2018年3月28日
トランプ米大統領の極端な「米国第一主義」が世界経済を揺さぶっています。
中国は報復も
トランプ大統領は22日、中国が米企業の知的財産権を侵害しているとして通商法301条に基づく制裁を命じる大統領令に署名しました。301条は大統領が「不公正貿易」と判断すれば一方的に関税引き上げなどの制裁をとれる条項です。
署名式には世界最大級の軍事企業であるロッキード・マーチン社のヒューソン最高経営責任者(CEO)が同席。知的財産権の保護が米国の航空・軍事産業にとって重要であることを強調しました。
中国は「合法的利益が損なわれることを座視しない」(商務省報道官談話)と報復する構えです。
米政府は23日には鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課す輸入制限を発動しました。通商拡大法232条(国防条項)に基づく「安全保障上の脅威」が理由です。欧州連合(EU)、カナダなど7カ国・地域は除外されましたが、日本は対象になりました。中国は米国からの輸入品に関税を上乗せする報復措置を発表しました。
経済閣僚辞任
19、20両日、アルゼンチンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は共同声明で通商問題に関し、「さらなる対話と行動」を呼びかけ、米国の一方的措置にくぎを刺しました。
米中貿易戦争の懸念から米欧日の証券市場で株価が下落。23日には東京市場で日経平均株価が一時1000円を超す急落となりました。
トランプ政権内でも反発が出ています。経済政策の司令塔の役割を担ってきたコーン国家経済会議(NEC)委員長は鉄鋼、アルミの輸入制限に反対して辞任しました。
鉄鋼、アルミは米国の主要産業である自動車や航空機などに不可欠な材料です。輸入制限は価格上昇につながります。米産業界でも雇用への悪影響を懸念する声が上がっています。
FRB新体制
米連邦準備制度理事会(FRB)は21日、パウエル新議長のもとで3カ月ぶりの利上げを決めました。パウエル氏は、イエレン前議長が行った緩やかな金融正常化を進める姿勢を示しました。今年は3回の利上げを想定しました。
2017年のGDP(国内総生産)成長率は2・3%。16年の1・5%増から加速しました。金融市場では景気の過熱感が出ており、パウエル議長就任当日の2月5日、ニューヨーク証券市場で株価が史上最大の下落となりました。トランプ政権が1月に施行した法人税減税によって大企業の利益拡大が予想されています。これがインフレ懸念を呼び、長期金利が急上昇。株価の割高感が強まったことが原因とみられます。
ポイント
@米大統領が知財侵害を理由に対中制裁を指示。各国に鉄鋼、アルミの輸入制限
A内外から貿易戦争の懸念や一方的措置への批判。国家経済会議委員長が辞任
BFRBがパウエル新議長のもとで利上げ。景気過熱感で史上最大の株価下落
世界経済の主な出来事(1〜3月)
1/1 米トランプ減税を施行
18 中国の2017年実質GDPが6.9%増加
2/5 ニューヨーク証券市場で株価が最大の下落。世界同時株安
5 パウエル米FRB議長が就任
3/6 コーン米国家経済会議委員長が辞任表明
8 米国を除く11カ国がCPTPPに署名
20 G20財務相・中銀総裁会議が仮想通貨の監視で一致
21 FRBが今年初の利上げ。年3回程度を想定
21 欧州委員会がIT大手の売上高に課すデジタル税を提案
22 知財侵害を理由に中国制裁を指示する米大統領令
23 米国が鉄鋼、アルミニウムの輸入制限を発動
2018年3月29日
国際機関は、2018年の世界経済が加速すると予想しています。ただ、米国のトランプ政権の動向をリスクとして注視しています。
予測を上方修正
世界銀行(WB)は1月9日、経済見通しを発表し、2018年の世界全体の成長率を3・1%と予想しました。国際通貨基金(IMF)も1月22日発表した世界経済見通しで、18年の世界全体の成長率を3・9%と予想しました。米国の景気が大規模減税で加速し、世界の成長をけん引すると見込み、前回予想を上方修正しました。
経済協力開発機構(OECD)は、3月13日公表した世界経済見通しで、18年の世界全体の成長率が3・9%に加速すると予想しました。米国の減税措置と財政支出の拡大、ドイツの景気対策を踏まえ、前回予測を上方修正しました。一方、トランプ政権による鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を念頭に「保護主義的な貿易措置は、景況感や投資活動、雇用に悪影響を及ぼす主要なリスクだ」と注視しています。
11カ国が新協定
環太平洋連携協定(TPP)に署名した12カ国のうち米国を除く11カ国が8日、「包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定」(CPTPPまたはTPP11)に署名しました。TPP11は、トランプ米政権が離脱を決めたため発効の見込みがなくなったTPPのほとんど全体を組み込んでいます。TPP11が発効すれば、多国籍大企業本位のTPPの中身が実行できる仕組みです。
TPP11は、関税や輸入枠など市場開放の取り決めなど、TPPをそのまま引き継ぎます。日本は、農林水産物の82・3%の品目の関税撤廃を誓約しています。ただ、米国の強い意向でTPPに盛り込まれた投資家対国家紛争解決(ISDS)条項や生物製剤のデータ保護期間延長など22項目は、米国のTPP復帰まで凍結されます。
2国間交渉を重視するトランプ政権が、TPPを活用できない米業界の不満を背景に対日要求を強める懸念があり、TPP11は新たな対米譲歩の起点≠ノなります。
強硬姿勢の米国
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が19〜20日、アルゼンチンで開かれました。会議の共同声明は、トランプ政権の鉄鋼・アルミニウム輸入制限に反発が強まる通商問題で、「不公正な貿易慣行を含む保護主義と引き続きたたかう」とした昨年7月の独ハンブルクでのG20首脳会議の合意を再確認しました。ムニューシン米財務長官は会見で、鉄鋼などの輸入制限は「保護主義ではない」と主張。その上で「米国の国益を守るために行動する用意がある。それには常にリスクがある」と述べ、中国や欧州各国の報復措置が予想されても輸入制限を実行に移す考えを示しました。
ポイント
@国際機関は世界経済の加速を予想。その 一方、米国の動向をリスクとして注視
A11カ国が新協定に署名。米国抜きでTP P実施へ。新たな対米譲歩の起点
BG20は米国の輸入制限に懸念。米国は報 復措置が予想されても強硬姿勢を維持
■TPP11の構成
前文
第1条 TPPの組込み
第2条 特定の規定の適用の停止
第3条 効力発生
第4条 脱退
第5条 加入
第6条 本協定の見直し
第7条 正文
付属書 停止される規定のリスト
2018年3月30日
日本経済は約28年ぶりに長いプラス成長を続けています。内閣府が8日に発表した2017年10〜12月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)改定値は、実質値で年1・6%増と上方修正されました。プラス成長は8四半期連続です。ところが、雇用者報酬は実質値で前期比0・4%減少しました。毎月勤労統計調査では1月の実質賃金は0・9%減と2カ月連続で減少。経済成長のもとでむしろ労働者は疲弊しています。
賃金減少は個人消費の低迷を招いています。17年平均の実質消費支出(2人以上世帯)は前年比0・3%減となり、4年連続で減少しました。2月の景気ウオッチャー調査では、3カ月前と比べた街角の景況感を示す現状判断指数は前月比で1・3ポイント低下の48・6で、3カ月連続の悪化です。
内部留保は最高
一方で大企業・富裕層は、もうけを積み増しています。17年10〜12月期の法人企業統計で、資本金10億円以上の大企業の内部留保は419兆円と最高額を更新。10〜12月期で比較すると、12年から17年で経常利益は1・55倍、1人あたりの役員報酬は1・11倍に伸びています。
