋連携協定(TPP)の承認案と関連法案が衆院TPP特別委員会で審議されています。十分な審議が行われないまま、政府・与党側から、強行採決を示唆する発言が相次いでいます。TPPをめぐる情勢が緊迫している今、TPPがどのようなものか改めてシリーズで検討します。

 安倍晋三首相は、中国・杭州で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議における9月5日の発言で、「日本は、政治的困難を乗り越えTPPに合意した」と述べ、「発効への動きを停滞させてはならない」と訴えました。9月19日にも、ニューヨークでの「対日投資セミナー」で、「臨時国会でTPPの国会承認と関連法案の成立を図ります」と述べるなど、TPP批准を国際公約としてきました。

日本が各国促す
 TPPに署名した12カ国の中で、批准の国内手続きを終えた国はまだありません。この状況を受け、安倍首相は、「日本が率先して国会で批准していくことで、各国の動きを一層促していきたい」と、世界の指導者気取りです。
 安倍政権は、TPPをアベノミクス(安倍政権の経済政策)の「成長戦略」の柱と位置付けています。
 アベノミクスは、企業がもうかれば、水が滴るように社会全体へ行きわたるとする考え(トリクルダウン)を前提としています。企業がもうかることが、すべての出発点です。だからこそ、安倍首相は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げて、企業が障害物とみなす規制を「岩盤規制」と呼び、自らがドリルとなって打ち破ると豪語してきました。TPPの批准を急ぐのは、関税と非関税障壁を原則的として撤廃するほか、多国籍大企業の国境を越えた利潤追求のために、彼らが障害物とみなす各国の規制を取り払う協定だからです。

主権も差し出す
 それらの中には、国民の命と暮らしを守るために、各国が築き上げてきたさまざまな制度が含まれます。
 安倍政権の「成長戦略」「規制緩和」「企業が活躍しやすい国」、TPPなどはみな、一握りの多国籍大企業の利益に資するものです。TPPは、国民の利益も国家の主権も、多国籍大企業に差し出す協定なのです。
 実は、日本がTPPを批准しても、すぐに発効するわけではありません。TPPによって、経済成長がすぐに高まるわけでもありません。しかし、破綻したアベノミクスの「成長戦略」の切り札≠ニしてTPPに執着し、与党の数の力にまかせて、無理やり批准へなだれ込もうとしているのです。
 

 TPPについて「今こそ聞きたい」という疑問やテーマをお寄せください。
 送り先=メールhensyukoe@jcp.or.jpまたはファクス03(3350)1904
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2016年10月26日,「赤旗」)

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シリーズ安倍改憲を問う/伊藤塾塾長・弁護士伊藤真さん/憲法読み解く力、市民がしっかり

『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』を緊急増補/「緊急事態条項」、独裁許す危険
 「九条の会」に新しくできた世話人に就任した伊藤真さん。参院選の選挙結果を踏まえ、9月、『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案 緊急増補版』を出版しました。
 田中倫夫記者

 「参院選で、『改憲勢力』が衆参両院で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を占め、改憲の動きが強まっています」と指摘する伊藤さん。「自民党は、改憲草案(2012年)をすでに発表しています。安倍(晋三)首相は参院選開票の翌日、『いかにわが党の案をベースに3分の2を構築していくかが政治の技術だ』といっています。ですから、改めて改憲草案を徹底的にチェックすることが重要です」と本を出版した意義を語ります。
 『赤ペンチェック』は次のこんな質問からスタートします。
 「次のAとBはどちらが正しいでしょうか。(A)憲法は、国民が守るべき義務です。(B)憲法は、権力者が守るべき義務です」

権力の横暴縛る
 「正解はBです」と伊藤さん。「この質問には憲法の根本問題が含まれています。昔、専制君主国家でも、憲法に似た慣習法はありましたが、横暴な政治が行われ、国民を強く抑圧しました。そこで近代以降の憲法は、国家権力から国民の基本的人権・自由を守るために、権力者が守るべきことを定めるようになりました。人権を守るために憲法で権力を縛る。これが『近代立憲主義』です」と語ります。
 自民党の考え方はAです。「改憲草案によると、基本的人権を尊重する考えは『西欧』のものだから、『改める必要がある』として、『公益』や『公の秩序』という概念を、人権の上に位置づけています。これは、立憲主義を根底から覆す考え方で、抑制される権力側がかせを外して自由になり、逆に国民を縛り付けようというのです」と説明します。
 改憲草案にある緊急事態条項の危険性も指摘します。
 「『お試し改憲』として、改憲草案の『緊急事態条項』の改憲から進めるとの話も出ています。しかし政府が『緊急事態』を宣言すると、衆院の解散は制限され、国会議員の任期も延長されます。『野党も賛成しやすいだろう』と思っているようですが、『緊急事態条項』は、『非常時』を理由に独裁を許す、とても危険なものです」
 自民党が本当にやりたいのは9条2項を削除し、国防軍の創設を書き込み、海外での無制限の武力行使が可能な「戦争ができる国」に変えることです。
 「国民があまり反対しにくいところから改憲に着手して、そのあと本当にやりたい9条改憲をやる。その際は、『安保法制を違憲というなら合憲にするために9条を変えよう。それが立憲主義だ』などと言ってごまかそうとするでしょう。そういうデマに惑わされないように、私たちは憲法を読み解く力をしっかりつけておく必要があります」

二つのルートで
 安保法制=戦争法の廃止をめざし、政治と司法という「二つのルート」で大きな世論を起こすことを呼び掛けています。
 「一つは、地方選挙を含めて、選挙で国民が意思を示し、政権交代を通じて政治のルートで廃止をしていくことです。もう一つは、裁判所に違憲訴訟を提起し、司法のルートでただしていくことです」
 伊藤さんは強調します。
 「これらの運動の大きな源は市民・国民の世論。その市民が求めるのは野党共闘です。その点では共産党は大きな役割を果たしました。市民の声を受けて、野党が本当に大きく変化し、選挙協力への道に進んだ。数年単位の長いたたかいになると思いますが、この国を『戦争する国』に絶対にさせないという市民の強い意志さえあれば、戦争法廃止まで続けられる。それが今を生きる私たちの責任です」

いとう・まこと=1958年東京生まれ。
弁護士。法学館法律事務所所長、伊藤塾塾長、法学館憲法研究所所長。「九条の会」世話人
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2016年10月09日,「赤旗」)

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シリーズ・アラブ民衆蜂起5年/モロッコきょう下院選挙/なお大きい国王の力

 北アフリカのモロッコで7日、下院選挙が実施されます。2011年のアラブ民衆蜂起後、2度目の下院選挙です。
 立憲君主制のモロッコでも11年に民主化を求める大規模デモがありました。これを受け、憲法改定案を国民投票で承認。下院選挙を実施しました。

よりましな憲法
 当時デモに参加したハウラ・ラシュガルさん(34)は「国王から政府、政府から議会に権限を移すことや、個人の自由を求めました。新しい憲法は最良ではないけれど、よりましなので賛成しました」と振り返ります。
 モロッコ憲法では国王が首相を任命します。従来は国王の自由裁量でしたが、憲法改定後は、選挙で最多議席を得た政党の党首を任命することとなりました。
 実際、モハメド6世国王(53)は、憲法改定後の下院選挙で第1党となった正義発展党(PJD)のベンキラン党首を首相に任命。同首相が約5年間、連立政権を率いてきました。
 改定憲法はまた、議会解散権を国王だけでなく首相も持つとしています。
 とはいっても国王の権限は依然大きく、改定憲法でも国王は国家元首、軍の最高指揮官です。国教イスラム教の聖職者の最高会議も主宰します。
 政治評論家のモハメド・ボウデン氏(29)は「国王は宗教、国家、政治で責任を果たす。国の諸機関の最高の裁定者。国の象徴というだけではない」と語りました。
 11年のデモに参加した政治勢力のなかには、大きな権力をもつ君主制に抗議し、選挙をボイコットする動きもあります。
 他方、権力分立や、議会権限を強めた君主制への改革を主張し、選挙に参加する勢力、民主左翼連合(FGD)があります。知識人や芸術家ら100人が9月、同連合の女性幹部ナビラ・モニブ氏(56)を支援する公開書簡を地元紙に発表。内外の注目を集めました。

代弁していない
 7日の下院選挙では、ベンキラン首相率いる正義発展党や、王室に近いとみなされている真正現代党などが有力です。
 民主左翼連合のモニブ氏は「どちらの党も、民主主義をめざす国民の思いを代弁していない」と批判しています。
 民主左翼連合について、評論家ボウデン氏は「得票を増やすかもしれないが、影響力は知識人に限定されている」と述べています。
 (ラバト=小玉純一)

モロッコ
 1956年フランスから独立。独立へ尽力した当時の国王は国民的英雄。独立時から複数政党制。現在、人口3400万人。99%がイスラム教徒。
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2016年10月07日,「赤旗」)

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シリーズ安倍改憲を問う/芥川賞作家諏訪哲史さん/9条は「無敵の盾」

丸腰の国′bトば国際社会が指弾/メディアから「批評」奪う政権/いま迎合するわけにいかない
 〈英雄ごっこの好きな幼稚な人間が自衛隊を我が軍と呼び、盾でなく矛として使うべきだと言い始めた〉。芥川賞作家の諏訪哲史さんが書く政治コラムが話題です。日本国憲法9条を「無敵の盾」だとたたえるその心は―。
 神田晴雄記者

 コラム名は「諏訪哲史のうたかたの日々」。毎日新聞が発行する月刊誌『毎日夫人』に掲載されています。
 「無敵の盾」とは。
 「国際社会の成熟と不可分だと思います。9条を持つ日本を仮に攻撃した国があれば、おまえは丸腰の国を撃ったのか∞71年間他国を侵略どころか他国の人を殺したこともない国をさきに撃ったのか≠ニ国際社会から指弾される。それは避けたいとどの国も思うでしょう。そういう意味で9条は日本を守る無敵の盾なのです」
 憲法前文にある、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して…」を思い起こさせます。
 〈非戦の誓いを破る日〉と題するコラムにはこうあります。
 〈非戦を誓った史上最高の平和憲法、憎悪の連鎖である戦争(テロ)から長く僕らを守ってきた日本国憲法第九条が、かつての空爆の地獄を忘れた、または頭でしか知らない世代の多数決によって今まさに葬られようとしている〉
 憲法が時代に合わなくなったという改憲派の言い分にも怒り、反論します。
 「人類の理想、国連の非常に理想主義的な考え方が詰め込まれたのが日本国憲法です。戦争をしたい人たちを、ここから先には行かせない≠ニいう首縄になってくれればと思う。集団的自衛権の行使を認めたことは首縄としては長すぎますが、憲法を変えたら野犬が縄でつながれていない状態と同じです」

「汚いやり方」
 安倍晋三首相が先の参院選挙で憲法「改正」発言を封印したことを「卑劣で、汚いやり方だ」と批判します。
 「経済を第一に押し出しながら、それの後ろで実は自分が一番やりたがっている憲法を『改正』し9条をなくして軍事大国にするというもくろみを温めている」
 メディアには「伝達と批評」という二つの役割があるが「批評」を奪うのが安倍内閣だ、と指摘します。
 「政府から『公正・公平』がメディアに対して要求されています。これはメディアから多様性を奪い、政府のやることを批評するなということです。しかし完全なるフィフティーフィフティー(50対50)なんてありえない。偽の公平みたいなものを圧力として加えている」
 「同じ思考や情報の中で何かを選択させられている国民は、民主主義的に見えるけれどそれは全体主義ですね。メディアがおとなしくさせられ、国民は公平≠ニいう均質化された情報のもとで思考するしかなくなったら、自民党のやりたいように憲法が変えられてしまうのではないか」
 自らの吃音(きつおん)体験をもとに書いた『アサッテの人』(講談社文庫)で芥川賞を受賞しました。
 「言葉に対する憎しみやいとおしさの両面を持っている複雑な気持ちをどうすれば表に出せるかわからないまま生きてきて、30歳になる前に書いてみました。書かずにいられない衝動のようなものがありました」

日本の軍国化
 コラムで政治エッセーを書くのも衝動に駆られてのことだと言います。
 「昔の友人からおとなしかった諏訪があんな激越な発言をするのは信じられない≠ニ言われます。僕は本ばかり読んでいた哲学科の学生でしたから」
 「僕は自分たちの時代のアイデンティティーとして平和主義を勉強し血肉にしてきた人間です。そんな人間が、今何も言わないでどうする。日本を軍国化に向かうのを許してしまったら、あの時、筆で生きていて、コラムの枠を持っていた諏訪哲史はひとことも言わなかった、迎合したと後世の人から言われてしまう。そんな恥をかくわけにはいかない」

すわ・てつし=1969年名古屋市生まれ。作家、随筆家。東海学園大学教授。『アサッテの人』で群像新人文学賞、芥川賞。著書に『りすん』『ロンバルディア遠景』
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2016年10月02日,「赤旗」)

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9月】

「維新」政治どうみる/Q&A/1/参院選で果たした役割/「改憲反対勢力」つぶし

 Q 参院選で「おおさか維新の会」が果たした役割は?

 「国政選挙で現与党およびその補完勢力を少数に追い込む」
 2月19日、日本共産党はじめ5野党の党首合意は、その第3項目でこううたいました。
 「安倍政権与党の補完勢力」とは「おおさか維新の会」(現「日本維新の会」、以下「維新」)のことです。その補完ぶりが、7月の参院選大阪選挙区(改選数4)でもくっきり表れました。
 何よりも、安倍政権の肝煎りで「大阪選挙区2人擁立」を決めたことです。松井一郎代表(大阪府知事)は、早くから2人擁立の方針を口にし、その狙いについて、「共産党と民主党に大阪での議席を与えたくないんでね」「共産党が議席をとるというのは日本の国のためにならない」(2月19日の記者会見)と語っていました。しかし、実際には複数擁立が難航。「至難の業」を決断したのは安倍政権からの働きかけであったことを複数のメディアが報道しています。狙いは「改憲反対勢力」つぶしでした。
 おまけに論戦では徹底して「改憲隠し」。この面でも安倍政権と二人三脚でした。
 そして、全国で参院選の真の対決構図が「安倍政権与党対野党・市民共闘」にあることが、1人区を中心に浮かび上がるなか、大阪では「維新」が違う土俵づくりに躍起になりました。「古い政治を壊す。新しい政治を創る」。ポスターでこう打ち出した彼らは、演説ではもっぱら「大阪の自民党は全国と違う。(府知事・大阪市長ダブル選挙で)共産党と手を組んだ。大阪では維新対自共民のたたかい」と叫び、偽りの対決構図を押し出しました。
 これと一体に、「維新」は「野党共闘つぶし」「日本共産党攻撃」に狂奔します。「国政における無責任野党の共闘、大阪における自共の共闘をリードしているのは共産党です。絶対に負けるわけにいかない」
 大阪では「維新」代表の松井知事と同政調会長の吉村洋文大阪市長らが連日こうした攻撃を繰り広げました。
 
  
 国政で安倍政権を助け、大阪では府政・大阪市政などで「反動の首座」を占める「維新」。彼らをどうみて、どうたたかうか。大阪から連載で発信します。
 (つづく)
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2016年09月16日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/2/ルーツと狙い/行き詰まり大阪市解体へ

 Q 大阪の「維新」はどこから生まれ、何を狙っているのか?

 ふりかえると前代表の橋下徹氏(元大阪府知事、前大阪市長)が率いた「維新」の台頭は、大阪の自民党・「オール与党政治」の行き詰まりが、どこよりも激しいなかでのことでした。
 経済的には、「子どもの貧困」率がいまや全都道府県でワースト2位になるなど、全国最悪の形で「格差と貧困」が広がりました。関西財界がすすめてきた「関西空港・大阪湾ベイエリア開発」が破綻をとげて大阪経済と地方財政の巨大な「負の遺産」となります。これに代わるプランも示せなくなり、関西経済連合会は「関西経済は絶対的衰退の危機」とまで叫びます(1999年「関西再生シナリオ」)。
 政治的には、自民党、民主党(当時)の支持基盤が崩れた大阪で、日本共産党を除く「オール与党」がどこよりも早く生まれました。しかし、府民との矛盾は消えず、2007年大阪市長選、08年府知事選では、従来の「オール与党」の枠組みではたたかえなくなっていました。
 この08年府知事選で登場してきたのが、自民・公明が推薦した橋下徹氏でした。茶髪の若手弁護士として民放テレビ番組に出演していた知名度と「大阪府職員は破産会社の職員」などの物言いで注目を集めました。彼が志向したのは、大阪の行き詰まりを「右から改革」することでした。
 その姿が明確になるのが10年4月の「大阪維新の会」結成です。「大阪府庁の旧WTC(ワールド・トレード・センタービル)への移転」という提案をし、議会で否決されたものの、この案件への賛否を質草に、自民党のなかに手をつっこみ、知事が代表となる地域政党をつくりあげます。
 そこでかかげた一枚看板が「大阪都」構想でした。大阪市をつぶし、その権限と財源を「大阪府」に吸い上げ、「1人の指揮官」でやりたい放題の「統治機構」をつくること企図したものでした。これと一体に、「なんでも民営化」路線を走り、「教育基本条例案」「職員基本条例案」を打ち出すなど、文字通り従来の「オール与党」政治にもなかった異質で危険な方向をたどります。
 (つづく)
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2016年09月17日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/3/大阪でやってきたこと/その1/「格差と貧困」の拡大

 Q 「維新」で大阪は改革された?

 大阪でなぜ「維新」の支持率が高いのか。参院選で「維新」に投票した人は、その理由に「大阪を変えた」「変えてくれるから」などを挙げています。「身を切る改革」などの宣伝文句や「野党ポーズ」から、そんな幻想も出るのでしょう。
 しかし、「橋下さんが知事になって以来の8年、大阪のくらしや景気は?」と問うと、「良くなった」より「悪くなった」という声が多く返ってきます。
 いくつかの数字をみてみましょう。
 「維新」は府知事・大阪市長ダブル選挙などで、「年率2%経済成長させる」と公約してきました。ところが実際は、橋下府政前と比べると、大阪経済は4・4ポイントのマイナスです。同じ時期、全国平均はプラス2・4ポイントですから、その落ち込みぶりは鮮明です。働く人の所得(雇用者報酬)などの指標も全国以上に悪化しました。
 「子どもの貧困」は全国ワースト2位に陥っています(山形大学の戸室健作准教授の研究によると「子どもの貧困率」は大阪21・8%、全国平均13・8%)。
 「維新」は「財政を立て直した」とも宣伝しますが、大阪府の借金残高は橋下氏の就任前の2007年度5兆8288億円から、14年度決算では6兆3751億円に増えています。
 これらの数字は、貧富の格差を広げた「アベノミクス」をはじめとする国の悪政と同時に、大阪で「維新」がくらしの施策切り捨てを進めてきた結果です。
 橋下・松井府政の8年に、学校警備員補助の廃止、特別養護老人ホーム建設補助の削減、国民健康保険への補助金削減など、総額1551億円を削減しました。そのうえ、子どもなどの医療費助成の窓口負担の改悪を狙っています。大阪市では橋下市長の4年に、地下鉄・市バスの「敬老パス」有料化、国民健康保険料連続値上げ、新婚世帯への家賃補助の廃止など、総額709億円がカットされました。いま、地下鉄・市バス民営化による市民の足の切り捨てが狙われています。
 安倍政権の暴走によるくらし破壊に追い打ちをかけ、府民の懐を冷え込ませ、「格差と貧困」を拡大してきた「維新」政治の責任は重大です。
 (つづく)
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2016年09月19日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/4/大阪でやってきたこと/その2/異常な競争、教育破壊

 Q 教育の分野では、私学無償化など、よくやっている?

 「維新」は、大阪での「私立高校の授業料無償化」を「実績」に挙げています。
 大学を含む「教育無償化」は国連人権規約にうたわれ、日本政府も批准している当然の方向です。大阪の私立高校は、実質無償化(年収590万円未満世帯)されていますが、これは憲法の立場から、教育費の軽減・無償化をめざす私学関係者の長年にわたる運動がベースにあります。
 その陰に隠れ、「維新」が進めた実際の教育とはどんなものだったのでしょうか。
 橋下徹氏は知事就任早々、「小学校1・2年の35人学級」の廃止を打ち出しました。PTAぐるみの百万署名で撤回させましたが、「維新」は「35人学級」の独自拡充を拒否し続け、いまだに国基準のままです。これは全国で3府県だけのワースト水準です。教育予算も減らしました。
 「教育は2万%強制」という橋下氏のもとで、教育界が挙げて反対した「教育基本条例」が強行されました。そのもとで、全国学力テストの学校別公表を義務付け、3年連続定員割れの府立高校の廃止、校長「民間公募」などを推進しています。異常な競争で強いストレスがかかり、学校の「荒れ」が突出する事態を招いています。
 教職員への命令と脅し、待遇悪化のなかで、大阪への教職志願者は激減しています。正規教職員をきちんと配置せず、「教育に穴があいた」といわれる事態も広がります。
 いま大問題になっているのは、大阪府独自の学力テスト(チャレンジテスト)です。全国いっせい学力テストに加え、今年1月に中学1・2年生、6月に3年生を対象に実施しました。子どもたちがテスト漬け≠ノされるだけではありません。チャレンジテストの結果を高校入試の内申点に反映させるというのです。おまけにこれは、学校ごとの評定平均が決定される「団体戦」で、平均点が悪い学校では、いい成績の生徒でも内申点が下げられる仕組みです。
 「1回のチャレンジテストで内申点が決まってしまう」「入試がまったく不公平になる」と強い批判の声が上がっています。(つづく)
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2016年09月20日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/5/大阪でやってきたこと/その3/独裁的手法と破綻

 Q 「独裁」というけれど、改革のスピードが違う?

 「維新」の特異さが際立つのは、その中身とともに、手法です。前代表の橋下徹氏が著書『体制維新―大阪都』で「『独裁』マネジメントの真相」として取り上げているとおり、その手法は批判の的になり、破綻に直面します。
 大阪市を廃止・解体する「大阪都」構想の住民投票をめぐり、法定協議会で協定書案が否決されると、突然、市長を辞職して「出直し市長選」の挙に出ました。この独り相撲≠ノ「勝利」すると、法定協委員を差し替え、「維新」だけで可決します。当然、府議会、大阪市議会が否決すると、安倍政権にすがって公明党の態度を変えさせ、無理やり、住民投票(2015年5月17日)を強行します。
 中身とともに、こんなやり方に市民が「ノー」の審判を下したのは当然でした。
 司直の断罪を受けたのは、橋下市長による大阪市職員への、「アンケート」という名の「思想調査」でした。市長の「業務命令」として、「あなたを組合や演説会に誘ったのは誰か」などを答えさせるものでした。勇気ある市職員の告発をはじめ大阪、全国から批判が湧き起こり、労働委員会、大阪地裁、大阪高裁ともに「憲法上の権利を侵害」していると断じ、橋下市長を謝罪へと追い込みました。
 旧WTC(ワールドトレードセンター)ビルを85億円で購入し、大阪府咲洲(さきしま)庁舎としたものの、東日本大震災でも大揺れ。耐震補強が迫られる一方、空家率は3割。大手前の府庁との二重庁舎をこのまま持ち続けると30年間で1201億円かかると試算されています。
 「公務員改革」の名で強行した幹部の「原則公募」も失敗続きです。校長は初年度採用11人のうち、6人がセクハラや経歴詐称などで任期途中で辞め、最近は元公募校長が横領容疑で逮捕されました。大阪市の公募区長もセクハラなどの不祥事で5人が任期途中で交代しています。
 13年5月に飛び出した橋下氏の「『慰安婦』制度は必要だった」との発言は、大きな批判を浴びました。橋下氏は謝罪も撤回もせず、「マスコミの大誤報」と居直りました。しかし、姉妹都市サンフランシスコへの訪問ができなかったことをはじめ、いまなお内外の大きな批判にさらされています。
 (つづく)
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2016年09月21日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/6/「異質の危険」/「オール大阪」の共同

 Q なぜ大阪では国政と違う共同が?

 「維新」が大阪でやってきたこと、やろうとしていることには、従来にない、次のような「異質の危険」があります。
 
@「大阪都」構想で大阪市をつぶし、くらしを守る施策をつぶし、権限・財源を「府」に吸い上げ、「1人の指揮官」でやりたい放題―およそ「自治体改革」とは無縁な「統治機構改革」を狙う。「なんでも民営化」で公的役割を根こそぎ捨てる。
 
A「教育基本条例」「職員基本条例」によって、教育に土足で介入し、教職員を縛り付け、「国際競争を担う人材」づくりのためと称して子どもたちを「競争」「競争」であおる。公務員は「府民・市民の奉仕者」でなく、「維新の奉仕者」にすることを狙う。
 
B手法の異質さ―平気でウソとペテンを弄(ろう)す。激しい公務員バッシング、「既得権益者」攻撃で対立と分断をはかる。選挙に勝てば何でもできる≠ニ「民意」も「独裁」の道具にする。メディア攻撃とツイッターでの一方的情報発信…。
 これらの「異質の危険」にたいし、従来の自民党・「オール与党」支持基盤にも大きな矛盾と反発が生まれました。「教育基本条例案」反対の声は、教育委員会や校長経験者、PTA関係者、日教組・全教など垣根を越えた共同のとりくみへと広がりました。
 2011年秋、「大阪都」構想を掲げて、橋下徹氏が知事の座を途中で投げ出し、大阪市長選に出馬し、府知事・大阪市長ダブル選挙が行われることになりました。このとき、日本共産党も加わる「大阪市をよくする会」から市長選に出馬表明していた渡司(わたし)考一さんが「独裁政治を許さない」という一点で候補者を降り、現職の平松邦夫市長を自主的に支援する態度を決めたことは、保守・無党派層にも衝撃を与えました。
 今夏の参院選で日本共産党の渡部結さん(大阪選挙区候補)の応援のためマイクを握った落語家の笑福亭竹林さんは、この大阪市長選で「渡司さんを降ろして、共産党は本気やと思った」と語りました。
 ダブル選挙は敗れたものの、「維新」政治を許さない「オール大阪」の共同が動き始めました。(つづく)
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2016年09月22日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/7/堺市長選・住民投票/画期的な共同の勝利

 Q 堺市長選挙や住民投票で「維新」を打ち破った原動力は?