米誌『フォーブス』の調査の集計で、日本で10億j(1060億円)以上の資産を保有する超資産家が18年に人数、金額ともに過去最高となりました。超資産家35人の保有資産総額は1318億j(13兆9700億円)に達しています。
他方、賃金減少のもとで貧困層は増加。12年から17年の間に金融資産を持たない層は400万世帯も増加しました。
アベノミクスの超金融緩和や公的マネーをつぎ込んだ株高政策、法人実効税率の大幅な引き下げなど大企業・富裕層優遇策が、格差と貧困を広げています。
大企業が上げたもうけは、労働者の賃金ではなく株主に還元しています。時事通信社が19日に発表した集計によると、東証1部に上場する18年3月期決算企業の配当総額が、初めて10兆円を超えました。5期連続で過去最高を更新。株主への利益還元を強めています。
品質の信頼失墜
品質データ改ざん問題で、神戸製鋼所は新たに6拠点で不正が発覚しました。川崎博也会長兼社長は辞任を表明。神鋼がまとめた調査報告書は不正の原因について、目先の利益を求める経営が受注の成功や納期を最優先する「生産至上主義」を現場に根付かせたとしています。
三菱マテリアルもデータ改ざん問題について調査報告書を発表。検査に関わる人員や設備投資が不足し、研修教育も不十分であったなど、品質保証部門が形骸化していたことが分かりました。
改ざん問題をめぐり、神鋼は米司法省から罰則付きの召喚状で資料提出を要求されています。神鋼製品を使った自動車の所有者などから賠償を求めて提訴されています。日本のものづくりの信頼が失墜しています。
ポイント
@GDP統計で雇用者報酬0・4%減。実質消費支出も4年連続減
A大企業の内部留保が419兆円と最高額を更新。配当総額も初めて10兆円超に
B製造大企業の品質データ改ざん問題で社長が辞任を表明する事態に発展
国内景気の主な出来事(1〜3月)
1/9 中西宏明日立製作所会長が経団連会長に内定
11 日立の英原発事業に政府保証が検討されていることが判明
26 コインチェックで580億円相当の仮想通貨が流出
2/6 東京株式市場の日経平均株価が一時1600円超の急落
16 17年の家計調査で実質消費支出が4年連続で減少
3/1 10〜12月期、大企業内部留保が419兆円と最高額を更新
6 改ざん問題で神戸製鋼所社長が辞任を表明。調査報告書を公表
8 10〜12月期GDP改定値、年率1.6%増に上方修正
9 毎月勤労統計調査で実質賃金が2カ月連続で減少
28 三菱マテ、品質不正問題の最終報告書公表。出荷先825社に
2018年3月31日
大手仮想通貨交換業者から大量の仮想通貨が流出した事件は、仮想通貨がはらむ危険性と課題をあらわにしました。
事件は1月26日、大手仮想通貨交換業者、コインチェック社から当時の相場で580億円に相当する仮想通貨「NEM(ネム)」が何者かに不正送金されたものです。犯人側は通常の方法では接続できない「ダークウェブ」を通じて盗んだネムを他の仮想通貨と交換。3月22日までに流出したネムのほぼ全てが交換されたとみられ、回収は困難となりました。
粗雑な管理突く
コインチェック社によると流出の原因は送付されたメールによって従業員のパソコンがウイルスに感染し、顧客のネムを管理する暗号キーが盗まれたことです。コインチェック社は預かったネムをインターネットにつなぎ続けたまま保管しており、管理のずさんさを突かれました。
事件を受けて金融庁は仮想通貨交換業者への立ち入り検査を実施。その結果、顧客の資金管理やセキュリティー体制などが不十分な7社を行政処分。うち2社は顧客の仮想通貨の私的流用やマネーロンダリング(資金洗浄)を防ぐ体制を怠ったことで、業務停止を命じられました。
価値の保証なし
仮想通貨はブロックチェーンという暗号技術を利用した電子データです。ブロックチェーンにはすべての取引が、誰にでもみられる形で記録されています。新たな取引の記録も公開で行われ、データの書き換えは困難とされます。
金融庁は仮想通貨について「日本円やドルなどのように国がその価値を保証している『法定通貨』ではありません。インターネット上でやりとりされる電子データです」と説明。アルゼンチンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明は「暗号資産」と表記し、通貨の名称を与えませんでした。
規制強化が必要
ネム流出事件をきっかけに、仮想通貨取引のルール制定や規制を求める声が強まっています。
金融庁は2017年4月から改正資金決済法に基づき仮想通貨交換業者を登録制にしています。交換業者に対し利用者保護やテロ対策、健全なシステム管理などを求めています。一方、条件を満たさなくても登録制以前から営業をしていた業者には「みなし業者」として営業を認めています。
現状で仮想通貨は投機対象として扱われ、巨額損失の恐れのある証拠金取引も横行しています。強引な勧誘によるトラブルも発生しています。しかし、金融庁は仮想通貨を金融商品として扱わず、主な規制は近く発足する業界団体に委ねるとしています。
G20の共同声明は仮想通貨に対して国際的監視をよびかけています。規制を強化する法的整備が必要です。
ポイント
@巨額流出の背景に交換業者のずさんな姿勢。登録業者含む7社に行政処分
A仮想通貨はあくまで「電子データ」。G20では「暗号資産」との位置づけ
B不正アクセスによる流出のほか、勧誘トラブルも相次ぐ。法的規制が必要
仮想通貨流出問題の経緯
1/26 顧客の仮想通貨「NEM(ネム)がコインチェックから流出
28 コインチェックが被害に遭った顧客26万人への補償方針を発表
29 金融庁がコインチェックに業務改善命令
2/2 金融庁がコインチェックに立ち入り検査
9 金融庁がコインチェック以外の業者への検査発表
13 コインチェックが業務改善報告書を提出
16 金融庁が登録審査中の業者への検査発表
3/8 金融庁が仮想通貨交換業者7社に行政処分。2社は業務停止
12 コインチェックが流出被害に遭った顧客への補償を開始
20 G20共同声明に仮想通貨の国際的監視を盛り込む
22 コインチェックが業務改善計画を金融庁に提出
2018年6月26日
貿易赤字の削減を最優先する「米国第一」への批判で、米国が孤立を深めています。米中間では、米国の制裁関税と中国の報復関税の応酬で、貿易摩擦が激化しています。
安全保障理由に
米国は5月31日、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコに対して鉄鋼とアルミニウムの輸入品への追加関税を導入すると発表しました。鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を上乗せします。
これに対し、EU、カナダ、メキシコはそれぞれ、報復関税計画を表明しました。
3月23日導入された鉄鋼・アルミへの追加関税は、安全保障を理由に貿易制裁を認める通商拡大法232条を根拠にしたものです。導入時には、EUと、カナダ、メキシコ、韓国、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチンの6カ国が除外されていました。
安全保障を理由にしていますが、貿易赤字の削減を最優先するトランプ政権が、貿易交渉での取引材料にしようとしていることは明らかです。
中国に制裁関税
3月末に実施した鉄鋼・アルミへの追加関税のほか、米国は4月3日、知的財産権侵害を理由に通商法301条に基づく対中制裁関税の原案を公表しました。貿易摩擦を回避する協議が行われましたが、6月15日には米国が制裁関税の最終案を公表しました。総額500億j(約5兆5300億円)相当の1102品目を対象に25%の追加関税を課します。第1弾として7月6日から818品目に課税し、残りの284品目は企業などの意見を聴取した上で判断します。