 「反維新」の勢力が「共同の力」「論戦の力」「草の根の力」を発揮して、「維新」を打ち破ったのは2013年秋の堺市長選挙、15年5月の大阪市廃止・解体を問う住民投票でした。
 「大阪都」構想実現へ、「堺市のっとり、堺市つぶし」の挙にでた「維新」に対し、堺市民は「堺は一つ。堺をつぶすな」の合言葉をかかげました。自治連合協議会、医師会、歯科医師会、商工会議所、商店街連合会、農協の代表と自民、民主、共産各党市議が並ぶ集会も開かれました。日本共産党も加わる「住みよい堺市をつくる会」は、竹山修身市長を自主的に支援することを決め、初めての「日刊ビラ」全駅頭連日配布も展開。橋下徹・「大阪維新の会」代表(当時)は「都」構想の言い訳に終始しました。
 堺市長選の勝利は、「『オール堺』ができたことが沖縄県知事選挙でも本当に参考になった」(沖縄県議)といわれるほど反響を呼びました。橋下氏は「勢いある共産党が相手方についてしまい、共産党の力で負けた」と語りました。「維新」の総括では、「橋下代表に対する市民の評価」が「権力への挑戦者(大阪人好み)から権力者(大阪人嫌い)」へ変化したと嘆きました。その後、府内七つの市長選で「反維新」市政を生み出しました。
 大阪市を廃止し五つの特別区に分割することの是非を問う住民投票は、大阪を二分した大激戦でした。「維新」は、連日の新聞折り込み、街頭ビジョンカーの導入、全国動員など「5億円以上」と言われる「金権住民投票」を繰り広げました。
 日本共産党も加わる「明るい民主大阪府政をつくる会」「大阪市をよくする会」は、『大阪都 丸わかりパンフ』の全戸配布、「日刊 オール大阪」の全駅連日配布を展開しました。自民、民主、公明、共産の市議団は「共同公報」を作成。「前代未聞」といわれた自民、民主、共産合同街頭演説を実施。幅広い「オール大阪」勢力が結束し、投票日当日も、全投票所前宣伝を実施しました。
 結果は賛成69万4844、反対70万5585。わずか0・76ポイント差で否決。投票日の夜、橋下氏は「政界引退」を表明しました。
 (つづく)
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2016年09月24日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/8/ダブル選での「野合」攻撃/「異質の危険」に共同

 Q 自民と共産・民進が組むのは野合では?

 昨年(2015年)11月の大阪府知事・大阪市長ダブル選挙で、「維新」は「野合」攻撃に狂奔しました。
 「国政で対立する自民党と共産党が大阪で手を組むのはおかしい」
 しかし、大阪での「反維新」の共同は、国政では異なる政策を持つ政党、団体であっても、大阪で「異質の危険」を持つ「維新政治」はノー、「まともな府政・大阪市政を築く」という一点で力を合わせたものです。その背景には、広範な市民や各党の支持基盤の団体・個人の間に、「維新」への不安と批判が広がっていたことがあります。自民党大阪府連もダブル選挙前には「維新政治を終わらせる」というスローガンを掲げました。
 日本共産党大阪府委員会は、党利党略でなく、府民の利益を守る立場から、「反維新」の立場を表明した栗原貴子知事候補、柳本顕大阪市長候補をそれぞれ自主的に支援する態度をとりました。
 「野合」とは、「バラバラなものが手を組む」「ひそかに通じる」ことです。それは首相官邸と密談し、公明党とも衆院選小選挙区での取引を進めた「維新」にこそ当てはまります。
 大阪における「反維新」の共同の大義と根拠は明瞭であり、さまざまな曲折をはらみながらも、堺市長選挙や大阪市の住民投票を経て、この一点では互いの信頼や共感も生まれており、さらに政策的な一致点を積み上げることは可能でした。
 しかし、ダブル選挙では、この大義に立って、「大阪をこう変える」という旗印を鮮明にすること、また「反維新」の共同を住民投票のときのように府民の前に鮮明に打ち出すことはできませんでした。
 首相官邸による「維新」へのテコ入れ、「維新」による「野合」批判、そのもとでの自民党大阪府連の「共同」排除などが作用しました。そして、これらを打ち破れなかった大阪の日本共産党と共同勢力の力不足がありました。
 堺市長選、住民投票の勝利とダブル選の敗北。大阪ではここから、「さらにしっかりした『反維新』の共同を」と新たな決意のもとでの取り組みが始まっています。(つづく)
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2016年09月25日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/9/「大阪都」構想/ラストのはずがまた

 Q 「大阪都」構想は二重行政を解消する?

 「維新」は昨春、「住民投票は(『大阪都』構想の)ラストチャンス」「終わればすべてノーサイド」(当時の橋下徹大阪市長)と言っていました。ところが、「維新」は住民投票で否決され決着がついた「大阪都」構想(「特別区設置」)をまたぞろ叫んでいます。
 装いを「副首都」構想で少し塗り替え、公明党にのっかり、「総合区」と「特別区」を比べて、どちらがいいかの住民投票をやろうとしています。
 「総合区」は、大阪市はそのままにして、いくつかの区を合区し、権限を強化しようというものです。
 松井一郎・「維新」代表(大阪府知事)は来年2月に特別区設置のための法定協議会設置を提案する意向です。どんなに無理筋であろうが、「勝つまでジャンケン」(竹山修身堺市長)で「大阪都」構想をやりぬく構えです。
 「大阪都」構想について、大阪で幻想を生みだしている最大のものは、「二重行政を解消する」という「維新」の宣伝文句です。
 しかし、これは何重にも虚構です。
 ―府立と大阪市立の体育館、大学、病院など、彼らが「二重」だとする施設は府民・市民にフルに活用され、役立っており、二重、三重に必要なものです。
 ―「二重行政解消で4000億円浮く」(松井氏)などはでたらめです。野党各党は「削減はせいぜい1億円。逆に『特別区』をつくれば、680億円のコスト増」との試算を示しています。
 ―橋下氏が「これぞ二重行政」という「旧WTC(ワールドトレードセンター)ビル」と「りんくうゲートタワービル」は、どちらも関西財界が大阪府・市にもちこんだゼネコン浪費型事業の大失敗です。「二重行政」論は真の要因、責任をそらすものです。
 吉村洋文大阪市長は「住民投票で否決されたが、大都市大阪の問題は残る。大都市制度の議論を」とうそぶきます。
 大都市大阪のかかえる問題というなら、その最大のものは「格差と貧困」の打開です。
 日本共産党大阪府委員会は6月、参院選での「わたなべ結(大阪選挙区候補)の大阪経済提言」を発表し、府民のくらしと大阪経済のゆきづまりを打開する「三つのチェンジ」(
@税金の集め方を変えるA税金の使い方を変えるB働き方を変える)大阪版を提起しました。
 いま府政・市政に求められるのは、この道の探求と実践にこそあります。
 (つづく)
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2016年09月26日,「赤旗」)

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「維新」政治どうみる/Q&A/10/「強み」と「弱み」/民主的な改革を示し

 Qこれからのたたかいの展望は?

 日本共産党第6回中央委員会総会で志位和夫委員長は、「安倍政権の別動隊として、憲法改定、野党共闘攻撃の先兵となっている『維新の会』の役割を広く明らかにしていくことも重要です」とよびかけました。
 「維新」は、住民投票をめぐって協定書案が議会で否決されるなど窮地に立つたびに、安倍政権に支えられ、公然と「改憲タッグ」を組んでいます。その二人三脚による攻撃を甘くみることはできません。
 また、府民の間に、「維新」が「大阪を変えてくれる」「身を切る改革を実行している」という「改革者幻想」も広く残ります。
 さらに府議会、大阪市議会、堺市議会で第1党を占め、大阪の地方議員数では170人を超え、選挙となれば激しいノルマを課して動員する彼らの組織力も侮れません。
 同時に、「維新」と府民との間には根本的矛盾が横たわります。
 「維新」にどんなに「改革者」としての期待を託しても、「改憲与党」の彼らに安倍政権を倒すことはできません。
 大阪では、いかに策を弄(ろう)しても、府民のくらしは横に置き、「統治機構改革」に血道を上げる「維新」では「格差と貧困」を解消することはできません。
 「身を切る改革」を叫んでも、税金分け取りの「政党助成金」は国会議員1人当たり2400万円強を手にしています。松井一郎知事は「退職金をゼロにした」と宣伝しながら、その分を給与に上乗せし、一時金を含めると総額は300万円以上増えます。そのペテンは広く見抜かれるでしょう。
 彼らの一枚看板、「大阪都」構想を実現するためには、大阪市も、堺市もつぶさなければなりません。そこには大きなハードルが待ち受けます。「大阪都敗北=維新壊滅」と、彼ら自身が語っています。
 「維新」が果たしている役割を有権者の間にリアルに広げることが大切です。大阪の行き詰まりを打開する道は、「右からの改革」ではなく、「民主的な改革」だと展望と政策を示し、共同をさらに広げて次の勝利へ結び付けるために、大阪の日本共産党と民主勢力は総力を挙げています。(おわり)
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2016年09月28日,「赤旗」)

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韓国財団が安倍首相に「おわびの手紙」要請

 【ソウル=時事】慰安婦問題をめぐる日韓政府間合意に基づき設立された韓国の「和解・癒やし財団」が、安倍晋三首相から元慰安婦に宛てた「おわびの手紙」を要請していることが分かりました。財団関係者が19日明らかにしました。
 財団は日本政府からの10億円の入金を受け、生存者1人につき約1000万円、死亡者には約200万円支給することになっており、支給の際に手紙を添えて渡したい考えといいます。
 一部の元慰安婦は「日本政府は責任を認めておらず、謝罪もしていない」と主張。受け取りを拒否する立場を示しています。
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2016年09月20日,「赤旗」)

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シリーズ安倍改憲を問う/ジャーナリスト『日本会議の正体』の著者青木理さん/民衆を縛る建て付け

「戦前の復活」狙う「日本会議」が支援
 改憲への動きを加速させようとしている安倍政権と自民党。自民党改憲草案(2012年、以下「草案」)の危険性と、この改憲を推し進める右派運動団体「日本会議」について、『日本会議の正体』(平凡社新書)を出したジャーナリストの青木理さんにききました。
 田中倫夫記者

 自民党の「草案」は、「9条2項削除」とか「国防軍」条項の新設とかすべて問題ですが、基本的に立憲主義に基づいていないということが根本問題です。
 本来、権力を縛るべき憲法が、逆に民衆を縛る建て付けになっているところが最大の問題です。例えば、13条では「国民は個人として尊重される」となっていますが、その「個人」の「個」を取って「人」にしてしまった。あるいは「家族条項」みたいなものを入れ、国民に「憲法擁護義務」を負わせたりしています。
 「草案」をまとめた政権幹部がインターネットで「(立憲主義は)学生時代の憲法講義で聞いたことがない。昔からある学説なのか」などと書き込んで、騒ぎになるということもありました。
 05年の「自民党新憲法草案」をまとめる中心にいた幹部と一度、話しましたが、「12年の自民党の『草案』はひどい。作った人が立憲主義とは何かわかっていない」と話したのでビックリしました。憲法というものが何かわかっていない人がつくるとああなってしまうのです。

宗教右派連合
 この安倍改憲の「草案」と共鳴し合い、下からの運動を起こして支えようとしているのが、わが国最大の右派運動団体の「日本会議」です。1997年に結成され、
@皇室の尊崇A憲法の「改正」B国防の充実C愛国教育の推進―などを掲げています。
 会員数は約3万8000人。議連の「日本会議国会議員懇談会」には約280人の国会議員が参加しています。安倍晋三首相も「特別顧問」についています。地方議員の議連が約1700人。ある意味安倍政権のコアな支持層となっていることはまちがいなく、安倍政権ができたことで存在が大きく見えているというところもあります。
 「日本会議」は、いわゆる保守団体ではなく、宗教右派の「統一戦線」のようなものです。かつての「生長の家」の活動家たちと、神社本庁や新興宗教の右派が結びついています。私は、政治的に右か左かはあっても、立憲主義や国民主権、政教分離など政治の共通の土台は存在すると思います。しかし、「日本会議」は違います。戦前の体制を「光輝ある歴史」(日本会議設立宣言)と礼賛し、天皇絶対視、国民主権軽視、政教分離など屁(へ)とも思わない、近代民主主義の共通の基盤すら否定しかねないところが一番危険なところだと思います。「日本会議」の人たちが信仰する「生長の家」創設者の谷口雅春氏も、基本的に明治憲法復元論、戦前体制の復興を主張していました。

神社に署名簿
 ひと昔前なら、「極端な右派」として、存在はしていても、決して政治の表には座れなかったような集団が、堂々と表に出ているところに、日本の政治の深刻なところがあります。
 彼らは、今、「憲法改正1000万人署名運動」をしていますが、今年は正月の初詣の神社にまで署名簿を並べるという異様な取り組みをしています。この署名簿には「国民投票の際、賛成投票へのご賛同の呼びかけをさせていただくことがあります」とただし書きがされています。
 とはいえ、彼らには最大の弱点があります。こうした改憲の本当の目標が「戦前のような体制」の復活にあることを国民が知ってしまうということ。ですから、彼らは徹底した秘密主義を貫き、国会議員など構成員の名簿、財政などほとんど公開していません。本部は私たちの取材にも一切拒否の姿勢です。こうした実態を国民が知れば知るほど、彼らの改憲運動には大きな障害となり、そのことが「安倍改憲」の本質を国民に分かりやすくするでしょう。

あおき・おさむ=1966年長野県生まれ。90年慶応大卒、共同通信社入社。社会部、外信部、ソウル特派員を経て06年からフリー。『日本の公安警察』『抵抗の拠点から』など著書多数
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2016年09月18日,「赤旗」)

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8月】

シリーズ数値が示す日本経済/商店/生活支える小売業が減少

 毎日の暮らしに欠かせない商店の減少が止まりません。経済産業省「商業統計」によると、日本の商店の数は、1982年の215万323店から、2014年は140万7235店へと減りました。32年間で74万3088店、34・6%も減少したことになります。
 商店数の72・8%を占める小売業で商店が減少したことが最大の要因です。小売業商店は82年の172万1465店から14年は102万4881店へと、32年間で69万6584店(40・5%)も減少しました。
 中小企業庁「商店街実態調査」(2015年度)によると、一つの商店街(平均店舗数54・3店)で最近3年間に退店・廃業した店舗数は、「2店」が最も多く17・0%、続いて「3店」が16・1%を占めています。中には「10〜19店」「20店以上」という商店街もあり、平均では商店街ごとに3・6店が退店・廃業しています。

「高齢化」が課題
 退店・廃業した理由(二つまで回答)は「商店主の高齢化・後継者の不在」が66・6%ととりわけ高く、「ほかの地域への移転」23・8%、「同業種との競合」12・9%、「商店街に活気がない」12・8%、「大型店の進出」4・2%と続いています。
 経営者の高齢化と後継者の不在が商店継続の大きな課題です。また、大型店の身勝手な出店や退店が地域の商店街や小売店を衰退や廃業に追い込み、全国で600万人といわれる「買い物難民」を生む要因の一つになっています。住民からは「車で遠くの店まで買い物に行っているが、(高齢で)免許を返した後が心配」「近所の人には買い物を頼みづらい」「バスの停留所まで荷物を持てない」などの声があがっています。

買い物難民支援
 各地の商店街が「買い物難民」支援の取り組みを始めています。埼玉県秩父市の、みやのかわ商店街は、高齢者施設などに商品を持って出向く出張販売を行っています。静岡県御殿場市の森の腰商店街は商品の無料宅配事業を実施。「腰が痛く物を持つのがつらいので助かります」などと高齢者に喜ばれています。
 経済産業省の調べでは小売業商店の業種別の割合は、コンビニエンスストアなどを含む「その他の飲食料品小売業」が13・3%と最も多く、ホームセンターやペット用品小売業などを含む「他に分類されない小売業」10・3%、ドラッグストアなどを含む「医薬品・化粧品小売業」9・1%、「自動車小売業」「婦人・子供服小売業」などが続きます。訪れる人は、主婦、高齢者、家族連れが多く、商店は地域住民の身近な場所で消費を支える役割を果たしています。
 小売業商店の従業者規模は、従業者が「2人以下」が最も多く40・8%。次いで「3〜4人」21・8%、「5〜9人」18・8%、「10〜19人」11・4%です。従業者が1〜4人の小売業商店は小売店全体の約6割を占め、多くが夫妻、家族で営んでいます。
 地域の商店、商店街は「地域の共通財産」です。商店街振興対策予算やさまざまな補助事業の拡充が必要です。
 (川田博子)
 (このシリーズおわり)
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2016年08月31日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/エネルギー/猛暑でも原発必要なし

 今夏、猛烈な暑さに襲われた日本列島。原発なしでも電力の供給は安定しています。東京電力福島第1原発事故によって広まった節電の取り組みの定着と、再生可能エネルギーの普及によるものです。
 電力会社は、電力使用率が97%以上になると需給がひっ迫する「大変厳しい」状態になるとしています。
 安倍晋三政権や財界は、電力の安定供給には原発が必要だとしています。しかし、今年の8月の猛暑のなかでも使用率が97%を超えた日はゼロ(22日時点)。原発推進勢力の言い分は需給面でも根拠を失っています。

需給に大幅余裕
 九州電力川内原発(鹿児島県)が稼働している九州地域では、10日午後2時にこの夏一番の最大電力1527万`hを記録しました。それでも、電力使用率は90%にとどまり、177万`hの余裕がありました。
 発電容量178万`hの川内原発がないと需給がひっ迫するようにもみえますが、九州電力と周波数が同じ中日本・西日本の5電力の同時刻の供給力には900万`h以上の余裕があったため、川内原発がなかったとしても供給に問題は生じませんでした。
 東京電力は新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働を目指していますが、7月以降使用率が90%を超えたのは2日だけ。8月は1度も超えていません。
 2011年の福島原発事故を機に広がった節電の取り組みは、夏の電力需要を大幅に下げています。10年に日本全体で約900億`h時あった7月の電力需要は15年に800億`h時を割り込み、今年はさらに減少しています。
 12年7月に始まった固定価格買い取り制度(FIT)を追い風に、再生可能エネルギーが急速に増加しています。なかでも太陽光発電はFIT開始以前と比べ約6倍に増えました。太陽光は、夏の電力需要が増加する昼間に出力が大きくなるため、電力の安定供給に大きな役割を果たしています。

化石燃料輸入減
 原発推進勢力は、原発停止によって化石燃料の輸入が増え国富が流出≠オていると批判してきました。
 しかし、節電の取り組みと再生可能エネルギーの普及が進んだことで、化石燃料の輸入量も減少に転じています。事故後のピークと比べ15年の輸入量は石油で8%、液化天然ガスも4%減少しました。
 世界的な資源価格低迷の影響もあり、15年の石油と石炭の輸入額は福島事故以前よりも少なくなっています。14年には年間7・8兆円あった液化天然ガスの輸入額も、15年には5・5兆円に急減。原発停止による国富流出§_も説得力を失っています。
 (佐久間亮)

電力使用率
 電力会社は日々の電力需要を事前に予測し、火力や揚水力を動かせるように準備します。準備した供給力に対して実際に使われた電力の比率が電力使用率です。準備しておく供給力は電力会社の最大供給力とは異なるため、使用率が97%を超えても実際には余力がある場合もあります。
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2016年08月30日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/消費/収入乏しく生活切り詰め

 エンゲル係数が急上昇しています。総務省「家計調査」によると、2人以上の世帯のうち勤労者世帯について2005年度に平均21・6%だったエンゲル係数は、15年度平均で23・9%に上昇。6月の家計調査速報値では25・4%となりました。10年ちょっとの間に4ポイント近く上昇したことになります。
 エンゲル係数とは、消費支出に占める食料品の割合です。収入が乏しく、消費を切り詰めなければならなくても、食費を削ることには限界があるので、暮らしのゆとりを示すバロメーターとされています。

食品価格の上昇
 エンゲル係数が急上昇した要因の一つは食品価格の上昇です。総務省「消費者物価指数」によると、生活実感に近い「持ち家の帰属家賃を除く総合」の物価指数は、05年度から15年度の間に3・4%上昇しました。しかし、食料品は同じ期間に10・8%もの急上昇です。とりわけ、安倍晋三政権の経済政策であるアベノミクスの「第1の矢」である「異次元の金融緩和」が推進され、円安が加速して以降は、輸入に頼る食料品の価格が高騰しました。
 もう一つの要因が可処分所得の減少です。可処分所得とは実収入から直接税と社会保険料の非消費支出を除いた額で、家計の判断で使える金額とされます。05年度に平均年額523万1418円だった可処分所得は、15年度には512万2020円へ10万9398円も減少しました。さらに、物価変動の影響を差し引いた実質可処分所得は、同じ期間に545万5076円から512万2020円へ33万3056円も下落しました。
 実質可処分所得の減少の背景には、物価の高騰に加え、実収入の伸び悩みと非消費支出の負担増があります。とりわけ、安倍政権下では賃金の低い非正規雇用労働者が増えたことが影響しています。年金の支給額が減らされました。一方で、年金や介護をはじめとする保険料も毎年のように引き上げて、非消費支出を増大させています。

消費税の負担も
 深刻なのは消費税の負担です。間接税である消費税は、商品価格の一部分となります。そのため消費支出に組み込まれてしまい、家計負担は見えにくくなるからです。
 家計調査から消費税相当分を試算すると、05年の年間15万9702円から、15年には24万3856円へと8万4154円も負担が増えました。安倍政権が14年4月に強行した8%への消費税率引き上げとそれに伴う物価上昇が主な要因です。
 エンゲル係数が高まった結果、家計に占める割合が減ったのは被服や履物にかけるお金です。05年度の年間17万8051円から15年度には16万1387円へ1万6664円の減少です。また交際費や嗜好品などその他の支出も減少しました。
 日本国憲法第25条は国民に対し「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保証しています。安心して暮らせる所得を実現しなければならないのです。
 (清水渡)
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2016年08月27日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/雇用・賃金/非正規4割、賃金は最低

 雇用を守るルールを歴代自民党政権が破壊してきたため、非正規雇用が増え続けています。総務省「労働力調査」で四半期ごとの非正規雇用比率をさかのぼって見ることができるのは2002年まで。同年1〜3月期には28・7%でしたが、年々増え続け、直近の16年4〜6月期は37・1%。4割に迫っています。

格差と貧困拡大
 非正規雇用労働者は賃金が低く、身分も不安定です。25〜54歳でも非正規が増え続けていることは特に深刻です。02年1〜3月期には23・5%でしたが、安倍晋三政権下の14年1〜3月期に初めて30%を超えました。人生の中で結婚や子育ての中心的な時期となる世代で3割が非正規という実態は、ワーキングプア(働く貧困層)の増加によって格差と貧困を拡大しています。
 非正規雇用の増加は賃金水準全体を押し下げています。厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、物価の影響を除いて賃金水準を示す実質賃金指数(2010年平均=100)は1997年をピークに減り続け、2015年には94・6。過去26年間で最低です。ピークの109・5から実に14%も減ってしまいました。1カ月分を超える給料が飛んでしまった勘定です。年収300万円なら42万円がなくなったことになります。

派遣法の改悪で
 1999年には労働者派遣法の改悪で派遣対象業務が大幅に広げられ、2004年からは製造業でも派遣労働が可能になりました。実質賃金が減少に転じたのはちょうどその時期と重なっています。
 政府の16年度「経済財政白書」は、若年子育て世帯の消費支出がほとんど伸びていない原因として、非正規比率の高さや賃金の伸び悩みを指摘しました。
 国際通貨基金(IMF)も今年の対日審査報告書で、日本政府に賃金と最低賃金の思い切った引き上げを勧告しました。
 (山田俊英)
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2016年08月24日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/海外生産比率/自動車2倍、空洞化拍車

 日本企業の海外生産比率が上昇しています。海外生産比率とは企業の国内法人売上高と海外現地法人売上高の合計額を分母とした海外現地法人売上高の比率です。経済産業省の「海外事業活動基本調査」によると、2008年度に海外進出企業ベースで30・4%だった製造業の海外生産比率は14年度に38・2%まで引き上がりました。国内全法人ベースでも同じ期間に17・0%から24・3%まで増えています。
 とりわけ顕著なのは自動車産業です。自動車工業会によると、15年度に国内では917万6581台の自動車が生産されたのに対し、海外では1830万5220台と2倍も生産されています。08年度に49・8%だった海外生産比率は15年度には66・6%まで引きあがりました。

失った雇用匹敵
 海外生産比率が高まるにしたがって、国内の産業空洞化に拍車がかかっています。総務省「労働力調査」によると、08年に1151万人だった製造業の就業者数は14年には1040万人となりました。減少数は111万人と08年から1割近くに上ります。
 一方、海外現地法人の従業者数は急増しています。経産省「海外事業活動基本調査」によると、08年度に451万7150人だった現地法人の常時従業者は14年度に574万9122人と123万1972万人も増加。製造業に限っても、08年度の356万5555人から456万5709人へと1・28倍に増えています。製造業の海外現地法人で約100万人の従業者増ですから、同じ期間に日本で失われた製造業の雇用に匹敵する規模となります。

利便性が1位に
 日本企業が海外に生産拠点を移すことについて、政府や財界は法人税の高さを理由に挙げ、法人税の引き下げが必要だ≠ニする議論があります。
 経団連は6月に発表した提言「GDP600兆円経済の実現に向けて」で「企業の国際競争力を強化するとともに、わが国の立地競争力を高める観点から、法人税改革を進めていくことが不可欠である」として、国と地方合わせて現在29・97%の法人実効税率について「アジア近隣諸国並みの法人実効税率25%を目指」すよう求めています。
 しかし、海外での設備投資先を選ぶ要因に法人税率を上げる企業はほとんどありません。日本政策投資銀行の「企業行動に関する意識調査」によると「海外で増産のための設備投資を行う際に、実施場所で重視すること」の1位は「需要の伸びが期待できる国・地域までの距離や物流などの利便性」で84・6%でした。「法人税や電力料金などの人件費以外のコスト」は8位でわずか3・6%でした。
 (清水渡)
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2016年08月20日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/農業・農村/下/TPPが危機に追い打ち

 農業・農村の危機的状況に追い打ちをかけるのが、安倍晋三政権が署名した環太平洋連携協定(TPP)です。TPPによって、農林水産物のうち82%の品目の関税が撤廃され、米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の重要5項目でも29%の品目の関税が撤廃されます。関税削減、特別輸入枠も含めて、「無傷」の農産物はありません。農産物輸入がさらに増え、農業の生産基盤がいっそう弱体化する恐れがあります。

世界一の輸入国
 安倍政権は、TPPの影響を軽微に描いた試算を公表する一方、農林水産物輸出額1兆円の目標を掲げて、輸出が農業を再生させる切り札≠ナあるかのような幻想を振りまいています。しかし、そのうち、加工食品が5000億円を占め、農産物は1400億円にすぎません。
 現実には、日本は世界一の農産物純輸入国であり、農産物輸入額は、12年の5兆4419億円から15年の6兆5629億円へ、第2次安倍政権発足後の3年間で1兆1210億円も増えました。
 米農務省が14年10月にまとめた報告書によると、TPPで参加12カ国の農産物貿易が計85億j分増えます。しかし、輸出増加額の70%に当たる58億j分を日本が一手に輸入することになると予測しています。
 すでに世界一の農産物純輸入国であるうえに、TPPによって農産物輸入が増大するなら、安倍政権が掲げる農林水産物輸出額1兆円など気休め≠ノもなりません。
 安倍政権は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げ、農林漁業や農山漁村を切り捨てる姿勢をあらわにしています。このような農政を続けていては、農業・農村の崩壊が一気に進み、日本は食料自給の基盤を失った国になりかねません。

主権守るルール
 世界はもはや、金さえ出せばいつでも必要なだけの食料が入手できる時代ではありません。広範な国民の共同の力で、TPPの国会承認を阻止するとともに、各国の経済主権と食料主権を尊重した平等・互恵の投資と貿易の国際的ルールを確立する必要があります。
 米国・財界いいなりの農政を終わらせ、農業を国の基幹産業として再生させることが重要です。それには、価格保障と所得補償を組み合わせて、安心して再生産できる農業をつくり、さしあたり食料自給率を50%へ引き上げることが急務です。
 (この項おわり)
 (北川俊文が担当しました)
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2016年08月19日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/農業・農村/上/自民農政で崩壊の危機

 国民の命を支える食料を供給する農業・農村に崩壊の危機が広がっています。大企業製品の輸出を最優先し、食料は輸入すればいいとする、歴代の自民党政権による米国・財界いいなりの農政に根本的な原因があります。

農業人口が半減
 農林水産省の「農業構造動態調査」によると、2016年2月1日現在の農業就業人口が192万2200人となり、歴史上初めて200万人を割り込みました。2000年の389万1200人から16年間で半減したことになります。
 同時に、農業者の高齢化が急速に進んでおり、普段に農業にたずさわる基幹的農業従事者の平均年齢が67歳に達しており、70代以上の人が47%以上を占めています。
 農水省の「耕地および作付面積統計」によると、農地(耕作)面積は、田畑の合計で最大値だった1961年の608万6000fから2015年の449万6000fへ、159万fも減少しました。岩手県1県に相当する面積です。他方、かつては耕作されていたものの、1年以上作付けされず、今後も作付けの予定のない耕作放棄地が、15年には42万3000fにのぼりました。1975年の13万1000fの3倍以上になります。

自給率最低水準
 度重なる米国の圧力に屈して拡大を続けてきた農産物輸入の「自由化」で、農産物輸入は増加の一途です。輸入と輸出を差し引きして、日本は世界一の農産物純輸入国となっています。そのため、国内の農業総産出額も生産農業所得も減少し続け、供給熱量ベースの食料自給率は先進諸国で最低水準の39%に低迷しています。特に飼料自給率は、27%という恐るべき低さで、食料自給率を押し下げる深刻な一因になっています。
 米の需給を安定させる国の責任を放棄し、米価を市場任せにし、再生産も保障できないほどの米価暴落を放置する安倍晋三政権のもとで、農家は「米作って、飯食えない」と悲鳴を上げています。
 米価下落傾向が続いている中で、安倍政権が強行している米への助成の廃止によって、米生産への依存が大きい生産者ほど大きな打撃を受けます。特に、政府が育成するとしている大規模経営が最も大きな打撃を受けることになるのです。
 (つづく)
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2016年08月18日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/中小企業/休廃業・解散が高水準

 日本の中小企業数(約381万)は全企業数の99・7%を占め、働く人のうちの3分の2が働いています。中小企業は日本経済の根幹であり、「社会の主役として地域社会と住民生活に貢献」(中小企業憲章)しています。中小企業の85%は小規模事業者(製造業は従業員20人以下、卸売業・小売業・サービス業は5人以下)です。

小業者は3割減
 中小企業数は減少し続けています。1986年の約533万から2014年は約381万と28・5%減少しました。同期間に小規模事業者数は約477万から約325万と31・9%減少しています。要因は、廃業数が開業数を上回っていることです。
 背景には、内需の長期にわたる低迷に加え、大企業の国際競争力の強化と利益確保を優先し、中小企業はそれを補完するものと位置づけた国の経済・産業政策があります。国や自治体の予算、振興策でも中小企業は軽視されました。さらに、大型店の身勝手な出店・撤退、「単価たたき」などの不公正取引や銀行の貸し渋り、貸しはがしが野放しにされ、中小企業は大企業の過酷な搾りあげの対象となりました。
 大企業は1980年代後半から次々と海外進出を進め、中小企業を中心とした地域経済は空洞化し衰退していきました。2000年以降は、「構造改革」の名の下に、市場競争力のある強い企業を育てる風潮が強められました。多くの中小企業が国の支援の外に置かれ、整理・淘汰(とうた)の対象とされました。
 休廃業・解散件数はリーマン・ショック後の09年には2万5397件と2万5000件を突破。第2次安倍晋三政権誕生後の13年には2万9351件と3万件に迫りました。それ以降も、高水準で推移しています。消費税率8%増税と国民の消費の落ち込み、円安による原材料費や諸経費の高騰などが経営を悪化させたのです。

事業主が高齢化
 個人事業主の高齢化も小規模事業者減少の原因になっています。個人事業主数は、1982年には30歳代、40歳代が最も多く、50歳以降は年齢が上がるにつれて人数が少なくなる傾向を示していました。しかし、年を経るにつれて、高齢化が進み、2014年には70歳以上の人数が80万人と最多になりました。
 小規模事業者の個人事業主が仕事をやめた理由は、「病気・高齢のため」が最も多く40・4%。次いで「事業不振や先行き不安のため」「会社倒産・事業所閉鎖のため」「収入が少なかったため」「介護・看護のため」などです。
 信用保証制度で、国の保証率を段階的に引き下げる改悪が進められようとしています。また、安倍首相は、生産性の低い中小企業を廃業に追いやることで日本企業の新陳代謝を進めるというアベノミクス(安倍政権の経済政策)の成長戦略を「より強く前進させる」と述べています。アベノミクスが中小企業の廃業をさらに増やすのは明らかです。
 (この項おわり)
 (川田博子)
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2016年08月13日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/金融/下/取引の7割が海外筋

 東京証券取引所の統計によると、日本の証券市場で海外投資家の取引が占める比率は安倍政権発足時の57・7%(2013年1月)から70・7%(6月)に高まりました。アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)による株価つり上げ政策で海外投機筋の資金が日本市場に流入したからです。

首相が呼び込み
 アベノミクスの「第1の矢」が「異次元の金融緩和」です。大規模な緩和策で円安が加速しました。円安になればドル換算した日本株の価格が下がり、海外投資家にとってお買い得≠ニなります。13年9月には安倍首相自身が訪米時にニューヨーク証券取引所で「バイ・マイ・アベノミクス」(アベノミクスは買いだ)と海外投資家を日本市場に呼び込みました。
 その後も14年10月の追加緩和と公的年金資金の株運用拡大、16年1月のマイナス金利政策決定(2月実施)を機に海外投資家の売買比率は高まりました。その多くが目先の利益しか考えない投機筋とみられます。
 異次元緩和で日銀が株価指数連動型上場投資信託(ETF)の買い入れを進めていることも、日銀を使った株価つり上げ政策です。
 ETFは株価に連動して価格が変動する金融商品です。7月の追加緩和では購入ペースを年間3・3兆円(保有残高)増から6兆円増へ2倍に引き上げました。ETFは株価に連動して価格が変動するリスク性の金融商品です。中央銀行である日銀が買い入れを増やせば、市場での値上がりは確実です。

市場ゆがむだけ
 株価は本来、企業業績や景気に応じて変動します。証券市場に公的資金を投入して株価をつり上げるなど、政府がなすべきことではありません。証券市場がゆがむだけです。
 公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は14年10月、国内株、海外株による運用比率をそれぞれ2倍の25%ずつに引き上げました。135兆円の公的年金資金の50%を株式で運用します。30兆円を超える資金が新たに株式市場へ投じられ、株価をつり上げることになります。しかし、15年度決算では円高・株安で5兆円を超える損失を出しました。政府の株価つり上げ政策が年金資金という国民の重要な財産に損失をもたらしています。
 (この項おわり)
 (山田俊英が担当しました)
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2016年08月12日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/金融/上/日銀が国債の3割保有

 国債は政府の借金証書です。アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)の「第1の矢」、量的・質的金融緩和(異次元の金融緩和)によって、日銀が抱える長期国債はいまや全体の3割を超えています。中央銀行が政府の借金を大量に抱え込む異常さです。
 異次元緩和は、金融機関に供給するお金の量を毎年80兆円増やす政策です。そのために日銀が保有する長期国債の残高が年間80兆円増えるよう民間銀行などから国債を購入します。
 市場に大量のお金を流せば、経済活動が活発になるということでした。日銀に圧力をかけて異次元緩和に踏み切らせたのが安倍晋三首相自身です。2012年末、政権に就く前には「輪転機をぐるぐる回して日銀に無制限にお札を刷ってもらう」とまで発言していました。
 しかし、実体経済に効果がなく、国内総生産(GDP)の成長は低調。個人消費は戦後初めて2年連続で減りました。その一方、日銀が保有する国債が膨らんでいます。

3年で2.5倍にも
 日銀が保有する国債は3月末時点で317兆円。発行残高全体の33・2%です。異次元緩和開始前の13年3月末には128兆円、13・2%でした。3年間で残高、比率とも2・5倍に増え、銀行、生損保を抜いて日銀はいまや最大の国債保有者です。
 日銀が国債を直接引き受けることは財政法で禁じられています。政府の借金を日銀が穴埋めすれば、歯止めのないインフレが起き、政府も国民の家計も破綻しかねないからです。
 しかし、異次元緩和はそれに近いことを行っています。直接引き受けと違うのは、既発の国債を日銀が民間銀行から買うという点ですが、新しく発行する国債をいったん銀行が落札した後、ほとんどを日銀が買い取っています。今のペースで買い進めれば、18年には日銀が保有する国債の額がGDPを超えてしまいます。

中枢からも異論
 6月に行われた日銀金融政策決定会合では9人の政策委員の1人から「量的・質的金融緩和の効果は限界的に逓減し、既に副作用が効果を上回っている」として、国債購入の段階的減額など政策の見直しを要求しました。
 また、別の委員は「国債買い入れの遂行にあたって、大きな問題が生じる前に、より持続的なものに転換していくべきだ」と主張しました。異次元緩和を進めてきた日銀中枢から異論が出るほど事態は深刻化しています。(つづく)
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2016年08月11日,「赤旗」)

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シリーズ数値が示す日本経済/税財政/消費税と税収空洞化

 日々目まぐるしく変わる経済指標を中期的な視点でとらえてみると、日本経済の実態が浮かび上がってきます。税財政から金融、農業、エネルギーなど各分野にわたり点検します。

 国の税収に占める消費税の割合が急増しています。1989年に3%の税率で導入された消費税が国の一般会計税収に占める割合は当初6%でした。消費税率が3%だった96年度まで、一般会計の税収に占める消費税の割合は1割程度でした。

消費税への依存
 97年度に消費税率は5%に引き上げられました。ただ同時に地方消費税が創設され、国税分は4%です。それでも一般会計税収に占める消費税の割合は2割を超えるようになりました。金額の上でも法人税に匹敵する額になりました。
 2014年度からは8%に消費税率が引き上げられました(国税分は6・3%)。一般会計税収に占める消費税の割合は3割に迫ります。金額でも法人税収を上回り、所得税収と並ぶまで伸びてきました。
 一般会計税収に占める消費税の割合が高くなっているのは、消費税率引き上げのためだけではありません。高額所得者や大企業の税負担も減少しているからです。
 1989年には50%だった所得税の最高税率は2000年には37%まで引き下げられました。その後、若干の引き上げがありましたが、現在でも最高税率は45%にとどまります。法人税率も1989年度の40%から段階的に引き下げられ、2016年度は23・4%にすぎません。国の法人税と地方の法人住民税、法人事業税を合わせた法人実効税率も89年度は50%を超えていましたが、16年度は29・97%まで下がり、18年度には29・74%まで引き下げることを安倍晋三政権は決めています。
 消費税は低所得者ほど負担が重くなる不公平な税金です。消費税率を引き上げる一方で、高額所得者や大企業の税負担を引き下げることは税収の空洞化を生み出し、能力に応じて負担する「応能負担」の原則から外れていくことになります。

突出する軍事費
 税金の使い道では軍事費への支出が突出しています。1989年度には4兆円に満たなかった軍事費は、2014年度には当初予算と補正予算を合わせ額で5兆円を超えるようになり、16年度からは当初予算で5兆円を超えるようになりました。1989年に比べると1・3倍以上に膨れ上がっています。
 とりわけ15年9月に安倍晋三政権が強行した戦争法を受けて、16年度予算には垂直離着陸機オスプレイ4機(447億円)、戦闘機F35A(6機1084億円)、早期警戒機E2D(1機260億円)、滞空型無人機グローバルホーク(146億円)など米国製の高額兵器の導入を進めています。(この項終わり)
 (清水渡)
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2016年08月09日,「赤旗」)

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異次元緩和破綻/上/政府と危険な一体化

 日銀が7月29日に決めた追加金融緩和は、株価指数連動型の上場投資信託(ETF)の買い入れ増額でした。市場関係者の予想より小規模な内容にとどまったといわれます。しかし、日銀は、安倍晋三政権の「経済対策」との連携を強調。これまで以上にアベノミクス(安倍政権の経済政策)加速を打ち出しました。日銀が政権の道具と化す危険な状態が深まっています。
 (山田俊英)

 安倍政権の「経済対策」は、リニア新幹線の建設促進など採算の見通しもない大型開発事業に巨費を投じ、財政を悪化させる内容です。29日の金融政策決定会合の声明は「きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取り組みと相乗的な効果を発揮する」と表明。追加緩和が政府の「経済対策」と一体であることを公言しました。会合後の記者会見で「追加緩和は政府の圧力に対応したものではないか」との質問も出ましたが、黒田東彦総裁は「金融政策は経済政策全体の一環」と意に介しません。

自主性を放棄
 日銀法は、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」(第2条)、「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」(第5条)と定め、政府から独立した中央銀行であることを規定しています。最大の使命は「物価の安定」(第2条)です。日銀はホームページで理由を次のように説明しています。
 「過去の各国の歴史を見ても、中央銀行の金融政策にはインフレ的な経済運営を求める圧力がかかりやすいことが示されています。物価の安定が確保されなければ、経済全体が機能不全に陥ることにもつながりかねません」
 しかし、日銀が2013年4月から実施している「量的・質的金融緩和」(異次元の金融緩和)は、「自主性」や「物価の安定」の大原則を投げ捨て、日本の金融にさまざまなゆがみを生じさせています。
 異次元緩和は、日銀が民間銀行に供給するお金を年間80兆円増やすことによって2%の物価上昇を実現し、景気回復につなげようというものです。そのために日銀は、保有する長期国債の残高が毎年80兆円増えるよう、銀行から国債を買い取っています。その結果、日銀が保有する長期国債は現在、日本の名目GDP(国内総生産)の6割に達し、日本の長期国債全体の33%。最大の保有者になっています。

赤字を穴埋め
 国債は政府の借金証書です。銀行や市場関係者の間では、「日銀は既に財政ファイナンス(政府の赤字の穴埋め)を行っているようなものだ」との見方が広がっています。日銀が政府の借金を直接引き受けることは財政法で禁止されています。歯止めのないインフレを招き、国民生活と国家財政を破綻させかねないからです。今回の金融政策決定会合では、9人の政策委員のうち2人が「財政健全性に与える悪影響」を理由に追加緩和に反対しました。
 今回の会合は、次回9月の会合で異次元緩和の「総括的な検証」を行うことも決めました。「2%の物価上昇をできるだけ早期に実現するには今後何が必要かという観点から検証したい」(黒田総裁)からです。
 2%の物価上昇は13年1月、発足直後の安倍政権と日銀との共同声明で取り決めた目標です。日銀はアベノミクスの執行機関となり、政府との一体化をさらに強めています。
 (つづく)
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2016年08月02日,「赤旗」)

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異次元緩和破綻/下/株価つり上げ格差拡大

 日銀は今回の追加緩和で株価指数連動型の上場投資信託(ETF)の買い入れペースを年間3・3兆円(保有残高)増から6兆円増に2倍に引き上げました。ETFは株価に連動して価格が変動するリスク性の金融商品です。中央銀行である日銀が買い入れを増やせば、市場で値上がりは確実。公的資金を使って株価を押し上げる政策です。企業業績や景気に無関係に株価が上がる―ゆがんだ金融市場です。

富裕層に利益
 「異次元の金融緩和」は大量の資金供給に期待した投機的な動きを活発化させ、円安と株高を急速に進めました。巨額の利益を得たのが富裕層や大企業です。米経済誌『フォーブス』の集計によると「日本の富裕層」上位40人の資産総額は、この4年間で7・2兆円から15・4兆円に増加しました。
 株価上昇の恩恵を最も享受するのが、日本の株式市場で売買の7割を占める外国投資家です。多国籍企業は、急激に進んだ円安により、巨額の為替差益を手にしました。
 その一方、労働者の実質賃金は低下し、消費税増税で消費が冷え込みました。経済の6割を占める個人消費が2年連続マイナスとなる深刻な状況の下、日銀が民間銀行に大量のお金を供給しても、企業への貸し出しにはつながらず、民間銀行にたまる一方です。銀行などが保有する日銀当座預金の残高は、安倍政権発足前の40兆円規模から、7倍以上の303兆円(6月末)まで増加しています。
 実体経済が改善されず、今年に入って、株価の下落傾向も生じる中で異次元緩和の行き詰まりが明らかになってきました。日銀は1月、異例のマイナス金利政策に踏み切りました。日銀当座預金の一部にマイナス金利を適用することで、さらなる金利低下と融資の活発化をねらったものです。しかし、金利は低下したものの、貸し出しが活発化することはなく、銀行がマイナス金利による損失を顧客にしわ寄せし、国債の利回り低下で資金運用が困難になるなど、弊害の方が強くあらわれています。

買い入れ限界
 日銀が長期国債の保有残高を毎年80兆円も増やす大量買い入れを行っているため、国債市場の取引量が減っています。いずれ日銀が買う国債も枯渇します。国際通貨基金(IMF)は15年8月に発表した報告書で、日銀の国債買い入れは17〜18年に限界に達すると指摘しました。
 打つ手がなくなる中で取り沙汰されているのが「ヘリコプターマネー」です。日銀が返済不要の資金を供給し、政府がそれを使って財政支出を増やすという手段です。ヘリで上空からお金をばらまくに等しいことなので、こう呼ばれます。
 中央銀行がこのような政策を実行すれば、際限のないインフレに陥ります。日銀は「ヘリマネ」を否定していますが、こうした無責任な手段がメディアで議論されること自体、金融政策の混迷を示しています。
 異次元緩和をこれ以上続け、さらに大量の国債を抱え込めば、緩和政策からの脱出も困難になります。日銀は9月の次回金融政策決定会合で異次元緩和の総括的検証を行います。そこでなすべきことは、新たな金融緩和の検討ではなく、破綻が明らかな異次元緩和から転換することです。
 (おわり)
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2016年08月03日,「赤旗」)

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シリーズ自民党改憲案の論点/識者に聞く/東海大学法科大学院教授永山茂樹さん/緊急事態条項で独裁へ

 シリーズ「自民党改憲案の論点 識者に聞く」の二番目のテーマは「緊急事態条項」です。第1回は、東海大学法科大学院の永山茂樹教授です。
 (聞き手・秋山豊)

 安倍首相と自民党が創設を狙う緊急事態条項は、「内閣独裁制」をつくるものです。緊急事態宣言を発することで、人権を制限して首相と内閣に権力を集中し、国の命令に国民を従わせる条項です。
 自民党改憲案98条1項は、「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」が発生した場合、内閣総理大臣の独断で緊急事態を宣言できるとしています。「その他の法律で定める緊急事態」とあり、法律でいくらでも緊急事態≠増やせる無限定な構造です。
 99条1項では「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」と定めています。

国会を弱体化
 現行憲法は、国会が唯一法律をつくれる国権の最高機関と定めています。緊急事態宣言のもとでは、権力分立からはずれて国会の力を弱め、内閣に権力が集中するのです。
 このように緊急事態条項は、内閣総理大臣が思い通りに緊急事態宣言を発することができ、事実上の法律をつくり、地方自治権も奪い、財政面でも自由に支出できるなど内閣が非常に大きな権力を握ることになります。
 さらに99条3項に「何人も…国その他公の機関の指示に従わなければならない」とあります。緊急事態宣言のもとでは、国民は国の命令に黙って従えということです。これは、まさに独裁政治ではないでしょうか。

本丸の一つに
 緊急事態条項はお試し改憲≠セという議論があります。憲法9条の改定は反対世論が強くて難しいので、まずは緊急事態条項を試しに創設しようという議論ですが、とんでもない。緊急事態条項創設こそ、自民党が狙う戦争する国づくりの本丸の一つです。(2面につづく)

 ながやま・しげき 1960年、神奈川県横須賀市生まれ。
一橋大学大学院単位修得。現在、東海大学法科大学院教授。おもな論文に「『戦争法』が狙うもの」(『法と民主主義』497号)
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2016年08月25日,「赤旗」)

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シリーズ自民党改憲案の論点/識者に聞く/東海大学法科大学院教授永山茂樹さん/自民党改憲案は戦時を想定

 「改憲案」に貫かれているのは、人権、民主主義、平和主義を破壊し、軍隊を持って戦争できる国づくりを進める考え方です。緊急事態条項は、自民党の国家構想≠具体化するのに有効です。

「日米同盟」強化
 憲法9条を変えなくても、緊急事態条項があれば人権を停止して憲法違反の命令をどんどん出せます。戦争法のもと、日本が米国と一体となって戦争できる国にすることへ直結するのです。さらに憲法9条2項を削除し、「国防軍」を創設すれば軍事優先の人権制限はいっそう拡大します。
 緊急事態の事例には「外部からの武力攻撃」とありますが、これは、他国からの一方的な侵略を想定したものではありません。
 集団的自衛権の行使が可能となり、米国の起こす世界戦争に自衛隊が参戦することが可能となった日本が前提です。日米同盟体制の強化を進める一環で起こりうる戦時を想定しているのです。
 日本国憲法は前文で人権と民主主義は「人類普遍の原理」と謳(うた)っています。この原理に外れ、戦争に反対する世論を抑え込む緊急事態条項と自民党改憲案は憲法の名に値しません。
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2016年08月25日,「赤旗」)

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7月】

フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/1/つくり手もハッピーに

 昨年11月に封切られて以来、半年ものロングランとなり、今も全国各地で市民上映会が開催されている映画「ザ・トゥルー・コスト 〜ファストファッション 真の代償」をご存じでしょうか? ファッション業界の裏側にある人権侵害や環境破壊を取材したドキュメンタリー映画です。
 フェアトレード(公正な貿易)専門ブランド「ピープルツリー」創設者サフィア・ミニーが登場することから、私たちも上映会を企画し、そのたび観客から大きな反響がありました。

血で作られた服
 この映画が制作されたきっかけは、2013年4月24日に起きた、バングラデシュのダッカ郊外の衣料品縫製工場ラナ・プラザの崩壊事故でした。1100名以上の死者、2500名以上の負傷者、さらに200人近くが行方不明となりました。
 違法増築した耐久性の低い建物に大量のミシンを設置、その振動により壁に入ったひびの大きさに労働者たちが不安に思い、中に入ることを拒否していたのにもかかわらず、賃金を支払わないと脅して強制労働をさせた結果の悲劇。
 この工場でつくられていたのは、おしゃれなのに低価格が売りの、いわゆる「ファストファッション」で、世界的に有名なブランドばかりでした。映画の登場人物のひとりで縫製工場に出稼ぎをしている女性は、「私の血でつくられた服を着てほしくない」と訴えました。
 また、コットン栽培に使用される大量の農薬や皮革工場からの有害排水による、深刻な健康被害や環境破壊などについても衝撃的な映像が続きます。
 これらは遠い海外で起きていることであって、私たちには関係のないことでしょうか? 
 なぜ衣料品産業における労働条件の改善が難しいのでしょうか。為政者の多くが受益者であるため、労働者の権利を守る法律がつくられないのに加え、「衣料品産業の上流に位置する主役≠ェ国外にいるからだ」と、ラナ・プラザ崩壊事故の遺族や被害者の弁護にあたっているバングラデシュの人権活動家のアミルル・ハク・アミン氏は指摘します。その主役とは、多国籍企業や輸入業者のいる欧米であり、そして私たち日本のことです。

コスト優先に
 私たち先進国の消費者が「より安いもの」を求め続ける限り、コストカットが最優先となり、本来支払われるべき賃金や安全確保のための経費が削られます。おしゃれで安いファッションが当たり前の世の中ですが、それは誰かの犠牲の上に成り立っているのです。
 それではダメだ!と気づいたとき、私たちに何ができるでしょうか。そのひとつに、「新たに買い物をするならフェアトレードで」という選択肢があります。具体的にフェアトレードとは何なのか? 生活にどう取り入れたらいいのか? この連載で身近な例を取り上げて、つくり手がハッピーなのはもちろん、私たちの暮らしがよりすてきになるようなヒントをお伝えしたいと思います。
 (フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」広報・啓発担当)
 (金曜掲載)
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2016年07月01日,「赤旗」)

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フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/2/「友産友消」で生活安定

 みなさんの1日は、どんなふうにして始まりますか? コーヒーや紅茶、ジャムをたっぷり塗ったトーストや果物。それらの多くは海外から輸入されたものであり、私たちは1日のスタートから世界中の人々の恩恵を受けています。
 それらはどんなふうにして、私たちの食卓にのぼるのでしょうか。食の安全性を問う意識から、どこで生産されたかというトレーサビリティーは浸透してきましたが、作り手がどんな人たちで、どんな労働環境かまでを気にする人はまだ少ないかもしれません。

誰が作ったか
 生産工程の透明性を大事にするフェアトレード(公正な貿易)では、「どこで、誰が、どんなふうに作ったのか」が分かります。例えば、ピープルツリーのハーブティーやジャムを作ってくれているのは、ケニアの小規模農家を取りまとめているメル・ハーブというフェアトレード団体。1985年にメル地方で安全な飲み水と生活用水を引くためのプロジェクトが始まりでした。
 川と土地の高低差と水圧だけで供給するエコロジカルな灌漑設備を利用しています。この灌漑プロジェクトの運営資金と、地域の人びとの仕事と安定した生活をつくるために、メル・ハーブは活動しています。
 もともと自給自足しか生活の糧を得る手段がない地域で、現金収入を得るには遠く都市部に出稼ぎに行かなくてはなりません。しかもATMはなく、簡単には送金ができません。農家の中には今すぐ現金が欲しい時、たとえ買い叩かれた値段であってもフェアトレードでない仲買人に売ってしまうことも。また多くの農家が、手間のかかるカモミールよりも育てやすいハイビスカスばかりを作ることで、需要と供給のバランスが崩れることもあります。
 計画的に作物を作る意味や意義を200世帯以上もの農家に理解してもらうのはなかなか大変なことですが、フェアトレードのサポートによって「生活が安定する」というメリットを彼らが実感できることが重要です。

フェアな取引
 フェアトレードは「貧困問題と環境問題をビジネスの仕組みで解決しようとする取り組み」。フェアトレードであることを認証する機関は世界中にいくつかあり、それぞれの基準が設けられています。ピープルツリーは世界フェアトレード機関(WFTO)の認証を受けています。生産者が生活できる賃金の支払いはもちろん、安全な労働環境を整えたり、自然環境に配慮したりと、作り手を尊重し、持続可能な生産を支えるためにあらゆる段階でフェアな取引をすることを掲げています。
 農家はメル・ハーブに加盟することによって、虫害にあいやすいカモミールの周りにレモングラスを植えて虫よけ効果を得るなど、農薬を使わないオーガニックの栽培方法を学べたり、貯水タンクの配布により何`も先の川まで水をくみに行く必要もなくなりました。彼らの生活を長期的に多面的に支えることで、生産を持続可能にしているのです。
 フェアトレードを地産地消ならぬ「友産友消」と言い換えると、分かりやすいかもしれません。誰が作ってくれたのか分かるものを、大事に味わう。買うことで作り手を応援しながら身近に感じ、生産が続けられれば、愛用者の自分もうれしい。これがフェアトレードの原点だと思います。利益至上主義の経済ではないがしろにされがちな「個々の人」を、フェアトレードでは何よりも大事にしているのです。
 (フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」広報・啓発担当)
 (金曜掲載)
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2016年07月08日,「赤旗」)