中国は16日、同規模の総額500億jの米国産品に25%の関税を上乗せする報復を正式に決定しました。これに対しても、トランプ大統領は18日、2000億j(約22兆円)相当の中国製品に10%の関税を課す追加制裁を検討すると発表しました。
鉄鋼・アルミへの追加関税に対しては、中国はすでに報復関税を実施済みです。
中間選挙目当て
主要国首脳会議(G7サミット)が8〜9日、カナダで開かれました。地球温暖化防止のパリ協定やイラン核合意からの離脱のほかに、鉄鋼・アルミへの追加関税など経済問題でも「米国第一」への批判が集中しました。
首脳宣言は、トランプ大統領の主張を入れて「自由、公平かつ互恵的な貿易・投資」を書き込みました。同時に、そのほかの諸国の主張に基づき「ルールに基づく国際貿易体制の重要性」に言及しました。
しかし、トランプ大統領は会議後、発表済みの宣言を「承認しない」と表明しました。その理由は、今後、自動車の関税措置を検討するためだとされます。
鉄鋼・アルミ・自動車への関税は、秋の中間選挙を強く意識したものです。トランプ大統領は衰退した工業地帯(ラストベルト)の有権者の支持を得ようとしているのです。
ポイント
@米国が安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの輸入品に対して追加関税を導入
A米国が知的財産権侵害を理由に対中制裁関税。中国が報復して貿易摩擦が激化
BG7サミットで米国に批判が集中。米中間選挙を意識し、貿易問題で支持狙う
世界経済の主な出来事(4〜6月)
4/3 米国、知財権侵害を理由に対中国制裁関税の原案を発表
4 中国、米国の対中制裁関税案に対し追加報復関税の用意を表明
5/23 米国、自動車・同部品輸入の安全保障への影響調査開始と発表
25 EU、個人情報保護規制強化の「一般データ保護規則」を施行
31 米国、カナダ・メキシコ・EUに鉄鋼・アルミ追加関税と発表
6/8〜9 G7サミット開催
13 米国、政策金利を0.25%引き上げ、年1.75〜2.0%へ
14 欧州中銀、量的金融緩和政策を今年末で打ち切りの方針を決定
15 米国、知財権侵害を理由に中国製品500億jに制裁関税案
16 中国、同規模の報復関税を決定
18 米国、中国製品2000億jに対し追加制裁関税の検討を発表
2018年6月27日【経済】
米国のインターネット交流サイト(SNS)大手のフェイスブックで最大8700万人分の個人情報が流出した事件は、個人情報を収集するビジネスの危険性を浮き彫りにし、世界に衝撃を与えました。こうした問題を受けて、個人情報を守り、基本的権利や自由を保障しようとする動きが広がっています。
大手が情報独占
米議会の上院・下院で4月10、11の両日、同社のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)への公聴会が開かれました。ザッカーバーグ氏は、プライバシー保護の対策が不十分であったことを認め、「これは私の過ちです。申し訳ない」と陳謝しました。
同社は、▽氏名、住所などの登録情報▽書き込みや写真、動画などの投稿▽SNS上でつながっている友人関係―などの膨大な情報を収集します。流出した情報が2016年の米国の大統領選挙でトランプ陣営によって不正に使われた疑いがあり、大問題となりました。
同社は、集めた情報を分析し、個人の興味関心に合わせた広告を表示することで、巨額の広告料をかせいでいます。フェイスブックをはじめ巨大な通信技術(IT)企業がデータの独占を強め、巨額な利益を得ています。
EUが規則施行
膨大なデータを集めるビジネスが急成長する状況を受けて、欧州では個人情報の保護規制の強化を進めています。欧州連合(EU)は5月25日に一般データ保護規則(GDPR)を施行しました。
GDPRは、企業が欧州域外に個人情報を持ち出すことを原則禁止しました。GDPRと同程度の個人情報保護制度があるとEUに認められた国に限り、持ち出すことができます。個人が企業に提供したデータの削除を要求できる「忘れられる権利」や、企業に提供したデータを他の企業に移転できる「データポータビリティー(データ持ち運び)の権利」などが明確に定められました。
違反した企業には最大2000万ユーロ(約26億円)もしくは世界全体における売上総額4%の制裁金のどちらか多い方が科されます。EUはこれまで巨大IT企業に対して数千億円の制裁金を科してきました。企業は個人情報を守るための対応に追われています。
対策遅れる日本
安倍晋三政権は、5月に生産性向上特別措置法を成立させました。公的機関が保有する個人情報を、企業が活用できる制度を創設しました。
企業は、訪日外国人の購買データや通学路情報など個人の行動や状況に関わる情報の提供を公的機関に求めています。こうした情報はSNSに公開されている情報などと組み合わせることで個人が特定される恐れがあります。公的機関が提供した個人情報が流出した場合に、誰も責任をとらない体制になっています。
公的機関が持つデータの活用を進める一方で、個人情報保護の対策は遅れています。GDPRが定めた「忘れられる権利」などは個人情報保護法には明記されていません。違反した企業への罰則は、30万円以下の罰金または6カ月以下の懲役と極めて軽微であり、実効性に欠けています。
個人情報を守る制度づくりが遅れる中、公的機関が持つデータの活用を進めれば、国民のプライバシーが侵害される事態を招く危険があります。早急な対策が必要です。
ポイント
@個人情報流出でフェイスブックのザッカーバーグCEOが米議会で陳謝
AEUが一般データ保護規則(GDPR)を施行。個人情報規制を大幅強化
B日本で公的機関のデータを企業が活用する制度を導入。情報流出の危険拡大
2018年6月28日
日本経済の停滞があらわになっています。内閣府が8日に発表した2018年1〜3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)改定値は、実質で前期比0・2%減。この成長ペースが1年続いた場合の年率換算で0・6%減となりました。
実質GDPを項目別にみると、自動車出荷などが減少し、個人消費が前期比0・1%減となりました。住宅投資も新規着工が減って1・8%減でした。
これら国民生活にかかわる民間需要は17年7〜9月期以降、落ち込みが顕著になっています。実質賃金の低迷が個人消費の減退を招き、全体の成長率を押し下げています。大企業の利益を最優先するアベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)によって経済が停滞しています。
輸出は0・6%増でしたが、17年4〜6月期が0・1%減、同年7〜9月期が2%増など、乱高下を繰り返しています。内需が伸びず外需に揺さぶられる、ぜい弱な日本経済の構造が続いています。
大企業は最高益
国民生活が疲弊する一方、アベノミクスによる金融緩和や減税、規制緩和で大企業は潤っています。18年3月期決算を5月18日までに発表した大企業1500社のうち、約650社(43%)が過去6回の通期決算の中で最高益をあげました。
電機大手8社のうち東芝を除く7社が本業のもうけを示す営業利益を増やしました。円安による為替差益のほか、事業再編による人員削減で利益が増えました。日立は人員削減と海外企業の合併・買収(M&A)を進め、海外従業員を約5000人増やす一方、国内従業員を約1650人削減しました。
自動車大手7社のうち、ホンダ、日産、スバルを除く4社が営業利益を増やし、スバルを除く6社が税引き後の純利益を増やしました。為替差益や原価改善、米国の法人税減税が主な要因でした。
他方、日銀の「異次元の金融緩和」による超低金利で、銀行本業の利益は急減し、銀行経営が圧迫されています。本業の貸し出しによる業務純益は全国の都市銀行と地方銀行の合計で2・81兆円となり、前年度から5000億円以上も減少。過去10年間のピーク時と比べ、4割近くも落ち込みました。
企業要求を反映