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フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/3/人のつながりが見える

 フェアトレードは、貧困問題と環境問題をビジネスの仕組みで解決しようという取り組み。だからこそ、「人」を大事にするのだというお話をしました。では、具体的にどんなことをしているのでしょう。

手仕事活かす
 6月の中旬、ピープルツリーでは2017年の春夏コレクションの注文を取り付ける展示会を開催しました。普通のアパレルブランドに比べて、半年は早いタイミング。無理のない生産期間を確保し、早い段階で収入の目途が立つことで、計画的で持続可能な生産が可能になります。結果的に、卸先さまやその先のお客さまとも長いお付き合いが実現します。
 小規模な農家や生産者団体の中には、担保となる資産がなく融資を断られるなど、一般的なビジネスのシステムでは技術や能力を活かせないケースもあります。フェアトレードが支援するのは、まさにそういった弱い立場にある人たち。必要な時には発注額の一部を前払いすることで、資金繰りに困らないようにし、納期に遅れることなく商品の生産ができるようにも支援します。
 生産に長く時間をかけるのは「手仕事」を活かしたもの作りをしているためです。手仕事にこだわるのは、綿を摘む、糸を紡ぐ、生地を織る、糸や生地を染める、縫製する…といった工程ごとに人が関わることができるので、多くの人の雇用につながるからです。
 また、電気に依存せずに製品を生み出すことができるのも大きなメリット。停電が多く、電気の供給が安定しない地域では、電気に頼ったもの作りをしてしまうと、かえって仕事にならない場合もあるのです。手仕事を活かすことは、地域に残る伝統的な技法を継承することにも役立ちます。
 現金収入の少ない農村部で、手仕事による収入を得る機会があれば、出稼ぎに行かずに済み、家族が一緒に暮らせる、元々の生活を守ることができます。

作り手と対等
 フェアトレードのものづくりは、一方的な要求ではなく、作り手と対等な立場で話し合いをしながら進めていきます。文化や生活習慣の違う国で、それらを尊重しながら、日本で売れるクオリティーのものを作り、滞りなく日本に届くようにするには、密な連絡が欠かせません。
 日々の電話やメールといったやりとりに加え、ピープルツリーのスタッフは年に数回、インドやバングラデシュ、ネパールを中心にパートナー団体を訪問しています。
 具体的な技術指導だけでなく、商品づくりの進行状況や課題を確認したり、日本で返品や不良品になった商品の問題点を伝達・共有したり、どうしたら解決し、レベルアップできるのかを一緒に探ります。
 さらに、周囲の環境や働く人の健康に負担がないかと排水設備を確認し、清潔な飲み水やトイレが提供されているか、非常口や避難経路が確保されていることなどを確認するのも、安全で健康的な労働条件を守るフェアトレードならではです。
 貧困問題や環境問題の解決が困難になっているのは、人権や環境に関する負の要因が複雑に絡み合っているから。フェアトレードでは、負の連鎖を断ち切るために、これまで挙げてきたような地道な活動を積み重ねています。そのベースにあるのは、人に対する尊重の想い。自分を大事にするのと同じく、他人を大事にする。そんな当たり前のことがきちんと守られてこそ、世界の平和は実現するのだと思います。
 フェアトレードでのお買いものは、そうした姿勢を後押しすることになるのです。
 (フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」広報・啓発担当)
 (金曜掲載)
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2016年07月15日,「赤旗」)

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フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/4/負の連鎖を断ち切る

 1億6800万人。この数字が意味するものは、なんでしょう? 実は、学校にも通えず、危険で有害な労働を強いられている児童労働者の数なのです。(2013年国際労働機関=ILO)

経済的自立へ
 これは世界の子ども(5〜17歳)の10・6%に当たり、実に9人に1人が児童労働をしていることになります。日本にいると児童労働の存在すらピンとこないかもしれませんが、その人数が日本の人口よりも多い事実には、衝撃を受けるのではないでしょうか。
 児童労働は、家業を手伝うのとは意味が異なります。強制的な労働で教育を受ける機会を失い、読み書きや計算ができないままおとなになれば、別の仕事に就くこともできません。児童労働経験者のおとなが、自分の子どもの収入を当てにする、あるいは労働者として雇う側になる…そんな負の連鎖が存在します。工芸品の生産が盛んなインドでも、おとなより安い賃金で済み、手が小さく細かな作業にも向くと、児童労働が行われています。
 児童労働の背景には、親の貧困があります。ピープルツリーのアクセサリーを作っている、インドのタラ・プロジェクトはフェアトレード団体として、まず親であるおとなたちがきちんと経済的自立を果たすことを目指しています。
 一方で、働かざるをえない子どもたちの労働時間を減らし、数時間でも学ぶための時間と場所を提供するプロジェクトも運営。また、医療制度が行き届いていない地域に診療所を開設して、働き手だけでなく地域住民も恩恵が受けられる活動をしています。
 負の連鎖というと、私たちの衣服の素材としていちばん身近なコットンも、大きな課題を抱えています。コットンは、そのナチュラルなイメージとは裏腹に、大量の農薬を使用します。全世界の耕作地の2・5%に過ぎないコットン畑に、世界で使用される殺虫剤の16%、農薬全体の7%が使われており(日本オーガニックコットン協会)、毎年2万人もの人が亡くなり、300万人が健康被害を訴えているといいます(世界保健機関=WHO)。農薬を買うために借金し、環境が破壊され収穫が減り、さらに借金し…。貧困は負の連鎖を呼びます。
 農薬を使わない有機栽培にすることで、経済的負担を減らし、環境と農家の健康を守ることができます。さらに有機栽培やフェアトレードでの取引では、通常価格に加え奨励金が支払われます。

地域に還元も
 たとえば、ピープルツリーのオーガニックコットンを栽培している農家の支援団体では、フェアトレードの奨励金を活用して、小規模農家に種を支給したり灌漑設備を整備することなどができ、持続可能な生産が実現します。さらに、貧困家庭への医療品や食品のサポート、飲料用浄水設備、学用品の支給など、地域全体の生活の質を向上させられます。
 こうした取り組みも、消費者が価値を見いださない限り、多くの企業は余計なコストと捉えます。ピープルツリーのスタッフがインドのコットン農家の支援団体を訪ねた際、「オーガニックコットンは欲しいけど、フェアトレードである必要はない」と、奨励金は支払わず、通常価格でしか買い取らない企業が多いと嘆いていたそう。製造過程にまで配慮されたオーガニック製品を買う、児童労働によらないアクセサリーを買うなど、「人」が大事にされているフェアトレードを選ぶ消費者が増えれば、多くの企業の姿勢も変わってきます。負の連鎖を断ち切るのは、私たちの選択次第なのです。
 (フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」広報・啓発担当)
 (金曜掲載)
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2016年07月22日,「赤旗」)

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フェアトレード・買い物で世界を変える/鈴木啓美/5/未来へ意思示す消費者に

 日本の「もったいない」という言葉に代表される、モノを大事にする考え。実は、フェアトレードの世界にも活かされています。
 例えば、インドやバングラデシュの女性が大切に着ていた民族衣装サリーをワンピースやワイドパンツ、バッグ類に仕立て直した「リサイクルサリー」シリーズ。ところどころに伝統的な刺しゅうがほどこされ、アクセントになっています。

作り手に喜び
 刺し子に似た技法は親しみが感じられ、かつ日本にはない大胆で鮮やかな色柄が特徴的。1点1点異なるため、おひとりで何枚も購入されるファンもいるほどです。
 初めて商品企画された2008年当初、現地の人々にとってリサイクルサリーは、玄関マットやベッドカバーなど「繕い物」の古くさいイメージがつきまとっていました。それが、ピープルツリーのアイデアで「おしゃれなファッションアイテム」として生まれ変わった時、とても新鮮な気持ちと共に、誇らしさをもたらしたそうです。
 インドでリサイクルサリーのアイテムを作ってくれている「サシャ」のスタッフは「私たちの着ているサリーが、形を変えて日本のお客さまに着ていただけることは、作り手にとっても大きな喜びです。色とりどりのサリーの色柄合わせをすることは、クリエーティビティを刺激されて、とても楽しいです」と話してくれました。
 フェアトレードでは、持続可能な生産のため、現地で入手しやすい素材を使うことを大事にしています。サリーという身近な素材を使って、新たな付加価値を持って生まれ変わった事例です。また、生産過程で必ず出てしまう残糸や残反などを、単にゴミとして処分するのではなく、新たな素材として捉えることも大事な発想です。

余剰糸を利用
 例えば、糸を染めるには、ある程度まとまった量が必要になるので、どうしても色によっては余ってしまいます。そうした余剰糸をうまく利用して作るのが、ネパールの「クムベシュワール・テクニカル・スクール」による「リサイクルウール」シリーズ。模様はピープルツリーのスタッフがデザインしますが、色の組み合わせは編み手さんが自由に選びます。作り手たちが積極的に自分の個性を生かすことが商品の価値を上げ、自信と誇りを持って働くことができるのです。
  *   *
 これまで5回にわたりフェアトレードのものづくりで実現できることをお伝えしてきました。環境を大事にし、作り手たちが誇りを持って仕事を続けられる…。フェアトレードの商品には幸せな背景があります。世の中にあふれるものがすべて、そんな商品だったら。世界は平和で、私たちも心から気持ちよい毎日を過ごせると思いませんか。
 購買行動は、たとえ少額であっても、その商品やサービスを提供する企業を支持する行為。選挙権は1人1票ですが、お買い物は日常的に何度でもできる、未来への意思表示にもなりえます。正しいことでもストイックになりすぎると、続けられなくなってしまうもの。楽しくできるお買い物によって、世の中を良くしようとしている企業を応援することは、無理なく続けられる社会貢献と言えます。
 消費者には、企業を動かす力があります。生産背景を知ることは、自分のお金がどのように使われているのかを知ること。ぜひ「お買い物」の仕方を変えることで、一緒により良い世界をつくっていきましょう!
 (フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」広報・啓発担当)
 (おわり)
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2016年07月29日,「赤旗」)

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英報告書、日本も問われる/イラク戦争検証シンポ/NPO

 中東における武装勢力の台頭や、テロ激化などの引き金になったイラク戦争(2003年)を検証するシンポジウムが16日、東京都内で開催されました。主催は、日本政府に対してイラク戦争検証情報公開訴訟を係争中のNPO「情報公開クリアリングハウス」。自由人権協会などが共催しました。
 同企画は、6日に公表された英国のイラク戦争検証報告書をうけたもの。報告書は、英国が米国などとともにイラク戦争に参戦したことについて、数多くの誤った判断と政策決定に基づくものだったとしています。
 成蹊大学法学部の高安健将教授が、英国の報告書の作成と公開にいたった経緯や、独立調査委員会の権限について説明しました。
 毎日新聞の笠原敏彦編集委員は、小泉政権が当時、イラク戦争を支持したにもかかわらず、日本ではその検証がほとんどされていないことを指摘し、「日本は英国から議会制民主主義を学んだが、その理念となると、ほとんど何も学んでいない」と批判しました。
 柳沢協二元内閣官房副長官補は、報告書の「『戦争が最後の手段とは言えなかった』との指摘は重大」「(安保法制に関わり)いまの日本にも置き換える必要がある」と強調。「情報と政治の関係が不健全ではなかったか、戦争の大義はあったのか、などは今後とも日本政府には問われていく」と述べました。
 クリアリングハウスの三木由希子理事長と、情報公開訴訟弁護団の出口かおり弁護士が裁判の進捗状況や日本政府の問題点などについて解説しました。
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2016年07月18日,「赤旗」)

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地域医療の先行きは

 埼玉県久喜市の栗橋文化会館で26日午後2時から、地域医療を考えるシンポジウムが開かれます。
 同市では、医師不足が原因で経営破たんした公的病院のJA厚生連・久喜総合病院が、一般社団法人へ譲渡されたほか、済生会栗橋病院の急性期部門の市外移転計画が持ち上がるなど、地域医療の先行きに不安が広がっています。
 シンポジウムでは、本田宏医師(医療制度研究会副理事長)の講演や病院誘致運動に携わった市民らの発言を予定しています。主催は「久喜地域の医療を考える会」、問い合わせは0480(59)3812(埼玉土建久喜幸手支部内)まで。
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2016年06月21日,
「赤旗」)

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介護者支援を考える/支援法制定へ提言/東京でシンポ

 「世界のケアラー(介護者)支援から考える日本の介護者支援」をテーマに19日、東京都内でシンポジウムが開かれ、約100人が参加しました。介護を担う人への支援を法制度化している各国の法制定の経緯や実態を知り、日本での介護者支援法制定に向けて課題を考えようというもの。日本ケアラー連盟などの共催です。
 田宮菜奈子・筑波大学医学医療系教授が「ケアラー支援の国際的動向」について基調講演。木下康仁・立教大学教授はオーストラリアの、本澤巳代子・筑波大学名誉教授はドイツのケアラー支援制度の実際と課題などを報告しました。
 木下氏は、オーストラリアで1997年にケアラー支援が高齢者ケアの柱の一つに明確に位置付けられたのは画期的だと指摘。2011年からは「全国ケアラー戦略」で対象を障害者、精神疾患患者など高齢者以外の介護者にも広げ、全国規模での強化体制に入っていると紹介しました。
 堀越栄子・日本女子大学教授が日本の先進事例として北海道栗山町、岩手県花巻市のとりくみを紹介しました。
 日本ケアラー連盟の牧野史子代表理事は、「介護者への社会的支援は待ったなしです。介護者に届く支援策を一刻も早く具体化したい」と、「ケアラー支援推進法(案)」を提案。実現に向けた運動に重点的にとりくみたいと語りました。
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2016年06月21日,
「赤旗」)

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歴史教科書のこれから/研究団体などがシンポ

 歴史教科書のいままでとこれからを考えようとのシンポジウムが19日、東京都内で開かれました。研究者や教師、市民ら90人を超える人が参加。主催は、歴史研究団体や教科書問題にかかわる8団体です。
 社会科と高校地理歴史科と公民科の教科書検定基準が改定され、近現代史で通説的な見解がない数字などは見解がないことを明示せよ、政府見解を記述せよなどとされました。そのもとで高校日本史教科書の検定はどうなったのか。佛教大学教授の原田敬一さんが、2015年度検定合格した高校日本史教科書6種類を比較検討した結果を報告しました。
 「三・一独立運動の被害者数」「南京大虐殺の被害者数」などをめぐり、数字明記しない教科書が増えている検定の問題点を指摘。「具体的イメージをもって生徒が想像できるようにすることが必要です」と話しました。
 高校日本史教科書の執筆者の一人として報告した元埼玉県立高校教員の小松克己さん。「書いてある事実が正確かどうかを、歴史学研究の成果を検討したうえで判断する検定ではなかった。踏みとどまるべきところは踏みとどまったつもり」と語りました。
 早稲田大学教授の近藤孝弘さんが「国際的な観点から歴史の学力を考える―歴史総合への期待…」のテーマで報告しました。
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2016年06月21日,
「赤旗」)

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シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/9条にたった平和外交戦略

 安倍内閣は、北朝鮮によるミサイル発射実験や中国による南シナ海で軍事利用できる施設建設などを理由に戦争法を合理化しています。北朝鮮の軍事挑発に対してパトリオット・ミサイル(PAC3)を経路外の首都圏にまで配備したり、南シナ海で海上自衛隊の護衛艦が米空母と共同訓練を実施したり、地ならしに必死です。軍事挑発に対して、日本が安保法制=戦争法という軍事的対応に出たら、軍事対軍事の悪循環となり、新たな緊張を生むことになりかねません。日本共産党は、日本政府に対し、どんな問題も外交的解決に徹する、そのために憲法9条の精神に立った平和の外交戦略に転換するよう訴えています。

対話による解決へ、国際社会の一致結束した外交努力を

北朝鮮問題
 北朝鮮は今年初め、核実験とミサイル発射を立て続けに行いました。同国は、1999年の米朝協議や2002年の日朝会談、05年の「6カ国協議」(北朝鮮、韓国、中国、日本、米国、ロシア)の場で、核開発やミサイル発射の放棄を約束しています。今回の行動は、自らが国際社会におこなってきた約束を破るものです。
 6カ国協議は、多国間で北朝鮮の核問題での外交的解決を目指す初めての枠組みでしたが、08年を最後に開催されていません。北朝鮮を話し合いのテーブルに戻し、核・ミサイル開発を放棄させるために何が必要か―。それは国際社会の一致結束した外交努力です。
 国連安保理は3月、同国を出入りするすべての貨物検査などを盛り込んだ制裁決議を採択しました。決議は6カ国協議の再開についても強く要請。「平和的、外交的かつ政治的解決」や「対話を通じた平和的かつ包括的解決」を強調し、各国に「緊張を悪化させるおそれのあるいかなる行動も差し控える」よう呼び掛けています。
 北朝鮮問題を利用して、安保法制=戦争法を合理化することはできません。

「北東アジア平和協力構想」を提唱/戦争法への「平和的対案」
 「もめごとは話し合いで解決。絶対に戦争にしない」―この外交力の発揮こそ、いま必要です。日本共産党は四つの目標と原則からなる「北東アジア平和協力構想」を提唱しています。
 この地域に存在する紛争と緊張を平和的・外交的手段によって解決する抜本的対案です。この地域に、日米、米韓の軍事同盟が存在する下で、軍事同盟に対する立場の違いはあったとしても、一致して追求しうる緊急の提案として示したものです。
 これは、決して理想論ではありません。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国が東南アジアですでに実践している、東南アジア友好協力条約(TAC)のような、あらゆる問題を平和的な話し合いで解決する地域の平和協力の枠組みを北東アジアにも構築しようというものです。
 日本共産党はアジア政党国際会議総会などで「構想」を紹介し、賛同を広げてきました。安保法制=戦争法が施行されたもとで、戦争法への「平和的対案」として重要です。

一方的な現状変更と軍事的緊張を高める行動の中止を求めます

南シナ海問題
 南シナ海では、中国が南沙(英語名スプラトリー)諸島に人工島造成やレーダーの設置、西沙(同パラセル)諸島でミサイルや戦闘機の配備を行い、同海域の領有権を主張する周辺諸国との間で緊張が高まっています。
 中国とASEAN諸国が結んだ「南シナ海行動宣言」(DOC)は「現在無人の島嶼、岩礁、浅瀬、洲その他のものへの居住を慎む」「紛争を複雑化あるいは激化させ、また平和と安定に影響を与えるような行動を自制する」と規定しています。中国の行動は明らかにこの約束に反します。
 日本共産党は、南シナ海での一方的な現状変更と軍事的緊張を高める行動を中止し、外交交渉による平和的解決に徹することを求めています。
 ASEAN諸国はDOC順守とともに法的拘束力のある「南シナ海行動規範」(COC)への発展を粘り強く追求しています。日本政府は、このような対話による解決を促すための外交努力を行うべきです。

尖閣問題
 尖閣諸島が日本の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかです。
 日本共産党は問題解決のため、日中双方が、
@領土に関わる紛争問題の存在を認め、冷静な外交交渉による解決をはかるA現状を変更する物理的対応、軍事的対応をきびしく自制するBこの問題を両国の経済関係、人的・文化的交流に影響をあたえないよう努力をはかる―の三つの原則を提起しています。
 尖閣諸島の接続水域に最近、中国軍の艦船が初めて入ったことはきわめて重大です。領土をめぐる紛争問題が存在しているこの海域への軍艦の侵入は、軍事的緊張を高め、事態の平和的解決に逆行します。日本共産党は、中国の今回の行為に厳重に抗議し、繰り返さないことを求めました。

 
シリーズ「共産党の改革提案」前回は9日付に掲載しています。シリーズはこれで終了です。

6カ国協議の共同声明
(1)協議の目標は平和的方法による朝鮮半島の検証可能な非核化
(2)北朝鮮はすべての核兵器と核計画の放棄、核不拡散条約、国際原子力機関の保障措置への早期復帰を約束
(3)米国は北朝鮮を攻撃または侵略する意図がないことを確認
(4)米国、日本は、北朝鮮と国交を正常化するための措置を取る
(5)6カ国は、朝鮮半島の恒久的な平和体制について協議し、北東アジアの安全保障面の協力促進を探究することに合意

東南アジア友好協力条約(TAC)
 東南アジア諸国連合(ASEAN)の安全保障構想の土台となっている条約。1976年に調印。締約国は東南アジア域外にも広がり、日本、アメリカ、欧州連合、中国、北朝鮮が加盟するなど57カ国、世界人口の72%が参加する条約となっています。締約国相互の関係について、主権尊重、紛争の平和解決、武力行使の放棄を明記しています。
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2016年06月14日,「赤旗」)

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保育事故と規制緩和/上/認可外で事故多発

 保育施設で重大事故が続いています。昨年だけで14人の子どもが命を落としています。くり返される悲劇の背景に規制緩和≠ェあります。安倍政権は今、子どもを詰め込み、保育士の専門性をさらに緩めようとしています。
 (芦川章子)

 テーブルに置かれた小さな骨つぼ。遺影の中では頬のふっくらした男の子がほほ笑みます。絵本や靴、お気に入りだったというミニカーや人形が並びます。
 母親の有紀さん(38歳)が「けんちゃん」とよぶ男の子は今年3月11日、通っていた事業所内保育所で昼寝中に亡くなりました。1歳2カ月でした。
 「表情が豊かでよく笑う子でした。やっと授かった子だったんです。愛情をかけて育てました」と有紀さんは静かに話します。

2時間半放置
 保育所は、東京・中央区にある認可外の保育施設「キッズスクウェア日本橋」です。七つの企業が共同で設けた保育施設です。いわば企業主導型保育の先取りです。
 有紀さんは3月からの仕事復帰のため、自宅近くの認可保育所6カ所に申し込みましたが全て入れませんでした。同施設には2月から預けていました。
 有紀さんが施設側から受けた説明によると、けんちゃんは「泣くから」と別室で1人寝かされました。寝かしつけたのは保育士資格のない非常勤の職員。1カ月に1日ほどしか来ない人でした。園長の指示でうつぶせ寝にしたといいます。
 その後、職員たちは離れ、2時間半近く、顔や呼吸などの確認はしていませんでした。

人工呼吸せず
 午後2時すぎ、早く迎えにいった有紀さんは、ぐったりとした息子に対面しました。誰も人工呼吸をしていなかったため、有紀さんが施しました。すでに死斑が出ていました。あごや首には呼吸のため、もがいたと思われる擦り傷もありました。「2時間半近く、誰にも見られずに苦しみながら死んでいった。かわいそうで、かわいそうで、たまらない」
 同施設の保育士の経験歴は園長をはじめ1〜4年程度。人工呼吸の経験がある職員はいませんでした。
 国は保育指針で、乳幼児のうつ伏せ寝は窒息死などにつながることから避けるべきだと明記。都は睡眠中は10分おきに呼吸を確認するよう定めています。
 報告のあった死亡事故は15年だけで14件。うち10件は認可外です。この間の報告では12年間に174人が亡くなっています。
 「毎月どこかの保育所で子どもが亡くなっていることになる。それも何年も。こんなことは終わりにしてほしい」。有紀さんは搾り出すような声で訴えます。(つづく)
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2016年06月07日,「赤旗」)

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保育事故と規制緩和/中/病死≠ナ事故隠し

 乳幼児突然死症候群(SIDS)の疑い―。保育中の死亡事故の多くで出される結論です。事故死ではなく、いわば病死扱い。その後、原因の検証・分析がされることはまれです。
 そんななか、施設側の責任を裁判で認めさせた遺族がいます。
 大阪市の棚橋恵美さん(27)は、当時4カ月の長男・幸誠(こうせい)ちゃんを2009年11月、企業運営の認可外施設「ラッコランド京橋園」(大阪市、現在閉園)で亡くしました。働くため認可園を探しましたが空きはなく、やむなく預けて1週間のことでした。
 一切の過失を認めない施設。恵美さんは施設と市を訴えました。
 大阪高裁は昨年11月、死因は、うつぶせ寝で長時間放置したことによる窒息死だと認定。死因をSIDSだとする施設側の主張と一審判決を退けました。訴えて5年半後でした。

職員2人だけ
 高裁では当時の唯一の有資格者が証言し、ずさんな保育がうきぼりになりました。
 
当時、17人の子どもを無資格の職員が2人だけで見ていた職員は常に2人。1人が給食の準備に入ると、子どもの面倒を含め全て1人で行う睡眠中の点検は外の窓からのぞく程度…。そして同企業の園での死亡事故は2度目でした。
 市は有資格者の不足などを知りながら、業務停止などの措置をとっていませんでした。
 「裁判を支援する会」事務局の仲井さやかさんは「監督責任がありながら放置した市の責任も大きい」といいます。同市は国の規制緩和を先取りし、人員や面積などの国基準の事実上の廃止まで申請しています。「行政は選んだ親の自己責任といわんばかり。『この流れはあかん』と幸ちゃんの死が投げかけている」と仲井さん。
 事故後「自分を責めつづけた」という恵美さんは「幸ちゃんは戻ってこない。これ以上、苦しむ人を増やさないで」と話します。

圧倒的な不足
 保育事故裁判に15年以上携わる寺町東子弁護士は「保育事故の多くは密室で起きており、因果関係の立証が難しい。SIDSを隠れミノにした事実の隠ぺい、再発をくり返している」といいます。また死亡事故は「虐待行為の延長線上におこっている」といいます。
 入所者数で比べると、認可外の死亡事故は認可の60倍という試算もあります。認可外の有資格保育士は、認可の3分の1でよいとされています。事故が起きた施設で共通するのは、人手と経験の圧倒的な不足です。
 寺町氏は「事故の7割が午睡中です。人手が足らないからと子どもをよくみない。また複数の子どもが同時に泣き叫んだとき受けとめるには『発達についての専門知識』と『保育現場での経験』が欠かせない」といいます。
 泣く子どもに毛布をかぶせる、縛る、閉じ込める、たたく―。こうした行為が、無資格者や経験の少ない若手保育士のみの現場で多くおきているといいます。
 政府は無資格者のいっそうの活用、子どもの詰め込みを提案しています。「子どもの命はさらに危うくなる。今やるべきは規制緩和でなく基準の強化です」(寺町氏)
 (つづく)
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2016年06月08日,「赤旗」)

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保育事故と規制緩和/下/命と未来の分岐点

 保育所で何が起きているのか、そして何が死を招くのか―。
 保育事故で子どもを亡くした親たちでつくる「赤ちゃんの急死を考える会」の小山義夫副会長は、2000年以降、自民党政権が矢継ぎ早にすすめてきた「構造改革」「規制緩和」を指摘します。
 
保育所1カ所あたりの定員を増やし子どもを詰め込む非正規の職員を増やす保育への株式会社の参入…。
 同会は2009年、それまで報告された死亡事故240件を分析。2001年以降は認可園でも事故が増えていることが分かりました。
 「保育環境に余裕がなくなり、企業経営の園では『ブラック保育園』が目立ちはじめた。一方、子どもを尊重した保育をやればやるほど保育士が燃え尽き、辞めていく。結果、質の低下を招いている」と批判します。

労働条件冷遇
 『ルポ保育崩壊』の著者でジャーナリストの小林美希さんは「待機児童解消にばかり目をむけ、両輪であるはずの保育の質、その根幹となる保育士の労働条件を冷遇してきたことが問題」といいます。
 小林さんが注目するのが人件費です。この間、国の方針で公立園は次々とつぶされ、企業経営が急速に広がっています。
 「まともな運営をすれば人件費は経費全体の7〜8割はかかる。しかし企業は利益を優先するため人件費を抑える。4割という所もあります。当然、保育士は使い捨てとなり、保育本来の趣旨からは離れていく」
 園長が新卒、保育士全員が20代という園も増えているといいます。
 その結果―。目をつり上げ、常に「だめ」「早く」としかりつける、すぐに謝らせる、事故を恐れ散歩は行かない、目が届かないからと狭い部屋に多数の子どもを詰め込む…。保育ではなく「まるで飼育」だといいます。
 規制緩和が本格的に行われてから十数年。こうした園で過ごした子どもたちの表情は乏しくなり、小学校の先生たちが「あの保育園から来た子は荒れている」「おとなを信用しない」と口にする事態だと小林さんはいいます。

質の劣化続き
 保育サービス産業は全サービス産業でトップの成長率。主要企業は軒並み2桁成長をつづけています。
 保育研究所の逆井直紀・常務理事は「規制を緩和し、自由競争を促せば、保育の質が上がるというのは幻想でしかない。子どもは金もうけの道具になり、保育の質は劣化しつづけている。公費を投入せず、安上がり保育をつづけてきた弊害だ」と批判します。
 日本の保育・幼児教育予算はGDP比0・45%。OECD(経済協力開発機構)で最下位です。乳幼児期のケアと教育は、人格形成に大きな影響を与えるとしてEU各国は充実に転換しています。
 逆井さんはいいます。「保育政策はかつてなく注目を集め、重要な選挙争点にもなっている。野党共同で保育士処遇改善法案も提出された。保育士たちも立ち上がっている。今ここで転換できるかどうか。子どもたちの命と未来の分かれ道です」
 (おわり)
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2016年06月09日,「赤旗」)

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大企業決算の特徴/2016年3月期/上/自動車/海外拡大で6社増収増益

 2016年3月期の大企業決算の特徴を業界ごとに見ました。

 自動車大手8社の2016年3月期連結決算は、トヨタ自動車や日産自動車など6社が増収増益になりました。一方、ホンダは増収減益、ダイハツ工業は減収減益でした。
 本業のもうけを示す営業利益は8社で5兆3602億円と、前期比で2976億円増えました。下請け企業への単価引き下げなどの「原価改善」に加え、15年12月までの円安差益による営業利益の増加が後押ししました。

国内生産は減少
 4輪車の国内生産台数は減り続けています。8社の15年度国内生産台数は、前年度比4・1%減の866万1345台、2年連続の減少です。15年4月の軽自動車税増税で軽の販売が低調だったことも影響しました。
 一方、海外生産台数は、北米市場の好調などから8社合計で4・5%増の1806万994台。ホンダ、日産、マツダ、富士重工業、スズキの5社が過去最高を更新しました。
 トヨタは売上高が前期比4・3%増の28兆4031億円と2年連続で過去最高を更新。営業利益は同3・8%増の2兆8540億円、税引き後の純利益は同6・4%増の2兆3126億円。営業利益、純利益とも3年連続で過去最高を更新しました。
 ホンダは、売上高が前期比9・6%増の14兆6012億円となったものの営業利益は同24・9%減の5034億円と大きく落ち込みました。タカタ製エアバッグのリコール(回収、無償修理)による品質関連費の増加、為替影響が要因です。
 日産は、営業利益を前年比34・5%増の7933億円と大きく伸ばしました。北米や中国での新型車の好調な販売によるものです。
 マツダは、国内も含め全市場で販売台数が前年より増え、過去最高の153万4000台となりました。

変わる勢力地図
 三菱自動車は4月20日、軽自動車4車種の燃費データ不正改ざんを行っていたことを発表。対象台数は、自社販売分が15万7000台、日産向け生産分が46万8000台にのぼります。同社は5月25日、燃費不正事件に関連して特別損失191億円を計上しました。
 水島製作所(岡山県倉敷市)の軽自動車生産を6月末まで停止する方針を明らかにしており(その後の見通しは未定)、下請け企業や地域経済への影響が広がっています。
 営業利益、純利益ともに過去最高となったスズキ。5月18日、燃費測定で法令に定められた方法と異なる方法を採用していたことを明らかにしました。
 日産と三菱自動車は5月12日、資本業務提携で基本合意。日産が三菱自の34%の株式を取得し、三菱重工業に代わる筆頭株主となり、同社を事実上、傘下におさめます。ルノー・日産連合と三菱自の世界販売台数(15年暦年)の合計は約960万台。トヨタ、独フォルクスワーゲン、米ゼネラル・モーターズに肉薄する台数になります。
 ダイハツも8月からトヨタの完全子会社となり上場も廃止されます。今期は国内自動車業界の勢力地図が大きく変わる1年になります。
 (つづく)
 (3回連載です)
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2016年06月08日,「赤旗」)

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大企業決算の特徴/2016年3月期/中/電機/好業績から一転、停滞感

 日立製作所と三菱電機が過去最高益を更新するなど電機業界が好業績にわいた2015年3月期から一転、16年3月期は停滞感が強まりました。電機大手8社のうち売上高を伸ばしたのは日立製作所と三菱電機のみ。営業利益を伸ばしたのはソニーとパナソニックだけでした。
 東芝は昨年、粉飾決算による1562億円もの利益かさ上げが発覚。加えて、米国の原子炉メーカー大手を買収した際の巨額「のれん代」の減損先送りも問題となり、深刻な経営危機に陥りました。
 同社は、ヘルスケア部門の東芝メディカルシステムズをキヤノンに、家電部門の東芝ライフスタイルを中国家電大手「美的集団」に売却。売却益を決算に計上したものの、全体で7087億円の営業赤字となりました。
 なかでも、原発関連の巨額減損が響いた電力・社会インフラ部門で3675億円の大幅赤字となりました。半導体事業やテレビ、パソコン事業でも1000億円を超える損失をだしました。

リストラの危険
 シャープは、深刻な経営不振から抜け出せず、台湾の電子機器受託製造大手、鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ることになりました。外資傘下に入るのは日本の電機大手では初めてです。
 鴻海は当初、「雇用を守る」としていました。ところが、シャープが5月12日に発表した決算資料には「最大7000人程度の人員削減」と記されていました。資料は直後に修正され「7000人」は削除されたものの、今後大規模なリストラが進められる危険が高まっています。
 シャープは、テレビやスマートフォン向けの液晶ディスプレイの需要が落ち込んだことから、ディスプレイ部門が1292億円の大幅赤字に転落。全体でも1620億円の赤字となりました。

金融で利益3割
 ソニーは、携帯事業部門の赤字が大幅に縮小したのに加え、ゲーム機やデジタルカメラの好調によって前年度比2256億円増の2942億円と大幅増益となりました。ただ、一番の稼ぎ頭は電機部門ではなく金融部門。金融部門の営業利益1565億円は、黒字部門の利益額の32%を占めます。また、熊本地震によってデジタルカメラの部品製造の基幹工場が被災。1150億円の減益要因になるとしています。
 日立は売上高を7年ぶりに10兆円の大台に乗せましたが、中国経済の減速の影響で建設機械部門が大幅に減益となり、営業利益は微減となりました。
 14年4月の消費税率8%への引き上げによる国内消費の冷え込みが続いたことで、国内売上高はソニーを除いて横ばいかマイナスとなりました。15年3月期は8社すべてが海外売上高を伸ばしましたが、新興国経済の冷え込みなどによって16年3月期に海外売上高を伸ばしたのは4社にとどまりました。
 (つづく)
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2016年06月09日,「赤旗」)

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大企業決算の特徴/2016年3月期/下/銀行/国債売却で差額を稼ぐ

 五大銀行グループの2016年3月期決算で連結純利益の合計額は前期比5・4%減の2兆6197億円。2期連続で前期を下回りました。三菱UFJは前期比8・0%減の9514億円。3期ぶりの減益で1兆円の大台を割り込みました。三井住友は14・2%減の大幅マイナスでした。金利低下に伴う貸し出し利ざやの縮小や世界経済の減速が響きました。

顧客にしわ寄せ
 本業のもうけを示す実質業務純益の合計額は5・8%減の2兆9932億円。三菱UFJ、みずほ、三井住友の「3メガバンク」がそろって減益でした。
 銀行の本業は預金を集めて貸し出し、預金金利や資金調達コストと貸出金利の差である利ざやを稼ぐことです。しかし、アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)のもとで消費や内需が冷え込んでいるため、国内の資金需要も伸びず、貸出金は年2%程度の微増です。また、日銀が行っている「異次元の金融緩和」政策によって金利が極端に下がり、利ざやの縮小が止まりません。
 貸出金や有価証券の運用利回りから預金利子などの資金調達コストを差し引いた「総資金利ざや」は三井住友が0・45%ですが、三菱東京UFJはマイナス0・04%、みずほマイナス0・09%(いずれも各行単体)と2行が「逆ざや」。貸し出しや運用で利益が出ない状態です。銀行は本業の収益悪化を預金金利の引き下げなどで顧客に転嫁しています。
 3メガの国内貸出金に占める中小企業等向けの比率は59・6%で3メガ体制発足後、最低です。
 今年2月に始まった日銀のマイナス金利政策は銀行の利ざやをさらに縮め、17年3月期の収益を押し下げる要因となります。三菱UFJが10・7%減、三井住友が10・6%減、りそなが13・0%減と2桁のマイナスを予想しています。
 大手行は近年、国内貸し出しより収益性が高いということで海外事業に力を入れてきましたが、陰りが出てきました。三井住友は、出資先であるインドネシアの銀行の株価下落で減損処理が発生しました。

「日銀トレード」
 「異次元緩和」は金融業界で「日銀トレード(取引)」と呼ばれる稼ぎ方を拡大しています。日銀は、長期国債の保有残高を毎年80兆円増やすことを決定しているので、民間金融機関から大量の国債を購入する必要があります。その額は新規発行国債の額の8割に当たります。銀行は、財務省が発行した国債を落札して日銀に売り、差額を稼いでいます。民間シンクタンク、大和総研の試算によると、「日銀トレード」による民間金融機関の収益は16年1〜3月期だけで総額1000億円弱に上ります。
 さらに、マイナス金利政策によって国債の利回りが低下しているため、利回りの高い債券を銀行が買いあさる「利回り狩り」と呼ばれる事態まで起きています(週刊『金融財政事情』2月15日号)。
 全国銀行協会が掲げる社会的使命は「広く預金を受入れ、企業・個人・公共部門等に対し必要な資金を供給すること」(行動憲章)ですが、あるべき姿とかけ離れたゆがみが深刻化しています。(おわり)
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2016年06月10日,
「赤旗」)

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安保法制に反対/大学人がシンポ/山梨

 「安全保障関連法に反対する山梨学者・大学人の会」はこのほど、シンポジウム「安保法制で壊されるもの―政治・経済・平和」を甲府市内で開き、50人が参加しました。
 都留文科大学の進藤兵教授(政治学)は、軍事大国化路線を追求してきた安倍首相の「特異性」を説明し、「この特異性に対しては、保守本流を含めた広範な人々との連携が可能です」と話しました。
 カンボジアでのNGO(非政府組織)人道支援活動の経験を語った山梨大学の宮本和子教授(看護学)は「戦闘機1機を買うお金で、紛争や内戦に巻き込まれた人たちをどれほど支援できるのか」と訴えました。
 桜美林大学の藤田実教授(経済学)は、「経済の軍事化」の進行を指摘。「日本は今、経済の軍事化か平和経済かの歴史的岐路にある」と強調しました。
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2016年06月08日,「赤旗」)

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少年法/年齢引き下げ批判/日弁連シンポで専門家

 自民党が少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満へ引き下げようとしているなか、この問題を犯罪社会学と脳科学・精神医学の観点から考えようと日本弁護士連合会(日弁連)は6日夜、弁護士会館でシンポジウムを開き、筑波大学大学院教授の土井隆義さん、児童精神科医の八木淳子さんが講演しました。
 土井氏は、少年非行が年々減少している一方、自殺や自傷行為をする若者が増加していることにふれ、「非行も自傷行為も背景には人間関係で傷つくことへの不安、他者から認められたいという承認欲求がある。表への現れ方は違うが根本は同じ」と指摘。少年一人ひとりに寄り添った少年法の個別処遇がより重要になっていると強調し、18、19歳を少年法から外すことに疑問を呈しました。
 八木氏は、人の脳は25歳ぐらいまで不安定で不均衡な時期にあることを挙げ、「この時期までは治療と更生の可能性が高い。年齢で区切らずに治療可能性に対応できるシステムをつくるべきだ」と主張。年齢で区切る自民党案を批判しました。
 日弁連の小林元治副会長は「18、19歳が少年法の手続きから外されてしまった場合、十分な教育的処遇を受けることなく放置され、新たな被害者を生む悪循環に陥る恐れがある」とし、日弁連として年齢引き下げに強く反対すると表明しました。
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2016年06月08日,「赤旗」)

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福井で憲法誕生70年講演会/安倍政権を許せない

 「日本国憲法誕生70年 憲法って、何だろう?」と題した講演会が4日、福井市フェニックス・プラザで開かれました。福井県で10月に開かれる日本弁護士連合会人権擁護大会のプレシンポジウムとして福井弁護士会が、南野森(しげる)九州大学教授を迎えて企画したもので、約150人が参加。
 南野氏は、安倍政権による集団的自衛権行使容認の「閣議決定」や安保法制、臨時国会召集拒否など憲法違反の暴挙にふれ、「こういうことを許したら、権力者にとって憲法は痛くもかゆくもなくなってしまう」と警鐘を鳴らしました。そのうえで、「憲法学者として、安倍政権の憲法の扱い方は許せない」「憲法を守れと(みんなで)言わなければならない」として夏の参院選の意義をのべました。
 SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の本間信和さん(21)が特別報告し、秘密保護法や安保法制の反対運動を経て、参院選の野党共闘勝利に向けて行動している自身の歩みを紹介。日本社会に問題意識をもった契機として、高校時代に起きた東京電力福島第1原発事故を挙げ、「一部の政治家や官僚に任せておいてはいけない。自分たちが主体的に行動し参加していかないとと思った」とのべました。
 参加者からは「(日本国)憲法は日本と世界の歴史から生まれたものだ」との意見が出されました。
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2016年06月07日,「赤旗」)

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平和主義考える弁護士会シンポ/札幌

 札幌弁護士会(愛須一史会長)は3日、日弁連第59回人権擁護大会のプレ企画「平和主義とは何か」を考えるシンポジウムを札幌市で開き、200人が参加しました。
 関西大学の松元雅和准教授が講演。政治哲学の視点から、戦後の日本に根付いた草の根平和主義や変節の流れをたどりました。松元氏は安倍首相が掲げる「積極的平和主義」に触れて、平和をつくる手段として武力、暴力を使うのは非暴力を土台とする平和主義とは別ものであり「日本はいま、平和主義を維持するのか捨てさるのか、岐路に立たされている」と強調しました。
 松元氏は、札幌弁護士会憲法委員会委員の佐藤博文弁護士、中学校社会科教諭の平井敦子氏と討論し、「日本の平和主義は政府によって国民が裏切られた経験に根ざしたものだ」と指摘しました。
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2016年06月05日,「赤旗」)

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行動する若い世代、語る/日本母親大会、新しい試みも/8月20〜21日、石川と福井

 第62回日本母親大会(主催・同実行委員会)が8月20日、21日の両日、石川・福井の両県で開催されます。今年の母親大会は新しい試みが満載です。これまでの分科会を、テーマごとに内容を充実させ会場規模も拡大した「問題別集会」として取り組みます。若者向けの企画も具体化しています。
 初日に行われる「問題別集会」は、金沢市と福井市の六つの会場で、若者、教育、食、平和、暮らし、女性の地位向上、原発の七つのテーマで開かれます。
 今回新しく、要求運動に立ちあがる若者に焦点をあてた企画に挑戦します。昨年、安保法制に反対して各地で運動を展開した若い世代がクロストーク。絵本作家でイラストレーターの松本春野さん、安保法制に反対する市民グループの横山加奈子さん、安保関連法に反対するママの会信州の早瀬友佳子さん、日本平和委員会の川田忠明さんらが行動のきっかけや思いを語ります。
 現地では実行委員会が中心になってチラシの作成やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での宣伝などに取り組んでいます。会場配置にも気を配り成功に向け準備を進めています。
 企画を担当する新日本婦人の会金沢支部の山下明希さん(39)は、「若い世代が踏み出した一歩を、女性の要求運動を進めてきた母親大会でも共有できればと思います。過去の市民運動も振りかえりながら、これからの未来をどうするか、若い世代がそれぞれの立場で考えて行動するきっかけにしたいです」と話します。
 また、多くの原発を抱える福井県で、全国の反原発の運動交流と再生可能エネルギーへの転換を話し合う「問題別集会」も注目です。
 大会2日目は、参加者全員で交歓する全体会です。石川県産業展示館で、琉球新報社編集局の島洋子政治部長が「憲法公布・女性参政権行使70年―いのち輝く平和な沖縄・日本を」と題して記念講演。各地の運動交流や輪島・和太鼓虎之介の演奏、加賀獅子舞が披露されます。物産展や母親売店、書籍バザールも開催されます。

初日に見学分科会
 開催地の魅力を生かした恒例の見学分科会は、内灘闘争の遺跡訪問と金沢歴史めぐりの2コースが初日に行われます。事前申し込みが必要です。定員各40人。受付期間は7月1日(金)から20日(水)。申込先は各都道府県の母親大会実行委員会です。定員を超えた場合は抽選になります。

日本母親大会
 今年で62回目。第1回大会が、平塚らいてうらの提唱で1955年に開かれて以降、毎年欠かすことなく開催されてきました。女性の切実な要求や願いを掲げて、さまざまな問題に取り組んでいます。

参加要項

 20日「問題別集会」(金沢市・福井市の各会場)午後0時30分〜5時。「Change!〜社会を変える、そして自分も変わる/クロストーク」「子どもの人権が尊重され、健やかに育つために〜学校・家庭・地域が手を携える〜/シンポジウム」「守ろう!日本の食〜TPPと食の安全について〜/シンポジウム」「ずっと戦後を続けたい ゆるぎない平和の砦を築いていこう/一橋大学・渡辺治さん講演・特別発言・運動交流」「貧困の連鎖を断ち切るために 今、私たちができることは―日本国憲法をくらしにいかそう!―/パネルディスカッション」「一億総活躍で女性は輝けるの?―国連女性差別撤廃委員会の勧告をいかそう―/シンポジウム」(以上、金沢市)、「なくそう原発―再生可能エネルギーへの転換を―/特別報告・全国の運動交流」(福井市)
 21日 全体会(石川県産業展示館・4号館)午前10時〜午後3時。
 会員券(1日2500円)が必要。問い合わせ先=第62回日本母親大会実行委員会рO3(3230)1836
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2016年06月04日,「赤旗」)

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ひと/エキタス(AEQUITAS)京都を立ち上げた橋口昌治さん(38)

 「最低賃金を1500円に!」「経済にデモクラシーを」の運動を広げようと、今年2月に「エキタス京都」を立ち上げ。3年前から最賃引き上げを求める活動を続けてきました。
 「最賃の運動は長い歴史がある。今回、これまでの労働運動とは違う流れのなかで、労働や生活のイシュー(政治的争点)を掲げて声をあげ始めたのは大きな変化。自分たちも路上で派手にキャンペーンを張りたい」と意気込みます。
 自身は大学の非常勤講師。「来年も仕事があるかわからない」という不安定な働き方です。「生活は苦しく、将来も不安。自分もそう。1500円なら年収で約280万円と最低生計費に達する。8時間働けば普通に暮らせる社会が実現できる」。最賃引き上げはまず生存権を守るため、かつ「個人が尊重される社会を裏付けるもの」といいます。
 昨年、京都の地方最低賃金審議会で意見陳述。「低賃金は女性を単身で生きにくくさせてきた。一方、稼ぐことを期待される男性は仕事人間に。最賃引き上げは、尊厳ある個人として生きる希望を与える」
 撮影した顔写真を確認すると「ああ、だめだ。よく言われるんです。『顔に覇気がない』って」と苦笑い。
 一見クールな印象ですが、2日には最賃引き上げと中小企業の支援策を軸にシンポジウムを計画、25日にはデモをと、精力的です。「アメリカでも最賃15jの成果をあげている。日本でもできますよ」
 文 岡本 大介
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2016年06月02日,
「赤旗」)

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白タク「反対」/労働者らがシンポ開催/乗客の安全どう確保/乗務員の身分保障は/仙台

 ハイヤーやタクシーの労働者でつくる自交総連宮城地連と全自交宮城地本は5月30日、仙台市内で、「ライドシェア」(白タク行為)に反対するシンポジウムを開きました。ライドシェアは自家用車で利用者を輸送するもので、現行の法律では認められていませんが、財界が規制緩和し、実現を求めているもの。
 東北運輸局の大水直樹課長が「ライドシェア運転手の事故時の責任や乗客の安全性を考えても、慎重に検討しなければならない」、大妻女子大学の戸崎肇教授が「ライドシェアを取り入れた外国では、乗客への暴力事件も起こり禁止になったところもある。乗客の安全確保ができるのか、乗務員の身分保障をどうするのか、問題が多い」と報告しました。
 参院選宮城選挙区の桜井充統一候補が「ライドシェアのような規制改革を進める安倍政権を倒さなければ社会はよくならない」とあいさつしました。
 タクシー運転手の安井利夫さん(64)は「ライドシェアは『過疎地で行う』というが都市部にも拡大するだろう。安月給なのに、さらに生活は悪くなる」と話しました。
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2016年06月01日,
「赤旗」)

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おはようニュース問答/学者が「軍学共同」研究に反対しているね

 ふゆみ 京都で5月29日に開かれた「軍学共同」反対シンポジウムは勉強になったね。
 のぼる 戦争法に反対している学者たちが主催し、大学や研究機関が防衛省から資金提供を受けて研究することを厳しく批判していたよ。
 ふゆみ 小惑星探査機「はやぶさ2」の宇宙航空研究開発機構(JAXA)と防衛省との「軍学共同」研究が、2004年度以降8件もあるって、ショックだった。

2倍の予算つけ
 のぼる 超音速飛行や敵に気づかれずに位置情報を得る赤外線センサーの研究をしているんだね。夢の宇宙が戦場になるのはいやだよ。
 ふゆみ 政府が13年に「宇宙基本計画」の重要課題に「安全保障」を位置づけたのが影響しているのよね。
 のぼる 安倍政権は昨年度、「安全保障技術研究推進制度」を新設し、3億円の予算をつけ、今年度は6億円にした。
 ふゆみ 防衛省が公募し採用した研究に資金提供する制度のことね。昨年は20以上の大学から58件の応募があった。
 のぼる ある大学教授は「防衛省との共同研究は学生のやる気を引き出す。社会貢献ができるから」と言っていたそうだ。シンポジウムに参加した学者が報告していた。
 ふゆみ 私も聞いて驚いた。社会貢献? なにそれ! ただの戦争協力じゃないの。
 のぼる その通り。でも、専守防衛、攻撃的でない兵器なら憲法の範囲内で許される、という学者もいるそうだ。

線引きできない
 ふゆみ 毒ガスを吸収する繊維の研究などね。その繊維でできた戦闘服を着て敵国を攻撃したらどうなるのよ。
 のぼる 攻撃的とか防御的とか、そんな線引きなんてできるはずない。
 ふゆみ 気になったのは「デュアルユース」という言葉。軍事にも民生用にも使えるという意味だけど、これを口実に防衛省との共同研究を正当化しようとする学者もいるそうよ。
 のぼる 「軍事組織からお金がでているなら、それは単なる軍事研究」と、シンポジウムで発言した学者がいたけど、まったく同感。
 ふゆみ 大学も研究機関も学者もみんな、平和のための学術を追求してほしいね。
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2016年06月01日,「赤旗」)

大企業決算の特徴/2016年3月期/上/自動車/海外拡大で6社増収増益

 2016年3月期の大企業決算の特徴を業界ごとに見ました。

 自動車大手8社の2016年3月期連結決算は、トヨタ自動車や日産自動車など6社が増収増益になりました。一方、ホンダは増収減益、ダイハツ工業は減収減益でした。
 本業のもうけを示す営業利益は8社で5兆3602億円と、前期比で2976億円増えました。下請け企業への単価引き下げなどの「原価改善」に加え、15年12月までの円安差益による営業利益の増加が後押ししました。

国内生産は減少
 4輪車の国内生産台数は減り続けています。8社の15年度国内生産台数は、前年度比4・1%減の866万1345台、2年連続の減少です。15年4月の軽自動車税増税で軽の販売が低調だったことも影響しました。
 一方、海外生産台数は、北米市場の好調などから8社合計で4・5%増の1806万994台。ホンダ、日産、マツダ、富士重工業、スズキの5社が過去最高を更新しました。
 トヨタは売上高が前期比4・3%増の28兆4031億円と2年連続で過去最高を更新。営業利益は同3・8%増の2兆8540億円、税引き後の純利益は同6・4%増の2兆3126億円。営業利益、純利益とも3年連続で過去最高を更新しました。
 ホンダは、売上高が前期比9・6%増の14兆6012億円となったものの営業利益は同24・9%減の5034億円と大きく落ち込みました。タカタ製エアバッグのリコール(回収、無償修理)による品質関連費の増加、為替影響が要因です。
 日産は、営業利益を前年比34・5%増の7933億円と大きく伸ばしました。北米や中国での新型車の好調な販売によるものです。
 マツダは、国内も含め全市場で販売台数が前年より増え、過去最高の153万4000台となりました。

変わる勢力地図
 三菱自動車は4月20日、軽自動車4車種の燃費データ不正改ざんを行っていたことを発表。対象台数は、自社販売分が15万7000台、日産向け生産分が46万8000台にのぼります。同社は5月25日、燃費不正事件に関連して特別損失191億円を計上しました。
 水島製作所(岡山県倉敷市)の軽自動車生産を6月末まで停止する方針を明らかにしており(その後の見通しは未定)、下請け企業や地域経済への影響が広がっています。
 営業利益、純利益ともに過去最高となったスズキ。5月18日、燃費測定で法令に定められた方法と異なる方法を採用していたことを明らかにしました。
 日産と三菱自動車は5月12日、資本業務提携で基本合意。日産が三菱自の34%の株式を取得し、三菱重工業に代わる筆頭株主となり、同社を事実上、傘下におさめます。ルノー・日産連合と三菱自の世界販売台数(15年暦年)の合計は約960万台。トヨタ、独フォルクスワーゲン、米ゼネラル・モーターズに肉薄する台数になります。
 ダイハツも8月からトヨタの完全子会社となり上場も廃止されます。今期は国内自動車業界の勢力地図が大きく変わる1年になります。
 (つづく)
 (3回連載です)
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2016年06月08日,「赤旗」)