安倍政権は15日に「骨太の方針2018」と「未来投資戦略2018」を閣議決定し、今後の経済戦略を定めました。
19年10月に消費税率を10%に引き上げると明記し、社会保障費の自然増分を大幅に削減し続ける方針を確認しました。
他方、軍事産業の強靭(きょうじん)化を図り、軍事力は強化すると強調しました。公共事業には大都市圏環状道路や国際戦略港湾などの大型プロジェクトを盛り込みました。自動運転やフィンテック(金融テクノロジー)を推進する司令塔として「産官協議会」を設置し、予算や税制・規制改革に企業の要求を直接反映することを決めました。
大企業の利益のために国民生活を犠牲にする姿勢が鮮明です。
ポイント
@GDPが年0・6%減。個人消費と住宅 投資が落ち込む
A大企業の4割が過去6年間で最高益。金 融緩和の影響で銀行本業の利益は急減
B安倍政権が骨太方針と未来投資戦略を決 定。国民を犠牲にして大企業を支援
国内経済の主な出来事(4〜6月)
4/4 ネット通販大手アマゾンジャパンが配送料を最大5割値上げ
24 トルコでの原発建設計画で伊藤忠商事の出資見送りが判明
5/8 武田薬品工業がアイルランドの製薬大手シャイアー買収で合意
15 三菱UFJ銀行の国内515店舗の2割削減方針が判明
25 対外資産残高が17年末に初めて1千兆円を超したことが判明
31 東芝が米テキサス州での原発計画からの撤退を発表
6/4 英政府と日立が原発新設計画の交渉入りで基本合意
11 三菱マテリアルの竹内章社長が品質不正で引責辞任
11 10年物国債の取引が今年4度目の不成立
15 大企業支援の骨太方針と未来投資戦略を政府が閣議決定
2018年6月29日
昨年10月にアルミ・銅製品などの品質データ改ざんが明らかになった神戸製鋼所。4月には「第三者委員会報告書格付け委員会」が、同社の調査報告書(3月公表)を検証し結果を発表しました。神鋼の報告書は外部調査委員会がまとめたものを同社がまとめ直したものです。格付け委は、神鋼の見解と調査委の調査結果の区別ができず「報告書全体の内容に対して信用する根拠が失われる」、「根本原因の究明が十分になされたとは言い難い」と批判しています。
海外でも問題に
6月5日には、東京地検特捜部と警視庁捜査2課が不正競争防止法違反(虚偽表示)の容疑で、神鋼の東京本社などを家宅捜索しました。米司法省が調査に乗り出すなど、問題は海外にも及んでいます。
もうけのために安全性や法令を軽視する企業体質は、一連の不正に共通する問題です。SUBARU(スバル)は4月、データ改ざん問題の調査報告書を国土交通省に提出。不正の原因として完成検査業務の公益性・重要性に対する自覚の乏しさなどを挙げました。
5月以降、製造大手企業による品質データ改ざんなど、不正の発覚が相次いでいます。
日本ガイシは、電線から電柱に電気が伝わるのを防ぐ絶縁部品など11製品に、顧客と契約した検査をしていませんでした。不正は1990年代から2018年3月末までの長期にわたり、出荷数は累計約1億個に上ります。電力、鉄道会社など国内約200社、海外約300社に出荷していました。
スバルでは、新車の完成検査で行っている燃費・排ガスの自主検査で新たな不正が判明。国が定めた基準を逸脱していてもやり直しをしないなど、計934件に上ります。
宇部興産は、2月に判明したポリエチレンなどの品質データねつ造問題以外に、22製品で不正がありました。新たに明らかになったのはナイロンなどの樹脂や石灰石製品です。不正品の納入先は合計で113社。不正品の売上高は、18年3月期連結決算ベースで計160億円に上ります。
本体での発覚も
昨年11月以降、子会社の品質不正が問題となっていた三菱マテリアル。5月に子会社で、6月に本体の工場で、相次いで不正が発覚しました。
本体で不正があったのは直島製錬所(香川県直島町)です。コンクリート材料の銅スラグ骨材を必要な検査を行わないままJIS(日本工業規格)認証の製品としていました。15年1月から18年5月までの間に、生コンクリート製造会社など5社に出荷していました。
三菱マテは3月、一連の品質不正問題をめぐる最終調査報告書と再発防止策を公表していました。この時点で本体での不正の疑いを把握していたにもかかわらず公表しませんでした。4月にJISの認証機関から問題製品の出荷を自粛するよう求められても明らかにしませんでした。
株主総会で批判
いずれも不正は長期にわたる大規模なもので、経営陣の責任は重大です。しかし、経営陣は役員報酬の返上で対応。三菱マテとスバルでは当時の社長が退任しましたが、会長にとどまっており批判が上がっています。不正があった企業の株主総会では、株主から経営陣の責任を問う声が相次いで出されました。
ポイント
@相次ぐ製造大手企業の不正。5月以降も次々発覚
A背景にもうけ優先、品質・安全・法令軽視の企業体質
B問われる経営陣の責任。社長退任後も会長にとどまる
2018年6月30日
仮想通貨をめぐっては、交換業者への立ち入り検査でずさんな管理が次々と明らかになりました。厳しい法的規制が必要です。
登録業者を処分
金融庁は22日、仮想通貨交換業最大手のビットフライヤーをはじめ、6社に業務改善命令を出しました。マネーロンダリング(資金洗浄)対策などの体制が不十分という理由です。1月の大量流失事件以降、金融庁は17社に業務停止命令を含む行政処分をしました。これまで処分は金融庁による登録を待つ「みなし業者」が中心でした。今回は登録業者が大量に処分され、業界の甘い体質と顧客資産を扱う自覚の薄さを改めて明らかにしました。
政府は仮想通貨を決済手段と位置づけ、交換業者にはマネーロンダリング対策と利用者保護を義務付けています。今回の処分で登録業者も最低限の規制すら守っていないことが明白になりました。
しかも取引の実態は価格変動を利用した投機が中心。仮想通貨取引額の8割超が業者に預けた証拠資産の何倍もの仮想通貨を運用する証拠金取引です。
「決済手段」としての規制では間尺に合いません。金融庁は有識者による研究会を設置。新たな法整備も視野に規制のあり方を検討し始めています。
自主団体が発足
一方、仮想通貨交換業者側は金融庁登録を受けた16社で、日本仮想通貨交換業協会を発足させました。同協会は金融庁認定の自主的規制団体を目指します。
自主的規制団体は交換業における規制ルール作りや違反者への指導・勧告を行います。現状、CM規制や証拠金取引における証拠金の額と取引額の比率(レバレッジ率)などに統一ルールがありません。利用者保護に向けて厳しいルールが求められています。しかし協会の会長に就任した奥山泰全マネーパートナーズ社長は、協会発足総会後の記者会見で、「ルールを厳しくしすぎるとだれも登録業者に入ってこなくなる。業界の健全発展ができなくなる」などと述べて、厳しいルール作りには後ろ向きです。
大手業者が参入
相次ぐ行政処分などにより、金融庁への登録申請を取り下げるみなし業者が現れています。コインチェックによる流失事件当時、16社あったみなし業者のうち13社までが撤退しました。2度の業務停止命令を受けたFSHO(エフショー)は金融庁から登録拒否されました。
一方で大手企業が仮想通貨交換業への参入を目指しています。インターネット証券大手のマネックスグループはコインチェックを36億円で買収し、登録業者を目指します。ネット通販などを営むヤフーも子会社を通じて登録業者に資本参加。無料通信アプリのLINE(ライン)も参入を表明しています。金融庁によると、100社程度が新規参入の意向を示しています。
他業種からの参入が相次ぐ最大の理由は、もうかるからです。マネックスグループが明らかにしたコインチェックの18年3月期業績は売上高626億円で営業利益は537億円でした。流失事件の補償として473億円の特別損失を計上したものの、税引前利益は63億円でした。
大手業者参入の「安心感」から仮想通貨の運用を検討する人が増える可能性もあります。
ポイント
@金融庁が複数の登録業者に行政処分。取引実態に即した規制の必要性が明白に