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大企業決算の特徴/2016年3月期/下/電機/好業績から一転、停滞感

 日立製作所と三菱電機が過去最高益を更新するなど電機業界が好業績にわいた2015年3月期から一転、16年3月期は停滞感が強まりました。電機大手8社のうち売上高を伸ばしたのは日立製作所と三菱電機のみ。営業利益を伸ばしたのはソニーとパナソニックだけでした。
 東芝は昨年、粉飾決算による1562億円もの利益かさ上げが発覚。加えて、米国の原子炉メーカー大手を買収した際の巨額「のれん代」の減損先送りも問題となり、深刻な経営危機に陥りました。
 同社は、ヘルスケア部門の東芝メディカルシステムズをキヤノンに、家電部門の東芝ライフスタイルを中国家電大手「美的集団」に売却。売却益を決算に計上したものの、全体で7087億円の営業赤字となりました。
 なかでも、原発関連の巨額減損が響いた電力・社会インフラ部門で3675億円の大幅赤字となりました。半導体事業やテレビ、パソコン事業でも1000億円を超える損失をだしました。

リストラの危険
 シャープは、深刻な経営不振から抜け出せず、台湾の電子機器受託製造大手、鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ることになりました。外資傘下に入るのは日本の電機大手では初めてです。
 鴻海は当初、「雇用を守る」としていました。ところが、シャープが5月12日に発表した決算資料には「最大7000人程度の人員削減」と記されていました。資料は直後に修正され「7000人」は削除されたものの、今後大規模なリストラが進められる危険が高まっています。
 シャープは、テレビやスマートフォン向けの液晶ディスプレイの需要が落ち込んだことから、ディスプレイ部門が1292億円の大幅赤字に転落。全体でも1620億円の赤字となりました。

金融で利益3割
 ソニーは、携帯事業部門の赤字が大幅に縮小したのに加え、ゲーム機やデジタルカメラの好調によって前年度比2256億円増の2942億円と大幅増益となりました。ただ、一番の稼ぎ頭は電機部門ではなく金融部門。金融部門の営業利益1565億円は、黒字部門の利益額の32%を占めます。また、熊本地震によってデジタルカメラの部品製造の基幹工場が被災。1150億円の減益要因になるとしています。
 日立は売上高を7年ぶりに10兆円の大台に乗せましたが、中国経済の減速の影響で建設機械部門が大幅に減益となり、営業利益は微減となりました。
 14年4月の消費税率8%への引き上げによる国内消費の冷え込みが続いたことで、国内売上高はソニーを除いて横ばいかマイナスとなりました。15年3月期は8社すべてが海外売上高を伸ばしましたが、新興国経済の冷え込みなどによって16年3月期に海外売上高を伸ばしたのは4社にとどまりました。
 (つづく)
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2016年06月09日,
「赤旗」)

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シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/原発ゼロ、再生エネ先進国へ/自然エネルギー市民の会代表・日本環境学会元会長和田武さん/再生エネ倍増すればGDPが最も上昇する国

 最近、世界の再生可能エネルギー発電量は急速に伸びており、減少傾向の原発の2倍以上になっています。
 ドイツやデンマークでは、適切な政策のもと、市民参加や地域主導で飛躍的に再エネを普及させています。ドイツでは、2000〜15年の間に総発電量中の再エネ比率は5倍、水力以外の再エネ比率は12倍に増えました。
 日本でも、FIT導入後、太陽光発電を中心に普及が進みましたが、再エネ比率はOECD加盟先進国中では最低レベルです。再エネの優先利用政策をとり、市民や地域が積極的に取り組めば、ドイツ並みに普及が進み、地域活性化、環境保全、産業発展と雇用創出、エネルギー自給率向上などの好影響を社会にもたらします。
 「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」は、「再エネの倍増によりGDP(国内総生産)が最も上昇する国は日本」との報告書を発表しています。
 原発を廃絶し、石炭火力の増設を中止し、再エネ中心の社会を構築することこそ、持続可能で明るい未来を切り開く道です。
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2016年06月09日,
「赤旗」)

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シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/原発ゼロ、再生エネ先進国へ

 「3・11」を経験して、多くの人がエネルギーのあり方に目を向けるようになりました。安倍政権は、危険な原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、再稼働を推し進めています。危険な原発をやめて再生可能エネルギーを大きく伸ばす―。それが「真に未来ある道」と日本共産党は考えています。

破綻している安倍政権の原発固執政治
 東京電力福島第1原発事故から5年。今でも9万2000人以上が避難生活を強いられ、直近の国勢調査では福島県内4町の人口が「ゼロ」です。事故が終わったかのように、原発を再稼働することは許されません。
 15年8月に九州電力川内原発が再稼働するまで1年11カ月、日本の電力需要は原発ゼロで賄えました。
 安倍政権の原発固執政治は技術的にも破綻しています。原発を再稼働すれば増え続ける「核のゴミ」=使用済み核燃料をどう処理するかの解決のめどはありません。
 政府の「核燃料サイクル」推進政策も行き詰まり、使い道のないプルトニウムを増やし続けることになります。これ以上、危険な遺産を将来に押しつけられません。

再生エネ抑制から転換、40%をめざす
 震災後、日本の再生可能エネルギーは太陽光を中心にぐんと増えました。2014年度の再エネ発電量(大規模水力を除く)は、10年度に比べて約3倍になりました。12年に始まった再エネ固定価格買い取り制度(FIT)が後押しをしました。
 それでも、全発電量に占める割合は、再エネ先進国ドイツなどに比べ大きく遅れています。
 やっと伸び始めた再エネに水を差すのが安倍政権の原発固執政治です。昨年決めた2030年度の電源構成(全発電量に占める各電源の割合)では、原発を20〜22%まで見込み、再エネ抑制策を取っています。
 日本共産党は、原発や石炭火力に固執する「エネルギー基本計画」を見直し、再エネを2030年までに電力需要の約4割をまかなう目標を掲げ、実現する手だてをとることを呼びかけています。

再生可能エネルギー
 太陽光、太陽熱、風力、小水力、バイオマス(木材や家畜排せつ物など生物由来の資源)、地熱など、自然現象から持続的に得られるエネルギーの総称。「国産」のエネルギーであり、発電時などに地球温暖化の原因となる二酸化炭素をほとんど排出しません。
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2016年06月09日,
「赤旗」)

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シリーズ5兆円突破の軍事費/各国が削減すれば世界はどう変わる

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が4月に発行した年鑑によれば、昨年、世界全体の軍事費は1兆6760億jに達しました。4年ぶりに増加に転じ、過去最高だった11年に迫ります。

世界8位に浮上
 国際順位を見ると、米国が他国を圧倒し、中国が続きます。この2カ国で世界の軍事費の約半分を占めます。一方、日本は安倍政権下で軍拡に転じ、今年度は当初予算だけで初めて5兆円を突破。順位も9位から8位に上昇しました。
 「軍事費を削って暮らしに回せ」。このスローガンが今ほど切実なときはありませんが、SIPRIも今回、各国が軍事費を削減して民生分野に回した場合、何ができるのか試算しました。
 それによれば、昨年、国連で合意された17の「持続可能な開発目標」(SDGs)のうち、予算措置を必要とする15項目については、軍事費1兆6760億jのうち、3分の2で達成できます。
 また、各国が軍事費を1割削減すれば、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)が14年に設定した開発援助1372億jを上回る資金を生み出すことが可能としています。
 さらに、もっとも現実的な提案として、各国が軍事費1%分を国連に寄付すれば、世界全体の教育分野での財政格差を除去できるとしています。
 日本の軍事費を1割削減することは決して難しいことではありません。日米安保条約上も義務のない米軍再編経費や「思いやり予算」などだけでも4000億円近くあるからです。これ以外にも、軍事費には多くの無駄があります。

真の「平和協力」
 安倍政権が強行した戦争法では、「国際平和協力」と称して地球規模での海外派兵を可能にし、そのための装備の導入や訓練拡大を計画しています。
 しかし、軍事費を削減して社会開発に回せば、紛争やテロの温床にある貧困や教育格差などの削減に貢献できます。それこそが真の意味での「国際平和協力」であり、憲法9条を持つ日本が率先して歩むべき道です。

軍事依存なくす道こそ
 国際団体「軍事支出に関するグローバル・キャンペーン」(GCMS、スイス・チューリッヒ) コリン・アーチャー事務局長の話 日本を含む東アジアでの軍事支出の増大は懸念すべき兆候だ。東アジアは大国間に緊張が存在する唯一の地域ではないが、もっとも危険な地域の一つである。これらの国々は数十億jを戦争準備にそそぐより、数百万jを外交、人的交流など軍事依存をなくすその他すべてのプロジェクトにそそぐべきだ。
 これらの国々が国際法への依拠を促進することが紛争を解決し、税金を節約するもっともよい方法だ。節約されたすべての金は、環境保護や教育・福祉の向上などに投資することができる。政府がそれを自ら行うだろうか。強固な世論が存在するときだけ、そうするだろう。
 (おわり)
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2016年05月27日,「赤旗」)

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シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/雇用ルール確立/「働き方」変える

 低賃金・不安定雇用の非正規雇用が4割を占める一方、過労死や長時間労働がまん延する異常な働かせ方が横行する日本。格差をただし、経済に民主主義を確立することが急がれます。日本共産党の改革提案の第三は、働き方を変えることです。「ブラックな働き方をなくし、人間らしく働けるルール」の確立をめざします。

労働時間/残業上限規制を提案
 日本では、毎年のように「過労死」が発生するほど、異常な長時間過密労働がまん延しています。
 原因は、日本の法律が無制限の残業を容認する制度になっているからです。
 労働基準法では労働時間は週40時間、1日8時間を超えてはならないとされています。しかし、労使協定=三六(さぶろく)協定=を結び、特別条項をつければ「大臣告示」で示された限度を超えて残業をさせることができます。実際、経団連の会長企業である東レの三六協定は、月100時間、年間900時間、トヨタは月80時間、年間720時間です(2014年)。
 過労死ラインである月の残業時間80時間を超える異常さです。
 このもとで安倍首相は、「三六協定における時間外労働規制の在り方について再検討を行う」と表明せざるを得なくなりました。
 日本共産党は、残業時間の上限を法律で規制することを提案しています。たとえば―。
 「大臣告示」が示している残業の上限である月45時間、年360時間を法律に書き込む
 終業から始業まで一定の休息時間(インターバル規制)の導入
 をめざします。くわえて「サービス残業」の根絶を求めます。
 こうした法規制の強化により、ブラック企業・ブラックバイトを根絶します。
 また、安倍首相が「時間外労働規制」をいうなら、まずは現在国会に提出している「残業代ゼロ」制度を創設する労働基準法改悪案を撤回すべきです。

最低賃金/どこでも誰でも1500円
 日本の最低賃金制度は、都道府県ごとに決定されています。
 地域別の最低賃金は東京が最高で907円、沖縄を含む4県で最低の693円、全国平均は798円となっており、最高と最低との差額は214円です。
 仮に、東京で月に155時間(所定労働時間の平均)働いても、月額14万円程度で、年収は170万円に満たず、最低の沖縄では年収130万円に届きません。
 人間らしく暮らせる賃金を保障することとこうした地域格差解消は急務です。日本共産党は全国一律最賃制の実現と、いますぐ時給1000円(年収186万円)に、1500円(279万円)をめざして国民といっしょに行動しています。

同一労働同一賃金/格差是正、法律に明記
 安倍首相が今国会で「同一労働同一賃金」を表明しました。同一・同等の労働であれば、同一の賃金を支払うという、賃金差別を撤廃する原則です。
 日本では、正社員でも女性の賃金は男性に比べて7割程度、非正規雇用では、正規雇用の6割弱となっています。この格差・差別を是正することは急務です。
 日本共産党は、「同一労働同一賃金」―「均等待遇」を男女雇用機会均等法、パート労働法、労働者派遣法などに明記する法改正を提案しています。
 雇用のルールを強化し、非正規雇用から正社員への流れをつくります。

 
日本共産党は、格差をただし、経済に民主主義を確立するために、「三つの改革」を掲げて選挙戦をたたかいます。特集掲載日は次のとおりです。
 
「三つのチェンジで未来ひらく」(4月30日付)
 
税金の集め方を変える(5月5日付)
 
税金の使い方を変える(13日付)
 
働き方を変える(今回)
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2016年05月18日,「赤旗」)

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シリーズ5兆円突破の軍事費/兵器購入見直し、保育に財源回せ/保育士・町田ひろみさん

 都内の保育所に勤務する保育士・町田ひろみさん(49)のコメント
 政治に最も言いたいのは、一人ひとりの命をもっと大切にする政治をしてくださいということです。予算の使い道を見ても、米軍優先だったり、大企業優遇だったり、本当に人の命を大事にしていますかって問いたい。
 保育所の待機児が増えたのは、自分らしく生きる選択肢として働くことを選んだ女性が増えたことも一因です。「成長する国」をめざすのなら、そこを応援する政治こそ必要です。
 5兆円の軍事費や高額兵器の購入を見直して、保育所増設や保育士の待遇改善のための国庫負担を増やせば、ママたちをもっと応援できるし、保育ももっと良くすることができるはずです。
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2016年05月16日,「赤旗」)

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シリーズ5兆円突破の軍事費/オスプレイ1機で100の保育所

 4年連続で増加し、2016年度予算で初めて5兆円を突破(5兆541億円)した軍事費。その膨張の原因は、これまで述べてきたように、@米軍再編経費や思いやり予算など国際的にも異常な米軍奉仕Aオスプレイなどの高額兵器の大量購入―によります。

生活にしわ寄せ
 軍事費が5兆円に達する一方、国民の暮らしを支える社会保障や教育、中小企業などの予算が抑制・削減され続けています。
 安倍政権が昨年6月にまとめた「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太の方針)には、16〜18年度の3年間で社会保障以外の分野を約1000億円増加させる方針が盛り込まれました。
 ところが、16年度の軍事費だけで740億円増に達し、このしわ寄せが教育や中小企業など国民の暮らしを支える部分にまわされることが予想されます。
 16年度の中小企業予算は、米軍再編経費(1801億円)とほぼ同額の1825億円。在日米軍「思いやり予算」(1920億円)には及びません。
 日本共産党が提唱する月額3万円の給付奨学金を70万人に給付する制度の創設に必要な財源は年間約2500億円です。

職員給与改善を
 保育士の処遇改善にむけ、日本共産党、民主党(当時)、維新の党(当時)、生活の党、社民党の野党5党が国会に提出した法案では、保育士の給与1人当たり平均月額5万円を引き上げることを盛り込みました。必要な財源は約2800億円です。
 また、90人規模の認可保育園増設にかかる国費は1カ所当たり約1・2億円。100カ所、9000人の待機児解消のために必要な財源(国費)は約120億円です。防衛省が示したオスプレイ1機分(約112億円)にほぼ等しい金額です。
 こうした国民の暮らしや子育て、教育を支える予算と比較すると、「海外で戦争する」ための兵器の購入費や米軍への思いやり予算がいかに高額が分かります。
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2016年05月16日,「赤旗」)

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女性参政権100年まもなく/広場に記念像設置へ/ロンドン市長表明

 【ロンドン=ロイター】サディク・カーン新ロンドン市長は10日、間もなく100周年を迎える英国の女性参政権運動を記念する彫像を設置するのに目立つ場所を見つけたいと表明しました。
 カーン氏は、これまで男性の彫像だけが置かれている議会広場に女性の彫像を設置することを求める請願に応じました。これには「ハリー・ポッター」シリーズの作者J・K・ローリングさんや、女優のエマ・ワトソンさんなど著名人も署名しています。
 インターネットでの請願運動は、女性活動家キャロライン・クリアドペレスさんが始めました。請願書は「議会広場には11の像があるが、女性のものは一つもない」と指摘。「あと2年で、女性が初めて投票権を得た勝利から100年となり、彼女たちは記憶に残るのにふさわしい。議会広場に像の設置を」と求めています。
 カーン氏は市長選で、誇りあるフェミニストを自称。同氏の事務所は声明で「建築許可や資金など、考慮すべき実務的問題はあるが、市長は、議会広場かロンドン中心部の別の場所かなど、像にとって適切で目立つ場所を検討することに関心を持っている」と表明しています。
 英国の女性参政権運動は19世紀末期に始まりました。中でも、運動の立ち上げに尽力したエメリン・パンクハーストと、1913年のダービー競馬で国王の馬の前に飛び出して致命傷を負ったエミリー・デービソンの2人はよく知られた活動家です。
 議会広場に彫像のある著名な男性には、ウィンストン・チャーチル元英首相やインド独立運動指導者マハトマ・ガンジー、ネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領らがいます。
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2016年05月13日,
「赤旗」)

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シリーズ学問はおもしろい/阪南大学教授桜田照雄/思考の力で現実解きあかす「わかった!」の実感が喜び

 経済学の見方からすれば、「働くこと」は社会的分業の一環を担うことである。われわれは、労働を通じて社会に貢献し、得られた報酬を生活の糧とする。社会的分業を担うことを通じて、経済活動が生み出す社会関係のなかに、わが身が置かれ、かくて自分自身は世の中とかかわり合うことになる。
 「格差社会」など矛盾に満ちた世の中を、よりよく生きようとすれば、自分自身と世の中とのかかわり合いをうまくこなしていかねばならないので、それには世の中を知らねばならない。そのことを通じて、社会の法則をつかみ、よりよい社会づくりに貢献する。これが学問の役割だ。

世界に広がる税の不公平感
 さて、経済活動の担い手はといえば、国家(=政府)と企業、そしてわれわれ国民(=家計)である。活動の基本はおカネのやりとりなのだが、その取引には、さまざまな意味がつきまとう。
 国家と国民との社会関係を考えると、国家が行う経済活動には、行政の基盤をなす財政活動(租税と予算)がある。国民であるわれわれは、国家に税金を納め、社会保障の給付を受ける。こうした納税と給付とのバランスは「所得の再分配機能」とよばれる。みなが安心して暮らすには、社会的な公平(衡平)が必要なのだが、「税金を払っているのに、ちっとも面倒を見てくれない」とか、「税金を払ってないのに、給付を受けているのは不公平だ」といった考えが、最近、広がりをみせている。こうした「税と給付」をめぐる「不公平感の広がり」は、大企業や大富豪、政治家の「税逃れ」を記す「パナマ文書」の暴露によって、国内のみならず、世界的な問題となっている。

知的格闘通じ具体的な姿に
 新しい経済現象の理解とは、その現象に既知の知識を突き合わせて、知的に格闘し、不十分さを克服して、新しい現象が説き明かされることである。最初に得られた抽象的なイメージが、知的な格闘を通じて、より具体的な姿をとって脳裏に浮かぶようになる。
 かくて、見たままの現実から瞬間的にとらえられた直観が、その現実を解きあかすのに必要な概念へと、思考の力によって換えられたとき、学ぶ人々から「わかった!」の声があがる。私はここにこそ「学ぶ楽しみ」や「学びの喜び」があるように思う。社会とのつながりからみれば、「納得する」ことが、暮らしの基礎になければならないからだ。
 こうした実感を、とりわけ若い人たちと共有したいと願っているのだが、困難さを感じることも少なくない。困難をもたらしている最大の要因は、「思考する技術」がきちんと教育・訓練されていないことにあるように思う。
 たとえば、言葉を理解するには、言葉の意味内容(名詞や形容詞などの単語の理解)だけでは不十分で、言葉の構造(主語・述語・目的語)や機能(助詞や接続詞の働き)への理解が欠かせないのだが、こちらの方は、英語の文法学習に代替され、「日本語の文法は英語の授業で学べ」といわんばかりである。さらに、「文章題が登場して算数がいやになった」「『みんな』と言えばわかるのに『全員』と言うのは?」。子どもたちの素朴な疑問や要求にわれわれ大人はきちんと答えてきたのかと、思うからである。
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2016年05月11日,「赤旗」)

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シリーズ5兆円突破の軍事費/1割超、米軍のため/武器、米から爆買い

 5兆541億円の軍事費は、そのすべてが自衛隊の軍備増強や日々の活動に充てられているわけではありません。むしろ、安倍政権下では、在日米軍の基地強化などに充てる諸経費や、米国政府からの高額兵器の輸入が、いずれも過去最大規模にまでふくらんでいます。米国奉仕が極まる異常な事態です。

 まず、16年度予算が5兆円を突破した原因からみてみます。
 15年度から増えた1・5%(740億円)分のうち、0・8%(386億円)が自衛隊関連経費。この上積み幅は前回見たように、「中期防衛力整備計画」が根拠になっています。

「辺野古」が要因
 残りの0・7%(354億円)は、主に、過去最高額にふくらんだ米軍再編関係経費の急増によるもので、防衛省関係者は「特に普天間飛行場『移設』(=辺野古新基地建設)に伴う工事費の増が大きな要因だ」と話します。
 16年度の米軍再編経費は1801億円にのぼり、辺野古新基地に伴う費用も過去最高の595億円と15年度から351億円も増えています。つまり、5兆円突破の原因の半分が、辺野古新基地の増額分に相当します。
 政府が在日米軍基地の維持・強化に関わって毎年負担している経費は、これにとどまりません。基地の移転・強化を進めるSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)経費、米軍再編経費に加え、思いやり予算、土地借り上げ費などまで含めた総額は、「在日米軍関係経費」と呼ばれています。
 この総額は、最新の15年度予算の数字で、過去最高額の7278億円に到達(グラフ、本紙試算)。他省庁が払う基地交付金なども含まれていますが、5232億円を防衛省所管の5兆円軍事費から充てています。
 つまり、日本の「防衛予算」の1割以上を米軍のために充てているのです。第二の米国防予算ともいえる驚くべき実態です。

不公平な仕組み
 自衛隊装備の購入元もみてみましょう。
 武器の調達先は大きく国産と輸入に分かれ、輸入には海外兵器メーカーから直接もしくは商社を通して買う一般輸入と、米国政府から買うFMS(有償軍事援助)があります。
 FMSとは、米国政府が適格と認めた同盟国に対して武器を販売する制度です。価格も納期も米側の都合で決まる上、前払いが原則というきわめて不公平な仕組みです。しかも、前払いしても武器が納品されない事例が相次いでおり、未納入金額は12年度の156億円が、第2次安倍政権発足後の14年度には227億円と2年連続で増えています。
 しかし、安倍政権はFMSによる米国製高額兵器の購入を急増させています。15年度から予算額が跳ね上がり、16年度予算では過去最高の4858億円に達しました(契約ベース、グラフ)。
 垂直離着陸機V22オスプレイ(4機447億円)や、ステルス戦闘機F35(6機1084億円)、新空中給油・輸送機KC46A(1機231億円)などの相次ぐ購入が原因です。
 国産や一般輸入も含む兵器購入費全体からみても、FMSは4割超を占めています。
 血税で米国の外貨獲得と兵器メーカーの一大市場として一役買うだけでなく、装備面でも自衛隊の対米従属化がいっそう進みます。
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2016年05月09日,「赤旗」)

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シリーズ5兆円突破の軍事費/大軍拡の借金/国民1人3万7000円

 史上初めて5兆円を超える軍事費を盛り込んだ2016年度の当初予算が3月末に成立しました。安倍政権下で軍事費は4年連続で増え続けています。暮らしも財政も厳しい中、税金はどう使われているのでしょうか。5兆541億円の中身を徹底解明します。
 (政治部安保外交班)

 なぜ軍事費は増え続けているのでしょうか。その直接的な根拠は、安倍政権が13年末に策定した「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」です。
 「大綱」で示した大軍拡計画を実行するため、「中期防」では14〜18年度の5年間に、毎年0・8%ずつ軍事費を積み増す方針を決めているのです。

36%が借金返済
 年0・8%増というと、わずかな伸び率であるかのような印象を与えますが、実際はそうではありません。
 軍事費に特有の構造からみてみましょう。(図)
 艦船の建造や隊舎の建設などは、契約から完成までに時間がかかるため、複数の年度にまたがって支払いが生じるのが通例です。そのため、16年度予算を家計に例えるなら、食費(人件・糧食費)が4割のほか、以前の契約に基づく借金≠フ返済(歳出化経費)が36%も占めています。新たに使い道を決める一般物件費は、2割程度という「硬直的な構造」(財務省)が軍事費の特徴なのです。

安倍政権で1.5倍
 ところが、安倍政権になって、毎年の予算額以上のペースで、翌年度以降に支払う借金=i後年度負担)の総額が急増しています。16年度の軍事費は15年度比で1・5%(740億円)の増ですが、借金≠フほうは6・7%、2903億円も増えています。
 16年度現在の借金¢濠zは、4兆6537億円にのぼります。安倍政権に交代したときの12年度と比べると、4年間で1・5倍にもふくらみました。(グラフ)
 表面上の軍事費を上回る規模の大軍拡が進められる一方、国民は知らないうちに、1人あたり約3万7000円分のツケ払いをすでに押し付けられている計算です。
シリーズ5兆円突破の軍事費/大軍拡の借金/憲法の財政原則に違反

 軍事費による借金の膨張は、垂直離着陸機V22オスプレイ(1機112億円)や、早期警戒機E2Dホークアイ(1機260億円)といった高額兵器や、武器のまとめ買い≠ェ原因です。

長期ローンまで
 昨年4月には、軍事調達において、最大10年先の予算まで先食い≠キることを特例で認める長期契約法を制定。いわば武器のまとめ買い@pの長期ローンを組み、借金≠フ膨張による毎年の負担額の増加を小さくみせる効果があります。
 防衛省はまとめ買い≠ナ兵器単価の「コスト縮減になる」とアピールしていますが、その分、大量に買っているため、全体として何の節約にもなっていません。

将来財政を制約
 当初予算における軍事費の伸び幅は、「中期防」で決まっているため、安倍政権は補正予算の枠も使って兵器購入を進めてきました。こうした方針の下で、当初予算の5兆円突破は時間の問題だったといえます。
 こうした武器借金≠フ膨張は、安倍政権の退陣後も国家財政を縛り、国民の代表であるそのときどきの国会が財政をコントロールすると定めた憲法の財政民主主義の原則に真っ向から反します。
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2016年05月07日,「赤旗」)
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シリーズ・テロとどう向き合うか/イスラム協力機構事務局長顧問アブドル・ボカリ氏/テロ、宗教と結びつけない

「対話追求、多様性が我々を強くする」
 イスラム諸国57カ国でつくるイスラム協力機構(OIC)は、テロや過激主義とのたたかいを優先課題の一つとしています。イスラム教徒の嫌悪の問題も重視しています。OIC事務局長顧問のアブドル・ボカリ氏に、サウジアラビアのジッダにあるOIC本部で聞きました。
 (ジッダ=小玉純一)

 OICは加盟国に影響するすべての問題を扱います。テロは加盟国の安全に直接かかわります。テロとたたかわなくてはなりません。
 生まれながらにしてテロリストという人はいません。テロリストはテロ組織の犠牲者です。若者がテロリストになる原因に対処する必要があります。差別や疎外、悪い統治の問題などです。