A全登録業者参加の業界団体発足。ルール作りを始めるも規制強化には後ろ向き
B業者への行政処分が相次ぎ、選別が進む。一方で巨利を求め多数が参入希望
2018年10月2日【経済】
トランプ米政権は、中国が知的財産権を侵害しているという理由で、通商法301条に基づく制裁として、中国製品に対する追加関税を発動しました。中国も即座に報復関税を実施。制裁と報復の応酬で過熱を続ける米中貿易摩擦は、両国だけでなく、世界経済にとっても大きな懸念材料となっています。
米国は7月6日、対中国制裁の第1弾として、ロボットや情報通信機器などハイテク製品の818品目、年間輸入額340億ドル(約3兆7500億円)相当に25%の追加関税を課しました。中国も6日、米国の農産品や自動車など545品目、340億ドル相当に対する25%の追加関税で応じました。
これに対し、米国は8月23日、対中制裁の第2弾を発動。半導体や化学品など279品目、160億ドル(約1兆8000億円)相当に25%の追加関税を課しました。中国も即座に、自動車や石油製品など333品目、160億ドル相当に対する25%の追加関税で応酬。
さらに、米国は9月24日、第3弾を発動。家具や家電など消費財を含む5745品目、2000億ドル(約22兆円)相当に10%の追加関税を課し、2019年以降は25%へ引き上げるとしました。中国も、米国製品600億ドル(約6兆7000億円)相当への5〜10%の追加関税で報復。
これまでの制裁と報復の応酬で、米国が追加関税の対象とした品目は、年間輸入額2500億ドル相当の規模に上ります。昨年の中国からの物品輸入額(約5050億ドル)のほぼ半分です。中国が追加関税の対象とした品目は1100億ドル相当。
トランプ政権は、さらに2670億ドル相当を対象にすることを検討すると表明。実施されると、計算上、中国からの輸入品すべてが対象になります。
第3弾では、中国製の消費財に対する関税も引き上げられることになり、消費者の負担が増えます。米最大規模の小売事業者経営者協会(RILA)は9月17日、声明を発表。「トイレットペーパーから家庭用品、家具、ペット関連用品までの関税を、中国ではなく、米国の家族が支払うことになる」と指摘しました。
国際通貨基金(IMF)のライス報道官は9月20日の会見で、トランプ米政権による対中制裁第3弾が発動された場合の影響について、米中両国にとどまらず世界経済に「非常に大きな打撃をもたらす恐れがある」と強い懸念を表明しました。
経済協力開発機構(OECD)は9月20日、最新の経済見通しを公表し、2018年と19年の世界全体の経済成長率をいずれも3・7%と予想しました。5月の前回予測を下方修正しました。
OECDは、「貿易摩擦が景況感や投資計画に既に悪影響を及ぼしている」と分析しました。
米国の成長見通しは、18年を2・9%に据え置きましたが、19年は2・7%と0・1ポイント引き下げました。高関税や今後の政策をめぐる不透明感から、投資の拡大ペースが減速すると予想しました。(つづく)
(1)中国の知的財産権侵害を理由に米国が制裁の追加関税。中国も報復で追加関税
(2)米小売団体が声明。中国製消費財への追加関税で消費者負担増加の恐れを指摘
(3)IMFが世界経済への影響を懸念。OECDは世界の経済成長予測を引き下げ
米国が段階的に利上げを行っていることで、世界の投機マネーが新興国から流出し、通貨が急落しています。物価が高騰し国民の生活が脅かされています。2008年のリーマン・ショック以降、米欧日などの中央銀行が大規模な金融緩和を行い、巨額のマネーが世界の金融市場に供給されました。これまで比較的金利の高い新興国に投資されていた緩和マネーは米国の利上げによって米国の金融市場に還流しつつあります。
8月にはトルコのリラが急落し、世界の金融市場を揺さぶりました。トルコは米国の利上げによる通貨流出に加え、対米関係の悪化でひときわ厳しい通貨安となりました。リラの対ドルレートは年初には1ドル=3リラ台でしたが、年初からの下落率は4割を超えました。輸入物価の高騰などにより、8月の消費者物価指数は政府発表で前年同月比17・9%も上昇しました。
対立のきっかけはトルコ当局が米国人牧師を拘束していることです。米政府がトルコ政府閣僚に制裁を科すと、トルコが同様の対抗措置。今度は米国が、各国に発動している鉄鋼・アルミニウムの追加関税を、トルコに対しては2倍に引き上げ、リラ下落を加速させました。
トルコの銀行には欧州の大手金融機関が多額の資金を貸し付けています。金融不安が欧州に波及することが懸念され、8月には欧州単一通貨ユーロが一時下落する事態まで起きました。
トルコの通貨不安は他の新興国の通貨安をあおりました。アルゼンチンのペソはリラ急落を受けて最安値を更新しました。物価上昇率は前年比で20%超。同国中央銀行の政策金利は45%に引き上げられ、景気に急ブレーキがかかりました。4〜6月期の国内総生産(GDP)は前期比年率換算15・2%減と大幅なマイナスに陥りました。
ペソ下落を防ぐための為替介入で外貨準備が枯渇しかねなくなり、アルゼンチン政府は国際通貨基金(IMF)に支援を要請。IMFは3年間で総額500億ドル規模の支援を表明しました。
米連邦準備制度理事会(FRB)はリーマン・ショック以後の量的金融緩和を終了し、26日には今年3回目の利上げを行いました。欧州中央銀行(ECB)も量的緩和の年内打ち切りを決めています。主要国中央銀行のなかで日銀だけが「異次元の金融緩和」を続け、金融政策がまったく逆向きになっています。日銀は7月31日、0・2%程度の長期金利上昇を容認する政策を決めました。金融緩和が経済回復に効果をあげず、超低金利が地方銀行の収益を圧迫していることに批判が強まっていることで政策の手直しに追い込まれました。
ただ、日銀はこの政策は「金融緩和継続のための枠組み強化」であるとし、異次元緩和の継続を強調しています。
(つづく)
(1)米の利上げで投機マネーが新興国から流出。トルコなどで通貨が下落し物価高騰
(2)トルコ危機がアルゼンチンに波及。外貨準備減少でIMFから支援を受ける
(3)米欧が金融正常化に向かう一方、日銀は緩和続行。長期金利の上昇を容認
2018年10月4日
米国の巨大IT(情報技術)企業に投資資金が集中し、バブルの様相を呈しています。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの頭文字をとって「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる米IT大手4社は世界の市場を席巻。市場の独占や個人情報流出などが問題になっています。
8月にアップル、9月にアマゾンの株式時価総額が1兆ドルを突破しました。米企業で1兆ドルを超えたのは、同2社だけです。米国内の製造業が衰退する中、成長が見込めるとされるIT株に投資が集中しています。
売上高の急激な伸びを背景に株価が膨らむGAFAは、ゆがんだ手法でもうけを上げています。派遣などの低賃金労働者の利用や安価で外部委託をすることで賃金を抑制しています。世界各地であげた巨額の利益は、タックスヘイブン(租税回避地)に移転させ、課税を逃れています。投資家がもたらす潤沢な資金を活用し、ライバル企業を買収。顧客を囲いこみ、市場を独占しています。
市場を席巻するGAFAに対し、欧州は対抗姿勢を強め、けん制しています。
7月に欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会は、グーグルがEU競争法(独占禁止法)に違反したとして過去最高額の43億4000万ユーロ(約5700億円)の制裁金の支払いを命じました。携帯端末向けの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を利用して競合他社を排除することで、自社の検索ソフトの支配的な地位を強固にしたと指摘しました。