資金断つ必要
 テロ組織の情報を集め資金を断つ必要があります。OICは1990年代からテロに挑む条約をつくり、情報、資金などでの協力を定めました。
 ISなどの過激組織は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使って憎しみのメッセージを広げています。これとたたかうメッセージを発展させます。イスラム教の聖典「コーラン」の真の内容を広げ、イスラム教が平和、友好を求めていることを強調します。
 世界のテロ事件の犠牲者の8割がイスラム教徒です。宗教とテロを結びつけるのは正しくありません。過激組織はイスラムの名でテロを実行しており、イスラモフォビア(イスラム恐怖症)を引き起こしています。
 イスラム教はキリスト教やユダヤ教の預言者を信じます。かれらを信じないとイスラム教は成り立ちません。イスラム教徒にとって他の宗教は神聖なものですから、他の宗教を辱めることを考えることができません。
 イスラム教徒を辱める人がいます。表現の自由の名のもとに他者を辱めてはなりません。

国民に焦点を
 OICは、諸宗教や諸文明との対話を追求してきました。世界は衝突する必要などない、協力しよう、多様性がわれわれを強くする、という趣旨です。
 サウジアラビアは諸文化、諸宗教の間の対話を促すセンターを、ウィーンに設立しています。
 私たちは国民に焦点をあてなくてはなりません。国民が幸せなら、問題は自然と解決されます。

アブドル・ボカリ氏 パキスタンの外交官として駐シリア大使(2004〜06年)などを歴任。09年からOIC事務局長補佐、12年から同事務局長顧問。
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2016年05月05日,「赤旗」)

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シリーズ共産党の改革提案/チェンジ!安倍政治/税金の集め方/能力に応じた税負担

 税金の集め方は、国の姿勢を端的に表します。大企業には減税、国民には増税を押し付けている安倍晋三政権。日本共産党は、「国民いじめのアベ税制」を転換し、負担能力に応じた公正で民主的な税制を目指しています。

■最悪の不公平、憲法精神に逆行/消費税10%を中止する
 所得の高い人はより高い税率で負担し、所得の低い人は低い税率で負担すること―。「これが応能負担の税制と呼ばれるもので、日本国憲法に基づくものです」と税理士で立正大学客員教授の浦野広明さんは指摘します。法の下の平等(14条)、個人の尊厳(13条)、生存権(25条)、財産権(29条)などから導かれます。
 消費税は、所得の低い世帯ほど負担が重くなるもので、憲法の精神に逆行しています。
 消費税率が10%になった際の負担率を試算すると、「軽減税率」が導入されても、年収200万円以下の世帯には年収比6・7%もの消費税負担になります。一方、年収1500万円以上の世帯での消費税の負担は2・4%にとどまります。
 最悪の不公平税制である消費税は、景気破壊税でもあります。三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の片岡剛士さんも「消費税増税は、延期ではなく凍結すべきだ」(「朝日」4月27日付)と指摘します。
 日本共産党は消費税率10%への増税の中止を強く求めます。

■経済学者も「法人税を財源に」/大企業減税バラマキやめる
 能力に応じた税負担という考え方は、企業にも当てはまります。しかし大企業ほど税負担が低くなっているのが実態です。研究開発減税など大企業ほど利用しやすい制度があるためです。14年度の研究開発減税は6746億円。トヨタ自動車1社だけで1084億円もの減税です。
 ただでさえ低い大企業の税負担を安倍政権はさらに引き下げてきました。12年の発足以降、東日本大震災の復興財源にあてる復興特別法人税を廃止し、法人税率を引き下げるなど約4兆円の減税を決めています。
 安倍政権は大企業の税負担を減らせば、労働者の賃金や設備投資が増額するとしています。しかし実際には、内部留保が増えただけの「ニセ宣伝」。大企業は工場や機械設備など有形固定資産を減少させました。賃金はわずかに増えましたが、物価上昇を考慮すればマイナスです。
 日本共産党は、安倍政権による4兆円もの大企業減税バラマキを中止し、研究開発減税など大企業優遇税制を抜本的に見直すことを求めています。
 経済学者の野口悠紀雄氏も「法人税を増税して財源を賄うべき」(『サンデー毎日』4月10日号)と指摘します。

■年所得1億円超すと負担軽く!?/所得税改正・富裕税を
 安倍政権下で富裕層への富の集中が強まっています。米誌『フォーブス』が発表した長者番付によると、日本で最も資産を保有しているのはユニクロなどファーストリテイリング会長の柳井正氏で、その額1兆9609億円です。「円安」株高を演出するアベノミクスによって資産を急増させました。
 しかし、大金持ちほど税金を払っていないのが現実です。所得税負担率は1億円をピークに低くなります。所得税の最高税率は45%ですが、株式などの譲渡にかかる税は15%に抑えられているからです。
 安倍政権の下で広がる格差と貧困の是正のためには、所得再分配機能を再建・強化することが必要です。
 日本共産党は現行55%まで引き下げられている所得税・住民税の最高税率を98年までの65%に戻すことを提案しています。証券税制も株式配当は少額の場合を除き、総合課税を義務づけます。富裕層の高額の配当には所得税・住民税の最高税率が適用されるようにします。また、富裕税の創設(相続税の評価基準で5億円を超す資産の部分に1〜3%の累進課税)を行います。
 企業や富裕層の税逃れに利用されているタックスヘイブン(税金が低く、秘密性の高い国や地域)については、国際的な税逃れに対し、国内税制の強化とともに、国際的なルールづくりへのイニシアチブの発揮を、日本政府に求めています。
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2016年05月05日,「赤旗」)

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韓国総選挙/変革求める人々/上/政権への厳しい審判

 13日に行われた韓国国会(定数300)総選挙は、16年ぶりに与野党の勢力が逆転しました。与党「セヌリ党」は第2党に転落。野党「共に民主党」が第1党となり、「国民の党」「正義党」と合わせ、野党は167議席を獲得しました。有権者は一票にどのような思いを込めたのでしょうか。
 (ソウル=栗原千鶴 写真も)

 「社会を変えたいという、国民の意志が表れた選挙結果だった」と分析するのは慶北大学法学部の金昌禄(キム・チャンロク)教授(55)。「朴槿恵(パク・クネ)政権3年間の失政、李明博(イ・ミョンバク)前政権以来8年も続いた保守政権の下で、民主主義の後退に国民が非常に厳しい審判を下した」と分析します。
 朴政権は国民の反対が強い国定教科書の改訂を一方的に進め、在韓米軍による高高度防衛(THAAD)ミサイル配備に向けた議論を米国と開始しました。

強引さに危機感
 総選挙ではセヌリ党内の公認候補決定にかかわり、朴大統領が自分に近い新人を積極的に擁立させる一方、政策や国会運営をめぐって対立した有力政治家を公認から除外。強引なやり方に「危機感を募らせた」という市民の声を地元メディアは報じています。
 朴大統領やセヌリ党の政策に期待した層は、裏切られたという思いを抱きました。恵泉女子学園大学(東京・多摩市)の李泳采(イ・ヨンチェ)准教授(44)は「経済政策の失敗も大きかった」と分析します。
 青年失業率が2月に12・5%と過去最悪を記録しているにもかかわらず、朴政権は解雇条件の緩和を含む労働法の改定を狙っています。李准教授は労働運動出身の無所属候補が当選したことを挙げ、「現場の労働者、青年、中間層の不安が投票行動に結びついた」と語ります。
 「外交問題は争点にならなかったが、投票の判断材料にはなったと思う」とソウル大学の南基正(ナム・キジョン)副教授(52)は分析します。

アジアより米国
 2012年の大統領選挙で朴大統領は、北朝鮮との「信頼と平和」を訴え、前政権より柔軟な姿勢が期待されました。政権発足後は「北東アジア平和協力構想」や「朝鮮半島信頼プロセス」などの政策を掲げました。
 「米国寄りだった前政権より柔軟で、そこに期待した層が朴大統領を推した。しかし今は北朝鮮に強硬で、アジアより米国重視になっており、裏切られたという状況だ」と南副教授は語ります。
 また、今回の選挙結果は「昨年末の『慰安婦』問題に関して、韓国政府には警告であり、日本政府には『もっと考えてほしい』というメッセージだ」と指摘します。
 「合意後の韓国政府の態度は、あまりにも高圧的で被害者に寄り添ったものではなかった。一方、日本政府からも合意の真意を疑わせるような発言が相次いだ。両政府ともに選挙結果を謙虚に受け止めて、解決に向けた努力をしてほしい」
 (つづく)
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2016年04月17日,「赤旗」)

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韓国総選挙/変革求める人々/中/地域主義から新時代へ

 韓国は、選挙で地域主義が色濃く表れます。ところが今回の総選挙では、これまで保守一色だった南東部の慶尚道で、野党「共に民主党」が議席を獲得。政界に衝撃を与えました。
 「慶尚道は、保守以外の政党は受け付けないという雰囲気がありましたが、今回の選挙で感じたのは、変化を望む声の強さです」
 こう話すのは、李南信(イ・ナムシン)さん(51)です。慶尚北道慶州市から無所属で立候補した人権弁護士、権英国(クォン・ヨングク)氏の選挙対策本部責任者を務めました。
 「大統領の一方的なやり方にあきれていた人、生活苦を訴える人、選挙自体を拒否する反応もあった。そんな中で権弁護士は、与党が打ち出せない偏差値重視の学校運営の改善や脱原発、非正規雇用問題の解決などを訴えました」

変化生む契機に
 地域住民に話し合いを呼び掛けると、若者や学校に子どもを通わせる親の世代が集まってきました。「民心が揺れていると感じた」といいます。
 若者、女性、都心部で票を集め、得票率は約16%。「議席獲得には届きませんでしたが、与党が十数年議席を独占してきた地域で、変化を生み出す契機にはなったのではないか」と語ります。
 一方、「共に民主党」の地盤、南西部の湖南地域(光州市、全羅道)でも変化が起きました。同党は湖南地域を地盤にし、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)両元大統領が発展させた「民主党」の流れをくむ政党で、つねに議席を確保してきました。
 しかし今回、同地域で第1党となったのは「国民の党」です。「共に民主党」を離党した議員らが結成した同党が、28議席中23議席を獲得。与党セヌリ党も2議席を獲得し、「共に民主党」は3議席にとどまりました。
 この間、地元では党をまとめきれず、分裂状態になったことなどに批判があがっていました。
 慶北大学法学部の金昌禄(キム・チャンロク)教授(55)は「野党第1党に対する警告だ」と分析します。国民の党についても「湖南以外の小選挙区では2議席の確保に終わった。与党も野党も全羅道の意志をどう受け止め、どのような政治をしていくのか、国民は見守っている」と強調します。

地域対立に亀裂
 今回の選挙で、1987年の民主化以来続く保守の慶尚道≠ニ進歩の全羅道≠ニいう「地域対立に亀裂が生じた」と金教授は指摘します。
 「時代の変化を感じさせる事態です。その変化を生んだのが20代、30代であるという分析がある。今回の選挙で一番重要なのは、積極的に政治参加するという国民の躍動性が復活し、若い世代の政治意識が成長し、国民の手で政治が変えられるという確信を得たことだといえるでしょう」
 (ソウル=栗原千鶴)
 (つづく)
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2016年04月18日,「赤旗」)

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韓国総選挙/変革求める人々/下/青年の一票、政治動かす

 「私の一票が効いてよかった」(22歳女子大生)「青年が変わったから、与党が敗北した」(24歳女性)―。選挙後、こんな声が青年たちから聞かれました。

政府・与党に反感
 韓国メディアによると、今回20代の投票率は49・4%で、30代は49・5。全体の投票率58%よりは低いものの、それぞれ2012年の総選挙を4・4ポイント、7・7ポイント上回りました。
 ソウルに住む多くの青年が、小選挙区で野党第1党の「共に民主党」に、比例は「国民の党」に入れたとも伝えられており、議席数で与野党を逆転させる力になりました。
 韓国青年ユニオンの鄭俊永(チョン・ジュンヨン)政策局長(28)は投票率が上がった要因として、「人命より利益を優先したセウォル号沈没事故への対応や国定教科書の押しつけ、就職難や家賃の高騰など、悪政を続けたために政府と与党は反感を買った」「『国民の党』の出現で、二大政党に入れたくないと棄権してきた人も投票行動に出たのではないか」と分析します。
 「国民のみなさんが落胆していたほど、青年はあきらめていません。セヌリ党は前回の公約より後退した政策を出した。労働問題や生活に基づく公約を破ったり、後退させたりすると、どういう評価を受けるのか身にしみたと思う」と語ります。

青年雇用の悪化
 韓国での青年失業率(15〜29歳)は今年2月、過去最悪の12・5%を記録しました。ソウル労働権益センターの金星熙(キム・ソンヒ)所長(53)は、「潜在的な若者の失業率として37%まで把握できると考えている」といいます。統計の取り方としてアルバイトや派遣社員は含まれていないためです。
 金所長は、仁川国際空港を例に挙げて話します。「シャトルバスの運転や機内清掃など、空港で働く87・3%の労働者が非正規職です。パイロットなどを除いて、目に見えている労働者はすべて非正規職です」
 同センターは、こうした非正規職が労働人口の約45%を占め、850万人に上るとみています。その数は増加傾向だといいます。
 若者たちは就職ができない、就職ができても上司からのいじめや性差別などにも苦しんでいます。青年ユニオンに寄せられる労働相談件数は増加傾向だと鄭さんはいいます。
 今回の選挙で、青年ユニオンをはじめ、学生自治会など約20の青年団体が「総選挙青年ネットワーク」を結成しました。労働分野や生活問題に関して各党政策を比較する資料を提供したり、街頭で投票を促したりする活動を展開しました。
 鄭さんはいいます。
 「今回の選挙で、青年のネットワークが発展しました。今後の選挙でも手を結んで運動ができる契機になったと思います。来年の大統領選挙でも、若者の声を反映できるように頑張りたい」(ソウル=栗原千鶴)
 (おわり)
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2016年04月19日「赤旗」)

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シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/共済/全国保険医団体連合会事務局次長橋本光陽さん/米保険業界参入が狙い

 共済を運営している団体は、環太平洋連携協定(TPP)を憂慮しています。「保険」も含む金融サービスの章(第11章)は、「共済」に言及していません。それでも心配なのは、共済に対する規制強化の流れに拍車がかかり、存続が脅かされる危険性を感じているからです。
 第11章の付属書によると、日本郵政傘下のかんぽ生命保険が、金融庁監督下にある他の民間保険会社と同等の規制を受けることになります。また、TPP交渉と合わせて行われた日米並行交渉では、
@国内外の民間保険会社が日本郵政の販売網を利用できることAかんぽ生命が民間保険会社より有利になる条件を認めないことBかんぽ生命の財務諸表を公表する措置―などで合意しました。これをみると、共済に対しても同じ方向で圧力が強まるのではないかと懸念されます。

保険会社化する
 TPPを推進する米国は、保険など金融サービス分野に強い関心を持っています。米国は、米保険会社が世界有数の規模を持つ日本の保険市場へさらに広範囲に参入するうえで、共済を障害物とみなし、民間保険会社と同じ扱いにしようとしているのです。
 米通商代表部(USTR)の毎年の「外国貿易障壁報告書」や在日米国商工会議所(ACCJ)の意見書は、名指しで共済を「保険会社化」するよう求めています。ACCJ意見書(1月15日)は、「すべての共済等は、金融庁監督下に置かれたうえで、保険会社と同等に保険業法が適用されるべきである」と主張しています。
 共済はもともと、各団体が会員・組合員のために行う助け合いの活動の一つです。保険販売を生業とする保険会社とは目的も精神も根本的に異なります。団体によって必要な相互扶助の中身が違い、国の一般的な事業や民間保険会社が保障できない分野を扱っている場合も多いのです。ですから、民間保険会社と同じ規則を課すことは、それぞれの団体の活動そのものを規制することにつながります。さらに、共済制度で支えられている会員・組合員の生活そのものに多大な影響を及ぼしかねません。
 かつて、共済を装った詐欺を取り締まるために保険業法が改定され、助け合いの共済制度も保険会社か少額短期保険業者(ミニ保険)になるよう求められました。当時、医師・歯科医師、中小自営業者など全国で400を超える共済団体がありました。この規制に対応できず、やむなく解散したり、保険会社の団体契約に切り替えたりした団体もありました。その後、一定の規制を設けることで存続を認める法改正が行われたものの、それで共済を存続できた団体は、当初の1割未満、40団体余りです。

社会保障を補う
 共済は、社会保障の不十分な部分を自ら補い、会員・組合員の生活を支えるため発足、発展してきました。将来、社会生活のあり方が変わり、新たな相互扶助の必要が生じた場合、新たな共済が求められることも考えられます。これは、保険業として成り立つことが前提の民間保険とは全く異なります。
 今、米保険業界の利益のために、TPPやそれが目指す方向によって、今ある共済が存続できなくなると、将来、新たな共済が生まれる可能性も閉ざされます。現在の国民生活を守るためにも、将来のためにも、TPPには反対です。
 (聞き手・北川俊文)
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2016年04月21日,「赤旗」)

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シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/中小企業/駒澤大学教授吉田敬一さん/存立基盤を脅かす危険

 環太平洋連携協定(TPP)は、21世紀型をうたい、多国籍大企業の世界展開を後押しする協定です。それが構想通りに動きだした場合、国内の産業集積が壊され、雇用の7割を占める中小企業の存立基盤が脅かされる危険があります。
 製造業の人、モノ、金の動きをみると、多国籍大企業は世界循環を特徴としています。日本の大企業はかつては国内循環が中心でした。中小企業や地場産業は地域循環です。

輸出は増えない
 政府は、TPPで日本からの輸出が増え、国内総生産(GDP)も雇用も増えるかのような幻想を振りまきます。しかし、多国籍大企業は世界循環で、最適地生産が基本です。輸出ではなく、現地生産、現地販売です。TPPで各国の関税が削減・撤廃されても、日本での生産と日本からの輸出が増えるわけではありません。日本の大企業は、進出先での生産と、そこから第三国への輸出を増やすのです。日本への逆輸入≠熨揩ヲます。
 最適地生産の下で、日本の大企業は国内生産を需給調節機能のために維持しています。海外生産拠点は、好況時に急いで設備投資すると、不況時に工場を閉鎖するのは容易ではありません。そこで、フル稼働状態を維持しておいて、需要増には日本からの輸出で対応します。もはや、輸出の意味が変わってしまっているのです。
 政府は、TPPによって、大企業だけでなく中小企業もアジア太平洋地域の市場につながり、活躍の場が広がるといいます。1990年代、一部の中小企業がアジアへ出て行くようになって、部品加工の単価が切り下げられました。進出先で造ればこの単価だから、仕事がほしければここまで下げろと買いたたかれました。中小企業の財務体質が悪化し、東京の大田区でも大阪の東大阪市でも、多くの中小企業が立ち行かなくなりました。90年代に起きたことが、TPPでより大規模に起きる危険があります。

生産連関が崩壊
 中小企業の活動は、製造業のノウハウや熟練技能を持つ多くの異業種の企業が集まる地域の産業集積の中で、人、モノ、金を循環させるネットワークで成り立っています。TPPで中小企業の経営がさらに悪化し、ネットワークのある一つの工程が欠けると、生産連関が途絶えて、ネットワーク全体が崩壊の危機に陥ります。
 日本とイタリアの貿易をみると、日本の大幅入超です。繊維・皮革と食品・飲料が輸入の43%を占めます。ファッション性のある衣料、高級ブランドのバッグ、有名銘柄のワインなどが思い浮かびます。生産は、中小企業が主役です。しかし、輸出用の高級ワインだけ造っているのではなく、地産地消されているものもあります。
 この例にもみられるように、空洞化しにくく、持続可能な国民経済の基盤は、地域資源と生活文化を生かした暮らしに直結する産業だと考えます。そこから生まれる洗練された高品質の製品は、高い国際性も持ち得ます。地域資源は主に天然素材ですから、第1次産業とも結合した地域経済を形成します。経験と技能が不可欠で、多様な年齢層の雇用が確保されます。中小企業や地場産業が能力を発揮できる領域です。
 TPPは、多国籍大企業の世界循環体制の完成を目指す一方、中小企業の存立基盤である地域の産業集積を壊す危険があり、極めて有害です。
 (聞き手・北川俊文)
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2016年04月20日,「赤旗」)

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シリーズ待ったなし!戦争法廃止/南シナ海で戦略的寄港活発化/海自、米軍追随の艦艇派兵すでに

 3月29日の戦争法(安保法制)施行を受け、海上自衛隊は、中国と周辺国の領有権紛争が続く南シナ海で戦略的な寄港や訓練を活発化させています。政府は通常の活動だと強調しますが、中国を念頭に置いたものであるのは確実です。しかし、自衛隊の活動拡大は、南シナ海問題の解決に資するどころか、逆に軍事的緊張を高めるだけです。

 4月12日、練習航海中の海自護衛艦2隻が、南シナ海へ面したベトナム南部のカムラン湾国際港へ寄港しました。同湾は、係争地の南沙、西沙諸島に近く、ベトナム戦争でも軍港として利用された軍事上の要衝。海自艦の入港は戦後初めてのことでした。
 カムラン湾への寄港を象徴として、4月に入ってせきを切ったように、海自艦が南シナ海に姿を見せています。12日から始まったインドネシア主催の多国間共同訓練には、大型ヘリ空母「いせ」が参加。同艦は26日に、フィリピンのスービック港へも寄港します。

覇権維持狙う
 「南シナ海における自衛隊活動を、情勢が日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する」
 安倍晋三首相は戦争法強行後の昨年11月、オバマ大統領との会談でこう強調しました。
 米国が昨年初めて公表した「アジア太平洋海洋安全保障戦略」によると、領有権問題では中立の立場をとりつつ、同海域で中国軍に崩されつつある米軍の優位性を堅持する方針が示されています。
 同「戦略」が取り組みの中心にあげるのが、
@他国軍との共同訓練・演習A寄港B「航行の自由作戦」などの活動―です。これらには軍の存在感を示して中国をけん制する一方、他の係争国を米側に取り込んでアジア太平洋での覇権を維持する狙いがあります。
 海自艦の新たな動きは、「戦略」の取り組みのうちの二つに忠実に従う肩代わり≠ノ他なりません。
 戦争法の一部である米軍等の防護規定(自衛隊法95条2)を使えば、米軍と中国軍との偶発的な衝突が発生した場合に、現場自衛官の判断で攻撃が可能となります。さらに、海自はイージス艦にCEC(共同交戦能力)と呼ばれる最新のデータ共有システムの搭載を進めており、米軍との情報の一体化が飛躍的に進みます。南シナ海での共同行動を通じ、自衛隊が事実上、米艦隊の一部になる危険があります。
 安倍政権は南シナ海での自衛隊活動の拡大と一体に、関係国へ兵器の供与や輸出なども進めています。

外交努力こそ
 中国による南沙諸島での人工島造成やレーダー設置、西沙諸島でのミサイルや戦闘機の配備の動きは、「紛争を複雑化あるいは激化させ、また平和と安定に影響を与えるような行動を自制する」と規定した「南シナ海行動宣言」に反するものです。
 軍事対応の応酬が緊張を高める結果にしかならないことは、この間の経過からも明らかです。戦争法の発動は、「行動宣言」に示された対話による解決に逆行するものです。関係国のこうした解決に向けた取り組みを促す外交努力こそ日本には求められています。
 (池田晋)
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2016年04月18日,「赤旗」)

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シリーズ待ったなし!戦争法廃止/北海道千歳市の北部方面隊で編成、南スーダン派遣部隊/宿営地共同防護の危険

 南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)へ5月から新たに第10次隊が順次派遣されます。陸上自衛隊北部方面隊第7師団(北海道千歳市)を中心に編成される予定です。戦争法施行のもと、派遣先で行う宿営地の共同防護活動の重大な危険が浮上しています。

他国軍と連携し戦闘に参加

 宿営地の共同防護とは、宿営地が攻撃を受けたとき、宿営地に所在する者の保護のために、自衛隊が隣接する他国軍の要員と共同して武器を使用するもの。戦争法の一つである改定PKO法で、武器使用権限が拡大されました(同法25条7項)。これまで「自己もしくは自己の管理下にある者」の保護について武器使用が認められたのが「宿営地に所在する者」に拡大され、「他国軍要員との共同」が可能となったのです。これは閣議決定や実施計画の変更なしに、法律の施行によって実施できるとしています。

笠井氏が追及
 宿営地の共同防護の内実は極めて重大です。日本共産党の笠井亮議員は3月25日の衆院外務委員会で、陸上自衛隊研究本部の内部文書「『南スーダン派遣施設隊第5次要員に係る教訓要報』について」(2014年11月17日)を示して追及しました。
 同文書によると、13年12月の南スーダン内戦勃発直後の同月24日、国連PKOの治安安全部門顧問から自衛隊部隊に対し、首都ジュバのトンピン地区にある宿営地の防護に関連して、「トンピン地区の東西にフェンス付近のゲートや新たな望楼の設置」「監視網」「清掃」等の実施事項が示され、その中に「火網の連携」という指示が含まれていました。

「火網の連携」
 「火網の連携」について若宮健嗣防衛副大臣は「火網とは、各種の鉄砲を縦横に発射して、弾道の網を張りめぐらされた状態にすること」とし、監視要員が相互連携して相手から攻撃されないようにカバーすることだと述べました。他国軍と連携しての十字砲火≠ナ、相手を軍事的に圧倒する行動です。外国軍隊と同列で、武装勢力との激しい戦闘に参加するものです。
 同文書では「火網の連携」が「武装勢力の侵入阻止を狙いとしており、その実効性を高める上で隣接部隊間の相互支援は不可欠」とする一方、「従来の憲法解(釈)において違憲とされる武力行使にあたるとされ」「実現困難」と記述。「今後の法整備の状況によっては、連携の調整もありうる」としています。
 笠井議員は「安保法制(戦争法)に基づいて『宿営地の共同防護』の任務が付与されれば、火網の連携の調整もありうる」「今度は拒否できない」と指摘。「やるほど危険な任務を自衛隊のPKO部隊に付与する必要があるのか。廃止するべきだ」と述べました。

「予定なし」は選挙への配慮

 中谷元・防衛相は3月22日の記者会見で、「現時点で、宿営地の共同防護を行わせる予定はない」と述べました。しかし5日の会見では、記者から「万が一、宿営地に難民が押し寄せるなどの状況が発生した場合」どうするかと問われ、「そういった(緊急の)場合に、現在持っている能力、それに基づいて対応していく」「事態に応じて適切に対応する」と述べたのです。