EUの欧州議会は9月に、インターネット上の音楽や映画、ニュース記事などの著作権保護を強化するため著作権に関するEU指令の改正案を可決しました。製作者側がネットでコンテンツを利用するグーグルやフェイスブックから対価を得られるようにするための措置です。欧州の通信社はグーグルなどが自社サイトで対価を払わずに「ただ乗り」でニュース記事を利用していると批判していました。
フェイスブックは9月28日、セキュリティー上の欠陥により約5000万人分のアカウントが乗っ取られる危険にさらされていたことを発表しました。
同社は3月にも最大8700万人分の個人情報が流出。流出した情報が2016年の米大統領選でトランプ陣営に不正利用された疑いがあり、批判を浴びました。
GAFAは、自社のサービスを通じて購入履歴や閲覧履歴などの膨大な個人データを収集しています。グーグルやフェイスブックは、集めたデータを分析して導き出した個人の興味関心をもとに広告を表示する「ターゲティング広告」で広告費を稼いでいます。
今回の問題で個人情報を集めるビジネスの危険性が浮き彫りになりました。
(つづく)
(1)アップル、アマゾンの株式時価総額1兆ドルを突破。資金が集中し株式バブル化
(2)欧州委員会がEU競争法違反でグーグルに最高額の制裁金。GAFAをけん制
(3)フェイスブックが約5000万人分の個人情報が流出したおそれがあると発表
2018年10月5日
政府は9月の月例経済報告で景気の基調判断を「緩やかに回復している」としました。9カ月連続で同じ表現を用いています。4〜6月期のGDP(国内総生産)改定値は、企業の設備投資などがけん引し、年率換算で3・0%増と速報値から上方修正されています。
政府は「回復」という言葉を使用しているものの、国民生活は大変です。個人消費が伸びていません。GDP改定値0・7%増と据え置きです。2人以上の世帯における実質消費支出は、安倍晋三政権発足時の2012年12月から18年7月の間に年換算で22万円も減少しています。年間を通して働いても年収200万円以下の労働者は12年連続で1000万人を超えました。
国民生活の困窮がすすむのは、大企業がもうけを上げる一方で、賃金が上がらないからです。安倍政権の発足後、17年度まで大企業の経常利益は1・6倍に増える一方、労働者の賃金は1・03倍と横ばいでした。その結果、配当金は1・62倍に急増し、内部留保は425兆8000億円と史上最高を更新しました。安倍政権は「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げています。その実態は、国民生活を犠牲にした大企業の利益拡大にほかなりません。
安倍首相はトランプ米大統領との会談で、日米2国間の貿易協定に向け、交渉を開始することを合意しました。会談後、発表された共同声明は「日米物品貿易協定(TAG)」、「他の重要分野(サービスを含む)で早期に交渉結果を出し得るもの」について交渉を開始すると明記。その議論の完了後に「他の貿易・投資の事項についても交渉を行う」としました。
安倍首相は、首脳会談において「交渉の継続中に、アメリカが検討する自動車などの関税引き上げ措置は発動しないことを確認した」と述べています。
米国は日本に対して、牛肉など農産物市場のより大幅な開放を求めています。日本政府は、農産物の関税引き下げを米国が離脱した環太平洋連携協定(TPP)の水準にとどめたい意向とされます。しかし、TPPそのものが米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の重要5品目を除外するよう求めた国会決議に反して交渉し、史上最悪の農林水産物輸入「自由化」を約束したものです。
結局、日本製自動車・同部品への追加関税を回避するために農産物市場を差し出そうという屈従外交です。
仮想通貨交換所大手のZaif(ザイフ)から70億円相当の仮想通貨が流出しました。同交換所を運営するテックビューロは金融庁登録業者です。すでに10億円相当が中国系仮想通貨交換所で換金されたとみられます。
1月に580億円もの仮想通貨を流出させたコインチェックは金融庁への登録を待つ間、特例で営業が認められた「みなし業者」でしたが、今回、金融庁がお墨付きを与えた業者が流出させたことは深刻です。
しかも今回の場合、1000以上もの口座から流出しており、口座からの送金に必要な「秘密鍵」の管理が問われます。顧客資産を含む数十億円もの仮想通貨をインターネットにつながった危険な状態で保管していたことも問題です。
流出が後を絶たない仮想通貨業界に上場企業を含め160以上もの業者が参入を目指しています。業界規模の拡大と利用者の増加は、同時に事故時の被害の拡大をはらみます。
厳格な運用ルールのないまま、数十億円もの仮想通貨が取引されている現状は放置できません。(つづく)
(1)大企業の経常利益は伸びても労働者賃金は横ばい。個人消費は低迷がつづく
(2)日米会談で貿易協定めざす交渉開始で合意。自動車のために農産物差し出す
(3)大手交換業者から70億円もの仮想通貨が流出。厳格なルールづくりが急務
7/ 2 6月の日銀短観で景況感が2期連続の悪化
23 国民生活基礎調査で平均所得以下の世帯が61.5%に。
31 日銀が金融政策決定会合で長期金利の上昇を容認
8/ 8 農水省、17年度の食料自給率を過去2番目に低い38%と発表
29 8月の消費動向調査で基調判断を「弱い動き」に下方修正
9/ 3 17年度法人企業統計で大企業の内部留保が425.8兆円に
10 4〜6月期GDP改定値、年率換算で実質3.0%増に情報修正
20 仮想通貨交換業大手のテックビューロが約70億円の仮想通貨流出を発表
26 日米首脳会談で貿易協定に向けた交渉開始で一致
27 ガソリンが18週連続で150円超
2018年10月6日
安倍晋三首相は自民党総裁選(9月20日投開票)の中で経済政策「アベノミクス」の妥当性を訴えました。地元・山口県下関市で行った長州「正論」懇話会(8月12日)でも経済政策の成果を自画自賛しました。
安倍政権の5年半で名目国内総生産(GDP)が58兆円伸びたと首相は語っています。ところが、この「急成長」は経済の実態を反映していません。2016年12月にGDPの計算方法を変更して設備投資の項目に研究開発費を追加したことなどにより、大きく水増しされた数字です。水増し額は31兆6千億円(15年度)に達します。
首相のもう一つの自慢が就業者数の増加です。正社員の有効求人倍率は過去最高となり、「1人の『正社員になりたい』という求職者に対して、それ以上の正規の雇用があるという、まっとうな社会を作り上げた」と胸を張っています。
しかし、就業者数の増加には景気循環と関係のない社会構造の変化が大きく作用しています。医療・福祉(介護・保育を含む)の就業者数が過去10年間で233万人も増え、就業者数全体の増加(103万人)を上回っています。高齢者と共働き世帯が増えた影響です。
安倍政権が低賃金や過重労働を解消する責任を果たさないため、保育士と介護職員が不足し、多くの児童・高齢者が保育所・施設に入れないままです。これが「まっとうな社会」の実像です。
他方、製造業の就業者数は世界金融危機(08年)と東日本大震災(11年)で落ち込んだ後、回復していません。過去10年間で118万人も減っています。経済産業省も、アベノミクスの期間に「全体の就業者数は増えている」ものの、医療・福祉が多くを占め、「製造業の就業者数は、ほぼ横ばい」(「18年版ものづくり白書」)だと告白しています。
首相が誇る税収増も水増し数字です。12年度決算と比べ、17年度決算で増えた税収20兆円のうち、半分近い9・7兆円は消費税収の増加分です。国民に増税を押し付けた結果であり、日本経済が豊かになった結果ではありません。また12年度は金融危機と大震災で税収が異常に落ち込んだ特殊な年度でした。
日本経済の実相は、首相が語らない数字に表れています。労働者1人当たりの実質賃金は安倍政権の5年余で年14万3千円も下落しました。2人以上の世帯における家計の実質消費支出は5年余で年10万3千円も下落しました。
首相は国民ではなく投資家の要求に耳を傾けています。「スピード感のある改革が進んだ」と「外国人投資家が語ってくれた」ことを自慢話にしています。公的資金を使って株価をつり上げ、外国人投資家を大もうけさせる、売国的な政策を象徴する言葉です。(おわり)
(1)安倍首相が経済政策アベノミクスの成果を誇るが、名目GDPの伸びは水増し
(2)就業者数でも増えてきたのは医療・介護・保育。低賃金と過重労働で人手不足
(3)税収増も消費税増税で水増し。労働者の実質賃金や家計の実質消費支出は下落
2018年12月26日
「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領が中国への対決姿勢を強めています。米国の高圧的態度を引き金にした対立激化は世界に影響を広げています。国際通貨基金(IMF)は20カ国・地域(G20)首脳会議に向けた報告書で、世界の国内総生産(GDP)が短期的に約0・75%落ち込む可能性があると警告しました。
9年ぶり低成長
中国の7〜9月期実質GDPは前年比6・5%増と9年半ぶりの低さでした。11月は消費の指標となる小売売上高の伸びが15年半ぶりの低さでした。米国による対中制裁で景気への不安が高まり、自動車など高額消費が落ち込んでいます。中国共産党と政府は19〜20日に開いた中央経済工作会議で、減税やインフラ投資によって景気を下支えする方針を決定しました。
米国の7〜9月期実質GDPは前期比年率換算3・4%増ですが、設備投資が急減速しました。ニューヨーク株式市場ではクリスマス休暇前の週間下落率がリーマン・ショック直後以来10年ぶりの大きさでした。対中摩擦が米経済にも影を落としています。
米中首脳は1日、ブエノスアイレスで会談しました。米側は年明けに予定されていた追加関税の25%への引き上げを2月末まで90日間猶予。その間に話し合いによる解決を探ることになりました。しかし、米側は、対米黒字だけでなく、中国のハイテク産業の台頭も問題にしています。3カ月で決着するかどうか予断を許しません。
ハイテク化警戒
カナダ当局は1日、米国の要請で中国の大手通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者を逮捕しました。対イラン制裁に違反した容疑ですが、中国の産業高度化に対する米国の圧力とみられます。
中国政府は産業政策「中国製造2025」を掲げ、国をあげてハイテク化を進めています。建国100年にあたる2049年までに「製造業強国」を目指します。25年までを第1段階とし、次世代情報技術(IT)、ロボット、航空・宇宙設備、新エネルギー自動車などを開発します。
習近平国家主席は18日に行った「改革開放」40周年記念演説で、中国共産党の指導による「科学技術力の全面的増強」を強調しました。
米政府は、中国が国家主導で産業高度化を図っていることが米国の技術覇権を脅かすと考え、やめさせようとしています。トランプ大統領は11月の記者会見で「中国製造2025はとても侮辱的だ」と非難しており、対立は長期化しそうです。
国際会議で対立
11月にパプアニューギニアで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、首脳宣言を採択できない異例の事態になりました。中国が「単独主義と対抗する」との文言を宣言に盛り込むよう提案し、米国が反対。決着がつきませんでした。12月のG20首脳会議でも米中が対立しました。
トランプ政権は、カナダ、メキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)の改定を求めていましたが、3カ国は11月30日にNAFTAに代わる貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に署名しました。自動車関税や農産物市場の開放で米国がNAFTA以上に優位になる仕組みを盛り込みました。
(つづく)
ポイント
(1)米中貿易摩擦が長期化の兆し。中国経済は減速。世界経済に波及のおそれ
(2)米国の要請でカナダがファーウェイ副会長を逮捕。中国の産業高度化に圧力
(3)APEC首脳会議が宣言を採択できず。米の要求でNAFTAに代わる新協定
世界経済の主な出来事(10〜12月)
10/9 IMFが世界経済見通しで成長予測を下方修正
19 中国7〜9月期実質GDPが前年比6.5%増
29 英政府が2020年にデジタル税導入と発表
11/18 APEC首脳会議が宣言を断念
25 EU臨時首脳会議が英国の離脱協定を承認
30 NAFTAに代わる新協定調印
12/1 カナダ当局が米の要請でファーウェイ副会長を逮捕
米中首脳が対中追加関税引き上げの90日間猶予など合意
G20首脳会議が宣言採択
10 メイ英首相がEU離脱協定案の議会採決を延期
13 欧州中銀が量的緩和終了を決定
19 米FRBが今年4回目の利上げ
21 USTRが対日交渉の概要公表
2018年12月27日
2018年7〜9月期の国内総生産(GDP)改定値は、前期に比べた伸び率が速報値よりさらに悪化し、物価の変動を除いた実質値で年率2・5%減となりました。しかし、政府は「緩やかな景気回復が続いていることに変わりはない」(内閣府)として、景気判断を変えていません。安倍晋三政権は来年10月に10%への消費税率引き上げを強行する構えですが、この状況で実行すれば、日本経済に壊滅的な打撃を与えることは必至です。
年率2・5%減のマイナス成長は、前回安倍晋三政権が消費税増税を強行した2014年4〜6月期以来の大幅な落ち込みです。政府は自然災害などをマイナス成長の要因としていますが、個人消費、設備投資、公共投資といった主要項目がいずれも大きく落ち込みました。
14年4月の消費税増税強行以降、個人消費は低迷を続けています。家計の消費支出が増税前の水準を上回った月はありません。足元でも10月の家計調査で家計の消費支出が実質で前年同月に比べ2カ月連続で減少しました。同月の実質賃金も3カ月連続のマイナスです。日本経済全体が悪化していることは明白です。
こうした状況のもと、安倍政権は19年度政府予算案と「税制改正」大綱を閣議決定しました。予算案は来年10月に10%へ消費税率の引き上げを強行することを前提にしたものです。
消費税率の引き上げはGDPの6割を占める個人消費を冷え込ませ、日本経済を深刻な不況に陥れます。政府は景気悪化を避けるためとして予算案と「税制改正」大綱に国負担で2兆3000億円もの経済対策を盛り込んだとしています。この金額は「臨時・特別」の対策であって、幼児教育・保育無償化などを加えると5兆円を超える規模です。19年度に消費税増税による国税の増収分、1兆8340億円をはるかに超えます。
しかも住宅や自動車購入時の負担軽減やキャッシュレス決済時のポイント還元など、一部の人にしか恩恵がいかないものが中心です。国民の間にも反発の世論が広がっています。
応能負担の税の集め方と社会保障中心の税の使い方を通じて所得再分配を実現する税財政本来の役割が崩されています。
19年度予算案と「税制改正」大綱では社会保障の自然増を1200億円抑制しました。ところが、大企業を中心に適用されている研究開発減税は拡充。高額所得層に有利な資産課税にも手を付けませんでした。
第2次安倍政権発足以降、低所得者ほど負担の重い消費税は5%から8%へと3ポイント増加しました。一方、国と地方をあわせた法人実効税率は12年度の37%から18年度は29・74%へと約7ポイントも軽減し、大企業は4兆円もの減税となりました。
大企業に減税を繰り返しても、賃金などには回りませんでした。増えたのは逮捕された日産のゴーン前会長のような高額報酬や株式配当、内部留保ばかり。7〜9月期の法人企業統計によると資本金10億円以上の大企業の内部留保は前年同期から30兆円以上増やし、443兆円となりました。
これ以上、格差と貧困を深刻にさせないために、国民世論で来年10月からの消費税増税を中止に追い込むことが必要です。(つづく)