当然の枠組み
 宿営地の共同防護は、「駆け付け警護」などの新任務と異なり、あらゆる任務の共通基盤となる権限という位置づけです。現在はルワンダ軍が担当する日常的な宿営地の警備活動はともかく、とっさの攻撃に対処して行うのは当然という枠組みです。
 しかも南スーダンでは、内戦状態の中、武装勢力の襲撃を恐れた民衆が国連の宿営地や、隣接する保護施設(POC)に逃げ込んでおり、そこが武装襲撃されるケースが相次いでいます。
 元自衛官の一人は、「宿営地の防護は、駆けつけ警護など特定のオペレーションとは違う。共に宿営地で寝起きし、食事することもある他国の要員と、突然襲われたとき共同で対処するのは当然の前提だ。危険な武器使用をやれやれというつもりはないが、そういう法律をつくっておきながら、現在の危険な南スーダンの状況のもとで、すべての任務の前提となる権限を凍結するのは理解できない。(選挙への)政治的配慮といわれても仕方ない」と述べます。

実行段階直前
 政府・防衛省に近い安全保障シンクタンクの研究者の一人も「法整備をした以上、間違いなく実行する方向が強くなり、実行段階の直前まで来ているというのが実態だ。巻き込まれていく。やらなければ何のために法律をつくり、派遣するのかという問題になる。『当面やらない』というのは『選挙が終わるまで』という意味だ」と指摘。そのうえで「やれば自衛隊員が死ぬ。日米同盟のためといってもアフリカで死ぬとなると政治が持たない」と述べます。
 戦争法による「法整備」はできても、9条の制約を持たない外国軍隊と共同での武器使用、ましてや「火網の連携」のような激烈な戦闘行動が、憲法の範囲内といえるか、「停戦合意」の成立・維持というPKO参加原則と矛盾しないかという重大な疑念をはらみます。国会審議でも十分論議されているとはいえません。
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2016年04月13日,「赤旗」)

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シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/金融/弁護士和田聖仁さん/危機防ぐ規制を妨害

 環太平洋連携協定(TPP)の金融サービスの章はたいへん抽象的で難解ですが、金融危機を防ぐために政府が行う規制「マクロプルーデンシャル措置」が事実上、行使できなくなる危険があります。
 政府が金融システムのリスクを分析・評価し、それに基づいて対抗する政策をとり、金融の安定を守るのが、マクロプルーデンシャル措置です。1997年に発生したアジア通貨危機に際して、マレーシア政府はヘッジファンドに対抗して独自の規制を行いました。2008年のリーマン・ショックのときは、株価の暴落がデリバティブ(金融派生商品)の破綻を通じて波及し、世界的な金融危機になりました。そこで、マクロプルーデンシャル措置が重視されるようになりました。金融危機が起きそうなとき、あるいは外資の動きで国内経済が混乱しそうなときに、政府が対抗措置をとることです。

断念させる条文
 TPP協定第11・11条の1項は、マクロプルーデンシャル措置を文章上、認める体裁をとっています。「締約国はプルーデンシャル理由に基づく措置の採用または維持を妨げられない」としています。その後で「もし同措置が本協定の諸規定に合致しない場合、締約国の責務および義務を回避する手段として用いられてはならない」と書いてあります。
 原則としてマクロプルーデンシャル措置をやってもいいことになっています。しかし、その後で、TPPで締約国に課された義務を損なう場合には使ってはならないと言っています。課された義務が何かは書いてありません。実際には、著しく広範囲に及ぶと考えられます。原則と例外がひっくり返され、結果として、マクロプルーデンシャル措置を断念させるようになっています。
 マクロプルーデンシャル措置が行使できなくなると、自国の金融システムを守る規制が働かなくなります。TPPの根本思想は、国境の壁を取り払ってお金が世界で自由に流れるようにするという新自由主義です。外資が各国に流入してバブルをつくり、収奪して出て行く弊害がいっそう強まります。

法の形骸化警告
 米国ではリーマン・ショック後、金融の安定性を守るためにドッド・フランク法が制定されました。デリバティブも規制されるようになりました。民主党の大統領候補に名乗りをあげているサンダース上院議員と行動をともにしているエリザベス・ウォーレン上院議員らは、TPPによってドッド・フランク法が形骸化され、米国の金融システムが破壊されると警告しています。
 日本の金融規制は欧米に比べてはるかに遅れているのに、仮にTPPを批准してしまえば、マクロプルーデンシャル措置がとれなくなる危険があります。消費者保護が後退させられる恐れがあります。たとえば、私たちが要求している出資法の上限金利の引き下げもTPP違反とされかねません。いいかげんな金融商品が横行する懸念もあります。
 TPPの新自由主義的政策を進めれば、社会的不平等が広がります。安倍政権は格差を防ぐために何もしていないのですが、政府が格差を是正するために金融に規制を加えようとしても、TPPはブレーキをかけることになります。
 (聞き手 山田俊英)
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2016年03月10日,
「赤旗」)

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シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/国有企業/「TPPに反対する人々の運動」世話人近藤康男さん

インフラの維持脅かす
 環太平洋連携協定(TPP)の国有企業の章は、不明瞭なことが多すぎます。内閣府へ問い合わせても、明確な回答がありません。
 この章は、国有企業の活動に対し、国内外無差別の待遇、商業的考慮に従った行動、非商業的な援助の規制などを義務付けます。民間の営利企業と比べ、国有企業を特別扱いするなということです。
 国民の暮らしや地域の存立を支える基礎的インフラ(社会基盤)を確保する上で、国有企業が果たしている役割があります。「商業的考慮」だけでは運営できません。また、破綻しないよう「非商業的な援助」が必要になる場合もあります。ですから、TPPという形で外部から国有企業のあり方に介入すべきではありません。

あいまいな境界
 条文によると、国有企業とは、主として商業活動に従事する企業で、@国が50%超の株式を所有するA国が所有持分を通じて50%超の議決権を有するB国が取締役会の過半数を任命する権限を持つ―のどれかに当てはまるものとされます。
 「主として」では、境界があいまいです。例えば、病院にも、商業活動とみなされるかもしれない部分があります。国立病院は、国営企業に当たるのでしょうか。内閣府もいまだに明確に回答していません。
 他方、「政府の権限の行使として提供されるサービス」にはこの章の規定を適用しないとしています。インフラ輸出・資源開発も含め、対外取引で通常の保険が扱わない危険に保険を提供する日本貿易保険は、政府の100%出資ですから、国有企業に含められるとみられます。インフラ輸出促進を掲げる安倍晋三政権の下では、規制をまぬかれるかもしれません。
 そもそも、何が国有企業に含められるのでしょうか。条文によると、TPP発効後6カ月以内に国有企業の一覧表を各国へ提供することになっています。
 政府は、国有企業の一覧表がないまま、TPPに署名したわけです。国会議員も、何が国有企業かを知らされないまま、国有企業の活動にしばりを掛けるTPPの審議を余儀なくされます。国民主権や国民の知る権利からいっても、そんなことは許されません。

地方自治体にも
 条文によると、TPP発効後5年以内に、国有企業の活動に対する規制を地方政府傘下の企業へも拡大するかどうか、追加的な交渉を行います。
 地方政府とは、地方自治体です。自治体が運営する病院は、国立病院よりはるかに多いのです。自治体が参加する第三セクターの交通機関が住民の足になっている地方もあります。それらを維持するために、非「商業的考慮」も、「非商業的な援助」も必要です。国有企業に対するTPPのしばりが拡大されることになると、地方住民の暮らしや地域の存立が脅かされます。
 「非商業的な援助」や、それによる「悪影響」の規定は、製造業でもなく、また輸出や対外投資も行わない大半の病院や鉄道(サービス業)には適用されないことになっています。しかし、「非商業的な援助」が、投資の章の「公正かつ衡平」という非常に優先度の高い規定に反するとして、投資家対国家紛争解決(ISDS)に基づいて提訴される可能性はあります。この原則による提訴では、企業側が圧倒的に勝利しているのです。また、病院に関して、投資の章で規定している環境や健康への配慮は、一般的すぎて有効性を持たないというのが、これまでの法律的解釈の常識になっています。
 さらに、「国有企業等小委員会」が設けられ、「この章の規定および運用について見直しおよび検討」を行うとされます。「小委員会」の不透明な運営を通じて、TPPが変質していく危険性があることも大いに懸念されます。
 (聞き手 北川俊文)
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2016年03月08日,「赤旗」)

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シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/ISD条項/弁護士岩月浩二さん/基準は外国企業の利益

 投資家対国家紛争解決(ISD)条項は、外国投資家(企業)が投資先の政府を海外の裁判(仲裁)に訴える制度です。世界各国の投資協定や経済連携協定に盛り込まれてきました。ISDの裁判は投資家の利益を害するかどうかというほとんど単一の基準で裁かれます。国の司法権を侵害して海外の仲裁廷で裁く特権を外国投資家に与えます。環太平洋連携協定(TPP)のISD条項もその危険性は変わりません。

仲裁に従う義務
 例えば日本では、解雇権の乱用になる場合、解雇を無効とする法理があります。外国企業による解雇に対して労働者が訴えを起こし、最高裁で解雇無効が確定しても、最高裁判決をISDに基づいて仲裁廷で裁くことができます。薬価が政府によって不当に低く算定されたと外国の製薬企業がISDで訴えることも自由です。
 日本では多くの人が子宮頸がんワクチンの副作用を訴えたため、厚生労働省は2013年6月から積極的勧奨を差し控えています。科学的証明がないのに勧奨差し止めが長引いているのは違法だと製薬会社が日本政府を訴えることも可能です。
 ISDでは紛争のたびに3人の仲裁人を選任し判断を委ねます。提訴した外国投資家が1人、訴えられた政府が1人を選任し、残る1人は両者の合意によって選びます。仲裁は一審限りです。3人が出した結論に当事者は従わなければなりません。政府の規制が違法と判断されれば、政府は外国投資家に賠償を払わなければなりません。仲裁に基づいて制度や政策を変えなければならない義務はない。しかし、同じことを続けている限り、外国投資家は繰り返し政府を訴えることができます。賠償圧力がずっと続くので、政府は結局、外国投資家の要求通りに制度を直さざるをえません。
 仲裁人はほとんどがビジネス弁護士です。本当は国民的に議論して決めるべき国の制度や政策を、外国投資家にとって不都合かどうかだけでビジネス弁護士が判断し、その場限りで解散してしまう。

人間の価値犠牲
 外国投資家に対する差別的扱いが問題なのではありません。TPPでは「合理的期待利益」を妨げる制度や政策が違法とされ、補償の対象とされます。
 南米などで水道を外国企業に民間委託した後、水質の悪化や料金の高騰によって水を安定供給できなくなり、再公営化することがよくあります。すると外国企業からISDで「収用補償」が必要だと訴えられます。
 日本国憲法が規定する収用補償は、所有権を国や公共団体に移転する場合に正当な補償を与えなければならないとするものです。ISDでは、所有権の移転を伴わなくても、許認可の剥奪や生産上限の設定など政府のとった措置によって外国企業が収益を阻害された場合、「間接収用」とされ、補償の対象とされます。
 また、TPPでは外国投資家に対して「公正衡平な待遇」を与えることが締約国政府に義務づけられています。「合理的期待利益」が判断基準とされますが、非常にあいまいな概念です。
 TPPには訴訟大国アメリカが入っています。日本の場合、訴えられる前に屈服してしまう可能性が高い。ISDで訴えられそうな制度はやらない。国民に違う説明をして制度を変えてしまうことが頻繁に起きる。
 ISDはグローバル資本が国の内政に干渉する有力な手段です。犠牲にされるのは生命や健康、環境など人間にとってかけがえのない価値です。
 (聞き手 山田俊英)
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2016年03月05日,「赤旗」)

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シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/食の安全/日本消費者連盟前共同代表山浦康明さん/消費者の権利奪われる

 環太平洋連携協定(TPP)は、食の安全に脅威があります。特に、第7章の衛生植物検疫措置(SPS)と第8章の貿易の技術的障害(TBT)に強い懸念を持っています。
 SPSは、輸入食料・食品・農産物などの安全基準に関する取り決めです。TBTは、貿易の障害だとみなすものを除去する取り決めです。政府は、遺伝子組み換え食品表示を含め、現行制度は変更されないと説明しています。しかし、米国や業界の要求に沿って規制緩和を進めてきた日本の食品安全行政を考えると、食の安全に関する消費者の権利を奪う流れをTPPが加速する心配があります。
 SPSの章は、安全基準の章であるにもかかわらず、貿易の障害にならないことをことさら強調しています。また、透明性の確保を随所で求めています。透明性といっても、企業にとっての透明性です。新たな基準をつくるときに、外国企業も含め、企業が事前に情報を得て、注文もつけることができるということです。

予防原則拒否も
 新しい基準を採用するには、客観的で科学的な証拠を示すよう求められます。例えば、遺伝子組み換え食品や食品添加物の安全性については、科学者の間でも見解が分かれています。こうした領域で予防原則に基づいて新しく厳しい基準を導入しようとしても、客観的で科学的でないとして拒否される恐れがあります。
 「SPS小委員会」が設置されます。各国は主権国家として、独自に安全基準を決め、それに基づき輸入品の安全検査を行えるはずです。しかし、「SPS小委員会」に大きな権限が与えられると、国内対策に対して影響力を持つことになり、各国の主権が侵害されます。
 各国が安全基準を策定する際、コーデックス委員会、国際獣疫事務局(OIE)、国際植物防疫条約(IPPC)などの国際基準を重視するよう求められます。これまで、日本の基準の方が厳しい場合には国際基準に従って緩和し、逆に、国際基準の方が厳しい場合でもそれに合わせないというのが、日本政府の態度でした。国際基準の重視は、この傾向を強めると思います。
 TBTでは、品質や性能などを定めた規格や、規格に合うかどうかの評価をできるだけ共通にすることが重視されています。主に工業製品が対象ですが、製品の包装も含まれますから、食品表示という形で食の安全に影響します。

独自の規制困難
 さらに、相互承認といい、相手国のルールを相互に尊重することがうたわれています。そのため、他国が意見を言えるようにし、企業の意見を聞くことも定めています。これによって、日本独自に食品表示の義務を課すことが難しくなります。
 「TBT小委員会」が設置されることも、「SPS小委員会」と同じ懸念があります。
 そのほか、第5章の関税当局および貿易円滑化には、輸入品を48時間以内に通関させるルールが書かれています。今でも、1割程度の抜き取り検査で、検査員も400人余りという体制です。それが48時間以内という圧力を受けて、拙速に通関させてしまうことが心配されます。
 さらに、TPP交渉と並行した日米2国間交渉では、米国の要求を丸のみにしました。
 収穫後に使用する農薬の承認について、農薬と食品添加物に分けて、それぞれ承認する日本の制度を簡素化するよう求められ、受け入れました。日本で認められていないものの、各国で使われている食品添加物を早期に承認することを約束しました。牛海綿状脳症(BSE)対策の基準を緩めただけでなく、牛に由来するゼラチンとコラーゲンの輸入制限もなくします。
 日本政府は、TPPは、海外で活動する日本企業に有利だと強調します。その場合、日本企業が他国の消費者の権利を侵害することになりかねません。これからは、消費者運動の国際連帯がいっそう必要となると思います。
 (聞き手 北川俊文)
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2016年03月04日,「赤旗」)

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シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/農産物/農民連国際部副部長岡崎衆史さん/行き着く先は関税ゼロ

 政府は、環太平洋連携協定(TPP)の早期批准を目指し、関連法案を今国会に提出する構えです。TPPの危険性について、識者に聞きました。

 環太平洋連携協定(TPP)は、過去最悪の農業破壊協定です。政府が守るとしてきた農産物重要品目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)の3割で、それ以外の品目では98%で関税を撤廃します。
 国会決議が関税交渉の対象にしないよう求めた重要農産物の関税に手を付けたことは、明らかな国会決議違反です。政府は、関税割り当てやセーフガード(緊急輸入制限)も駆使して関税を撤廃しない「例外」を確保したと強弁しています。しかし、条文をよく検討すると、政府の言い分が全く成り立たないどころか、最悪の協定もまだ中間点で、関税を全廃するレールが敷かれていることが分かります。

7年後に見直し
 他の類似の協定と比べて、次の4点において、TPPは極めて異質です。
 第一に、TPPには関税撤廃の「除外」や「再協議」の規定がありません。「除外」とは、特定の品目を関税撤廃・削減の対象にしないことです。「再協議」とは、特定の品目の関税撤廃・削減を将来の協議へ先送りすることです。政府の言う「例外」は、これに当たりません。ですから、TPP発効時に関税が残っていても、その後、関税撤廃に向けた協議の対象になります。
 特に、TPP発効後7年たつと、米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、チリからの要請に基づいて、日本の輸入を増やすために、関税、関税割り当て、セーフガードについての日本の約束を見直す協議に応じなければなりません。5カ国はみな農産物輸出大国であり、農産物関税の全廃を求められ続けることになります。
 第二に、「物品の貿易に関する小委員会」のほかに、別途、農産物の貿易を促進する目的で「農業貿易に関する小委員会」が設けられます。極めて異例のことで、TPPはことさらに農業貿易に力点を置いています。

安全性と分離し
 第三に、「現代のバイオテクノロジー生産品の貿易」が、物品の貿易に関する第2章に盛り込まれています。人体への危険性が指摘される遺伝子組み換え食品の扱いが貿易促進条項に含まれていること自体が異常です。食料・食品の安全基準に関する衛生植物検疫(SPS)の章で扱われていないため、安全性の問題とは切り離して、遺伝子組み換え食品の貿易を拡大する意図がうかがえます。
 「農業貿易に関する小委員会」の下に「現代バイオテクノロジー生産品作業部会」も設置され、遺伝子組み換え農産品の貿易を促進するための情報交換や協力も進めるとされています。遺伝子組み換え食品の表示義務や作付け規制の廃止がこの場で協議されかねません。
 第四に、輸入の急増時に一時的に関税を引き上げるセーフガードを発動する権利が奪われます。世界貿易機関(WTO)の農業協定は、農産物向けの「特別セーフガード」を認めています。しかし、TPPは、WTO農業協定の「特別セーフガード」を禁止しています。他方、TPPで新設されたといわれる農産物向けのセーフガードはみな、一定期間が過ぎた後に撤廃されることになっています。
 政府は、国会決議に反して重要農産物の関税に手を付けただけでなく、関税撤廃の「例外」を確保したとごまかして、関税ゼロへのレールが敷かれたTPPに署名したのです。
 米国は、アジア・太平洋地域が将来、世界最大の農産物消費地になると見越して、TPPで農産物市場支配の枠組みをつくろうとしています。TPPによる関税撤廃で、日本農業が受ける打撃ははかりしれません。
 (聞き手 北川俊文)
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2016年03月03日,「赤旗」)

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シリーズ・テロとどう向き合うか/インドネシア/イルファン・イドリス氏に聞く/平和がイスラムの教え

国家テロ対策庁反過激主義計画担当責任者
 東南アジアのインドネシアは、イスラム教徒が世界で最も多く暮らす国です。2000年代に入ってからイスラム教を名乗る過激組織によるテロがたびたび発生。首都ジャカルタで今年1月に起きたテロは、過激組織ISとのつながりが指摘され、周辺諸国への拡散も懸念されています。インドネシアの「国家テロ対策庁」で反過激主義計画をすすめる担当責任者のイルファン・イドリス氏(49)に対策を聞きました。
 (ジャカルタ=松本眞志 写真も)

 インドネシアでは2010年9月に、「国家テロ対策庁」が設立されました。多くの国では、対テロ部門は内務省に属していますが、国家テロ対策庁は大統領直轄の機関です。この機関は
@テロ防止A対テロ関係の法の執行Bテロ撲滅のための諸外国との協力・共同―を主要任務としており、国家警察長官直属の対テロ特殊部隊とは区別されています。
 現在、私が担当している反過激主義計画は、過激主義者として収監された人々に対し、社会復帰を果たすために収監施設内で再教育や更生支援を行い、釈放後の就職支援を行うというものです。過激主義者が生まれる背景には、イスラム教に対する正しい知識の欠如と失業などの貧困問題があります。

調和≠ェ本質
 過激主義者は、欧州や米国など西側諸国の人々を敵と見なしていますが、コーラン(イスラム教の聖典)やイスラム法はそのようなことは言っていません。コーランは、すべての人類の信念や宗教を守ることを教えています。
 過激主義者が「神はイスラム国≠フ建設をすすめている」というならば、それはうそだと言いたい。イスラムの教えは本来、誰がどの宗教を信仰するのかを問題視していません。人々がどのようにして安全に、そして平和に調和のある生活ができるのかということに価値を求めています。
 インドネシア全土には2万7000もの「プサントレン」と呼ばれるイスラム寄宿学校があります。われわれは、ここで学ぶ生徒たちを過激主義から守る必要があります。過激主義から彼らを守る努力を怠れば、容易に彼らが過激主義に走ります。そのすべてとはいいませんが、テロリストになる可能性もあります。

他国との共同
 ISなどが正当化するテロとは、凶悪な犯罪であり、非人道的なものです。現在、それは広域化した国際的な犯罪となっています。私たちは、彼らの行動を抑えるために多くの国ぐにとの共同を強める必要があります。
 それは武力を行使するという意味ではありません。もちろん、武力攻撃を受けた場合、武力で応じる必要も出てくるでしょう。ですが、テロ問題は突き詰めて言えば思想の問題です。私たちは若い世代に特に焦点を当て、誤った思想には正しい考えを対置するということを重視していきたいと思っています。
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2016年03月01日,「赤旗」)

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シリーズ/TPPの脅威/識者の分析/労働/全国労働組合総連合(全労連)国際局長布施恵輔さん/基準引き下げの懸念

 環太平洋連携協定(TPP)によって、雇用が減り、賃金が下がり、労働条件が悪化するという懸念は、各国の労働組合運動に共通しています。
 第19章として労働の章が設けられているのは、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)では、極めて異例です。本来、労働問題は、国際労働機関(ILO)が中心になって議論されるべきです。ですから、世界貿易機関(WTO)の協定にも、労働問題は入っていないのです。
 政府は、第19章について「貿易や投資の促進のために労働基準を緩和すべきでないこと等について定める」と説明しています。しかし、労働と雇用、労働者や労働組合の権利などにかかわる問題は、投資家対国家紛争解決(ISDS)を含む投資の章なども含めて、全体をみなければなりません。

8条約言及せず
 しかし、第19章だけでも、多くの問題があります。
 TPPは、ILOの1998年の新宣言、「職場の権利と原則に関するILO宣言」を守るべき基準として挙げています。この宣言は、結社の自由、雇用における差別の禁止、強制労働の禁止、児童労働の禁止という4分野における8条約を「中核条約」と位置付け、ILO加盟国に順守を求めています。しかし、TPPは、新宣言の名を挙げても、8条約には言及していません。
 日本について言うと、8条約中6条約しか批准していません。「強制労働の廃止に関する条約」(105号条約)と「雇用および職業についての差別待遇に関する条約」(111号条約)を批准していないのです。それでは、ILO新宣言を尊重することになりません。

中身全く伴わず
 第19・1条には、「最低賃金、労働時間ならびに職業上の安全および健康に関する受け入れ可能な労働条件」という表現があります。「受け入れ可能な」というだけで、これらの労働条件を守る法律があるかないか、それがILO基準に合致しているかどうかは問われないのです。
 第19・6条には、「強制労働(児童の強制労働を含む)」という言葉は出てきます。しかし、強制労働で生産された物品を「輸入しないよう奨励する」というにすぎません。ILOが105号条約で決めている基準に比べると、極めて限定的なものです。
 第19・7条は、「労働問題に関する企業の社会的責任」に言及しています。しかし、企業の「自発的活動」であって、企業が「任意に採用する」にすぎません。しかも、それを「奨励するよう努める」だけです。
 労働政策は従来、政労使3者が話し合って決めてきました。そのうちの労使にかかわって、TPPには「労働者の代表者および使用者の代表者」という表現も、「労働者団体の代表者および事業者団体の代表者」というILOの用語と異なる表現もあります。これまでの3者構成とは違った枠組みも考えられているのか、疑問に感じます。
 TPPは、ILO宣言を尊重するふりだけで、中身が全く伴っていません。TPPによってILO基準が引き下げられることを危惧(きぐ)します。結局は、多国籍大企業がやりたい放題の仕組みを後押しするものになると思います。
 政府は、TPPで雇用が約80万人増えると吹聴しています。しかし、これには、雇用への影響を重視した米タフツ大学の試算もあります。それによると、TPP発効後10年で、参加国すべてで雇用が減り、日本では7万4000人減るといいます。この試算の方が実感に合っています。北米自由貿易協定(NAFTA)の現実からみても、各国の労働組合は、TPPで雇用が増えるなどと考えてはいません。
 (聞き手 北川俊文)
(
2016年03月12日,「赤旗」)

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安倍政権補完勢力おおさか維新/上/改憲政党℃相にアピール

 26日に大阪市で党大会を開いた「おおさか維新の会」(代表=松井一郎大阪府知事)。憲法改定や戦争法などで安倍政権の補完勢力としての姿をますます鮮明にしています。

 同党は大会で「憲法改正原案」を決定し、改憲政党としてアピールしています。アピールの相手は、明文改憲に向け国会発議に必要な3分の2の議席を狙う安倍晋三首相です。

自民から秋波
 安倍首相は1月のNHK「日曜討論」で、「与党だけで3分の2は大変難しい。自民、公明以外にも、おおさか維新もそうだが、改憲に前向きな党もある」と発言。「そういう前向きな、未来にむかって責任の強い人たちと3分の2を構成していきたい」と、おおさか維新に秋波を送りました。これに対し、同党は「3分の2の勢力に入る」(松井代表)、「仲間に入れていただけるのであればぜひお願いしたい」(馬場伸幸幹事長)と応えました。
 「憲法改正の議論をリードしていきたい」。24日、党憲法プロジェクトチーム(PT)会議で改憲案をまとめた片山虎之助共同代表はこう語りました。
 改憲案では、三つの柱として「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」「教育無償化」を掲げました。安倍政権が狙う9条2項改定や有事に内閣に権限集中する「緊急事態条項」創設は含まれていませんが、片山氏は「9条2項(の改定)や緊急事態条項の必要性はあるが、慎重に」と述べ、否定していません。

9条を問題視
 もともと9条改定に向けた「国民投票」実施や改憲手続きを定めた96条の要件緩和を主張し、安倍政権に同調してきたのが、同党「法律政策顧問」の橋下徹前大阪市長です。橋下氏は「(9条は)他人を助けるときに自分のいやなことはやらないという価値観。安全保障問題の根源は9条の価値観だ」と9条を攻撃してきました。
 同党憲法PT座長の江口克彦参院議員は14日の予算委員会で、安倍首相が自民党大会(13日)のあいさつで改憲に言及しなかったことについて、「選挙を意識して触れなかったとしたら、いかがなものか。憲法改正は喫緊の課題だ」とけしかけました。同氏はさらに「憲法は国権をしばるものとよくいわれるが、根拠のあるものではなく、いわばことわざの類い」と放言。「この前文は国民の誓いの言葉であり、国権をしばる内容ではない」と暴論を展開し、立憲主義に対する無理解を露呈しました。
 馬場幹事長も、「わが党を入れて衆参ともに3分の2を超える状況になれば、一定、国民から評価を得たと判断できる。その後の憲法審査会等でどの条文をどう改正するかを議論する」(17日)と述べるなど、まず改憲に必要な3分の2の議席確保を狙う姿勢をあからさまにし、安倍政権の改憲に反対する野党を「職務放棄」と攻撃しています。(つづく)
(
2016年03月31日,
「赤旗」)

 

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