(1)7〜9月期のGDP改定値は大幅悪化。個人消費、設備投資、公共投資が減少
(2)安倍政権は19年度予算案と「税制改正」大綱を閣議決定。消費税増税が前提
(3)税財政による所得再分配が発揮されず。「消費税増税ノー」の運動が重要
10/29 自動車大手8社の上半期生産台数が1.0%減
11/19 日産ゴーン前会長を逮捕
26 日銀資産がGDP並みに
30 完全失業率が3カ月ぶりの悪化
30 消費者心理が2年ぶりの低水準
12/3 7〜9月期の大企業の内部留保が443兆円に
7 家計消費支出が2カ月連続減少
7 実質賃金が3カ月連続減少
10 7〜9月期GDP改定値、年率換算で実質2.5%減に下方修正
14 日銀短観で企業景況感が横ばい
18 年間の訪日外国人数が初めて3000万人を突破
21 日産ゴーン前会長を再逮捕
21 2019年度政府予算案と「税制改正」大綱を閣議決定
25 日経平均株価の終値が1年3カ月ぶりに2万円割れ
2018年12月28日
米通商代表部(USTR)は21日、日本との貿易協定交渉に関する「交渉目的の概要」を公表しました。交渉開始の1カ月前までに公表するルールに基づくもので、来年1月下旬には交渉開始が可能になります。USTRは10月16日、交渉開始の意向を議会へ通知していました。また、11月26日締め切りで意見を公募し、12月10日には公聴会を開いて広範な業界から要望を集約しています。
日米貿易協定交渉の開始は、9月26日の日米首脳会談の合意によるものです。「米国第一」を掲げるトランプ政権は、米国の貿易赤字を嫌悪し、2国間交渉を重視して収支の改善を図ろうとしています。鉄鋼・アルミニウムに追加関税を課したうえ、自動車・同部品にも追加関税を課す構えを脅しに使い、各国の譲歩を引き出そうとしています。
この脅しに屈した安倍晋三政権は日米首脳会談で、日本製の自動車・同部品に対する追加関税を猶予してもらう代わりに、農産物を含む国内市場を差し出す2国間貿易協定の交渉に応じたのです。
安倍政権は参院選挙に向けて、米国との自由貿易協定(FTA)にほかならないこの協定への国民の批判を恐れ、物品貿易協定(TAG)だと言い張ってきました。
しかし、USTRの「交渉目的の概要」が物品貿易だけでなく、為替操作防止などを含めた22項目を交渉対象としており、安倍政権のごまかしが破綻しました。「交渉目的の概要」は、知的財産権保護や電子商取引のルール、国有企業の優遇禁止、遺伝子組み換えや残留農薬の基準なども含めています。
USTRの公募に応じた多くの意見が、環太平洋連携協定(TPP)や日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(日欧EPA)を超える水準を要求しています。
米国乳製品輸出協会は、「政府が米日貿易交渉で、個々の関税品目で11カ国のTPPや日欧EPAを上回る成果を確保するよう求める」としました。
全米自動車政策評議会は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉で結ばれた米国・メキシコ・カナダ協定が盛り込んだ、前例のない「為替操作防止条項」を高く評価し、日米貿易協定にも盛り込むよう求めました。
30日には、離脱した米国を除いた11カ国のTPP11が発効します。来年2月1日にも、日欧EPAが発効する運びです。日本市場で他国に遅れをとることを懸念する米国の業界は、焦燥感を高めており、強硬な対日要求を提出しています。
安倍政権は米国との交渉について、TPP水準以上は譲れないなどと、根拠のない虚勢を張っています。トランプ政権がTPP水準で満足するのなら、もともとTPPから離脱する必要もなかったはずです。まして、日本は日欧EPAで、乳製品など部分的にTPP水準を超える譲歩を行っています。米国が日欧EPA以下の水準に甘んじると考えるとしたら、楽観的にすぎます。
日米貿易協定交渉で、日本がTPPや日欧EPAの水準を超える譲歩を行った場合、日本と新たに協定を結ぶ国や、すでに協定を結んでいる国は、それと同等の条件を要求できるため、日米間にとどまらない関税撤廃・削減要求の連鎖を誘発する恐れもあります。
(つづく)
(1)米国は2国間重視。日本製の自動車への追加関税猶予の代償に2国間協定交渉
(2)USTRが意見公募。米業界の多くがTPP、日欧EPAを超える水準を要求
(3)対米譲歩が日米間にとどまらない関税撤廃・削減要求の連鎖を誘発する恐れも
1 物品貿易
2 衛生植物検疫措置
3 税関・貿易促進・原産地規則
4 貿易への技術的障壁
5 良好な規制慣行
6 透明性・公開・管理
7 通信・金融サービスを含むサービス貿易
8 物品・サービスのデジタル貿易および国境を越えたデータ移動
9 投資
10 知的財産
11 医薬品・医療機器の手続き的公正
12 国有・国家管理企業
13 競争政策
14 労働
15 環境
16 汚職防止
17 貿易救済
18 政府調達
19 中小企業
20 紛争解決
21 一般規定
22 通貨
2018年12月29日
「プラットフォーマー」と呼ばれる米国の巨大IT(情報通信)企業の不祥事が相次ぎ、新たな規制や課税の動きが加速しています。
これらのIT大手はビジネスや情報配信のための基盤(プラットフォーム)を第三者に提供しています。
インターネット交流サイト最大手のフェイスブックは10月12日、セキュリティー上の欠陥からハッカーに流出した利用者の個人情報が約2900万人分にのぼると発表しました。1500万人は名前や連絡先が流出。さらに1400万人は交友関係や最近の検索履歴など、より詳しいプライバシー情報が漏れました。12月14日にも、プログラム上の欠陥により最大680万人分の写真が流出した恐れがあると発表しました。
検索サービス最大手のグーグルも10月8日に交流サイト「グーグル+(プラス)」で最大50万人の名前やメールアドレス、職業、性別、年齢が流出した恐れがあると発表。さらに12月10日には同サイトで新たな欠陥がみつかり、約5250万人の利用者情報が流出した恐れがあると発表しました。
欧州諸国はプラットフォーマーへの規制を強めています。欧州連合(EU)は5月に個人情報保護を抜本的に強める一般データ保護規則(GDPR)の適用を開始。EUの執行機関である欧州委員会は3月、IT大手の売上高に3%の課税をするデジタルサービス税を提案しました。
英国政府は10月29日、EUでの合意を待たず、2020年4月からデジタルサービス税を導入すると発表しました。検索サービス、交流サイト、ネット通販を対象としており、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどに課税するとみられます。フランス政府も12月17日、19年1月からIT大手にデジタルサービス税を課すと表明しました。
日本でもこうした動きを受けて、経済産業省、公正取引委員会、総務省が巨大IT企業を規制する新たなルールづくりに乗り出しています。
12月12日には専門家を交えた研究会の中間まとめを公表。個人情報の収集がプライバシー侵害や差別につながる恐れがあると強調しました。またプラットフォーマーが管理する取引は不透明で、不公正な慣行の温床になっている可能性があるとも指摘しました。
公正取引委員会は同日、19年1月から対象企業の取引慣行について実態調査を始めると表明しました。
また、海外にサービス拠点を置くプラットフォーマーの事業利得に課税できない現状を踏まえ、政府税制調査会は国際課税ルールの見直しを検討しています。10月17日の会合で議題にあげ、20年までに国際的合意を得られるよう経済協力開発機構(OECD)主導の議論に参加していくことを確認しました。
(おわり)
(1)フェイスブックとグーグルが大量の利用者情報を流出させた恐れが発覚
(2)課税を逃れるIT大手に対して英仏政府はデジタル税を導入すると発表
(3)経産省や総務省がIT大手を規制する新たなルールづくりの検討を開始